鎌倉けしや闇絵巻

鎌倉けしや闇絵巻

人の記憶を消す稼業「けしや」の第35代目の奥之院蒼と、彼に必要不可欠なパートナーとして能力を見出された女子高校生の都川菜乃葉。さまざまな事件に巻き込まれながら、絆を深め惹かれ合っていく二人の姿を描くミステリアスファンタジー。実際に鎌倉に在住する作者の赤石路代の地元お勧め情報や、エピソード中に出て来る実在のスポットを詳しく紹介した「菜乃葉の鎌倉さんぽ」も各話の終わりに掲載されている。「モバフラ」2010年2月20日号より配信、「プチコミック」2014年9月号増刊「姉系プチコミック」9月号より掲載の作品。

正式名称
鎌倉けしや闇絵巻
ふりがな
かまくらけしややみえまき
作者
ジャンル
推理・ミステリー
 
和風ファンタジー
レーベル
フラワーコミックス α(小学館)
巻数
既刊7巻
関連商品
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あらすじ

第1巻

はるか昔から日本の古い都近くに点在する、人の記憶を消す稼業「けしや」は、人づてにのみその存在を知られ、存続して来た。ある日、そんなけしやの一つで、古都鎌倉に居を構える奥之院家第35代目の跡取り息子、奥之院蒼のもとに、1組の若い夫婦が訪れる。流産してからというもの、悪夢に悩まされ続けているという妻の石蕗果奈を心配した夫は、蒼に妻の流産の記憶を消すよう依頼。これにより一旦は解決に至るものの、それから3か月後、新しい命をお腹に宿した果奈は、再び悪夢にうなされ始める。果奈の体を心配した夫は、もう一度妻とけしやを訪れ、原因になったと思われる「面掛行列」の記憶を消してもらおうとするが、真の原因はもっと深いところ、彼女がまだ幼かった時に起きた、とある事件にあった事が判明する。だが、本来「ケシ」に必要不可欠であるパートナーが不在の中、「トメ」の存在なしで仕事に及んだ蒼は、果奈の深い記憶に潜ったまま、戻れなくなってしまう。(第1話「何かが道をやってくる」。ほか、4エピソード収録)

第2巻

奥之院蒼のパートナー「トメ」となって、いっしょに仕事をする事になった都川菜乃葉は、ある日、ストーカー男につけ回されていた女性の七森桜子に遭遇する。彼女から助けを求められた菜乃葉は、桜子を家まで送って行く事になった。ミス鎌倉に選ばれた桜子は、ちょっとした有名人で、そのかわいらしさから、日常的にファンレターが届けられていた。しかし最近の桜子へのファンレターの中には、「お前もあの男も殺す」とだけ書かれた脅迫状が紛れ込んでいたのである。事態を重く見た菜乃葉は、この事件を「けしや」の力で解決しようと、桜子と彼氏の梅津雅樹を蒼のもとへと連れて行く。事情を聞いた蒼は桜子の記憶に潜り、直接見る事で8年前に「黒地蔵縁日」で起こった事件が、すべての発端になっている事を知る。改めて、ストーカー男から桜子の記憶を消す必要があると判断した蒼は、菜乃葉と共に男を探し出すが、男が逆上した事で記憶の消去に失敗。危険な目に遭ってしまう。(第6話「午前3時の地獄」。ほか、4エピソード収録)

第3巻

「トメ」として活躍中の都川菜乃葉は、奥之院蒼からの告白を受け、仕事だけでなく、彼女として彼といっしょにいる事を決めた。そんな夏のある日、菜乃葉は常盤葵から頼まれ、有名な心霊スポットについて行く事になった。近くのひぐらし公園で涼みつつ、葵を待っていた菜乃葉は、そこで自分と同じ学校の制服を着た深町ほのかと出会う。二人はいっしょにチョコレートを食べながら、他愛のない会話を楽しんだが、葵の伝言を持ってやって来た蒼の一言で、菜乃葉は青ざめる事になる。一見ふつうの女子高校生のようなほのかだったが、蒼にその姿が見えておらず、驚いた菜乃葉が振り返ると、たった今までいたはずの場所に、ほのかの姿はなかったのである。その後の調査により、ほのかは5年前に逗子の海で投身自殺をした事が判明するが、その記録に違和感を覚えた菜乃葉は、ほのかと会うために蒼と共にもう一度公園へと向かう。そこで二人は、再び姿を現したほのかから、彼女が殺された事を聞く。直接ほのかを見る事ができない蒼は、菜乃葉を介してほのかの記憶を確認し、事件を解決しようと試みる。(第11話「ひぐらしの怪談」。ほか、4エピソード収録)

第4巻

ある日、滝口絵里は携帯電話のメールを見て、夫の滝口政孝の浮気を知ってしまう。専業主婦として家庭を守り、夫を愛するが故に依存して生きて来た絵里にとって、夫を失う事はなによりも怖い事だった。思い詰めた絵里は、ふと「鎌倉けしや」と書かれたチラシに目を留める。おりしも季節はアジサイが満開で、観光客の混雑する中、絵里は鎌倉けしやを訪れた。そして絵里は、携帯電話を勝手に見た事を叱責するばかりで、浮気に関してまったく取り合おうとしない夫の様子を語り、その苦しい胸の内を奥之院蒼都川菜乃葉にさらけ出す。そしてメールを見なかった事にし、夫の浮気の記憶を消してほしいと依頼する。しかし絵里の話を聞いたものの、肝心の手水鉢の水は色付く事なく清いままで、彼女の記憶を消す必要がない事を示していた。そして蒼は絵里が今までも毎年のようにけしやを訪れ、その都度、夫の浮気の記憶を消していた事に思い至る。(第16話「紫陽花の谷」。ほか、4エピソード収録)

第5巻

奥之院蒼都川菜乃葉と、お茶の先生をしている母親の奥之院月子のもとへ干菓子を届けに行く。そこで蒼は、お弟子さん達の中でも美人と有名な和辻八重和辻棠香和辻吉野の3姉妹と出会う。姉妹の中で、棠香は人のいい彼氏の野々山隆と順調な交際をしていたため、結婚が近いとされており、八重も吉野もそれを疑う事はなかった。しかしある時、棠香が彼氏の事をきれいさっぱり忘れてしまう。そして記憶だけでなく、彼が住んでいたはずの住所や電話番号、メールアドレスに至るまで、そのすべてが初めからなかったかのように消えてしまっていた。同時に、棠香の預金500万円も消えた事を知った姉妹は、鎌倉けしやを訪れる。話を聞いた蒼と菜乃葉は、棠香の記憶が故意に消された事を確信し、「谷中けしや」のケシ、猫園陽貴の協力を得て、どのけしやによって手が下されたのかを調べ始める。調査の結果、東京のけしやのうち、「烏森けしや」の名が挙がり、同時に野々山が結婚詐欺師である事が明確となる。犯罪に手を貸した事に責任を取ってもらうべく、蒼は烏森けしやの丹後自由郎のもとへ向かう。(第21話「思ひ出の海棠」。ほか、4エピソード収録)

第6巻

入院している奥之院月子を見舞うため、病院にやって来た都川菜乃葉は、そこで、「江戸けしや」の壬生陽色に遭遇する。その病院には、末期がんで余命いくばくもないという壬生の母親が入院しており、陽色は彼女から、担当看護師の様子を見張るようことづかっていた。陽色は菜乃葉の顔を見るなり、奥之院蒼の不在を確認し、菜乃葉に「トメ」として自分に協力してほしいと頼み込む。そして、今にも非常口から身を投げてしまいそうな担当看護師を見つけるや否や、問答無用で記憶を消すのだった。その看護師は、何事もなかったかのように去っていくが、陽色のその強引なやり方に、菜乃葉は違和感を感じずにはいられなかった。一方、壬生の母親は桜に強い執着があり、そのためにより苦しい闘病生活を送っていた。彼女はそんな自分の桜に執着する記憶を消して楽になりたいと願うが、陽色がそれを許そうとはしなかった。桜が咲くまで生きなければともがき苦しむ母親と、それが叶わないかもしれない状況。同時に、彼女の願いをかなえてあげたいという思いが交錯し、蒼と菜乃葉、陽色は協力し奔走する。そんな中、記憶を消す事で生まれる希望と、けしやが背負う闇が明らかになっていく。(第26話「あと一度の桜」。ほか、4エピソード収録)

登場人物・キャラクター

都川 菜乃葉 (みやこがわ なのは)

