あらすじ
第1巻
女子大学生の「本須麗乃」は、ある日、地震で崩れた大量の本の下敷きになり、命を落としてしまう。来世でも本を読みたいと願っていた麗乃は、目を覚ますと異世界で幼い少女のマインになっていた。驚くほど幼く病弱なマインの体にとまどいつつ、異世界の生活を体験したマインは、識字率が低く、本はおろか筆記用具すらまともに手に入らないことを知って愕然とする。さらに貧しい異世界の生活は、現代日本から見たらあまりにも不潔で不便なものだった。異世界の生活に翻弄されるマインは生活環境を改善して、自らの手で本を作り出すことを決意する。姉のトゥーリに手伝ってもらいながら、マインは手始めに簡易ちゃんリンシャンを作り、髪の毛をきれいに整える。また父親のギュンターの仕事場に忘れ物を届けた際に、父親の部下であるオットーに石板をもらい、字を教えてもらう約束を交わす。冬支度で忙しくなる中、マインは本作りのための第一歩として、紙作りを目標に定め、その準備を始めるのだった。
第2巻
マインはうろ覚えな前世の知識の中で、最も簡単に作れる紙として「パピルス」の存在に思い至る。トゥーリに頼んで繊維質な植物を取ってきてもらうが、作り方がうろ覚えのマインは挫折し、最初の紙作りは失敗に終わってしまう。一方、オットーに文字を教わる方は順調そのもので、もともと学ぶことを苦にしないマインはすぐにオットーの仕事を手伝えるほどの知識を身につける。そして、この世界の識字率が自分の予想よりもはるかに低いという事実を知ることになる。こうして少しずつ活動範囲を広げていくマインは、幼なじみのルッツの助けを借りて、粘土板を作ることに挑戦する。途中、いくつものアクシデントに見舞われながらも、マインは仲間たちのサポートもあり、粘土板を完成させることに成功する。粘土板を異世界で作った初めての本としたマインは、異世界で生きていく覚悟を新たにする。しかし粘土板は焼く段階で失敗し、壊れて粉々になってしまう。こうしてマインの本作りは振り出しに戻るのだった。
第3巻
トゥーリの洗礼式に向け、マインの家族たちは準備を始めていた。そんな中、マインは前世の知識から、レース編みの髪飾りなら自分でも作れると思いつく。そして家族の協力のもと、マインは姉のために髪飾りを作って贈るのだった。その後、マインは粘土板作りで一気になかよくなったルッツと共に、木簡作りを始める。しかし作成途中の木簡は、母親のエーファが薪とまちがえて燃やしたことで失敗。そのショックでマインは寝込んでしまうが、ルッツとの絆を思い出し、気持ちを新たにする。そんな中、マインはルッツが行商人になりたいと考えていることを知る。そんなルッツのために、マインはかつて行商人だったオットーと会合の約束を取りつける。マインはルッツを連れて会合に訪れるが、そこにはオットーだけではなく、彼の義兄のベンノまで参加していた。彼らから話を聞いたルッツは、マインと商人になる道を選ぶ。一方、ベンノも短い時間でマインの尋常でない様子に気づき、簡易ちゃんリンシャンのレシピと引き換えに、植物紙作りに必要な道具と材料を渡す契約をマインと交わす。紙作りに向けて大きく前進し、大喜びのマインだったが、ルッツはそんなマインに向けて大きな疑問を投げかける。
第4巻
大人と対等に商談をするマインを見て、ルッツはマインが別人ではないかと疑念を募らせていた。ルッツには世話になっているから、マインは彼の手助けをしたいと思っているが、マインが一生懸命にがんばるほどルッツの疑念は深まり、二人の溝は深まっていく。そして、ついに植物紙が完成目前となったある日、ルッツはマインを問いただす。マインは自身の秘密をルッツに明かし、二人は本音で語り合う。ルッツはマインがこれまで自分に隠し事をしていたことを責めながらも最終的には和解し、二人の絆はさらに強固なものとなる。そして二人は完成した紙をベンノに見せる。彼から商品として合格点をもらったマインは、新たな商品としてトゥーリに贈ったレース編みの髪飾りをベンノに見せる。ベンノはその髪飾りを商業ギルドのギルド長が孫娘のために欲していることを知っており、マインとルッツを連れてギルド長のもとに赴く。そしてベンノはギルド長から髪飾りの注文と、マインとルッツのギルドへの仮登録を勝ち取るのだった。しかしマインは髪飾りの依頼で、ギルド長の孫娘のフリーダと会わなければいけなくなってしまう。
第5巻
