であいもん

であいもん

京都の和菓子屋「緑松」を舞台に、家業を継ぐために帰郷した納野和と、緑松の看板娘、雪平一果の日常や周囲の人々との交流を描くハートフルコメディ。京都の実在の観光名所や京都名物も登場する。「ヤングエース」2016年5月号から掲載の作品。2022年4月にテレビアニメ化。

正式名称
であいもん
ふりがな
であいもん
作者
ジャンル
家族
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あらすじ

和と一果

京都の和菓子屋「緑松」の一人息子である納野和は、ミュージシャンを夢見て実家を飛び出してから、10年の時が経っていた。東京で地道な音楽活動を続けるものの、芽が出ないままでバンドは解散して失意に暮れる和のもとに、実家から父親の納野平伍が入院したとの手紙が届く。平伍を心配する和だったが、手紙の内容が「店を継いで欲しい」というメッセージだと受け取り、京都に戻って緑松を継ぐことを決意。そして、東京で出会った恋人の松風佳乃子に別れを告げ、10年ぶりに京都へ帰省する。ところが和が不在のあいだに、緑松では雪平一果という見知らぬ少女が看板娘として働いているうえに、すでに退院していた平伍も元気に仕事に励んでいた。一果は納野家に預けられて以来、本当の娘のようにかわいがられており、平伍は彼女を店の跡取りにしたいとも考えていた。父親の失踪以来、周囲に迷惑をかけたくないと子供ながらがんばっている一果を心配する納野富紀は、帰って来たばかりで事態を飲み込めていない和に、一果の父親代わりになって欲しいと伝える。しかし一果は、緑松を見捨てて東京へ行った和を一方的にライバル視し、緑松を継ぐのは自分であると宣言する。和の前ではやたら強気な態度の一果はなかなか心を開かず、緑松の手伝いを始めた和は、一果との関係や仕事の大変さに悩みながらも、家族が守り続けてきた緑松と大好きな和菓子に触れながら、祖父の納野一光の言葉を思い出していた。季節は夏を迎え、京都では祇園祭の時期が近づいていた。一果との微妙な距離感を詰め切れずに悩んでいる和のもとに、訳あって京都にやって来た元彼女の佳乃子が現れたことで、事態はさらにややこしくなってしまう。久々に佳乃子と再会した和は、自分の近況と一果の問題についてを話す。そして、佳乃子を緑松に招いた和だったが、店内は慌ただしい状況で彼女を席に案内するヒマもない。まだ接客に慣れ切っていない和の様子を見かねた佳乃子は、勢いで店を手伝うことになる。

芋名月

季節の移ろいや周囲の人々との交流を通して、納野和雪平一果は少しずつ心を通わせていく。町内行事の運動会などを経て、ようやく二人が打ち解けてきた矢先、一果の母親、雪平真理が和菓子屋「緑松」を訪ねて来る。長らく別居中の夫、雪平巴と連絡が取れず、一果を心配した真理は探偵を雇ってこの店に引き取られていることを知ったと語る。娘を引き取ると言い張る真理は一果と直接会うことになり、再会した二人は喫茶店で思い出話をしながら今後のことを話し合うも、一果は緑松に留まることを真理に伝える。一果の選択を拒否することができなかった真理は、一果をもうしばらく緑松に預けることになり、和は一果とまたいっしょに働けることを喜ぶのだった。そんな中、和の一言をきっかけに学校で和菓子作りの体験教室を行なうことになり、和は忙しい日々を送っていた。秋を迎え、職人見習いとしてやって来た私市緋色が、年末まで緑松で働くことになる。当初は気難しく生真面目な性格の緋色に戸惑う和たちだったが、一果や巽政の指摘をきっかけに、完璧主義者でいつも気を張っていた緋色も少しずつ緑松の人たちと打ち解けていく。そんなある日、真理から一果宛てに少し早いクリスマスプレゼントとして大きなもみの木が届く。クリスマスに真理と会う約束を交わした一果は、もみの木を飾り付けたうえで、母親との再会を楽しみにして準備を整える。そしてクリスマス当日、一果は予定どおり真理と出かけるが、和をイルミネーションに誘うかを迷っていた堀川美弦は、セリフの練習をしていたところを和に聞かれてしまい、その流れで彼といっしょに出かけることが決まる。待ち合わせ場所に向かう途中、松風佳乃子と遭遇した和は、彼女と美弦の三人で出かけることになる。

