あらすじ
第1巻
近所でも有名なわんぱく坊主の花田一路は、いつもイタズラを繰り返しては周囲の者を混乱させたり騒動を起こしたりと、にぎやかな毎日を送っていた。そんなある日、家族が大切にしているテレビを壊して花田寿枝に叱られた一路は、自転車に乗って飛び出した先で車にはねられてしまう。奇跡的に助かった一路は、後頭部を縫ってツルツル頭になったものの無事退院を果たす。その後、一路は家のトイレに入ったところで、美少女がトイレの上に浮かんでいるのを目撃する。以来、その少女は一路に付きまとうようになり、やがて一路は事故で大ケガを負ったのが原因で幽霊が見えるようになったことを自覚する。さらに、少女の幽霊ユキに成仏するための手助けをしてほしいと頼まれ、一路は渋々、彼女が大切に思っている男性・青田清司の家へと向かう。そして一路は清司に事情を話し、ユキが大切にしていた思い出のブローチを取り戻すことに成功する。するとユキは清司に別れを告げ、その姿を消すのだった。これをきっかけに、一路が願いを聞いてくれると知った幽霊たちは、未練を解消するために彼の前に出現するようになる。一路は幽霊たちの願いを叶えるため、時には困難や恐怖にぶつかりながらも奮闘していく。
第2巻
花田一路と村上壮太のクラスメイトである市村桂は、甘えん坊の壮太とは対照的に男勝りな性格で、一路ともよくケンカするお転婆な少女だった。そんな桂は、母親がほかの男性と浮気して蒸発したことで、周囲から母親に捨てられた子供扱いされていることに悩んでいた。そんな中、桂の父と壮太の母・村上美代子のあいだで、見合いが執り行われることになった。桂の父は美代子にベタ惚れで、縁談は順調に進むかに思われたが、桂は父親の縁談に複雑な思いを抱いていた。一方、中山田小学校では運動会が近づき、一路たちは練習に励んでいた。そんなある日、壮太と美代子をバカにする桂に怒った一路は、彼女と取っ組み合いの大ゲンカをしてしまう。相変わらず父親と美代子の縁談を快く思っていない桂は、その憂さを晴らすかのように一路と衝突し、ケンカを繰り返すようになる。壮太も桂に対する複雑な感情に葛藤を覚え、二人の親の縁談には暗雲が立ち込める。そんな中、桂を気にかける美代子は、ハムカツが入った弁当を壮太に持たせる。壮太は美代子に言われた通り桂にハムカツ弁当を渡すが、彼女はそれを毎回拒絶。桂の代わりにハムカツ弁当を平らげるようになった一路は、大量の昼食を食べて徐々に太っていく。こうしてそれぞれがわだかまりを抱える中、運動会が始まる。
第3巻
生前にインチキ占い師だったマダム・カトリーヌは、幽霊になったことで鋭い霊感を得た。そして地獄行きを逃れるため、生前にだましてきた人たちを正しく導こうと、花田一路と手を組んだことがあった。その後、一路から離れたと思われたカトリーヌは再び姿を現し、一路に生死にかかわるほどの不幸が迫っていると告げる。それを聞いた一路は誰に対しても疑心暗鬼になり、自分に迫っている危険におびえるようになる。そんな中、交通事故に遭い病院で生死の境をさまよう俵崎春彦は、瀕死の中でどうしても加奈に会って思いを伝えたいと願っていた。生霊の状態でさまよっていた春彦は一路と遭遇し、加奈に会うために自分の危篤状態の体と一路の体を、少しのあいだだけ交換してほしいと頼み込む。一路はテストと注射から逃れたい一心からその依頼を快諾し、一路の体を借りた春彦は急いで加奈のもとへ向かう。大学時代に加奈と同棲していた町を久々に訪れ懐かしさで感動する春彦は、加奈と結婚を望むも跡取り息子という立場から両親に連れ戻され、彼女と離れた過去を思い出していた。町を散策する春彦は昔住んでいたアパートで加奈を発見するが、そこに加奈を「お母さん」と呼ぶ赤髪の少女・夏が現れる。
第4巻
縁切山の中を歩いていた花田一路は突然、後ろから誰かに石をぶつけられる。振り返った一路が見たのは、「倫子」を名乗る見慣れない少女だった。倫子は一路の縦笛に興味を持ち、二人は縦笛を取り合ってケンカをする。不思議に思いながら帰宅した一路だったが、家では倫子が花田寿枝たちと仲よさげに話していた。寿枝によれば、倫子は縁切山の向こうの村に住む遠い親戚で、しばらく花田家で預かることになったという。花田大路郎たちも倫子を気に入っていたが、二路だけは倫子に対して違和感を覚えていた。一路は倫子といっしょに中山田小学校に行ったり、山で遊んだりするようになる。一路を気に入った倫子はキスをしながら、「一路のお嫁さんになる」と言い出す。そんな倫子に複雑な思いを抱きながらも、一路は「探検」と称して縁切山の立入禁止区域に入り込む。そこで、谷に落ちた地蔵を元の場所に戻してほしいと倫子に頼まれた一路は、地蔵を運んで少しずつ谷の上に戻そうとする。しかし、倫子と遊ぶようになってからの一路は徐々にやつれていき、寿枝たちも倫子に関する記憶があいまいになることが増えていた。ヨウカンに威嚇される倫子を見た和尚は、「倫子はこの世の者ではない」と一路に警告。しかし一路は和尚の話に耳を貸そうとせず、地蔵のある谷で待つ倫子のもとへ向かうのだった。
第5巻
花田一路はクラスメイトの野球少年・斉藤洋平から野球の試合の助っ人を頼まれていたが、紅白まんじゅうに夢中になって約束を忘れてしまう。次の日、登校した一路は試合に負けた罰として、坊主頭にされてしまった洋平たちの姿を見る。約束事を重視する洋平は約束を破った一路に激怒して大ゲンカとなり、一路はクラスからも孤立してしまう。機嫌を損ねながら一人で帰る一路の前に、「メロン」を名乗る謎の女性が現れる。一路はメロンが幽霊だとすぐに見抜くが、彼女はまだ生きている状態の生霊であった。洋平の知り合いでもあるメロンは、去年の夏に交わした約束を洋平に思い出してもらうよう、一路に依頼する。次の日、一路は学校で洋平に問いただすが、洋平は女性と約束を交わした覚えはないと答える。そんな中、洋平は吉岡たちと共に川辺に捨てられている子犬を発見。子犬に心奪われる吉岡を見て、洋平はようやく過去に交わした約束を思い出す。メロンの正体は人間ではなく、洋平が去年の夏に田舎の川で拾った子猫だった。洋平はメロンの安否を心配し、一路を連れて田舎の祖母の家へと急ぐ。そしてメロンといっしょに過ごした川辺に到着した洋平たちは、野犬に襲われ傷だらけで倒れているメロンの姿を目撃する。
