あらすじ
第1巻
ドレスや装飾品を身につけるよりも本を読むことが好きなため、「虫かぶり姫」と呼ばれる侯爵令嬢のエリアーナ・ベルンシュタインは、サウズリンド王国の第一王子であるクリストファーの名ばかりの婚約者として本を読みふけるだけの毎日を送っていた。しかしある日、後宮に行儀見習いとしてやって来た子爵令嬢のアイリーン・パルカスが、クリストファーと親しげに歓談している姿を目撃してしまう。思いがけずに嫉妬したことで、エリアーナ自身が知らないうちにクリストファーに恋心を抱いていたことを自覚するが、クリストファーがアイリーンを正式な恋人にしたのだとカンちがいしたエリアーナは、荷物の整理を始めるのだった。
第2巻
クリストファーとアイリーン・パルカスが恋愛関係にあるというのは、エリアーナ・ベルンシュタインの誤解だった。それどころかアイリーンはエリアーナを貶めるためにさまざまなウソをついており、またパルカス子爵もエリアーナに恨みを持ち、暗殺を企てていたことが発覚する。この事態に困惑するばかりのエリアーナだったが、クリストファーはこの騒動を経て、エリアーナがいかに王太子妃としてふさわしい女性であるかを周囲に広めることに成功し、ほくそ笑んでいた。そして、クリストファーはその日のうちに、自分たちが幼少期に出会っていたこと、そして自分がいかにエリアーナを愛しているかを語り始める。
第3巻
エリアーナ・ベルンシュタインはクリストファーに誘われ、かねて行きたいと願っていたロマの民とシスルの星による本の市場に訪れる。初めてのお忍びデートを楽しむ二人だったが、そこで本の盗難事件を目撃する。「ベルンシュタインという貴族から頼まれた」と証言する少年、ルネとパオロに詳しく話を聞くことにするが、ルネがクリストファーを見て、母親の話す父親像に似ていると言い出した。エリアーナもルネの父親とクリストファーが別人であると理解しながらも、ルネに懐かれるクリストファーの姿を見るうちに複雑な心境になり、クリストファーのことを避け始めてしまう。
関連作品
小説
本作『虫かぶり姫』は、由唯の小説『虫かぶり姫』を原作としている。ただし漫画版は、原作小説版と一部物語の展開が異なる。原作小説版はアイリスNEOから刊行されており、イラストは椎名咲月が担当している。
登場人物・キャラクター
エリアーナ・ベルンシュタイン
サウズリンド王国の侯爵家の令嬢で、クリストファーの婚約者の女性。細かく波打った淡い色の金髪に、灰色の瞳を持つ。ドレスや装飾品を身につけるよりも本を読むことが好きで、本の虫ならぬ「虫かぶり姫」と呼ばれている。活字で書かれているものであれば貴賤を気にせず、地域回覧板なども興味を持って読んでおり、それが結果としてサウズリンド王国に利益をもたらしていることも多い。しかし、エリアーナ・ベルンシュタイン自身にはその自覚はなく、功績を讃えられても他人事のように感じている。また、他人に興味がないために人から向けられるどんな感情に対しても鈍感で、クリストファーとの婚約にはお互いに愛情がなく、ただの政治的取り引きだと考えていた。そんな中、クリストファーとアイリーン・パルカスが恋人関係になったとカンちがいした際に、ようやくクリストファーへの恋心を自覚する。それ以降はクリストファーからの好意を、非常に照れながらも正面から受け止めている。「エリィ」「妖精姫」などの愛称でも呼ばれている。
クリストファー
サウズリンド王国の第一王子で、エリアーナ・ベルンシュタインの婚約者の青年。あざやかな金髪にはっきりとした青い瞳を持つ。幼い頃からエリアーナに恋しており、それ以来エリアーナを王太子妃にするべくさまざまな画策を練っていたが、エリアーナ本人には恋愛感情のない関係だと誤解されていた。エリアーナをめとるにあたっては、4年間で、「サウズリンドの頭脳」というベルンシュタイン家の隠し名を使わずに貴族たちから婚姻の賛同を得ること、そしてクリストファー自身が、エリアーナの関心を書物よりも得ることを、エリアーナの父親と祖父から結婚の条件として出されていた。親しい間柄には「クリス」と愛称で呼ばれることもあり、クリストファーはエリアーナに愛称で呼んでもらいたいと思っている。
