あらすじ
第1巻
平安期中頃、寛仁年間。鬼島と呼ばれる周囲約10キロの絶海の孤島で原始的な暮らしを送る少女のトラゴは、姉のタナ、少年のククリの三人で船で遊んでいた。しかし、うっかり船が流され、タナが行方不明になってしまう。それから数年が経過し、ククリと夫婦になったトラゴは、立派な体格のたくましい女性に成長していた。ある日、島にマナメという若い女性が漂着する。着物を着て眉を落としており、本島から流れ着いたらしい。トラゴは、マナメが幼い頃に自分のせいで亡くした姉タナに瓜二つだったため、助けて家に匿まう。しかし、トラゴの伯母であり、島の有力な巫女であるクウロウは、不吉だからマナメを洞穴に捨ててくるよう命じるのだった。トラゴとククリはマナメを廃屋に隠すが、クウロウに見つかり、占いで凶と出たマナメを丸太にくくりつけて沖へ流す事にする。トラゴとククリは、村で絶大な権力を持つクウロウの命令に背き、再びマナメを助け出し、マナメを海に流され事にして、再び島に匿っていた。時を同じくして大量のマンボウが島に漂着。貴重な食糧確保のため島民はマンボウの解体作業に忙しく、マナメの事がそれ以上追及される事はなかった。だが、島には地震の多発という不吉な現象が続いており、今度は島に大量の湯が吹き出して畑に壊滅的な被害を与えるのだった。
第2巻
熱湯となって大量に噴き出し続ける海水は、鬼島の穀倉地帯である池部の畑に壊滅的な被害を与え、イモはほとんど全滅。カツオドリも巣穴から姿を消し、村は深刻な食糧難に直面する。そんな中、海に流されたとして匿っていたマナメが、クウロウの息子であるモモエに見つかってしまう。島を襲う不吉な現象はすべてマナメのせいだと信じるモモエは、トラゴにマナメを殺せと命じるが、トラゴは姉と同じ顔をしたマナメを殺す事はできないと拒否。その代わり、もし今後島に少しでも不吉な事があったら、その時はマナメを殺すと約束し、モモエにマナメの事を口外しないよう頼むのだった。一方、マナメは貴重な村の食糧を盗んだりと勝手気ままで、隠れ続けるストレスも限界に達していた。ある夜、モモエはマナメを犯すために隠れ家へ向かうが、マナメに毒の入ったイモ汁を食わされる。マナメの色仕掛けに落ちたモモエは、村の御神体である亀石を盗まれて隠され、弱みを握られる。
第3巻
鬼島の火山が噴火し、島に石と灰が降り注ぐ。次に島に不吉な事が起こったらマナメを殺すと約束していたトラゴは、マナメの隠れ家がある辺りで崖崩れが発生したのを見て探しにいく。トラゴに見つかったマナメは、殺されまいとトラゴを岩で殴りつけると、洞窟に逃げ隠れる。島の食糧難はさらに厳しいものになり、このままでは島民78名が冬を越えられずに餓死する可能性が高まっていた。そんな中、本島から流れ着いたマナメは島民が知らない鉄や網を使った漁法を知っており、たくましく生き延び、島を脱出するために船を作るようモモエに命じる。秋のある日、島に大きな船が漂着するが乗員はすべて死亡。船の中には米が積まれていたが、鬼島の島民達は米を知らず、もみ殻のまま煮て食べていた。モモエはマナメから米の正しい炊き方を聞いていたが、マナメの事を話すわけにはいかず口をつぐむ。一方、トラゴはマナメを船で島から出せば殺さずに済むと考えていた。
第4巻
トラゴとマナメは島民に見つかって捕らえられ、村のリーダーで巫女であるクウロウの前に差し出される。トラゴはマナメを匿った罰として首まで地中に埋められ、7日間の絶食を言い渡される。夫のククリも3日間拘束される事になる。モモエは海に捨てられそうなマナメを、漂着した大型船に積まれた米などの使い方を知っているから生かすべきだと助けようとしていた。マナメはモモエをはじめとする村の若者達に、網の作り方と漁法、鉄製の農具など都で得た知識や仏像信仰を教えて、支持を集めていく。彼らは巫女クウロウ達と対立し、ついに村を離れて島の南側へ移住する。モモエはククリを助け出し、全壊した大型船の修理への協力を要請する。地中に埋められたトラゴを救出できないまま迎えた7日目、今度は島の北東部で噴火が起こる。その混乱に乗じてククリはトラゴを掘り起こす。痩せ細って衰弱していたが、トラゴはかろうじて生きていた。しかし、ククリは助けたトラゴを村に残し、マナメのもとへ戻って船の設計に取り掛かる。徐々に回復しつつあるトラゴだったが、マナメにたぶらかされて男達を奪われた村の女達は怒りをトラゴにぶつける。一方、マナメは村から離反した若い男達からマナメ様と呼ばれ、女王のような暮らしをしていた。再び島の中心部で激しい噴火が始まり、体力も全快したトラゴはついにマナメと戦う覚悟を決め、村の女達と共に打倒マナメに向けて動き出す。
