鎌倉ものがたり

鎌倉ものがたり

古い昔からの怪異がある町、魔界都市のような「鎌倉」に住む若きミステリー作家一色 正和とその妻亜紀子を中心とした、一話完結形式のミステリーロマン。「鎌倉」では妖怪が堂々と街を歩き回り、長生きしたネコは霊力を持つ。タヌキやキツネは人を化かし、憑依もする。亡くなったはずの人間はまるでゾンビのように生き返り、成仏出来ない時には悪霊となって跋扈する。天国も地獄も魔界もすぐそこにあり、宇宙人やタイムトラベラー、怪盗・鎌倉ルパンまで現れる。数々の怪奇事件にスーパー素人探偵・一色正和が立ち向かう。協力する警察陣もユニークな面々揃い。恐山刑事は、イタコのように被害者の霊を呼び出し、事件の真実を聞き出してしまう。稲荷刑事は、こっくりさんを使い、お稲荷さんの力で事件を解決。人間ではないタヌキ刑事も大活躍。そんな「鎌倉」で起きる事件の数々の驚くべき顛末をつづり、 第38回日本漫画家協会大賞を受賞した、西岸良平の代表作。

正式名称
鎌倉ものがたり
ふりがな
かまくらものがたり
作者
ジャンル
推理・ミステリー
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あらすじ

魔界都市のような古都「鎌倉」在住の、中堅ミステリー作家・一色 正和33歳とその妻・亜紀子21歳は、結婚して1月目の新婚夫婦。「鎌倉」では妖怪や魔物が出没しては難事件をおこしており、正和は警察と協力して事件を解決していく。

 1巻 

一色 正和とその妻・亜紀子のなれそめが描かれる。二年前の夏休み、短大二年だった亜紀子は出版社のアルバイトで原稿受け取りに。初めて一色正和と出会う。正和は亜紀子が作品から想像していたよりずっと若く、素敵で、どことなく淋しそうな横顔が印象的だった。正和の自宅は、学者だった祖父が立てたもの。昔は300坪あったが、生活のため切り売りし、今では70坪ほどだった。独身で身よりは誰もいない、時々ばあやが掃除に来るだけと聞き亜紀子は正和の家に行くのが楽しみになった。原稿が早く上がると、正和は鎌倉を案内してくれた。そして、この鎌倉の土には、大勢の人々の魂や欲望や怨念が眠っている、それが周囲を山と海に囲まれたこの地につもりつもって蓄積し、時々不思議な怪異となって現れ、我々の心を惑わせる、たとえば幽霊や天狗とか、と正和は解説してくれた。 

相手が12歳も年上ということもあり、亜紀子の結婚は最初反対されたが、東大卒でハンサムな正和に母親と祖母はすぐに陥落。やがて父親とも意気投合、弟・友和や妹・真理子もすぐなつき、「鎌倉」での新婚生活が始まった。駅前のブティックで洋服を買おうとすると、女子高校生に間違われたり、原稿を受け取りに来た出版社の編集者には、正和の子供と勘違いされたり。亜紀子は童顔と背の低さを悩んでいたが、結婚生活には幸せを満喫していた。そんな亜紀子の目の前をカッパが通り過ぎ、古い昔からの怪異が近づいてくる。(第1話 あこがれの街)

 春も近いポカポカ陽気に誘われ、亜紀子は建長寺まで、ハイキングに行く。正和を誘うが、推理小説のアイディアに苦しみ、それどころではない。逆に、建長寺の途中にある奥山寺の和尚さんへの届け物を頼まれた。急に白い霧が湧き出し、亜紀子は道に迷う。霧の中に寺があり、鎧を着た武者が歩き回っている。そこは、隠れ里の落人部落だった。亜紀子は鎧武者に捕まり、縛り上げられてしまう。彼らは、源氏に滅ぼされた平家の残党で何百年も隠れて暮らしていると言う。源氏のスパイなら打ち首だし、そうでなければ、我ら平家の妻になれと脅される。(第2話 隠れ里の花嫁) 

正和と亜紀子が商店街を散歩していると、正和の幼なじみで背の高い美人・若宮恵子と出会う。しばらくたった頃、鎌倉警察署の恐山刑事が正和を訪ねてくる。若宮恵子の夫で会社社長の若宮広司が昨日殺害されたので、関係者のアリバイを洗っている。若宮恵子は昨日のの午後2時から4時まで正和と一緒に江ノ島のホテルにいたと証言しているが本当だろうか。正和は確かに一緒だったと嘘をつく。彼女は昔からできの悪い妹のような存在で人を殺せるような人ではなかったからだ。正和が鎌倉山の高級住宅街にある恵子の家に行くと、顔なじみの署長の大仏が陣頭指揮をし、現場検証中。典型的な密室殺人事件のようだった。特捜部の恐山刑事が得意の降霊術で死者の霊を呼び出すという摩訶不思議な捜査が始まる。(第3話 幼なじみ) 

 正和が友達の出版記念パーティーに出かけ、一人きりになった亜紀子は、怖いもの見たさで納戸を整理しようと思う。正和からは絶対納戸の中に入ったり、中のものに触っては行けないと言われていた。納戸には、何かを閉じ込めるように厳重なかんぬきがかかっていた。中に入ると、インディアンの人形の首のようなものがある。それは本物の干し首だった。驚いた亜紀子が戸棚にぶつかると、頭上から頭蓋骨が落ちてきてケタケタ笑う。あわててかんぬきをかけずに納戸から飛び出した亜紀子。寝付かれず納戸を閉めようとした亜紀子は予想外のものに遭遇する。(第4話 納戸の中でドッキリ)

 七里ヶ浜で死体となった女性が発見された。彼女は鎌倉市在住の小説家・東海道太郎の妻・マキ40歳だった。鎌倉警察署は、目撃者の証言に基づき、現場近くのホテルに宿泊中だった不審な外国人2名を取り調べていた。鎌倉も人が増えて変な事件が起きるようになったと嘆いていた正和のもとに、源氏山の赤鬼が訪ねてきた。奥山寺の和尚さんの紹介だという。実は、警察で取り調べを受けている不審な外国人二名は三日後のサーフィン大会の千葉県代表で、早く釈放してもらわないと、大会がダメになってしまうと泣きつかれる。素人探偵・一色正和が鉄道ミステリーの解明に挑む。(第5話 房総の鬼)

