送魂の少女と葬礼の旅

送魂の少女と葬礼の旅

大地に恵みを与える精霊の死を弔い、呪いを祓う送儀師の少女、アルピの旅路を描いた幻想綺譚。精霊のもたらす恵みと呪いを、「生」と「死」を交えながら時に優しく、時に残酷に描いている。「WEBコミックぜにょん」で2018年6月から連載の作品。

正式名称
送魂の少女と葬礼の旅
ふりがな
そうこんのしょうじょとそうれいのたび
作者
ジャンル
ファンタジー
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あらすじ

第1巻

神々が使わした恵みの種である「精霊」は、人々に恵みを与える一方で、死すると呪いを振りまく「黒化」を引き起こす。黒化を鎮める方法は、葬儀を行い精霊の魂を解放することのみだが、常人では精霊の遺骸に近づいただけで呪いで体を灼かれてしまう。そのため、精霊の葬儀をできるのは、その呪いに耐性を持つ「送儀師」のみであった。シノイ村の少女のアルピはお付きの老人のペレナイに見守られながら、行方不明になった両親を探しつつ、両親と同じ送儀師として、その身を削りながら数々の精霊を弔って来た。しかし、そのやり方は己の身を省みない無茶なもので、アルピはある日、その無謀ともいえる葬儀の仕方を大人たちから咎められるのだった。そんな中、アルピは訪れたウルブ・リータで、人に囚われ利用される精霊の姿を見る。精霊を救いたいと思いつつも、精霊を救えば多くの人が路頭に迷うという現実にアルピは葛藤するが、悩んだ末に精霊を解放し、死した精霊の葬儀を執り行う。精霊を捕らえた領主のミドもその様子を見て改心するが、人に恨みを持った精霊の呪いはアルピを深く蝕んでしまうのだった。

第2巻

精霊の呪いをその身に深く受けてしまったアルピは、浄化の儀式を受けるため寺院に向かう。しかし、安静にするようにペレナイに忠告されていたにもかかわらず、アルピは道中、送儀師を求める村人の頼みを安請け合いしてしまう。その葬儀は今までにないほど難易度の高いもので、呪いを受けて傷ついていたアルピは八方ふさがりの状況に陥る。だが、そこに現れたもう一人の送儀師のセルセラは、アルピを尻目にテキパキと葬儀をこなしていく。圧倒的な実力差を見せつけられたアルピは、自らの未熟さを痛感。同時にアルピの未熟さを見ていられないと内心で心配していたセルセラは、アルピの旅に同行を申し出る。浄化の儀式を受けたアルピは、なにかにつけてセルセラと張り合う中で、着実に送儀師としての腕を上げていく。そんな中、アルピとセルセラは、城塞都市のトムナグ・ワトで依頼を受けることとなる。雷の精霊のイディウヨーリヤと戦う民衆に反感を抱くアルピだったが、そんなアルピにセルセラは人と精霊の在り方を説く。セルセラの言葉に納得できないアルピはそれでも戦いを止めようとするが、そんな中、不用意に飛び出したアルピをかばってセルセラが負傷してしまう。

登場人物・キャラクター

アルピ

送儀師の少女。白い髪をお団子状に結ってまとめている。出身地はシナイ村。送儀師として弔いの旅をしながら、行方不明となった両親の行方を探している。明るくひたむきな性格で、送儀師の使命にも真摯に取り組んでいる。一方で葬儀の経験は少なく未熟で、周囲の制止を振り切って無謀な葬儀を執り行おうとしたり、危険な葬儀も自分一人で成し遂げようとするなど、自己犠牲的な精神が強い。聖地の職人やセルセラにそのことを指摘されて以降は、アルピ自身の未熟さを痛感した。のちにセルセラが自分をかばって重症を負った際に、罪悪感に苛まれつつも、自分の未熟さを受け入れて前を向くことを決意する。その後は自分のできること、できないことに線引きし、正しく他人の力を借りることの意味を知っていく。

ペレナイ

アルピのお付きを務める男性。上品に身なりを整えた老紳士。白い髪と髭を生やし、甲斐甲斐しくアルピの世話をしている。穏やかな物腰で、いつも笑顔を絶やさない人物だが、アルピの危機には慌てふためいてしまう。一方で、一抱えもある荷物を軽々と担ぐなど、柔らかな雰囲気に反してかなりの怪力を誇る。

