青空

青空

中学校野球選手権で名を馳せた天野光一は、野球部が廃部となった島根県の霞高校に入学する事となった。周囲の反対や妨害を乗り越え、幼なじみとの約束を守るためにひたむきに甲子園を目指す少年の姿を描く青春野球漫画。「週刊ビッグコミックスピリッツ」1998年2・3合併号から2002年10号にかけて掲載された作品。

正式名称
青空
ふりがな
あおぞら
作者
ジャンル
野球
 
青春
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あらすじ

第1巻 こぼれ落ちた夢

幼い頃に両親を亡くした天野光一は、祖母の貞子に引き取られた。そんな光一を孤独から救ったのは、野球を教えてくれた三雲氷介とその恋人の沙川雪だった。彼らと過ごした夏は、光一にとってかけがえのない思い出となった。しかし、霞高校のエースだった氷介は、自らが起こした暴力事件で野球部を廃部に追い込んでしまう。雪が野球部員に暴行を受けた事が事件の発端であった事から、氷介と雪は町を出て行く事となる。時が過ぎ、中学校野球選手権で優勝した光一は、霞高校に入学する。氷介と約束した「霞高校を甲子園に連れて行く」という強い信念を持つ光一は、たった一人で野球部創設に奔走。すると、そのひたむきさに心動かされた仲間が次々と集まって来る。

第2巻 希望の灯

霞高校野球部創設に向けて、その実力を証明するために天野光一は高校野球の古豪、浜野学園に赴き、記者達の前で1年生で4番の菊地大吾と勝負する。その効果はてきめんで、注目を集めた野球部には一人、また一人と部員が入部して来る。そして甲子園の地区予選が始まった頃、かつて三雲氷介とバッテリーを組んでいた居酒屋店主のは、光一の素質に魅せられ、野球部復活に協力する事を決意する。一方、氷介はヤクザの手伝いをしながら、空虚な日々を送っていた。だがある日、光一が霞高校野球部を復活させようとしている事を知り、さらにはかつて世話になった刑事の山根から、沙川雪の居場所を知らされる。数年前、氷介の心ない言葉に傷つき、雪は氷介のもとから去って行ってしまったのだ。

第3巻 旗揚げ

霞高校野球部の監督、は、即戦力となる野村鉄男を入部させようと説得にあたっていた。三雲氷介と鉄男の兄、野村優は、よきライバルであり、甲子園を目指す仲間でもあった。しかし、優がインコースを克服するためのバッティング練習中、不幸にも氷介の球が頭に当たって死亡したのだった。氷介を逆恨みしていた鉄男は、梶から兄の死の真相を聞かされるが、心とは裏腹に苛立ちを募らせていく。しかし、天野光一とタイマン勝負をした事で、鉄男の頑なな心は氷解。こうして鉄男は野球部に入部し、九人揃った非公式の野球部は浜野学園との練習試合を行なう。光一の冴え渡ったピッチングは、強力打線を完璧に封じ込める。そんな中、横多町の権力者、村山龍太郎は野球部関係者に陰湿な妨害を開始する。龍太郎の息子の村山正彦は、氷介の暴力事件により重傷を負った当事者だったのだ。

第4巻 闇の報復

横多町の権力者、村山龍太郎からの妨害により、霞高校野球部から退部者が続出する中、さらに追い打ちをかけるように、学校側は天野光一に野球部再建は認めないと通告する。だが光一は、なにもかも三雲氷介が悪いのかと校長室で涙して抗議する。光一の真摯な姿勢に心動かされた沼田は、野球部再建を支援する約束をし、龍太郎との対決姿勢をあらわにする。一方、ヤクザの手伝いを辞めたくても辞められない氷介は、山根から光一の野球部が正式に認めれたと聞かされ、居ても立っても居られずに帰郷する。そんな矢先、光一の家が放火され、それが村山正彦の仕業と知った氷介は、正彦に報復して再び姿を消す。沼田が野球部長に就任し、野球部が本格的に始動した頃、光一の前に、沙川雪に似た女性、白石波子が現れる。

