鉄壱智

鉄壱智

小さな神様の鉄壱智が「生きる」ということを知るために旅立ち、さまざまな価値観に触れて成長していく姿を描いた和風ファンタジー。「月刊コミックZERO-SUM」2004年11月号から2012年9月号にかけて掲載された作品。

正式名称
鉄壱智
ふりがな
てついち
作者
ジャンル
ファンタジー
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概要・あらすじ

小さな神様の鉄壱智は、火鉄山で、人の身体に八つに分かれた尾を持つ蛇神の夜長彦とともに暮らしていた。鉄壱智は鉄を心臓として夜長彦に作られた神であり、かねてより「カミサマ」だから山から出られない身だと諭され続けていた。しかし好奇心旺盛な鉄壱智は、ある時山を出ようと試みる。一方、都の重大な機密を持ち逃げした科人(とがにん)の恒河シャは、その機密を用いて神殺しの方法を探していた。

そのため彼は、神を殺して成り代わったという夜長彦の伝説がある火鉄山へと向かう。その途中、路銀が尽きかけ困っていたところで、恒河シャは朔ら彦に助けられる。そこへ都から、都の管理から外れた神簿帳に載らない神を討伐する神違えの3人が、恒河シャを追って来る。

火鉄山に集まったそれぞれの思惑が交錯し、やがて都の神違えとは別格の力を持つ朔ら彦と、夜長彦・鉄壱智との激しい戦いが始まる。だがその戦いの最中、朔ら彦ら一行の姿から、鉄壱智は、戦わずに分かり合えるのではないかと考えるようになる。結局戦いは恒河シャが持つキクロの左目の暴走により一旦留め置かれ、落ち着いて話合う場が設けられたことで和解。

この一件以降、鉄壱智は朔ら彦らとともに旅立ち、さまざまな世界を見聞すると決め、生まれてこのかた一度も出ることのなかった火鉄山を後にする。

登場人物・キャラクター

鉄壱智 (てついち)

人の膝丈ほどの小さな身体の神様。夜長彦によって作られた。鉄壱智の心臓は、火鉄山で最初に作られた鉄塊でできており、何故か人に似た気配の強い存在でもある。好奇心が強く、偏見のない無垢な性格。簡単な言葉を駆使しつつも物事を的確に表現することが多く、核心を突いた物言いで、同行する朔ら彦を時に苛立たせる。

夜長彦 (よながひこ)

人の身体に八つに分かれた尾を持つ大きな神。火鉄山に住む、神格の高い、強大な力を持った蛇神で、人間部分は麗しい青年の姿をしている。火鉄山にいた神を殺して成り代わった存在であり、もともとは人間であったと地元で言い伝えられている。また、産鉄を司る神だとの言い伝えもある。はるか昔、火鉄山に隕石が落下した時代にはまだ人として暮らしており、母親が無理心中で服毒死を図った後遺症により、幼児並みの知能のまま成長した。 そのため、かつての記憶については要領を得ず、どういう経緯で自身が神に成り代わったのかを知りたがった朔ら彦ら一行の疑問に対して「まったく覚えがない」と答えた。周囲に対して関心が薄い一方で、鉄壱智を何よりも大事に思っており、鉄壱智を送り出す際には、彼が悲しい目に遭おうものなら、すべてに祟る神になると宣言する。

恒河シャ (ごうがしゃ)

左目に眼帯をした青年。初見の村人には、なかなかのいい男と評される外見の持ち主。もともと都で優秀な研究員として働いており、現在は人の手で神を完全に殺める方法を探している。かつて研究における実験の犠牲になった、元同僚のキクロの目を左目に移植している。少々抜けたところがあり、自他ともに認める小心者で、戦闘には向いていない。 都から重要な研究の触媒である黒い血を盗んで逃走中のため、利人(とがにん)として追われている。恒河シャ自身もそのことを記憶しているが、昴からは、何か重要なことを忘れていると指摘されている。

恒河シャの祖父 (ごうがしゃのそふ)

都の研究を持ちだした科人(とがにん)である恒河シャの祖父。恒河シャを追う都の兵団が、見せしめとして引きずり回して虐待を繰り返していたため、火鉄山のふもとの村に着いた頃には瀕死の状態にあった。同情した村人が縄を解いたため、逃げ出すことに成功。川のほとりで鉄壱智が流してしまった飯茶碗をままごとの道具と思い、届けようと川を辿って鉄壱智に出会った直後、彼の目の前で殺される。

朔ら彦 (さくらひこ)

桜色の長い髪に藤色の瞳の、少女と見間違えるほどに可愛らしい外見の少年。御雷之守とるるふぃあの子供。両親を迫害した都に対抗する力を得るため、各地の神を力でねじ伏せ、従えて回っている。高飛車な物言いをして、当初は自身の使命に従うのみだったが、鉄壱智と出会ってともに旅をするうちに、さまざまな価値観に触れて、柔軟な考えを持つようになっていく。

