あらすじ
第1巻
室町時代の南総の国。男の剣士として育てられた少女・犬塚信乃は、玉梓が率いる妖怪軍が復活した事を知る。信乃は妖怪たちに襲われる中、父親に託された大剣「村雨」を持って、城から脱出しようとする。船虫に追い詰められた信乃が「村雨」で戦おうとした時、爆風と共に犬川荘介が現れる。「義」の犬士を名乗る彼にピンチを救われた信乃は、彼と共に自分たちと同じ犬士を探し、南総を守るための旅に出る。
宿場町に着いた信乃は許婚の犬山浜路と再会するものの、危険に巻き込まぬよう彼女を突き放し帰そうとする。信乃との同行を諦めた浜路は実家に帰る途中に網乾に襲われるが、そこに彼女の兄である犬山道節が現れる。
第2巻
妹の犬山浜路を傷つけた網乾と対峙する犬山道節は、網乾と玉梓こそが過去に自分の両親を殺した真の仇である事を悟る。道節は一度は網乾を倒すものの、網乾が最後の力を振り絞って放った攻撃により浜路が命を落としてしまう。その後浜路を心配していた犬塚信乃と犬川荘介が駆けつけ、妹の亡骸を燃やしている道節に遭遇する。信乃は道節が浜路の兄である事、彼が胸にアザを持つ「忠」の犬士である事を知る。しかし同じ犬士でありながら、妖怪軍を討つ目的が信乃たちと異なる道節は、「村雨」を奪ってその場を去ってしまう。
第3巻
古河の町に着いた犬塚信乃と犬川荘介は、いきなり町民に襲われる。町の張り紙を見た二人は、自分達が犬山浜路を殺害したお尋ね者にされている事を知る。古河の城主をあやつる船虫の策略で、人殺しの濡れ衣を着せられた二人は追われる身となってしまい、信乃は古河城内で荘介と離れてしまう。なんとかピンチを乗り切り追っ手をかわした信乃の前に、「信」の犬士・犬飼現八が現れる。
その頃、死んだはずの網乾が玉梓によって復活させられていた。そして玉梓は網乾の懐から浜路の髪の毛を見つけ、これを利用しよう目論むのだった。
第4巻
妖怪軍に追われて古河城より利根川に流された犬塚信乃と犬飼現八は、突如現れた謎の大鬼によってピンチを救われる。大鬼の正体は「悌」の犬士・犬田小文吾だった。小文吾の幼なじみでもある現八は、気絶した彼と信乃を連れて利根川近くにある行徳の旅籠へ向かう。しばらくして目覚めた信乃は、新たな犬士である小文吾と、自分にそっくりな顔をした女性・犬江沼藺と対面する。古河城に囚われたままの犬川荘介を助け出すため、信乃は現八と小文吾に協力を求める。こうして古河城に潜入した三人は荘介の救出に成功するが、信乃は自分の身代わりになって妖怪と対峙している沼藺を心配し、行徳に戻ろうとする。
第5巻
行徳で妖怪に襲われていた犬江沼藺は、人気役者として活躍する犬坂毛野に救われる。
一方古河で犬川荘介を救出した犬塚信乃たちは、亀篠の妖術でピンチに陥り、犬田小文吾が大鬼となって暴走してしまう。小文吾の攻撃に巻き込まれた犬江親兵衛は命を落とし、犬飼現八は小文吾を殺してでも暴走を止める事を決意する。自分たちの無力さを痛感する信乃だったが、そんな時、古河の空に伏姫が出現。伏姫は古河を浄化し亀篠を倒すものの、玉梓の力によって再び姿を消してしまう。伏姫の去り際に強力な神通力を受けて復活した親兵衛は、「仁」の犬士として覚醒・成長し、小文吾を止めようとする。
登場人物・キャラクター
犬塚 信乃 (いぬづか しの)
犬塚番作に男として育てられた剣士の少女。年齢は16歳。「孝」の犬士であり、アザは二の腕に刻まれている。結城城に仕える番作の娘だが、息子を欲しがっていた番作によって、幼少期から男として育てられてきた。このため犬川荘介や許婚の犬山浜路を始め、周囲からは男性と勘違いされ続けており、まったく女扱いされない事に時折悩んでいる。 幼い頃から剣術や武術を学んでいたため勇敢で男勝りな性格だが、華やかな着物に憧れるなど、女性らしい一面も持っている。
犬塚 番作 (いぬづか ばんさく)
結城城に仕える男性で、犬塚信乃の父親。「娘ではなく息子が欲しかった」という理由で、娘の信乃を無理やり男性として育て上げ、剣術や武術を仕込んだ。結城城が船虫に襲われた際に信乃に大剣「村雨」を託したうえで彼女を逃がし、船虫の妖術で消滅して行方不明となってしまう。
犬川 荘介 (いぬかわ そうすけ)
