花燭の白

花燭の白

高山しのぶの代表作の一つで、女性を主人公にした初の作品。大正時代の日本を舞台に華の帝都では最近、人をミイラのようにしてしまう「枯死病」が一部の人間に発症していた。新聞記者の木曽瑞樹は枯死病の取材の結果、その裏に人食いの鬼と少女、白梅の存在を突き止める。鬼の花嫁となった白梅を中心に、鬼の沈と人間である木曽のそれぞれの視点で物語が展開され、人と鬼のあいだで揺れ動く白梅の感情が繊細に描かれる大正ラブロマンス。一迅社「月刊コミックZERO-SUM」2020年2月号より連載の作品。

正式名称
花燭の白
ふりがな
かしょくのしろ
作者
ジャンル
恋愛
 
和風ファンタジー
レーベル
ZERO-SUMコミックス(一迅社)
巻数
既刊7巻
関連商品
Amazon 楽天

沈丁花の花を咲かせる娘

人の命を糧に花を咲かせ、それを食らう鬼がいる世界。時は大正、片田舎で人々に虐げられてきた少女・白梅と弟の錫祢はある日、鬼に襲われていたところを沈と呼ばれる鬼に助けられる。白梅のその身には、いくら咲かせても枯れない沈丁花の花が咲き誇っており、沈はその身に価値を見出す。白梅は最愛の弟を助けるのと引き換えに沈のものになることを承諾し、彼と共に弟に花を植え付けた鬼を追うこととなる。

花燭と呼ばれる女性

「花燭」とは結婚式の際に灯される華やかな灯火のことで、転じて本作では婚約した女性のことを指す。鬼が婚約する女性は、枯れない花を咲かせるため、作中では白梅のような女性のことを「花燭」と呼ぶ。ふつうの花は咲いたあと宿主と共に枯れるが、花燭だけはなぜか枯れずにずっと咲き誇り、花の香りも色も通常のものより圧倒的に強い。これは花を食べる鬼たちにとって何よりのご馳走で、一度この花を食べれば人を喰わずとも、腹を簡単に満たすことができる。このため鬼の中でも強い力を持つ沈は、ただの小娘である白梅にも優しく接し、あらゆる願望を叶(かな)えようとしている。白梅にとっても弟を救う唯一の存在であると共に沈は大恩人で、お互いが利益を得られる関係だった。二人にとっては、恋愛感情よりも契約関係が根底にあるため、お互いに一歩が踏み出せずにいるが、少しずつ距離を縮めていく姿が情緒豊かに描かれる。

鬼と花燭と人間

本作は鬼の沈、花燭の白梅、そして人間の記者、木曽瑞樹という三者の視点から物語が展開されるのが特徴となっている。鬼が人の命を糧に花を咲かせ、人をミイラのように殺すのは、花の帝都では「枯死病」として恐れられており、道楽記者の木曽は好奇心からそれを追ううちに白梅たちの存在にたどり着く。鬼に襲われていたところを白梅に救われた木曽は、沈から彼女が「花燭」と呼ばれる存在であることを教えられる。鬼は人を害する存在だが、鬼と人の狭間(はざま)に立つ花燭は非常に危うい存在で、物語が進むにつれて、白梅は人と鬼、両方から目をつけられるようになる。そんな中、木曽は人間の側から命の恩人である白梅を救おうと奔走し、鬼の存在と深くかかわっていくうちに、その事態の深淵に足を踏み入れることとなる。

登場人物・キャラクター

白梅 (しらうめ)

花燭の少女。長く伸ばした黒髪を後ろで一つまとめにしている。没落した元武家の出身で、幼い頃は体に痣(あざ)があったため、前世は火つけの咎(とが)があったとされ謂(いわ)れのない差別を受けていた。それでも弟の錫祢のため、地主の家で使用人として懸命に働いていた。地主の次男の十郎太にも優しくしてもらっていたため、辛うじて働けていたが、地主が鬼に変貌した際に重症を負う。地主は沈に倒され、沈の治療によって自らも救われるが、実は鬼はもう1匹入り込んでおり、その鬼が錫祢に花を植え付けたため余命いくばくもない状態にされてしまう。錫祢が死にかけた際に、沈丁花(じんちょうげ)の花燭となり、その身に絶大な価値を見出した沈に身を捧げる代わりに、弟の命を助ける契約を交わす。沈によって「刺根(とげね)」と呼ばれる寄生生物を植え付けられたため、超人的な身体能力を誇る。これは花燭が鬼にとって何よりのご馳走であるため、ほかの鬼に襲われた際の自衛を目的としたものである。現在は帝都で診療所の手伝いをしながら、弟の命を救うため沈と共に鬼を追っている。

(じん)

「始祖」と呼ばれる強大な力を持つ鬼の一体。白い髪に赤い瞳をした偉丈夫の姿をしている。ふだんは頭巾と僧衣をまとい顔を隠しているが、整った顔立ちをしている。数百年以上生き永らえる強大な力を持つ鬼で、鬼でありながら鬼の存在を嫌悪しており、いずれすべての鬼を滅ぼそうとしている。鬼は各々が決まった花を持ち、その花を食べることで生きる糧とする。花は人間に「花余命(はなよめ)」という種を植え付け、その人間の命を糧にして咲くが、人間一人から取れる量はたかが知れているため、鬼はつねに強い飢餓感に襲われている。しかし、花余命をその身に宿しても死ぬことはなく、無尽蔵に花を咲かせる「花燭」と呼ばれる存在だけは別格で、花燭の花はわずかな量で鬼の飢餓感を満たし、強い力を与える効果がある。たまたま沈は白梅が鬼に殺されかける現場に居合わせ、鬼を殺すと共に気まぐれに彼女に力を与え命を救う。その際、白梅が沈自身の花「沈丁花」の花燭であることに気づき、その身を保護した。白梅の身に価値を見出しているが、当初はあくまで道具としての認識だったものの、徐々に距離が縮まり、白梅自身を愛するようになる。

木曽 瑞樹 (きそ みずき)

大手の新聞社で働く青年。三大財閥の一つである木曽財閥の四男坊で、仕立てのいいスーツを着用している。社会面担当の新聞記者を務めているが、最近の事件はつまらないと勝手に自作の小説を書いて記事にしようとしては、編集長にいつも怒られている。だが時代は大正となり、目まぐるしく変わる日常の中、不確定な情報で民衆に混乱をもたらしてはいけないという、木曽瑞樹なりの記者としての信念を持つ。迷信じみた「枯死病」の事件を追ううちに、非現実な鬼の存在に辿(たど)り着いて殺されかけるが、白梅に助けられる。その後は白梅に執着し、彼女の存在を追っている。コミュニケーション能力に長(た)け、頭の回転も早く記者としては非常に優秀。白梅には命の恩人として恩義を感じており、沈の存在に気づいてからは彼が白梅を束縛しているとカンちがいし、解放するように直談判するが、それが誤解だと気づき和解する。その後、鬼の存在に迫りすぎたため、特高(特別高等警察)に鬼の間諜(かんちょう)ではないかと目をつけられてしまう。以後は白梅を特高から守るため、そして木曽瑞樹自身の身の潔白を証明するため、特高の協力者となって、鬼の捜査に力を貸すこととなる。それに伴い、犬神の鳶尾を相棒とする。

書誌情報

花燭の白 7巻 一迅社〈ZERO-SUMコミックス〉

第7巻

(2023-10-31発行、 978-4758039420)

SHARE
EC
Amazon
logo