アレクセイ・シュトラッサー
公爵家の令息で、クリストファーの右腕を務める青年。黒髪に切れ長の目をしており、どんな相手にも等しく冷淡な態度で接することから「氷の貴公子」と呼ばれている。クリストファーの公務管理を行う秘書のような存在で、公務をサボりがちなクリストファーによく苛立っている。
グレン・アイゼナッハ
クリストファーの護衛を務める騎士の青年で、近衛騎士団に所属している。つねに快活な笑顔を浮かべる明るい性格のため、男女問わず人気がある。感情を隠すことが苦手で、苛立つことがあると、エリアーナ・ベルンシュタインにすら察せられるほどその思いがしぐさや顔に出てしまうため、テオドールからも注意を受けることがある。赤色の髪から「赤髪の騎士」とも呼ばれて親しまれている。
アラン・フェレーラ
宮廷楽師を務める青年。ウエーブがかった金髪を毛先付近で一つにまとめている。クリストファーの隠し駒として諜報活動も行っており、エリアーナ・ベルンシュタインに危害を加える者がいないかひそかに見張り役を担っていた。しかし、エリアーナから4年間もその存在にすら気づかれていなかったばかりか、名乗ってからもまったく認識されないほど記憶に残っていないことを嘆いている。エリアーナの愛称の一つである「妖精姫」という呼び名を広めた張本人でもある。
テオドール
クリストファーの叔父で、王弟。あざやかな金髪をオールバックにしており、はっきりとした青い瞳を持つ。王宮書庫室の管理責任者を務めているため、エリアーナ・ベルンシュタインと本について非常に話が合い、よく会話をしている。また、エリアーナに好意を持っているかのような発言を繰り返しているため、クリストファーからは警戒されている。
アルフレッド・ベルンシュタイン
エリアーナ・ベルンシュタインの兄。少々外ハネグセのある金髪をしている。本を読むことを優先して要職には就いていなかったが、エリアーナが王太子妃候補になったことで宰相補佐を任じられ、仕事に追われている。エリアーナを溺愛しており、基本的にはクリストファーとの仲を応援する立場にあるが、クリストファーがアイリーン・パルカスと恋人になったとカンちがいしたエリアーナが悲嘆に暮れたのを目にしてからは、「もしまたエリアーナにあんな顔をさせたら、ベルンシュタインの頭脳を総動員してでも許さない」と宣言している。親しい者からは「フレッド」と呼ばれている。
アイリーン・パルカス
パルカス子爵の令嬢で、後宮に行儀見習いにきている少女。豊かな明るい茶色の髪をハーフアップにしている。社交的な性格で明るく振る舞っているため、男性から人気がある。しかしこれ見よがしに、人目につく場所でグレン・アイゼナッハやアレクセイ・シュトラッサーらと歓談している姿が目撃されており、女性からの評価は芳しくない。エリアーナ・ベルンシュタインが王太子妃候補としてふさわしくないと考えており、エリアーナから後宮でさまざまな嫌がらせを受けていると放言している。
パルカス子爵 (ぱるかすししゃく)
アイリーン・パルカスの父親。本家筋にあたるカスール伯爵家と確執があり、カスール伯爵が王家に国宝の贋作を献上するように仕組んだが、エリアーナ・ベルンシュタインに贋作であることを看破されたことで思惑がはずれ、非常に恨んでいた。
ルネ
ロマの民の幼い少年。黒髪で青い瞳に白い肌を持つ。「ベルンシュタイン家」を名乗ったモーズリ男爵から、母親を医者に診せることを条件に命令され、市場から本を盗んだ。母親は踊り子だが病気にかかっており、収入がない。父親は青い瞳の騎士だと聞かされていたため、助けに入ったクリストファーを父親だと思い込み、懐いている。
パオロ
ロマの民の少年。黒髪で浅黒い肌を持つ。「ベルンシュタイン家」を名乗ったモーズリ男爵からルネの母親を医者に診せることを条件に命令され、市場から本を盗んだ。貴族を嫌っているが、エリアーナ・ベルンシュタインだけはほかの貴族とは違うと感じており、心を許している。
ニコラ・レッツィ