蝶子 (ちょうこ)

小麦色の肌をした小柄な少女。髪は後ろで1つの長い三つ編みにまとめている。朔ら彦の従者の1人で、彼のためなら自分の命を投げ出すこともいとわない、強い忠誠心の持ち主。

千花夏 (ちかげ)

眼鏡をかけ、黒髪を結い上げた豊満な胸を持つ妖艶な美女。朔ら彦の従者の1人で、失われた国の出身。鉄壱智が持っていた古い地図で自分の国の名を見て懐かしみ、鉄壱智に良い印象を抱いて力を貸す。

雪緒 (ゆきお)

短髪でがっしりした体格の女性。無表情で言葉も少ない。従者仲間の千花夏と同じく、もうなくなってしまった国の出身で、常盤の宮に助けられた過去を持つ。狭い穴で生まれ育ち、命令を受ける時のみ穴から出る生活を長く続けた。そのため、自由に行動できるようになったことに戸惑いを覚えている。

キクロ

恒河シャの同僚。有能で人目を引く美しい少女だったが、身分が低く危険な人体実験に従事させられていたこともあり、華やかな外見は不要と、手術によって無性化させられた。さらに実験を続けた結果、異形化してしまった。その状態で今も死ぬことが叶わず、都の実験施設で生きている。

鳴露 (なくろ)

恒河シャを追って来た都の神違えの術師の1人。体内に靡を持った長い黒髪の青年。鴉に変化して戦う力と、怪音を発して相手を攻撃する力を持っている。穢れた仕事を引き受け、基本的に使い捨てられる存在の神違えでありながら、その職務には彼なりに誇りを持っている。火鉄山で朔ら彦と夜長彦たちの戦いに巻き込まれ、命を落とした。

大解 (たいげ)

恒河シャを追って来た都の神違えの術師の1人。禿頭にひげを蓄えた男性。蟲を人に植えつけて操るという能力を持つ。外見の良い者をいたぶるのが趣味で、3人の仲間の中で一番口数が多い。朔ら彦と夜長彦たちの戦いに巻き込まれ、仲間内で只一人生き残ったものの、その直後に消息不明になる。戦いの後で和解し、朔ら彦らについて行くことになった鉄壱智は大解の行方を知りたがったが、朔ら彦らは言葉を濁し答えなかった。

神違えの術師 (かみたがえのじゅつし)

恒河シャを追って来た都の神違えの術師の1人。自身の体内、胃に靡を持つ。物を凍らせる能力を有する。本名は不明。「サクラ」と偽名を名乗っていた朔ら彦に近づき、ともに夜長彦のもとへ向かった。途中で朔ら彦の正体に気づいて警戒していたが、朔ら彦に仕える蝶子に重傷を負わされ、その後の火鉄山での朔ら彦と夜長彦たちの戦いに巻き込まれて命を落とした。

御雷之守 (みかづちのかみ)

西の果ての「不滅城」の主。朔ら彦の父親で、るるふぃあの夫。都の支配者である二位に逆らったことを理由に、都の地図から消された国の指導者。辺境では英雄として崇められている存在。都では「雷王」と呼ばれている。

昴媛 (すばるひめ)

昴の母親で、朔ら彦の叔母。西の果ての「不滅城」にいる。あまり多くを語らない女性で、朔ら彦が知りたがることについても回答しないことが多い。鉄壱智は彼女に対し、寂れてしまった都のような、かつては美しかったのだろうとの印象を抱いた。人が神になる方法を探し求めている。

(すばる)

昴媛と常盤の宮の娘で、小柄で髪の長い可愛らしい少女。自分が暮らす西の果ての「不滅城」にある書物をほとんどど読みつくしてしまった、賢く知識欲の旺盛な性格。世慣れておらずマイペースで、鉄壱智とも気が合う。

(わか)

清めの泉に向かう途中で、鉄壱智が出会ったねずみ。泉の神に仕える一族で、泉に行ったまま帰らないねずみの姫を案じていた。鉄壱智が親身になってくれたことを恩に感じ、お礼として一族に伝わる宝・天人の鏡を差し出した。

空多羽 (そらたば)

恒河シャを朔ら彦の国に護送するために遣わされた大きな鳥。「ぞよ」と語尾に付ける独特な口調で、恒河シャとともにいた鉄壱智には「ぞよくん」と呼ばれた。

禎厚 (さだあつ)