 正和と亜紀子はフランス料理店で仲睦まじく食事をしていた。すると、突然スープ皿がフワリと浮き上がり、亜紀子の頭の上でひっくり返る。このレストランでは、最近、妙なことばかり起こるとマスターが言う。作ったばかりの料理が消えたり、下剤が入れられたり。そこへ、この店は呪われている。鎌倉権現様のたたりじゃ!と叫ぶ修験僧のような男が現れた。権現様のたたりから鎌倉の街を守るために活動している。今なら特別セール中でこの一個200万円の水晶の玉が50万円になる。毎朝玉を拝めば、たちどころにたたりは消えると熱弁する。正和はインチキだと、その男を撃退するが、店を出た途端、誰も乗っていない暴走車に轢き殺されそうになる。事件の真相を探る正和は盗まれていたある国宝にたどり着く。(第6話 盗まれた国宝)

 鶴ケ岡八幡宮の石段の左側にある大きな銀杏の枯木は別名「隠れ銀杏」と呼ばれている。昔、この場所で三代将軍源実朝を暗殺した甥の公暁がこの木の後ろに隠れていたという伝説があった。その同じ場所で殺人事件が起きたことをテレビで見た正和。犯人は被害者の甥だとつぶやく。亜紀子にその推理の理由を訊かれて、大銀杏で一瞬、源実朝を思い出したんだと答える。突然、窓の外に見知らぬ男の顔が浮かんでいるのに気づいた亜紀子、しかしそこには誰もいなかった。正和にいきなり、鮮烈な小説のイメージが湧いてくる。徹夜して推理小説を書き上げ発表したところ、その小説は有名作家の作品と一言一句全く同じ内容だった。盗作の嫌疑をかけられた正和は、やけ酒を飲みに外出するが、殺人事件に巻き込まれてしまう。(第8話 大銀杏殺人事件)

 2巻  

鎌倉の5名水の一つ、銭洗い弁天の銭洗水でお金を洗うと何倍にも増えると言われている。ケチだと評判で、高利貸しをしている隣のお婆さんは、銭洗水でお金を洗った後、貸した金を返さない寿司屋の大将とトラブルを起こしていた。身寄りのないお婆さんがこの世で信じられるのはお金だけだった。3月の寒い朝、ぽっくり亡くなったお婆さん。すると遠い親戚たちが遺産目当てで、どこからかいっぱい集まってきた。畳の下の隠し金庫を見つけ出し、開けようとした親戚たち、恐ろしい出来事が見舞うのを誰一人わかってはいなかった。(第13話 鬼婆)

 鎌倉彫りの展示即売会で、亜紀子は鎌倉の高級住宅地に住む優雅なマダムと知り合う。しかしマダムの夫は毎晩仕事で遅く、子供も成長して手が離れて仕舞い、なんとなく満たされない生活を送っているのだった。マダムの趣味の一つは推理小説を読むことで、特に一色 正和のファンだった。しかも正和と親密な付き合いをしていると言う。正和が浮気しているのではないかと思い、マダムをつけた亜紀子の目の前で、確かに正和とそっくりな男とホテルに入っていくマダム。泣き出した亜紀子だが、驚いたことに、後ろから正和に声をかけられた。(第14話 鎌倉の昼と夜) 

正和と亜紀子が散歩していると、やぐら群があった。やぐらは、山腹の岩を四角に削って作られた横穴式の墓で、鎌倉独特のものだった。鎌倉時代の武士や僧侶が埋葬されている。今でも昔の人の骨が埋まっていて、三千もあると言われていた。最近は、やぐらのある山を崩してマンションを建てているのを正和は憂慮していた。何かたたりでも無ければ良いがと思っていた矢先、高校時代の剣道部で四天王と呼ばれていた友人の一人が、鎧兜の武者姿の暴漢に襲われ大けがをする。その暴漢は15年前の恨みと言って襲ってきたのだ。(第15話 たたり)

 3巻 

岩手県平泉の中尊寺に眠る藤原三代のミイラが鎌倉で一般公開された。正和亜紀子たちも見学に。昔、中尊寺に修学旅行に行ったと言う亜紀子に、このミイラはその中尊寺の金色堂の仏壇の下に安置されていたもの、と解説する正和。藤原三代は昔東北地方に大きな力を持っていた豪族だったが、鎌倉幕府に追われた義経をかくまったため、源頼朝に攻められ滅亡した。その藤原三代のミイラが、今、鎌倉で展示されているのは、何か因縁めいていると感じる亜紀子。鎌倉にうらみを持つミイラのたたりで何か悪いことが起きなければよいが、という正和の直感が当たり、ミイラの亡霊が出現する。ある寺ではミイラの供養のために即身仏の供養を行うが、そこで悲劇は起きた。鎌倉署の大仏から正和の力を借りたいと電話が入る。(第25話 ミイラの呪い) 

 4巻  

鎌倉には古美術品を売る店が多い。亜紀子は骨董店の閉店セールで古伊万里の染付の壺を買う。3千8百円だったと聞いた正和は、それは偽物に違いない、本物の古伊万里の染付の壺なら100万円はすると言う。それでも壺が気に入った亜紀子は、寝室の床の間に壺を飾った。すると、その晩、亜紀子と正和は同じ悪夢を見てうなされる。それが2晩続き、どうやら壺の祟りかもしれないと正和は調査を開始する。(第36話 壺の中の悪夢)

 5巻

 恐山妖介は31歳独身だった。警察署の特捜科の刑事で、交霊術が得意。心霊捜査で活躍している。彼はいつも一人ぼっちで、結婚している人たちが羨ましくて仕方が無かった。恋人をほしかったが、自分の突然死者の霊が乗り移ってしゃべりだす癖や、生まれつき不気味な顔のため、あきらめが先に立っていた。玄関のインターフォーンが鳴り、出てみるとそこには鳩胸の美人が立っている。結婚相談所のコンピューターが一番相性の良い相手を選んでくれたので、わざわざ北海道から出てきたのだと言う。彼女は恐山の部屋に住みだし、ついに我が世の春が来たはずだったが、予想もできない結末が待っていた。(第47話 春―SEASON OF LOVE) 