下萌

納野和は久しぶりに地元の京都で迎える年末年始を、家族や友人と楽しく過ごすことができた。さらに雪平一果ともいっしょに過ごせて浮かれる和だったが、一果は雪にはあまりいい思い出がないらしく、憂鬱そうな表情を浮かべていた。実は雪平巴が和菓子屋「緑松」に一果を預けて失踪した日も、雪が降っていたのだ。一果が緑松にやって来てから、すでに2年が経とうとしていた。そんなある日、カゼを引いた和は仕事中に倒れ、寝込んでしまう。熱にうなされる和は、高校生時代に出会った先輩のことを思い出していた。当時はその先輩からギターを教わっていた和だったが、卒業した先輩は和に何も言わずにいなくなってしまい、長らく行方知れずのままだった。目を覚ました和は、学生時代の懐かしい記憶がよみがえって感傷に浸る。そして和がすっかり回復した頃、ひな祭りの時期となり、一果は近所の茶屋「華風園」で開かれるひな祭りパーティーに参加することになる。松風佳乃子堀川美弦も参加し、華子が用意した七段飾りのひな人形を前に、一果たちはにぎやかなひと時を過ごす。食事のあとはみんなで人生ゲームをすることになったが、あまりにも心に突き刺さるリアルなゲーム内容に、大人の女性陣は複雑な感情を抱き、ゲームと割り切りながらも思わず真剣になってしまう。パーティーは無事に終了し、去年は和が不在だった一果の誕生日がせまっていた。以前から一果と誕生日はいっしょに過ごす約束を交わしていた和は、前日から準備を整え、一果を連れて遊園地へと向かう。しかし、一果を乗せてのドライブに緊張したり、あらかじめ準備していた遊園地のマップを忘れたりと、トラブルが続いてしまう。

水ようかん

納野和が和菓子屋「緑松」に戻って来てから、早くも1年が経とうとしていた。和の帰郷は家族だけでなく雪平一果松風佳乃子をはじめ、さまざまな人々の心境に影響と変化をもたらしていた。未熟だった和が餡炊(あんだ)き作業に参加させてもらえるようになってからしばらく経った頃、大女将の納野倭世が久々に緑松に帰って来ることになる。いつものように突然帰って来た倭世に、和は厳しい指導を受ける羽目となる。そんな倭世は久々に緑松の唐衣を食べたくなって帰って来たと話すが、本当の理由は餡炊きを始めた和を心配し、彼の様子を見るためであった。慕っていた納野一光が亡くなった時の寂しさを忘れられずにいる和は、倭世と納野平伍の会話を聞いて、一光が笑顔で見守ってくれることを願いながら、新たな決意を胸にするのだった。後日、バンド仲間のタクミと久しぶりに会った和は、ずっと捜していた高校時代の先輩が、別のバンドに助っ人として参加していたという情報を得る。以前は先輩の行方を気にしていた和だったが、自分から無理に捜すことをやめ、先輩が好きだった緑松でいつか再会できることを祈るのだった。そんな中、お鶴の孫、小梅がいつもより上機嫌で緑松にやって来る。小梅は以前知り合った年上の友人、梅花と文通を交わし、次の休みに宝ヶ池で遊ぶ約束をしていた。しかし優梅が熱を出したことで、母親の春心の都合も悪くなり、せっかくの約束が果たせなくなりそうな状況に小梅はがっかりする。一気に不機嫌になった小梅の様子を見ていた和と一果は、両親の提案で息抜きも兼ねて、小梅を連れて宝ヶ池に遊びに行くことにする。

夜半の秋

修学旅行で名古屋に来ていた雪平一果は、クラスメイトと共に初めて見る施設や観光名所、家族への土産選びを楽しんでいた。そんな一果の姿を偶然見かけた雪平巴だったが、声をかけることもなく、ただ彼女が友人と楽しそうにしている様子を遠くから見守っていた。一果がバスに乗って京都へ帰って行くのを見届けた巴は、久しぶりに雪平真理に連絡を取るのだった。修学旅行を終えて夏休みに入った一果は、納野和たちと海に遊びに行ったり、就職活動に失敗して家を飛び出した和の従兄弟の家出騒動に巻き込まれる日々を送っていた。そんなある日、納野平伍が家の中で転倒し、しばらくのあいだ検査入院をすることになる。入院中も自分が不在の和菓子屋「緑松」のことばかり心配している平伍はふと、以前に痔(じ)で入院した時に和が帰って来たことを思い出す。そんな平伍は幼い頃の和、そして父親の納野一光との思い出に浸りながら、退屈な入院生活を過ごすのだった。秋が深まってきた頃、和は退院したばかりの平伍から、茶屋「華風園」で開かれる茶会用の創作菓子を任されることになる。突然与えられた大役に困惑する和だったが、周囲に相談したり資料で知識を身につけたりしながら自分なりに勉強を重ねていく。試行錯誤を繰り返しながらも、なかなかしっくりくる菓子が作れない和は、夜風にあたっていた際に遭遇した松風佳乃子の一言をヒントに、鈴虫の鳴き声をイメージした創作菓子を完成させる。