セルセラ

アルナ・ペペイ集落で送儀師を務める、褐色の肌を持つ少女。難易度の高い葬儀も冷静沈着に対応し、アルピが手をこまねいていたミル・シ・イ集落の葬儀もテキパキとこなして、無事終了させた。合理的な性格で、アルピの様子から無謀な葬儀を執り行っているのを見抜き、彼女を厳しく叱責した。自分の身の安全を最優先にした葬儀を行うが、それは滞りなく葬儀を行うことで人々に安心を与えるという信念に基づくもので、セルセラなりのやり方で人と精霊の関係に真摯に向き合っている。葬儀では呪いの影響を少しでも軽減するため、ふだん持ち歩いている杖に刃を付け、槍のように使って葬儀を執り行う。またそのためにふだんから槍を使う訓練をするなど、日常的に努力と工夫を重ねている。アルピには厳しく接するが、アルピの面影から彼女の両親がセルセラ自身のかつての恩人であることに気づいており、未熟なアルピに敢えて厳しく接し、張り合うことで彼女の成長を手助けしている。アルピの旅に同行し、彼女に対して辛らつな態度を取ることが多いが、ペレナイにはアルピを助けたいと本音を漏らしており、実際は非常に面倒見がいい。

ミド

ウルブ・リータの領主を務める若い男性。黒い髪を長く伸ばし、豪華な飾りが付いた服を身にまとっている。利己的で傲慢な性格をしており、精霊のオド・ァダユを捕らえ、その力を利用して町の発展につなげていた。酷使したせいで弱った精霊を殺し、新たな精霊を呼び込むことを目論む。幼い頃は領主の父親を尊敬していたが、父親は精霊の死をきっかけにして自殺。故郷も送儀師が見つからなかったため、呪いによって不毛の地となる。その後、精霊を捕まえ、故郷を捨てざるを得なくなった民を率いて、ウルブ・リータを切り拓いた過去を持つ。精霊に振り回された過去から、精霊を利用して民を幸せにするという考え方に取り憑かれていたが、内心では精霊に罪悪感を抱いていた。精霊が死んだあと、アルピと母親に諭され、自らの過ちを認めて改心する。

セキ

トムナグ・ワトの族長を務める、髭を生やした中年の男性。兵士たちを率いており、自らも戦場に出て、兵士たちを指揮して戦う。イディウヨーリヤを崇めつつも、雷で民草が犠牲になるのを憂えており、苦渋の判断でイディウヨーリヤを追い払うための戦を行っていた。もし戦いでイディウヨーリヤを殺した場合、速やかに葬儀を執り行う必要が生じるため、たまたま町を訪れたアルピとセルセラに葬儀を依頼する。

オド・ァダユ

火蛾(かが)の精霊。動物の上半身に魚の尾びれ、背に蛾のような羽を生やしており、樹液をすすり、喉元にある器官にガスとして溜め込む習性を持つ。ガスは口から火にして吐き出すことができるほか、吐かずにくすぶった火を熱として周囲に放出することも可能。幼生だった頃にミドに捕獲され、ウルブ・リータの熱を供給する炉代わりにされていた。その熱量は莫大で、町中の鉄工場の熱をまかなえるほど。長年、酷使され続けて来たため、アルピが訪れた頃にはすっかり衰弱していた。アルピによって解放され、精霊の祠のそばの枯れ木にたどり着くが、そこで死亡。生前の扱いから人間に憎悪を抱いており、その黒化はほかの精霊の死にはないほどひどいものとなったが、アルピに葬儀をされて魂を鎮められた。亡くなった遺骸は葬儀のあと灰となり、祠のそばの枯れ木を青々しい大樹へと再生させる。

イディウヨーリヤ

トムナグ・ワトで崇められている雷の精霊。ふだんは雲の中で生活し、1年に一度だけ地上に降り立ち、大地に雷を降らせる。トムナグ・ワトにはイディウヨーリヤの訪れた年は、豊作になるという言い伝えが存在する。巨大な狼の姿をしており、手足と頭の部分に鉱石でできたような装身具を身につけている。雷による音と光の影響で、目と耳はほとんど機能しておらず、振動で周囲を感知する。豊穣をもたらす存在として崇められる一方で、無差別に雷を振りまく存在として恐れられてもおり、イディウヨーリヤが訪れる年は犠牲者が出ることも珍しくない。イディウヨーリヤが滞在する期間が長引くと人々の暮らしにも支障がでるため、トムナグ・ワトではイディウヨーリヤを穏便に追い払うため戦の準備をしていた。トムナグ・ワトの地を訪れたあと、セキ率いる兵士たちと戦う。兵士たちはイディウヨーリヤを殺さぬように加減して戦っていたが、イディウヨーリヤは深手を負っても逃げず、最後は槍に貫かれて死亡する。そしてその亡骸はアルピに葬儀された。

場所

聖地 (せいち)