 6巻 

都会では最近は、節分の行事はだいぶ廃れたようだけど「鎌倉」は百鬼夜行の土地柄だから、まだほとんどの家がやっている、と亜紀子に教える正和。節分は立春の前夜のことだけど、元々は季節が変わる時のことで、昔から季節の変わり目は、陰と陽が対立して邪気が生じると信じられていた。それで追儺つまり鬼(禍)を追い払う行事が行われるようになった。地方によっては竹串にニンニクを刺すところもある。亜紀子はまるで怪奇映画の吸血鬼退治みたいと思うのだった。八幡宮の豆まきを見に行く2人の通り道、ずっと空き家だった家に誰かが越して来る様子。もう表札が出ていて、そこにはドクター・アキュラと言う外国人らしい名前があった。(第58話 節分のドラキュラ)

 7巻 

正月そうそう、なんとなく凧揚げをしたくなった正和は手作りの凧をつくり始めた。簡単に作れて売っている凧より高く揚がると自信ありげだ。亜紀子も正和の凧揚げに連れていかれたが、確かに正和の凧は、ほとんど見えなくなる位、誰よりも高くあがる。ところが近くに、雲の上まで凧を揚げるおじいさんがいた。それは、凧の研究家としても有名な鎌倉工科大学教授の凧揚正人教授だった。毎日凧揚げに行く正和は、いつも会う凧揚教授としぜんに言葉を交わすようになった。凧揚教授は妻を亡くして孤独な身の上だと言う。それが、悲しくもしみじみとした事件の発端だった。(鎌倉の凧)

 8巻 

亜紀子もファンの人気アイドル歌手・北村マリが鎌倉でコンサートを開いていた。北村マリは歌がうまくて評判で、しかも鎌倉出身らしい。新聞で、マリの写真を見た正和はどこかで見た顔だと気づく。海岸通りにあった写真館の娘さんが歳格好があっているし、顔もどことなく似ていた。しかし彼女はすごい音痴だったのだ。同じ新聞に、神社の境内に男の死体という記事があり、正和は事件の匂いを嗅ぐ。案の定、鎌倉警察署から正和に事件の捜査協力依頼が来る。被害者は、芸能人のスキャンダルを種に金を強請る男だった。男は最近、大きな金ずるができたと話していたそうで、恨みによる殺人の線が強かった。事件はそれだけでは収まらなかった。(第80話 ローレライの魔女)

 9巻 

月刊推理の編集者小山さんがプライベートな頼み事で、鎌倉警察署に顔が利く正和を訪ねてきた。話は、小山さんが以前担当していた小土呂泥男のことだった。小土呂泥男は血なまぐさい猟奇的ミステリーで売り出した新進ミステリー作家だったが、小説の内容があまりにエログロで反社会的だったため、マスコミに糾弾された。そのため著作は全て販売自粛、事実上の発禁処分となった。連載は全て打ち切られ、文壇から永久追放された小土呂泥男は、失意の末、焼身自殺を遂げていた。ところが、その亡くなったはずの小土呂泥男が生きているのを見たと言う女性が現れたと言う。正和は早速、鎌倉警察署にあたってみるが、どうもはっきりしない。なんとなく事件の臭いがするのだった。(第91話 復讐鬼) 

10巻 

新聞折り込みチラシの婦人服特別セールを見た亜紀子。そのブティックミラクルに行ってみると、Mサイズばかりで、チラシに書いてあったSサイズが無い。ところがサイズの心配はないと店員さんが言う。当店は、独自のシステムをとっていて、商品は全てMサイズだが、お客様の体の方で調整していただく。そのためのサイズ変換機へとは入れられた亜紀子。あっという間に10%拡大されて、背が15センチも伸びる。いつも背の低いのに悩んでいた亜紀子は喜んで一杯洋服を買い、帰りに洋服と一緒に元のサイズに戻してもらう。ところが、不審に思った正和と一緒にまた行ってみると、そのブティックミラクルは影も形も無く消えていた。それは、想像もできないミラクルな事件の序章だったのだ。(第102話 不思議なブティック)

 11巻 

正和が親友の千葉 周作の入院見舞いに花を選んでいると、新しい改良品種の洋ランで、うす紫の大きな花があった。その華やかな花を持って見舞いに行った正和は、千葉の妻から病気は胃潰瘍ではなく末期がんだと明かされる。大ショックを受け落ち込んだ正和の元へ、天王流生け花の家元でフラワーデザイナーとしても有名な女性の不審死捜査協力依頼がやって来た。自宅の寝室で亡くなった家元の体からは猛毒トリカブトが発見されたが、その寝室は完全な密室で、ただ、死体の上に一輪の赤い花が置いてあったという。それは血のように赤い洋ランの花だった。正和の目の前にまたもや、死の匂いをまとった花が現れた。(第113話 死の花) 

12巻

 鎌倉蚤の市で世界の骨董品展が開催されていた。実行委員会の張り紙にははなぜか、本会場で買った商品により、たたり・呪いなどにより受けた損害については一切責任は負わない、とあった。アンティークカメオの店でブローチを正和に買って貰った亜紀子。そのカメオのブローチに描かれている美人の女性は髪の毛一本一本まで彫ってあり、まるで生きているようだった。それは外国から仕入れられたビクトリア朝時代の物。一体誰をモデルにしたものなのか、そのモデルになった美人に正和も興味を持った。翌日、母の遺品のカメオを探し出した正和は、亜紀子に渡す。2つのカメオを見比べていた亜紀子は、昨日買ったカメオの顔の向きが反対向きに変わっているのに気づく。それが、呪われたカメオ事件の始まりだった。(第125話 血を吸うカメオ) 

13巻

 亜紀子は今までゴミを出していた空き地に家が建って収集場所が変わり、家から凄く遠くなったのが不満だった。やっとゴミ出しを終えたと思ったら、近所のおじいさんが、ここにゴミを捨てるな!と怒鳴る。市役所がここをゴミ捨て場に決めたのだから、文句があれば市役所に言ってという主婦に、ただで済むと思うなよ、今に思い知る時が必ず来ると言い募るおじいさん。翌朝、家の庭がゴミだらけになっていて驚く亜紀子。正和は悪質ないたずらだと思うが、まるでメッセージのように並んでいる三本の魚の骨に事件の匂いをかぎ取っていた。(第136話 鎌倉ゴミ騒動)

 14巻 

どんより曇っていて今にも降りそうな天気の中、鳥がいやに騒いでいた。やっぱり降って来たと思ったのは赤い血の雨だったのだ。翌朝、カラスやハトやスズメなど、鳥の大量の死骸が発見された。鎌倉の変事は続いた。線路への置き石や突然の停電、電話やオンラインの不通、案山子が盗まれたり。そしてついに殺人事件が起きる。被害者は市役所職員で早朝マラソン中に殺害されたが、不思議なのは、地面がぬかるんでいるのに、犯人の足跡が全く無いことだった。不可能犯罪に正和の推理が冴えわたる。(第147話 鳥) 