西鎌倉女子高校に通う女子高校生。特徴的な音色を持つ鈴、ガムランボールを身につけている。正義感が強く、まっすぐな性格で、何事も見て見ぬ振りができない。同時にかなりのおせっかい気質で、自分でもその自覚はあり、周囲からも悪い癖だとたしなめられる事が多い。母親は幼い頃に亡くなり、今は鎌倉警察に勤める菜乃葉の父親と二人暮らしをしている。ある時、けしやの「ケシ」を務める奥之院蒼と出会い、ケシを留める「トメ」の力を有する者として見出された。それ以降、アルバイトと称して「鎌倉けしや」のトメとなり、けしやの仕事にかかわるようになる。パートナーとしていっしょに仕事をしていくうちに、蒼に対して思いを寄せるようになり、のちに蒼からの告白を受けて交際を開始する。しかし、けしやの活動をよく思わない父親からは、仕事も恋愛も大反対を受けている。

奥之院 蒼 (おくのいん そう)

東鎌倉高校に通う男子高校生。人の記憶を消す稼業「鎌倉けしや」の第35代目を継ぐ「ケシ」として、日々けしやの仕事に携わっている。直接手を触れた人の記憶を見る事ができ、その記憶に潜り込めば、必要に応じて記憶を消す事もできる。ただし、人の記憶に入り込み過ぎると戻れなくなる恐れがあるため、この世に留めるための「トメ」の存在が必要不可欠。人の苦しみを失くす手伝いをしているという気持ちを持って、ケシの仕事をしている。クールで物静かな雰囲気を漂わせた美少年で、女子生徒からの人気は非常に高い。文化祭のミスターコンテストで優勝経験があるほか、女装して競う事でも有名な「ミスター東鎌」にも選ばれた事がある。しかしクールな外見とは裏腹に、本当に嫌な相手に対しては小声で聞こえないように辛辣な悪口を言うのが癖で、子供っぽい一面がある。もともと、パートナーとなる「トメ」と「ゴ」がいない状態で仕事をしていたが、偶然出会った都川菜乃葉にトメとしての能力を見出し、アルバイトと称して彼女をけしやにかかわらせた。菜乃葉とは、仕事上のパートナーとして時間を共に過ごすうちに、彼女の真っ直ぐな姿勢に惹かれていき、告白。交際を始めるが、菜乃葉の父親からは反対を受けており、表立ってはおとなしくしている状態。

常盤 青志郎 (ときわ せいしろう)

常盤紅太郎と深沢七瀬の息子。「鎌倉けしや」の、「ケシ」や「トメ」を護る「ゴ」を務めている。しばらく海外へ行っており、不在だったために奥之院蒼を護る事ができなかったが、妹の常盤葵がケガをした際、急ぎ帰国した。それ以降は、なじみの俥屋で人力車を引いたり、鶴岡八幡宮の制服ガードマンのアルバイトを始めつつ、ゴとして蒼と都川菜乃葉と共に行動し、二人を護っている。蒼が「ミスター東鎌」で女装させられた時の写真を大事に持っており、奥之院家に娘がいると、菜乃葉に噓を吹き込んだ。両親の離婚について、大人の事情があった事を理解しており、出て行った母親に非がない事を知っていた。

常盤 葵 (ときわ あおい)

常盤紅太郎と深沢七瀬の娘で、常盤青志郎の妹。まだ中学生ながら兄が不在のあいだ、「鎌倉けしや」の「ケシ」や「トメ」を護る「ゴ」を務めている。かわいらしい見た目に反して肉弾戦に長けており、未熟ながらも高い身体能力を持っているが、お化けは苦手。中学3年生になり、受験を控えて進路に悩んでいるが、都川菜乃葉と同じ西鎌倉女子高校への進学を希望している。同じ学校に通う百旗部瑛流から好意を寄せられており、警戒する相手とわかっていながらも突き放す事もできず、困惑を隠せないでいる。

常盤 紅太郎 (ときわ こうたろう)

常盤青志郎と常盤葵の父親で、深沢七瀬の別れた夫。「鎌倉けしや」の「ケシ」や「トメ」を護る「ゴ」を務めている。主に奥之院朱門と行動を共にしており、海外に行くと言った彼と共に旅立った。表向きは海外旅行中となっているが、実はすでにこの世にはいない。その事実は青志郎と奥之院蒼、都川菜乃葉しか知らされていない。

奥之院 朱門 (おくのいん しゅもん)

奥之院蒼の父親で、奥之院月子の夫。「鎌倉けしや」の「ケシ」を務めており、主に「トメ」を務める婆ちゃんと「ゴ」を務める常盤紅太郎とチームを組んでいた。鎌倉での仕事を終えると、紅太郎と共に海外へと旅立った事になっており、表向きは海外旅行中となっているが、実はすでにこの世にはいない。その事実は、一度は月子に知らされたが、彼女が受け止められず自殺未遂を犯したために記憶が消された。そのため、現状は青志郎と奥之院蒼、都川菜乃葉にしかその事実は知らされていない。

奥之院 月子 (おくのいん つきこ)

奥之院蒼の母親で、奥之院朱門の妻。明るく朗らかな人柄で、少々ミーハーなところがある。突然現れた都川菜乃葉が、まだ誰のところにも属していない「トメ」である事を知り、蒼との運命を感じずにはいられないと、すっかり舞い上がっている。菜乃葉には料理や着付けを教えるなど、本当の母娘のような関係を築いている。お茶の先生でもあり、たくさんのお弟子さんがおり、器などにも詳しい知識を持っている。もともと金沢の名家の娘で、夫とは互いに反対を押し切っての大恋愛結婚だった。海外にいると信じていた夫が亡くなった、という事実が伝えられた事があったが、それ以降は食事もできなくなり、最後には手首を切って自殺を図ろうとしたため、記憶を消去。夫が亡くなったという事実が伏せられる事になった。今でも夫は海外を旅行中であると信じている状態で、噓がばれないように周囲がさまざまな形でフォローしている。

婆ちゃん (ばあちゃん)

奥之院朱門の母親。「鎌倉けしや」で朱門の「トメ」を務めていたが、朱門が海外に旅立ったため、現状は仕事を休止中。元気はつらつなお婆ちゃんだが心臓が悪く、最近は体が弱っているのか、倒れたり寝込んだりする事が増えた。パワースポットが大好きで、甘いものに目がなく、孫の奥之院蒼やトメの都川菜乃葉を頼って、なにかと鎌倉銘菓を買って来させている。

菜乃葉の父親 (なのはのちちおや)

都川菜乃葉の父親。鎌倉警察の警察官を務めている。職業柄からけしやの存在を知っており、けしやの仕事内容や、その危うさをよく知っている。そのため、娘が「トメ」として「鎌倉けしや」とかかわり始めた事を知り、大反対している。けしやを営む奥之院蒼とのかかわりを持つ事自体を拒絶しており、蒼との交際も反対の立場を取る。のちに、大好きな小説家の狩野光太郎の執筆を、蒼が手助けした事を知り、少しずつ態度を軟化させて二人の交際を黙認し始める。

祇王 真琴 (ぎおう まこと)

「西京都けしや」で「ケシ」を務める男性。「鎌倉けしや」に新しく来た「トメ」が、女子高校生らしいという噂を聞きつけ、わざわざ都川菜乃葉が通う西鎌倉女子高校まで、大勢のSPを引き連れてやって来た。自分のところのケシにならないかと菜乃葉を勧誘したが、さっそうと現れた奥之院蒼によって妨げられた。ケシの仕事ぶりについては、すぐに気が散って集中力が持続せず、雑になりがち。

壬生 陽色 (いくるみ ひいろ)

東京の「江戸御堀端けしや」の「ケシ」を務める男性。第19代目の後継ぎで、東京に存在する複数の江戸けしやのうちの一人。ウェーブのかかったロングヘアで、真っ赤な高級スポーツカーを乗り回す派手な外見の印象の通り、仕事の仕方もかなり強引。「鎌倉けしや」と違い、依頼者の記憶を消すかどうかの判断もすべて自分が行う決まりになっている。そのためか、殺人の記憶を消すなど犯罪がらみの記憶消去に手を貸す事も少なくない。壬生の母親は、現在末期がんで入院中。亡き父との約束で、桜に強い思い入れがあり、その思いが闘病生活を辛いものにしているため、記憶を消してほしいと頼まれているが、頑なに拒んでいる。また、現在「トメ」が不在で、仕事が立ち行かない状態が続いている。なりゆきで都川菜乃葉にトメを頼んで仕事をする事になるが、それ以降は彼女に興味を持つようになる。

平 将親 (たいら まさちか)

東京の坂東「新宿けしや」のケシを務める男性。平将門の血を引く者であり、自らを「民衆の味方」と語るが、その割に依頼人に対して節操なく依頼料をふっかけるため、不審がられて客に逃げられ、別のけしやに流れる事も少なくない。威勢のいい江戸っ子気質な人物。

猫園 陽貴 (ねこぞの はるき)

