あらすじ
第1巻
グランダム王国の王宮捜査官であるアンネは、城下町で起きている奇妙な連続殺人事件に頭を悩ませていた。殺された被害者は全員女性で、遺体の顔が奪われるという猟奇的な犯行から、犯人は「グランダムの顔喰い魔道士」と恐れられていたが、魔法による犯行は証拠が残りづらいため捜査は行き詰っていた。しかし時同じくして、王宮で窃盗事件を起こしていたリースが、魔法を喰らう「魔喰」の能力を見せた事で、アンネは彼を利用する事を思いつく。リースは捜査に協力すれば減刑されるというアンネの取引に従い、手始めに王宮で行われていたアストーチの犯行を暴く事で自らの能力を証明し、アンネと共に「グランダムの顔喰い魔道士」の事件を調べる事となった。意外な事実に動揺しつつも犯人を捕まえたリースであったが、彼はそこで自らが求める「蘇生魔法」の手がかりとそれを巡る大いなる陰謀に触れてしまう。
第2巻
「明の皆既団」と呼ばれる者達が蘇生魔法にかかわっていると知ったリースは、何とか彼らに接触しようと試みる。しかし、それを危険視するアンネに妨害され、思うように進まない。さらには明の皆既団の一員として逮捕されていた者達は、王宮の牢屋内で謎の死を遂げてしまう。明の皆既団の幹部スカイアは「魔喰」であるリースに向けてメッセージを犯行現場に残しており、リースは蘇生魔法の手がかりをつかむため、スカイアと対峙する決心をする。スカイアがメッセージで指定した劇場に向かったリースとアンネであったが、そこでスカイアが仕掛けていた罠によって絶体絶命の窮地に陥ってしまう。さらにはアンネと劇場の観客まで人質に取られリースは辛い選択を迫られるが、そこに活路を見い出す事に成功。こうしてスカイアを取り逃したものの、無事に観客とアンネを救出したリースは、ローレルの鶴の一声によって正式に捜査官に任命される。目的のためなら手段を選ばない明の皆既団を捕まえる決意を固め、一行は新たな事件の捜査を始める。
第3巻
王宮捜査官として働くリースは、少しずつ捜査班に馴染んでいく。そんな中、捜査班の前にアンネの実家の執事をしているというアルフレッドが現れ、彼女の実家で起きた異変を知らせる。アンネは父親オーウェンとの確執から聞く耳を持っていなかったが、アルフレッドの懸命な嘆願にほだされ、リースを連れて一時実家に帰省する事を決める。しかし実家に戻ったアンネが見たのは、生きてこそいるものの変わり果てたオーウェンの姿だった。アンネと兄妹同然に育ったオーウェンの腹心の部下であるヘクターは、呪術によってオーウェンを衰弱させ、アンネの実家を乗っ取るつもりだったのだ。アンネとオーウェンの確執もヘクターの噓によって仕組まれたもので、彼はすべてを語ったあと、アンネを実力で排除すべく襲い掛かって来る。剣の達人であるヘクターに追い詰められるアンネであったが、リースの捨て身の攻撃によってかろうじて勝利する。そしてアンネは意識を取り戻したオーウェンとも和解し、今までにないやわらかな笑顔を浮かべて、仲間達のもとに戻っていく。
第4巻
城下で発生した美術館の館長の惨殺事件を捜査していたリースとアンネは、館長が残したダイイングメッセージを発見した事で、この事件が蘇生魔法に深くかかわる物だと知る。事件の背後に見え隠れする明の皆既団の存在を追って捜査を開始する二人は館長が隠した蘇生魔法の書の存在に行き着くも、目の前で明の皆既団にそれを奪われてしまう。重要な機密である蘇生魔法の書が敵の手に渡った事で、捜査班は一丸となって明の皆既団を追う事を決意する。一方、自分達の捜査内容が漏れている事から、内通者の存在に行き着いたアンネとリースは、その疑いをローレルへと向けていた。実際に明の皆既団を捕らえるための作戦が敵に察知されていた事もあり、リースはさらに疑念を強めていく。そんな中、作戦が失敗した事で明の皆既団に囚われたリースは、明の皆既団の首領オムからローレルが裏切り者である事を知らされる。
第5巻
