あらすじ
第一巻
久世陽佳は幼い頃、事故に遭って生死の境をさまよっていたところを、幼なじみの凛条魔月の輸血によって一命を取り留めた。それ以降、陽佳は魔月に恩を返したいと常々考えていたが、事故後しばらくしてから、急に魔月から避けられるようになり、中学3年になってもその状況が変わることはなかった。そんな中、陽佳は偶然ながら魔月がペットボトルを宙に浮かせている光景を目撃し、彼女が魔女の家系に生まれたことや、魔月自身も魔女を目指していることを聞かされる。同時に、東ノ森聖魔女学園の入学試験を明日に控えているものの、魔月は魔女としての力をうまくコントロールできず、このままでは試験の合格があやういことを知る。これを恩返しのチャンスと見た陽佳は、魔月の能力発動条件を検証し始めるが、確信を持てないまま試験当日を迎えてしまう。実技試験で思うように魔力を使えずに魔月が悲嘆にくれる中、女装をした陽佳が現れ、不意に魔月を抱きしめる。陽佳は魔月の能力発動条件が血圧の変化であることに気づき、自分を嫌ってると考えている魔月に対して、ストレスを与えることで発動をうながしたのである。実は陽佳を憎からず思っていた魔月は、ストレスではなくときめきで血圧を上昇させることとなり、結果的に魔法は発動。こうして魔月は無事に東ノ森聖魔女学園の入学試験に合格を果たすが、「陽佳と共に入学すること」という条件も課されてしまう。こうして陽佳は3年間、女装したまま東ノ森聖魔女学園で生活することを余儀なくされるのだった。
登場人物・キャラクター
久世 陽佳 (くぜ はるか)
幼い頃、事故に遭いながらも生還した少年。理詰めで考える癖があり、物事の検証や原因の究明などを得意としている。凛条魔月とは幼なじみで、小学生時代はよくいっしょに遊んでいた。また、魔月の祖母とも顔見知りで、彼女からは「ハル坊」と呼ばれている。特殊な血液型の持ち主で、事故に遭った際は輸血用の血液が不足していたが、同じ血液型だった魔月が輸血を申し出たことで一命を取り留めた。それ以来、魔月に対して命を救ってくれた恩を感じており、いつか恩返しをしたいと願っている。魔月からはひそかに思いを寄せられていたが、入院中に看護師からかわいがられていたことから魔月に焼きもちを焼かれ、それからは素直になれない彼女に避けられ続けている。中学3年になってもその関係は変わらなかったが、ある時偶然にも魔月が魔法を使っているところを目撃し、彼女が魔女の家系で、魔月自身も魔女として大成するために、東ノ森聖魔女学園の入学を志していることを知る。そして、彼女が不得手としている能力をコントロールする鍵が血圧の上昇にあることを見抜くと、入学試験の際に女装して学内に潜入。「ストレスを与えるため」と称して魔月を抱きしめたが、結果的に魔月をときめかせることで血圧を上昇させて能力の発動をうながし、合格させた。しかし学校側から、魔月を入学させる条件として久世陽佳も入学するように求められ、女装したまま東ノ森聖魔女学園で生活することをせまられる。それ以降は女装がばれないように細心の注意を払いながら、鈴成美優や響光琉などの同級生と交流を深めつつ、魔月のサポートに徹している。なお、陽佳は当然ながら魔女の資質を持たないが、魔月と力を合わせることで魔法を発動させられると思われているため、怪しまれずに済んでいる。
凛条 魔月 (りんじょう まるな)
久世陽佳の幼なじみで、彼が事故に遭った際に輸血用の血液提供を申し出た少女。陽佳に対しては幼い頃からひそかに思いを寄せており、彼が事故に遭った際もすぐさま病院に駆けつけ、自分の血を輸血するようにせまった。しかし、彼が入院中に看護師たちからかわいがられていた様子を見て焼きもちを焼いてしまい、それ以来、ずっと陽佳に対して素直になれずにいる。極度の低血圧で、朝が弱いにもかかわらず、毎朝決まった時間に起きては、血圧および魔女としての力を上昇させるためのダンスを踊っている。凛条魔月自身はそのことを誰にも知られていないと思っているが、実際は陽佳に知られており、その努力を好ましく思われている。