東京の「谷中けしや」の「ケシ」を務める男性。人懐っこい笑顔と、かわいらしい少年のような風貌だが、自身の「トメ」を務める大きな猫の名前を「アツコ」、「ゴ」を務める大きな猫の名前を「ユウコ」と付けたが、それを「ダブル浅野」から命名したと語った事から、見た目ほど若くない事が予想される。しかし実際の年齢は不詳のまま、その多くは謎に包まれている。また、けしやの現状に詳しい情報通で、特に東京のけしやに関する情報を多く持っており、それぞれの仕事の仕方にも詳しい。

丹後 自五郎 (たんご じごろう)

東京の「烏森けしや」の「ケシ」を務める男性。最近倒れたため、現在は息子の丹後自由郎に仕事を任せて入院中。もともとほとんど仕事を受けない事で有名で、ヘンクツじいさんとも呼ばれているが、仕事には責任を持って向き合っている。息子の仕事の仕方に腹を立て、無理をして退院するものの、再び体調を崩して帰らぬ人となる。

丹後 自由郎 (たんご じゆうろう)

丹後自五郎の息子。入院中の父親に代わって「トメ」の黒羽暉良が仕切り、「ゴ」の黒羽夢良と三人で東京の「烏森けしや」の「ケシ」を務めている。依頼があれば何でも仕事を引き受けるが、仕事の仕方は荒っぽく、客層もいわゆるヤクザなど、その筋の人ばかり。野々山隆からの依頼を受け、和辻棠香の記憶を消して結婚詐欺に加担した。犯罪に手を貸しているのに、その自覚がまったくなく、責任感もない。父親が亡くなって、ようやく事の重大さを理解し、父親の葬儀中に喪主の挨拶でけしやを引退する事を表明。その後の烏森けしやを、従弟の丹後自に託した。

丹後 自 (たんご みずか)

丹後自五郎亡きあと、東京の「烏森けしや」の「ケシ」を務める事になった男子高校生。丹後自由郎の従弟にあたる。15歳を過ぎた頃から、ケシとしてのパワーが強くなって来たと自負している。何事にも自意識過剰気味で、自己中心的な考え方の持ち主。のちに、「鎌倉けしや」に依頼しようとした長谷を無理矢理説得し、自分にとって初めての仕事だからと、強引に自分のものにしようとする。

黒羽 暉良 (くろは きら)

東京の「烏森けしや」で、丹後自由郎の「トメ」としてパートナーを務める女性。性格が非常にきつく、鋭い目つきをしている。実質、烏森けしやを取り仕切る存在で、金儲けを第一に仕事をさせようとするため、犯罪にかかわる事すら許容する。

黒羽 夢良 (くろは むら)

東京の「烏森けしや」で、丹後自由郎と黒羽暉良を護る「ゴ」としてチームを組んでいる男性。暉良と似た鋭い目つきをしており、長い髪を一つにまとめている。

石蕗 果奈 (つわぶき かな)

夫と共に「鎌倉けしや」に相談に訪れた女性。妊娠中に安産祈願のために大巧寺に参り、御霊神社の「面掛行列」を見に行った。その際、おかめに触れると安産になるという言い伝えを聞き、触れようとしたが、触れる前に転んで流産した。それ以来、悪夢に悩まされるようになった。もともと心臓に病気を持っていたため、体に負担がかかる事を恐れた夫により、けしやに流産の記憶を消して貰う事になった。記憶を消して3か月後に再び妊娠が発覚。しばらくは元気に過ごしていたが、偶然立ち寄った店に飾ってあった面掛行列の写真を見て、また悪夢を見るようになってしまう。その後、悪夢の原因が幼い頃に起きた事件にある事が判明する。

小島 さなえ (こじま さなえ)

道端で夫の小島竜とケンカをしていた女性。相手が手に刃物を持っていたため、通りかかった奥之院蒼と都川菜乃葉に、記憶を消される事で助けられた。実はその日だけではなく、日常的に夫からのDVに悩まされていたため、後日「鎌倉けしや」に足を運び、過去の自分に捕らわれ続けている夫の記憶を消してほしい、と依頼する事になる。

小島 竜 (こじま りゅう)

小島さなえの夫。道端で妻に暴力をふるっているところを見られ、緊急的に奥之院蒼によって記憶を消された。もともとは売れっ子の歌手で、代表曲の「海歌」が有名だったが、結婚して人気も落ち、お酒に走るようになった。最近は仕事がなくなり、まったく歌わなくなってしまった。過去の自分に捕らわれ、なに一つ思い通りにならない今に苛立ちを覚えており、妻に対して暴力や暴言を吐くようになった。そんな苦しみから解放してあげたいという思いを持った妻により、「鎌倉けしや」に記憶を消去される事になる。

東條 莉名 (とうじょう りな)

子役として有名な少女。ライバル子役である榎本美香のファンの男に誘拐されたが、都内の公園で無事保護された。発見時、左手のひらをバツ印に傷つけられ、右手にはべとべとに溶けたキャンディーを握りしめた状態で、心を閉ざしてしまっていた。心配した父親や芸能事務所の関係者、警察官の付き添いのもと、「鎌倉けしや」を訪れ、誘拐されていた際の記憶の消去を依頼。問題となった記憶はすぐに消されたものの、のちに再び心を閉ざした状態に戻ってしまい、問題の本質が別のところに存在する事が明らかになる。

母親の恋人 (ははおやのこいびと)

東條莉名の母親と付き合っていた恋人。金髪で浅黒い肌のチャラチャラした男性で、莉名の母親が不在の時を狙い、莉名に性的虐待を行っていた。その際、莉名を黙らせるためにキャンディを与えたうえで、「黙っていないとママに嫌われる」「パパやママは君がお金を稼ぐからかわいいんだ」と心理的に圧迫した。誰かに知られたらどこにも行くところはないと洗脳し、莉名の心に大きな傷を作った。

榎本美香のファン (えのもとみかのふぁん)

子役の少女「榎本美香」のファンである男性。大好きな美香のためにという大義名分を振りかざし、美香のライバル子役である東條莉名を誘拐した。顔がわからないように少女のキャラクターのお面をかぶり、美香の邪魔をするなとナイフで脅したり、いらない子には印を付けると言って左手のひらにバツ印に傷を付けた。

近衛 綾乃 (このえ あやの)

政略結婚を目前に控えた女性。愛する人の記憶を消してもらうため、父親と共に「鎌倉けしや」を訪れた。現在、飯島圭助と交際しているが、彼の父親はダム建設の反対運動をしており、綾乃の母親が車いすでの生活を余儀なくされる事になった原因を作った人物。そのため二人が交際する事には、家族からの大反対を受けている。病床の母親からの血を吐くような頼みを受け、家柄に相応しい人との結婚を迫られており、どうしてもその結婚を断る事ができない。そのため、圭助といっしょになる事をあきらめ、彼との思い出をすべて記憶から消す事を決めた。しかし、鎌倉けしやの手水鉢の水は色が変わらず、記憶を消す必要がないと判断されてしまう。

飯島 圭助 (いいじま けいすけ)

近衛綾乃と相思相愛の関係にある男性。綾乃の別荘の近くの牧場で馬の世話をしており、動物好きで笑顔の優しい好青年。綾乃が別荘に遊びに来た時に知り合い、それ以降は別荘に来るたびに恋心が深まっていった。しかし、飯島圭助の父親はダム建設の反対運動をしている人物で、そのデモが原因となって、綾乃の母親が事故に遭い、車いすでの生活を余儀なくされる事になった。そのため二人が交際する事には、彼女の家族から大反対を受けている。綾乃の家柄に相応しい男性との結婚を目前に控え、綾乃との幸せだった記憶を「西京都けしや」にすべて消してもらう事になった。

常岡 あすか (つねおか あすか)

長尾と結婚を考えている女性。沖縄出身。長尾と共に「鎌倉けしや」を訪れた。長尾に出会った日、泥酔状態だった彼を介抱した際、長尾が人を殺した事を詳細に口にしたのを聞いてしまう。しかし、その後はどんなに本人に問い詰めても、なにかの勘違いの一点張りで、まったく記憶にない様子。そのため長尾といっしょになるにあたり、不安を消しておきたいと、彼があの日の夜に口にした事のすべての記憶を消してもらいたいと依頼する。

長尾 (ながお)

常岡あすかの先輩にあたる沖縄出身の男性。彼女との結婚を考えている。あすかに出会った日の夜、人を殺したとその詳細を口走ったという彼女の言い分に対して、まったく身に覚えがないと弁明した。酒に酔った状態だったため、なにかの間違いだと思っているが、あまりにも彼女が気にするため、二人で「鎌倉けしや」を訪れ、その際の記憶を消して貰う事で解決しようとしている。

七森 桜子 (ななもり さくらこ)

