あらすじ
結婚の報告
卓越した魔法の腕前を持ち、5年前に勇者のクレス・ド・ルーアンらと共に魔王を倒したリィン・アルベールは、32歳になった現在、人里離れた森の中で自堕落な隠遁生活を送っていた。そんな彼女の前に突然、16歳になったクレスが現れる。実は魔王との最終決戦直前、当時11歳だったクレスはリィンにプロポーズをしており、それを死亡フラグと受け止ったリィンは、なんとしてもクレスが生きて帰って来るようにと、彼のあらゆる希望を叶(かな)える約束をしていた。16歳になり、結婚できるようになったクレスはその時の約束を守るべく、リィンのもとにやって来たのである。だが、魔王を倒し国定勇者と国定魔女となったクレスとリィンが結婚をするためには、越えるべき障害は多かった。物事の順序を重んじるクレスは、まずは互いの親、そしてかつて共に戦った騎士にして一国の姫でもあるアンジェリカに挨拶が必要だと説き、リィンと共に旅立つのだった。
リィンが知らなかった真実
かつて魔王との戦いにおいて、リィン・アルベールはクレス・ド・ルーアンを蘇(よみがえ)らせてもらった代償として、旅の仲間にして神聖ミラソール教国の聖女であるウェザリアに対し、二つの誓約を行なっていた。実はリィンが引きこもり生活を送っていたのも、この誓約が理由の一つであった。だがクレスによれば、その前にクレスがリィンと結婚の約束をしていたため、その誓約は無効なのだという。挨拶回りを済ませたリィンとクレスは、この件について話し合うため、ウェザリアに神聖ミラソール教国へと呼び出された。やむを得なかったとはいえ、当時ウェザリアが命懸けで守ろうとしていた幼いクレスを一度死なせてしまった負い目から、リィンはウェザリアが自分のことを恨んでいるだろうと戦々恐々としていた。やがて神聖ミラソール教国についたリィンとクレスは、古びた教会でウェザリアと再会する。彼女は、魔王との戦いで一度命を落としたクレスを反魂の奇跡(リザレクション)で蘇らせた代償として、聖女としての力と共に、声も失っていた。そして筆談による会話の中で、リィンは魔王との戦いの中でクレスが死亡したとされる一件の真実を知る。
登場人物・キャラクター
リィン・アルベール 主人公
ベルトランド出身の魔法使いの女性。年齢は32歳。紫色の髪をセミロングのボブヘアにしており、赤いアンダーリムの眼鏡をかけている。語尾に「~ス」と付ける特徴的なしゃべり方をする。家の呼び鈴が鳴っただけでビ... 関連ページ:リィン・アルベール
クレス・ド・ルーアン
ルーアンの片田舎の村出身の勇者の少年。年齢は16歳。金髪ショートヘアのイケメンで、どこかかわいらしい雰囲気を漂わせている。穏やかな性格で、物事の道理を重んじ周囲に対する気配りも欠かさない、高潔で紳士的な人物。一方で、しっかりと観察していないとわからないものの、まだ16歳という若さもあり、どこか背伸びをして無理をしているところもある。5年前に勇者パーティーを率いており、魔法使いのリィン・アルベールや騎士姫のアンジェリカ、聖女のウェザリアと共に、五大陸七大国家を恐怖に陥れた魔王を倒した。その功績により、国定勇者としての肩書を与えられている。魔王との最後の戦いに臨む際に、生きて帰ったら結婚して欲しいとリィンにプロポーズし、魔王との最終決戦に勝利した。この時、一度は死亡したものの、ウェザリアの反魂の奇跡(リザレクション)により蘇生したとされている。それから5年後、結婚できる年齢の16歳になったところで、隠遁して引きこもり生活を送っていたリィンのもとに現れ、改めて正式にプロポーズした。以来、リィンとの結婚を各所に認めてもらうため、リィンと共に奔走することとなる。なお、リィンにはなぜか尻好きだとカンちがいされている。
アンジェリカ