第5巻 傷と怒り

白石波子は、霞高校野球部の練習試合を応援に行くと天野光一に約束するが、実は人を刺して逃亡中の身であった。そして試合前日、波子は光一の目の前で警察に捕まってしまう。波子のためにも光一は全力のピッチングで、強打者の五十嵐太一を完璧に抑え込み、ノーヒットノーランを達成する。一方、島根から東京に戻った氷介は、若頭の大村に組の仕事を辞めたいと申し出る。だが、その条件として大村から1000万円の支払いを課された氷介は、借金返済のために裏の仕事に没頭せざるを得なくなる。その頃、稼ぎ頭の氷介を手放したくない大村は、彼の生い立ちを探っていた。

第6巻 裏切りの朝

組の若頭、大村は、三雲氷介が出雲の組を抑えてくれと自分に頼んで来た裏に、天野光一の存在がある事実を摑む。大村からの借金返済に目処が立った矢先、氷介は大村の仕組んだ罠にハマり、さらなる借金を背負う事になる。追い詰められた氷介は犯罪に手を染め、刑事の山根に捕まってしまう。その頃、光一は練習試合で10連勝を達成し、夏の甲子園に向け勢いづいていた。山根は氷介の生い立ちを辿るべく、霞高校を訪れ、沼田に氷介の現状を伝える。そして、甲子園への出場を掛けた島根県予選が始まり、霞高校は光一のノーヒットノーランで念願の一勝を果たし、地元は大いに沸いていた。そんな中、村山正彦は氷介と光一に対しての怨念をたぎらせていた。

第7巻 捨て去った過去

島根県予選の準々決勝で、霞高校野球部は社宮高校と対戦。天野光一は強打者の五十嵐太一相手に真向勝負を挑むが、五十嵐のタイミングは徐々に光一の投球にタイミングが合って来ていた。中盤に野村鉄男のホームランも飛び出し、迎えた9回裏、心の中にある三雲氷介の声に従い、光一は五十嵐から三振を奪い勝利する。一方、山根は温泉街の旅館で働く沙川雪に光一の躍進を報告するが、頑なな態度を崩さない雪の傍には夫らしき人物と子供の姿があった。霞高校は決勝まで勝ち上がるが、試合前日に氷介が刑務所に入っているという新聞記事が掲載される。

第8巻 明日があるから

島根県予選の決勝で、天野光一浜野学園相手に力投を続けていたが、その体力に限界が近づいているのは明らかだった。その時、光一はどこからか沙川雪の声を耳にし、再び力を取り戻す。だが迎えた9回裏、浜野学園一打サヨナラの場面で、ショートの野村鉄男のエラーにより、霞高校はあと一歩のところで甲子園出場を逃してしまう。しかしやっと雪に会えた喜びで、光一は前向きな気持ちになり、来年こそは甲子園に行く事を雪とその子供の沙川健太に誓う。一方、自分達の実力のなさを痛感させられた霞高校野球部は、やる気をなくしていた。そんな中、インハイを苦手とする鉄男は、決勝戦の責任を感じ、一人バットを振っていた。

第9巻 孤独な悲鳴

天野光一野村鉄男の特訓は続き、鉄男がバッティングの成果を見せ始めた頃、霞高校野球部の部員達も練習を再開していた。春の選抜甲子園出場を掛けた島根県秋季大会では、小宮の提案により、光一は打たせて取るピッチングを覚え、素人同然だった守備も強化されていく。しかし、浜野学園監督の堂島は光一が肩に問題を抱えている事を見抜き、病院に行くよう説得するが、甲子園しか眼中にない光一は聞く耳を持たない。そんな中、横多中学時代の後輩で、次の対戦相手である益田川高校のエースピッチャー、池内は、光一に真剣勝負を願い出る。

第10巻 はり裂けそうな心で

自分の背中を追いかけてここまで成長した益田川高校のピッチャー、池内に、自分と三雲氷介の関係を重ねた天野光一は、肩の痛みをこらえて全力投球を続けるが、5回には右肩に激痛が走る。光一に代えて都並がマウンドに立つが、動揺した霞高校野球部はコールド負けを喫してしまう。野球部員達は故障を隠していた光一に怒りをぶつけ、部室で大乱闘となるが、それはチームが一つになった証でもあった。横多町が雪景色に包まれた頃、医師の滝川から投球を禁じられた光一は焦りを募らせていた。そんな時、沙川雪から誘われるがまま、光一は冬休みを雪が住む温泉街で過ごす事になる。