冬凪三冬

初めて創作菓子の開発を任されたり、例年どおり家族そろって学区内運動会に参加したりと、いくつもの日常や行事を通して自分なりのやりがいを見つけた納野和は、わずかながら確かな成長を実感する。そんな和は近所の「ふくふくカフェ」で、音信不通だった先輩、雪平巴の母親、土岐繁と出会う。しかし繁にも巴の行方はつかめておらず、彼女は巴に対して昔から抱いていた罪悪感を吐露する。そんな繁の気持ちを落ち着かせるため、和は巴がかつて好きだった和菓子を差し出す。その頃、和菓子屋「緑松」では情報誌のコラム記事のため、ライターが取材に訪れていた。当初はまったく乗り気ではなかった雪平一果だったが、コラムが掲載される情報誌が駅にも置かれると聞いた途端に、積極的に取材に応える。数週間後には一果のことも書かれたその情報誌があちこちに置かれるようになり、たまたまコラムを見て緑松を訪れたのは、巴の父親、辰倉であった。店の前で辰倉と出会った一果は、巴とよく似た声の彼に言われた一言でショックを受けてしまう。一方、辰倉が一果の前に現れたことを知り、焦った巴も緑松へと急ぐ。そんな巴の前には一果だけでなくかつての後輩、和も現れるが、次の瞬間には辰倉が病院に運ばれたという報(しら)せが入る。自分がずっと捜していた先輩こそが、行方不明になっていた一果の父親だったことを初めて知った和は、辰倉が運ばれた病院で、改めて巴から今までの話を聞くことになる。同じく病院に来ていた一果も、自分が緑松に置いて行かれた時の出来事を納野富紀から聞くことになり、一果が「いらん子」と言われてしまったあの日の真相が明らかになる。

ハレの日

雪平一果は、父親の雪平巴と再会を果たし、両親とのわだかまりが解ける。そして無事に小学校の卒業式を終え、中学校の入学式も親子三人そろって迎えることができた。一果は再び和菓子屋「緑松」に預けられることになったものの、今後はいつでも両親と会うことができるようになる。入学式を終えた一果は雪平真理と共に緑松に赴くと、店には巴もやって来ていた。巴が両親とのあいだに抱えていた問題も片づき、いずれは両親と暮らすという選択肢も選べるようになった一果は、今でも緑松の跡継ぎになりたいのかと問われる。そんな中、高校の入学式を終えた少女、百笑が、入学祝いの紅白饅頭(まんじゅう)を注文していた父親と共に緑松を訪れる。しかし不機嫌そうな百笑は、なぜか紅白饅頭はいらないと言い張り、店の前で親子ゲンカが始まってしまう。体の弱い百笑は怒ったことで体調を崩してしまうが、父親が紅白饅頭への思いを語っているのを聞き、自分のカンちがいを恥じた彼女は父親と仲直りする。そんな親子の様子を見ていた一果は、大好きな人々と和菓子のために今後も緑松にかかわっていたいという、義理立てでも気兼ねでもない素直な気持ちを両親に打ち明ける。

色照るまでに

友人と共に中学校の部活体験をしていた雪平一果は、さまざまな部活を見て回った末に、茶道部に入ることを決める。たまに和菓子屋「緑松」を手伝いつつ、勉強や部活を楽しむ一果の新しい学校生活が始まった。一方、松風佳乃子納野和が自分の知らない女性と、仲睦(なかむつ)まじげに街中を歩いているのを見かける。その様子を堀川美弦も見ており、すっかり気が動転した佳乃子は美弦と協力しながら、和といっしょにいた女性の正体を探ることにする。和が悪い女性か、怪しいマルチ商法に騙(だま)されているのではないかと疑う二人は、まずは緑松の人たちにさりげなく聞き込みを開始する。そんな中、瀬戸咲季の反応がもっとも怪しいとにらんだ美弦は、佳乃子と共に彼を呼び出して話をすることになる。

メディア化

テレビアニメ

2022年4月から、本作『であいもん』のTVアニメ版『であいもん』が放送された。監督は追崎史敏、総作画監督は渋谷秀が務めている。キャストは、納野和を島﨑信長、雪平一果を結木梢が演じている。

登場人物・キャラクター

納野 和 (いりの なごむ)