登場人物・キャラクター
花田 一路 (はなだ いちろ)
中山田小学校に通う男子で、初登場時の年齢は9歳。愛称は「いっちゃん」。近所でも有名なわんぱく少年で、家でも外でもあちこちでイタズラを繰り返している。外で遊ぶのが大好きで、学校の成績は悪く勉強も大嫌い。一方で運動神経抜群で、ケンカも強く早食いも得意。明るく無鉄砲で何度叱られても懲りない性分だが、お化けや怪談だけは苦手。交通事故に遭って奇跡的に助かるが、頭に負った傷の影響で幽霊を視認して会話もできるようになった。元は黒の短髪だったが、後頭部のケガの治療のために毛を刈られてツルツル頭になり、傷が治ってからも頭髪は生えてきていない。幽霊が見えることを周囲に訴えているがあまり信じてもらえず、出現した幽霊の願いを聞き入れては、未練の解消や成仏の手伝いをするために一人で奮闘している。もともとお化けが苦手なため、新たな幽霊に遭遇するたびに面倒事を嫌って断っているが、延々取り憑いたり脅したりしてくる幽霊もいるため、結局は願いを聞いて無理難題をこなす羽目になっている。多くの幽霊に遭遇し悩みを聞いているうちに、幽霊に体を貸したり、幽体離脱して相手と体を交換したりする能力も身につける。当初は人間や動物の幽霊のみに遭遇していたが、次第に天の邪鬼などの妖怪とも出会うようになる。幽霊の身の上話を聞いたり、さまざまな出来事を体験するうちに成長していく。
花田 寿枝 (はなだ ひさえ)
花田一路の母親で、専業主婦。パーマをあてた黒髪に、中年太りの体型で割烹着をまとった「昭和の母親」を地でいく外見をしている。美人とはほど遠い容姿で子供たちにも厳しいが、誰よりも子供思いで情に厚く優しい性格の女性。一路の成績の悪さやイタズラの多さにはかなり手を焼いており、毎日のように一路を叱ったり、一路が迷惑をかけた近所の人に謝りに行ったりと、気苦労が絶えない。一路にとっては天敵でもあり、時には体罰や晩飯抜きなど厳しくしつけているが、無鉄砲な一路のことをいつも心配し大切に思っている。一路からは幽霊が見えるようになったことを何度か聞かされているが、イタズラやサボりの言い訳だと思っているため、あまり信じていない。一路の結婚後は市村桂と共に孫たちの面倒を見ているが、花田千路のイタズラには手を焼いている。
花田 大路郎 (はなだ だいじろう)
花田一路の父親で、花田家の大黒柱。家ではサルマタ姿で酒を飲んでいることが多いが、職業は大工で近所では「大工の大ちゃん」として有名。かなりの酒好きで、酒を飲むたびに上機嫌になりバカ騒ぎをしている。一路いわく「話がわかるようで一つもわかっていない親父」。一見威厳がなくいい加減に見えるが、明るく大らかで気のいい男性。子供に対しては基本的に放任主義で、変に縛らずに自由に育ってほしいと思っている。イタズラばかりの一路に説教することは少ないが、叱る時は父親らしい威厳を見せ、時には体罰を与えることもある。実は一路と同様、幼少期は頭髪が生えていないツルツル頭の時期があった。趣味は釣り。小学生の頃に合田優太郎のそろばん塾に通っていたことがあるが、厳しく頑固な優太郎のことは現在でも少し苦手にしている。一路の結婚後は元気な老人となり、孫の花田百子を溺愛するようになる。
花田 徳子 (はなだ とくこ)
花田一路の3歳上の姉で、中山田小学校に通っている。小太りな体型で見た目が花田寿枝によく似ており、一路には「デブスマン」呼ばわりされている。時おり一路に怖い話や不吉な話を吹き込んで脅かしている。わんぱくでがさつな性格の一路とはまったく気が合わず、毎日のようにケンカをしている。少々意地悪で泣き虫だが、人形遊びを好んだり山崎先生にあこがれたりなど、年相応の女子らしい純情さも持つ。かなり惚れっぽく、横溝人志をはじめとする美男子に出会って恋をするたびに、過去の恋をなかったことにして「初恋」と称している。東京の親戚に買ってもらったリカちゃん人形を大切にしており、一路が人形を持ち去ってどこかになくした際は激怒していた。山の上中学校に進級後も人形遊びを続けており、クリスマスプレゼントにはリカちゃん人形のボーイフレンドとなる人形をほしがっていた。一路ほどではないが勉強はあまり得意ではなく、学校の成績もあまりよくない。成長後は上京し、独身のまま東京でOLをしている。
花田 徳路郎 (はなだ とくじろう)
花田一路の祖父で、一路たちと同居している。陽気で明るい性格で、孫たちに甘く滅多に怒らないが、家族がいつも騒がしいため静かに過ごせないのを嘆くことがある。家では酒を飲んだ花田大路郎と上機嫌で盛り上がることが多い。一路がイタズラをしても大目に見ることが多く、時には叱られている一路をかばうこともある。また、子供は元気に育つのが一番だと考えており、一路の成績がかなり悪いのを知ってもとがめることはない。一路や大路郎と同様、幼少時に毛が生えずツルツル頭の時期があった。
二路 (じろ)
チロの子供で、白黒の体毛を持つ子犬。出産間近だった母親のチロが事故に遭った際に幽霊になって花田一路に助けを求めたことで、チロの体から無事に取り上げられて保護された。その後、チロの飼い主である吉川が急死したため一時は保健所に預けられていたが、ほかの犬に襲われていたところをチロの幽霊に救われ、花田家で飼われるようになる。「花田家の次男坊(一路の弟)」という意味を込めて、「二路」と名付けられた。命の恩人でもある一路のことが大好きで、一路にとっても相棒のような存在。利口で賢い犬で、家族からもかわいがられている。よく一路といっしょに遊んでおり、時には一路のことをさまざまな形で助けている。一路が破壊したテレビが花田大路郎によって小さな犬小屋に改造されてからは、そこを寝床にしている。倫子が生きた人間ではないことを見抜いたり、周囲の者が天の邪鬼にあやつられたことに気づいたりと、一路と似たような霊感や動物ならではの鋭い勘を持つ。多くの幽霊に取り憑かれるようになった一路の危険を察したユキたちにうながされ、トラックにはねられそうになっていた一路をかばって命を落とす。死後は花田家で名犬としてたたえられるようになり、庭には立派な墓と二路を模した石象も作られた。