15巻 

鎌倉で連続路上殺人が起きる。サラリーマンやホステスの被害者は、逃げるところを後ろから心臓を一突きされていた。凶器は細長い錐のような剣だった。捜査に協力していた正和は、もしかしたら加害者はフェンシングの達人かもしれないと推理する。腕試しに西洋の辻斬りを退治しようとした剣道教室経営者や剣道五段の達人まで、殺されてしまう。そこへ藤沢署からフェンシングの元国体選手・曽呂刑事が助っ人に現れる。曽呂刑事はフェンシングの方が剣道より強いと言う。納得できない正和は手合わせをするが、完敗。正和が犯人を追う中、怪しく単独行動する曽呂刑事。(第158話 対決フェンシング) 

16巻

 鎌倉湖では、投身自殺した死体は決して上がらないと言われている。鎌倉湖で自殺未遂をした20歳の絵理子は、病院で治療を受け心も体も甦った。しかし、その15年後、病院で治療をしてくれた外科医の夫と結婚し、子供にも恵まれ、幸せな家庭を築いていた絵理子は35歳で、首無し死体で発見される。夫婦仲はいたって円満だったが、夫のアリバイがはっきりしない。警察では最も怪しい容疑者は夫だとみていた。正和はもっと深い事情があるはずだと、推理を始める。(第168話 首無し死体の謎)

 17巻 

松宮ルリ子はゲイバーで浴びるように酒を飲み荒れていた。自分を騙して捨てた笠野馬賢二を自分の手で殺してやりたいと。ただ、自分で殺すと、すぐ警察にバレてします。何か良い方法はないだろうか。すると、道端のよろず悩み解決黒魔術の男に声をかけられた。黒魔術はズバリお客の願いを実現するのが仕事だという。ただ規制がうるさいので、実際に殺人の手を下すのはルリ子で、決して警察につかまらないように手を貸すという男。笠野馬賢二が殺され、松宮ルリ子が恐山刑事の降霊術による賢二の証言で犯人と目されたが、ルリ子には完璧なアリバイがあった。(第178話 松宮ルリ子の殺意) 

 18巻

 鎌倉二階堂の紅葉ガ谷花祭邸では家政婦の砂原のり子が奥様に朝食の準備が出来たと、声をかけていた。しかし何の返事も無い。娘や娘の婚約者たちがドアを破ってみると、女主人、花祭蜂子60歳が果物ナイフで心臓を突かれて亡くなっていた。部屋は完全な密室状態で自殺かと思われた。だが遺書も自殺の動機も無い。そこで、正和に鎌倉警察署から捜査協力の依頼が入った。正和は、どこかに秘密の出入り口が有るのではないかと調べ始める。亡くなった花祭蜂子は、往年の大スター女優で主演した映画は数知れず、女優部門の長者番付トップだった。離婚再婚を繰り返し、複雑な家族関係を持っていることがわかり始める。(第188話 紅葉ガ谷殺人事件)

 19巻

 月刊推理・副編集長の林氏が正和のところに新担当となる挨拶に来ていた。今度、葉山に住むベストセラー作家・怪奇小説作家の伴牌也の連載が始まることになり、鎌倉と葉山は近いので、そのついでに正和の担当にもなったのだった。正和は林副編集長が心配だった。

伴牌也には実は変な噂があり、彼を担当した編集者が何人も変死していたのだ。伴牌也の家は葉山の山奥にある。林副編集長は、もうすぐ日が暮れる頃、伴牌也の家への道順を山道への入り口の家の男に訊いていた。すると男は、行くのは止めて置いたほうが良いと忠告するのだった。闇にうごめく者達が目覚める頃だ。夜になったらあんた無事には帰れない。その家の軒先には何かのおまじないなのかニンニクがいっぱいぶら下がっていた。(第198話 バンパイアIN葉山 「編集者残酷物語」)

 20巻 

生暖かく不気味な晩、鎌倉には雨が降っていた。傘を差した女性に声をかける者がいる。もしもし、ごめんなせえ、この辺りにウシジマ・ケンサクという人は住んでねえだか。ふと女性が見ると、声をかけていたのは、顔が女で体が牛の怪物だった。彼女はその5人目の目撃者となったのだ。なお、市内に住む公務員の牛島健作さんは全く心辺りが無いと報道されていた。亜紀子は、ギリシャ神話のミノタウルスと似ていると正和に話したが、ミノタウルスは牛面人身だから、今度のとは逆だとわかる。突然、正和を訪ねて馬屋産業株式会社の社長がやってきた。顔が女で体が牛の怪物が探しているのは、私だと告白された正和が捜査を始める。(第208話 件)

 21巻 

鎌倉の小町通り商店街の雑踏をヨタヨタ歩くおじいさん。倒れそうになったのを正和が助け、病院に連れて行く。おじいさんはひどく衰弱していたが命はとりとめた。意識が戻り名前を訊くと、ヤマモト・タクオと名乗る。名前以外は聞き出せなかったが、何日も飲まず食わずで、鎌倉の街をさまよっていたらしい。翌日、鎌倉警察署の稲荷刑事から連絡があった。鎌倉周辺のホームレスにや行方不明者にヤマモト・タクオの該当者はなく、大阪に住む21歳の大学生が鎌倉に行くと言って、一週間前から行方不明になり、家族から捜索願が出ていたのだ。この小さな出来事が後に大量殺人事件に発展するとは正和は予想だにしなかった。(第218話 メル友失踪事件)

 22巻 

鎌倉山の午前一時、三人の人間が横たわっていた。傍らに毒薬の瓶が転がり、両親は既に事切れていた。ただ首を閉められた赤ん坊は息を吹き返し鳴き声を上げている。その姿を見ていた虎鬼は、うまそうな赤ん坊だ、連れて帰って食ってやろうと、住処の洞窟へ連れ帰った。しかし赤ん坊は痩せていて、酒のつまみにもなりそうにない。育てて大きくしてから食べようと考えた虎鬼。魔力でいつでもミルクを出せる仲間の牛鬼女に乳を飲ませてもらおうと頼みに行く。乳をやる代わり、太らせて食べるときには、私にも半分分けておくれ

