輪るピングドラム

輪るピングドラム

TVアニメ『輪るピングドラム』のコミカライズ作品で、ストーリー展開はTVアニメ版を忠実に再現している。高倉家の兄妹が「ピングドラム」と呼ばれる正体不明のアイテムの謎を追いながら、同時に自分たちの過去と向き合っていく。そしてついには世界との対決に臨むという、家族愛をテーマとした、哲学的な雰囲気の漂う複雑怪奇な物語。「月刊コミックバーズ」2013年7月号から2017年3月号にかけて連載された。

正式名称
輪るピングドラム
ふりがな
まわるぴんぐどらむ
原作者
イクニチャウダー
作画
ジャンル
家族
関連商品
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あらすじ

第1巻

重い病気を患っていて余命いくばくもない高倉陽毬は、ある日、一時退院によって自宅に戻り、兄である高倉冠葉高倉晶馬らと、ささやかで平和な一日を過ごしていた。陽毬の願いで3人はサンシャニー国際水族館にペンギンを見に行き、陽毬は売店でお土産にペンギン帽を買う。その直後に陽毬は倒れて救急車で病院に運ばれ、まもなく息を引き取る。しかし、霊安室で号泣する兄たちの前で、陽毬は突如として起き上がり、「生存戦略ー!」と絶叫し、帽子女に乗り移られることになる。その後、ペンギン帽が頭から落ちると、陽毬は意識を取り戻すのだった。

医者に「奇跡的な回復」だと告げられた3人は、とりあえず自宅に戻ったが、再び現れた帽子女は、陽毬を生き返らせたのが自分であることを冠葉と晶馬に告げ、その代償として、ピングドラムを手に入れるよう3人に命じる。2人はピングドラムとは何なのかと尋ねるが、明確な答えは得られない。だがひとまず、荻野目苹果がそれに関わっているという事実だけを知らされた2人は、苹果について調査を開始する。やがて、苹果が多蕗桂樹にストーカー行為を行っており、また「運命日記」を所持しているという事実を摑む。同時に、苹果と陽毬が友人同士となってしまったことをきっかけに、晶馬は苹果と秘密を共有する関係となり、図らずも子分のような立場にされてしまう。一方で冠葉は、自身の数多くいる元カノたちが自分についての記憶を失っていることを知り、この奇妙な謎を追い始めることになる。

第2巻

高倉晶馬を協力者に引き込んだ荻野目苹果は、相変わらず多蕗桂樹のストーキングを続け、ついには多蕗家の床下に「巣」を作り上げて、そこで疑似的な生活を送るに至っていた。しかしある日、桂樹は時籠ゆりとの婚約を発表し、苹果は激しいショックを受ける。それでも苹果はプロジェクトMを遂行すると主張し、強引に桂樹と結ばれようとして、ついに晶馬に止められることになる。これにより心に傷を負った苹果が運命日記を胸に抱えた瞬間、ライダースーツとフルフェイスヘルメットで正体を隠した謎の人物が、運命日記の半分のページをひきちぎっていく。衝撃のあまり路上にさまよい歩き、車にはねられそうになる苹果だったが、晶馬はそれを庇い、身代わりで交通事故に遭ってしまう。その後、事故により入院していた晶馬は謎の人物によって拉致され、苹果は脅迫を受けた結果、運命日記の残り半分も奪われてしまうことになる。

一方、夢とも幻想ともつかぬ場面の中、高倉陽毬中央図書館そらの孔分室で司書を名乗る渡瀬眞悧と出会い、かつて友人たちとともにアイドルグループ「トリプルH」を結成しようとしたことがあった、という過去を暴かれてしまう。

第3巻

高倉冠葉は夏芽家を訪れ、運命日記の残りの半分を奪った犯人、夏芽真砂子と対面する。愛の言葉を囁く真砂子に対して冠葉はつれない態度を取り、運命日記を返せと迫るが、真砂子は夏芽マリオペンギン帽を被っている姿を見せ、運命日記はマリオの命のために必要なものであることを告げる。

その頃、帽子女に「時間切れ」であると告げられた高倉陽毬は、再び生命を失うこととなる。だが、今度は医師を名乗って現れた渡瀬眞悧の処方によって、陽毬はまたしても息を吹き返す。

さらに、荻野目苹果高倉晶馬多蕗桂樹らから、16年前に起きた地下鉄爆破事件について知らされ、高倉家の人間が自分の姉、荻野目桃果の死に関わっていたという事実を知る。そのため晶馬は苹果との交流を絶とうとしたが、いつしか晶馬に対して恋愛感情を抱くようになっていた苹果は、晶馬に対して異性としてのアプローチをし始める。