太陽神を祀る地。太陽神は精霊を大地に遣わすのと同時に、己の力の塊を隕石にして各地に送り込んだ。その隕石が落ちた地は、のちに人間たちに「聖地」と定められ、人々の信仰を集める場所となっている。各地の聖地に存在する隕石は呪いに耐性を持つ特別な物質で、周囲の物質にも影響を与え、その特性を付与している。そのため現在も隕石は聖地で祀られており、送儀師の道具はこの隕石やその影響を受けた素材で作られている。このような成り立ちから、聖地にはその地を管理し、送儀師の「浄化」をする寺院と、送儀師の道具の製造、手入れをする工房が併せて存在する。

ユール

木工と湖の村。湖に住む精霊のもたらす恵みにより、きれいな水と豊かな緑あふれる漁村で、人々は湖の上に木で足場と家を作って生活をしている。しかし精霊の死によって湖の水は呪いに蝕まれ、魚は死に、村の木の足場も溶けてしまっていた。精霊の遺骸は湖の中央にあるため、葬儀を行うこともできずにいたが、木で即席の足場を作ることで滞りなく儀式を行える環境を作り、精霊の魂を解放した。その後、湖には新たな精霊の幼生が住み着いている。

ウルブ・リータ

鉄工の街。町中に鉄工場が数多く存在し、鉄を溶かすための熱の余波がつねに町の至る所から噴き出している。熱気と活気に包まれた町だが、鉄を溶かすための熱は実は領主のミドが精霊のオド・ァダユを捕らえて無理矢理捻出していた。アルピが火蛾の精霊を解放したことで、町の火は消え去った。

ミル・シ・イ集落 (みるしいしゅうらく)

風車の町。精霊のもたらす風によって発展した町で、町中には風車がたくさん建っている。精霊の死後は、風が止み、風車がすべて止まっている状態だった。精霊の遺骸は町の真ん中に死んだまま宙に浮かんでおり、体の中に溜め込んだ風と呪いを半刻に1回のペースで周囲に撒き散らす。呪いは雨のように降り注ぎ、風は人や物を容易に蹴散らす。難易度の高い葬儀でアルピは手を出しあぐねていたが、セルセラは弓で精霊の遺骸を宙から引きずり降ろし、短時間で葬儀を無事に終わらせた。

トムナグ・ワト

砦の街。肥沃な大地で、稲を特産とし、交通の要所として栄えている。雷の精霊のイディウヨーリヤを祀っており、イディウヨーリヤが訪れた年は豊作になると言い伝えられている。しかしイディウヨーリヤは、無差別に雷を撒き散らす存在でもあるため、イディウヨーリヤが訪れる時期になると、雷に打たれて死亡する人間が出ていた。そのため人々はイディウヨーリヤを敬いつつも、被害を避けるため槍や弓矢で武装し、イディウヨーリヤを殺さずに追い払う戦をしていた。

その他キーワード

送儀師 (そうぎし)

精霊の葬儀を執り行う職業。精霊の黒化に対して耐性のある者にしかなれないが、それでも精霊の葬儀は死と隣り合わせの過酷な職である。精霊の死は各地で起こるため、送儀師は各地を旅しながら弔いを行っている。葬儀の手順はまず始めに遺骸を中心にして地面に特殊な陣を敷き、祈りの言葉を唱える。そして特殊な刃物を使って遺骸を切り裂き、魂を解放し、送り出すことで葬儀は終了となる。精霊の葬儀にかかる時間は遺骸の大きさ、送儀師の技量によって左右され、時間のかかるものほど送儀師にかかる負担も大きくなる。呪いへの耐性を持つ送儀師だが、体内に溜め込んだ呪いはゆっくりと送儀師を蝕んでいく。そのため送儀師は呪いを溜め込むと聖地に赴き、浄化の儀式を受ける。浄化の儀式は聖水を飲んで、体内の呪いを無理矢理聖水に移して、体内から引き剝がすというもので、大の大人でも悲鳴を上げるほどの苦痛を伴う。

精霊 (せいれい)

神の与えた恵みの力が生物の形を取った者たち。地上に降り立った精霊は大地に恵みを与えるため、精霊の住まう土地は恵みを享受し、大いに栄えることとなる。しかし精霊が死ぬと、その魂は遺骸に閉じ込められもがき苦しむこととなり、遺骸を黒く染め周囲に「呪い」を振りまく「黒化(こっか)」を引き起こす。呪いは次第に周囲の土地まで蝕み、最終的には土地を生命の住めない場所へと変貌させる。呪いを浄化するためには精霊の魂を「葬儀」によって解放しなければならないが、ふつうの人間では死んだ精霊の亡骸に近づくだけで呪いで身を焼かれることとなる。そのため精霊の葬儀を行えるのは呪いへの耐性を持つ「送儀師」のみとなっている。また精霊は大地に恵みを与えるが、人間のためだけに存在している訳ではない。そのため精霊の中には人に被害をもたらす存在もおり、精霊と人間はどこかで折り合いをつけることが大切だとされる。

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