明の皆既団に捕まり協力を強要されたリースだったが、そこにローレルとアンネ、捜査班の仲間が助けに現れる。裏切り者と思われていたローレルは、実は明の皆既団を一網打尽にするため、裏切り者を装っていたのだった。明の皆既団と捜査班が激戦を繰り広げる中、リースはアンネをかばってオムの魔法を受けた事で、異形の姿に変身し暴走してしまう。明の皆既団も捜査班も逃げ出す中、力を使い果たすまでリースは暴れ続けた。その後、目覚めたリースは、ローレルから詰問され自らの正体と過去を語り始める。リースの過去を知ったアンネとローレルは、リースに別の調査任務を課し、自分達はそれぞれ明の皆既団を追うための捜査を開始する。捜査班にいる真の裏切り者を警戒しながらも着々と情報を集めたローレルとアンネは、3日後に訪れる100年に一度の皆既月食の日に、クラーレス山の山頂で明の皆既団が蘇生魔法の儀式を行う事を突き止める。その儀式に魔喰の存在が必要である事を知ったアンネ達は、リースを置いて決戦の地に赴く事を決めるのだった。
第6巻
明の皆既団の幹部が勢ぞろいしたクラーレス山では、激戦が繰り広げられていた。アンネやローレルは傷つく仲間達の姿を横目に、それぞれ幹部達を倒していく。しかし勝利も束の間、捜査班にいた真の裏切り者の手によってローレルは殺されてしまう。さらに内通者は一人だけではなく、別の内通者によってリースまでもがクラーレス山に誘い出されてしまった。蘇生魔法の条件が揃った事でオムは姿を現し、自らの目的と正体を語る。数百年前の魔道士であるオムは自らの完全復活のために蘇生魔法を欲し、そのために多くの罪なき人々を犠牲にして来たのだった。復活したオムは瘴気をまとったおぞましい姿となってリース達に襲い掛かる。リースは絶望的な状況の中、先頭で戦うアンネの姿に勇気づけられ、邪悪な怪物となったオムと最後の戦いを繰り広げる。
登場人物・キャラクター
リース
魔喰の能力を持つ青年。スラム出身なため貧乏で、仲間達と共に王宮に忍び込んだところを捕まり、アンネとの司法取引で捜査に協力して行く事となった。屈託のない性格をしており、当初はアンネやローレルには悪感情を抱いていたが、次第に仲間として信頼を深めていった。捜査では魔喰の能力を駆使しており、証拠の残りづらい魔法犯罪では大きく貢献している。 一方、経験が不足していることもあり、魔法が関係しない捜査は苦手。戦闘では魔喰の能力で魔道師相手には無類の強さを誇るが、食べられる魔法には限りがあり、許容量を超えると暴走状態に陥ってしまう。天涯孤独の身の上で、幼少期以前の記憶はない。魔喰という異形の力を持つ事から居場所がなく転々としていたが、唯一自分を受け入れてくれたクロエには特別な思いを抱いており、彼女を復活させるために蘇生魔法を追い求めている。 その正体は魔法を作ったといわれる魔人ナグール族の一人で、オムとの戦いで能力が暴走状態に陥った際には、魔人としての姿と圧倒的な力を見せつけた。
アンネ
グランダム王国の王宮捜査官を務める眼鏡をかけた女性。人を寄せ付けない怜悧な雰囲気を持ち、捜査のためなら手段を選ばないシビアな性格をしているため、周囲から恐れられている。今まで部下もいたが彼女の過酷な指示に二日と持った試しがなく、すでに王宮内では彼女を恐れて部下になりたがる人間はいない。証拠の残りづらい魔法関連の事件の捜査に行き詰まり悩んでいたが、リースの持つ魔喰の能力を捜査に活用する事を思いつき、窃盗で捕まったリースを減刑と引き換えにこき使っている。 実家は軍の名家であるローザ家であったが、女性であるため父親からは軍人として期待されず、孤独な幼少期を送っていた。子供心に父親であるオーウェンに振り向いてほしい一心で剣の腕を磨き、領内でも屈指の実力者にのし上がったが、ヘクターの罠によって親子の確執は決定的なものになり、家を出てしまう。 以降、実家から行方をくらませたのち、王宮捜査官になった。オーウェンには認められなかったものの、実際は剣の腕は確かなもので、捜査では悪党や魔道士相手にも引けを取らない実力を見せる。
ローレル