京都の和菓子屋「緑松」の一人息子。初登場時は30代で、紺色の短髪で長身の男性。おおらかで大雑把な性格で、細かいことはあまり気にしない。京都弁で話す。大学卒業後にミュージシャンを夢見て上京し、そこで出会った友人とバンドを組んでしばらくは東京で暮らしていた。和菓子を見るたびに実家のことを思い出しながら、地道なバンド活動を続けるも人気はなかなか出なかった。バンドが解散した頃に納野富紀から手紙が届き、緑松を継ぐことを決意して10年ぶりに実家に帰省する。父親の納野平伍から、跡継ぎには雪平一果がいると言われてしまうも、職人見習いとして緑松で働くことになる。どんなこともその場のノリと勢いで乗り切るお調子者で、周囲からは能天気でいい加減な人物と思われがちだが、本来は家族思いで、一果のことはもちろん両親や緑松のことも自分なりにしっかり考えている。幼少期はおじいちゃんっ子であったため、祖父の納野一光の影響が強く、平伍と共に彼からも和菓子のことを多く教わり、和菓子を見るたびに一光を思い出している。幼少期から家族の仕事を近くで見届けてきたため、緑松で作られている和菓子一つ一つへの思い入れが強い。緑松の和菓子が客に買われていくたびに、泣きながら送り出すという変わった癖があり、現在もその泣き癖は変わらない。実家に戻ったばかりの頃に、富紀から一果の父親代わりになるよう言われたが、肝心の一果からは跡継ぎを巡って一方的にライバル視され、冷たい態度を取られることが多かった。ようやく打ち解けたあとも、時おり冷たい視線で見られることがあるため、一果が少しでも好意的な態度を取った時は感激している。帰郷したばかりの頃は、初歩的なミスや未熟さが目立っていたが、のちに平伍から餡炊きや創作菓子の企画を任されるほどに成長した。高校の学園祭で出会った先輩の雪平巴からギターを教わり、大学進学をあきらめて行方知れずとなった巴の行方を捜していたが、彼が一果の父親であることは再会するまで知らなかった。学生時代は陸上部に所属していた。実はカナヅチで、海水浴の時は浮き輪が必須となっている。

雪平 一果 (ゆきひら いつか)

京都の和菓子屋「緑松」の看板娘。納野家に居候している。初登場時の年齢は10歳。癖のある黄土色のロングヘアで、緑松を手伝う時はお団子状にまとめている。幼いながらもしっかり者で、納野平伍と納野富紀からは本当の娘のようにかわいがられている。京都弁で話す。納野家に来てからは喜多山小学校に通い、放課後は緑松の茶房を中心に手伝っている。その仕事ぶりや勤勉でまじめな性格から、平伍に正式な跡継ぎとして認められているほど。東京から戻って来た納野和のことを一方的にライバル視しており、跡継ぎの座を譲る気はないと宣言した。このため当初は和に対して冷淡な態度を取ることが多かったが、和と交流を深めていくうちに打ち解けるようになり、態度にはあまり出さないが、本音では和のことを信頼している。それでも基本的には和に冷たいため、たまに好意的な態度を見せた時には和を感激させている。以前は父親の雪平巴、母親の雪平真理の三人で暮らしていたが、二人が別居を始めてからは巴と二人で暮らすようになった。しかし冬のある日、巴によって緑松に預けられ、そのまま彼が行方知れずとなったことで両親とは離れ離れで暮らすことになる。預けられる直前に巴に言われた言葉がトラウマになっており、緑松に来てからは極力他人に頼るのを避け、迷惑をかけないようにいつも気を張っているため、周りから心配されることがある。のちに海外から帰国した真理と再会するが、まだ緑松にいたいという本音を告げ、引き続き真理とは離れて暮らすことになるものの、定期的に連絡を取っている。巴とは連絡が取れないままだったが、6年生の冬に祖父の辰倉が緑松に来たのをきっかけに再会。トラウマの原因となった言葉が巴ではなく辰倉の言葉であったことを知り、巴とのわだかまりも解消される。その後は小学校を卒業して喜多山中学校に入学し、茶道部に入部した。両親と暮らすという選択肢もあったが、大好きな緑松と和菓子にかかわっていたいという理由で、引き続き納野家の世話になりながら両親と定期的に会っている。

納野 平伍 (いりの へいご)

