蘭と葵

蘭と葵

戦乱の世が終焉を見せ、徳川幕府の天下となった江戸時代。徳川家光と彼の護衛役となった女忍び・服部蘭の、年の差や身分を超えた恋愛模様を描く。「YOU」平成26年6月号から掲載の作品。上田倫子の『月のしっぽ』と世界観を共有する後日談的な内容で、『月のしっぽ』の登場人物が成長した姿で登場する。

正式名称
蘭と葵
ふりがな
らんとあおい
作者
ジャンル
侍・忍者
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あらすじ

第1巻

時は戦乱の世が終焉を迎えた1615年。望まぬ祝言から逃げ出した伊賀の女忍び服部蘭は、刺客に襲われた竹千代こと徳川家光を助ける。家光は弟・徳川国松との後継者争いに巻き込まれていたのだ。暗殺者を捉える役目を担った蘭は、母親・に愛されない家光の孤独を知り、彼の気持ちに寄り添う。一方、内向的だった家光も蘭と共に過ごすうち、男らしさを身につけていく。そんな中、蘭の許嫁・石川八右衛門が江戸城に現れ動揺する蘭だったが、将軍家剣術指南役の柳生宗矩の息子・柳生一厳から女扱いされた事で胸の高鳴りを覚える。そんな蘭を目の当たりにした家光は、幼心に嫉妬を覚え、大胆な行動に出る。

第2巻

服部蘭は、徳川家光が女に目覚めるのは早すぎると家光の警護役を解かれてしまう。だが、徳川国松が将軍になるのを防ごうとあせるに代わり、蘭は駿府城の徳川家康に次期将軍は家光だと宣言してほしいと直訴する。家光の人となりを理解した家康の一声で、次期将軍は家光に決定。その8年後、江戸に戻った蘭は、成長した家光と再会、再び彼の警護役となる。家光は晴れて征夷大将軍に任命されるが、伊賀者の手裏剣を使う抜け忍に襲われる。蘭は、その調査のため柳生一厳と伊賀に向かう。だが蘭の過去の思い人・雲隠林蔵が抜け忍である可能性が高いと聞いた蘭は動揺する。そんな蘭に一厳は自分の思いを伝える。一方、家光は京より徳川家に輿入れした公家の娘・鷹司孝子から、蘭に思い人がいる事を聞かされる。

第3巻

徳川家光の鷹狩りの護衛中、過去の思い人・雲隠林蔵にさらわれた服部蘭は、林蔵から徳川の家来をやめるよう釘を刺される。だが、蘭は家光を護りいっしょに生きていきたいという自分の気持ちに気づく。一方、家光との祝言が早まった事にショックを受けた鷹司孝子は城を飛び出す。連れ戻しに来た蘭の優しさに心をときめかせた孝子は、家光に蘭だけは側室にしないでと訴える。同じ頃、病に倒れたの薬師として江戸城に呼ばれたのは、林蔵だった。そんな中、徳川秀忠という隠し子が発覚。幸に会ってみたいという家光は、蘭を幸のいる信濃高遠城に向かわせる。だが、怒りに震える江は、幸に刺客を送る。

第4巻

徳川秀忠の側室・は、息子のを守るため、彼を女子として育て、信濃高遠城の城主である保科家に養子に出していた。が送った刺客により高遠城の城下町が焼かれる中、捉われそうになった幸を助けたのは徳川家光だった。孤独だった幸は、秀忠と静が自分を思っていたと知り、保科家跡取りとして生きる事を決意。江戸へ戻る道中、家光は倒れ病床に伏す。そんな中、服部半蔵(兄)ふたばの祝言が決まり伊賀に戻った蘭は、父親・服部半蔵(父)から伴侶を持つよう圧力をかけられる。悩む蘭の前に林蔵が現れ、やり直そうと蘭に告げる。生き方を模索する蘭だったが、江戸に帰るとに入れ知恵された秀忠から、江戸を離れての隠密仕事を言い渡される。

登場人物・キャラクター

服部 蘭 (はっとり らん)

伊賀の千賀地出身の女忍び。服部半蔵(父)と薬師うさぎの四女で、服部半蔵(兄)の妹。幼い頃から武術・忍術の訓練に明け暮れ、全国各地の戦地で忍び仕事に従事してきたが、父親から祝言を挙げるよう命じられ、反発して家を飛び出した。男勝りで外で働きたい気持ちが強く、国の乱れを正したいと、幼い徳川家光の警護役となる。 家光が三代将軍に決定した際には、伊賀に帰郷。8年後、成長した家光に再び仕え、彼との絆を深めていく。だが、かつて心をときめかせた柳生一厳や、昔の思い人・雲隠林蔵からも思いを寄せられている。