捜査班で最高であるSランク捜査官の男性。アンネ達の上官に当たる存在で、捜査官達の中でもトップの検挙率を誇る凄腕となっている。金髪の優男だが、容姿に反して剣の腕前はアンネを超えるもので、細身の剣の一撃で竜を倒すほど。また万物に必ず存在する壊れやすい場所である「壊点」を突く技術を持っており、これを利用する事で魔法を切り裂くという離れ業も見せた。 当初はスラム出身のリースにも嫌味な言動を見せたりしたが、リースが明の皆既団を捕まえるのに役立つと判断して以降は、彼に謝罪し正式に捜査班に迎え入れている。捜査班に裏切り者がいると感じた際には、ローレル自身が二重スパイになって敵にあえて情報を渡しリースをさらわせるなど、目的のためなら手段を選ばないところがある。 一方で犯罪を暴き、国を守ろうとする使命感は本物で、ジャンをはじめ捜査班の仲間達から信頼されている。
ジャン
捜査班の第一班に所属するAランク捜査官の青年。長髪のナルシストで自意識過剰なところがあり、自身の捜査官ランクを鼻に掛けた言動が多いが、実は実戦経験がまったくなく、ピンチには動揺して何もできなくなってしまう。「火」「雷」「回復」の三つの属性を持っている珍しい魔道士で、「トライマスター」を自称しているが、実戦では混乱してまともにその能力を活かす事はない。 ただし、その潜在能力自体を認めているローレルには、成長すれば優秀な捜査官になると期待されている。このため他人には尊大に振る舞うジャンも、自分を認めてくれるローレルの事は信頼しており、彼が危機に陥ったと聞いた時は普段以上に動揺をあらわにした。
トリガー
捜査班の第二班の隊長を務める男性。口元を黒いマスクで覆った巨漢で、恵まれた体格に見合った怪力を誇る。元王宮兵士だったが形骸化した兵士の仕事に嫌気が差し、テロに怯える民衆を守るため捜査官に転向したという経歴を持つ。元兵士なため荒事には長け、凶悪犯相手に大太刀を振るって戦う。その戦いぶりからすべてを壊す「解体屋」の異名を持ち、犯罪者達には恐れられている。 捜査官としての使命感は捜査班の中でも随一で、ダンシルバーとの戦いで自らの力不足を実感した際には、のちに自分の身体に禁断とされる「始竜牙の手術」を施した。これによって人外の怪力を得たが、手術の副作用で余命幾ばくもない状態となっている。大男で周囲には怖がられがちだがプライベートでは意外と子煩悩で、幼い子供に弱い。
ソレント
捜査班の第二班に所属する隊員の青年。軽薄な雰囲気の持ち主で、普段はトリガーと共にテロや武装事件を専門に捜査している。新人であるリースに何かと突っかかるが、同時に新人がすべき事を教えたり面倒見のいい部分も見せる。捜査班の中でも危険な第二班に所属しているが、父親の「危険な仕事はモテる」という言葉が動機であり、不純な部分が目立つ。 しかし風の魔法を得意とする確かな実力者で、捜査では成果を上げている。
マーカス
捜査班の第四班の隊長を務める男性。黒ずくめの姿で、個性的な捜査班の面々の中でも、一際不気味な雰囲気を漂わせている。人語を解する軍獣シエラを使役する「軍獣士」で、シエラと感覚を同期する事によって高い情報収集能力を誇る。また特殊なネズミを調教して飼っており、これを利用した追跡術にも長けている。諜報員として情報を収集するエキスパートだが、それゆえに多忙な人物で、遅番や徹夜、連勤は当たり前となっている。 戦闘ではシエラとのコンビネーションを見せるほか、実は右腕部分に蛇の軍獣を飼っており、それによる奇襲も得意とする。この蛇による攻撃は回復魔法も受けつけない特殊なもので、さらに毒を打ち込む事で対象を死に至らしめる事ができる。またマーカスは、この蛇の毒を尋問や拷問にも利用している。
カルーラ
捜査班の第四班に所属する隊員の女性。ミステリアスな雰囲気の持ち主で、つねに冷静沈着に物事を判断する。「灰の魔道士」の異名を持つ凄腕の魔道士であり、得意とする「炎蛇」の魔法は対象を取り囲み、じわじわと炙り殺す非常に恐ろしいものとなっている。また「炎蛇」は自らの身体の一部を代償にして威力を上げる事が可能で、両手と引き換えに放った際には非常に大きな「炎蛇」を放っている。