「七森酒店」の娘。雄真と梅津雅樹とは幼なじみ。ミス鎌倉に選ばれ、一躍有名人となった。そのかわいさから、自宅にはつねにファンレターが届くほどに人気がある。ある日、ストーカー男に付きまとわれて困っていたところ、偶然知り合った都川菜乃葉に助けを求めた。その後、届けられたファンレターの中に「お前もあの男も殺す」とだけ書かれた脅迫状が紛れ込んでいた事が判明。これがきっかけで、「鎌倉けしや」に助けを求める事になる。8年前、鎌倉二階堂覚園寺で行われる深夜の黒地蔵縁日に訪れたが、一人になったところを見知らぬ男に襲われた事があった。その際、いっしょにいた雅樹に助けられたと記憶しており、雅樹を慕っている。

梅津 雅樹 (うめづ まさき)

美容院の息子。七森桜子と雄真の幼なじみ。桜子に思いを寄せていた事もあり、中学生の頃に告白して、付き合い始めた。8年前、鎌倉二階堂覚園寺で行われる深夜の黒地蔵縁日で桜子が襲われた際、桜子を助けたと思われている。それが勘違いだと言い出せないまま、月日が流れてしまった事を気に病んでいる。

雄真 (ゆうま)

鎌倉彫の店「白水堂」の跡取り息子。七森桜子と梅津雅樹の幼なじみ。8年前、鎌倉二階堂覚園寺で行われる深夜の黒地蔵縁日で桜子が襲われた際、男に襲い掛かって桜子を助けた張本人。桜子の記憶違いで、雅樹に助けられたと思い込んでいたため、そのまま訂正する事もなく、ただ桜子への思いを胸に秘めている。その時に負った傷が原因で握力が弱くなり、家業である鎌倉彫を彫れなくなって、主に販売や営業に貢献している。

ストーカー男 (すとーかーおとこ)

七森桜子に付きまとっている男性。両腕に竜の入れ墨があり、大船のアパートで一人暮らしをしている。8年前、鎌倉二階堂覚園寺で行われる深夜の黒地蔵縁日で、桜子が一人になったところを見計らい、襲い掛かった。しかしその直後、彼自身も雄真に襲われ、翌朝、頭と足にケガをした状態で発見された。一旦保護された際、身元を調べるうちにさまざまな犯罪が明らかになったため、逮捕される事となって服役。最近になり、出所したのをきっかけに再び桜子に付きまとうようになった。当時の事を根に持ち、「お前もあの男も殺す」とだけ書いたファンレターを送った。

梶 修司 (かじ しゅうじ)

都川菜乃葉の自宅の斜め前に住む男子高校生。2か月前にひき逃げの交通事故に遭い、植物状態となって入院している。彼が最後に発した言葉は「赤いツードア」だったため、轢き逃げ犯の車を示す重要な証言として、警察で捜査が行われた。しかし手がかりすら見つからないまま、犯人検挙には至っていない。まだ元気だった頃、菜乃葉に思いを寄せていた。

梶の母親 (かじのははおや)

都川菜乃葉の自宅の斜め前に住む梶修司の母親。2か月前、息子の修司がひき逃げ事故に遭ってからも、菜乃葉と話をしたり、近所付き合いを続けている。修司の父親とは離婚しており、現在はシングルマザー。パートの勤め先で知り合った男性と付き合っており、将来結婚する約束をしている。

真理 (まり)

7年前に、漁師の夫を交通事故で亡くした女性。それ以来、亡き夫の母親の村井清子の様子がおかしくなってしまった事に心を痛めている。もともと、義母には本当の娘のように優しくかわいがってもらったため、息子を亡くした苦しみから解放してあげたいと思っている。そのため、偶然知り合った奥之院蒼と都川菜乃葉が「鎌倉けしや」である事を知り、息子を亡くしたという義母の記憶を消してほしいと依頼する。

村井 清子 (むらい きよこ)

江ノ電の腰越駅近くの踏切で、警報音が鳴っているにもかかわらず、踏切内に立ち入ろうとしていた女性。息子が帰って来るから急いでいると説明しているが、実は認知症を患っている。7年前に、漁師の息子を交通事故で亡くして以来、4時半を知らせるチャイム「夕焼け小焼け」が流れると、半狂乱になってしまうようになった。亡き息子の嫁である真理を、本当の娘のようにかわいがっている。

真一 (しんいち)

真理の息子。7年前、漁から帰って来たばかりの父親が、自分をかばって事故に遭い、亡くなった。父親を死に至らしめた原因が自分にある考え、祖母の村井清子が辛い思いをしているのも自分のせいであると、自らを責め続けている。

樹 可奈子 (いつき かなこ)

年齢よりもかなり若く見える、いわゆる美魔女。年齢は42歳。今人気の俳優、夏木大和と交際している事で、週刊誌に記事が掲載されて一躍時の人となった。しかし、「鎌倉けしや」に大和と共に姿を現し、彼の中の自分の記憶を消してほしいと依頼する。その理由は「大和に飽き、別れたいのに彼が承諾しないから」と強がって語るが、実は大和に対してかなり強い思いを持っている。整形を重ねて美を作り上げた自分には、愛されるに値しないと自分を卑下し、将来ある彼との関係を気にしている。

夏木 大和 (なつき やまと)

今人気の俳優の男性。ドラマ「時計じかけの恋」で一世を風靡した。年齢は27歳。その後、15歳年上の樹可奈子との交際が週刊誌に取り沙汰される事となる。可奈子から、交際を終わりにしたいとの意思表示があったが、全力で拒絶している。可奈子はけしやを利用する事で、自分の記憶を消し、すっきり別れて事を収めようとしているが、記憶が消えてもきっと可奈子をまた好きになるからと、彼女に対する気持ちに大きな自信を持っている。

近江 勇人 (おうみ ゆうと)

奥之院蒼の幼なじみの男性。もともと鎌倉の二階堂川のそばに住んでいたが、中学生の頃に母親と共に町田に引っ越して来た。高校生の頃、父親が事故で亡くなり、自分が養子である事を知る。実の親は刑務所に入っている事を知らされていなかったため、育ての親を恨み、きつく当たって家を出た。その後、育ての母が心労で入院した事を知り、後悔する。坂東の新宿けしやに、母親に辛く当たった記憶を消してもらおうとしたが、誠意のない対応に怖くなり、「鎌倉けしや」を訪れてみる事にした。その際、バイクで鎌倉を訪れ、都川菜乃葉とぶつかりそうになり、蒼と偶然にも再会を果たす。のちに親子関係を修復し、鎌倉の家に戻って再び二人で暮らし始める。

優美子 (ゆみこ)

近江勇人の育ての母親。勇人とは血のつながりはないが、本当の母親以上に子育てに取り組んで来た。しかし、夫が事故で亡くなったのをきっかけに、勇人が養子である事が明るみになり、築いて来た親子関係が崩れ始める。暴言を吐いて出て行ってしまった息子を思い、心労がたたって持病の心臓病が悪化し、入院する事になってしまう。のちに親子関係を修復し、鎌倉の家に戻って再び二人で暮らし始める。

勇人の彼女 (ゆうとのかのじょ)

東京で、近江勇人と交際している彼女。勇人と育ての母親の優美子のあいだに起きた事を知り、お母さんが泣いているよと、勇人を諭した。親子の関係修復後には、鎌倉の家を訪れた。

深町 ほのか (ふかまち ほのか)

西鎌倉女子高校の制服を着た女子生徒。ひぐらし公園で都川菜乃葉に声を掛けてなかよくなった際、3年A組に在籍していると答えたが、実は5年前の2月にすでに亡くなっていた。逗子の海で遺体が発見され、投身自殺とされている。だが実は、5年前のバレンタインデーに、同じ塾に通う笹塚にチョコレートを渡すためひぐらし公園に呼び出した際、塾講師の平沼によって殺害された。そのまま車で運ばれ、逗子の海に遺棄される事になったが、好きな人にチョコレートを渡す事ができなかった事を無念に思い、成仏できずに霊となって公園に存在し続けている。

笹塚 (ささづか)

深町ほのかと同じ塾に通っていた男子生徒。ほのかに対して思いを寄せていた。そのため、5年前のバレンタインデーに呼び出された時には、非常に喜んでいた。彼女の思いに応えようと、かわいらしいスイーツの形のストラップを用意し、プレゼントする準備をしていた。しかし当日、彼女が姿を現さなかったため、からかわれたと思い込んでいた。5年後、彼女が亡くなるに至った経緯が明らかになり、幽霊となってひぐらし公園に存在している事を都川菜乃葉から聞かされる。当時待ち合わせに指定されていた公園に行き、護ってあげられなかった事への無念を口にした。

平沼 (ひらぬま)