と牛鬼女は請け負った。赤ん坊は喜んで牛鬼女の乳を吸う。一年後には、食べごろになりそうだった。一年後すくすくと育った元気な女の子を虎鬼と牛鬼女は目の前にしていた。(第228話 鬼がひろった赤ん坊)

 23巻

 鎌倉の梵鐘寺の午後10時、住職がお経をあげていると、誰かが釣り鐘を突いている。見に行ってみると、誰も突いていないのに勝手に鳴っていた。どうやら、また檀家の何方かがお亡くなりになったらしいとつぶやく住職。その頃、血の付いたナイフを握った女性が荒い息をついていた。近くには倒れている老婆が見える。一方、東京の目黒の午前0時、ファミレスでひとり食事をする老婆の姿があった。翌朝その老婆、ひとり暮らしの62歳が鋭利な刃物で背中から心臓を刺され殺害されているのが発見される。彼我者の姪が第一発見者だったがその容貌は、血の付いたナイフを握った女性とそっくりだった。鉄壁のアリバイに正和が挑む。(第238話 弔鐘の罠)

 24巻 

鎌倉の小学生・木枯正夫は両親から怒鳴られ、叩かれつ毎日だった。クリスマスが近かったが、一度もサンタさんが来たことはなかった。また両親に怒られ、夜の街に飛び出した正夫。泣いていると路地裏に住んでいる魔物の子供に声をかけられた。クリスマスにサンタクロースが来ない正夫を可哀想に思った魔物の子供は、余分に持っていたサンタ玉を正夫にプレゼントする。クリスマスイブにサンタ玉を使った正夫のもとにやってきたのは、身体の大きい不気味な牙の生えたサンタクロースだった。正夫はその夜、両親がドライブに出かけている間に、自宅から失踪する。木枯夫婦は正夫への虐待で何度も児童相談所の調査を受けていた。(第248話 サンタの来る夜)

 25巻 

鎌倉の小町商店街を散歩していた亜紀子は、暗黒美術館のモダンアート絵画展の無料入場券を渡された。美術館の受付の人は絵で書いてあるだけで、誰でも入場無料のようだった。中は暗く、血が滴る切断された両足や、火を噴く魔物の絵が飾られている。ホログラムで描かれた巨大フランケンシュタインの絵に悲鳴をあげてしまう亜紀子。一枚だけ可愛い女の子が描いてある絵に見入っていると、館長が説明してくれる。この絵は変わり絵です。変わり絵というのは、特別な絵の具を何度も何度も塗り重ねて描いてある。時間が経つとだんだん下の絵の具が表面に現れる。時とともに絵が変わっていくんです。絵が気に入った亜紀子は絵の値段が安かったため、その場で買うことにした。絵は一色家の玄関に掛けられたが、徐々に不気味な絵に変化をし始める。(第258話 変わり絵の恐怖)

 26巻

 鎌倉の薪能は毎年10月上旬鎌倉宮境内で行われる。篝火に照らされて演じられる能に、正和と亜紀子は幽玄の世界をへ誘われた。数日後、満月流腹鼓家元のタヌキ・豆太郎から、葉山薪能への招待状が届いた。10月のある晩に開催される葉山薪能に豆太郎が囃子方として参加するのだという。出演者は全部タヌキだということだった。当日は満月でタヌキの化け能力が一番強くなる日。通常面をつけるのはシテとツレだけだが、タヌキの能では全員が面をつけていた。その頃、薪能会場から1キロ離れた有料道路で、飲酒運転の車が自損事故を起こし、車は大破。奇跡的に運転者は一命をとりとめたが、この運転者とタヌキの深い関わりが招いた事件の発端だった。(第268話 葉山薪能)

 27巻 

鎌倉で仏像盗難や寺の屋根の銅版が盗まれる事件が頻発していた。銅の地金価格が高騰したため、金属故買グループが暗躍しているようだった。正和は罰が当たる、死んだら必ず地獄に落ちると確信していた。それから3日後、大事件が勃発する。国宝鎌倉の大仏(高さ約12メートル、重さ120トン)が盗まれたのだ。大仏は台座を残し、本体だけ消えていた。しかし現場には大型トレーラーやクレーンの跡は無く、鎌倉検察書の面々と正和は頭を抱えるのだった。

(第278話 大仏盗難事件)

 28巻

 昭和23年、結核が不治の病と言われていた頃、空気の綺麗な海岸や高原に数多くのサナトリウム(療養所)があった。その一つ、海浜サナトリウムで休学中の網津有人24歳(東京音楽大学3年生)は懸命にピアノを練習していた。しかし、看護師に一日20分までと止められる。有人の人生はツキが無かった。やっと音大に入ったら学徒出陣で戦場に駆り出され、生きて帰れたと思ったら空襲で家も家族も失った。しかも自分まで不治の病となった。せめて生きている間に好きなピアノを思う存分弾きたかった。近くの岬の上に立派な西洋館があったが、そこもやはり、サナトリウムだがすごく高級でお金持ちばかりが入院している。夜、波の音に混じってかすかなバイオリンのような音が聞こえてきた。まるで魂を揺さぶられるようなその美しい旋律に誘われて、有人の運命は激変する。(第288話 小夜曲)

 29巻 

女性アイドル・大麻ラリコが一日鎌倉警察署長を務めることになった。ギャラが安く面倒くさい仕事だったが、彼氏が麻薬中毒で亡くなり、ルリコもジャンキーだとの噂がたったため他に仕事は無かった。ルリコのイメージ回復と未来はこの仕事次第だった。当日、大渋滞にはまりルリコを乗せた車も動かい。あせったマネージャーは鎌倉への近道を見つけ、ハンドルを切る。不意に湧いてきた霧の中を疾走、なんとか30分遅れで鎌倉警察署に到着したが、受付はのっぺらぼーで署長は鬼だった。(第298話 鎌倉一日警察署長) 

 30巻 

正和に鎌倉警察署長の大仏から殺人事件の連絡が入った。被害者は古美術商の骨董品男48歳で、強い力で締められ首の骨が折れていた。出入り口は全て内側からロックがかかり、防犯カメラにも何も写っていない。秘書の話によると、品男社長は高価な美術品を扱うため、防犯にはずいぶん気を使っており、部屋は完全な密室状態だったのだ。正和はふと、見事なドールハウスに気づく。それは20世紀初頭の英国の天才ドールハウス作家の作品だった。その中を見ると、怪奇趣味的な蝋人形館になっている。正和の過去の思い出がその蝋人形をきっかけに蘇り、捜査の糸口が見え始める。(第308話 ドールハウス殺人事件) 