フリーダは年齢こそマインに近いが、ギルド長ゆずりの商才と頭の回転の早さを持つ少女だった。マインはベンノから忠告を受けていたにもかかわらず、前世の価値観が抜けきらず、勝手に髪飾りの値段を値引きしたことでベンノから大目玉を食らう。商売相手であるフリーダからも呆れられ、忠告されるマインだったが、そこでマインはフリーダから自分の虚弱体質が身食いであることを知らされる。ベンノは無防備に商品のアイデアを公言するマインを窘めつつ、マインから簡易ちゃんリンシャンの改良案を大金を出して買い取り、身食いの治療に備えるように警告する。刻々と命のタイムリミットがせまるのを実感しつつ、マインは周囲の人に支えられることで「生きたい」と明確に思うようになる。身食いの治療には大量のお金が必要なため、マインはベンノのアドバイスに従って髪飾りを作って納品する仕事を開始。トゥーリやルッツの家族も巻き込んで商売は軌道に乗るかと思われた矢先、遂にマインの身食いは限界を迎え、マインはベンノとの商談途中で意識不明の重体となってしまう。
第6巻
マインが目を覚ますと、そこはフリーダの家だった。身食いの発作で死に瀕したマインだったが、ベンノがギルド長に連絡を取ったことで辛うじて命をつないだのである。身食いの治療のためには、ギルド長が確保している高価な魔術具を使い捨てにしなければならなかったため、マインはフリーダにこの代金を請求される。ギルド長は借金を口実にマインを自分の商会に引き抜くことをもくろんでいたのだ。しかしベンノが、この筋書きを予期していたために、マインはどうにかお金を支払うことに成功する。だが、魔術具はもうなくなってしまったため、次に発作が起きたら助からない。マインは1年という命の猶予の中で、このまま家族のもとで朽ち果てるか、それとも貴族に飼い殺されるのと引き換えに命をつなぐか、二者択一の選択をせまられる。思い悩んだマインは家族に事情を話し、家族のもとで朽ち果てる道を選ぶ。マインはベンノに相談して、商人見習いになるのを止め、ベンノから家でできる仕事を回してもらうように頼む。家族との穏やかな時間を過ごしつつ、ルッツたちに少しでも多くのものを残すべく、マインは植物紙の作り方をベンノに教える。
第7巻
マインはフリーダに誘われ、彼女の家を訪れる。フリーダは貴族のつてでマインを助けようとするが、マインは家族と過ごすことを選び、これを拒絶。最終的にフリーダは折れ、マインの選択を尊重する。そして季節は巡り、7歳となったマインは洗礼式に参列する。今まで出会った人々に祝福されながら、マインはルッツと共に洗礼式が行われる神殿に向かう。体力のないマインは式の最中にもトラブルに見舞われるが、紆余曲折の末、マインは神殿の中で本を見つける。本を見た瞬間、あきらめていた本への執念が噴き出し、マインはなんとか本を読もうと四苦八苦する。周囲に叱責されてマインは我を取り戻すが、神殿関係者はマインが身食いであることを知ると態度を一変させる。
メディアミックス
小説
本作『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~ 第一部 本がないなら作ればいい!』は、香月美夜の小説『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』の第一部「兵士の娘」が原作となっている。原作小説は小説投稿サイト「小説家になろう」で2013年9月13日から2017年3月12日まで連載していた。また2015年1月にはTOブックスより書籍化もされている。また本作には、原作者書き下ろしの短編小説がコミックス3巻から7巻にそれぞれ収録されている。
関連作品
本作『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~ 第一部 本がないなら作ればいい!』は、原作『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』の第一部「兵士の娘」をコミカライズした作品で、漫画版では第一部の題は「本がないなら作ればいい!」となっている。その続編である第二部「神殿の巫女見習い」は「本のためなら巫女になる!」と改題され、『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~ 第二部 本のためなら巫女になる!』という名で本作と同じく鈴華によってコミカライズされている。漫画版第二部は本作の直接的な続編であるが、巻数表示はリセットされ、あらためて第1巻から刊行される形を取っている。また原作第三部「領主の養女」は「領地に本を広げよう!」と改題され、波野涼によって『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~ 第三部 領地に本を広げよう!』というタイトルでコミカライズされている。こちらも巻数表示はリセットされており、第1巻から刊行される形となっている。