ルーアン出身の騎士の女性。ルーアンの姫でもある。陽気で一本気な性格で、「力こそすべて」を地で行くところがあるが、基本的にこれはルーアンの国是ともいえることであり、その中においてはアンジェリカはまだ思慮深い方である。なお、姫として振る舞っている際はおしとやかな令嬢に変貌を遂げる。5年前に勇者のクレス・ド・ルーアン率いるパーティーの一員として、魔法使いのリィン・アルベールや聖女のウェザリアと共に、五大陸七大国家を恐怖に陥れた魔王を倒した。体術を駆使した攻撃もさることながら、尋常ならざる打たれ強さが売りで、魔王との戦いの旅においては、味方が受けた攻撃を肩代わりする国宝「ケルビムの盾」を使って仲間たちを守る盾役として戦っていた。だがリィンには、頭に脳の代わりに筋肉が詰まっているいわゆる「脳筋」と見られており、ケルビムの盾についても、その性質から呪いのアイテムを国宝だとカンちがいしているだけなのではないかと考えられていた。男女を問わずセクハラ癖があり、何かと幼いクレスを抱きしめて自らの胸に顔を埋めさせたり、リィンの胸や尻を揉(も)みまくったりと、ボディタッチが濃密かつ執拗(しつよう)。現在は体の露出度は高いが、あまりにも巨大な2本の角のついたフルフェイスのヘルメットを身につけて行動しており、ルーアンの自警団(ギルド)からは、その姿から「雄牛の淑女」の異名で呼ばれている。これは、周囲の人間に対しては姫であることを隠すこと、さらに盾役であるため敵からは注目を浴びる必要があることを両立するためのものである。リィンたちからは、「アンジェ」と呼ばれている。
ウェザリア
神聖ミラソール教国出身の元聖女。ロングヘアを頭の後ろで結い上げた清楚(せいそ)な美人。慈愛にあふれているが、一方で責任感が強く、こうと決めたら譲らない非常に頑固なところがあるうえ何かと頭に血が上りやすく、リィン・アルベールには「慈悲深い激情家」と評されている。5年前に勇者のクレス・ド・ルーアン率いるパーティーの一員として、魔法使いのリィンや騎士姫のアンジェリカと共に、五大陸七大国家を恐怖に陥れた魔王を倒した。ミラソール教団の教皇ですら4枚しか持っていない、奇跡を行なうための「光の翼」を10枚も顕現させることが可能で、その最大射程は300メートルと桁外れの実力を誇る。魔王との最後の戦いで、命を落としたクレスに反魂の奇跡(リザレクション)を行って蘇生させたとされており、周囲からは勇者の命の恩人と見なされている。この奇跡の代償として、10枚の光の翼すべてと自らの声を失ったが、その件については神聖ミラソール教国の国民、およびミラソール教団の信徒には秘匿されている。魔王との戦いの旅においては、方針の違いを巡ってリィンと意見が対立し衝突することも多かったが、これは双方共に仲間のことを思うからこそであり、ウェザリア自身も心の底ではリィンの高潔な精神を愛し、彼女のことを認めていた。現在は聖女の座を辞し、神聖ミラソール教国の聖都ウェルカヌスの外れにある古びた教会で、静かに暮らしている。リィンたちからは、「ウェザ」と呼ばれている。
アスクレピオ
ミラソール教会の大司教を務める男性。長身で眼鏡をかけ、おっとりした顔立ちをしている。外見どおりに物静かで穏やかな性格をしており、人が嫌がることにも率先して取り組む誠実な人格者。かつて、勇者のクレス・ド・ルーアン率いるパーティーの一員として、魔法使いのリィン・アルベールや騎士姫のアンジェリカと共に、五大陸七大国家を恐怖に陥れた魔王を倒す旅をしており、彼らを導く存在となっていた。だが、のちに役割を聖女のウェザリアに譲り、自らはパーティーを離れた。実は当時子供だったクレスには、深い知識、落ち着いた話術、尊敬できる行動、優しく朗らかな性格、確かな実力と、自分に持っていないものをすべて持っている理想の男性像としてコンプレックスと苦手意識を抱かれており、リィンを巡る恋のライバルとして意識されていた。それでもその立場から、クレスには「先生」と呼ばれている。