あらすじ
第1巻
かつて、プロとして競技ダンスで華々しく活躍していた坂上千尋は、婚約者でありリーダーの大和理玖からカップル解消を言い渡され、競技から離れる事になった。リーダーと恋人を同時に失った千尋は、その後1年のあいだに、ストレスですっかり太ってしまう。当時の面影すらなくなってしまった千尋は、それでもダンスと離れる事はできず、ダンス教室の講師として、生計を立て日々を暮らしていた。そんなある日、元教え子の田浦凜桜からの頼みを受け、千尋はダンス未経験の男子高校生、天野亜斗夢にダンスを教える事になった。文化祭で踊る事が決まったからと、レッスンに嫌々やって来た亜斗夢はダンスを馬鹿にし、千尋にデブと言い放つなど、最悪の態度を見せる。しかし実際に踊ってリフトをして見せ、その派手な技を目にした亜斗夢は、少しではあるがダンスに興味を持ち始め、教室に足を運ぶようになる。練習を通してダンスの難しさを知った亜斗夢は、思うようにいかない事に苛立ちを感じながらも、千尋のアドバイスを頭の隅に置きつつ、学校でさまざまなものをヒントにしながら、密かに特訓を始める。
第2巻
文化祭当日。ダンス本番を直前に控え室で待機していた天野亜斗夢のもとに、田浦凜桜が負傷したという知らせが飛び込んで来た。突然の出来事に動揺しつつも、これで踊らなくて済むと、内心ほっとしていた亜斗夢は、凜桜が泣きながら悔しがって謝る様子を見て、坂上千尋にパートナーを務めてもらえないかと打診する。初めは断固拒否の姿勢を見せていた千尋だったが、平塚香月からのあと押しもあり、覚悟を決めて踊る事を決める。人前で1年は踊っていなかった千尋と、初めていっしょに踊る事になった亜斗夢は、互いに好影響を与え合いながら踊り、フィニッシュでは観客から盛大な拍手を送られる事となる。これを機に、亜斗夢は改めてプロダンサーとしての千尋に興味を持ち、同時にダンスの面白さにのめり込んでいく。しかしその直後、千尋と亜斗夢は翠蘭学院高校の教頭から呼び出しを受ける。緊急の事とはいえ、部外者が無許可で出演した事に叱責を受けるのだろうと、千尋達は恐る恐る教頭のもとへと足を運ぶが、そんな二人に意外な言葉が掛けられる。
第3巻
「早乙女ダンスプラザ」では、年に1度のダンスパーティを1か月後に控え、それぞれが準備に奔走していた。そんな中、坂上千尋は正式にカップルを組むリーダーを決めて競技に復帰するようにと、瑠里から強い圧力をかけられていた。しかし、特に相性がよさそうな相手もおらず、競技復帰の予定も立たないままとなっていた。一方、天野亜斗夢は千尋に正式にダンスを教えてほしいと申し込むが、千尋はこれを拒否。それでもめげずに通い詰める亜斗夢に、仕方なくレッスンを始める千尋だったが、その内容は初心者には厳しいものだった。わざと厳しいレッスンをして、亜斗夢のやる気をなくそうという考えだったが、亜斗夢はこれに負けず、ダンスへの情熱を燃やす。しかし、そのやる気とは裏腹に、レッスンを続けるためにかかる費用について問題が発生してしまう。そんな折、大和理玖が再びダンス教室に姿を現す。公私混同せず、大人になって再びカップルを組む事を瑠里に勧められたものの、どうしても納得できない千尋は、勢いで新しいリーダーとして、亜斗夢とカップルを組む事を宣言してしまう。
登場人物・キャラクター
坂上 千尋 (さかがみ ちひろ)
競技ダンスとラテンのプロA級を持つ女性。年齢は27歳。現在は「早乙女ダンスプラザ」で講師として、子供からお年寄りまで幅広い年齢層の生徒にダンスを教えている。以前は大和理玖とカップルを組み、大学時代は競技ダンスのチャンピオンだった。プロになってからも、海外の競技会に出るなどして活躍していたが、リーダーの理玖が、心変わりから後輩の辻堂朱里と組む事を決めた事で、カップルを解消。彼とは結婚の約束もしていたが、破談となった。それ以来、競技から離れたストレスにより激太りし、当時の姿は見る影もなくなってしまった。元教え子の田浦凜桜を通して天野亜斗夢と知り合い、彼にダンスを教える事になったのをきっかけに再び競技ダンスへの思いが再燃し、自然と体も痩せて元の姿へと変化していく。身長167センチと大柄。