登場人物・キャラクター
マイン
兵士のギュンターの娘。病弱で寝込んでばかりの中、ある日熱を出して倒れていたところ、前世の記憶を思い出す。前世は「本須麗乃」という名の現代日本人の女子大学生だった。ジャンル問わず本が大好きで、本に囲まれて生活していたが、地震で本に押しつぶされて亡くなる。死の間際にも来世でも本が読めるようにと、神に祈る筋金入りのビブリオマニア。記憶を取り戻した直後の年齢は6歳。異世界では本が高価であることを知り、本を手に入れるために奔走する。その一歩として、現代日本のアイテムを再現。ベンノをつてして製品を売り、利益を得て、そのお金で本作りを始める。異世界では現代日本との生活のギャップにとまどうこともしばしばで、その様子は周囲から奇行として見られている。マインとしての姿は、夜空のような濃い紺色の髪を長く伸ばしている。瞳の色は月のような金色で、同年代でも特別小柄な体格をしている。自分の家から門まで自力でたどり着けないほど体力がなく、駆け出した瞬間に意識を失って倒れることも珍しくない。そのため、移動は街中でも誰かに抱えられて移動する事が多い。この虚弱体質はのちに身食いだと判明する。当初はトゥーリたちと「マインの家族」として接し、距離感を測りかねていたが、身食いのことをきっかけにして本当の家族のように思うようになる。
トゥーリ
マインの姉。母親ゆずりのライトグリーンの髪を長く伸ばした少女で、虚弱なマインとは正反対の元気で快活な性格をしている。年はマインの一つ上で、物語開始当初は7歳。マインから「天使」呼ばわりされるほどの美少女。マインから簡易ちゃんリンシャンを借りたことで、その美しさにはさらに磨きがかかっている。前世の記憶を取り戻したばかりのマインにとって最も身近な存在となったため、彼女に一番振り回されている。マインの様子がおかしいとは思っているが、同時に虚弱だったマインが生き生きとし始めたのが嬉しいとも思っており、マインが度々わがままを言ってもなんだかんだで付き合っている。洗礼式ではマインにレース編みの髪飾りを贈られて、それを身につけて参列。トゥーリ本人もマインも気づかなかったが、異世界では斬新なレース編みの髪飾りはエーレンフェストの商人たちに大きな衝撃を与えていた。洗礼式を受けたあとは、針子見習いとして働き始める。裁縫の腕前は当初はマインの方が高かったが、すぐさま上達して、あっという間にマインを追い抜いた。冬のあいだの仕事として、マインからレース編みの髪飾りの仕事を任された。
ルッツ
マインの幼なじみの男の子。年齢はマインと同じで、物語開始当初は6歳。金色のボサボサ頭をした少年で、子供ながらたくましいバイタリティを持つ。マインの家とはご近所同士。マインが前世の記憶を思い出してから、様子がおかしくなっているのに薄々だがカン付いている。貧民の四人兄弟の末っ子であるため、基本的にもらえる物はお下がりばかり。たまに自分が新しい物を手に入れても兄たちに奪われるため、ひそかに自分一人で生計を立てる行商人にあこがれを抱いている。しかし、のちにオットーとベンノから行商人の実態を教えられて考え直し、ベンノの商会で商人見習いとして働き始める。家は細工職人で生計を立てており、商人になることは母親からも反対されていたが、自分の考えを話して説得した。マインからはよくむちゃ振りをされては、彼女の話す商品のアイデア実現のために奔走する。マインとの付き合いが長くなるにつれ、最近はマインの顔色で彼女の体調を把握できるという特技を身につけている。周囲からはマインの世話役やおまけのように思われているが、大人相手にも怯まず意見を貫き通す胆力を持つ。中古の衣類を身にまとい、食事のマナーも知らずにいたが、正式に商人見習いとなって以降はベンノから身だしなみにも気をつけるように言われ、小ぎれいな格好をし、立ち振る舞いにも気をつけるようになる。
ギュンター