深町ほのかが通う塾で講師を務めていた男性。勝手な勘違いから、ほのかに対して一方的に歪んだ愛情を持ち始める。自分の事が好きなら早く告白するようにと、ほのかに手紙を送るなどストーカー行為を行っていた。5年前のバレンタインデーに、別の男子生徒にチョコレートを渡そうとしたほのかに逆上して殺害する。車で逗子の海まで移動し、ほのかの遺体を捨てた。しかし現在、平沼自身はその殺人の記憶がまったくない状態で、鎌倉以外のけしやに記憶を消された可能性がある。

若松 瑠理 (わかまつ るり)

都川菜乃葉と同じ西鎌倉女子高校に通う女子生徒。弓道部に所属しているが、最近不眠がちでスランプが続いている事に悩んでいる。第二次世界大戦において軍服の男性と別れ、悲しい思いをするという夢を毎日見るようになり、毎日起きると泣くほどの悲しみを覚えるため、眠るのが怖くなってしまった。埼玉県に住んでいた時は一度もなかったが、高校生になって鎌倉に引っ越したあと、友達に鎌倉を案内したのと同じ頃からこの夢を見るようになった。菜乃葉に話した事がきっかけで、「鎌倉けしや」に相談する事になるが、向かった先で流鏑馬(やぶさめ)の練習を見て、八木沼と知り合い、縁を感じて自分も流鏑馬の練習に加わる事を決める。

八木沼 (やぎぬま)

竹細工の職人を務める50歳代の男性。自宅の庭にはたくさんの矢筈ススキが生えており、そのススキは奥之院家に贈られ、飾られている。有名な弓の射手でもあり、流鏑馬の実力者。馬と瞬時にコミュニケーションを取り、馬がどんな動きをしようと、決して的を外す事はないといわれている。そんな彼にあこがれる人も多く、ファンの中には矢を射る時の掛け声をまねる人も少なくない。

森谷 花香 (もりや はなか)

長野県出身の女性。現在は東京で一人暮らしをしつつ、OLとして丸の内に勤めている。北鎌倉で、都川菜乃葉と奥之院蒼に円応寺までの道を聞いた。左右の眼の色が違うオッドアイで、ミステリアスな雰囲気を漂わせている。2013年の手帳を手に持ち、教えられた通り寺へと向かった。しかし、到着しても寺に入ろうとせず、怪しまれてしまう。実はここ1年間の記憶だけまったくない状態で、気づいたら付き合っている彼氏の白河辺雄也が持つ伊東の別荘で療養していた。部屋の片づけをしていた時、以前の手帳を見つけたため、なくなった記憶を取り戻したい一心で、手帳の記録を頼りに鎌倉を巡っていた。2013年の彼女は、安産祈願や子供の無事を願う寺を回っており、それは暗に彼女が妊娠し、出産した事を意味していた。

白河辺 雄也 (しらかわべ ゆうや)

森谷花香が付き合っている男性。花香とはジムに行ったりデートをしたりと、ふつうのお付き合いを楽しんでいた。実家は鎌倉の旧家で、日常的にお見合いを進められて困っている様子を見せた。ある時、倒れた花香を伊東の別荘に連れて行き、ホルモン異常の病気だからと療養させていた。実は6年前に海藤通運のお嬢様だという女性と結婚している既婚者だった。花香には独身であると噓をつき、東京の愛人として付き合いを続けていた。

白河辺の妻 (しらかわべのつま)

6年前に白河辺雄也と結婚した女性。もともとは、鎌倉で有名な海藤通運のお嬢様だった。子供ができない体質だったため、夫が親戚の子供を養子にもらったと言って連れて来た男の子を育てていた。しかしある時、伊東の別荘に夫の愛人がいる事を知る。彼女の特徴的な瞳と、自分が育てている男の子の瞳がそっくりな事に気づき、この子供が愛人の子である事を知った。それ以降、少年を地下の暗闇へと閉じ込め、虐待を続けて来た。

若宮 風磨 (わかみや ふうま)

庭師の風磨の父親に連れられ、「鎌倉けしや」を訪れた少年。夏休みに父親の仕事場である白河辺邸に行った際、人がいるはずのない所から手招きしている手を見たり、子供の泣くような声を聞いたり、窓に付いた血のようなものや、突然スリガラスに子供の手跡が付く瞬間に遭遇。ガラスの向こうに子供がいるのではないかと考えると同時に、お化けを見たと怖がるようになった。

風磨の父親 (ふうまのちちおや)

若宮風磨の父親。湘南ガーデニングという名の会社で庭師を務めている。頭にタオルを巻き、長い髪を後ろで束ね、あごひげを蓄えている。風磨を仕事現場である白河辺邸に連れて行った時から、お化けを見たと言って聞かず、夜もトイレに行けない状態だったため、その記憶を消してほしいと「鎌倉けしや」を訪れて依頼した。奥之院蒼から、記憶を消す必要がないと告げられると、それでは困ると食い下がったが、その理由を話す事を拒んで早々に引き上げていった。

千穂 (ちほ)

都川菜乃葉の友達の姉。最近、彼氏の裕に元気がないため、心配している。出先で菜乃葉と会い、話した事がきっかけで彼が危険な東京のけしやとかかわりを持っている事を知り、悪い事に手を染めているのではないかと心配している。

(ゆう)

千穂が付き合っているサーファーの男性。父親が急に亡くなり、経営していた雑貨店がうまくいかなくなってしまった。お金に困った挙句、新宿に行ってはけしやと会っており、ふらふらと歩いて車に轢かれそうになるなど、様子がおかしいところが目撃され、周囲から心配されている。違法薬物に手を染めており、ガラの悪いチンピラから追われていたが、実は平将親に協力を仰いで薬物から足を洗おうとしていた。

神崎 哲也 (かんざき てつや)

常盤青志郎の友人の男性。平日はふつうのサラリーマンとして会社勤めをしているが、休日は実家が営む「鎌倉俥屋」という名の俥屋を手伝い、車夫として人力車を引いている。明るくまじめな性格で、何事にも一途に取り組んでいる。職場でも優秀な才能を発揮し、ニューヨークに栄転の話も出ているようで、将来をかなり嘱望されている。勤め先の先輩の由美に思いを寄せているが、彼女が同じく会社の先輩である進との結婚を目前に控えており、思いを伝える事もしないまま、あきらめようとしていた。しかし、都川菜乃葉からけしかけられ、最後のチャンスと由美に告白。結局断られ、ふられてやけになった挙句に酒を飲んで階段から落ち、ケガをしてしまった。しかし、由美の方にも神崎哲也に対する気持ちがある事がわかり、今後のためにも、互いの記憶を消してほしいと「鎌倉けしや」を訪れる。

由美 (ゆみ)

会社の同僚の進との結婚を目前に控えた女性。神崎哲也と同じ会社に勤めており、哲也は自分の後輩にあたる。進に対してはもちろん愛情も感謝の念も持っているが、哲也と知り合って3か月、彼に対して惹かれ始めている自分に気づいてしまった。結婚直前に哲也からの告白を受けて、きっぱり断りはしたものの、互いの今後のためにも、出会って3か月の記憶を消してほしいと「鎌倉けしや」を訪れる。

(すすむ)

会社の同僚の由美との結婚を目前に控えた男性。ぽっちゃり体形で眼鏡をかけており、温厚で人がいい。仕事においても、的確なフォローやアドバイスができて人望が厚い。神崎哲也と同じ会社に勤めており、哲也は自分の後輩にあたる。公私にわたり彼をとてもかわいがっているが、由美と哲也が惹かれ合っている事に気づいており、由美には心の底から幸せになってもらいたいと、結婚式当日に哲也の引く人力車に由美を一人で乗せるという賭けに出た。

滝口 絵里 (たきぐち えり)

夫の滝口政孝が不倫をしている事に気づき、「鎌倉けしや」を訪れた女性。政孝の携帯電話のメールを見て浮気に気づいたが、専業主婦として家庭を守り、夫を愛するが故に依存して生きて来たため、夫を失う事への恐怖から逃れたいと考えた。そこで、けしやと書かれたチラシを目にし、メールを見なかった事にしたい、浮気の記憶を消してほしいと依頼するために鎌倉を訪れた。実は毎年けしやを訪れている常連客だった事が発覚。滝口絵里本人は忘れているが、毎年夫の不倫の記憶を消してもらいにやって来ていた。きちんとした性格で、庭の手入れや家事をてきぱきとこなし、庭で採れたハーブでお茶をいれたり、ジャムを手作りするのが好き。最近始めた草木染めにはまっており、染めた作品は近所の店で販売してもらっている。

滝口 政孝 (たきぐち まさたか)

