あらすじ
第1巻
命に終わりのないナンバーレスの死神であるグレゴールは、「人間に愛される」という禁忌を犯す以外に、自らの命を終わらせる手段を持っていない。グレゴールは無垢で純真、誰をも惹きつける魅力を持つ少年エンデと出会う。エンデに惹かれたグレゴールは孤児の彼を拾い、親子となって二人で暮らし始める。しかし人の命を奪うはずの死神にとって、生きた人間と暮らすことは禁忌とされている。グレゴールがそんな禁忌を犯してまでエンデと暮らしているのは、彼に愛されることで自らの命を終わらせるためだった。エンデから向けられる笑顔や言葉が真の愛ではないと気づいていたグレゴールは、エンデの本当の愛を得るためにあらゆる手段を使い、時には無関係な人間を殺すこともあった。そんなある日、神学校に通い始めたばかりのエンデは、同級生のヨリックとなかよくなる。気弱でいじめられることが多いヨリックは、分け隔てなく接してくるエンデに惹かれ、特別な感情を抱くようになる。そんなヨリックが、エンデにキスをしている場面を偶然目撃したグレゴールは、焦がれるような感情とある確信を抱くのだった。次の日、エンデに急速に惹かれていると自覚したヨリックは、困惑するようにエンデを拒絶する。しかし、エンデの笑顔を見て耐えられなくなったヨリックは、彼の手を引いて街はずれの旧教会に向かうのだった。
登場人物・キャラクター
エンデ
無垢で純真な心を持つ孤児で、誰にでも愛される金髪青眼の美少年。グレゴールに拾われて以来、彼が死神であると知りつつも「父さん」と呼んで慕い、グレゴールから深い愛情を注がれている。現在はグレゴールと街で二人暮らしをしながら、神学校に通っている。中性的な愛らしい容姿と、誰とでも分け隔てなく接する優しく人懐っこい性格から、同級生からも慕われている。死神たちからは、人間も死神も魅了する「神の落とし子」と呼ばれる特別な存在とされており、その魂を欲するほかの死神からつねに命を狙われている。このため「儀式」と称してグレゴールの血を飲まされており、死神の血で魂の匂いを消すという形で、彼に守られている。幼少期から金持ちに引き取られては、その人が死んでまた別の人に引き取られるのを繰り返していたため、名前や髪型などは何度も変わっている。「終わり」を意味する「エンデ」という名は、グレゴールによって付けられた。少々世間知らずなところがあり、幼少期から周囲に愛をささやかれているが、そのたびにその人が死んでしまうため、本当の愛情がなんなのかは知らない。グレゴールと暮らし始めてからは、愛をささやいてきた身近な人間が何人も彼に殺されているが、そのたびに「この死はエンデが生きるための救い」と説かれて納得している。このようにグレゴールに対しては、なんの疑問も持たずつねに従順だったが、ある出来事をきっかけに彼の行動や言動に疑問を持つようになり、少しずつ抵抗や拒絶を見せるようになる。
グレゴール
孤児だったエンデを引き取っていっしょに暮らしている死神。くちばしの仮面をつけた紳士的な男性の姿をしている。大鎌で魂を狩り、大きな街を縄張りに行動している。かつては「紳士」や「まじめ死神」と呼ばれるほど仕事に忠実な死神だったが、ある目的のために「人間に深くかかわってはいけない」という死神の掟を破り、人間の少年であるエンデを我が子のように愛するようになる。エンデの持つ「神の落とし子」と呼ばれる特別な魂の匂いを消してほかの死神から守るために「儀式」と称して、定期的に自らの血を飲ませている。実は通常の死神とは異なる「ナンバーレス」と呼ばれる特殊な死神で、エンデに出会うまではグレゴール自身の永すぎる命を呪い、他者の命を奪い続けるだけの日々を終わりにしたいと願っていた。このため、「人間に愛された時に死ぬ」という死神の掟を基に、エンデに愛されることで自分の命を終わらせようとしている。エンデを直接見ると彼の魂に魅入られて殺してしまう可能性があり、仮面で目元を隠しているのはそれを防ぐため。それでもエンデのことは心から愛しており、彼の本当の愛情を手に入れるためにあらゆる手を使い、試行錯誤を繰り返している。一方でエンデが自分以外を愛することを恐れており、エンデに愛情を向けた人間や、彼に愛された人間はたとえ子供であっても殺害している。
ローダ
エンデの通う神学校の同級生で、短髪の少年。乱暴な性格のいじめっ子でエンデに絡むことが多いが、彼を不思議に思いつつも気になっている。ヨリックのことをからかったり、いじめたりしていたが憎んでいたわけではなく、彼が亡くなった時は悲しむ様子を見せた。レオン・シュタインの養子だが、血がつながっていない彼のことは信用していない。幼少期に母親に教わっていたため、花冠を作るのが得意。エンデに対してあまり素直になれずにいたが、彼と過ごすうちに心から愛していることに気づき、思いを告げる。それと同時に「誰を愛しているかはエンデ自身が決めるべきだ」と説き、グレゴールに従順だったエンデに自立心が芽生えるきっかけをつくった。