第11巻 夏を待ちわびて

春になり、霞高校野球部にも三人の新入部員が入部して来る。だが、天野光一は自分の肩が手術でしか治らず、リハビリには1年かかる事を知ってしまう。ヤケになって練習に顔を出さなくなっていた光一だったが、「東京エンジェルス」のスカウト、島原から、あきらめなかった人間だけが故障を克服する事ができると励まされる。迎えた島根県春季地区大会のマウンドに、光一の姿はなかったが、霞高校は強豪の浜野学園相手に、優位に試合を進めていた。しかし結局圧倒的な力の違いを見せつけられ、コールド負けを喫する。その後、チームは意気消沈し、以降は練習試合でも負けが続くようになる。そんな中、都並が投げられなくなった試合で、光一は登板を志願する。

第12巻 最後の夏

甲子園への出場を掛けた島根県の予選が始まった。天野光一が五分の力しか出さないという条件で、抑えとして登板し、霞高校野球部は緒戦を快勝する。その頃、仮出所した三雲氷介山根から、沙川雪が自分の子供を産んでいたと知らされる。一方、光一をどうしてもドラフトで獲得したい「東京エンジェルス」のスカウト、島原は、光一をこれ以上投げさせないために、肩の故障をしている光一の投球を止めるよう進言してほしいと氷介に頼み込む。光一の将来を案じた氷介は光一と対峙して、俺との約束を忘れろと、わざと冷たく言い放つ。そんな中、光一は村山正彦が放ったチンピラに襲われるが、氷介に助けられる。その後、氷介は正彦を追い込み、滝川から光一の故障に関する真相を聞き出すのだった。

第13巻 青空の下で…

肩の故障の診断が噓だった事を天野光一に伝えようと球場へ向かった三雲氷介は、村山正彦にナイフで刺されながらも、全力投球しろと客席から叫ぶ。島根県予選の準決勝は益田川高校が霞高校から大量リードを奪っていた。しかし、光一の豪速球が復活した事でチームも勢いを取り戻し、同点で迎えた9回には光一が池内の得意球をバックスクリーンにはじき返し、見事勝利する。病院に運ばれた氷介のもとに沙川雪沙川健太も駆けつけた。翌日、霞高校は浜野学園との決勝戦を迎え、浜野学園がわずかにリードしたままゲームが終盤に差し掛かった時、入院していた氷介は雪と共に球場に姿を現す。野村鉄男のヒットで3対2と霞高校が勝ち越した9回裏、氷介達が見守る中、光一の最後のピッチングが始まる。

登場人物・キャラクター

天野 光一 (あまの こういち)

霞高校に通う男子高校生。横多中学時代は中学野球選手権中国地区大会の優勝投手となった。野球の名門高校から声をかけられるが、「霞高校野球部を甲子園に連れて行く」という強い信念から、霞高校に入学した。両親を事故で亡くし、祖母のもとに引き取られた。なかなか人に馴染めず孤独だった時、いっしょにキャッチボールをしてくれた三雲氷介とその恋人の沙川雪が、天野光一自身にとって特別な存在となる。雪が野球部部員に暴行を受けた現場近くにいたため、自分の不甲斐なさを後悔すると共に、氷介と雪が町を出て行く際、「霞高校を甲子園に連れて行ってくれ」と言った氷介の言葉が、自分にできる唯一の事だと考えるようになった。その一途さが多くの人達を動かし、数々の妨害に遭いながらも、霞高校に野球部を新たに創設させる。雪に雰囲気の似ている白石波子にその面影を重ね、好意を抱いていた時期もあった。だが、当初は女性として意識していなかった野球部マネージャーの神崎瞳の献身的な励ましに、徐々に心が動いていく。沙川健太からは「コーにィちゃん」と呼ばれている。

三雲 氷介 (みくも ひょうすけ)