滝口絵里の夫。妻以外の女性と不倫しており、その証拠となるメールを妻に見られてしまった。妻に対しては自分の浮気自体よりも、携帯電話を勝手に見た事を叱責。逆ギレして妻との話し合いにも応じない状態が続いている。後日、妻の記憶を消さなかった「鎌倉けしや」に怒鳴り込み、何故妻の記憶を消さなかったのかと奥之院蒼に文句を言い、殴りかかろうとした。若い頃から女性にモテるタイプで、つねに複数の女性と付き合っていた。自分勝手で横暴な振る舞いが目立つ。

狩野 光太郎 (かりの こうたろう)

有名な推理小説家の男性。鎌倉の長谷、坂の下あたりの海沿いに住んでいる。「東山商店長探偵シリーズ」と「潜り込み屋シリーズ」が大人気を博している。最近病に倒れて体が不自由になり、寝たきりの状態になってしまった。そのため、最新シリーズの連載も途中でとまってしまっている。意思の疎通も図れない状態になっており、家族はそっとしておいてほしいと考えているものの、実は狩野光太郎本人は執筆したい様子。動かなくなった体の奥に閉じ込められているが、意識は健在で、編集者の奥崎に呼ばれた奥之院蒼によってコンタクトを取る事に成功し、小説の続きを蒼を通じて伝え、新たに執筆を再開する事になる。

真理 (まり)

狩野光太郎の妻。小説家の夫が倒れ、体が動かなくなって寝たきりになり、意思の疎通も図れなくなったため、以前の夫はもう戻ってこないとあきらめていた。それでも小説の執筆を頼みに来る編集者の奥崎には半ばあきれ、もうそっとしておいてほしいと話した。後日、けしやの奥之院蒼を連れて訪れた際、なにやら小説の続きを口頭で伝え始めた事に疑念を持ち、騙されていると声を荒げる場面もあった。しかし、夫から蒼を通じて「真理さん」と名前を呼ばれた瞬間に、落ち着きを取り戻した。彼女の本当の名前は稲子だが、その名前が大嫌いだったため、夫と二人だけで決めた秘密の呼び名が真理だった。どんなに怒っていても、必ず名前に「さん」を付けて呼ぶ夫の様子がそのまま伝わったため、蒼への疑念が晴れ、彼を信じる事にした。

奥崎 (おくざき)

狩野光太郎の担当編集を務める男性。小説家の狩野光太郎のいちファンとして、どうしても小説の続きを執筆してもらいたいという気持ちが強く、病気療養中の狩野から小説の続きの記憶を引き出し、代わりに執筆してほしいと「鎌倉けしや」の奥之院蒼に依頼した。けしやに依頼する前は、霊能者に声を掛けた事もあり、何としても小説の続きを手に入れたいと、執筆してもらう事だけに情熱を注いでいる。

吉田 勇司 (よしだ ゆうじ)

奥之院月子をお茶の先生として師事する男性。お茶だけでなく、茶碗にも詳しい。大雑把な性格で、茶碗を箱から出すと、その箱に別の茶碗を入れてしまうようなタイプ。ある日、脳出血で帰らぬ人となるが、彼の愛用していた茶碗が持つ記憶から、殺害された事が発覚する。骨董市で大日本骨董の古物商から購入した茶碗に「飛龍」と名前を付け、愛用していたが、のちに手違いだったから返してほしいと自宅に押し掛けられた。それを断ったために逆上した古物商に突き倒され、頭を打ったのが原因で脳出血となり、この世を去った。

大日本骨董 (だいにほんこっとう)

龍口寺で開催された骨董市で出店していた古物商の男性。店名は「大日本骨董」で、もともとは父親が切り盛りしていたが、その父親が倒れたために骨董に関してはまったく知識のない息子が、右も左もわからない状態で急遽跡を継ぐ事になった。骨董品を見ても、お金としての価値しか見出さないタイプで、吉田勇司に売った茶碗が、正玩堂の女性の入れ知恵で高価なものだった事を知り、返してほしいと自宅まで押しかけた。しかし吉田がそれを嫌がり、抵抗したために突き倒して強引に器を強奪した。

正玩堂 (せいがんどう)

龍口寺で開催された骨董市で出店していた古物商の女性。つばの大きな帽子を目深にかぶった美人で、店名は「正玩堂」。古物商の大日本骨董を焚きつけ、茶碗の価値を入れ知恵し、売った先である吉田勇司の自宅にいっしょに押し掛けた。そのため、吉田が殺害された現場にもおり、すべてを見ていた。骨董品に関する知識は持っているが、金銭的な価値しか見出さないタイプ。器に対する愛情はなく、人が亡くなった事に対して罪悪感や責任感もない。

五郎丸 舞子 (ごろうまる まいこ)

認知症の母親を介護している女性。5年前に息子と夫を事故で一度に亡くし、続いて父親を病気で亡くした。残った母親は、3~4年前から認知症を患い、寝たきりの状態になってしまったため、たった一人で介護にかかりきりになった。以前はクリスマスシーズンになると、家をすべてイルミネーションで飾り付け、きらびやかな状態だったが、介護でそれどころではなくなってしまった。ある日、介護中に誤ってグラスで手を切り、よろけて窓に突っ込んでガラスを割ってしまったところ、近所の女性と通りかかった奥之院蒼、都川菜乃葉に助けられた。それがきっかけでけしやの存在を知り、後日「鎌倉けしや」を訪れて、介護の辛さを忘れたいと記憶の消去を依頼する。詐欺を働いて生き別れた弟の五郎丸光樹の事を、今でも恨んでいる。

五郎丸 光樹 (ごろうまる みつき)

五郎丸舞子の弟。若い頃に悪事を働き、詐欺で警察に捕まった。両親や姉からは絶縁され、そのまま行方知れずとなっていたが、最近になってから過去の自分の行いを心から反省し、姉宛てに謝罪の手紙を出した。妻と小さい息子と三人で暮らしており、まだ借金があるが、小さなジャム屋を営んで生計を立てている。

藤山 紅梨 (ふじやま あかり)

鎌倉で「洋食鍋島」という店を探している女子生徒。重い病気を患っている祖母が、鎌倉での思い出話を繰り返し話す中で、鍋島のハンバーグに対する思い入れを知り、もう一度食べさせてあげたい一心で、鎌倉を訪れて店を探していた。奥之院蒼と都川菜乃葉に出会った事で、洋食鍋島を営んでいた老夫婦の孫、鍋島将輝と知り合い、お店を見つける事はできたが、すでに閉店してしまっていた。話を聞いた将輝の好意で、ハンバーグのレシピ復活に向けて奔走してくれる事になり、祖母の夢をかなえてあげる事に成功。これをきっかけに、将輝と付き合う事になる。

鍋島 将輝 (なべしま まさき)

東鎌倉高校の男子生徒。奥之院蒼のクラスメイト。祖父母が「洋食鍋島」を営んでいたが、店主である祖父が認知症になり、店を畳んだ。店を探してやって来た藤山紅梨をほっておけず、彼女のためになんとかしてあげたい一心でハンバーグの再現を試みるが、なかなかうまくいかず、祖父の頭の中にだけ存在するハンバーグのレシピを引き出してほしいと、「鎌倉けしや」に依頼。蒼の力を借りようとするが、認知症であるがゆえにそれもうまくいかず、頭を抱える事となった。しかしそれにめげず、努力に努力を重ねて最終的にはレシピの完全再現に成功。自分が洋食鍋島を継ごうと、動き始める事になる。これをきっかけに、紅梨と付き合う事になる。

和辻 八重 (わつじ やえ)

奥之院月子をお茶の先生として師事する女性。妙本寺の近くの自宅から、奥之院家の茶室に通っている。美人三姉妹の長女で、妹の和辻棠香、和辻吉野と仲がいい。八重桜が咲いたころに生まれたため、この名前が付けられた。付き合っている彼氏がいるが、お金を貸していて、順風満帆な付き合いというわけではない様子。ある時から、棠香が急に彼氏の事を忘れてしまったため、心配になって吉野と共に「鎌倉けしや」を訪れた。

和辻 棠香 (わつじ とうか)

奥之院月子をお茶の先生として師事する女性。妙本寺の近くの自宅から、奥之院家の茶室に通っている。美人三姉妹の次女で、姉妹の和辻八重、和辻吉野と仲がいい。海棠が咲いたころに生まれたため、この名前が付けられた。野々山隆からプロポーズを受けたため、吉野の次に結婚するのは和辻棠香だと思われていたが、ある日突然隆の事を忘れてしまったうえに、預金500万円もなくなっていた。

和辻 吉野 (わつじ よしの)

奥之院月子をお茶の先生として師事する女性。妙本寺の近くの自宅から、奥之院家の茶室に通っている。美人三姉妹の三女で、姉の和辻八重、和辻棠香と仲がいい。ソメイヨシノが咲いた頃に生まれたため、この名前が付けられた。三姉妹の中では一番に結婚した唯一の既婚者。次に結婚するのは和辻棠香だと思われていたが、ある日突然彼氏の事を忘れてしまったため、心配になって八重と共に「鎌倉けしや」を訪れた。