納野和の父親。和菓子屋「緑松」の店主を務めている。現在は白髪頭だが、若い頃はリーゼントだった。職人気質で頑固な一面が目立つが、本来は非常に家族思いな性格をしている。京都弁で話す。緑松に預けられた雪平一果を我が子同然にかわいがっており、店の跡継ぎにしたいと考えている。10年ぶりに帰って来た息子の和のことを歓迎することなく、彼が職人見習いとして緑松で働くようになったあとも厳しく接する。しかし不器用なだけで、本音では和のことを心配している。また、昔のように家族でいっしょに何かすることを大切に思っており、学区内運動会など家族で参加できるイベントに積極的に挑んでは、腰を痛めている。和が高校生の頃に、彼を通して知り合った雪平巴のことは家族同然に思い、一果を預かったのも巴から懇願されたためである。巴が失踪した過程や真相などは本人からの口止めもあって、和には話していない。

納野 富紀 (いりの ふき)

納野和の母親。和菓子屋「緑松」の女将(おかみ)を務めている。旧姓は「御波」。大人に頼ることに慣れていない雪平一果を心配し、帰って来たばかりの和に父親代わりになるようにうながす。京都弁で話す。夫の納野平伍と同様に、一果のことを本当の娘のようにかわいがっている。和には小言を言うことが多いものの、母親なりに彼のことを心配している。和はもちろん頑固で不器用な平伍のよき理解者でもあり、母親として妻として、家族を優しく見守っている。昔から藤色の着物を好んで着用しているが、藤色は平伍との思い出の色でもある。和が高校生の頃に彼を通して知り合った雪平巴のことは家族同然に思い、一果を預かったのも巴から懇願されたためである。巴が失踪した過程や真相などは本人からの口止めもあって、和には話していない。若い頃は人気アイドルと同じ髪型していたが、実際はアイドルを真似(まね)ているわけでなく、ただの癖毛だった。好物はカステラ。

納野 一光 (いりの かずてる)

納野和の父方の祖父。和菓子屋「緑松」の創業者である和菓子職人の男性。和が高校生の頃に亡くなった。右ほほに傷跡がある。おだやかな優しい性格で、和菓子への思い入れが非常に強い。京都弁で話す。生前は孫の和のことをとてもかわいがり、いつも和菓子のことを教えたり、いっしょに和菓子の名前を考えたりしていたため、息子の納野平伍だけでなく和にもさまざまな影響を与えた人物でもある。和に和菓子の知識を与えながらも、彼の将来の可能性を潰したくないと願っていた。若い頃の容姿や雰囲気が和と似ている。お鶴や巽政とは若い頃からの付き合い。

巽 政 (たつみ まさ)

京都の和菓子屋「緑松」で、若い頃から職人をしていた老齢の男性。京都弁で話す。温厚で面倒見のいい性格で、納野和をはじめとした緑松の人々を温かく見守り、時にはアドバイスを送っている。昔は料亭で働いていたが、デザートの和菓子を踏みつけようとした客と問題を起こしたため、責任を感じて自ら料亭を辞めた。その和菓子を作ったのが、当時緑松の主人だった納野一光で、彼に誘われて緑松の職人となった。このため、一光のことは今でも恩人と思っており、定期的に彼との思い出の和菓子を仏壇に供えている。

お鶴 (おつる)

京都の和菓子屋「緑松」で、若い頃から従業員をしている中年女性。パーマヘアで小柄な体型をしている。京都弁で話す。若い頃は「小梅」という名で芸妓をしていたことがあり、納野一光や巽政はその頃からの付き合い。娘の春心に代わって、孫の小梅と優梅の面倒を見ることもある。

瀬戸 咲季 (せと さき)

京都の和菓子屋「緑松」で、職人をしている青年。黒の短髪で口下にホクロがあり、京都弁で話す。実家はまんじゅう屋「瀬戸屋」を営んでおり、大学卒業後は緑松で修業している。瀬戸屋の跡継ぎや将来などを巡って、家族とは複雑な状況にある。特に跡取りである兄の紅季とは確執があり、実家のことでストレスが溜まるたびに女装して飲み歩くことで発散している。きっかけは大学の文化祭で開いた女装喫茶で、女性の格好をすると別の自分になれるからと、気晴らしも兼ねて定期的に女装をしていた。このため、化粧の仕方から服の選び方まですっかり慣れており、女装中は他人だけでなく、紅季からも別人の女性と思わるほどに違和感がない。納野和よりも年下だが彼と仲がよく、時おり相談相手にもなっている。女装の件を知っているのは雪平一果だけだったが、悩みを抱えて仕事中に調子を崩したのをきっかけに、和にも知られてしまう。表向きは、女装した時は瀬戸咲季のいとこということになっている。

月山 雅 (つきやま ただし)