マインとトゥーリの父親で、エーファの夫。マインと同じ紺色の髪を短く借り上げた中年の男性で、エーレンフェストの南門で兵士の仕事をしている。職場では班長の地位に就く、オットーの上司でもある。子煩悩なため、マインとトゥーリを溺愛している。文字は多少読める程度で、難しい単語は読めずに文字を書くこともできない。文字を学びたいマインがオットーに文字を学び始めた際には、オットーに対して嫉妬の感情を向けていた。マインの気を引こうと、彼女の手伝いを申し出るが、家事や裁縫は得意ではないために家ではあまり頼りにされていない。家族を本当に大切に思っており、最近はマインの様子がおかしいことには気づいているが、同時に活発になったことを喜んでいる。マインが身食いの事情を話し、命が残り少ないと聞いてもそれを受け止め、マインの選択を尊重している。神殿長にマインが奪われそうになった時は、貴族への反逆になるのを承知でマインを守る。その際には、大人が数人がかりで襲い掛かってきても返り討ちにする腕っ節の強さを見せた。
エーファ
マインとトゥーリの母親で、ギュンターの妻。トゥーリと同じライトグリーンの髪を長く伸ばした妙齢の女性で、染色工房で働きつつ子育てと家事をこなす働き者。マインが奇行に走った際には叱りつけることもあるが、マインが弱っていたり、悩んでいたりするときには母親として手を差し伸べている。裁縫が得意で、マインがトゥーリにレース編みの髪飾りの仕事を依頼した際には、マインにお願いしてトゥーリと共にレース編みを行った。コリンナは遙か雲の上の上司にあたる人物で、彼女を敬愛し、あこがれの感情を抱いている。そのため、マインが彼女と仕事でかかわり合いを持っているのを知った際には激しく動揺した。厳しいところもあるが、よき妻、よき母として家族を支えており、マインが身食いのことを話した際にも気丈に振る舞った。
ベンノ
ギルベルタ商会の商会長を務める男性。コリンナの実兄で、オットーとは義兄弟の関係にあたる。淡いベージュ色の髪を肩口まで伸ばした青年で、若手ながらやり手として知られている。オットーの紹介で、マイン、ルッツと出会う。マインの異常性と彼女の持つ知識の価値にいち早く気づき、彼女をベンノ自身の商会に取り込むべく行動する。マインとルッツにとって商人としての厳しくも優しい師匠ともいうべき存在で、時には商人としてマインたちにあえてシビアに接するが、その後どうすべきだったかも教え、彼女たちの成長をうながしている。実はかつてリーゼという名の恋人がいたが、身食いで失った過去を持つ。このため、あまり知名度が高くない身食いの詳細について知っており、同じ病で苦しむマインをなんとか助けたいと考えていた。治療用の魔術具がギルド長のところにあるのを知っており、ギルド長がマインを取り込みたいと考えているのを見越したうえで、簡易ちゃんリンシャンのレシピを買い取る名目でマインに魔術具を買い取るための資金を渡していた。これでマインはギルド長に借金をすることなく、身食いの発作から救われることとなる。
マルク
ギルベルタ商会で、商人を務める中年の男性。静かで穏やかな佇まいの紳士で、立ち振る舞いが洗練されている。ベンノの右腕的な存在で、彼の手が空いていないときはマインやルッツの教育や商談を担当している。ベンノとは長い付き合いで、彼が本心ではマインに対して我が子のように親身になっていることに気づいており、その意を汲んで行動する。
オットー
ギュンターの部下で、彼と共に門番を務めている兵士の青年。元行商人だったため、文字や計算に明るく、詰め所では専らそれらの確認の仕事をこなしている。ベンノの妹のコリンナに一目ぼれし、全財産を投げ打って市民権を得て、彼女と結婚した過去を持つ。そのため愛妻家で、妻への愛を語り出すと止まらない悪癖がある。行商人と門番として働いてきたため、街の事情に明るく、商人の実情に関しても詳しいため、度々マインやルッツの相談を受けている。行商人に興味があるルッツに市民権の大切さを説き、同時に商人になる道を示すためにベンノを紹介する。
コリンナ
オットーの妻。ベンノの実妹で、兄と同じ淡いベージュ色の髪をシニヨンにした女性で、愛らしい顔立ちをしている。若くしてエーレンフェストの裁縫協会の役員を務めており、エーファやトゥーリたち工房で働く針子にとってあこがれの的となっている。オットー経由でマインの作り出した簡易ちゃんリンシャンの存在に興味を持ち、彼女に簡易ちゃんリンシャンの使い方を教えてもらったのを機になかよくなる。オットーと結婚する際、兄から条件を出されており、子供をギルベルタ商会の跡継ぎにすることが決まっている。そのため兄が必要以上にマインに肩入れするのを疑問に思っていたが、兄から事情を聞いて納得して、その後押しをした。
