阿・吽

阿・吽

おかざき真里の代表作の一つで、実在の人物をモチーフにした初めての作品。平安時代の日本と唐を舞台に、真理を追究する空海と救世を志す最澄の姿を描いた歴史ロマン。史実のみならず、伝説をもとにしたエピソードと共に、神の化身や怨霊などのスピリチュアルな存在も登場する。空海や最澄が修行に励む場面では摩訶(まか)不思議な抽象的イメージの奔流が描かれ、あたかも仏教の深淵を覗き込んでいるような錯覚を味わうことができる。小学館「月刊!スピリッツ」2014年7月号から2021年7月号まで連載の作品。2020年に第23回「文化庁メディア芸術祭」マンガ部門審査委員会推薦作品に選ばれている。

正式名称
阿・吽
ふりがな
あ うん
作者
ジャンル
その他歴史・時代
 
ヒューマンドラマ
レーベル
ビッグ コミックス(小学館)
巻数
既刊13巻
関連商品
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同じ「高さ」に並び立つ日本仏教界の二大巨頭

主人公の空海と最澄はそれぞれ常人離れした天才でありながら、同じ「高さ」に立てる者が周りにいない孤独を抱えた人物として描かれている。それぞれ別の道を歩んでいた二人は仏教を介して出会い、やがて心を通わせることになるが、その関係性は「エンタングルメント」という言葉で表現されている。これは「量子もつれ」を意味する言葉で、作中では「どれだけ距離があろうと影響を与え合う二つの物質」という旨の説明がされている。

朝廷のいざこざや現代に伝わる唐の文化も描かれる

真理を追究する空海たちの物語を主軸としながら、藤原種継の死から始まる災いの連鎖や、藤原薬子を中心とした朝廷のいざこざも濃密に描かれている。また、唐に舞台を移してからは文化の描写にも紙幅が割かれ、今日の日本に姿を変えて伝わる上巳(じょうし)節や端午節などの行事、渾羊没忽や清浄歓喜団などの食文化も描かれている。おかざき真里は資料の乏しい9世紀の長安の様子を描くにあたって、ネバダ州のイベント「バーニングマン」を参考に、花のように咲いては散る一瞬の栄華を表現したとインタビューで語っている。

伝説や現代語も織り交ぜて紡がれる物語

史実として伝わるエピソードのみならず、狩場明神の導き、流水点字、桓武天皇を苦しめる怨霊といった伝説上の逸話も積極的に物語に組み込まれている。また、「若手エース」「廃棄そして再構成(スクラップ&ビルド)」などの時代劇らしからぬ言葉が飛び交う軽妙な会話も本作の特徴となっている。

登場人物・キャラクター

空海 (くうかい)

求道者の男性。俗名は「佐伯真魚」で、叔父は学者の阿刀大足。才知に優れ、霊的な存在を認識できる。人の心をつかむ天才ながら、近しい者への頼み事を苦手としている。筆忠実(ふでまめ)で、その書は命を宿すと評されている。状況に適した文面を考えるのも得意で、書の力で窮地を乗り越える場面も多い。高官に就くと期待されていたが、大学寮での学問に不満を覚え、叔父に無断で退学。三論宗の僧侶、勤操(こんごう)と交流して仏教の奥深さを知り、荒行の虚空蔵求聞持法(こくうぞうぐもんじほう)を完遂して「我を見た」。その後、丹生(にう)の里へたどり着き、渡来人のツチグモ一族からさまざまな技術を学んだ。また、里を庇護する不思議な女性、にうつ様と親交を結び、将来的に高野山を引き受けると約束する。やがて、この国に学ぶものは何もないとして渡海を決意。迅速に得度と受戒を済ませ、座礁した遣唐使船に乗っていた僧侶の代理として入唐を許された。正規の遣唐使たちと太宰府(だざいふ)で合流した際に最澄と初めて対話し、読誦を通して意気投合している。唐では多様な文化が行き交う長安に滞在し、恵果阿闍梨(あじゃり)から密教を修得。密教の未来を託され、20年と定められた遣唐使の任期を無視して帰国した。しばらく太宰府に留め置かれたが、橘逸勢や最澄の尽力もあって入京。嵯峨天皇の庇護を受け、密教の普及に邁進(まいしん)する。なお、おかざき真里がインタビューで明かした空海のイメージソングはQueen『Don't Stop Me Now』とTHE BLUE HEARTS『情熱の薔薇』。実在の人物、空海がモデル。

最澄 (さいちょう)

求道者の男性。俗名は「広野」で、首の左側と左肘に黒子(ほくろ)があり、帽子(もうす)を被(かぶ)っている。泣き虫で、布を嗅いで心を落ち着ける癖がある。利発で霊的な存在を認識できる。穏やかな性格ながら戒律には厳しく、忘己利他の精神を大切にしている。三論宗の僧侶、勤操から堅物と揶揄(やゆ)されているが、「良い男」とも評される。国分寺に入り、18歳で具足戒を受け最澄と名乗るも、肉欲に溺れる僧侶たちに戦慄し、救世の願いを掲げ比叡山に籠(こも)った。出世街道をはずれても最澄が新しい風を吹かせると信じて門戸を叩(たた)く者は絶えず、多くの私度僧が最澄を師と仰ぐようになった。和気清麻呂からも高く評価され、内供奉十禅師(ないぐぶじゅうぜんじ)に選ばれ、桓武天皇の精神的支柱となった。いつしか国内の経典を読破して渡海を決意し、還学生(げんがくしょう)となる。太宰府で初めて空海と対話し、読誦で通じ合った。唐では天台法華の深淵に触れ、円教菩薩戒(えんぎょうぼさつかい)を受戒。順暁(じゅんぎょう)大和尚から密教を学び灌頂(かんじょう)を受けるも、天皇の病を知り深淵に触れず帰国する。天台法華の祈禱で天皇を救おうとするが、安殿(あて)親王に阻まれ、直接の祈禱を許されなかった。次いで親王たちの要請で密教修法を執り行うも、弟子の分裂を招いてしまう。年分度者制の改革にも挑み、最澄の天台宗も年分度者の枠を得たが、他宗派の妨害もあって後進が育たず、師としての在り方に苦悩。不調を押しての山林抖擻(とそう)で「我を見た」が、愛弟子(まなでし)の泰範(たいはん)の下山という不運に見舞われる。なお、おかざき真里がインタビューで明かした最澄のイメージソングはsting『Englishman in New York』。実在の人物、最澄がモデル。

クレジット

協力

阿吽社

書誌情報

阿・吽 13巻 小学館〈ビッグ コミックス〉

第1巻

(2014-10-10発行、 978-4091867124)

第2巻

(2015-05-12発行、 978-4091871046)

第3巻

(2015-12-08発行、 978-4091874092)

第4巻

(2016-06-10発行、 978-4091877048)

第5巻

(2017-01-12発行、 978-4091894397)

第6巻

(2017-06-12発行、 978-4091895929)

第7巻

(2018-01-12発行、 978-4091897787)

第8巻

(2018-08-09発行、 978-4098600960)

第9巻

(2019-02-12発行、 978-4098602674)

第10巻

(2019-10-11発行、 978-4098605040)

第11巻

(2020-03-12発行、 978-4098605866)

第12巻

(2020-09-11発行、 978-4098607341)

第13巻

(2021-02-12発行、 978-4098608362)

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