天野 亜斗夢 (あまの あとむ)
翠蘭学院高校に通う2年生の男子。年齢は17歳。身長は180センチを超える長身だが、頭が小さくて手足のバランスがいいため、あまり大きく見えない。人を惹きつける陽のエネルギーにあふれており、天性の華がある。小学校時代からバスケットボールを続け、U12の育成選抜で海外に行った事もあるほどの実力の持ち主。現在学校ではバスケットボール部に所属しているが、脛骨過労性骨膜炎を患い、休部している。文化祭で、クラスの代表としてダンスを踊る事が決まってしまい、田浦凜桜に無理矢理連れられて、坂上千尋のもとを訪れた。千尋に対しては、初対面の時からデブ呼ばわりし、彼女もダンスも馬鹿にしていたが、練習が思うようにいかずにダンスの難しさを体感して以降、次第にダンスの魅力に取りつかれるようになる。同時に、プロダンサーとしての千尋にも興味を持つようになり、彼女と共に本格的にダンスを極める決意をする。
平塚 香月 (ひらつか かずき)
坂上千尋の友人の女性。「湘南カイロプラクティック」で整体師を務めている。特にスポーツに関する知識に長けているため、スポーツ関連で痛めた体を癒しに訪れる患者と多くかかわっている。ショートヘアの快活な性格で、お酒が大好き。大和理玖とのカップル解消により、競技ダンスから離れ、すっかり太ってしまった千尋に、もう一度痩せて競技に戻ってほしいと思っている。
剣持 (けんもち)
「早乙女ダンスプラザ」で講師としてダンスを教えている男性。競技ダンスのプロで、清潔感のあるオネェ。純粋に教える事が好きで、生徒の技術向上を手助けする事になにより喜びを感じている。若く見え、剣持自身も50歳と言い張っているが、実は60歳で最近は老後を見据えた資産運用についてまじめに考えている。
大和 理玖 (やまと りく)
坂上千尋とカップルを組んでいた元リーダーの男性。千尋とは結婚の約束もしていたが、辻堂朱里と出会い、彼女に惹かれたため千尋とのカップルを解消。朱里とカップルを組んで、ダンスを続ける事を選んだ。その後はチャンピオンとなり、競技会で華々しい活躍を見せていたが、1年足らずで朱里が妊娠。競技会に出られなくなったため、再び千尋にダンスのパートナーになってもらえないかと頼むために、千尋の前に姿を現す。
辻堂 朱里 (つじどう あかり)
大和理玖のパートナーの女性。年齢は23歳。坂上千尋が大学時代に所属していた舞踏研究会の後輩にあたる。当時から、かわいらしい外見とスレンダーな体で、男子を夢中にさせる魅力にあふれていた。理玖とカップルを組んでからはチャンピオンとなり、順調なダンス人生を送っていたが、1年ほどで妊娠したため、出場を予定していた競技会に出られなくなってしまう。
田浦 凜桜 (たうら りお)
翠蘭学院高校に通う2年生の女子。競技ダンスのジュニア部門でランキング上位に入っていた事があり、強化選手に選ばれた事もある実力者。坂上千尋の教え子だったが、現在は部活のチアリーディングに夢中のため、ダンスから離れている。チア部ではエースでキャプテンを務めており、明るくて活発なために男子からの人気も高い。文化祭でダンスを踊る事になり、カップルを組む事になった天野亜斗夢にダンスを教えてあげてほしいと、千尋のもとを訪れた。チアとダンスの練習で疲れ切った中、迎えた本番当日に誤って階段から転落し、アキレス腱断裂の大ケガを負ってしまう。身長152センチながらシューズのサイズは24センチと、身長に対して足のサイズが大きめ。
早乙女 (さおとめ)
「早乙女ダンスプラザ」を経営している男性。瑠里とは夫婦で、競技ダンスではカップルを組み、全日本チャンピオンになった事もある実力者。海外でも何度も競技会のファイナリストになっているが、現在は現役を引退して協会の役員や競技会の審査員を務めている。純粋に踊る事が大好きで、妻の瑠里からは「ダンスバカ」と揶揄されている。
瑠里 (るり)
「早乙女ダンスプラザ」を経営している女性。早乙女とは夫婦で、競技ダンスではカップルを組み、全日本チャンピオンになった。海外でも何度となく競技会のファイナリストになった事がある実力者だが、現在は現役を引退して協会の役員や競技会の審査員を務めている。派手な外見と気の強い性格で、競技ダンスで上を目指す事への情熱は今も持ち続けており、競技から離れてしまった坂上千尋に、もう一度リーダーを見つけてカップルを組み、競技ダンスに復帰してほしいと願っている。