京都の和菓子屋「緑松」の得意先である茶道教室の息子。初登場時の年齢は26歳。小さい頃から茶道を学び、若くして両親から茶道教室を任されるなど、しっかりしている。ふだんは気丈ながら、メンタルが折れると一気にネガティブ思考となる。和菓子を届けに来た瀬戸咲季が落としたスマートフォンに映っていた女性を見て、それが女装した咲季であると知らぬまま一目惚れしてしまう。その後は女装した咲季から渡された和菓子に添えられていた手紙を読み、一度は恋心をあきらめたものの、未練を抱えている。

堀川 美弦 (ほりかわ みつる)

京都の和菓子屋「緑松」で、アルバイトをしている女子高校生。前髪を切りそろえた紺色のロングヘアで、京都弁で話す。納野和に片思いしている。家では共働きの両親に代わって家事を担当しており、学業とアルバイトに加えて弟妹の世話と、かなり忙しい日々を送っている。音楽が趣味で、時おり顔を隠してギター演奏や歌の動画を投稿している。両親からはまじめで頼りになることから期待と信頼を寄せられているため、趣味のことは両親に隠し続け、投稿のための演奏もカラオケでこっそりやっていた。しかし動画の一部に、緑松で売られているストラップが写っていたことで緑松を巻き込む騒動に発展し、一時は緑松を辞めて音楽もあきらめようとしたものの、和の助言により家族に趣味のことを打ち明ける。騒動が落ち着いたあとは趣味を再開し、緑松のアルバイトにも復帰した。和の元彼女であることを知ったうえで、松風佳乃子とは雪平一果を交えて交流しているが、時おり和を巡ってギスギスした気まずい空気を漂わせることがあり、そのたびに一果をハラハラさせている。

松風 佳乃子 (まつかぜ かのこ)

納野和の元恋人の女性。紫髪をロングヘアにしている。埼玉出身。東京で和と交際し同棲もしていたが、いきなり実家に帰ると言い出した彼に別れを告げた。この際に和菓子よりも洋菓子派であることを話していたが、実際は和菓子が好きで、和の影響で和菓子の知識もそれなりにある。接客業に携わっていた経験があるため、接客を得意としている。しばらくは和と連絡を取らないままだったが、祇園祭をきっかけに京都を訪れた際に雪平一果と出会い、彼女を捜していた和と再会する。和とは関係が修復されないまま求職のために京都に引っ越し、緑松の近所にある茶屋「華風園」の従業員として働くようになった。このため、和だけなく和菓子屋「緑松」の人々とも交流を深めている。表向きは和の女友達のように振る舞っているが、本音では彼に未練があり、時おりデートに誘ったりプレゼントを渡したりしている。堀川美弦が和に片思いしていることには早くから気づいており、雪平一果を交えて交流している。しかし、美弦とは和を巡ってギスギスした気まずい関係だったことがあり、そのたびに一果をハラハラさせている。街中で飲み過ぎて気分が悪くなっていた際に和と出会い、その時に水をもらったお礼をする機会をうかがっていたが、カフェでアルバイトをしている和と再会し、付き合うようになった。

納野 倭世 (いりの しずよ)

納野和の父方の祖母。和菓子屋「緑松」の大女将を務めている。現在は全国を飛び回っているため、年に1度くらいのペースで緑松に帰って来ている。自由奔放な性格で、京都弁で話す。昔から孫の和をはじめ緑松の人々を厳しく指導しており、帰って来るたびに和菓子の味をチェックしたり警策(きょうさく)を振り回したりしているため、和からは恐れられている。納野一光の妻として昔から緑松を支えてきたため、一光が亡くなった現在では、緑松の味を誰よりも知っている人物。一光と出会ったばかりの頃は恥ずかしがり屋だったが、彼の仕事を手伝うようになってからは気を張るようになった。ふだんは遊び回っているように見えても、緑松のことをしっかり考えており、顔の広さを活かして旅先で出会った人々にも緑松を紹介している。

春心 (はるみ)

お鶴の娘。和菓子屋「緑松」の昔からの常連客の女性。納野和の二つ年上の幼ななじみでもあり、今は「昭彦」という名前の男性と結婚して2児の母親となっている。京都弁で話す。幼少期は男勝りな少女で、現在も気の強い性格をしている。芸妓をしていた母親のお鶴が築いてきた芸の道にあこがれを抱いているため、娘の小梅と息子の優梅の名前は、彼女の芸妓時代の名前「小梅」から名づけた。

小梅 (こうめ)

