概要・あらすじ
幼少時の記憶を持たない気弱な少女・春山かぐらは、ある日突然異世界に連れて来られた。そこは9つの地球からなる多次元宇宙が相互に干渉し合う世界であり、そのすべての宇宙が存亡の危機にあった。かぐらは自分が、生き残る宇宙を1つだけ選ぶことができる「あなないの娘」であると告げられ、戸惑いながらも最善の方法を考え始める。
登場人物・キャラクター
春山 かぐら (はるやま かぐや)
碧色の眼をした甘い顔の美少女。クセのある黒髪のロングヘアで、左右2つに分けた髪をそれぞれ編み込みにし、脇の高い位置で留めている。気弱な性格で、初対面の相手との会話は電話口であっても苦手としている。身長は162センチあるが、小柄に見られがち。4歳の時に、1人で道端で泣いていたところを警察に保護され、春山家に引き取られた。 それ以前の記憶が曖昧で、手を差し伸べてくれた少年の面影だけを強く記憶している。空札を混ぜたタロットの札の中から、百発百中で空札を引き当てるという特技を持つ。セーウによって連れて来られた異世界で、自身が「あなないの娘」であることを告げられる。
ゴールド
セーウが使役している巧機で、黒髪碧眼の少年のような見た目をしている。前髪が長く、頭頂部はつんと逆立っている。会話はできず、セーウの命令を実行するために活動している。体内で水を濾過する能力を有し、戦闘においては超人的なパワーを発揮する。セーウの昔の知人がモデルとなっており、時折その知人の意識がゴールドの中で目覚めることがある。
セーウ
赤い長髪で長身の、寡黙な青年。人類が滅亡した第二界の皇子で、特有の病への対処として、幼少時は巧機しかいない城内で育った。そのため一般的な人間と感覚が異なり、「狂皇子」と呼ばれている。死んだ知人と同じ姿をした巧機を連れており、「ゴールド」と呼んで使役している。
早稲田 丈僖 (わせだ たけよし)
鶏の姿をした巧機だが、その心は第三界を故郷とする早稲田丈僖のもの。もともとは大正3年生まれの広島出身の青年で、第二界に迷い込むまでは、日本の役に立つことを目標に東京帝国大学に通う学生だった。湖水離宮でセーウと出会い、交流を重ねていくなかで親近感を抱くようになる。セーウを除く、第二界の最後の生き残り。
セレナネーデ
セーウの家臣の1人で、第二界の湖水離宮で花々の管理をしていた女性。癖のある髪を左右は肩上で切り、後ろ髪だけ長く伸ばして束ねている。父親の後を継いで、若いながらも庭師を務めている。セーウを心から大切に思っているが、彼に近づいた野良猫を何度も殴打するなど、行き過ぎた面もある。早稲田丈僖とは同僚であり、深い交友があった。
クラ・ヒッディーン (くらひっでぃーん)
長寿により300年在位している、第七界の皇帝。逞しい体つきの黒髪の男性で、かつてイドゥに左目を射抜かれたため、右目でしかものを見ることができない。この世で自分が一番偉いと考え、傲慢な態度を取ることも多いが、持ち前の人懐こさや賢さからさまざまな人間を味方に付ける、世界を統べる者としての資質を持っている。生きている武器の1つである「夜光(ユニクスライト)」の所有者。
デイミオン・シュメー (でいみおんしゅめー)
クラ・ヒッディーンの部下で、クラが所有する「夜光(ユニクスライト)」の力を分け与えられたため、「夜の騎士」と呼ばれている青年。前髪の右側のみ色が違う。突発的な出来事に弱く、動揺を表してしまいがち。シーナ・モル・バンヴィヴリエのことを気に入っている。
ディディウス・ディ (でぃでぃうすでぃ)
メシエ=ララコット、ガヴィエラ・エビラと並ぶ三賢者の1人であり、「破滅の賢者」と呼ばれる男性。森羅万象に通じるといわれているが、その知識量に人間の体が耐えられず、現在は植物人間のような状態になっている。かつて、健在だった頃のディディウス・ディがどんな人間であったか知る者はいない。
シーナ・モル・バンヴィヴリエ (しーなもるばんゔぃゔりえ)
辺境にある城で隠遁生活を送っていた、銀髪の美少女。その美貌と類稀なる聡明さが評判となり、クラ・ヒッディーンの妃候補として第七界に差し出そうという動きが、国の有力者のなかにあった。野盗に襲われた春山かぐらを城に匿ったことで国の有力者から追われるようになり、ともに逃亡の旅に出る。
セレウス・ヴァル・ラグナハーン (せれうすゔぁるらぐなはーん)