その後、最初に奪われたもう半分の運命日記は、実は時籠ゆりが持っていたということが判明。真砂子はゆりに騙され、ゆりの作った偽物の運命日記を奪って、それに気付かぬまま去っていくのであった。

第4巻

多蕗桂樹が、地下鉄爆破事件の復讐のため、高倉陽毬を誘拐して高倉冠葉を脅迫するという事件を起こす。だが、陽毬と冠葉の相互の自己犠牲に心を打たれた桂樹は結局高倉家への復讐を諦め、時籠ゆりと生きる道を選ぶ。同時に、荻野目苹果高倉晶馬に対してその想いを告げるのであった。

その後、陽毬は病院を退院するが、自宅に訪ねて来た夏芽真砂子によって、実は高倉家の兄妹は血が繋がっていないという、忘れていた事実を突きつけられる。高倉家の三兄妹は、テロ組織「ピングフォース」を介して知り合った関係にあり、高倉家の実子なのは晶馬だけであった。こうして高倉家のかりそめの家族関係は崩壊する。冠葉は「企鵝の会」と名を変えて活動を続けていた「ピングフォース」の残党として活動に身を投じ、陽毬はそれまで隠していた晶馬への想いを告げた後、別れ際に口付けをして、冠葉を止めるために家を去った。

第5巻

高倉冠葉はテロ組織「ピングフォース」の一員として、市中でテロ活動を行うようになった。夏芽真砂子は実の兄であった冠葉を庇ってその命を落とすが、冠葉はそれにも心動かされることはなく、「ピングフォース」のかつてのリーダーとしての本性を現した渡瀬眞悧の亡霊の導きのもと、さらなるテロ活動に傾倒していく。

冠葉も、そして冠葉を止めようとする高倉晶馬も、その真意は高倉陽毬の命を救うということにあった。荻野目苹果運命の乗り換えの呪文を用いたことにより世界の改変が始まった時、晶馬は苹果に対して愛の言葉を、そして別れの言葉を囁き、冠葉とともに時空の彼方へ消えていく。そして、改変は成就し、冠葉と晶馬のいない世界が再創造されることになる。

登場人物・キャラクター

高倉 冠葉 (たかくら かんば)

16歳の少年。誕生日は1995年3月20日。高倉晶馬の双子の兄とされているが、実は養子であるため、晶馬との間に血縁関係はない。高倉陽毬からは「冠ちゃん」と呼ばれている。プレイボーイで、数多くのガールフレンドや元ガールフレンドがいる。テロ組織「ピングフォース」とひそかに関係を持ち続けており、大金を受け取るなどしている。

高倉 晶馬 (たかくら しょうま)

都立外苑西高校に通う16歳の少年。誕生日は1995年3月20日。高倉家の唯一の実子であり、高倉冠葉、高倉陽毬との間に血縁関係はない。陽毬からは「晶ちゃん」と呼ばれている。冠葉とは正反対の性格で、純真無垢。荻野目苹果に最後に愛を告げ、苹果による世界の改変とともに姿を消した。

高倉 陽毬 (たかくら ひまり)

重い病気のために学校を休学している少女。高倉家の養子であり、兄である高倉冠葉、高倉晶馬らとの間に血縁関係はない。だが、高倉陽毬自身は過去の記憶を失っており、高倉家の家族関係がかりそめのものだという事実を忘れている。自らの病は死病であり、もう長くは生きられない、ということについては理解している。

荻野目 苹果 (おぎのめ りんご)

櫻花女子という女子高校に通う16歳の少女。誕生日は1995年3月20日で、つまり姉である荻野目桃果の死んだその日に生まれている。両親は離婚しており、今は母親と一緒に暮らしている。高倉晶馬に恋愛感情を抱くようになり、のちに運命の乗り換えの呪文を用いて世界を改変する。

荻野目 桃果 (おぎのめ ももか)

荻野目苹果の姉で、既に故人。命日は1995年3月20日で、亡くなったのは小学生の時だった。詳細は不明だが超常の能力を持っており、運命の乗り換えの呪文によって渡瀬眞悧を「永遠の闇」へと吹き飛ばし、刺し違える形で命を落とした。

帽子女

「妾(わらわ)」という一人称で名乗る正体不明の存在。高倉陽毬がペンギン帽を被った状態の時に現れる。肉体そのものは陽毬のものだが、服装が派手なものに代わる。「生存戦略ー!」という叫びとともに、他者を奇妙な空間に引きずり込んで拘束し、高圧的な態度で立て板に水を流すように饒舌にしゃべる。口調は雅(みやび)だが、話す内容は下品で口が悪い。 自身について「運命の至る場所から来た」とのみ語り、その正体は謎に包まれていて、そもそも生命体であるのかどうかすら不明。喋り方は女性そのものであるため、高倉晶馬に「帽子女」と呼ばれている。