村上 壮太 (むらかみ そうた)
中山田小学校に通う男子。花田一路とは幼なじみでクラスメイト。赤ん坊の頃からの付き合いでもある一路のことは、「いっちゃん」と呼んでいつもいっしょに遊んでいる。一路となかよしだが子分や舎弟のような立場で、一路が用を足す時は便所の外で見張り番をやらされている。優しくおとなしい性格で争い事を好まず、運動やケンカは苦手。また気が弱く泣き虫で、クラスメイトからは「女みたい」と評されている。父親の村上猛を幼少期に亡くし、母親の村上美代子と二人暮らしをしている。昔から家族思いで、猛を尊敬している。同時に女手一つで自分を育ててくれた美代子には極力苦労をかけたくないと考えており、仕事と家事で忙しい彼女を心配している。一路が幽霊と会話できることを知ってからは猛の幽霊と会ってみたいと願っており、一路を通して何度か猛の幽霊に遭遇している。のちに美代子が桂の父と再婚したことで、市村桂と家族になった。美代子の見合い当初は、猛や桂に対する複雑な思いとわだかまりを抱え、再婚にあまり乗り気ではなかった。しかし、美代子との会話や桂との交流を経て悩みを解消し、再婚を受け入れた。桂と同学年ながら生まれ月の関係で立場上は兄となったが、しっかり者で気の強い桂には頭が上がらない。
市村 桂 (いちむら けい)
中山田小学校に通う女子で、花田一路のクラスメイト。中山田小学校には1年生の途中で転入して来た。男勝りで気が強く少々口が悪い少女で、クラスの男子からは「男女」呼ばわりされている。運動神経抜群でケンカも強く、一路とも互角に渡り合える。毎朝精肉店でコロッケとハムカツを買うのが日課で、昼食はいつもハムカツを食パンに挟んで食べている。母親は看護師をしていたが患者の男性と蒸発したため、地元にいづらくなって引っ越し、現在は桂の父と二人暮らしをしている。気丈に振る舞っているが母親の蒸発には深く傷ついており、周囲に「母に捨てられた」と哀れに思われるのを気にしている。父親が村上壮太の母・村上美代子と見合いして再婚するかもしれないと知った時は、美代子に対する複雑な思いからわだかまりを抱えたり、気の弱い父親のことを心配したりしていた。しかし、壮太や美代子との交流を経て父親の再婚を受け入れるようになり、自分を気にかけて優しくしてくれる美代子とも和解し、素直に接するようになる。壮太とは同学年ながら生まれ月の関係で立場上は妹となったが、気が弱く頼りにならない彼のことは兄扱いしていない。一路とはいつもケンカしているが、一路が倫子となかよくしているのを見て不機嫌になるなど、次第に彼のことを気にするようになっていく。
ユキ
花田一路が最初に遭遇した、長髪の美少女の幽霊。トイレに入っていた一路の前に現れ、彼に何度も語りかけて取り憑くようになった。生前は裕福な家庭に生まれたが、病弱で不治の病にかかり、長らく入院生活を送った末に17歳の若さで亡くなった。心残りから成仏できず、幽霊と会話する能力が芽生えたばかりの一路に協力を求める。生前はいつも病室に閉じこもりがちだったが、そんな中、偶然出会った青田清司を慕うようになった。清司に頼んで祭りに連れて行ってもらうが、途中で容態が悪化し急逝した。清司と過ごすうちに明るく積極的な彼に思いを寄せるようになり、彼と過ごした時間は短かったもののその思いは一生分の恋だった。祭りの中で清司に買ってもらった針金細工のブローチへの未練が、成仏できない原因になっていた。一路には清司への思いと感謝を伝えてもらったうえで、清司が持ったままのブローチを、二人の思い出の場所に埋めてほしいと依頼する。一路を通して事情を知った清司によって、病院の庭にブローチが埋められたのを見て安心し、清司と一路に感謝と別れを告げて消えていった。その後もたびたび現れては恩人である一路のことを密かに見守り、彼と縁のあるほかの幽霊と協力しながら、トラブルに遭いやすい彼の危機を何度か救っている。
柳原 歳三 (やなぎはら としぞう)
吉川の幽霊に紹介されて、花田一路に取り憑くようになった男性の幽霊。体のあちこちに湿布を貼った、明るくお茶目でひょうきんな性格の老人。全裸が好きでいつも局部丸出しの姿でいるため、一路からは「ちんちんジジイ」と呼ばれている。生前はかなりの浮気性で、自分からプロポーズしたにもかかわらず浮気を繰り返しては、妻の柳原タツを怒らせていた。非常に気の強いタツのことはとても恐がっており、いつも尻に敷かれがちだった。自分の死期が近いのを悟り、浮気相手にあちこち挨拶回りをしているうちに亡くなってしまった。虫の知らせでタツが身辺整理のために家を片付け始めため、生前の浮気がタツにばれるのを恐れており、浮気の証拠である女性からのラブレターの処分を一路に依頼する。家に侵入した一路がすぐにタツに見つかってしまったため、ラブレターの処分に失敗するものの、一路を通して事情を知ったタツの思いを知る。大人しく成仏するが、しばらくして亡くなったタツの幽霊と、三途の川で豪快な再会を交わした。のちに一路の身に危機が迫った際はタツと共に駆けつけ、ほかの幽霊と協力して一路の危機を救った。
織田 学 (おりた まなぶ)