野々山 隆 (ののやま たかし)

和辻棠香と付き合っていた彼氏。感じのいい男性で、棠香の姉妹である和辻八重、和辻吉野といっしょに食事をした事もあり、二人からの印象もよかった。棠香にプロポーズをしたため、結婚は秒読みと思われていた。しかしある日、突然姿を消して棠香は彼に関する記憶をすべて失ったうえ、預金500万円も失った。住んでいたはずの住所は空き家になり、メールや電話番号も使えないものとなっていた。実は結婚詐欺を働き、「烏森けしや」を利用して相手の女性の記憶を消していた。

石坂 大河 (いしざか たいが)

鎌倉時代の武士になりきるイベントを行う団体「鎌倉鎧クラブ」に所属している男性。その体格のよさから、主に弁慶役などを任される事が多い。気のいい性格で周囲から頼られ、好かれていた。空手の経験者である事から、ストーカー被害に遭っていた剣崎凪にボディーガードを申し出た事もあり、頼れる存在だった。ある日、黒田一世と共に瀕死の重傷で発見されて病院に運ばれたが、その後帰らぬ人となった。その目撃証言や状況から考えて、黒田に刺されたものと思われ、殺人事件として捜査される事になる。

黒田 一世 (くろだ いっせい)

剣崎凪のファンの男性。鎌倉時代の武士などの装束で、歴史上の人物になりきるイベントなどを行う団体「鎌倉鎧クラブ」のイベントに姿を現しては、凪を隅の方からじっと見つめたり、写真に収める姿が何度も目撃されていた。そのため、凪のストーカー被害の犯人は彼なのではないかと、一部関係者のあいだでささやかれていた。ある日、石坂大河と共に瀕死の重傷で発見され、病院に運ばれたが帰らぬ人となった。その目撃証言や状況から考えて、彼が石坂を刺したものと思われ、殺人事件として捜査される事になる。

剣崎 凪 (けんざき なぎ)

鎌倉時代の武士になりきるイベントを行う団体「鎌倉鎧クラブ」に所属している女性。主に巴御前の役を任される事が多く、切れ長の美人で人気がある。少し前から、家のポストやカバンの中に気味の悪い手紙が入っていたり、いつも誰かにつけられているような感じがしており、ストーカー被害に遭っていた。そのため、心配した石坂大河がボディガードを申し出てくれる事もあった。

美亜 (みあ)

猫のうり子の記憶をたどると現れる少女。まだ幼いのに家には誰もおらず、夜中に一人ぼっちで外にいたり、汚い部屋で過ごしている。そのため、保護者によるネグレクトが疑われており、早急な保護が必要と思われる状況にある。しかし猫の記憶だけが頼りで、どこに住んでいるか住所も詳細な状況もわからないため、「谷中けしや」の猫園陽貴が中心となって、その実態が捜索される事になった。その後、無事発見に至り、施設に保護される事になるが、保護者からの言葉がトラウマとなり、人と話す事ができない状態となっていた。

久世 莉莉 (くぜ りり)

入院中の少女。実の母親の真由が自殺で亡くなり、父親の久世聖二と再婚した義母の久世結衣と暮らしていたが、現在は体調を崩して入院している。真由からの遺言で譲り渡された人形に、ルルと名前を付けてかわいがっている。入院中も人形を片時も離さないが、次第に具合が悪くなって視力も失いかけている。

久世 結衣 (くぜ ゆい)

久世莉莉の義理の母親。真由と離婚した久世聖二と、後妻として再婚した。莉莉の事は、本当の娘のようにかわいがっており、夫と三人仲睦まじく暮らしていた。しかし、莉莉が大切にしている人形のルルが、夜中に一人で歩く姿を目撃。夫に相談したが信じてくれず、思い悩んでいる。いつも気づくと人形は棚の下のごみ箱に入っており、まるで投身自殺を図ったようで気味が悪いと感じている。同じ頃、莉莉が倒れたため、その原因も人形にあるのではないかと疑い、人形供養が必要だと思っている。

久世 聖二 (くぜ せいじ)

久世莉莉の父親。15年前に真由と結婚して莉莉が生まれた。しかし真由が産後、鬱になり離婚。莉莉は自分のもとで育てる事になった。その後、久世結衣と再婚したが、それを知った真由が自殺してこの世を去った。莉莉と結衣と仲睦まじく暮らしていた中、真由の遺品である人形のルルが、夜中に一人で歩く姿を見たと、結衣が気味悪がり始めた。初めは取り合わなかったが、同じ頃に莉莉が体調を崩し、入院する事になったため、はっきりさせようと「鎌倉けしや」を訪れた。

真由 (まゆ)

久世莉莉の母親。15年前に久世聖二と結婚した。ちょうどその頃、亡くなった従姉の形見の人形を譲り受け、とてもかわいがっていた。莉莉が生まれた産後、鬱になって実家に帰る事になった。その後の状況は改善されず、莉莉は聖二のもとで育てられる事になって離婚。のちに聖二が久世結衣と再婚した事を知り、自殺した。彼女の遺言により、人形は莉莉に譲渡された。

ルル

久世莉莉が大切にしている人形。もともとは実母の真由が、亡くなった従姉の形見として譲り受け、かわいがっていた。その真由も自殺したため、遺言によって娘の莉莉に譲渡された。莉莉にも非常にかわいがられていたが、夜中に一人で歩く姿が久世結衣に目撃され、どんなにきちんと置いておいても、朝になるとなぜか棚の下のゴミ箱に入っていて、まるで投身自殺を図ったようだと気味悪がられ始める。

深沢 七瀬 (ふかさわ ななせ)

常盤青志郎と常盤葵の母親で、常盤紅太郎の別れた妻。酒好きでヤンチャな印象だが、憎めなかわいらしさがある。葵からは離婚の原因が母親にあると思われているために憎まれているが、実は紅太郎の方に原因があった事は青志郎が知っている。離婚後、新しく「熊ちゃん」と呼ばれる男性と再婚し、暮らしている。南天に思い入れがある。

壬生の母親 (いくるみのははおや)

壬生陽色の母親。鎌倉第一病院に入院中。末期のがんで、次の桜は見られないだろうといわれている。夫との出会いをはじめとして、さまざまなシーンを桜の下で過ごした幸せな思い出があり、愛する夫と死に別れたのも、満開の桜が窓から見える病室だったため、桜には並々ならぬ思い入れを持っている。桜の下で待っているという、亡き夫の言葉を胸に闘病生活を送って来たが、今はそれが果たせるかどうかわからない状態で、逆に重荷になってしまっている状況。そのため、いっその事この思い出を消してほしいとさえ思うようになり、陽色に記憶の消去を申し出たが、強く拒否されている。

長谷 (はせ)

経団連の会長を務める男性。鎌倉の「不動茶屋」で長谷の妻と休憩を取っていた時、奥之院蒼と都川菜乃葉と知り合い、映画『ローマの休日』の話題で意気投合。売り切れになって買えなかった鎌倉みやげを分けてもらい、お礼にお茶を御馳走した。夫婦の時間をとても大切にしており、妻がとても大切と考えている。その後、妻がガンである事が発覚。余命いくばくもないと知らされてから、食べ物さえ受けつけず、泣いて閉じこもるようになってしまった妻が不憫でならず、告知された時の記憶を消してほしいと「烏森けしや」を訪れた。しかし、いつも頼んでいた丹後自五郎が亡くなってしまった事を知り、「鎌倉けしや」に頼みたいと申し出る。

長谷の妻 (はせのつま)

長谷の妻。鎌倉の「不動茶屋」で長谷と休憩を取っていた時、奥之院蒼と都川菜乃葉と知り合い、映画『ローマの休日』の話題で意気投合。売り切れになって買えなかった鎌倉みやげを分けてもらい、お礼にお茶を御馳走した。夫婦との時間を大切にしており、夫がとても大切と考えている。朗らかでよく笑う、明るくて上品な人柄だったが、その後にガンである事が発覚。余命いくばくもないと知らされてから、食べ物も受けつけず、泣いて閉じこもるようになってしまった。

百旗部 瑛流 (ももきべ える)

常盤葵と同じ中学校に通う3年生の男子生徒。まるで天使のようなかわいらしい風貌で、同級生からも人気があり、親しみを込めて「ももちゃん」と呼ばれている。葵を慕ってなにかといっしょにいたがり、くっついてこようとするが、葵からは警戒されている。コックリさんの一種「エンジェル様」の存在を教えたのも、自分の渡したコインを使うように勧めたのも、すべて始まりは彼だった。大財閥の百旗部家の一族の末裔で、小さい頃から彼のいるところには事件が起こり、誰かが殺されるという噂がつきまとっていた。そして、彼から事件の記憶を消すたびに、けしやが亡くなるといわれており、実際に奥之院蒼の父親の奥之院朱門が最後に記憶を消した人物でもある。百旗部瑛流本人は脳の病気があるために、時々記憶を失うと教えられており、昔の事は考えてはいけないと親からきつく言われている。鎌倉に来る前にいた埼玉県の朝霞市では、桜、孝輝、小田ののかとなかよくしていたが、孝輝が死亡。孝輝の死に何らかのかかわりがあると思われる。