 31巻

 毎日暑かった。夏バテ防止のためにたまには鰻を食べようと正和が電話をすると、ゲペゲペゲペという異様な声が聞こえてきた。もう一度かけ直すと、ようやく鰻屋に通じたが、ちょっと電話が変だ。最近、ちゃんとダイヤルしてるのにぜんぜん違うところにかかると言う。しかし亜紀子には思い当たることは無く、正和がダイヤルを間違えただけだと思っていた。一色家の電話は未だにダイヤル式で、古都鎌倉の霊気の中に長年置かれているうちに

魔力を宿し始めていた。その電話が時空を越えた犯罪へと正和を導いていく。(第317話 一色家の電話) 

 32巻 

格安の鎌倉発日帰りバスツアーのチラシが入った。しかもスカイツリーの一番上の天望回廊まで上がれて、一人二千円昼食付きという破格の値段。ミステリー小説のヒントになるかもと思い、参加した正和亜紀子だったが、貸し切りバスの中は、なぜか魔物ばかり。バスガイドの猫娘は、今日は皆様を楽しいスカルツリー観光へご案内させていただきますと、話し始めた。この格安ツアーは東京スカイツリーではなく、魔界のスカルツリー観光だったのだ。バスは動き出し、もう引き返すことはできなかった。(第327話 スカイツリー殺人事件)

 33巻 

鎌倉の資産家・霧立昇が自宅バルコニーから転落死した。警察は事故死と断定したが、転落死した霧立昇を見据えていた三人には全く気づいていない。半月後、夜泣き鳥がうるさい夜、変てこな紅い雲がマンションの真上に浮かび、翌朝、マンションの一室でレストラン経営者が死体となって発見された。その死に顔は恐ろしい恐怖と苦悶に満ち、見る者全てを戦慄させずにおかなかった。その部屋のドアもベランダのサッシ全て内側から鍵がロックされている。死体の肺の中から発見されたススから、何かが高温で燃えた後の煙を吸って窒息死したものと推定された。被害者の経営するレストランは放漫経営で赤字続き、しかし近々莫大な遺産を相続する予定だった。かれは先日事故死した資産家・霧立昇の遠縁だったのだ。相続人は他にも2人いることがわかり、警察と正和の地道な捜査が始まった。(337話 紅の雲)

 34巻 

高校三年生の水野カナは親戚のおばさんの家に居候中。両親は経営していた印刷会社が倒産し、一家心中したが、カナだけ助かっていた。高校を卒業したらアルバイトと奨学金で大学へす進むのが夢だったが、おばさんの経営しているカラオケ酒場の音が2階に上がってきて勉強がはかどらない。気分転換に夜中、コンビニに向かったカナは道に迷い、裏鎌倉図書館にたどり着く。開館時間は午後8時から午前4時までの夜だけ開いている図書館だった。全然読めない文字の本が並んでいる中、カナは小学6年生の時、病気で亡くなったはずのフミヤ君に出会う。この図書館は魔界の図書館だったのだ。人間界の出版物も置いてあるためフミヤ君のような読書好きの死者も利用していたのだ。館長に気に入られ、利用カードを貰ったカナは、過去の真実と出会っていく。(第345話 夜の図書館)

実写映画

『DESTINY 鎌倉ものがたり』のタイトルで2017年12月9日公開。堺雅人(一色正和役)と高畑充希(亜紀子)がW主演。映画の主題歌は宇多田ヒカル『あなた』。監督は山崎貴。(映画『ALWAYS 三丁目の夕日』など、VFX(視覚効果)技術を駆使した演出が有名)

登場人物・キャラクター

一色 正和 (いっしき まさかず)

連載開始時33歳。本格推理小説作家。代表作には心理トリック作品『由比ヶ浜殺人事件』『名探偵一色亜紀子』シリーズなどがある。ベストセラー作家ではないが作品がドラマ化され、サイン会を開くなど鎌倉では名士扱いされている。魔界ではユーモア小説作家として魔界文学賞を受賞してもいる。 東大ではマンガ研究会に所属し漫画家志望だった。  住まいは神奈川県鎌倉市長谷1丁目の一戸建て。昔は300坪あった敷地も切り売りしたため今は70坪ほど。妻の亜紀子と2人暮らしで子供はいない。祖父は民俗学者で父は大学教授だったが、母を含め皆、早世しており、家族との縁が薄い。お手伝いのキンがいる。 家にはFAXが無く、旧式の黒い固定電話を使っている。鎌倉の猛暑に悩まされながらも、クーラーを買わない主義。 愛車はベンツ・クーペ2/3。卓越した推理能力を持つ名探偵でもあり、度々鎌倉警察署より事件調査の依頼を受けて、事件を解決に導いている。 鎌倉高校から東大文学部を卒業したインテリだが、柔道や合気道などの武道の素養がある。  特に剣道は三段を所持し、高校時代には剣道部の主将を務め、個人戦・団体戦ともに全国大会で優勝し、「木の葉一刀流」の奥義を伝授されている。事件の犯人たちと戦う時には主に木刀を用いるが、難敵の場合は国宝である「鬼薙の剣」を鎌倉市から借りることもある。  性格は温厚。凝り性な面もあり、鉄道模型や熱帯魚にはまり、部屋一面に線路や水槽を広げてしまうほど。 趣味は他にも骨董品・雑貨・絵画収集、音楽鑑賞など幅広い。いつも着物を着ていることが多く、いかにも昔の作家風である。鉄道模型制作や熱帯魚飼育など幅広い。パチンコだけは一応するが、ギャンブル全般のことは嫌っている。また食道楽でもあり、よく亜紀子と一緒に美味しい店で外食をする。。 

一色 亜紀子 (いっしき あきこ)