幼かった天野光一をキャッチボールに誘い、野球を教えた男性。霞高校野球部の元エースで、甲子園予選決勝の前日に暴力事件を起こし、沙川雪と共に町を出て消息不明となる。暴力事件では、町の権力者の村山龍太郎の息子、村山正彦に重傷を負わせたために、両親の営む「ラーメンみくも」は閉店に追い込まれ、両親も町を出る事となる。現在は雪と別れ、若頭の大村のもとでヤクザの手伝いのような仕事をしており、民子という女性と暮らしている。雪と暮らしていた頃は、仕事が続かずケンカばかりの毎日で、刑事の山根の世話になっていた。そんな中、心ない言葉で雪を傷つけてしまい、関係が破たんした。一歩踏み出そうとすると、必ず自分の投げた石ころにつまづいてしまうために自分をダメな奴だと卑下しており、堕落した生活からなかなか抜け出せないでいる。しかし天野光一の活躍を知り、大村からの決別を誓うものの、大村の罠にハマって恐喝の罪で1年6か月の実刑を食らってしまう。光一からは「ヒョウちゃん」と呼ばれている。

沙川 雪 (さがわ ゆき)

幼かった天野光一に声をかけ、キャッチボールに誘った女性。口元にほくろがあるロングヘアの美人。当時は霞高校の女子高校生で、三雲氷介の恋人だった。野球部員から暴行され、駆けつけた氷介が暴力事件を起こしてしまう。事件後、氷介といっしょに町を出た際に、光一が野球を続けていればまた会えると、氷介の宝物である野球のボールの形をしたペンダントを氷介から手渡される。東京に出てからは仕事が続かず、ケンカに明け暮れる氷介を支えていたが、ある時、氷介から誰のせいでこんな暮らしをしているんだと言われ、彼のもとを去った。その後、氷介の子供を妊娠している事が判明し、沙川健太を出産。島根県予選の準々決勝で、霞高校野球部と社宮高校が対戦した時は、土伊温泉の旅館で働いており、山根から光一の躍進と氷介の現状を知らされる。過去を捨てたつもりだったが、氷介の夢を潰したのは自分の責任でもあるという後悔の念もあって、氷介ともう一度やり直す決意をする。光一からは「雪ネェ」と呼ばれている。

沙川 健太 (さがわ けんた)

沙川雪の息子。初登場時は3歳。父親は三雲氷介。母親のいう事にまったく耳を貸さないやんちゃ坊主。冬休みに天野光一と神崎瞳が遊びに来た時には、光一によく懐いていたが、肩を故障した光一にボールを投げさせないよう見張る瞳には打ち解けずにいた。しかし、父親がいない事を悪ガキにからかわれた際に、瞳に助けられた事で心を許すようになる。

神崎 瞳 (かんざき ひとみ)

霞高校に通う女子高校生。明るく快活な性格で、押しが強い。野球部を創設するために一人で奮闘する天野光一に興味を抱き、協力を申し出る。幼い頃、キャッチボールをする光一や三雲氷介、沙川雪の姿をよく目にしており、その時の男の子の楽しそうな姿が自身の初恋の相手であり、のちにそれが光一だった事を知る。雪や、彼女に似ている白石波子に敵対心を抱くが、光一のために光一が彼女達と会えるよう画策したりと、なによりも光一の事を優先的に考えている。神崎瞳自身も父親が蒸発した過去があり、その事が原因でいじめられていた沙川健太をいじめっ子から助けた事で、健太との距離も縮まる。結婚したら男の子を生んで野球をやらせる事が夢。

貞子 (さだこ)

天野光一の祖母。丸い眼鏡をかけた高齢の女性。横多町のドライブインで働いていたが、町の権力者の村山龍太郎の嫌がらせを受けてクビになった。度重なる嫌がらせで疲弊し倒れるも、三雲氷介や沙川雪が光一に勇気を与えてくれた事を知っているので、二人と約束した野球部創設を絶対にあきらめるなと、光一の背中を押す。のちに家が放火されるが、梶の居酒屋兼自宅に光一と住み込むようになり、鉄人シェフとして腕を振るうようになる。

沼田 (ぬまた)