シンクレア
捜査班の第三班の隊長を務めている女性。遺体分析官を務める理知的な人物だが、つねに骨をかたどった飾りと黒衣を身につけ、怪しい雰囲気を漂わせている。実際に骨や標本に名前を付けてコレクションしていたり、遺体を解剖中に食事をしたりしている。常軌を逸した行動を取っているが、鋭い観察眼と「死者の声」を聞くという特殊能力を持ち、検死に関してはスペシャリスト。 「死者の声」は明確な言葉ではないが、末期に感じた感情を読み取る事ができるため、捜査の大きな助けとなっている。
リベラ
捜査班の第三班に所属する遺体修復士の少女。柔和な性格で、つねに眠そうな雰囲気を漂わせている。欠損の激しい遺体を一時的に生前に近い状態に戻すという、特殊な魔法を使う事ができ、身元不明の遺体の判別に大きく寄与する事ができる。しかしその能力は消耗が激しいため、遺体を修復する度に眠りに落ちている。また一人の場合は、遺体を修復したあとにその場で眠りに落ちているため、度々遺体と添い寝している姿を目撃されている。
カルロ
新聞記者の少年。幼い風貌をしているが、事件のネタを求めて連続殺人事件の現場を訪れたり、周囲の人に恐れられているアンネに付きまとったり肝の据わったところを見せる。頭の回転も速く、新聞記者だけあって万の事情に通じているため、思わぬ形でアンネの捜査を手助けしたりしている。また絵心があり、自分の記事の挿絵は自らで書いているほどである。 女兄妹の末っ子で、女っぽい自分の容姿にコンプレックスを抱いている。特に姉にお古を着せられてからかわれた事が、未だにトラウマとなっている。
クロエ
リースの古い知り合いで、彼の回想に度々登場する金髪金眼が特徴の少女。すでに故人で、リースは彼女を復活させるために蘇生魔法を求めている。やさしく無邪気な性格をしており、魔喰の能力のせいで孤独だったリースを救い、彼と行動を共にしていた。魔喰の能力で火傷のような傷を負っていたリースを、普通の人と変わらぬ容姿にするなど不思議な能力を持っていた。 その正体は数百人の負傷者を一瞬で癒やす事ができる、アウラ族といわれる希少な種族。正体が露見し、その能力のせいでさらわれそうになったところをリースに救われるも、リースは力を使い果たし瀕死の重傷を負ってしまう。その際に自らの生命力を癒やしの魔力に変換し、自らの命を引き換えにしてリースの命を救った。 その後、クロエの遺体はリースによって氷付けにされ大事に保管されていたが、のちに明の皆既団に奪取されリースを仲間に引き込むための取引材料にされた。
オム
明の皆既団の首領。黒いローブに鳥の頭蓋骨のような形をした仮面をかぶった性別不詳の存在。蘇生魔法を欲し、生き返らせたい人間の欲望を刺激して明の皆既団を結成した。目的のためなら手段を選ばない冷酷な性格をしており、リースの協力を得るためにクロエを人質にしたり、仲間を使い捨てにしたり、卑劣な行動が目立つ。 また冥術の原型となった失われた「破滅を呼ぶ魔法」を使うなど、その正体には謎が多い。その正体は魔法を発明した「三大祖始」の一人「オルティム」その人。力を追い求め呪術や冥術を作り出したが、それを危険視されナグール族とほかの「三大祖始」によって滅ぼされた。しかし、末期に悪魔を呼び出し契約して生き延びるも、その身体は死体同然となってしまう。 以降、数百年に渡って死体同然の身体を使って復活の機会をうかがっていた。「蘇生魔法」を求めていたのも自らの完全復活のためで、そのために周囲のすべてを利用していた。
リトライト
明の皆既団の幹部を務める青年。水をあやつる魔法に長ける事から「水妖」の異名で呼ばれている。牧師のような黒い服を着て言動も敬虔、無益な争いや殺傷を好まないと公言しているが、蘇生魔法実現の邪魔者を「浄化」と称して殺すなど、その本質は冷酷そのもの。蘇生魔法の書を得るためにユノ美術館に忍び込み、館長と副館長を惨殺し、リースから書を奪って逃げた。