ペンギン1号

高倉家にクール便で配達されてきたオスのペンギン。高倉陽毬が初めて帽子女になったのと同時期に届いた。高倉冠葉と行動をともにしていることが多い。頬に絆創膏を付けており、背中に「1.」と記されている。高倉兄妹以外の人間には、その姿は見えていない。

ペンギン2号

高倉家にクール便で配達されてきたオスのペンギン。高倉陽毬が初めて帽子女になったのと同時期に届いた。高倉晶馬と行動をともにしていることが多い。背中に「2.」と記されている。高倉兄妹以外の人間には、その姿は見えていない。

ペンギン3号

高倉家にクール便で配達されてきたメスのペンギン。高倉陽毬が初めて帽子女になったのと同時期に届いた。陽毬と行動をともにしていることが多く、陽毬からは「サンちゃん」と呼ばれている。頭に小さなリボンを付けており、背中に「3.」と記されている。高倉兄妹以外の人間には、その姿は見えていない。

多蕗 桂樹 (たぶき けいじゅ)

都立外苑西高校の生物の教師。高倉晶馬の担任を務めている。また、外苑西高のOBであり、荻野目桃果のかつての小学校のクラスメイトでもある。「特別な存在」であった桃果に対して、今も深い想いを抱き続けており、その仇というべき高倉家の兄妹には、複雑な感情を抱いている。時籠ゆりと婚約、のち結婚する。

時籠 ゆり (ときかご ゆり)

サンシャニー歌劇団に所属する若い舞台女優。そこそこに顔と名の知れた芸能人で、高倉陽毬は時籠ゆりのファンであった。その後、多蕗桂樹との婚約を発表し、女優引退を宣言する。桂樹、そして荻野目桃果とはかつての小学校のクラスメイト。実はバイセクシャルであり、かつて桃果に抱いていた想いを果たすため、荻野目苹果に一服盛って毒牙にかけようとした。 また、ライダースーツとフルフェイスヘルメットで正体を隠し、苹果から運命日記の半分を奪った犯人であったことが、のちに判明する。

夏芽 真砂子 (なつめ まさこ)

夏芽ホールディングスという大企業の社長をしている少女。「早くすり潰さないと」が口癖。ペンギンの模様が描かれたボールを飛ばす、大型のパチンコのような不思議な武器を持ち歩いており、そのボールに当たった人間は、記憶の一部を失ってしまう。プロジェクトMのために運命日記を狙っている。また、高倉冠葉を愛しており、たびたび異性として迫っているが、実は冠葉と血を分けた実の妹である。

エスメラルダ

夏芽真砂子と行動をともにしているメスのペンギン。高倉家にいるペンギンたちよりも若干澄ました顔をしていて、色が黒い。ペンギン1号に目をつけ、強引にキスをしたりなど迫りまくるが、ペンギン1号にはドン引きされ、嫌がられている。

夏芽 マリオ (なつめ まりお)

夏芽真砂子の弟である少年。高倉陽毬のものとは別のペンギン帽を所持している。それによって寿命を延ばされていて、帽子女と同じように「生存戦略ー!」と叫ぶ。帽子を被っていない時は、真砂子を慕う普通の子供である。

渡瀬 眞悧 (わたせ さねとし)

謎の青年。「シビレるだろう?」が口癖。最初は「中央図書館そらの孔分室の司書」を名乗って現れ、のちに医師であると名乗り、シラセとソウヤという外見がそっくりな2人の少年を助手として、高倉陽毬の病院に現れた。奇妙な人脈を持っており、陽毬の編んだマフラーをアイドルユニット「ダブルH」の2人のもとへ届けた。その正体は16年前、地下鉄爆破事件に際して死亡したテロ組織「ピングフォース」のリーダーであり、現在姿を見せている渡瀬眞悧は亡霊である。

高倉 剣山

高倉兄妹の父親。テロ組織「ピングフォース」の幹部を務めている。地下鉄爆破事件の真犯人であり、警察にその事実を突き止められ、3年前に失踪した。その後も高倉冠葉と会っているように思われていたが、実際には既に死亡していた。白骨死体となっていたところを、高倉陽毬に発見される。

高倉 千江美

高倉兄妹の母親。テロ組織「ピングフォース」の幹部を務めている。地下鉄爆破事件の真犯人であり、警察にその事実を突き止められ、夫である高倉剣山とともに3年前に失踪した。高倉陽毬と高倉冠葉を高倉家に引き取ったのは、高倉千江美である。

集団・組織

ダブルH

伊空ヒバリ、歌田光莉(ひかり)という2人の少女によるアイドルユニット。かなりの売れっ子で、有名人。実はこの2人は高倉陽毬の幼なじみであり、かつて、陽毬を含めた3人でアイドルユニット「トリプルH」としてデビューするべく、オーディションを受けようとしていた。