魔法を使う魔女の家系の生まれで、主に「月」を同調先にした魔法を得意としている。魔月の祖母のような魔女になることを志しており、魔女としての素質を伸ばす教育をしている東ノ森聖魔女学園への入学を目指して、周囲に隠れて魔法の訓練を重ねていた。魔法の威力は優れているものの、身体能力が壊滅的に低いうえ、低血圧であるがゆえに魔力のコントロールが非常に不得手である。その影響から、一時は試験の合否すら危ぶまれたが、陽佳のサポートによって無事に合格を果たす。その際に学校側から、魔月を入学させる条件として陽佳も入学するように求められ、学内ではつねにいっしょに行動するようになる。なお、東ノ森聖魔女学園に入学してからも陽佳に素直になれないのは変わらないが、彼の分析能力には一目置いているほか、秘めていた感情を半ば無意識に再燃させている。
鈴成 美優 (すずなり みゆ)
東ノ森聖魔女学園に通う1年生の少女。おっとりとした控えめな性格の持ち主で、猫の「ナナちゃん」と共に行動することが多い。「人」を同調先にした魔法の使い手で、他者の内面を覗くことを得意としている。しかし、自分以外のプライベートをむやみに知るのは、その相手を傷つける事態につながりかねないと感じており、引っ込み思案なこともあって力を使うことに対して消極的になっている。入学直後の授業で、水晶玉を通じて相手の思考を読み取り、それを紹介するという課題を与えられた時は、久世陽佳や凛条魔月と共に取り組むことになったが、ほかの生徒が他者の秘密を暴露する様子を見せられたため、最初はできないふりをしていた。しかし陽佳から、大事なのは秘密の暴露ではなく、相手の内面を深く読み取り、それを長所として紹介することであると諭されたことで自信を獲得し、その翌日、陽佳と魔月の魅力をはっきりと告げることができた。それ以来、陽佳に一目置くようになり、今まで見たことのない存在であると意識するようになる。ただし、彼が男性であることには気づいていない。
響 光琉 (ひびき ひかる)
東ノ森聖魔女学園に通う1年生の少女で、博多弁に近い方言を話す。明るく元気な性格で、対照的な性格の鈴成美優と仲がいい。運動神経抜群で、「電気」を同調先にした魔法を使って身体能力を高められる。さらに、幼い頃から魔法のコントロールも得意で、大好きな祖父のために力を使って感謝されていた。自分の運動能力に自信を持っており、自らを「運動と筋肉のスペシャリスト」と公言している。体力測定の際に、多くの種目でトップの成績を獲得しており、クラスメートからあこがれの目を向けられる。しかし、久世陽佳が男子であることを隠そうとしつつも、つい気を抜いてしまって垂直跳びで光琉以上の記録を出したことで、彼に興味を抱くようになる。ただし、凛条魔月が陽佳に協力してその場はごまかしたために、彼が男性であることには気づいていない。
花宮 サキ (はなみや さき)
東ノ森聖魔女学園に通う1年生の少女。入学試験は2位の成績で、トップの成績で合格しながら入学式に来られなかった天性の魔女の代わりに、新入生代表のあいさつを行った。自分の才能に自信を持っているが、それゆえに他者を見下してしまう悪癖を持つ。入学直後の授業で久世陽佳や凛条魔月、鈴成美優がうまくいかない様子を見せた際には、明らかにバカにするような態度を見せ、魔月を怒らせた。一方で、派手な性格や見た目に反して、魔法そのものは地味なものが多い。接点が少ないうえに、自分たちのことで精一杯な陽佳からはまったく関心を抱かれておらず、顔や名前すら覚えられずにいる。
天性の魔女 (てんせいのまじょ)
東ノ森聖魔女学園に通う1年生の少女。入学試験をトップの成績で通過しており、本来は入学式の際に新入生代表のあいさつを行うはずだった。しかし、入学式には参加しておらず、授業にも出席していないため、同級生たちには顔すら知られていない。そのため、半ば幻の存在のように噂されており、「天性の魔女」と呼ばれている。噂によると、さまざまな事象を同調先にした魔法を使いこなし、中でも得意なのは凛条魔月と同じく「月」を同調先にしたものであるという。授業の中でホウキに乗り、操縦を誤って墜落した久世陽佳と魔月の前に現れ、気を失っていた陽佳と、彼の安否を気にするあまりうろたえる魔月を介抱し、その際に二人に興味を抱く。そして、夜中に魔法で黒猫に姿を変え、二人の暮らす寮をこっそりのぞき見するが、その中で陽佳が女装を解いている場面を目撃してしまう。