犬塚志乃が最初に遭遇した犬士の少年。「義」の犬士であり、アザは背中に刻まれている。普段は単純で天然な性格だが、幻術を破る精神力の強さと頑丈な肉体を持ち、正義感や使命感も強い。また家族を早くに亡くし孤独に過ごしていたため、信乃を始めとした仲間との絆を大切に思っている。
犬山 道節 (いぬやま どうせつ)
練馬家家臣・犬山道策の息子で、犬山浜路の兄。「忠」の犬士であり、アザは胸に刻まれている。練馬城が妖怪軍に襲われた際の生き残りであり、その時に殺された両親の仇討ちのために旅に出て、長らく行方不明となっていた。犬士としての自覚はなかったものの、犬塚信乃と犬川荘介に出会い、自分が犬士である事を知る。 しかし妖怪軍を討つ理由が信乃たちとは異なり、犬士としての使命ではなく両親と妹の仇討ちが目的であるため、彼らに同行せず一人で旅を続けている。
犬山 浜路 (いぬやま はまじ)
練馬家家臣・犬山道策の娘で、犬山道節の妹。また、犬塚番作が無理やり決めた犬塚信乃の許婚でもある。信乃の事は男性と思い込んで「おにいさま」と呼び、兄のように心から慕っている。犬士として旅立った信乃を追うが突き放され、帰る途中で網乾に遭遇する。妹を守るために現れた兄の道節によって倒された網乾の攻撃を受け、死亡する。
犬山 道策 (いぬやま どうさく)
練馬家家臣の男性で、犬山道節と犬山浜路の父親。また、人間の少年だった頃の網乾の主人でもある。網乾の事は実の息子のようにかわいがっており、道節が生まれる前は子宝に恵まれなかったため、網乾を養子にしようとしていた。しかしのちに道節が生まれたため養子の話を白紙にして網乾の恨みを買い、玉梓の力で半妖と化した彼によって、殺害されてしまう。
伏姫 (ふせひめ)
南総の国を守護する神女。かつて玉梓と戦い、彼女を封印したあとに姿を消していた。のちに犬士たちに南総を守る使命とアザを授ける。現在は復活した玉梓によって囚われの身となっているため、直接犬士たちの前に現れる事は滅多にない。玉梓のわずかな隙をついて彼らの夢に現れお告げをする事で、妖怪軍の魔手から南総を守るよう、犬士たちを導いている。
犬飼 現八 (いぬかい げんぱち)
足利成氏に仕えながら、古河の町で岡っ引きをしている青年。犬田小文吾と犬江沼藺の幼なじみでもある。「信」の犬士であり、アザは頬に刻まれているが、普段はテープで隠している。長十手を武器にして戦う。妖怪と知りながら、船虫に一目惚れし、以来彼女に会うたびに執拗に迫っている。古河城で犬塚信乃に遭遇し、小文吾と共に彼女の仲間に加わり、犬士として妖怪軍と戦う事となる。 飄々とした性格で女好きだが、男性には容赦しないタイプで、正義感も強い。
足利 成氏 (あしかが しげうじ)
古河城主の男性。もともとは幼いながらやさしく聡明な少年で、町民や犬飼現八からも信頼されていたが、摂政として侵入した船虫の妖術によって傀儡となってしまう。無茶なお触れを出しては町民を次々と捕らえて死刑を言い渡す暴君となり、犬塚信乃も処刑しようとする。のちの古河城の戦いでは、亀篠の人質となるが、伏姫により命を救われる。
船虫 (ふなむし)
妖怪「節足鬼」の女性。玉梓直属の部下で、彼女には強い忠誠を誓っている。玉梓の命令で大剣「村雨」を奪取し犬士を全滅させるため、部下の妖怪達を率いて犬塚信乃たちの命を狙う。無数の触手を使って攻撃し、妖術で人間をあやつる事もできる。昔に一度、まだ幼い犬田小文吾と犬飼現八に会い、二人を殺そうとした事がある。 また現八には古河城で会った際に一目惚れされ、以来彼に会うたびに追い掛け回されている。
亀篠 (かめざさ)
妖怪「淫魔鬼」の女性で、船虫の部下。犬川荘介の事を気に入っており、時折口説こうとする。妖艶な雰囲気をまとった美女の姿をしており、男性を惑わそうとするが荘介や犬飼現八などには年増扱いされている。幻術や催眠術を得意としており、人間に化けて相手を騙したり、一般人をあやつるのが得意。
網乾 (あぼし)
妖怪「淫邪鬼」の半妖の青年で、玉梓の部下。元は練馬家家臣・犬山道策に仕える人間の少年であったが、道策の息子である犬山道節が生まれたのをきっかけに嫉妬心や猜疑心が生まれ闇に墜ち、玉梓の力で半妖となる。その後道策とその妻を殺害し、妖怪軍の一員となる。のちに道節と再会するが彼に倒され、遺灰から玉梓の力で復活する。 しかし、悪の心が「村雨」によって浄化され人格が変わっており、精神が人間だった頃に近い状態になっている。