一色 正和の妻。連載開始時21歳。正和との間に子供はまだいない。正和とは、短大の時に出版社の文芸社で原稿取りのアルバイトをしていた時に出会った。少女マンガとディズニー映画を好む一方、短大の卒論で扱った平家物語の研究もしている勉強家。小学生の変装をしても違和感が無いほど背が低く童顔ではあるが、小・中学生の時には演劇部で常にヒロイン役だったほどの美人。 着る服はSサイズでなかなか似合う服が売っていないのが悩み。商店街を正和と一緒に歩いていると親子や兄妹にみられてしまう。正和は友人たちから、ロリコンとからかわれてもいる。  家を訪れる編集者には一色家のお手伝いさんと間違えられることがよくあり、亜紀子はいつも憤慨している。実家は東京都練馬区大泉学園で、旧姓は中村。父、祖母、母、妹の由美子、弟の政彦の6人家族だった。年の離れた正和との結婚に、初めは家族みんな難色を示していたが、 正和が東大卒で、気さくなハンサムだったことから、逆にファンとなる。注射が嫌いで病気になってもなかなか病院に行きたがらない。特技の料理は、グルメの正和をもうならせるほどで、 正和の主要作品、『名探偵一色亜紀子』のモデルでもあり、ドラマ化の時には、初めはエキストラ扱いだったが監督に気に入られ、主演を頼まれもした。

恐山 妖介

連載開始時31歳。鎌倉警察署特捜部所属の刑事。青森県の寺の次男坊で、イタコとなり降霊術を駆使することが得意で、被害者の霊を呼び出して加害者の名前を言わせ捜査をする心霊捜査で活躍している。降霊術を使い被害者の霊が話している間の記憶は全く無いい。突然事件とは関係なく、死者の霊が乗り移り、勝手にしゃべってしまう癖がある。目を隠す程伸びた白髮と、乱杭歯が特徴。心優しい純朴な性格で独身。いつも恋人募集中である。

大仏 次郎 (だいぶつ じろう)

鎌倉警察署署長。おだやかな人柄なため、鎌倉の住民たちだけでなく魔物たちからも頼りにされ、慕われている。事件現場には一番に駆け付け、的確に指示を出し、丹念に捜査する。一色 正和とは日頃からの顔なじみで、鎌倉で手に負えない難解な事件が発生すると、躊躇なく正和に捜査を依頼してくる。双子で見た目が全く瓜二つの兄が奈良警察署に勤務している。髪の毛などの見た目が鎌倉大仏に似ており、名前は神奈川県出身の文学者、大佛次郎(おさらぎ じろう)を連想させる。同じ作者の作品『三丁目の夕日』にも登場している。

稲荷刑事 (いなりけいじ)

鎌倉警察署心理捜査課所属の刑事。降霊術の一種であるこっくりさんを用いて捜査を行い、難事件も良く解決する。容姿は狐に非常に似ており、これは父親が人間で母親は和泉国信田の森の白狐であるためらしい。銃の扱いに優れており、銃撃戦になっても犯人たちに引けを取らない。また格闘術にも堪能で、暴力を振るうチンピラたち3人を簡単にねじ伏せ逮捕したこともある。昔、婚約者が結婚する半月前に亡くなり、自殺と断定された哀しい過去を背負っている。後に実は婚約者は殺されたことが判明し、その犯人を自らの手で逮捕し、その後の犯行を未然に防いでいる。

川原 河太郎 (かわら かわたろう)

鎌倉警察署特捜部所属の刑事。河童の父親と人間の母親を持つ、半妖。河童の血を引いているため、水中でも呼吸ができ、また嗅覚が優れているが、地上では人の顔を見分けるのが不得意である。水晶球を使った占いをする。妻と二人の子供がいる。

零久田 汎仁丸 (れくた はにまる)

八ツ橋大学異常犯罪心理学研所長を務める、異常犯罪心理学の第一人者。トカゲに似た容貌の眼鏡をかけた初老の男性。一色 正和が、異常な死体を見つけた事件で、手がかりを求めて訪ねた。オーディオマニアでもあり、音響関係の解析を行うこともある。犯罪心理にも詳しく、難事件の解明に協力する事もある。

鎌倉 ルパン (かまくら るぱん)

鎌倉の美術品や宝石、価値の高い絵などを狙う、変装が得意な謎の怪盗。一色 正和のライバルであり、手のこんだ作戦を使って警察や正和を出し抜くことに生きがいを感じる愉快犯でもある。正和によって何度か逮捕寸前まで追い詰められたこともあるが、まだ一度も捕まったことはない。プライドが高く犯罪に芸術性を求めているため粗暴犯を見下している。 犯行前には警察や正和に予告状を送ることもよくある。実は正和の小説の愛読者でもあり、新刊が出るのが遅いと出版社に文句を言うこともある。

健さん (けんさん)

強面の鎌倉簡易裁判所判事。一色 正和の顔なじみの店静の常連。三年間網走の簡易裁判所で判事をつとめ、鎌倉に戻ってきた。静の店主、静さんが、地上げ屋のマル暴不動産に誘拐された際には、正和と二人で敵地に乗り込み、静さんを救出するほど腕っ節が強い。背中一面には唐獅子牡丹の刺青が入っていて、その外見からヤクザと間違えられることも多い。高倉健がモチーフとなっているようである。東大法学部を卒業しており、学部は違うが和彦の先輩に当たる。

葉山仙人 (はやませんにん)

葉山の山奥に何百年も住んでいると言われる長寿の仙人。霞を食べて生きていると言われていたが、最近は空気が汚れ味が落ちたため、霞より本物の食事が良いと山菜粥をたべ、酒は欠かせないとブランデーを飲む生活をしている。そのせいで出費がかさむため、飼い猫を人に変えて商売をさせている。また山菜を売ったり掛軸の展示販売も行いお金を稼いでいる。

大河原 キン (おおがわら きん)

正和が小さな時に、一色家のお手伝いを住み込みで万事こなしていた家政婦。一時期一色家から暇を出されていたが、正和が亜紀子と結婚したのを機に週2、3回のペースで、再び一色家のお手伝いを始めた。幽霊や妖怪の姿を見ることができ、体力、気力とも充実しており、家事はなんでもそつなくこなす。齢100を超え、実際の年齢は142歳らしいが本人は82歳だと公言。夫を日清戦争で亡くした未亡人でもある。

松本 清一 (まつもと せいいち)

鎌倉在住のミステリー作家。大量の資料を使い、謎を作り出す。幽霊の仕業で正和が松本と同じ話を書いてしまい、最初は盗作だと正和を非難したが、事件が解決してからは和解、交流を深める。松本清張を思わせる名前である。

千葉 周作 (ちば しゅうさく)

元鎌倉高校剣道部所属、鎌倉高校剣道四天王の一人。正和の高校時代の友人で同期でもある。職業はカメラマン。父親を早くに亡くしている。母親が女手一つで育ててくれたがその母親も癌で亡くなった。幸せな結婚をしていた周作も突然末期癌にかかる。しかし正和が解決した難事件でたまたま手に入った特別な洋ランのにより奇跡的に全快した。