イヴォーグ
明の皆既団の幹部を務める女性。炎をあやつる魔法を得意とする事から「煉獄」の異名を持つ。長髪の美女でサディスティックな性格をしており、圧倒的な力を持ちつつも人をいたぶって殺す事に快楽を感じる性格破綻者。戦闘では人を一瞬で消し炭にする魔法を手足の如くあやつり、圧倒的な破壊力を見せる。
ダンシルバー
明の皆既団の幹部を務める男性。民族衣装に身を包んだ筋骨隆々の大男。明の皆既団の中では比較的良識派で、無用な争いを好まず、なるべく犠牲の出ない戦い方をしようとしている。強力な氷の魔道士を輩出してきた部族の最後の生き残りで、だまし討ちされ滅ぼされた部族を蘇らせるべく蘇生魔法を求めている。その実力は明の皆既団の中でも屈指で、堅固で破壊が困難な氷の壁を作り出す魔法「不壊氷壁」を得意とする。
スカイア
明の皆既団の幹部を務める男性。痩身に褐色の肌の魔道士で、「雷霆」の異名の通り雷属性の魔法を得意としている。特に体内の微弱電流に干渉する事で、対象を意のままにあやつる魔法を好む。人をあやつる魔法は対象に直接触れるか、血を通して接触しなければならないが、条件さえ揃えば数千人を一度にあやつれるほど強力なものとなっている。 リースの魔喰の能力に興味を持ち、度々彼の前に姿を現している。
グリア
明の皆既団の構成員の青年。獰猛な顔つきの魔道士で、「真空」の異名を持つ。戦闘や殺しによる刺激を求める戦闘狂で、仲間内でも目に余る行動を取る事から、明の皆既団内でもその存在は持てあまされている。同じ風の魔道士であるソレントですら対峙した瞬間に気圧されるほどの実力を持ち、真空の刃で対象を切り裂き、同時に「空気の鎧」を身にまとって自らを防御する攻防スキのない戦いを得意とする。 ソレントとカルーラの二人をたやすくあしらっていたが、暴走したリースには手も足も出ず殺された。
ベル
明の皆既団の構成員の少女。「地動」の異名を持つ魔道士。自らの容姿が幼い事を的確に理解しており、普通の子供のように振る舞って捜査班をだまし討ちするなど、その性格はかなり狡猾。土くれを人のように動かすゴーレムの魔法を得意とする。ゴーレムは怪力を誇り、防御力も高いが、単純な力押ししかできないため、アンネは一介の兵士の方が強いと評価を下している。
マリアノート
明の皆既団の構成員の少女。褐色の肌で、陽気な言動で振る舞う。「騒霊」の異名を持つ呪術師で、対象の抵抗の意志が強ければ強いほど、対象を強く衰弱させる呪術を得意とする。呪術が苦手なリースを捕らえるため、彼の前に姿を現し戦った。その後、捜査班の面々と戦闘を繰り広げていたが、暴走したリースに自らの呪術を跳ね返され死亡した。
アストーチ
王宮に勤める魔道士の中年男性。若い頃は仲間達と共に竜を退治した凄腕の魔道士で、富と名声を手にしていたが、近年は浪費が祟って報奨金も使い果たし生活に困窮していた。さらに最近は教会のアイドル修道女に熱を上げており、教会に多額の寄付を行っていたため、給料だけでは賄う事ができなくなって王宮内で日常的に窃盗を行っていた。蘇生魔法の書を明の皆既団に売ろうとしたが、たまたま王宮に盗みに入ったリースに正体を暴かれ捕まった。 魔法の腕は確かなもので、彼の放った火の魔法を魔喰の能力で喰らったリースは熟練の腕前だと評価を下した。リースはその味を気に入っており、その後も捕まったアストーチのもとを度々訪れている。
ヘクター
軍の名家であるローザ家に仕える兵士の男性。当主であるオーウェンには実の息子のようにかわいがられており、アンネとは幼い頃からの付き合い。年長者としてアンネを優しく見守っていたが、オーウェンの命によってアンネを暗殺しようと襲い掛かった。その後、アンネを家から追い出すという形で見逃していたが、アンネが実家に戻って来た際に再び襲い掛かっている。 実は明の皆既団のエージェントで、ローザ家を乗っ取るために裏で暗躍していた。オーウェンの命令でアンネを襲ったというのも、アンネとオーウェンのあいだに確執を生むための噓である。アンネが意のままに動かないのに業を煮やし、実力で排除しようと考えていた。その後、アンネを探し始めたオーウェンを明の皆既団に渡された呪術で衰弱死させようとしていたが、リースに企みを見抜かれ失敗した。