医者の家に生まれた大学生の青年の幽霊。生前は東大医学部(東京大学理科Ⅲ類)を目指して勉強漬けになり、あらゆる欲望を抑えたままの日々を送っていた。何度か落ちたのちにようやく合格を果たし、入学後は今まで抑制していた欲を解放できると喜んでいたが、勉強疲れと喜びの勢いで20歳の若さで命を落とした。幼少期から勉強ばかりで青春を謳歌したこともなく、女性経験や恋愛経験がないまま死んだことが未練となっている。せめて美女の胸の谷間に顔をうずめて夢見心地を経験してから成仏したいと願い、花田一路に協力を求める。女性の胸に執着するため一路には「おっぱい織田」と呼ばれている。一路の体を借りて理想の女性に近づき、望みを叶えたいという無理難題を押し付ける。女性なら誰でもいいというわけではなく、芸能人のあべ静江に匹敵するほどのかわいさを持つ清楚な女性でなければだめだと言い張り、一路を困らせる。渋々依頼を受けた一路が青田清司から紹介されたあべスズエを最初は拒否するものの、彼女の胸を見たとたんに惹かれて一路の体を借りて願いを叶える。一路に感謝を告げ、満足しながら成仏していった。のちに一路の身に危機が迫った際は駆けつけ、ほかの幽霊と協力して一路の危機を救った。
マダム・カトリーヌ
生前に占い師をしていた、不気味な中年女性の幽霊。長い黒髪にひび割れるほどの厚化粧で、黒ずくめの洋服を着ている。生前に多くの人をだましていたため、地獄行きを逃れるために花田一路に協力を求める。占いの内容は何度も詐欺で訴えられるほどのインチキばかりだったが、死後は霊感が冴えわたり、生きている人の未来も予言できるようになった。しかし、ずる賢い性格は変わっておらず、自分の目的を遂げるために一路のことを何度も脅かしている。かつて自分がだましていた人や、悩みを抱えている「迷える子羊たち」を導くために、一路の力を借りて水商売の女性やマーくんの母に助言を与える。結果的に地獄行きを回避するものの、成仏はしなかった。しばらくは姿を消していたが再び一路の前に現れ、たびたび一路の不幸を予言するようになる。俵崎春彦と体を交換したことで命の危険が迫った一路を助けるためにさまざまな助言を与え、一路の体を借りたままの春彦に早く戻るよう伝えるなど、一路の危機を何度か救っている。その後も一路に付きまとっては、無難に成仏するために利用しようもくろみ一路をそそのかすが、倫子との別れをきっかけに彼が少年から男に成長しつつあることを悟る。
俵崎 春彦 (たわらざき はるひこ)
交通事故で重傷を負って病院に運ばれ、危篤状態になった赤毛の男性。年齢は25歳で、俵崎財閥の一人息子でもある。瀕死の体を病院に残したまま生霊となり、死ぬ前に恋人の加奈に会って思いを伝えたいと願っていたところで、花田一路と出会う。目的を遂げるまで一路に体を交換してほしいと頼み、一路の体を借りた状態で加奈が住む町へと向かう。3年前までは加奈と同棲していたが、財閥の跡取り息子という立場から彼女との結婚は叶わず、両親に無理やり別れさせられたのが心残りになっていた。かつて住んでいたアパートで加奈を発見し、一路の姿だったため彼女に気づいてもらえなかったものの、近くにいた夏が自分の娘だと悟る。加奈が一人で夏を育てていることや、夏がおもちゃを満足に買えずにいることを知って気に病み、必ず戻っておもちゃをたくさん買ってやると約束を交わす。マダム・カトリーヌにうながされて一路に体を返したが、のちに無事退院して加奈と夏のもとへ向かい、元気な姿を見せた。
合田 優太郎 (ごうだ ゆうたろう)
合田そろばん塾を開いている初老の男性で、昔は中山田小学校の校長を務めていた。小学生にも容赦がなくつねに厳しいため、大人たちはしつけ代わりに子供を塾へ通わせている。誰に対しても頑固ですぐに怒るため、生徒から怖がられ大人からも嫌われがち。叱る際は頭を「ゴン」と叩いて「パチッ」とデコピンするため、「ゴンパチ」のあだ名で呼ばれている。昔は花田大路郎も塾に通っていたため、現在も大路郎から恐れられている。新しく塾に入った花田一路に手を焼きながらも厳しく叱り続けていたが、ある日好物の大福をのどに詰まらせて気絶する。生霊となって一路に助けを求め、彼と二路の必死な救命を受けるものの、間に合わず命を落とす。几帳面な性格で何事もきちんとしていなければ気が済まず、一路に頼んでだらしない恰好をしている自分の遺体を布団に運び、大人たちには大福にのどを詰まらせて死んだ事実を隠すよう依頼した。幽霊になっても成仏できず、理由を解明するために再び一路に協力を求める。若い頃に花さんという恋人がいたが、彼女との約束を果たせなかった苦い思い出が、無意識に未練となっていた。一路の協力を得ながら花さんの幽霊と再会し、彼女と共に成仏する。のちに一路に危機が迫った際は花さんと駆けつけ、ほかの幽霊と協力して一路の危機を救った。
倫子 (のりこ)
縁切山で花田一路が出会った、一路と同い年の少女。気が強くお転婆だが、不思議な言動が多い。一路の親戚を名乗り、しばらくのあいだ花田家で過ごすことになる。名前の正しい読み方は「のりこ」だが、みんなが間違えるため「りん子」という呼び方が定着している。一路と遊ぶうちに片思いするようになり「お嫁さんになる」と思いを告げる。谷底に落ちた小さな地蔵を拾い上げるよう、一路に頼む。正体は、かつて縁切山の向こうの村の貧しい家で生まれ育った少女の幽霊。一路の家族や友人に対して幻覚を見せることで、自分の正体を隠し続けていた。生前は両親と離れて町に売られしばらくは遊郭で下働きをしていたが、運悪く客に見初められてしまう。初めて客を取る晩に故郷を目指して脱走するが、追手に谷に追い詰められて川に落ちて亡くなり、母子地蔵の周囲をさまよう幽霊となった。和尚に正体を見抜かれたあとも一路と過ごし、彼の協力を得ながら下に落ちた地蔵を元の場所に戻そうとする。地蔵が戻ったあとは一路の幽体をあの世に連れて行こうとするが、一路が目を覚まさないのを嘆き悲しむ花田寿枝の姿を見て、自分の母を思い出す。一路と寿枝にかつての自分たちのような思いをさせないために彼を連れて行くのをあきらめ、感謝と別れを告げて姿を消す。
吉川 (よしかわ)
花田一路の近所で飼い犬のチロと暮らしている身寄りのない老婆。年齢は88歳。チロの死後に急逝するが、チロが遺した子犬の二路の面倒を自分の代わりに見てほしいと、幽霊の姿で一路の前に現れる。ふだんは髪をまとめているが、ほどいて振り乱しては頼みを聞かない一路を脅かしている。一路の奮闘の末、二路が無事に花田家に引き取られたのを見て安心し、チロの幽霊と共に消え去った。のちに一路の身に危機が迫った際はチロを連れて駆けつけ、ほかの幽霊と協力して一路の危機を救った。