お鶴の孫。春心の娘で、弟の優梅といっしょに保育園に通っている。黒髪をツーサイドアップにまとめている。おとなしい優梅と比べて、感情豊かで明るい性格をしている。京都弁で話す。「小梅」という名前は、お鶴の芸妓時代の名前である「小梅」が由来となっている。お菓子がモチーフの女児向けアニメのヒロイン「モナカ」にあこがれており、モナカの真似をしては納野和に必殺技を繰り出している。友人たちに「梅干し」呼ばわりされてからかわれたことから、梅の入った名前がかっこ悪いと感じていたが、緑松で出会った年上の友達、梅花の話を聞いてからは、自分の名前を気に入るようになった。その後は梅花と文通をしたりいっしょに遊んだりと、交流を続けている。のちに小学校へ入学した。

優梅 (ゆう)

お鶴の孫。春心の息子で、姉の小梅といっしょに保育園に通っている。穏やかで温厚な性格で、まだ幼いながらもしっかり者。京都弁で話す。わがままを言わずに友達ともケンカをしないため、保育園の先生からの評価も高い。「優梅」という名前は、お鶴の芸妓時代の名前である「小梅」が由来となっている。好きな動物はゾウ。

私市 緋色 (きさいち ひいろ)

和菓子職人見習いの女性。製菓の専門学校を卒業後は、「八天」という和菓子屋で修行していた。黒のロングヘアで眼鏡をかけている。生真面目ながら、かなり気難しい性格をしている。和菓子屋「緑松」が年末の助っ人を八天に頼んだのをきっかけに、修行も兼ねて秋から年末までの短期間だけ、緑松で働くことになった。専門学校に講師としてやって来た巽政にあこがれを抱き、いつか彼のもとで修業したいと考えていたため、緑松での助っ人も自ら熱望して頼んだことだった。納野和のいい加減な仕事ぶりを快く思わず、まじめで完璧主義な一面が空回りして彼らを驚かせることもあったが、政の助言や雪平一果の一言で心を落ち着かせ、和たちと打ち解けていく。緑松の助っ人期間を終えたあとは八天の支店で修業を続けており、行事などを通して緑松関係者との交流も続けている。

雪平 真理 (ゆきひら しんり)

雪平一果の母親。夫の雪平巴とは別居しており、一果を巴に預けてからはフランスで仕事をしていた。巴と別居する前から仕事で忙しく一果とは距離ができてしまったものの、彼女のことは大切に思っている。容姿が一果とそっくりで、怒った時に無言で冷たい視線を送る癖も彼女に受け継がれている。巴と連絡が途絶えたことで一果を心配し、探偵を雇って居場所をつき止め、彼女を引き取るために和菓子屋「緑松」を訪れる。一果と再会するものの、彼女が緑松に残りたいと言ったために引き取るのをあきらめ、彼女を再び納野家に預けて海外に戻って行った。その後は納野和を通して一果と連絡を取り合い、定期的に帰国しては一果と会っている。

雪平 巴 (ゆきひら ともえ)

雪平一果の父親。ミュージシャンを生業としている。和菓子屋「緑松」に一果を預けたあとに、行方不明となっている。京都弁で話す。昔から緑松の和菓子が好きで、一果にもよく和菓子のことを教えていた。以前は妻の雪平真理と一果の三人で暮らしていたが、引っ越しが増えたのをきっかけに真理とは別居状態になっていた。しかしある冬の日、一果を緑松に預けて名古屋を中心にいくつかのバンドの助っ人をしながら一人暮らしをしている。実は高校時代に納野和にギターを教えた先輩で、緑松の常連になったのも和との出会いがきっかけだが、一果を預けた際に和には自分のことを話さないよう、納野平伍たちに頼んでいた。幼少期は複雑な家庭で育ち、暴力的な父親の辰倉に苦しめられていた。家のことを忘れるため、辰倉にもらったギターを演奏していたことが、音楽を始めるきっかけとなっている。両親の離婚後は母親の土岐繁に引き取られ、彼女が再婚し父親違いの弟妹が生まれたあとに居心地の悪さや孤独感を感じる中、和と出会った。一福のカフェでアルバイトをしたり、弟のように思っている和と共に緑松の和菓子を楽しむことが心の清涼剤となっていたが、辰倉が金を要求してくるようになったことで大学進学をあきらめ、周囲を巻き込まないために京都を離れた。その後は音楽活動を続ける中で真理と出会い、婿入りの形で結婚して彼女や一果と幸せに暮らしていたが、再び辰倉が付きまとうようになったため、彼を避けるために引っ越しが増えていく。真理と別居後は一果を引き取り二人で暮らしていたが、辰倉の呪縛から家族を守るために一果を緑松に預けることを決意して行方をくらました。その後、修学旅行で名古屋に来ていた一果を見かけても、声をかけずに黙って見送っていた。しかし辰倉が緑松に出向いて一果に接触したことを知って危機感を覚え、緑松に急行したところで和、一果と再会を果たす。