玉梓 (たまずさ)
妖怪軍を束ね人間の支配を目論む、「妖鬼王」の女性。かつて南総の守護神女である伏姫と戦い、彼女に封印されるが、再び目覚めて人間を妖怪の力で支配しようとしている。妖艶な女性の姿をしているが、残虐で冷酷な性格。また、幼い網乾の嫉妬心につけ込んで半妖化させたうえで利用するなど、妖怪でありながら人心掌握にも長けている。
犬田 小文吾 (いぬた こぶんご)
行徳にある旅籠の主人をしている青年。犬江沼藺の兄であり、犬江親兵衞の叔父でもある。「悌」の犬士であり、アザは尻に刻まれている。犬飼現八とは幼なじみ。大らかでお人好しな性格。大柄な体型だがケンカは苦手で、裁縫や料理などを得意としている。幼い頃に船虫と遭遇した際、いっしょにいた現八を守るため、強力な力を持った大鬼に化けられるようなる。 ただし大鬼に変身しているあいだは人間としての理性を失い、敵味方問わず暴力を振るってしまう。役者として有名な犬坂毛野のファン。
犬江 沼藺 (いぬえ ぬい)
行徳にある旅籠の若女将をしている女性。犬田小文吾の妹で、顔は犬塚信乃と瓜二つ。夫はすでに亡くなっており、兄の小文吾と息子の犬江親兵衞と共に暮らしている。信乃に変装し、一時的に妖怪軍を引きつけるための身代わりとなる。
犬江 親兵衞 (いぬえ しんべえ)
犬江沼藺の息子で、犬田小文吾の甥の幼い少年。伯父の小文吾の事を「おいたん」と呼び、実の父親のように慕っている。また、裁縫が得意な小文吾お手製の服を着ている。身体は小さいが身軽で森中を飛びまわる事ができ、力も強い。大鬼の姿になり暴走した小文吾の打撃で一度は命を落とすが、伏姫の加護により蘇って成長し、腹にアザが刻まれた「仁」の犬士となる。
犬坂 毛野 (いぬさか けの)
役者として活躍しながら旅芸人一座を率いる、女形の男性。芸名は「旦毛野」。「智」の犬士。役者としての人気は天井知らずで、公演の切符は即日完売し、老若男女問わず虜にしている。行徳にて犬塚信乃の身代わりとなって、妖怪に襲われそうになっていた犬江沼藺を助け、花婿を募集しながら行徳に留まっている。複数の扇子を武器に、華麗に舞い踊るように戦う。
曳手 (ひくて)
犬坂毛野が率いる旅芸人一座のメンバーで、毛野の妹分でもある。単節の双子の姉で、妹よりもおっとりしているが泣き虫な性格。陰陽師のような姿をしており、妖怪とはお札や術を駆使して戦う。
単節 (ひとよ)
犬坂毛野が率いる旅芸人一座のメンバーで、毛野の妹分でもある。単節の双子の妹だが、姉よりも強気でしっかり者。くの一のような姿をしており、妖怪とは手裏剣や忍術で戦う。
集団・組織
妖怪軍 (ようかいぐん)
玉梓が率いる妖怪の集団で、犬士たちの宿敵。かつて伏姫によって封じられていた玉梓の復活をきっかけに活動を再開し、南総の国をはじめすべての人間を支配しようとしている。
その他キーワード
村雨 (むらさめ)
伏姫が遺した伝説の大剣。妖怪を打ち破る力を持ち、「破邪の剣」とも呼ばれる。強い破邪の気をまとっているため妖怪が直接触れる事はできず、この剣に斬られた妖怪は浄化され灰となる。長らく結城城内に隠されていたが、城が妖怪軍に襲撃された際に、犬塚番作が犬塚信乃に託した。その後しばらくは信乃が所持していたが、亀篠に偽物とすり替えられたあと、私怨で玉梓を討とうとする犬山道節に奪われてしまう。
犬士 (けんし)
南総の国を守るために伏姫によって神通力を授かった、犬塚信乃を中心とする八人の戦士の事。それぞれの名字にはいずれも「犬」の文字が入っている。生まれつき特別な力を持っていると同時に、玉梓が率いる妖怪軍と戦う使命を背負っている。またそれぞれの身体の一部に文字のアザが刻まれており、信乃の場合は「孝」の文字が二の腕に刻まれている。
ベース
里見☆八犬伝 (さとみ はっけんでん)
妖鬼王・玉梓の軍によって支配されようとしていた世の中を救うため、仲間たちとともに妖怪退治をするべく犬塚信乃達は旅に出る。 関連ページ:里見☆八犬伝
書誌情報
里見☆八犬伝REBOOT 全13巻 竹書房〈バンブーコミックス〉
第12巻
(2022-06-30発行、 978-4801976740)
第13巻
(2023-03-16発行、 978-4801979901)