チロ
吉川が大切にしている飼い犬。妊娠していたが出産間近に行方不明になり、車にはねられて命を落とす。胎内の子犬(二路)がまだ生きているのを訴えるために、幽霊の姿で花田一路の前に現れて助けを求める。二路が無事に取り出されたあともしばらくはこの世に残り、何度か二路の危機を救っている。のちに一路の身に危機が迫った際は吉川と共に駆けつけ、ほかの幽霊と協力して一路の危機を救った。
山崎先生 (やまざきせんせい)
中山田小学校の教師をしている男性。明るい性格の気のいい先生で、花田徳子があこがれを抱いている相手でもある。
町田先生 (まちだせんせい)
中山田小学校の教師をしている女性。花田一路の担任をしている。おだやかな性格で生徒思いの優しい先生だが、イタズラばかりで勉強嫌いの一路にはかなり手を焼いている。一路の成績の悪さにも悩まされていたが、彼が織田学に取り憑かれてテストで満点を取った際には、感激しながら涙を流していた。
青田 清司 (あおだ せいじ)
塗装業をしている青年。左肩に大きな彫り物をしている。チャラついた恐い見た目で女遊びやパチンコを好むが、実は情に厚く親切な性格の持ち主。病院で仕事中に、入院中のユキと偶然出会った。病で長く生きられず入院生活に縛られているユキを見て、自由奔放に生きる自分とは正反対の彼女に同情し、祭りに行きたいという彼女の願いを叶えるために病院から連れ出す。しかし祭りを楽しむ途中でユキの容態が悪化して亡くなったため、彼女の父親から誤解され葬儀で責められてしまう。その後はユキに複雑な思いを抱えたまま生きていたが、幽霊となったユキの願いを聞き入れた花田一路と出会い、最初は疑うものの一路との会話を経てユキの思いと未練を知る。祭りの屋台でプレゼントした針金のブローチをユキと出会った病院の庭に埋め、幽霊のユキと再会し別れを告げた。のちに織田学に取り憑かれて困っていた一路と偶然再会し、事情を知って学の未練を解消するために、知り合いのあべスズエを紹介して協力した。
キヨミ
青田清司と同棲している茶髪の若い女性。ユキに頼まれて来た花田一路を出迎え、当初は疑ったり気味悪がっていたものの、一路の話を信じるようになる。女性としての容姿は織田学曰く20点。ぶっきらぼうな清司をからかうこともあるが、他人に誤解されがちな彼のよき理解者でもある。
新 (しん)
夏休み中に花田一路の前に現れた、甚平姿の少年の幽霊。家族思いの優しい子供だったが、川で溺れて亡くなった。生前はひまわりの花が大好きで庭に種を撒いていたため、「ひまわり小僧」と呼ばれている。自分が死んで以来、心の病に罹ってしまった新の母への心配が未練となり、幽霊のまま母親の様子を見ながら、家の周囲をさまよっている。母親の元気を取り戻すためにあらゆる方法を試していたが母親に声が届かず、ユキの助言を受けて一路と出会い、協力を求めるようになる。一路の協力を得て母親の元気を取り戻すことに成功し、一路の体を借りて家の庭で母親と再会し別れを告げた。実は一路より1歳年下だが、彼のことは呼び捨てにしている。のちに一路の身に危機が迫った際は、ほかの幽霊と協力して一路の危機を救った。
新の母 (しんのはは)
新の母親。息子を亡くしてからは心の病になり、無気力な状態で亡霊のように生きている。誰とも口をきかず無表情のままだが、新が種を撒いた庭のひまわり畑を大切にしており、雨が降っても毎日世話をしている。新の生前は、両手に「宝物」の文字を書くことで励ますおまじないをよくしていた。新の幽霊の願いを聞き入れた花田一路が、ひまわり畑を荒らしたのをきっかけに言葉を取り戻す。庭で新と再会し、悲しみを乗り越えて元気を取り戻した。
新の父 (しんのちち)
新の父親。中学校の教師をしている。新が亡くなってから心を閉ざしてしまった新の母をつねに気遣っている。ふだんは温厚な男性だが、時には心を鬼にしてでも妻を守ろうとする。
柳原 タツ (やなぎはら たつ)
柳原歳三の妻。歳三が亡くなってからは一人暮らしをしている。厳つい強面で怒ると恐い老婆で、時には女性とは思えないほど怖い形相を見せるため、歳三からも恐れられていた。見た目に反して明るく大らかで家族思いな性格で、義理堅い一面もある。歳三からプロポーズして結婚したにもかかわらず、女好きで浮気を繰り返す生前の彼には手を焼いていた。歳三の死後、虫の知らせで身辺整理のために家を片付け始めていたが、歳三に頼まれて家に侵入した花田一路を通して歳三の未練を知る。同時に自分がもうすぐ死ぬことを受け入れて、歳三への思いを語る。死後は一路の夢枕に立って感謝と別れを告げたうえで元気にあの世に旅立ち、歳三と豪快な再会を果たした。のちに一路の身に危機が迫った際は歳三と共に駆けつけ、ほかの幽霊と協力して一路の危機を救った。
村上 猛 (むらかみ たける)
村上壮太の父親。壮太の幼少期に亡くなっている。亡くなってからも壮太にとって尊敬とあこがれの存在で、生前に親交があった花田大路郎からも「男の中の男」と評されている。幽霊となったあとも、壮太と妻の村上美代子を優しく見守っている。美代子の再婚について悩む壮太の前に花田一路に憑依する形で現れ、壮太を励ました。9歳の頃に父親を戦争で亡くしており、亡くなった父親を除いて七人家族だった。戦死した父親を思い、長男としての責任感や使命感が芽生えた。それらの強い意志は結婚してからも変わらず、家族思いの優しい男性だった。のちに墓参りに訪れた壮太と一路の前に9歳の少年時代の姿で現れ、今でも自分を大切に思ってくれている壮太に感謝の気持ちを告げる。のちに一路の身に危機が迫った際は駆けつけ、ほかの幽霊と協力して一路の危機を救った。
村上 美代子 (むからみ みよこ)
