記憶障害の少女が記憶を探しながらの日常生活
にしきには日常生活には支障をきたさない程度の記憶障害がある。それを知っているのは一部の人たちだけで、ほとんどの人たちはにしきをただのドジっ子だと思っている。それゆえに周囲から誤解を受けることも多いが、周辺住民の困り事を解決する「すくい屋」で人助けをしながら、過去の記憶の欠片(かけら)を探しては大切な思い出の断片を集めている。
「すくい屋」という人助けの仕事
にしきが住む深郷町は坂の多い町で、笹舟坂、紙漉坂、金魚坂、菊造り坂など、至る所に坂や石段がある。そのため高齢者にとっては住みづらい場所でもあり、にしきは「すくい屋」という人助けを始める。依頼の多くは、スーパーの買い物代行や猫探しなどの簡単な仕事ばかりだが、周辺住民には感謝されている。また、そのお代は金銭ではなく、「いつどこでなにをしてもらった」との覚え書きを千代紙に書いてもらっている。そして、その千代紙を折り鶴にして保存している。
にしきが探す「きつねの男の子」
本作における最大の謎は、にしきが記憶障害をきたしながらも、探し続けている初恋の相手「きつねの男の子」の存在。にしきは深郷町で暮らしていた頃の記憶は断片的にしか覚えておらず、にしきが初恋の相手の話をしても誰も名乗り出てくれない。むしろその話をするたびに正体が謎に包まれていくが、候補者は幼なじみの見崎蒼馬と鏑木若葉、そして深郷町に戻ってから知り合った遠野紺に絞られていく。
登場人物・キャラクター
花小野 にしき (はなおの にしき)
都立蛍見坂高校に転入してきた2年生の女子。とある事故の影響で日常生活に支障はないが、過去の体験や出来事の記憶が抜け落ちてしまう障害を患っている。そのため、つねに千代紙にメモを書き、折り鶴にして持ち歩く習慣がある。祖母が営んでいる紙もの屋「紙や花お」がある深郷町に引っ越してきた。誰に対しても丁寧な敬語で話すが、いつも一人でいるため、近所の住民やクラスメイトからは「不思議な子」扱いされている。放課後や休日を利用して人助けをする「すくい屋」をしながら、ある夏の日に亡くした記憶の欠片を探している。かつて神社で出会った「きつねの男の子」が初恋の相手で、告白するために探している。クラスメイトの見崎寿美や本田みなみからは「ニッキちゃん」と呼ばれている。
見崎 蒼馬 (みさき そうま)
都立蛍見坂高校に通う2年生の男子。弓道部に所属している。にしきの幼なじみ。寡黙だが面倒見がよく、にしきに好意を寄せているため、つねににしきの動向を気にかけている。極度の方向音痴のにしきを心配して、「すくい屋」の仕事に同行している。にしきに記憶障害があることや、その原因も理解している。少しでもにしきの助けになろうと躍起になる中で、彼女が「すくい屋」をする過程で知り合った男子大学生の紺が彼女に思わせぶりな態度を取るため、警戒している。睡眠が趣味で、寝具にこだわりを持っている。