ギルド長 (ぎるどちょう)
エーレンフェストの商業ギルドの長を務める高齢の男性。オトマール商会の大旦那で、貴族にも太いパイプを持つすご腕商人。金を稼ぎ、店を大きくすることに情熱を燃やしている。孫娘のフリーダを溺愛し、ギルド長の気質はフリーダにもきっちり受け継がれている。トゥーリの洗礼式で彼女が身につけていたレース編みの髪飾りの商品価値に気づき、フリーダにねだられたこともあり、自分の手の者を使って髪飾りの出所を調べていた。のちにベンノが連れてきたマインが作った物だと知り、彼女に便宜を図りつつ、彼女を自らの紹介に引き抜くことをもくろむ。悪人ではないが人の心情を無視した強引なやり方が目立つため、ベンノからは嫌われている。マインに対しても、彼女が身食いと知り、彼女の命を助けるためにフリーダと共に根回しする。しかし、その方法はマインを家族と引き離すものであったため、彼女から断られた。
フリーダ
ギルド長の孫娘。桃色の髪をツインテールにした少女で、物語開始当初は7歳。幼いながら商売に関してはギルド長ゆずりの手腕を持ち、かなり大人びたしぐさをする。祖父から溺愛されているが、身内の贔屓目を差し引いてもかなりの美少女。またかわいい顔立ちながらお金儲けが趣味という、かなりギャップの激しい人物でもある。マインとは興味の方向がそれぞれ「お金」と「本」に向いているだけで根本は似た者同士。そのためマインのことを気に入り、すぐになかよくなった。マインと商談をするが、勝手に商品を値引いたり、無防備に商品のアイデアを公言するマインには呆れていた。実はマインと同じ身食いであり、彼女に身食いについて教える。身食いの治療と引き換えに、将来は貴族の愛妾(あいしょう)として嫁ぐことが決まっている。マインを初めての友達として本当に大切に思っており、身食いから彼女を救うために祖父と共に根回しをする。しかしマインからその提案を拒絶され、最終的にマインの選択を尊重した。
ラルフ
ルッツの兄で、赤毛の髪をした少年。年齢はトゥーリと同い歳で、物語開始当初は7歳。面倒見がよく、体の弱いマインを手助けしている。幼いながらトゥーリに気があるようで、彼女と仲がいい。弟に対しては横暴に振る舞っており、ルッツの分の食べ物を奪ったりしているため、ルッツからは内心、かなり不満に思われている。
神官長 (しんかんちょう)
エーレンフェストの神殿で、神官を束ねる地位に就いている青年。明るい水色の髪を肩口まで伸ばし、冷静沈着で物静かな性格をしている。神殿では魔力を持つ貴族しかなれない青色神官を務めている。マインと出会って以降、彼女にねだられて彼女に本を読んで聞かせる。本の知識をたちまち吸収していくマインは、教えがいのある存在として気に入っていた。政変によって魔力を持つ青色神官の数が不足していることを憂いており、マインが身食いであることを知ると彼女を神殿に取り込もうと考える。神殿長が強引に話を進めているのも必要なことと静観していたが、そのためにマインの魔力が暴走。マインが敵対者を無差別に魔力で威圧していったため、身を呈してマインに謝罪し、暴走を鎮めた。その後はマインとの交渉でかなり譲歩し、彼女を貴族とほぼ同格の扱いである青色巫女として神殿に受け入れる。
神殿長 (しんでんちょう)
エーレンフェストの神殿をおさめる地位に就いている老爺。髪もヒゲも白くなった高齢の男性で、恰幅のいい体形をしている。初対面の際には高額な寄付金を提示したマインに対して好々爺のように接したが、彼女が身食いであること、父親のギュンターが兵士であることを知ると態度を一変。高圧的に接して、無理やりマインを神殿に召し抱えようとする。このように好々爺然とした姿はあくまで表向きの顔で、本来の性格は傲慢そのもの。マインたちに襲い掛かるが、本気で怒ったマインが魔力で威圧を行ったために意識を失い、撃退された。
場所
エーレンフェスト
マインたちの暮らす街。街をおさめる領主の家名がそのまま街の名前となっている。西には大きな川が存在し、川向こうには別の領主の領地がある。西の領主とは関係が良好で、川を通じて人や物の行き来は盛んに行われている。東側は街道となっており、旅人の往来が多く、南側は農村と森に近く、職人たちが働く工房と彼らが暮らす家が密集している。北側は裕福な商人たちのエリアで、北側の奥には貴族や領主たちが住んでいる。
その他キーワード