加藤 志保里 (かとう しおり)
翠蘭学院高校に通う2年生の女子。加藤里太の双子の姉。眼鏡をかけた一見地味な雰囲気ながら、ダンスになると一気に華やかな雰囲気に変貌する。小学校1年生の頃からダンスを続けており、北海道インターナショナルダンス大会、ジュブナイル、ラテンアメリカで1位入賞の実力の持ち主。現在は学校で英語部に所属しながら、週1回東京に通って有名なダンサーにダンスを見てもらっている。もともと思いを寄せていた天野亜斗夢がダンスを始めたと知り、積極的に声を掛けるようになる。
加藤 里太 (かとう りた)
翠蘭学院高校に通う2年生の男子。加藤志保里の双子の弟。背が低く、眼鏡をかけた一見地味な雰囲気ながら、小学校1年生の頃からダンスを続けており、北海道インターナショナルダンス大会、ジュブナイル、ラテンアメリカで1位入賞の実力の持ち主。現在は学校で物理部に所属しながら、週1回東京に通って有名なダンサーにダンスを見てもらっている。文化祭で天野亜斗夢が踊ったところを見て、ヘタだとこき下ろした。彼がまだダンスを始めて1か月だと知って狼狽(うろた)えるが、次第に本気になっていく亜斗夢の様子に、楽しみさえ感じるようになっていく。
天野 卯羅々 (あまの うらら)
天野亜斗夢の妹。不登校で、家にいる事が多い。空手道場に通っているため、体は小さくても蹴りはかなり強烈。亜斗夢の事を、アニメの「鉄腕アトム」を揶揄して「百万馬力」と呼んだりするなど、なにかとキツイ物言いをする事が多い。しかし決して仲が悪いわけではなく、お金に困った亜斗夢に自分の預金通帳を差し出すなど、兄思いなところもある。実は生まれた時、「亜斗夢」の妹という事で、両親は「ウラン」という名前にする予定だったが、亜斗夢が全力で阻止した事で、「卯羅々」になったという裏話がある。
教頭 (きょうとう)
翠蘭学院高校の教頭を務める男性。スキンヘッドに眼鏡をかけた強面で、かなり迫力がある。文化祭で踊ったあとの坂上千尋と天野亜斗夢を呼び出し、二人を絶賛した。実は社交ダンスの経験者で、忙しさのあまりダンスから離れてしまっていたが、二人のダンスを見て感動し、ダンス愛が再燃した。若くて体力があり、運動神経もいい亜斗夢のような人こそダンスをやるべきだと熱く語ったのち、10ダンスへの出場を勧めた。
松山 (まつやま)
坂上千尋とカップルを組むためにお見合いをした男性。競技ダンスおよびラテンのプロA級だが、パートナーの女性が別の男性と結婚し、妊娠した事で引退したため、現在はパートナー不在の状態。ダンスの最中は、パートナーの事よりも自分自身が気になり、つねに鏡に映る自分を見てしまうナルシスト。千尋と実際に踊って見て、相性のよさを感じている。
その他キーワード
リーダー
社交ダンスおよび競技ダンスで、男性側を示す呼び名。通常男女がペアを組んで踊るが、男性をリーダーと呼ぶのに対し、女性をパートナーと呼ぶ。また、この男女のペアの事は「カップル」と呼ばれており、カップルを組む相手を探す場合に、直接会って踊ってみたりする事を「お見合い」という。
パートナー
社交ダンスおよび競技ダンスで、女性側を示す呼び名。通常男女がペアを組んで踊るが、女性をパートナーと呼ぶのに対し、男性をリーダーと呼ぶ。また、この男女のペアの事は「カップル」と呼ばれており、カップルを組む相手を探す場合に、直接会って踊ってみたりする事を「お見合い」という。
10ダンス (てんだんす)
競技ダンスの中でも、スタンダード(モダン)に分類される、ワルツ、タンゴ、ヴェニーズワルツ、スローフォックストロット、クイックステップの5種、ラテンアメリカンに分類される、チャチャチャ、サンバ、ルンバ、パソドブレ、ジャイブの5種、合計10種のダンスを踊る競技の事。陸上の十種競技にも例えられる過酷な競技で、技術だけでなく、体力気力にも優れた者だけが頂点に立つ事ができるといわれており、その頂点に立つ者はダンス界の鉄人として尊敬を集める。