地方の豪族の青年。若いが地元の信頼も厚く、領民に慕われる良い領主。だが、人獣に執着している「獣狂い」と噂されている。1人の人獣に「百合子」と名付け、生涯をともにしたいと考えているが、世間では、人獣に人のような名まで与えたことで悪評が立っている。

百合子 (ゆりこ)

獣の耳を持つ人獣の娘で、禎厚の恋人。もともとは養蚕を生業としていた、高貴な家の娘であった。だが、深刻な飢饉の折に、人獣となった子供なら助けてやれると主張する怪しい集団の扇動により、人獣にさせられた。スイランの助力を得て人獣買いから逃げた先が禎厚の蔵であり、以来ずっと禎厚の世話になっている。お互いを好ましく想っているが、それゆえに自分の存在が禎厚を貶めていると案じ、離れた方が彼のためになると考えている。

スイラン

黒髪の青年。獣の耳を移植されて人獣にされ、人買いに連れ出された子供たちの1人。強い力を持っている。百合子を逃がして、彼女だけでも自由を得ていると思うことのみを自分の心の支えにしていた。鉄壱智らが都に潜入するために協力する百合子に危機が迫ったのを感じ、助けるために力を使い果たして死んでしまう。

常盤の宮 (ときわのみや)

昴の父親で、昴媛の夫。ウエーブのかかった長い癖毛を背中に流してバンダナで押さえており、見た目は青年のように若々しい。もともと都に反旗を翻した対都反乱軍で補給指揮官を務めていた。対都反乱軍に入る前は粉問屋の跡取りだったので、「粉屋」と呼ばれることもある。昴が物心ついた頃には行方知れずになっていた。

るるふぃあ

朔ら彦の母親。珍しい存在である天人の女性で、夫の御雷之守とその民を守るために自身の力を使い、世界のどこかで眠りについたとされている。彼女の残した西の果ての「不滅城」を支える虹の蛇「こうだ」は、天地を貫き己の尾を飲み込んで吐き続ける矛盾と無限の神でもある。

二位 (にい)

一般的には天人と人の間に生まれた子供を指す呼称。具体的には現在の都の支配者のことを指す。二位は、天人の血をもっとも濃く受け継いでいる者とされている。今の二位は「二位の鳥」とも呼ばれており、外見は朔ら彦に似ている。

集団・組織

神違え (かみたがえ)

各地に住まう神を身の内に取り込み、使役する者たち。互いを監視し合うため、必ず複数で行動する。なお、神の力を人間の制御下に留めておける期間は限られており、やがて精神の限界を迎えることになる。そのような神違えは呼び戻されて、人としての部分を処理され、使っていた使役神は新たに他の神違えに移植されることになる。

場所

火鉄山 (ひてつざん)

夜長彦と鉄壱智が暮らしている山。崩れやすいところが随所にあり、かつて鉄を採取していた名残が点在している。

蘭華 (らんか)

御雷之守が治める国。かつては都の公領であり、密接な関係を保っていた。都に反旗を翻して攻め滅ぼされ、地図からも消されている。実際は時の流れから切り離され、現在もるるふぃあの残した虹の蛇「こうだ」が支える「不滅城」を中心に形を保っている。

その他キーワード

神簿帳 (じんぼちょう)

全国の神が記された資料。都で管理されて把握されている。これに載った神はもとの姿を留めておけず、意志も奪われて、人々の良いように使われる存在となってしまう。神簿帳に記載されていない神は討伐の対象とされる。

天人の鏡 (てんじんのかがみ)

若らのねずみ一族に伝わる宝。真実の姿を映し出すと言い伝えられており、朔ら彦の危機の際に音を発して、その効力を見せた。以後は発動の条件が分からず、もっぱら「実験」と称して、朔ら彦が鉄壱智を叩く道具にされてしまっている。

(なびき)

神がこの世に力を及ぼすための要となるものを指す。滝や山などの特定の場所である場合や、岩などの地形である場合もある。都仕えの神違えは、靡を人為的に体内に移植している。

黒い血 (くろいち)

神を溶かし合わせることができる溶液。キクロと恒河シャはこれの研究に従事していた。黒い血同士は呼び合う性質があり、都から逃げた恒河シャを追っていた神違えたちは、その気配を辿っていた。

人獣 (ひとけもの)

スイランや百合子のように、獣の耳を自身の耳の代わりに移植された子供を指す。一般の人々は、人獣がどのようにして生まれているかを知らないため、「人に似て人ではないもの」として認識している。そのため、人獣を恋人や家族のように扱う者は「獣惑い」と称され、バカにされる。恒河シャと昴の解析により、人獣に付けられた耳は寄生生物のようなものであることが判明した。 適合した子供はテレパシーや自然発火能力など、神違えのような特殊な能力に目覚める。しかし、それはごくまれなことであり、ほとんどが短命。

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