簡易ちゃんリンシャン (かんいちゃんりんしゃん)
マインが作った頭髪用の化粧品。マインが現代日本で使われているリンスが、どんな原理で作られているのかを思い出し、異世界の材料で再現して作ったもの。名前はトゥーリにふざけて言った言葉がそのまま定着したため、みんな「簡易ちゃんリンシャン」の名前で呼んでいる。簡易ちゃんリンシャンを使っていたマインとトゥーリの髪がきれいだと評判になり、のちにベンノがその存在に目をつけ、商品化するためにマインからレシピと権利を正式に買い取った。商品にする際に名前が言いづらかったため、マインの提案で「リンシャン」と改名する。
パルゥ
森に生える魔木。パルゥの実のなる木は冬の晴れた日にしか現れず、太陽の光に反応して急激に幹を伸ばして成長し、実を遠くに飛ばす。飛んでいった実はそのまま消滅し、実を飛ばし終わると木そのものも消え去るため、果実の採取は冬の朝のうち、幹が伸びきる前にしかできない。その幹や枝はナイフすら通さない頑丈さを持つ。火や熱に弱いが、木の近くでは木の持つ不思議な力で火を使うことができないため、枝を素手でこすって温めることで折り、実を採取する。実の果汁はココナッツミルクのように甘く濃厚な味で、貧民のあいだでは冬のぜいたく品として人気がある。果汁をしぼった果実はあまり味がしないため、鳥のエサとなっていたが、マインはこれをオカラの代用品として使うことでホットケーキのようにし、「パルゥケーキ」と名づけた。
トロンベ
森に生える魔木。真っ赤な実がはじけることで、周囲に種をまき散らす。種は一瞬で発芽して急速に成長するため、放っておくとどんどん大きな木になってしまう。トロンベの木は急速な成長によって周囲の土地の栄養を吸い尽くすため、エーレンフェストの街の人のあいだでは、トロンベが芽吹いているのを見つけたら即刻、取り除くのが望ましいとされている。ある程度まで成長した場合は、騎士団が出動して木を倒すほどの騒動となる。一方で、成長すると火でも燃えない頑丈な木となるため、成長したトロンベの木材は家具の材料として重宝される。マインは生え始めたばかりのトロンベの幼木が、紙作りに適しているのに気づき、トロンベで紙を作っている。トロンベ紙は上質で、さらにマインは気づいていなかったが火に強いというトロンベの性質も受け継いでいたため、非常に燃えづらい紙となっている。またトロンベはいつ生えるかわからない厄介者とされているが、逆に言えば狙って手に入れるのが難しい素材であり、希少性が高い。ベンノは紙の上質さと素材の希少さ、さらに燃えづらいという性質から契約書サイズのトロンベ紙一枚で大銀貨5枚という高値を付けている。
市民権 (しみんけん)
街に住む権利。エーレンフェストでは7歳の洗礼式で街の人間として登録され、仕事や結婚などの際に参照される。市民権があるとないでは街での生活が大きく変わるため、市民権を持たない行商人たちは最終的に市民権を得るのを目標としている。子供たちは7歳までは家の手伝いをして過ごし、7歳を機に工房や商会に見習いとして所属するのが一般的とされている。工房や商会への所属は基本的に親や親戚の紹介がなければできず、親や親戚の紹介なくまったく関係のない職業に就くのは非常に難しい。市民権はお金を払えば街の人間でなくても買うことはできるがかなり高額で、オットーは全財産をはたいて手に入れたと語っている。
身食い (みぐい)
大量の魔力を抱えた者が引き起こす症状。病気扱いされるが、正確には体質に近いとされる。体内で生成された魔力が肉体の許容量を超えて蓄積され、それが熱を持って体を食い破り、患者を死に至らしめる。本来、魔力を持つのは貴族のみだが、極まれに平民にも魔力を持つ者が生まれ、なんの対策も取られず症状を悪化させることで発症する。身食いを発症した者は成長が遅れ、年齢に見合わず小柄になりがち。また、ある程度は精神力で症状を抑えることができるが、精神的に疲れると反動が一気に出るリスクもある。あふれた魔力をなんらかの方法で外に排出すれば対処をすることは可能だが、体質であるために完治そのものは難しい。また魔力を外に排出するためには、魔術具を使うしかないが、魔術具は貴族にしか作れないうえに、壊れかけの物でも平民には手がでないほど高価。魔力を吸収させすぎると魔術具は壊れてしまうため、身食いを乗り切るためには複数の魔術具が必要となる。このため、平民が身食いを治療しようと思うと貴族と契約するしかないが、一般的な平民では貴族から有利な条件を引き出すこともできず、飼い殺しされるしかないとされる。