魔月の祖母 (まるなのそぼ)
凛条魔月の祖母にあたる女性。魔女の家系に生まれた人間で、魔女であることを公言はしてないが、魔月に対しては隠していない。魔月の幼なじみである久世陽佳とも面識があり、彼のことを「ハル坊」と呼んでいる。魔月からは優しい性格と面倒見のよさもあって尊敬されており、彼女が魔女になることを志すきっかけにもなっている。
校長 (こうちょう)
東ノ森聖魔女学園の校長を務めている女性。好奇心旺盛で気が強く、魔女の素質を持つ少女たちを育て上げることに心血を注いでいる。魔法を使うにあたって大切な要素を「愛」と公言してはばからず、生徒同士の交流を深めることも重要視している。入学試験の際には、凛条魔月が魔力のコントロールに苦労しながらも、久世陽佳が彼女に協力したことで合格に導いたことを目の当たりにし、強い興味を抱く。そして、魔月の入学を認めるにあたって、陽佳と二人で入学するという条件を提示した。
担任 (たんにん)
東ノ森聖魔女学園に勤める女性教師。久世陽佳や凛条魔月が所属する1-Bの担任を務めている。気の強い性格で、しゃべり方もさばさばしている。魔女にとって「愛」こそが大切な要素であるという校長の思想を重んじており、初めての授業ではオリエンテーションの一環として、水晶玉を使ってクラスメートの内面を覗く課題を提示。その中で、多くの生徒たちが相手の秘密を暴露するだけにとどまっていたのに対し、陽佳と魔月、そして鈴成美優のグループが、相手の内面をしっかり把握しつつ、それぞれの長所につなげるところを目の当たりにし、「それでこそ愛のある魔女の読み解き方だ」と賞賛した。
場所
東ノ森聖魔女学園 (ひがしのもりせいまじょがくえん)
久世陽佳や凛条魔月が住む街の駅の周辺に位置する高等学校。生徒たちや入学希望者などからは「ヒガジョ」と呼ばれている。表向きは特定の人材をスカウトして集めている名門校とされており、陽佳もその建前を信じていた。しかし実態は、魔女の素質を持った者を集めて一流に育て上げる教育機関で、魔女の力を持つ者は、東ノ森聖魔女学園で修練を積まなければ、16歳を境に能力が消えていってしまう。魔月の祖母のような魔女になりたいと願う魔月は、幼い頃からこの学校に入学することを志しており、日々修練を積んでいた。入学試験は、受験生が持つ魔力を披露するという単純なものだが、力のコントロールが不得手な魔月は、あやうく不合格になりかけた。しかし、女装して学内に潜入した陽佳のサポートによって魔力のコントロールに成功し、陽佳と共同でという条件付きで入学が認められた。
その他キーワード
魔女 (まじょ)
自然のエネルギーと同調し、取り込んだ力で超常現象を引き起こすとされる存在。使用できる魔法は同調先によって変化し、「月」を同調先にした力を振るう凛条魔月は、主に引力をあやつる魔法を得意としている。魔女となれるのは女性のみで、男性である久世陽佳は魔女の力を行使することができない。しかし、魔月と触れ合うことで彼女が力をコントロールできることから、魔月の力は陽佳と魔月の二人で発揮しているものと信じられている。
同調先 (どうちょうさき)
魔女が力を振るうために借り受けるとされる、エネルギーの発生源。魔女の使う魔法は同調先によって大きく異なり、「月」を同調先にしている凛条魔月は引力をあやつる魔法を、「人」を同調先にしている鈴成美優は人間の内面を読み解く魔法を、「電気」を同調先にしている響光琉は、マッサージで相手の血行をよくしたり、自身に帯電をさせることで身体能力を上昇させる魔法を使用できる。同調先に選定できるものは一種類に限定されているわけではなく、天性の魔女は、最も得意としている「月」を同調先にした魔法を使えるほかにも、さまざまな同調先からエネルギーを受け、魔法を行使できるといわれている。