緊迫の救命現場をリアルに描いた医療ドラマ
本作の主な舞台は、帝釈総合病院の救命科で、事故などで重傷を負った救急患者が昼夜を問わず運び込まれてくる、まさに医療の最前線である。主人公の杏野朱羅は、この救命科で日々奮闘する医師であり、まるで獲物を狩るかのように次々と重症患者の手術に挑んでいく。作中には救急医療の専門用語や解説が盛り込まれており、緊迫した医療現場の現実を知ることができると同時に、痛快な救命劇としても楽しめる。さらに、数々の医療漫画を手掛けてきた作者・こしのりょうが得意とするリアルな手術描写や、現代医療を取り巻くシビアな問題提起も見どころとなっている。
修羅場を求める常識破りの救命医
命にかかわる修羅場でこそ真価を発揮する救命医の朱羅は、二人の緊急患者を同時に手術するなど、極限の状況を異常なまでに求めている。そんな朱羅のもとで働く研修医の薬師寺保は、つねに謎めいた行動をとる彼女に驚かされる日々を送っていた。朱羅は、お金がない患者やヤクザであってもいっさいの差別なく受け入れ、どんなに絶望的な状況でも必ず命を救うという強い信念を持っている。しかし、その一方で病院の方針や上層部の意向を無視し、ただひたすらに患者を救う姿勢を貫くため、金や地位を重視する一部の医師からは邪魔者扱いされている。
グローバル化する病院とライバルたちの出現
朱羅は、上司から時折嫌がらせや忠告を受けることもあるが、そのような妨害や圧力に屈することなく、どんな状況でも自身の信念を貫いている。優秀な外科医である彼女が救命科にこだわる背景には、かつて急患に立ち向かった上司・多聞真との約束が深くかかわっていた。一方、医療法人帝釈会の理事長・阿含百合の主導のもと、帝釈総合病院はグローバル化に向けて突き進んでいた。帰国後、副院長となった真との再会を経て、朱羅の前には「ゴッドハンド」と称される心臓血管外科医・梵天太郎や、アメリカ帰りのエリート医師・六道ナオミといった強力なライバルたちが立ちはだかる。さまざまな思惑や理想を持つ医師たちと衝突しながら、次々と訪れる厳しい修羅場に果敢に挑む朱羅の姿が、本作の見どころの一つとなっている。また、朱羅がこれまでに重ねてきた血の滲むような努力や、救命医療に対する熱い思い、そして秘められた過去も、物語が進むにつれて明らかになっていく。
登場人物・キャラクター
杏野 朱羅 (あんの しゅら)
帝釈総合病院の救急科に勤務する救命医の女性。黒髪のロングヘアで、スタイル抜群の美女。ふだんは院内のソファで仮眠を取りながら待機しているが、遠くから聞こえるサイレン音を耳にしただけでホットラインを察知し、すぐに手術の準備を始める。重傷の患者を「エモノ」と呼び、現場が緊迫する中で驚異的な集中力と技術を発揮する。その姿はまさに阿修羅のような迫力に満ちており、一部の医療関係者からは「アシュラ」と呼ばれている。プライベートは謎に包まれているが、医療以外のことには無頓着で、日常生活はずぼらな一面も見せる。好物はラーメン。
薬師寺 保 (やくしじ たもつ)
帝釈総合病院の救急科に勤務する研修医の青年。少し気弱な性格で、眼鏡をかけている。杏野朱羅からは「ボーズ」と呼ばれている。朱羅と共に当直をするたびに、壮絶な救命現場に直面することになる。当初は、朱羅の常識を超えた治療法や強引な行動に驚かされるが、次第にその根底にある強い信念と卓越した技術を目の当たりにし、尊敬とあこがれを抱くようになる。やがて研修を終え、正式な救命医として再び朱羅のもとで、共に救命救急の最前線に立つことになる。
多聞 真 (たもん まこと)
帝釈総合病院の元・救急科科長の中年男性。杏野朱羅のかつての上司にあたる。4年前、医療派遣事業に従事するために海外に渡ったが、日本を出発する前に朱羅と「共に日本の救急医療を変えよう」という固い約束を交わしていた。その後、帰国して朱羅と再会し、帝釈総合病院の副院長に就任した。
書誌情報
Dr.アシュラ 3巻 日本文芸社〈ニチブンコミックス〉
第1巻
(2015-07-18発行、978-4537133141)
第2巻
(2016-01-29発行、978-4537133974)
第3巻
(2016-08-29発行、978-4537134773)
新装版 Dr.アシュラ (上) 日本文芸社〈ニチブンコミックス〉
(2025-04-11発行、978-4537172164)
新装版 Dr.アシュラ (下) 日本文芸社〈ニチブンコミックス〉
(2025-04-11発行、978-4537172171)