シスルの星の一員の老齢男性。浅黒い肌に白く長い顎ひげを蓄え、頭部には羽根飾りの付いた大きなターバンを身につけている。非常に人気のある教材資料の著者で、テオドールからも一目を置かれている。クリストファーが15歳の時に出会い、恋愛相談の助言代金として有り金すべてを巻き上げたことがある。
モーズリ男爵 (もーずりだんしゃく)
ルネやパオロに、本の窃盗を命じた貴族の男性。外巻きの金髪に、カールした口ひげを蓄えている。ロマの民を「汚らわしい存在」として見下しており、エリアーナ・ベルンシュタインのことも「クリストファーの威光をかさに着ているだけの女」と認識している。サウズリンド王国に新開発の武器を仕入れようと画策し、エリアーナとは意見が対立していた。パオロやエリアーナになかなか名前を覚えられず、「モグラ貴族」「モグラ男爵」とも呼ばれている。
集団・組織
シスルの星 (しするのほし)
サウズリンド王国がある大陸で名を知られた学識者集団。しかし、その詳細は明らかになっておらず、ロマの民と行動を共にしていることから、構成者はロマの民出身ではないかと噂されている。3年に一度、学究発表を終えたあとに姿を見せ、ロマの民と共に本の市場を開くことで知られている。またその市場では、新しく発表されたばかりの学術書も市場の露天に並べられるため、エリアーナ・ベルンシュタインは一度でいいから行ってみたいと夢見ていた。
場所
サウズリンド王国 (さうずりんどおうこく)
クリストファーを第一王子とする王国。「セウルーカウン」という言語が常用されており、男女ともに18歳で成人を迎え、結婚を許される。ロマの民を忌避している国民が多いが、クリストファーによって低所得者向けの施療院や医療研究機関が設立され、ロマの民も利用できるようになるなど、医療に力を入れている。
その他キーワード
サウズリンドの頭脳 (さうずりんどのずのう)
エリアーナ・ベルンシュタインをはじめとする、ベルンシュタイン侯爵家の隠し名。この隠し名を知っているのは王家の人間などごく一部に限られており、広まらないように細心の注意が払われている。いつの世にあってもベルンシュタイン侯爵家の能力は飛び抜けて高いとされており、ベルンシュタイン家の人間が仕えた王の御代は等しく繁栄してきたといわれている。ベルンシュタイン侯爵家は書物好き故に荒事とは縁がないが、書物と知識を求めるあまりロマの民と因縁があり、エリアーナは父親から「ロマの人々に近付いてはいけない」と固く禁じられていた。
ロマの民 (ろまのたみ)
貴族たちから忌避されている移動民族。成人男性は頭部にターバンを巻き、民族衣装もアラビアンナイトを思わせるエキゾチックな服を身につけている。定住地を持っていないこと、宗教が異なっていること、肌の色が違うことなどから疎まれており、医者にかかることも難しい。貴族子女の場合、ロマの民にかかわったと噂が立つだけでも悪印象になるといわれている。しかし、シスルの星一団がロマの民と行動を共にしていることから、シスルの星の構成者はロマの民の出身ではないかといわれている。
カイ・アーグ帝国衰亡の記録・星導師版 (かいあーぐていこくすいぼうのきろくせいどうしばん)
エリアーナ・ベルンシュタインが読みたがっていた旧帝国史を記した書物。史跡家が書いたものではなく、ほとんど世に出回っていないため、ベルンシュタイン侯爵家が伝手を頼っても極めて入手が困難なことから、エリアーナも入手をあきらめていた。しかしクリストファーが入手し、エリアーナにプレゼントしている。
星の旅人 (ほしのたびびと)
大人でも楽しめる子供向けの童話で、古くから読み継がれている作品。ロマの民とシスルの星が共同で開く、3年に一度の本の市場で入手することができるが、書かれた時代や国によってその内容が異なっているとされる。作者不詳となっているが、エリアーナ・ベルンシュタインはシスルの星が書いたものであり、時の権力者にとって不都合な史実を作中に書き記しているのではないかと考えている。
クレジット
- 原作
-
由唯
- キャラクター原案
-
椎名 咲月
書誌情報
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