鳥女 (とりおんな)

常盤葵と同じ中学校に通う2年生の女子生徒。校内で鳥を殺して放置したり、屋上から投げ落としてナイフを捨てたりと、問題行動を起こした。葵に見つかり、追いかけられたものの、その場はうまく逃げとおした。その後、再び葵に見つかりそうになったため、音楽室に潜んで葵を迎え撃ち、攻撃しようとした。最終的には捕まり、カウンセラー室に連れて行かれる事になる。

岡本 加奈 (おかもと かな)

常盤葵と同じ中学校に通う3年生の女子生徒。ある日の帰りに靴がない事に気づき、葵と共に下駄箱付近で探していると、池に捨てられた靴を発見する。実は1週間前から突然友達に無視され始め、物がなくなったり、手に熱いフライパンを乗せられたりと、いじめを受けるようになった。きっかけは、「エンジェル様が怒った」という誰かが発した一言から。

西原 ひろた (にしはら ひろた)

鎌倉こまち保育園に通う男児。いつも保育園を脱走しようとし、先生や友達を困らせている。奥之院蒼が記憶を読んだ事で、飾ってある写真に写っている場所に行きたい一心での行動で、そこにいる「ママ」を助けたいと考えている事が発覚。しかし実際の両親は、健在のうえにパパママとは呼ばず、お父さんお母さんと呼んでいる事がわかった。実は前世である「空」の記憶を持っていて、前世でいっしょにいた女性の奥村がパートナーから暴力を受けていた事を記憶しており、その女性のもとへ助けに行きたがっていた。

奥村 (おくむら)

夫から暴力を受けている女性。夫は気性が荒く、酒を飲んでは暴力を振るうため、つねに怯えながら耐え続ける日々を送っている。もともとは飼い犬のポメラニアンをとてもかわいがっていたが、車に轢かれて死んでしまった。訪問して来た西原ひろたから話を聞いて一時は動揺するものの、のちに受け入れて夫と別れる決意をして独り立ちした。

ひろたの母親 (ひろたのははおや)

西原ひろたの母親。強い気構えを持った肝っ玉母ちゃん。いつも保育園を脱走しようとするひろたを怒っていたが、奥之院蒼のおかげで、息子の考えを知る事になる。最初は夫の浮気すら疑う事になるが、改めて家族そろって「鎌倉けしや」を訪れ、真実を知りたいと依頼する。

ひろたの父親 (ひろたのちちおや)

西原ひろたの父親。肉体派ながら優しい性格で、奥さんの尻に敷かれている。ひろたがいつも保育園を脱走しようとする事について、奥之院蒼から説明を受けて自分の浮気を疑われる事態となるが、改めて家族そろって「鎌倉けしや」を訪れ、真実を知りたいと依頼する。そのうえで、ひろたの問題行動の原因となっている記憶を消してほしいと頼むが、奥さんからの一言で根本的な問題解決に向けて乗り出す事になる。

(さくら)

埼玉県朝霞市に住む中学3年生の女子生徒。小学生の頃、百旗部瑛流、孝輝、小田ののかとなかよくしており、ののかが撮ってくれた写真に三人で写った。同じ塾に通っていたためによく遊んでいたが、小学4年生の時に孝輝が死亡。そのあとに会う約束をしていたため、今でもなぜ死んだのかわからないまま、心に大きな傷を持っている。

小田 ののか (おだ ののか)

埼玉県朝霞市に住む中学3年生の女子生徒。小学生の頃、百旗部瑛流、孝輝、桜となかよくしていた。三人がいっしょにいる写真を写した張本人で、百旗部にその写真を同封した手紙を送り、忘れるなという意思表示をした。同じ塾に通っていたためによく遊んでいたが、小学4年生の時に孝輝が死亡。思いを寄せていた孝輝が、謎の死を遂げた事で心に大きな傷を持っている。孝輝が亡くなった日、違う学校に通っているはずの百旗部を現場である学校付近で目撃したため、彼が孝輝の死にかかわっていると信じている。

孝輝 (こうき)

埼玉県朝霞市に住んでいた少年。小学生の頃、百旗部瑛流、桜、小田ののかとなかよくしており、ののかが撮ってくれた写真に三人で写っていた。同じ塾に通っていたためによく遊んでいたが、小学4年生の時に学校の屋上から転落して亡くなった。桜に思いを寄せているが、実際は桜とののかから思われていた。

集団・組織

けしや

人の記憶を消す商売の事。いつからあったかは定かではないが、古い都のそばに点在し、人づてにその存在を知られて来た。現在でも都市伝説のようにささやかれており、鎌倉のほかにも西京都、江戸御堀端、新宿、谷中、烏森にけしやが存在している。基本的に記憶を消す「ケシ」を中心に、ケシを現実世界に留めるための「トメ」、二人を護る「ゴ」の三人一組で行動を共にしている。トメがいない状態でケシが記憶の中に潜っていくと、現実世界に帰って来られなくなる可能性があり、かなりの危険が伴う。そのためケシを現実世界に留めるために、トメの存在は必要不可欠だが、けしや業界全体でトメ不足に陥っているのが現状となっている。鎌倉けしやでは、依頼人は必ず店先の手水鉢で手を清めて貰う事が決められており、水の色が赤く変化すると、心に傷があるとして記憶を消す必要があるという印と解釈し、依頼通り実行する事になっている。ケシは、記憶をDVDのチャプターを切り取ってDELETEするように消去する事ができ、鎌倉けしやは、各けしやの中でも特に「迅速正確、きめ細かく」が伝統となっている。昔は政略結婚する姫や要人の記憶を消すなど、怖い使われ方をしていた時代もあり、歴史を捻じ曲げる商売ともいわれて来た。

その他キーワード

面掛行列 (めんかけぎょうれつ)

鎌倉の「御霊神社」で行われる祭事。異形の面をかぶった行列が町を練り歩くもので、爺、鬼、異形、鼻長、烏天狗、翁、火吹き男、福禄寿、おかめ、産婆と続く。その面の異様さから、奇祭とも呼ばれているが、毎年大勢の人で賑わっている。源頼朝が村娘に恋して妊娠させてしまった名残であるという話もあり、当時正妻だった北条政子の感情を思えば、複雑だった事が窺い知れる。その後、頼朝の子はみんな死んでしまったとされており、村娘の子も殺されたのではないかと考えられているため、背景に後ろ暗さがぬぐえない。

黒地蔵縁日 (くろじぞうえんにち)

鎌倉二階堂の「覚園寺」で深夜に行われる縁日。毎年8月10日にたった1日だけ、深夜0時から正午まで開帳する地蔵堂がある。その地蔵は地獄の業火にその身を焼き、何度塗りなおしても黒くなるため、黒地蔵と呼ばれた。その名の付いた黒地蔵縁日が行われるようになり、真夜中の覚園寺に向かう細い川沿いの道には提灯が灯り、お香の香りが寺から流れ出て来る。深夜にもかかわらず、多くの人で賑わう祭りとなっている。

閻魔縁日 (えんまえんにち)

鎌倉の「円応寺」で行われる行事。円応寺には閻魔大王と地獄の十王が祀られており、この日に円応寺で子供に名前を付けてもらったり、祈禱してもらうと子供が無事に育つといわれている。

エンジェル様 (えんじぇるさま)

コックリさんの一種で、中高生に流行っている。ハートの枠の中に0から9の数字とひらがな五十音、YES、NOを書き込んだ台紙にコインを置き、三人で手を添えて動かす。通常は鉛筆で行う場合が多いが、フィンランドの白鳥が描かれたコインを使っている。手を添えた者が、質問して動いた先にある文字を読み取って、その回答とする遊びだが、霊の仕業と考えられている。近年はエスカレートする傾向にあり、エンジェル様の言いなりになっている様子が窺われる。

書誌情報

鎌倉けしや闇絵巻 7巻 小学館〈フラワーコミックス α〉

第1巻

(2015-06-10発行、 978-4091371058)

第2巻

(2015-10-09発行、 978-4091377487)

第3巻

(2016-06-10発行、 978-4091384171)

第4巻

(2017-06-09発行、 978-4091392855)

第5巻

(2018-02-09発行、 978-4091398383)

第6巻

(2018-12-10発行、 978-4098702503)

第7巻

(2019-10-10発行、 978-4098706679)

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