第九界の高貴な血筋の人間で、生きている武器の1つである「地心火炎晶(ジオパイロゲート)」の所有者。腰まである長髪で、柔らかい物腰の聡明な青年。自らが作り出したゲンマが各界の争いを招くことを恐れ、第九界から奪って隠した。第九界はゲンマをその後も作ろうと試みたため、セレウス・ヴァル・ラグナハーン自らが界ごと徹底的に焼き尽くした。
イドゥ
第八界の住人で、生きている武器の1つである「至高水晶(ゼニスクライオ)」の所有者。筋骨隆々としたひげ面の男性で、世界の事情に通じている。現在はクラ・ヒッディーンに仕え、部下として奔走しながら友として助言も行い、クラを支えている。故郷である第八界に対しては複雑な思いを抱いている。
サリータ
イドゥと行動をともにしている、ショートカットの小柄な女性。イドゥのことを「故郷」と評するほどに慕っており、第七界と第八界の間で複雑な立場にある彼を精神的に支えている。シーナ・モル・バンヴィヴリエとは異母姉妹の関係にあたる。
カトラス
肩までかかる髪を垂らし、頭巾のようにバンダナを被っている青年。イドゥと行動をともにしており、第三界へ春山かぐらを迎えに行った際にセーウに腕を斬り落とされたが、接合手術に成功し、事なきを得た。
メシエ=ララコット (めしえららこっと)
ディディウス・ディ、ガヴィエラ・エビラと並ぶ三賢者の1人であり、「彗星の賢者」と呼ばれる大賢者の男性。飄々とした性格で、明るい長髪を1本の三つ編みにして垂らしている。永遠に時を廻り続けており、世界が滅亡しない未来を創り出そうともがいている。現在はガヴィエラとともに第五界に潜んでいる。
ハーリィ・ララコット (はーりぃららこっと)
元気の良い少年のような見た目の少女で、メシエ=ララコットとは血縁関係にある。髪型はセンター分けで左右色が異なり、右は短く左は肩にかかるほどの長さ。メシエのメッセンジャー役や、偵察の任を果たしている。
ガヴィエラ・エビラ (がゔぃえらえびら)
ディディウス・ディ、メシエ=ララコットと並ぶ三賢者の1人であり、「流星の賢者」と呼ばれている。癖のある長髪をポニーテールにし、女性用の衣装を着ているが男性である。本名は「ガヴィエス」だが、「ガヴィエラ」の方が自分には似合うと主張し、その名を名乗っている。メシエと交友が深く、行動をともにしていることが多い。現在は第五界に潜んでいる。
鮫島 (さめじま)
春山かぐらと同じ高校に通う友人で、かぐやには「鮫ちゃん」と呼ばれている。春山則之が贈賄罪で逮捕され春山家にテレビ取材が押しかけた際、私室にいたかぐやを電話口で慰めた。セミロングの髪で、つり上がった眉をした少女。
おかあさん
春山家の母親で、春山かぐらの義母にあたる。42歳ながら少女趣味な洋服を着用し、下校したかぐやにも同様の服を着せ、毎日タロット占いをさせている。自分を幼い子供だと思い込んでおり、赤ちゃん言葉を織り交ぜてかぐやに接する。息子には快く思われておらず、夫もあまり自宅に寄りつかない。
お兄さん (おにいさん)
春山家の長男で、養子の春山かぐらに対して威圧的な態度を取っており、母親のことも嫌っている。父親が自宅に帰らないのは母親が正気を失っているせいだと思っている。セーウがかぐやを連れ去りに来た際、身を呈してかぐやと母親を逃した。
春山 則之 (はるやま のりゆき)
春山家の父親で、春山かぐらの養父にあたる。ある銀行の幹部で、巨額の贈賄のため逮捕された。同銀行の元MOF担当者に、1人で責任を取って自殺しろとほのめかした。この事件の影響で自宅の様子がテレビで放送され、自宅の電話に記者から頻繁に取材が来るようになる。
場所
第一界 (だいいっかい)
謎だけを残して滅びた最古の文明を持つ地球で、「古海」とも呼ばれる。遠い昔に地表は失われ、現在は海しかない界となっている。第一界が滅亡した「古海の大爆発」の影響で、すべての界が絶滅に向かっている。
第二界 (だいにかい)
星の形も残らぬほど崩壊した界で、「アス」とも呼ばれる。セーウやセレナネーデの故郷であり、早稲田丈僖が迷い込んだ場所。かつては世界一美しい皇国であったと言われている。
第三界 (だいさんかい)
春山かぐらが4歳から生活していた界で、「エデン」もしくは「罪人の異界」とも呼ばれる。最も人間が多く、最も醜く歪んだ界。多くの罪人が流された地であり、今でも他界との交流は一切ない。
