孤独な超能力少年×口のきけない女子高生
翼(ツバサ)には、超能力を使ったことで背負ってしまったトラウマがある。それ以来、殻に閉じこもり「超能力なんて迷惑なだけでなんの価値もない」と、常に自分に言い聞かせながら生きている。誰にも必要とされず、誰とも繫がりを持たずにひっそりと消えていきたいというのが、ツバサの願望なのだ。一方、雪(ユキ)は、過去の辛い出来事のせいで声を失い、記憶の一部も喪失している。しかし、「誰かの役に立ちたい、誰かを助けたい」という思いが強く、次々と事件に首を突っ込んでいく。本作は、そんな二人の切なく健気(けなげ)な姿を、丁寧に描いた青春物語である。
ユキとツバサのコミカルな掛け合い
不良グループのたまり場に連れ込まれ、乱暴されそうになってしまうユキ。そのユキの心の叫びを聞いたツバサは、勇気を振り絞って現場に乗り込む。そして、超能力を使ってユキの体を操作し、格ゲーの要領で必殺技を繰り出して不良たちを蹴散らした。ユキは華麗な技と宙に浮かぶ自分の体を見て「自分は超能力者だったんだ」と大きな勘違いをする。それからというもの、ユキは心のなかでヒロインを気取った恥ずかしいセリフを吐き、「超能力探偵団」として町の事件を解決しようとする。ユキやツバサの辛い過去や、裏温泉街での女子高生売春など、悲惨な事件が描かれるが、ユキの天然ボケとそれに対するツバサのツッコミといった、コミカルな要素も本作の魅力である。
ユキとの出会いで変わっていくツバサ
手を使わずにマンガを読んだり、リモコンなしで電気を消したりできる自分の力を、ツバサは、役に立たない「小能力」と呼んでいた。しかし、口がきけないユキの心の声を聞くことができ、彼女を助けるためなら、壁をぶち破るほどの強い力を発揮する。また、物や人に刻まれた「記憶」を読み取るサイコメトリーや念写といった能力にも目覚めていく。それらはすべて「大切な人を守りたい」という想いからである。誰とも繫がりたくないと考えていたツバサは、ユキと出会ったことにより、どんどん変わっていく。そして、ツバサがユキの記憶に触れるにつれ、少しずつユキの過去を知ることになる。
登場人物・キャラクター
翼 (つばさ)
小さな温泉街で、母と三人の妹と暮らす中学生の少年。いつもヘッドホンとマスクをしている。不良グループに属しているがいじめられっ子で、背が低く自分に自信がないヘタレだが、格闘ゲームは得意。超能力の持ち主で、転校してきた口のきけない女子高生・雪(ユキ)の心の声を聞くことができる。ある日、暴行を受けていたユキの声を聞き、格ゲーの要領でユキを操って不良共を蹴散らす。それ以来、自分に超能力があると勘違いしたユキから協力を求められ、街で起きる事件の解決に挑むことになる。翼(ツバサ)の超能力は、一人では小さなことしかできないが、ユキのピンチなどには大きな力を発揮する。ただし、ツバサ本人は小さい時のあるトラウマから、超能力を使うことを好んではいない。作中では通常「ツバサ」と表記される。また、ユキは心の中でツバサのことを「ちびっ子」と呼んでいる。
雪 (ゆき)
麓の街から小さな温泉街に引っ越してきた高校生の少女。吹奏楽部でサックスを担当する。ショートカットの髪型が特徴。口がきけないため、携帯に文字を打ち込んで会話する。翼(ツバサ)には心の声を聞かれているが、本人はそのことを知らない。雪(ユキ)が口がきけないのをいいことに、不良たちから暴行を受けるが、ユキの心の声を聞いたツバサに操られて、不良たちを蹴散らす。それ以来、自分には超能力があると思い込み、超能力で人の役に立ちたいと思い立ち、ツバサに協力を求める。ツバサからは「先輩」と呼ばれている。
続編
雪にツバサ・春 (ゆきにつばさ はる)
同作者『雪にツバサ』の新シリーズ。主人公・翼(ツバサ)の高校進学以降の話に加筆・修正のうえ、タイトルを改めて単行本化された作品。現代の日本、北国のひなびた温泉街にある高校が舞台。不良だがいじめられっ子... 関連ページ:雪にツバサ・春