霞高校の教師を務める中年の男性。ハゲタカのような風貌をしており、野球部を創ろうとする天野光一に強固な態度で接する。強面だが、その内面は繊細。かつて、三雲氷介の才能に魅せられていた一人で、ケンカ好きの氷介に生き方を間違えるなと厳しく説教した。氷介も沼田には素直に従うなど信頼関係を築いていたが、氷介がなにも言わず横多町を去った事に傷つき、彼への思いを封印したという経緯がある。しかし、氷介に雰囲気が似た光一の一途な信念に心を動かされ、野球部再建に協力する事を決意し、横多町の有力者の村山龍太郎親子と対決姿勢を見せるまでになる。その後は野球部部長に就任し、チームを支えた。光一の家が村山正彦に放火されたあと、氷介と再会している。

(かじ)

居酒屋「よこた家」の店主。口ヒゲと顎ヒゲを生やしているヘビースモーカーの男性。年より老けて見えるが、霞高校野球部では三雲氷介のチームメイトで、当時キャプテンでキャッチャーを務めていた。氷介が起こした暴力事件の被害者が、町の権力者の息子の村山正彦だった事で、野球部は横多町ではタブー視されており、当初は天野光一が野球部を創る事に反対していた。だが光一の球を受け、氷介の球を受けていた時の感覚が甦り、当時の無念さに終止符を打つべく、野球部創設に協力する。キャプテンとして氷介になにもしてやれなかった事を悔やんでおり、光一から監督の要請を受け、引き受ける事を決意する。火事で家が焼けた光一と祖母の貞子を家に住まわせ、貞子をシェフとして店で雇うなど、公私共に光一を支えている。昔のチームメイトからは「キャプテン」と呼ばれている。

山根 (やまね)

新宿南警察署の刑事。眉毛が太く人のよさそうな顔をした中年の男性。東京に出て来た三雲氷介と沙川雪が世話になった人物で、氷介を支える雪の姿を見守っていた。ヤクザの手伝いをしている氷介を更生させたいという気持ちが強く、なにかと気にかけている。追い詰められた氷介が恐喝の罪で刑務所に入った際にも、雪に会いに行って氷介の現状と、天野光一の活躍ぶりを伝えた。その際、仲睦まじい雪と沙川健太、渡辺裕二の姿を目撃したため、雪が新たに家庭を持ったと勘違いしていた。

野村 鉄男 (のむら てつお)

霞高校に通う男子高校生。野球部創設に奔走する天野光一に執拗にからむ人物で、神崎瞳とは西中学で同じクラスだった。兄の野村優が、三雲氷介に殺された事で氷介を憎んでいる。さらに光一が氷介のために野球部を創ろうとしている事実に怒りが抑えられずにいる。兄と氷介は中学時代ライバル同士だったため、氷介が打撃投手を買って出て、兄をつぶそうと頭にボールを当てて死亡させたと思い込んでいる。野村鉄男自身も野球に打ち込んでいたが、二度と野球ができなくなった兄を思い、野球を辞める事を決意した。しかし、当時のキャプテンである梶に真実を知らされ、ひと悶着あったものの野球部に入部した。島根県予選の浜野学園との決勝戦では、自らの打撃不振とサヨナラエラーで敗退してしまう。光一に借りができたとして特打ちに励み、なんとしても光一を甲子園に連れて行くという、熱意を抱くようになる。

野村 優 (のむら まさる)

霞高校野球部で、三雲氷介のチームメイトだった男性。野村鉄男の兄。西中学時代は名を馳せたスラッガーで、霞高校では氷介と共に1年生からレギュラーを務めていた。氷介へのライバル意識は強かったが、お互いの力を認め合っており、共に甲子園を目指していた。2年生の夏の予選で汚いプレーを得意とする姫山高校との試合で、膝に重傷を負ってしまう。しかし甲子園への思いは強く、連日氷介がバッティング投手を務めてインコースを克服するための特打ちをしていた。自らヘルメットを脱ぎ捨てて練習をする中、氷介の球が頭を直撃して昏睡状態となり、一時的に意識を取り戻したものの、帰らぬ人となった。弟の鉄男にも熱心に野球指導をしており、最後の言葉は「いい振りだ、鉄男」。

小宮 (こみや)

霞高校に通う男子高校生。小柄で出っ歯が特徴。横多中学では天野光一と同じ野球部だったが、中学時代は補欠だったため、バッテリーを組んだ事はない。光一にあこがれを抱いているため、一番早く野球部に入部した。島根県予選で甲子園出場を逃したあと、チームの戦力分析をして部員に発破をかけ、やる気を起こさせた。神崎瞳とは軽口を叩き合う仲で、瞳からは「小宮ン」と呼ばれている。