徳川 家光 (とくがわ いえみつ)

徳川幕府の征夷大将軍となった男性。徳川秀忠と江の長男で、徳川国松の兄。幼名は「竹千代」。子供時代は内向的で繊細な面が強く、母親に愛されない自分を不甲斐なく思っていた。何者かに命を狙われたところを服部蘭に助けられ、幼い頃から蘭に特別な感情を抱くようになる。20歳の時に征夷大将軍に任命され、生まれながらの将軍としての威厳を身につけた男へと成長を遂げた。 身分の隔たりなく人に優しい性格。実在の人物、徳川家光がモデル。

徳川 国松 (とくがわ くにまつ)

徳川家光と江の次男で、元服して「国松」改め「忠長」と名乗る。子供時代はやんちゃで外交的な性格だったが、母親に溺愛され過ぎて、上から目線のマザコン男に成長してしまう。気が弱い一方でわがままな性格で、一時的に服部蘭を自分の警護役として意のままにしようと企む。実在の人物、徳川忠長がモデル。

徳川 秀忠 (とくがわ ひでただ)

徳川幕府の二代将軍で、現在は大御所。江の夫で、徳川家光と徳川国松の父親。江を愛している恐妻家だが、妻に内緒で静という側室を持ち、幸という隠し子がいる。気性が激しい女性に逆らえない弱い一面があり、のちに福の口車に乗せられ、服部蘭を江戸から離れた隠密仕事に就かせようとする。実在の人物、徳川秀忠がモデル。

(ごう)

徳川秀忠の年上妻で、徳川家光と徳川国松の母親。浅井長政と緒田信長の妹であるお市の方の娘で、秀忠とは三度目の政略結婚。生まれてすぐ竹千代こと家光と引き離されたせいで、竹千代が福の子供とすり替えられたのではないかと本気で疑っている。そのため、自分の手で育てた国松を溺愛しており、国松を後継者にしようと目論んでいた。 気性が激しく、嫉妬深い性格で、夫の隠し子・幸の暗殺を企てる。実在の人物、江がモデル。

(ふく)

徳川家光の乳母の女性。家光を次期将軍にすべく、徳川国松を推す江と対立関係にある。一見おっとりしているように見えるが、芯は強い人物。家光への思いの強さから、激昂する事も多い。17歳で美濃の稲葉正成に嫁ぎ、亡き前妻の二人の子供と自身の二人の子供の育児に追われていた。だが、浪人となり自堕落になった夫を見限り、乳母になるべく離縁した。 息子の千熊が家光の小姓を務めており、残して来た三人の子供のためにも、家光を立派な将軍にする事に全身全霊を傾けている。そのため、家光が服部蘭に特別な感情を抱いているのを快く思っていない。饅頭が好物。

柳生 一厳 (やぎゅう いちげん)

剣の達人の男性。父親・宗矩は将軍家の剣術指南役を務めている。キリッとした涼し気な顔立ちの武士。女装した竹千代こと徳川家光を町で助けた縁で、服部蘭と出会う。蘭とはお互い好意は持っていたものの、蘭が伊賀へ帰郷しているあいだに妻子をもうける。だが、蘭と抜け忍を調べに伊賀に行った際、自分の側室にならないかと蘭に思いを打ち明けた。

雲隠 林蔵 (くもがくれ りんぞう)

伊賀の忍者だったが、抜け忍となった男性。ワイルドな風貌の色男で、服部蘭の幼なじみであり、思い人だった人物。旅芸人だった両親を早くに亡くし、母親の実家がある伊賀で服部半蔵(父)の家に引き取られ、忍びとして育てられた。同年代で一番早くに忍術皆伝し、みんなのあこがれの的だった存在。蘭に思いを打ち明けられるも、祝言が決まった蘭のためにわざと嫌われるような態度を取り、伊賀から姿を消した。 江戸に住み薬師として町人に薬を分け与えている一方で、蘭の命を狙う悪党を秘密裏に殺害したり、「竹蔵」と名乗って江の薬師となるなど、陰から蘭を見守っている。

服部 半蔵(父) (はっとり はんぞう ちち)

伊賀の忍者の男性。うさぎの夫で、服部半蔵(兄)、長女・桜花、次女・梅香、三女・桃香、四女・服部蘭の父親。いい歳だからと、蘭に無理やり祝言を挙げさせようとするなど押しの強い性格。蘭が一度決めた事には決してあきらめず立ち向かう事を理解し、徳川家光の警護役になる事には反対しなかった。だが、服部半蔵(兄)の祝言の際には、必ず伴侶を持たせ子を残させると蘭に圧力をかける。 実在の人物、服部半蔵がモデル。