柳生 十平 (やぎゅう じっぺい)

元鎌倉高校剣道部所属で、正和の同期で高校時代の友人。鎌倉高校剣道四天王の一角。魔物が経営するバーで飲み過ぎた結果、幽体離脱を起こし、別人の霊に体を乗っ取られ霊になってしまったこともある。結婚している妻は性格がきついが美人である。子供は一人。

猫王 (ねこおう)

亀ヶ谷の屋敷に住む、子牛ほどの大きさをした猫の総大将であり、人間の言葉も話せる猫に化身した妖怪である。年齢は100歳を超えている。催眠術を使い、魔力も持っているため、戦えば大型犬や大きな動物にも負けない。人間たちや他の猫たちから頼みごとや悩み事を相談されることも多いが、見事に解決する。そのため猫たちや人間たちから信頼されている。腹違いの弟は大山猫の血を引いている。

高麿宮若 (たかまろのみや)

鎌倉の妖怪を束ねる魔物の総大将、高麿宮の長男。魔力は強いが、結婚相手である婚約者が、結婚式直前に亜紀子の友人の旦那と駆け落ちしてしまった時に、周りを気にせずに泣き喚めく、気弱でわがままな性格。その際に亜紀子に一目惚れする。自分の命が危機に瀕した時、襲ってきた魔物を強大な魔力により一撃で倒した事がある。しかし同時にあまりの恐怖に気絶し、その時のことを覚えていない。せっかくの魔力を使いこなすことができないお坊ちゃまである。

根津弥 甚八 (ねずみ じんぱち)

推定年齢200歳を越す、鎌倉ネズミの総大将。猫の総大将の猫王と同様に魔力を持つ。猫王を倒し、ネズミの天下を手に入れることが目的。

一色 宏太郎 (いっしき こうたろう)

正和の父親。故人。周囲からの大きな期待を受けて大学教授になったが、研究職は肌に合わずに目立った功績は残せなかった。その一方で「湖南独伊留」というペンネームで幻想小説を書いており、小説家としては知る人ぞ知る名作をものにしている。正和は雰囲気の違う湖南を母の浮気相手だと勘違いしていた。子供の頃、正和には父に可愛がられた記憶がほとんど無い。逆にいたずらをして物置に閉じ込められ、鍵をかけられた哀しい思い出がある。家政婦の大河原キンによると、宏太郎は正和が中学生の時、ちょっと表を散歩してくると言い置いたまま、横須賀線で投身自殺をしてしまったらしい。

一色 絵美子 (いっしき えみこ)

正和の母親。故人。正和が8歳の頃に病気で亡くなった。霊となった現在でも正和のことを見守っており、送り火の際には亜紀子の前に現れ、正和を頼む旨を伝えに現れた。夫は大学教授と小説家の二つの顔を持つ一色宏太郎。いろいろあったようだがおおむね夫婦仲は良好だった。

一色 信夫 (いっしき のぶお)

一色 正和の祖父であり宏太郎の父親。故人。高名な民俗学者で、民俗学の天才とまで呼ばれた古代呪術関連研究の第一人者。頭脳明晰で不可思議な現象への卓抜な理解力があった。裕福な生活を送り、そのため人柄が穏やかであった。正和が今居住している自宅は信夫が建てたもので元々は敷地が300坪あった。子供時代の正和は父よりも祖父に馴染んでおり、可愛がられていた。正和が祖父と楽しそうに過ごしていた時代の回想シーンが作中によく描かれる。

腐乱軒 修太 (ふらんけん しゅうた)

鎌倉警察署嘱託の遺体解剖医。本職は由比ヶ浜近くにある歯科医院の歯医者。その歯科医療は叫びたくなるほど激痛を伴うが、どんな症状も一回の治療で完治させる名医である。

ドクター地場醐 (どくたーじばこ)

害虫退治から悪霊退治まで請け負う鎌倉消毒有限会社の社長。ネズミやネコの言葉を理解できる。

札仁 玄馬 (さつじん げんば)

正和が連載している月刊推理の編集長。遅筆な正和に原稿催促の電話をよくする。

御成 三太夫 (おなり さんだゆう)

探偵業を営んでいるが、正体は御成流忍術を受け継ぐ忍者。CIA顔負けの諜報能力を持ち、正和の難解事件解明や、犯人逮捕に協力することも多い。

中森 桃子 (なかもり ももこ)

見た目は山姥のような容貌であり、かなり年齢を重ねているが、現役女子大生のミステリー作家と偽り、次々に作品を発表し、若者に絶大な人気を誇る。亜紀子と町中で知り合い、仲良くなった。家が山の上にあり、車を使わないため、かなりの健脚を誇る。

狸山 ポン吉 (たぬきやま ぽんちき)

葉山警察署所属の刑事。タヌキであり、変装が得意。主に、タヌキ関連の事件を担当する。

場所

名探偵一色亜紀子 (めいたんていいっしきあきこ)

『鎌倉ものがたり』に登場する、小説。著者は一色 正和で、主人公のモデルは妻の亜紀子。人気を博してシリーズ化し、テレビドラマ化もされた。亜紀子は監督に気に入られ主演しないかと誘われた。

鎌倉

『鎌倉ものがたり』の舞台となる町。魔界と面している、魔物専用のテレビチャンネルが時折入る、狸に住民票がある等、現実の鎌倉とは異なる部分が多い。また鎌倉の住民たちも人魂が見える等、他の町の人達と異なることが多く、警察には心霊課という、魔界関連の事件を専門に扱う部署もある。

その他キーワード

宝のひょうたん (たからのひょうたん)

正和が、勾留された鬼を助けた際にお礼としてもらったひょうたん。中身を少し残して蓋をすると、ひとりでに酒が満たされる。いつまでも酒が無くなることのない酒飲みには夢のような魔力をもったひょうたん。

鎌倉TVK (かまくらてれび)

『鎌倉ものがたり』に登場する、テレビ局。魔物が制作する魔物のための番組だけを放送している。通常は魔物のテレビでしか映らないが、電波の関係で人間のテレビでも映ることがある。紅白歌合戦の裏番組には木村カエルなどが出演し、魔物たちに人気がある。鎌倉の住民たちからは通称7チャンネルと呼ばれている。モデルはJCN鎌倉と推測される。

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