早乙女 薫 (さおとめ かおる)

霞高校に通う男子高校生。柔道部を辞めて野球部に入部した。巨漢で平べったい顔をしており、口が大きく、いつも歯が1本飛び出ている。非常に乱暴者で怪力の持ち主。柔道部の3年生の腕をへし折ったという噂があり、小宮ら野球部員からは、なにか問題を起こすのではないかと、野球部入部を懸念されていた。しかし、天野光一から大事なチームメイトだと言われた嬉しさから、下手ながらも練習に没頭するようになる。島根県予選で甲子園出場を逃したあとは、野村鉄男をライバル視して飛躍的に打撃力を向上させる。

田中 (たなか)

霞高校に通う男子高校生。サッカー部に所属している。細身で顔のパーツが大きく唇が分厚い。天野光一と同じ横多中学出身で、当時から光一のサッカーセンスに目をつけていた。野球部を創設するという光一をサッカー部に誘うものの、光一から負けた方が勝った方の部活へ入部するという条件でP・K勝負を申し込まれる。勝負には田中が勝ったものの、右手を使わない光一にシュートを何本も止められたため、自ら負けを認め、サッカー部から三人を引き連れて野球部に入部した。島根県予選で甲子園出場を逃したあと、一時的にやる気をなくすものの、小宮に足の速さが武器になると発破をかけられ、走塁に磨きをかける。

都並 (つなみ)

霞高校に通う男子高校生。タコのように口がつき出ている。野球部所属で、天野光一の控えのピッチャーを務めている。春の甲子園を掛けた島根県秋季大会の益田川高校との対戦では、肩を痛めた光一の代わりにマウンドに立つが、力み過ぎて打たれてしまう。しかし光一が出場できない試合での登板で実力をつけ、夏の甲子園を掛けた島根県予選では先発で活躍した。

大村 (おおむら)

東京のヤクザの男性。若頭を務めている。眼鏡をかけており、一見ヤクザには見えないが、蛇のような執念深さを見せる。三雲氷介から組を辞めたいと言われた際には、1000万円を要求した。以前、氷介から村山龍太郎が使っている出雲市のヤクザを潰してほしいと頼まれた事があり、氷介の生い立ちから天野光一を知る。氷介の借金がなくなると、手下に出雲の組を装わせて氷介に再び2000万円を要求した。

シンジ

大村の組に所属するヤクザの若い男性。わし鼻の受け口で唇が分厚い。三雲氷介の舎弟で、氷介にあこがれを抱いて慕っている。氷介の借金返済を手伝うために民子といっしょに奔走するが、氷介から突き放されて民子と関係を持ってしまう。

民子 (たみこ)

三雲氷介と同棲しているロングヘアの若い女性。ホステスをしている。一見すると綺麗に見えるが、唇が分厚くぼんやりとした顔をしており、やや情緒不安定。話し方がバカっぽいが、心根は優しい。初対面の時に、氷介から沙川雪に間違われた事から「ユキ」と名乗るようになり、本名を呼ばれると激怒する。氷介から彼氏に殴られていたところを助けられ、氷介の家に居ついたという経緯があり、氷介に依存していた。氷介が出て行ったあと、自暴自棄になりシンジと関係を持つ。

垣原 (かきはら)

霞高校野球部のOBの男性。梶と共に天野光一の野球部設立に協力する事になった。実家は垣原モーターズを経営している。ヤンキーのような風貌をしており、面長でひょっとこのように口が飛び出ている。楽観的な性格ながら、後輩には非常に厳しい。自分のいとこを強引に霞高校野球部に入部させるなど、垣原なりに野球部に貢献している。野球部の練習をよく手伝っているが、いつも騒動を巻き起こす要注意人物。

早川 (はやかわ)

役場の総務課に勤めている男性。霞高校野球部のOBで、梶から天野光一の野球部設立に協力するよう要請された。眼鏡をかけたまじめな性格の現実主義者で、後ろ向きな発言が多い。