集団・組織
明の皆既団 (あけのかいきだん)
蘇生魔法を求めて各地で暗躍する謎の組織。オムを頂点に、六人の幹部と数百人のエージェントによって構成されている。死者を復活させる事を望む者達を受け入れているため、幅広い影響力を持ち、蘇生魔法を禁忌としているグランダム王国からはその存在を危険視されている。
捜査班 (そうさはん)
グランダム王国の王都で起きた事件を捜査する班。魔法による事件を捜査する第一班、テロや武装事件への対応を専門とする第二班、検死を専門とする第三班、諜報活動専門の第四班と4つの班が存在する。花形といわれる王宮兵士や魔道士に比べて王宮内での地位は低いため、好き好んで志願する者は少なく、捜査官は必然的に訳ありな者が集まっている。 現在は第一班の隊長ローレルが捜査班を取りまとめ、捜査方針を決定している。基本的に捜査官は同ランクの剣士と魔道士の二人一組で行動するのが義務づけられているが、中には部下に逃げられたアンネのように単独で捜査をしている者も存在する。
その他キーワード
魔喰 (まくい)
リースの持つ特殊能力。魔法を喰らって自らの力にするという非常に変わった能力で、ただ喰らうだけではなく、魔法を味わう事でその魔法が誰によって撃たれたものか判別する事ができる。リースはこれによって証拠の残りづらい魔法犯罪の捜査を手助けしている。また魔法を喰らうと、火の魔法なら皮膚が焼け爛れたり、水の魔法なら瞳の色が青く変色したり、その魔法の種類によって一時的に体に変化が訪れる。 さらに取り込んだ魔法を、そのまま吐き出す事で攻撃に転用する事も可能だが、魔喰は取り込んだ魔力が枯渇すると死亡してしまうため、魔法を吐き出すのは魔喰にとって諸刃の剣といえる。魔法を人間の料理のように味わって食べる事ができるが、逆に人間の料理を食べる事はできない。 また呪術によって生まれた瘴気は魔喰にとって毒といえる物であるため、魔喰は呪術にかかった人間の近くにいるだけで気分が悪くなる。
魔法 (まほう)
「三大祖始」と呼ばれる存在とナグール族が作った技術。「火」「水」「氷」「風」「雷」「地」の自然エネルギーをあやつる六元素魔法と、「祈り」のエネルギーを使う回復魔法があるほか、負のエネルギーを使う呪術や冥術といったものも存在する。基本的に扱える属性は一人につき一つだが、ごく稀に2種類以上の属性を使える者もいる。 また魔法による犯罪は物的な証拠が残らないため、難事件として扱われている。
呪術 (じゅじゅつ)
人を呪い殺す禁断の魔法。呪術にかかった人間は徐々に衰弱し、最終的には死に至る。また呪術を行使すると「瘴気」と呼ばれる特殊な魔力が発生するが、これはリースの魔喰の能力にとって毒となるため、彼の天敵といえる魔法である。
冥術 (めいじゅつ)
古くは「黒魔術」とも呼ばれた魔法。魔法陣によって悪魔や死者の力を使う魔法で、死体を意のままに動かして暴れさせる事ができる。リースいわく、冥術は食べられない事はないが味は「激マズ」で、冥術の魔力は魔法陣から発生するため術者の個性が出ず、味を判別する事はできないらしい。またオムは、死の淵で冥術を使って悪魔を呼び出し、取引を行っている。
蘇生魔法 (そせいまほう)
死者を復活させる魔法。グランダム王国では存在そのものを禁忌としており、研究するのも禁止されている。実はグランダム王国には、蘇生魔法について記した魔法書が存在し、厳重に管理されている。書によると100年に一度の皆既月食の日に、クラーレス山で儀式を行うとされているが、「最後の謎」と呼ばれる難題が存在し、それを解かない限りは儀式を行う事ができない。 その謎を解く鍵には魔喰が深くかかわっているとされているため、明の皆既団は魔喰の存在に注目している。