リオン
エーレンフェストで使われている通貨単位。最も価値が低い小銅貨が10リオンで、中銅貨が100リオン、大銅貨が1000リオン、小銀貨が1万リオン、大銀貨が10万リオン、小金貨が100万リオン、大金貨が1000万リオンとなっている。商人たちは商業ギルドにリオンを預けており、ギルドから発行される「ギルドカード」でそれを管理している。ギルドカードは魔術具で登録した本人しか使うことができず、商人は専らギルドカードを利用して取り引きを行っている。
契約魔術 (けいやくまじゅつ)
魔術具を使って行う契約。貴族や力のある商人が対象の行動を縛るために行う魔術で、契約した者は魔力によって行動を縛られ、契約外の行動を行うと最悪命を落とす危険もある。契約には特別な紙と不思議な青いインクを使って行うが、これらは非常に高価なため、大きな利益の見込める商談でもなければ商人はまず使うことはない。契約魔術は両者が自分の名前を記名し、血判を押すことで完了する。契約が完了すると契約書はひとりでに燃え上がり、魔術を執行する。契約書が燃え上がるため、ふつうは控えを用意しておくが、相手の無知に付け込んで契約に抜け道を作り、あえて控えを用意しない場合もある。契約が及ぶのは基本的に契約を結んだ街の中で、外にまで影響は及ぼさない。ただし契約内容によっては、契約者以外にも知らずに影響をもたらすため、大きな影響のある契約魔術を結んだ場合、領主への報告義務が存在する。そのような義務が存在するため、契約魔術用の魔術具は貴族御用達と認められた限られた商人しか手に入れることができない。本来は横暴な貴族を拘束するために使われていたため、商談以外では相手の行動を縛るために使う場合もある。
クレジット
- 原作
-
香月 美夜
- その他
-
椎名 優
続編
本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 第二部 「本のためなら巫女になる!」 (ほんずきのげこくじょう ししょになるためにはしゅだんをえらんでいられません だいにぶ ほんのためならみこになる)
香月美夜の小説『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』の第二部「神殿の巫女見習い」のコミカライズ作品で、鈴華の代表作『本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられませ... 関連ページ:本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 第二部 「本のためなら巫女になる!」
本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 第三部 「領地に本を広げよう!」 (ほんずきのげこくじょう ししょになるためにはしゅだんをえらんでいられません だいさんぶ りょうちにほんをひろげよう)
香月美夜による小説『本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~』の第三部「領主の養女」のコミカライズ作品で、鈴華の『本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ ... 関連ページ:本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 第三部 「領地に本を広げよう!」
本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 第四部 「貴族院の図書館を救いたい!」 (ほんずきのげこくじょう ししょになるためにはしゅだんをえらんでいられません だいよんぶ きぞくいんのとしょかんをすくいたい)
香月美夜の小説『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』の第四部「貴族院の自称図書委員」のコミカライズ作品で、波野涼作画の『本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられ... 関連ページ:本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 第四部 「貴族院の図書館を救いたい!」