レオン・シュタイン
エンデたちが通う神学校で教師をしている男性で、ローダの養父。神学校の近くに訪れていたグレゴールと知り合う。ローダとは血がつながっていないが息子として心から愛しており、反抗期を迎えた彼にとまどいつつも、成長を優しく見守っている。
ヨリック
エンデの通う神学校の同級生で、ウエーブがかった黒髪の少年。おとなしい性格で気弱なため、ほかの生徒からはいじめられがちだが、分け隔てなく接してくれるエンデの無垢な美しさと優しさに惹かれ、特別な感情を抱くようになる。街はずれの旧教会に閉じ込められてエンデと二人きりになった際に急速に心惹かれ、彼を再び旧教会に連れ込んで思いを告げようとする。しかし、グレゴールによって十字架を落とされ、エンデの目の前で体を貫かれて命を落とした。
シュワルツ
伝達係などを務めている男性の死神で、グレゴールの同僚。グレゴールとは長い付き合いで、相棒のような関係。禁忌を犯してエンデと暮らすなど、死神らしくない行動を取る相棒のグレゴールをからかったり茶化したりしながら、好奇心のままに彼らの行く末を見守ろうとしている。口は悪いがすでに死神の掟をいくつも破っているグレゴールをひそかに心配しており、彼をサポートするふりをしながら、警戒や監視を続けている。ふだんは首飾りを付けたカラスの姿をしているが、まれにヒゲを生やした男性の姿になることもある。
ニーナ
額に紋様を持つ女性の姿をした死神。黒いローブを身につけ、拳銃のような武器で魂を狩る。見た目は若いが死期が近く、次の命を狩ったあとに死ぬ予定のため、ナンバーレスであるグレゴールのことを羨ましく思っている。自分の最期の仕事にふさわしい魅惑的な魂を求めて、グレゴールの縄張りである街に現れる。このためグレゴールからは、エンデの命を狙っていると警戒されていたが、実は狙っていたのは殺人鬼のゲーリィだった。最期に人間の役に立つことを願い、ゲーリィの魂を狩ることで、彼に殺される予定だった少年たちの命を救おうとしていた。目的を遂げたあとはグレゴールの真の目的を知り、彼にある忠告をして消えていった。
ゲーリィ
エンデたちが通っている神学校の教師を務める男性。長髪で、眼鏡を掛けている。一見おだやかで優しく生徒たちからも慕われているが、実は少年ばかりを毒牙にかける狂気的な殺人鬼。ピエロのふりをして少年に近づいて街はずれの小屋に連れ込み、すでに30人以上の少年を殺害している。次の目標としてローダを狙っていたが、彼といっしょにいたエンデに急速に惹かれる。エンデを眠らせて殺そうとするが、ニーナに魂を狩られて死亡した。
その他キーワード
死神 (しにがみ)
世界中の生命のバランスを司る存在。街などを巡回してリストに書かれた者の命を回収する仕事をしている。大半の死神は生涯狩ることができる魂の数が限られているため、無限の命を持たないが、グレゴールのようにナンバーレスと呼ばれる無限の命を持つ死神もわずかに存在する。「人間と深いかかわりを持つ」「死神同士の争い」「リストにない者の殺害」などいくつもの禁忌や掟が定められており、掟違反で捕まった死神は「渇きの檻」に何年も閉じ込められるなど、罪に応じた罰が下される。また人間に愛されることも禁忌とされており、これを犯した死神はナンバーレスであっても愛された瞬間に命を落とす。大半の死神は人間や動物といった偽の姿に化けて行動しているが、神学校などの聖域に入ると体を焼かれて偽の姿を保てなくなる。
ナンバーレス
無限の命を持つ珍しい死神の通称。通常の死神は、生まれた時に生涯狩ることのできる命の数「魂数(ナンバー)」が決まっており、それは人間の寿命と等しく、具体的な数は死神ごとに異なっている。自分の魂数を狩り終わった死神は命が尽きるが、この魂数が無限の死神は「ナンバーレス」と呼ばれており、いくら命を狩り取っても死ぬことはない。このため、死神の禁忌の一つである「人間に愛されること」以外に、命を終わらせる手段がない。終わりを気にせず無限に命を狩り続けることができるため、ふつうの死神からは羨ましがられることが多いが、グレゴールのようにナンバーレスであることに苦しんでいる死神も存在する。
神の落とし子 (かみのおとしご)
人間も死神も惹きつける特別な魂を持って生まれた、人間の子供の通称。生まれた時から無意識に周囲を魅了し、誰からも愛される一方、魂に魅入られた人間同士の争いの火種となりやすい。このため、神の落とし子として生まれたエンデは幼少期から周りに争いが絶えず、資産家などの金持ちを中心に、さまざまな家を転々としては身近な人が死ぬなど、つねに誰かの死が寄り添っている。