第5巻
トラゴら若い女達は、マナメを殺して男達を村へ取り戻すため、マナメグループが移住する島の南側を襲撃する。ククリはもうこの島は駄目だから船を修理して、島民全員で島を脱出すべきだとトラゴに主張するが、聞き入れられない。さらにマナメは船に全員など乗せないと告げる。船が完成しても乗れるのは40人がせいぜいのところで、70名を超える島民全員を乗せる事は不可能だった。村に戻ったトラゴは、クウロウにククリ達と協力して船を作り、島を脱出する案を話すが、クウロウは祈れば危機を乗り越えられると譲らない。ククリ達がトラゴらと争っているスキに、米や魚、網を盗まれたマナメは、クウロウのいる村を訪れ、船に全員は乗れないから、食料を持って来たものから早い者勝ちと通告する。その噂は村に広がり、頻発する地震のたびに食料を盗んでマナメ側へ寝返る村民が続出していた。ついにはマナメ側33名、クウロウ側42名となって島は混乱を極める。島民が半分に分かれて殺し合うという最悪な道だけは避けなければならないと考えるクウロウは、10日以内に島に緑を戻すと村民をなだめ、たった一人で北の耕地を掘り起こし始める。その姿に心を打たれたトラゴも加わり、やがて村民は力を合わせていく。クウロウ側は畑を耕し、マナメ側は船の完成を急ぐ中、ついに火山がこれまでにない大規模な噴火を始める。焦ったマナメ側の男達は、まだ未完成の船で海へ出ようとし、それを止めようとしたモモエが刺され、殺し合いに発展。騒ぎを聞きつけたトラゴが駆けつけると、そこにはこの飢餓の中で丸々と太ったマナメの姿があった。ククリは船で島を脱出するしかもう方法はないとクウロウを説得する。トラゴは自分でけじめをつけるとマナメを追い、その首を絞めるのだった。それから1か月、激化する噴火に怯えつつも船がほぼ完成する。総勢51人で船を海岸まで押し、そこでくじを引いて船に乗れる40人を決める事にするが、混乱でくじもうやむやになり、争いとなる。クウロウは、島に残るというトラゴを無理矢理に船に乗せ、滅ぶ鬼島と運命を共する。船で脱出した島民は、避難先の沖ノ島でも肩身が狭く、5年後に船で鬼島へと戻る。トラゴとククリも息子タロウを連れて島へ上陸。しかし、目を離したスキに何者かが船を奪って沖へ進み、急いでトラゴ達は船を取り戻す。船の奪取に失敗して鬼島へ逃げていったのは、5年間、一人で生き延びていたマナメだった。トラゴ達は沖ノ島へ引き返すが、タロウをマナメに奪われてしまうのだった。
登場人物・キャラクター
トラゴ
鬼島で暮らすたくましい女性。怪力で働き者。幼い頃に一緒に遊んでいた姉のタナを海で亡くし、その責任を感じている。夫のククリとのあいだにまだ子供はいないが、島で懸命に暮らしている。
ククリ
トラゴの夫。トラゴとは幼なじみで、トラゴの姉タナが死んだ責任をトラゴ1人に押し付けたことに、罪の意識を感じている。口数は少ないが、働き者で島の不吉な予兆に不安を感じている。
マナメ
島に漂着してきた女性。本土の人間で、眉を落としている。トラゴが幼い頃に、海に流されたタナという姉に顔が似ているため、トラゴに「姉ぇ」と呼ばれて慕われている。島にトラブルを持ち込む、わがままな魔性の女。
クウロウ
島の巫女。島に漂着してきたマナメを、不吉だから捨てるように、とトラゴに告げる。島のリーダー的存在であり、誰も逆らえない。
モモエ
クウロウの息子。死んだことにして匿われていたマナメを見つけ出すが、返り討ちに遭う。トラゴの説得で口外はしないものの、マナメを犯そうと企む。