校長 (こうちょう)

霞高校の校長を務める中年男性。眼鏡をかけて口ヒゲを生やしている。ふだんは無口でおとなしい人物だが、野球部再建を認めないと通告した際、天野光一の流した涙を見て、心を動かされた。教育に携わる者として、このまま生徒を見捨てるような行為はいかがなものかと自省し、最終的に野球部創設を認めた。

沢木 瞬 (さわき しゅん)

浜野学園の男子高校生。1年生からエースピッチャーを務めている。140キロの速球が武器の左の本格派。スリムな身体であっさりした顔立ちをしており、眉間にホクロがある。中学時代から天野光一とはライバル関係にあり、「横多中の天野」「比良中の沢木」と並び称されているものの、光一には一度も勝った事がない。光一の実力には及ばないと自認しており、霞高校に野球部を復活させるという光一を、陰ながら応援している。

菊地 大吾 (きくち だいご)

浜野学園の男子高校生。1年生からキャッチャーと4番を務めている。大柄ながっしりした体つきをしている。横多中学出身で、中学時代は天野光一とバッテリーを組んでいたため、光一の実力を熟知している。霞高校に野球部を復活させるという光一を、陰ながら応援している。

堂島 (どうじま)

浜野学園野球部の監督を務める高齢の男性。ガマカエルのような容姿で、顎は四角く角ばり、しゃくれている。40年近い監督人生の中で、三雲氷介と試合をする事ができなかったという後悔の念が強く、氷介を彷彿させる天野光一を高く評価している。また、霞高校の野球部創設の後押しするために、光一の事を新聞記者に教えたりと、陰ながら光一の応援をしている。光一が肩を痛めている事にいち早く気づき、病院へ行くよう説得した人物でもある。

村山 龍太郎 (むらやま りゅうたろう)

村山総合病院の院長を務める初老の男性。村山正彦の父親で、ハゲ頭の大入道を彷彿させる容姿をしている。横多町で一番古い地主であり、国会議員の地元後援会長や横多町議会常任理事など多くの肩書を持つ町の権力者。息子が三雲氷介に重傷を負わされた事を根に持ち、彼の両親にさまざまな手段を使って嫌がらせを続け、店を閉店に追い込んで両親を町から出て行かせた。あげくに霞高校野球部を強引に廃部にし、さらには町の少年野球チームも解散させ、町の人間が野球のヤの字も口にできないよう圧力をかけた。天野光一を甲子園に出場させないために、金の力で医者の滝川を懐柔し、島根県予選の決勝戦前日には、三雲氷介が恐喝で刑務所に入っているという内容の新聞記事を掲載させた。

村山 正彦 (むらやま まさひこ)

霞高校野球部のOBの男性。三雲氷介の起こした暴力事件で重傷を負わされた。肌を黒く焼き、チーマーのような身なりをしている。当時は氷介と同じくピッチャーであったため、万年補欠だった。守備も下手だったため、ほかのポジションでもレギュラーになれなかった。練習はサボる、チームワークは乱すといった、最低な部員。自分が陽の目を見ないのは氷介のせいだと逆恨みし、沙川雪を暴行した主犯でもある。やがて、氷介のために甲子園を目指すという天野光一に激しい憎悪を向けるようになり、野球部が正式に始動する事が決まると、光一の家に放火した。それを知った氷介にボコボコにされたものの、以降も光一が甲子園に出場できないよう、数々の嫌がらせを企てた。

西脇 圭太 (にしわき けいた)

梶が大阪で修行をしていた店の先輩の男性。小柄でがっちりした体型。彼女の白石波子と梶の店兼住居にしばらく滞在していた。酒癖が悪く、波子を殴っては金をせびっており、行く先々で知り合いからお金を借りまくっている。実は前に付き合っていた男性を刺してしまった波子のために、いっしょに逃げているという事情がある。

白石 波子 (しらいし なみこ)

西脇圭太の彼女。圭太と共に梶の店兼住居に滞在する事になった若い女性。沙川雪と同じロングヘアで、雪に雰囲気もよく似ている。人懐っこい性格で、高校時代野球部のマネージャーをしていた事もあり、天野光一が雪の面影を重ね、白石波子を意識するようになる。西脇に暴力を振るわれ金をせびられているが、実は前に付き合っていたろくでもない男を刺してしまい、西脇といっしょに逃げている。

