友情と愛情が交錯する三角関係
浅川菊吉は、唯一の家族である母親を突然の事故で失い、叔母が住む浅川家に引き取られた。それ以来、同じ年の従姉弟であり義姉でもある浅川金魚と仲睦まじく過ごし、その様子は周囲から「金魚の糞」と揶揄(やゆ)されるほどだった。しかし、高校に入学する頃、菊吉の心の中にこれまでとは異なる感情が芽生え始め、金魚を異性として強く意識して苦悩するようになる。一方、金魚もまた菊吉に対する感情が変化していた。当初は弟として守ろうとしていたはずが、いつの間にか彼は自分にとってかけがえのない存在となっていたのだ。その思いは次第に依存へと変わっていく。そんな二人を複雑な思いで見守るのが、浅川家のとなりに住む金魚の幼なじみの吉岡悟郎。悟郎は幼い頃から金魚に心惹かれていたが、彼女が菊吉にしか関心を持っていないことに気づく。それでも悟郎は菊吉を嫌いになれず、不器用な彼をフォローしたり、困っている時にさりげなく手を差し伸べたりするうちに、二人のあいだには不思議な友情が育まれていく。
あまのじゃくな弟×裏の顔を持つ姉×冷静な幼なじみ
菊吉は、親族との関係が希薄で、少々ひねくれた性格の持ち主。義姉の金魚に特別な思いを抱いているものの、大切な家族の絆を壊したくない一心で、その感情を抑え込んでいる。しかし、時が経つにつれて、菊吉は喜びや怒り、悲しみといった人間らしい感情を徐々に表に出すようになる。一方、金魚は両親からの愛情を一身に受けて育った明るく朗らかな少女。その少し天然な言動は周囲の人々を和ませ、誰からも愛される存在だった。しかし、義弟である菊吉に対しては、ふだんの穏やかな様子からは想像もつかないほどの執着を見せる。そんな二人の関係を、いつも冷静な眼差しで見守っているのが、近所に住む幼なじみの悟郎。悟郎は菊吉と金魚が互いに惹かれ合っていることに気づいており、時には二人の背中をそっと押すような行動をとることもある。
義姉弟の逃避行と愛の行方
菊吉は、義姉である金魚との関係について、たとえ義理の姉弟であっても血縁があるため、決して結ばれてはならないと固く信じている。しかし、金魚は菊吉と出会う前から、二人が双子の姉弟であることを知っていた。また、菊吉に優しく接していた義父は、金魚の実の父親ではなかった。彼は、愛する女性と別の男性とのあいだに生まれた金魚と菊吉の存在を憎んでいたのだ。金魚は秘密裏に事件を起こし、家族の秘密を守ろうとするが、その痛ましい行動が菊吉に知られてしまう。すべてを知った菊吉は、金魚と共に生きたいと強く願うようになる。そして、親友である悟郎にも行き先を告げることなく、金魚と共に駆け落ちを決行するが、そんな二人を義父は執念深く追い続ける。果たして、菊吉と金魚はその障壁を乗り越え、共に幸せをつかむことができるのかが、本作の大きな見どころとなっている。
登場人物・キャラクター
浅川 菊吉 (あさかわ きくよし)
中学生になる前に、唯一の家族である母親を事故で失い、叔母の浅川家に引き取られた少年。そこで出会ったのが、同じ年の従姉、金魚で、のちに義姉となる。引き取られた当初、金魚をはじめとする周囲の人々に心を閉ざし、反抗的な態度を取っていたが、金魚の温かい愛情に触れることで徐々に心を開いていく。高校生になると、金魚に対する恋心に気づくものの、大切な家族の関係を壊したくないという思いから、その感情を隠し続けている。根は素直になれない性格だが、年齢を重ねるにつれて、自分の感情を素直に表現できるようになっていく。
浅川 金魚 (あさかわ きんぎょ)
菊吉と同い年の義姉。実母の姉が事故で亡くなったことを知り、身寄りを失った甥の菊吉を弟として迎え入れた。明るく朗らかな性格の持ち主だが、弟の菊吉に対しては時おり、常軌を逸した執着を見せる。菊吉がほかの女子や自分の知らない男子と親しくしている場面に遭遇すると、穏やかな笑顔の裏で巧妙に二人の距離を引き離そうとする。一見すると何不自由ない家庭で育ったように見えるが、金魚自身の出生には誰にも言えない秘密が隠されている。
吉岡 悟郎 (よしおか ごろう)
金魚のとなりに住む少年。金魚と同じ年齢の幼なじみ。菊吉が浅川家に引き取られたことをきっかけに知り合う。幼い頃から金魚に恋心を抱いていたが、ある日、彼女が菊吉のために流した涙の美しさに心を奪われ、菊吉には敵わないと感じて身を引くことにした。それ以来、二人の関係を複雑な思いで見守っている。コミュニケーションが苦手な菊吉をさりげなくサポートしつつ、彼とはライバルでありながらも、不思議な友情を育んでいる。
書誌情報
金魚の糞 全4巻 小学館〈フラワーコミックス〉
第1巻
(2012-06-26発行、978-4091344489)
第2巻
(2012-10-26発行、978-4091347978)
第3巻
(2013-02-26発行、978-4091350107)
第4巻
(2013-06-26発行、978-4091352989)