第四界 (だいよんかい)
春山かぐらがセーウによって連れて来られた界で、シーナ・モル・バンヴィヴリエと出会った地。「テレネー」とも呼ばれる。皇帝と貴族が存在するが無能な者が多く、第七界にへつらうことで生き延びようとしている。
第五界 (だいごかい)
メシエ=ララコットとガヴィエス・エビラ、ハーリィ・ララコットが潜んでいる界。少数民族国家の集まりで、考え方や状況は国家によりさまざま。純朴な暮らしを営む人間が多く、市などが立つこともある。この界には、反崩壊星によるバリアが張られていない。
第六界 (だいろっかい)
文明レベルが低い穏やかな界で、「ジウス」とも呼ばれる。第七界に制圧され、クラ・ヒッディーンに崩壊星の実験場とされているため、危険に見舞われることが多い。
第七界 (だいななかい)
多くの界を巻き込んだ大戦の勝者で、軍事力と科学を最も発展させた界。「ゲオ」とも呼ばれる。第一界から伝承したあなないの娘の予言を強く信仰しており、その登場を待っている。クラ・ヒッディーンにより300年統治されており、ディディウス・ディを擁している。
第八界 (だいはちかい)
太陽を信仰する宗教国家が治める界で、「アスライツ」とも呼ばれる。第七界と拮抗する国力を維持しており、大戦で敗北した後もたびたび激しく争っている。イドゥの出身地だが、現在彼は裏切り者と見なされている。
第九界 (だいきゅうかい)
セレウス・ヴァル・ラグナハーンの故郷。もともと人間の数が少なく、大戦で滅びたと言われている。実際はラグナハーンの手により、徹底的に焼き尽くされて滅亡した。
その他キーワード
チップ
手術により脳に埋め込まれる、さまざまな界の言葉を翻訳するための機械。これにより、他者の発言が映画の字幕のように視界に表示される。性能の優劣により、理解できる言語数や文字が異なり、優れたチップを有していることは身分の証明にも繋がる。春山かぐらも無自覚ではあったが、クラ・ヒッディーンよりも優れたチップを所持していた。
巧機 (からくり)
セーウが第二界の科学者と早稲田丈僖とともに作り出した技術、転じてそれにより生まれた機械そのもののことを指す。生身の体から魂を取り出し、人工の滅びることのない機械の身体に移すことを目的としている。ゴールドと丈僖の身体は、この技術によりセーウに作られた。
生きている武器 (いきているぶき)
主人と定めた人間に語りかけ、自らのもとに呼び寄せるといわれている武器。現在認知されている生きている武器は、「有機黄金(オーガニックゴールド)」「月状水銀(リユーナートマーキュリー)」「至高水晶(ゼニスクライオ)」「地心火炎晶(ジオパイロゲート)」「夜光(ユニクスライト)」の5つである。
ゲンマ
セレウス・ヴァル・ラグナハーンが発明し、現在は行方が分からなくなっている謎の宝石。ゲンマを手にした者は覇王となると言われている。クラ・ヒッディーンや第八界が未だにその行方を追っているが、有力な情報は得られていない。
崩壊星 (こらぷさー)
次元を渡り、別の界へ行く時に使用する装置。時空の一部を歪め、ある一定の期間だけ別の界への穴を開けておくことができる。なお、「崩壊星」とは本来はブラックホールのことを指す言葉である。
反崩壊星 (あんちこらぷさー)
崩壊星の反応をキャッチし、崩壊星の作り出す歪みを修正するための装置。第四界、第六界、第七界、第八界はそれぞれ反崩壊星により、自らの地球を守っている。それぞれの界ごとに、所有する反崩壊星の性能や大きさ、パワーが異なる。
月状水銀 (りゆーなーとまーきゅりー)
セーウの使用する大鎌で、通称は「ルナー」。あまりに鋭利なので、腕や足を切られても予後が良く、手術で接合できることがある。生きている武器の1つで、セーウに発見されるまでは第二界の王宮の庭に埋められていた。
界 (かい)
多層宇宙の中にある、一層ずつの宇宙のことを個別に呼ぶ言葉。文明人が存在する界には数字が付けられる。今のところ人類が進化に成功した界は9つ発見されているが、既に人間が滅亡している界もある。
あなないの娘 (あなないのむすめ)
すべての界を巻き込む世界の終末が訪れる時、ただ1つの界だけを選び救う力を持つとされる娘のことで、すべての界が血眼になって探している。あなないの娘は、白紙の札を混ぜた札束の中から、必ず白紙の札を選び出す能力を持つと言われている。