小倉 (おぐら)

横多町一の野球通を自称する中年男性。阪神応援団島根県団長を務めている。梶の居酒屋で幼なじみの沼田相手に、野球談議に花を咲かせていた際、店を手伝う白石波子と仲よくなる。実は警察官で、後日大阪府警からヤクザを刺して逃げ回っている二人組の手配写真を見て、波子が逃亡犯だと気づく。

五十嵐 太一 (いがらし たいち)

社宮高校野球部に所属する男子高校生。2年生で4番を務めているスラッガー。飛距離だけなら浜野学園の菊地大吾よりも上とされ、付いたあだ名が「島根のマグワイア」。練習試合では天野光一から一発を狙うものの完敗。島根県予選準々決勝では、光一と真っ向勝負を繰り広げ、最後の打席は三振に打ち取られる。

渡辺 裕二 (わたなべ ゆうじ)

沙川雪が勤めている土伊温泉の旅館の支配人を務める男性。眼鏡をかけた優しそうな人物で、雪と沙川健太の世話をしている。健太と雪との仲睦まじい姿を目撃した刑事の山根から、雪の夫だと勘違いされていた。

池内 (いけうち)

益田川高校に通う男子高校生。ピッチャーを務めている。横多中学では天野光一の1年後輩だった。1年生でエースとなり、春の選抜高校野球出場を掛けた秋季大会で、霞高校と対戦する事になる。尊敬する光一の背中を見てここまで成長したという自負があり、試合では自分と真剣勝負してほしいと光一に願い出た。得意球は切れ味抜群のシュート。

滝川 (たきがわ)

滝川医院を経営する医者の男性。強面で無精ひげを生やしている。医者としては梶の信頼を得ており、肩を故障した天野光一の担当医を務めた。当初、光一の肩はリハビリで治すと言っていたが、一転手術しなければもとには戻らず、半年近く休ませて手術できるかどうか判断すると診断した。メスを入れたらリハビリには1年かかり、甲子園はおろか、島根県予選さえまともに投げる事はできないと光一に断言した。実は横多町の権力者、村山龍太郎から金で懐柔されており、光一をマウンドに立たせないために噓の診断結果を伝えた。また、プロ野球球団「東京エンジェルス」のスカウト、島原とも裏で取引している。

島原 (しまばら)

プロ野球球団「東京エンジェルス」のスカウトを務める高齢の男性。頭頂部が禿げており、眉毛が下がっている。早い段階から天野光一の素質に目をつけ、東京エンジェルスに光一を入団させたいと考えている。光一の故障が一過性である事を嗅ぎつけ、医者の滝川を裏であやつっていた偽善者。その後も秋のドラフトで、光一がほかの球団に指名されないよう画策した。

場所

霞高校 (かすみこうこう)

島根県の横多町にある町立高等学校。甲子園予選決勝に駒を進めていた中、野球部内で三雲氷介による暴力行為があったとして、決勝戦出場を辞退した。事件の詳細は報道されていないが、沙川雪を野球部員が暴行したのが事件の発端だった。それを首謀したのは、横多町の有力者、村山龍太郎の息子で野球部員の村山正彦。この事件で野球部は廃部となったが、時が経過して中学野球で名を馳せた天野光一が入学して来る。彼のひたむきさが多くの人間の心を動かし、野球部が創設され、沼田を部長として野球部が再始動する。島根県予選では決勝戦まで進む躍進を見せるが、光一の肩の故障により、野球部は一時的に低迷。最後の甲子園出場を掛けた島根県予選では、光一は五分の力であるが投げる事を許され、霞高校野球部は順調に勝ち進んでいく。

浜野学園 (はまのがくえん)

高校野球では古豪として知られる島根県の名門高校。野球部の監督は堂島が務めており、1年生からレギュラーの沢木瞬と菊地大吾がバッテリーを組んでいる。天野光一が霞高校で野球部創設に奔走している時に、甲子園に出場して準優勝を果たす。その後も甲子園出場の常連校となり、光一が3年生となった最後の島根県予選で霞高校と決勝戦で対戦した。

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