村上壮太の母親。青果市場で働いている。夫の村上猛の死後は女手一つで壮太を育ててきた。優しく家族思いで気立てもいい働き者で、花田大路郎をはじめ周囲の男性からの評価も高い。ふだんは仕事で忙しいため、幼少期に猛を亡くした壮太に寂しい思いをさせていると心配し、壮太にはやや過保護な面も見せる。のちにさつきの協力で桂の父と見合いし、彼との再婚を考えるようになる。猛を思う壮太が乗り気ではないことや、市村桂からあまり快く思われていないことに悩んで縁談が滞る中、桂を気にかけて彼女の好物であるハムカツサンド弁当を毎日作り、壮太に預ける形で桂に渡していた。いくつかの交流や出来事を経て無事再婚を果たし、桂ともなかよくなった。
桂の父 (けいのちち)
市村桂の父親。薬剤師として病院に勤めている。見た目も性格も気弱で生真面目な男性で、酒にも弱い。娘の桂にも心配されたり軽くあしらわれたりすることが多く、お転婆で男勝りな彼女には少々手を焼いている。村上美代子にはかなりベタ惚れで、見合い写真を見た瞬間一目惚れしたうえに、彼女をこっそり観察して「この人しかいない」と心に決めていたほど。さつきの協力を得て見合いを決行し、それぞれのわだかまりから縁談がスムーズに進まなかったものの、無事に美代子との再婚を果たし村上壮太とも家族になった。
さつき
花田一路の近所でタバコ屋を営む老婆。通称「さつきバアさん」。明るく世話好きで少々せっかちな性格で、縁組みを生きがい同然の趣味としている。村上美代子と桂の父の見合いをセッティングし、積極的に二人の再婚をサポートした。死ぬまでに縁談を100組以上まとめることを目標にしている。情報通で、近所の噂にも詳しい。
吉岡 (よしおか)
中山田小学校に通う小学生男子。花田一路の同級生。斉藤洋平と同じ野球チームに所属している。小太りな少年で、通称「ブタマン」。動物が好きで、家では犬や鶏などをたくさん飼っている。プレゼントに買ってもらった戦隊ヒーローの変身ベルトが自慢。
あべ スズエ
青田清司が通っているクラブ「スター」でホステスをしている金髪の女性。少々擦れたような雰囲気を漂わせているが、実は涙もろい人情家。織田学に取り憑かれて困っている花田一路を助けるためにでっち上げた清司の話を聞かされ、ウソの作り話だとは知らずに真に受けて一路に同情する。上半身裸になって一路を抱きしめ、彼に取り憑いていた学の願いを叶えた。
水商売の女性 (みずしょうばいのじょせい)
水商売をしている女性。マダム・カトリーヌの信者で、生前のカトリーヌのインチキ占いが偶然連続して当たっため彼女の占いに心酔。ついにはカトリーヌの占いなしでは自分で物事を決められなくなった。
マーくん
浪人生の青年。20歳を過ぎたあとも大学受験に落ちているが、家が裕福なため親に甘えながら暮らしている。
マーくんの母 (まーくんのはは)
マーくんの母親。浪人のマーくんを甘やかしている。マーくんを大学に合格させるためにマダム・カトリーヌの占いを頼り、インチキ占いを信じたまま多くの金を使った。
加奈 (かな)
大学時代に俵崎春彦と同棲していた女性。春彦との結婚を望んでいたが俵崎財閥の跡取り息子である彼とは結ばれず、別れたあとに彼との子供である夏を出産した。その後は春彦と住んでいたアパートに残り、シングルマザーとして夏を育てている。ふだんは小料理屋「たぬきや」で働いており、たぬきやの夫婦を本当の両親のように慕っている。花田一路の体を借りた春彦に遭遇し、のちに無事退院した彼と改めて再会を果たした。
夏 (なつ)
俵崎春彦と加奈の娘。夏に生まれたことから「夏」と名付けられ、周囲からは「夏ちゃん」と呼ばれることが多い。春彦と同じ赤毛を持つ。人見知りが激しく母の加奈以外には懐かないが、花田一路の体を借りて現れた春彦には、無意識に心を許していた。幼いが気の強い性格で、年上相手でもケンカを売られたら買うほど。たぬきやの夫婦からもかわいがられている。
たぬきやの夫婦 (たぬきやのふうふ)
小料理屋「たぬきや」を営む優しい夫婦。たぬきやで働く加奈を実の娘のようにかわいがっており、加奈にとっても親代わりのような存在。一人で夏を育てている加奈を気にかけ、子育てなども助けている。
小笠原 町子 (おがさわら まちこ)
看護師の女性。俵崎春彦が入院した丸井第一総合病院で働いている。小児科担当だが、春彦が俵崎財閥の跡取り息子だと知り、玉の輿を狙って彼に取り入ろうとする。
タケシ
丸い帽子をかぶった少年。小料理屋「たぬきや」の近所に住んでいる。おもちゃを持っていない夏から、時々おもちゃを取られるため困っている。
横溝 人志 (よこみぞ ひとし)
中学1年生の男子。東京から転校し花田徳子のクラスメイトとなる。転入早々、徳子に一目惚れされるほどの美男子。一見ふつうの少年だが本来は女性の「横溝人美」として生まれる運命だった。しかし天の邪鬼のイタズラによって運命が捻じ曲げられ、男性として生まれてしまった。体の中には天の邪鬼が封印されている。のちに天の邪鬼に頼まれて過去に渡った花田一路によって運命が正しく修正され、本来の姿である人美になった。
天の邪鬼 (あまのじゃく)
横溝人志の体に取り憑いている妖怪「天の邪鬼」の青年。とてもイタズラ好きで、時間を自由に行き来し、人間の耳から心に入り込んでウソをつかせたり暴れさせたりすることで、さまざまなトラブルを起こしている。人志が生まれる前にいくつかのイタズラをして彼の運命を変え、本来なら女性として生まれるはずだった彼が、男性に生まれる原因を作った。人の運命を変えるほどのイタズラをした罰として、人志の体内に封印されたまま何年も過ごしている。花田徳子が持ち帰った人志の写真に取り憑いて花田一路に干渉し、人志の体から解放されるための手伝いするよう依頼する。人志の運命を元通りにするために、一路を13年前の過去に送り出す。のちに多くの幽霊に取り憑かれた一路の危機に駆けつけ、和尚と花田寿枝をあやつって一路に除霊のお守りを持たせた。
チイちゃん
花田徳子の友人でクラスメイトの女子。徳子が新しい男性に惚れるたびに、彼女の恋愛話に付き合わされている。
人志の父 (ひとしのちち)