ピングフォース

地下鉄爆破事件を起こしたテロ組織。高倉剣山と高倉千江美はこの「ピングフォース」の幹部であった。実行直前、地下鉄爆破について剣山は「我々の生存戦略である」と語っている。のちにその名は剣山によって「企鵝の会」と改められる。高倉陽毬の実の親、高倉冠葉と夏芽真砂子の実の父親も、この組織のメンバーであった。 渡瀬眞悧が16年前の1995年3月20日までリーダーを務めていた。

場所

サンシャニー国際水族館

池袋にある水族館。高倉陽毬ははじめ、高倉冠葉、高倉晶馬に連れられて訪れたこの場所で倒れ、その後、帰らぬ人となった。陽毬が帽子女の力で蘇った後も、回想や、陽毬の見る幻の中などに、ここがたびたび登場することになる。

多蕗家の床下 (たぶきけのゆかした)

多蕗桂樹が暮らしていた住宅の床下。荻野目苹果は桂樹をストーキングするために頻繁にここに出入りし、盗聴などを行っていた。のちに寝具やカーテンまでもが持ち込まれ、さながら「巣」のような様相を呈するに至っている。しかし、桂樹が時籠ゆりとの婚約の発表後に引っ越しをしたため、「巣」は役割を終えた。

中央図書館そらの孔分室

「カエル君シリーズ」の本だけが大量に並んでいる奇妙な図書館。外観は高倉陽毬がいつも行っている図書館に似ているが、内部は不条理なまでの広大さを持つ。陽毬の夢の中の存在なのか、異空間であるのか、詳細は不明だが、渡瀬眞悧は中央図書館そらの孔分室で司書を名乗っていた。

子どもブロイラー (こどもぶろいらー)

いらない子どもが透明な存在になる場所。管理局なるものが存在し、多くの子供たちがベルトコンベアで運ばれ、「粉々に砕かれ、透明な存在になる」と説明されている。多蕗桂樹は荻野目桃果によって、この場所から救い出された。またその後に、高倉陽毬もまた高倉晶馬によって、ここから救い出されている。

イベント・出来事

地下鉄爆破事件

1995年3月20日に発生した無差別テロ事件。首謀者は高倉剣山と高倉千江美、すなわち高倉兄妹の両親。荻野目桃果はこの事件に関わって命を落としている。また、高倉冠葉や高倉晶馬、荻野目苹果は、この事件と同じ日に誕生している。

その他キーワード

ピングドラム

それが何なのか、帽子女自身は一切説明しないが、当初は運命日記のことを指すと考えられていた。しかしそれは誤りであり、その本当の正体は、晶馬がかつて出会ったばかりの頃、死にかけていた幼い冠葉に分け与えた晶馬自身の生命である。それは半分に割られたリンゴのような形をして、晶馬の胸から取り出された。

運命日記

荻野目桃果の遺品である、日記のようなノート。実際には日記ではなく、未来の日付で「世界の運命」が書き込まれており、そこに書かれた内容は必ず実現する。また、「ここに記された未来が実現するとき、わたしの大切なものは永遠になる」という謎めいた予言が記されている。のちに、「運命を乗り換え、世界を改変するために」必要なアイテムであるということが判明する。

ペンギン帽

ディフォルメされたペンギンの頭部を模した帽子。サンシャニー国際水族館で売られていた。価格は1284円。このペンギン帽そのものは、ただの量産品であるはずなのだが、これを被ると高倉陽毬は帽子女へと変容する。また、ペンギン帽を奪われると、帽子女は消えてしまい、その力で寿命を延ばされている陽毬は死んでしまう。 中央図書館そらの孔分室に現れた渡瀬眞悧は、これが「運命の花嫁に捧げる花冠」であるという説明をするが、その意味するところは謎である。

プロジェクトM

荻野目苹果と夏芽真砂子が、それぞれ口にしている謎の計画。苹果のプロジェクトMのMは、高倉冠葉によって「マリッジ(結婚)」ではないかと推測されたが、のちに苹果自身の口から「マタニティー」のMであり、つまり「マタニティー大作戦」、多蕗桂樹との間に子を儲けることであることが明かされる。一方、のちに真砂子の語るプロジェクトMはそれとは別のものであり、「プロジェクトマリオ」、すなわち夏芽マリオの命を救うための計画であることが判明する。

運命の乗り換えの呪文

世界を改変するための手段。死者を蘇らせることさえも可能とする。運命日記が重要な意味を持っていた本当の理由は、この運命の乗り換えの呪文がその中に書かれていたためである。その文言は「運命の果実を一緒に食べよう」というもの。

クレジット

原作

イクニチャウダー

キャラクター原案

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