うさぎ

伊賀で薬師をしている女性。服部半蔵(父)の妻で、服部半蔵(兄)、長女・桜花、次女・梅香、三女・桃香、四女・服部蘭の母親。明るくおっとりした性格で、蘭が江戸城でバリバリ仕事をしている事には賛成している。だが夫の言う事には逆らえない一面がある。

服部 半蔵(兄) (はっとり はんぞう あに)

伊賀の忍者の男性。服部半蔵(父)とうさぎの息子で、服部蘭の兄。幼い頃より三人の姉達のおもちゃにされていたので、女嫌いとなり生涯独身宣言をしていた。だが、不細工だが心優しいふたばに恋をし、祝言を挙げる。

ふたば

服部半蔵(兄)の妻となった女性。不細工だが心優しい性格で、京にある親の料理屋で働いていた時に、客だった半蔵(兄)と出会った。身寄りのない子供達のために山の寺に食事を持って行くという心暖かい性格で、半蔵(兄)の心を摑んだ。料理上手で、自分が不美人な事も受け入れている。

鷹司 孝子 (たかつかさ たかこ)

徳川家光の正室となるべく京からやって来た女性。公家の鷹司信房の娘で、気が強く関西弁で話す。ホームシックになった際に服部蘭となかよくなり、蘭に恋愛に似た感情を抱くようになる。そのため、家光に蘭だけは側室にしないでほしいと訴えた。子供好きだが、公家の姫に将軍家の子を産まれては京の力が強くなると、徳川忠秀より家光の子供を孕ませないようにとの御達しが、本人の知らないところで、暗黙の了解となっている。 実在の人物、鷹司孝子がモデル。

(しず)

徳川秀忠の側室の女性で、幸の母親。江の激昂しやすい性格ゆえ、その存在は秘密にされている。慎み深く優しい性格であり、秀忠にとっては癒しとなる人物。江の知るところになれば、幸の命はないとして、幸を守るために女子と偽り育てていた。

(さち)

徳川秀忠と静のあいだにできた隠し子で、徳川家光の義弟。男子だが、江から命を狙われる可能性があるとして、信濃高遠城主・保科家に養子に出され、豆蔵の警護のもと、女子としての教育を受ける。正義感が強いが、優しすぎるところがあり、繊細な性格。性を偽り居を転々とし、息をひそめてまで生き長らえる辛さに耐えがたい孤独を感じていたが、家光より秀忠と静からずっと愛されていたという事を聞き、男の姿に戻って保科家の跡取りとなる決心を固める。 碁が得意。

豆蔵 (まめぞう)

伊賀の忍びの男性で、服部蘭の昔なじみ。徳川秀忠より幸の警護を頼まれた上忍・服部半蔵(父)からの命で、幼い幸の警護役となる。幸に慕われているが、幸が男子である事はずっと気づかなかった。幸が保科家の跡取りとなり、7年務めた幸の警護役を解かれた。

狩野 探幽 (かのう たんゆう)

徳川家専属の御用絵師である男性。丸坊主の美男子だが、絵の中の女体こそすべてであり、生身の女性にはまったく興味がない。徳川家光の要望で服部蘭の絵を描く事になり、蘭が忍びだと聞いてときめきを感じる。鷹司孝子とは母親同志が姉妹であるいとこの間柄。実在の人物、狩野探幽がモデル。

石川 八右衛門 (いしかわ やえもん)

伊賀の忍者で、服部蘭の許嫁の男性。見た目はワイルドな色男だが、蘭と夫婦になる事だけを楽しみに生きてきたので、蘭に逃げられてからは泣き暮らす毎日を送っている。蘭を追いかけ暴走し、徳川家光の住む城に侵入する。

徳川 家康 (とくがわ いえやす)

駿府城に住む隠居した大御所で、徳川幕府の初代将軍だった高齢男性。徳川秀忠の父親で、徳川家光と徳川国松の祖父。秀忠に将軍の座を譲ったあとも、政治の実権を掌握している。服部蘭から直訴され、将軍としての強さと優しさを兼ね備えているのは徳川家光だと判断、自身の鶴の一声で三代将軍が家光に決定する事となった。 実在の人物、徳川家康がモデル。

徳川家光の側室候補の女性。家光に気に入られている服部蘭を妬み、食事に毒を入れたりする意地の悪いところがある。福より夜伽の命を受け、家光の床に忍び込むも拒否されると、さらに蘭を年増と罵るようになる。

その他キーワード

抜け忍

上忍に無断で連絡を断ち行方知れずになった忍びの事。忍びが代々受け継いで来た術や技を外にもらす事のないよう、見つかれば死罪となる。忍びの世界に縛られている服部蘭を案じた雲隠林蔵は、自由な生き方ができると、蘭を抜け忍の世界に誘う。

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