歴史の通説に一石を投じる人物設定
本作の登場人物は、歴史に基づいた実在の人物をモデルにしているが、その設定には通説に一石を投じる斬新な要素が多く見受けられる。たとえば、一般的には大海人皇子と中大兄皇子は同じ父母を持つ実の兄弟とされているが、本作では父親が蘇我入鹿とされていたり、中臣鎌足が百済の王子・豊璋とされていたりするなど、歴史に詳しい読者にも新鮮な驚きを提供する工夫が施されている。
飛鳥時代を舞台にした人間ドラマ
本作の飛鳥時代を背景にしたストーリーは、歴史の授業で学んだ内容と多くの共通点があり、非常に理解しやすいものとなっている。さらに、不倫関係や同性愛、ホメオパシーといった現代人が共感できるテーマを取り入れることで、キャラクターたちがより人間味豊かに描かれ、こうした生々しい人間関係が、物語を一層魅力的にしている。
大海人と中大兄皇子の絆と葛藤
中大兄皇子は百済の要請を受け、唐との戦に出兵するが、彼が率いる大和軍は惨敗を喫してしまう。中大兄皇子は唐軍の捕虜となり、処刑される運命にあったが、大海人の機転によって救出される。一見すると、中大兄皇子を助けなければ、大海人は復讐を果たし、王の座を手に入れる絶好のチャンスのように思えるが、彼は「自分の手で中大兄皇子を殺したい」と語る。しかし、大海人はその言葉が本心ではないことを自覚しており、二人のあいだに存在する複雑な情念が本作の大きな中核を成している。
登場人物・キャラクター
中大兄皇子 (なかのおおえのおうじ)
大海人の種違いの兄で、のちの天智天皇。切れ長のつり目で、左目の下にほくろがある。蘇我入鹿に恋心を抱いていたが、入鹿が中大兄皇子の母親である皇極天皇と不倫関係にあり、さらに月皇子が入鹿の子であることを知ってからは、彼に憎しみを抱くようになった。その後、百済の王子・豊璋こと中臣鎌足にそそのかされ、「乙巳の変」を引き起こし、入鹿を暗殺するとともに月皇子も殺害した。しかし数年後、「大海人」と名乗る月皇子と再会し、彼の正体を察しつつも従者として手元に置くようになった。入鹿に瓜二つの容姿を持つ大海人に執着し、愛憎が入り混じった複雑な感情を抱くようになっていく。幼少期は「葛城皇子」と呼ばれていた。
大海人 (おおあま)
中大兄皇子の種違いの弟で、のちの天武天皇。実の父親は蘇我入鹿。誰もが振り返るほどの美男子で、入鹿から受け継いだ美貌と頭脳を兼ね備え、聡明でカリスマ性にあふれている。幼少期は「月皇子」と呼ばれていたが、「乙巳の変」を契機に姿を隠し、再び中大兄皇子の前に現れた際には「大海人」と名乗った。中大兄皇子を憎み、入鹿の仇討ちの機会をうかがいながら暗躍している。一度だけ床を共にした額田王に恋い焦がれ、彼女を妻に迎えるが、額田王が中大兄皇子に奪われて以来、彼への憎しみはさらに深まっていく。
クレジット
- 原案監修
書誌情報
天智と天武-新説・日本書紀- 全11巻 小学館〈ビッグ コミックス〉
第1巻
(2013-02-28発行、978-4091848987)
第11巻
(2016-08-30発行、978-4091877642)