華子 (はなこ)

京都の和菓子屋「緑松」の近所にある茶屋「華風園」の店主を務めている女性。セミロングヘアで小太りな体型をしている。京都に来たばかりの松風佳乃子を、華風園の従業員として温かく迎え入れ、彼女に引っ越し先も紹介した。佳乃子だけでなく緑松の関係者とも昔から親しく、特に女性陣との交流を盛んに行なっていた。独り身で仕事一筋と言い張るが、かつては運命の王子様との出会いを夢見て婚活もしていた。

野井 捷太 (のい しょうた)

喜多山小学校に通う男子。雪平一果のクラスメイト。活発なやんちゃ坊主で、不器用な性格をしている。京都弁で話す。運動神経抜群で、運動会では一果のことを一方的にライバル視している。6年生の時の運動会では、赤組の応援団長を務めていた。一果への対抗心を燃やし、自主練習中に公園で意気投合した納野和の特訓を受ける。さらに和の助言を受け、赤組が勝ったら果たし状を渡すという約束を一果と交わしていた。一果に何かと絡んで意地悪することもあるが、実は前から彼女のことが気になっていた。卒業後は一果と同じ喜多山中学校に入学し、同じクラスになった。

沖 幸星 (おき こうせい)

喜多山小学校に通う男子。雪平一果のクラスメイト。クールな性格で、眼鏡をかけている。京都弁で話す。頭脳明晰で、将来は生物学者を目指しているが、両親が自分の将来のことでケンカばかりしていることに悩んでいる。そんな中、離婚の話まで出てきた両親からは、どちらについて行くか聞かれたこともあるが、両親を非常に大切に思っている。一果に励まされたことで、二者面談の時に本音を両親に打ち明け、担任教師の助言もあって両親と打ち解けることができた。それ以来、一果のことが気になっており、何かと野井捷太に絡まれがちな彼女をさりげなく助けている。卒業後は一果たちと別の中学校に入学した。

一福 (いちふく)

京都の「ふくふくカフェ」のマスターを務めている中年男性。口ヒゲを生やし、小太りな体型をしている。学生時代にふくふくカフェでアルバイトをしていた雪平巴が行方不明になっていることを心配している。納野平伍とは昔からの友人で、常連の納野和とも親しい関係。「尊夢」という名前の従業員の男性に店を任せて3年ほど京都を離れていたが、雪平一果が6年生になった頃に戻り、和たちと再会する。巴からは年に1回ほど連絡があるものの、彼からの一方通行なため居場所までは知らない。

辰倉 (たつくら)

雪平巴の父親。眼鏡をかけている。声が巴とよく似ており、京都弁を話す。巴の幼少期から家族に暴力を振るい、外出しても借金を作ってばかりいた。離婚して巴が土岐繁に引き取られた際に、昔使っていたギターを巴に手渡している。しかし離婚後も巴に付きまとい、たびたび金を要求していた。巴が結婚をしてからも付きまとっていたが、完全に関係を切ると何をしでかすかわからないからと、連絡だけは取れるようにしていた。孫の雪平一果とは直接会ったことがなかったが、彼女が情報誌に載っていたことで居場所を知り、和菓子屋「緑松」にやって来る。持病をいくつも抱えており、一果に会ったあとに道端で倒れて入院することとなる。

土岐 繁 (とき しげ)

雪平巴の母親。京都弁を話す。失踪した巴を捜しており、10年ぶりに一福の「ふくふくカフェ」に訪れた際に、納野和と知り合う。巴が幼い頃から夫の辰倉の暴力や借金に悩まされ、彼と離婚後に巴を引き取ったうえで、別の男性と再婚した。しかし、再婚相手との子供が生まれてからは、巴が気を遣っているのに気づきながらも新しい生活を優先し、彼とは距離を置くようになる。巴が家を出て結婚もしたことに安堵(あんど)するものの、彼が失踪してからは母親として巴のことをしっかり考えてやれなかったことを後悔している。現在は子供も自立しているため、再婚相手と二人で暮らしている。巴が京都に戻って来てからは今までのことを巴に謝罪し、辰倉のことを弁護士に相談するなど、巴の負担を少しでも減らせるように尽力している。

場所

緑松 (りょくしょう)

京都の上ノ山町にある人気和菓子屋。納野和の実家。持ち帰り用の売店のほかに茶房もあり、和菓子とお茶が客席で楽しめる。納野家に居候中の雪平一果が看板娘として店を手伝っているほか、東京から帰郷した和が見習い職人として働いている。創業者は和の祖父である納野一光。

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