刑事ジャンルと医療ジャンルのハイブリッドドラマ
本作に登場する「院内交番」は、病院の治安維持を目的とした民間組織であり、作中で描かれているように多くは定年退職した警察OBが勤務している。「院内交番」は、ある医療過誤事件をきっかけに、2004年、東京慈恵会医科大学病院に設置されたのが最初である。現在は約300の「院内交番」が存在するが、全国の病院数が約8300施設ということを考えると、一般的とはいえない。本作はそんな「院内交番」で働く、珍しい職業である院内刑事を主人公にした、刑事ジャンルと医療ジャンルのハイブリッドドラマである。
元刑事VS天才外科医
武良井治は、元警視庁捜査第一課のエリート刑事。阿栖暮総合病院で恋人の美咲を亡くした過去を持ち、彼女の死の真相を突き止めるために警察を辞め、阿栖暮総合病院の院内刑事になった。美咲の死に疑念を抱いている武良井は、数々の事件を解決しながら、病院の中枢に迫っていく。榊原俊介は若くして第一外科の副部長を務める天才外科医。寡黙で無表情なことから本心が見えない。そして、なぜか他の医者から、難しい心臓病患者を強引に奪うことが多い。武良井はそれが、榊原の過去の失敗に起因していると考え、美咲の死との関連も疑っている。一方、医師でもないのに手術室に入り込み、病院の個人データにアクセスする武良井に、榊原は不快感をあらわにする。
病院を舞台にした事件と人間ドラマ
本作は、美咲の死の謎を軸にしながら、同時に阿栖暮総合病院で起きる、日々の事件を描いている。その内容は、検査ばかりで治療が行われないことに業を煮やした患者家族の暴力事件から、検体取り違え事故の隠蔽といった病院の闇に迫るものまで様々である。また、初めての外科手術で抱えたトラウマを克服する若手医師や、自分が医師の道を選択したことで、父を過労死に追いやった女性外科医、父の病気がきっかけで義母と和解する少女など、医師や患者の人生を描いたヒューマンドラマの要素も強い。
登場人物・キャラクター
武良井 治 (むらい おさむ)
阿栖暮総合病院の院内交番に勤務する、29歳の院内刑事の男性。元警視庁捜査一課の刑事。黒髪のボサボサ頭が特徴で、棒付きの飴を舐(な)めていることが多い。許可なく手術室に立ち入ったり、勝手に個人データを閲覧したりと、傍若無人の振る舞いが多く、病院関係者から嫌われている。観察眼に優れ、様々な情報の分析・評価から真実に迫る「プロファイリング」が得意。阿栖暮総合病院で亡くなった婚約者の死に不信を抱いており、真相を暴こうとしている。
榊原 俊介 (さかきばら しゅんすけ)
阿栖暮総合病院外科部副部長の男性。銀髪に鋭い目つきが特徴で、人間離れした集中力と正確無比な技術を持つ天才外科医である。常に救命に全力を尽くし、難易度の高い心臓手術は、担当医師から強引によこどりしてでも行う。過去に何かしらの悲劇を抱えているようだが詳細は不明。
川本 響子 (かわもと きょうこ)
阿栖暮総合病院の院内交番に勤務する新人事務員の女性。明るい性格をしている。また、中高年男性を好む枯れ専で、還暦を過ぎた室長の横堀に毎日癒やされている。クセの強い武良井治に振り回され、時には利用されてしまう。
クレジット
- 原作
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酒井 義
書誌情報
院内警察 アスクレピオスの蛇 全8巻 秋田書店〈ヤングチャンピオン・コミックス〉
第1巻
(2022-03-17発行、 978-4253307215)
第2巻
(2022-04-20発行、 978-4253307222)
第3巻
(2022-08-19発行、 978-4253307239)
第4巻
(2023-01-20発行、 978-4253307246)
第5巻
(2023-07-20発行、 978-4253307253)
第6巻
(2023-12-20発行、 978-4253307260)
第7巻
(2024-03-18発行、 978-4253307277)
第8巻
(2024-08-20発行、 978-4253307284)