横溝人志の父親。酒に弱いが、13年前に天の邪鬼に取り憑かれた鉄っちゃんによって無理やり酒を飲まされる。この出来事で運命が変わり、本来は女性として生まれる運命だった人志が男性に生まれる原因となった。
鉄っちゃん (てっちゃん)
人志の父の友人の中年男性。13年前に妻に逃げられた腹いせに、人志の父親を酒に付き合わせて絡んでいた。その際に天の邪鬼にあやつられ、下戸である人志の父親に無理矢理酒を飲ませた。
古本屋 (ふるほんや)
丸い眼鏡をかけた中年男性。妻と共に古本屋を営んでいる。天の邪鬼によって13年前の過去に飛ばされた花田一路が遭遇した。有島武郎の弟子を名乗る文学者でもあり、いつも難しい本を読んでいる。天の邪鬼によって何度も過去に飛ばされる一路に頼まれて、さまざまな知識を与える。
花さん (はなさん)
若い頃の合田優太郎と相思相愛だった清楚な少女。当時の年齢は16歳。和服をまとった可憐で素直な性格の少女で、幼少期に両親を亡くし叔母夫婦に引き取られた。合田家の分家の男性、吉之介との結婚が決まる中、優太郎にうながされて彼との駆け落ちを決意。「おばけ桜」と呼ばれる大きな木の下で優太郎と待ち合わせをしていたが、当日に優太郎の父親の容態が急変し待ち合わせに来なかったため、駆け落ちに失敗して連れ戻される。当初の予定通り吉之介と結婚し優太郎と離れるが、流行り病に罹り亡くなった。これらの出来事と花さんとの約束を果たせなかった未練が、幽霊となった優太郎が成仏できない原因となっていた。実は幽霊となったあとも、花さんは優太郎への未練から成仏できずに、おばけ桜の下で優太郎を待ち続けている。優太郎の幽霊と再会を果たし、長らく枯れていたおばけ桜に花を咲かせ、彼と共に成仏した。のちに一路の身に危機が迫った際は優太郎と共に駆けつけ、ほかの幽霊と協力して一路の危機を救った。
和尚 (おしょう)
縁切山の中にある「縁切り寺」と呼ばれる山寺の和尚をしている中年男性。一路からは「まぐそ坊主」と呼ばれている。霊能力を持ち、倫子が幽霊だとすぐに見抜いた。倫子といっしょにいるためにやつれている一路を助け出すために、倫子と母子地蔵の話をして二人を引き離そうとする。一路には聞き入れてもらえず木に縛られてしまうが、ヨウカンの助けを借りて抜け出し、花田寿枝に一路のもとへ行くようにうながす。
ヨウカン
和尚が飼っている柴犬。犬なのに羊羹が好物であることから、「ヨウカン」と呼ばれている。倫子がこの世の者ではないと見抜いており、彼女に対しては激しく威嚇したり襲い掛かったりする。
倫子の母 (りんこのはは)
倫子の母親。貧しい家を維持するために、断腸の思いで娘の倫子を町へ売る。倫子の死を聞いて心を病んだまま行方不明となっていた。縁切山で我が子の死を悲しみながら、倫子を祀った地蔵を抱き締めた状態で亡くなった。
斉藤 洋平 (さいとう ようへい)
野球帽をかぶった小学生男子。中山田小学校に通い、花田一路と同じクラス。一路と渡り合えるほどのガキ大将だが、家族思いでしっかり者。家族はまだ赤ん坊の妹、洋子と両親の四人暮らし。倫子が学校に現れた際は密かに片思いし、一路が彼女の許嫁になるという話を聞いた時は猛反対していた。男らしい性格の父親の影響で男気や友情、約束事をつねに重要視しており、『走れメロス』を愛読している。町の野球チームに所属し、大事な試合の助っ人を一路に頼んでいたが、一路が約束を忘れて試合に来なかったため激怒し、しばらく絶交状態になる。元は黒髪の短髪だったが、試合に敗北した罰としてチームメイトと共に頭を丸坊主にさせられた。1年前の夏休みに遊びに行った祖母の家の近くで、川に流されていたメロンと出会っている。メロンを祖母に飼ってもらおうとするが断られてしまい、祖母の家の近くでメロンの世話をしながら「必ず実家に連れて帰る」と約束を交わす。しかし、出産中の母親の容態が悪化したと聞いて実家に帰り、生まれたばかりの洋子の世話で忙しかったため、メロンとの約束は忘れたままだった。メロンの生霊と接触した一路の話を聞いて約束を思い出し駆けつけるが、メロンを救うことはできなかった。約束を果たせなかったことを悲しみながら謝罪し、メロンが遺した子猫たちを保護した。
メロン
花田一路の前に現れた若い女性の生霊。オレンジ色の髪を二つのおだんご状にまとめた、猫目の女性の姿をしている。過去に斉藤洋平と出会っており、去年の夏に交わした約束を彼に思い出してもらうよう、一路に依頼する。人間の姿をしているが、正体は洋平が田舎の祖母の家の近くで拾った子猫。小屋代わりにするために洋平が祖母の家から借りた木箱に「メロン」と書かれていたため、彼によって「メロン」と名付けられた。洋平とは「いつか実家に連れて帰る」という約束を交わしていたが、洋平が急用で実家に帰ったため、そのまま約束を忘れてしまった彼とは長らく会えないままになっていた。洋平と離れたあとも川で魚を捕りながら生き続けて成長し子供を身籠るが、野犬に襲われて重傷を負う。弱ったまま生霊となって一路に助けを求め、生まれたばかりの3匹の子猫を一路と洋平に託し、息を引き取った。
中嶋 貴人 (なかじま たかひと)
山の上中学校に通う中学生男子。花田徳子と同学年。学校では図書室にこもりがちでいつも読書をしているため、周囲から「本屋」と呼ばれている。暗い性格で近寄りがたく、クラスでも孤立しがち。本当は家族思いで面倒見もよく、家では明るく振る舞って母親に優しく接し、幼少期から祖父母や弟妹たちの面倒もよく見ている。昔は読書と野球を好む明るい少年だったが、1年前のクリスマスに父親(貴人の父)を亡くしたショックで暗い性格になり、父親が転落死した三ノ橋にも近づかなくなった。かなり気難しい性格で、父親の幽霊からプレゼントを預かった花田一路の話を聞いても頑なに信じなかった。しかし一路が渡したプレゼントの中身を見てようやく理解し、家族のことや自分の過去を一路に語る。幼少期からサンタクロースにグローブがほしいと願っていたが、次第にサンタクロースの真実に気づき、家の貧しさを改めて悟ってからはグローブをあきらめ、学業や手伝いに励むようになっていた。また、父親が亡くなった当日にケンカ別れしており、謝罪できないまま父親を喪ったことを長らく悔やみ、心の底では父親に対する罪悪感を抱え続けていた。三ノ橋で幽霊となった父親と再会し、キャッチボールをしながら言葉を交わして父親の思いを知る。その後は父親に感謝しながら、元の明るい性格を取り戻した。
貴人の父 (たかひとのちち)
中嶋貴人の父親。貧しい蕎麦屋の主人を務めている。温厚で家族思いの優しい男性。貧しい家に生まれて幼少期は丁稚奉公に出ていたため学校や遊びの知識に乏しく、野球のルールも知らずキャッチボールもしたことがない。クリスマスプレゼントとして町野夫婦の店で名前入りグローブを買い、息子の貴人に渡すのを楽しみにしていたが、クリスマス当日に三ノ橋から転落し帰らぬ人となった。プレゼントが入った紙袋は雪に埋もれたまま誰にも発見してもらえず、貴人に渡せなかったのが未練となり、貴人を心配しながら幽霊になって三ノ橋周辺をさまよっていた。1年後のクリスマス前に花田一路と出会い、自分の代わりに貴人にプレゼントを渡すよう依頼する。自分が死んでから人が変わり、友人からも遠ざかってしまった貴人を心配しており、プレゼントを受け取って元気になってほしいと願っている。一路を通してプレゼントを受け取った貴人と三ノ橋で再会し、キャッチボールをしながら貴人と言葉を交わす。
町野夫婦 (まちのふうふ)
貴人の父がグローブを購入した「町野スポーツ店」を営んでいる夫婦。グローブを買うために何度も店に通っていた貴人の父親を気にかけ、彼の依頼にも快く対応した。グローブの詳細を尋ねるために訪れた中嶋貴人に、貴人の父親のことを語った。しかし、貴人の父親がすでに亡くなっていることはまったく知らなかった。
花田 千路 (はなだ せんろ)
大人になった花田一路と市村桂の息子。中山田小学校に通う小学3年生。昔の一路にそっくりのわんぱく少年で、いつもイタズラを繰り返しては母親の桂や祖母の花田寿枝を困らせている。ある日事故にあって命は助かるものの、頭をケガしてツルツル頭になった。かつての一路と同様頭髪が生えてこなくなり、幽霊を視認して会話する能力を得る。
花田 百子 (はなだ ももこ)
大人になった花田一路と市村桂の娘で、花田千路の妹。年齢は2歳。無口でクールな性格だが嚙み癖があり、家族はもちろん近所の人にまで、周囲の人の体にあちこち歯形を残している。祖父の花田大路郎からは特に溺愛されており、彼のアイドルのような存在。
佐久間 (さくま)
中山田小学校に通う男子。花田千路の友人。発売されたばかりのテレビゲームを持っており、いつも千路に貸している。
場所
中山田小学校 (なかやまだしょうがっこう)
花田一路たちが通っている田舎町の小学校。通称「中小」。花田大路郎など花田家の子供が代々通っている。校舎は古い木造だが、元気で個性的な生徒が多く、いつもにぎわっている。若い頃の合田優太郎が新任教師として赴任し、校長も務めていた小学校でもある。
縁切山の向こうの村 (えんきりやまのむこうのむら)
倫子が生まれ育った貧しい村。縁切山の向こう側にある。貧しい家が多いため跡取りや働き手になる男子は残されるが、女子は町へと売られることが多かった。売られた女子の中には家畜のように扱われたり遊郭に売られたりする者も多く、倫子もその一人だった。現在は人がまったく住んでおらず、地震などで地盤が不安定になり危険な状態であるため、立入禁止区域になっている。
花田家 (はなだけ)
花田一路とその家族が住む家。田舎町にある広い2階建ての家だが、便所が別建てで家の外にある。いつもにぎやかで、主に一路のイタズラが原因で毎日のように騒動やケンカが絶えず、時には近所の人々を巻き込んでいる。居間には調子の悪いモノクロテレビが1台あるが、一路が壊してからはテレビなしになってしまった。クリスマスプレゼントは一家に一つだけというルールがあり、毎年なにをプレゼントにするかを家族で争い、結局はクリスマスケーキだけになっている。二路の死後は、庭に墓が作られ二路を名犬と称えた石像も建てられた。この石像に乗っていいのは、花田千路と花田百子だけと決められている。
縁切山 (えんきりやま)
花田一路が倫子と出会った山。大正時代から昭和時代に変わる頃までは、向こう側にある縁切山の向こうの村に人が住んでいた。貧しい家に生まれた女子が親との縁を切って売られる際に越える山であることから、「縁切山」と呼ばれるようなった。ふもとには和尚が住む「縁切寺」と呼ばれる山寺がある。母子地蔵がある谷の下にはかつて深い川が流れていたが、現在は枯れている。
その他キーワード
母子地蔵 (ははこじぞう)
縁切山の谷の上にある二つの地蔵。川で亡くなった倫子と倫子の母を供養するために作られた。倫子の死後、当時の住職をしていた和尚の祖父によって、谷の上に小さな地蔵が作られた。のちに、地蔵を抱きながら亡くなっていた倫子の母親を供養するために、縁切山の向こうの村の村民によって近くの岩を彫った母親の地蔵も作られ、二つの地蔵は「母子地蔵」と呼ばれるようになった。生前にいっしょにいられなかった倫子と母親が、いつまでもいっしょにいられるようにとの願いが込められている。母親の地蔵は土で埋もれ、倫子の地蔵は地震で谷の下に転げ落ちたままになっていたが、倫子と花田一路によって元の位置に戻される。マダム・カトリーヌ曰く、母子地蔵は倫子と倫子の母親の悲しみを封印し、二人を鎮めて地縛霊化を防ぐ存在でもあった。のちに倫子と別れた一路が近くに供えた2本のカタクリの花によって、周囲にはカタクリの花畑が広がるようになった。
除霊のお守り (じょれいのおまもり)
「除霊御免」と書かれたお守り。和尚が縁切寺で売っている。一見ふつうのお守りだが、未練を抱えた幽霊から持ち主を守る効果を持っている。天の邪鬼の計らいによって花田一路のもとへ届けられ、大量の幽霊に取り憑かれた一路をしばらく守っていた。しかし、幽霊から遮断された一路が危機感を失ったことで別の危険が迫ったため、彼を心配した幽霊たちによって離された。