あらすじ
あさげ
朝5時半、ホストの聖夜は、自分を指名してくれる唯一の女性客・エリとカラオケでアフターを過ごしたあとだった。ホストになって3か月、ようやくエリからアフターのお誘いを受けた聖夜は、内心舞い上がっていたが、それを悟られないよう平静を装っていた。そんな中、歌舞伎町の片隅にある定食屋「あさげ」に気づいた聖夜は、エリを引き連れて入店する。店を切り盛りするうららから、日替わりの味噌汁とおにぎりを提供する店だと説明を受けると、聖夜はその言葉を鼻であしらう。そして、アフター中のイケているホスト感を演出しながら、聖夜は自信満々な態度で、自分をイメージしたテンション爆上げの朝飯を作ってほしいと、店主のアリスにわがままを言う。聖夜は、ふだんの朝食がサンドイッチとコーヒー、リゾットであると自らのイメージがオシャレであることをアピールし、料理を始めたアリスにプレッシャーをかけるものの、提供されたのはまさかの純和風朝食。ご飯とお味噌汁、目玉焼きに焼き魚、納豆に小鉢と盛りだくさんの内容だったが、この朝食に不満を抱きながらも、自分のイメージではない定食も完璧に食べられてこそホストだと自分を奮い立たせ、尾頭付きの焼き魚を食べ始める。実は聖夜は都会にあこがれて田舎から上京したばかりで、この和定食に田舎を捨てた聖夜は故郷を思い出していた。さらに、出された味噌汁のおいしさに感動した聖夜は、納豆を味噌汁に投入して納豆汁にしてかき込む。その一部始終をとなりで見ていたエリは、生理的に受け付けないとばかりに、用事を思い出したと席を立ち、聖夜を置いてそそくさと帰ってしまう。たった一人の指名客を逃してしまった聖夜は、アリスとうららに対して一方的に怒りを爆発させて店をあとにした。しかし聖夜は、歌舞伎町の片隅で温かい光を放つあさげに引き寄せられ、結局その後も何度も通い詰めることになる。
味噌汁
歌舞伎町の定食屋「あさげ」を切り盛りするアリスとうららは、一見姉妹のように見えるが他人同士だった。そんなある日、常連となった聖夜は彼女たちの事情を聞くこととなる。アリスの母親は歌舞伎町にあるクラブのNo.1ホステスだったため、幼い頃から不在がちで、一人で過ごすことが多く寂しい日々を送っていた。そんなある日、母親は家に一人の女の子を連れて帰ってくる。当時まだ5歳だったうららは、知り合いの子としてアリスの家にやって来て、いきなりアリスと共同生活を始めることとなった。状況が飲み込めず困惑するアリスだったが、母親がおらず、不在がちな父親のもとで育ったうららに自分との共通点を見いだす。そして、うららを元気づけようと思い立ったアリスは、自分にできることは何か考えた末に、彼女の好きな食べ物を作ってあげることを決める。うららの話から好きな料理を推測し、「茶色いお汁」というキーワードから味噌汁を作ることにした。アリスが一生懸命味噌汁を作ってくれる姿は、うららにとってはまるでテレビの中に出てくるお母さんの姿そのもので、うららは知らず知らずのうちにアリスに母親を重ねていた。そんなうららにアリスは、「お母さんじゃなくてうららのお姉さんだよ」と優しい言葉をかける。思いがけず自分に姉ができたことを心底喜んだうららは、その日以来、今も変わらずアリスを「ねーね」と呼び続けている。この一件がきっかけで、アリスが味噌汁を作り始めた。
登場人物・キャラクター
アリス
うららと二人で定食屋「あさげ」を営む女性。年齢は20歳。店に立つときにはいつもボブヘアを後ろでまとめており、地味めな和服に割烹着を着用した昭和のお母さんスタイル。おっとりした物静かな性格で、落ち着いて見えるため、30歳くらいに見られることもある。口数は少ないが、話し始めると引き出しは多いために饒舌となる。ある事情により、うららとはアリス自身が9歳の頃からいっしょに暮らしており、血のつながりはないが姉妹のように育った。当時、うららを元気づけるのは料理しかないとの思いに至り、まだ5歳だった彼女に味噌汁を作ってあげたことがきっかけで毎日味噌汁を作るようになった。母親は、歌舞伎町にある「Club Liliy」のNo.1ホステスだったため、もともと不在がちだったが、ここ10年ほど男性のもとを転々としているため、最近は顔を見ていない。その影響で外見や女性らしさを武器にし、男性に媚びて生きる母親を嫌悪している。体も心も傷付きながらも、自分の居場所は歌舞伎町しかないと語る、寂しい人たちを目の当たりにしてきたため、あさげにいる時だけは自分を見失わずに、本来の姿でいてほしいとの思いが強い。料理の腕を買われ、二丁目にあるスナックのよしママからの依頼を受け、スナックで出すおばんざいを作っている。そのため、あさげ閉店後も翌日分の仕込みだけでなく、おばんざいの準備で忙しい。よしママは幼い頃からの知り会いで、よく面倒を見てもらっていたため、おばあちゃんのような存在。中学生の頃からよしママのスナックでアルバイトをしていたため、今でもスナックのお客さんとは親しい関係を築いている。あさげの常連客となったホストの聖夜を、これまで見てきたどのホストよりも面白いと興味を持ち、いじりがいがあると思っている。聖夜を恋愛対象として意識しているようだが、詳細は不明。うららには幼い頃から、「ねーね」と呼ばれている。
うらら
アリスと二人で定食屋「あさげ」を営む女性。年齢は16歳。ショートヘアで、店に立つときには和服にフリルのエプロンを着用した大正時代のモガを思わせるスタイル。明るい性格で、子供っぽい無邪気さを持つ。匂いに非常に敏感で、外出するときはマスクが欠かせない。やって来るお客の体から大麻の匂いがしていること、過度なダイエットで空腹状態にあること、ラブホテルのシャンプーを使っていることなども鼻が利くために匂いでわかってしまう。アリスとは姉妹だと思われているが、実は血のつながりはない。幼い頃から母親はおらず、父親も不在がちな劣悪な環境で育った。5歳の時、ある事情でアリスの母親の家に連れて来られ、アリスといっしょに暮らすことになった。それ以来アリスと共に育ち、面倒を見てもらったため、4歳年上のアリスは母親の代わりでもあり、姉のような存在でもある。その頃からアリスのことを「ねーね」と呼んでいる。ポップでかわいいものが好き。
聖夜 (せいや)
歌舞伎町にあるホストクラブ「shining」でホストを務める男性。都会にあこがれて山形から上京した。完璧な王子系ホストを目指して、店のNo.1を夢見ている。しかし、3か月が経過しても指名すらなく、理想からはほど遠い状況に陥っている。田舎出身であることにはコンプレックスを抱いており、スタイリッシュな都会に染まろうと意気込むあまり、かなり尖った振る舞いで、粋がっていた。ある時、初めてのアフター中に偶然定食屋「あさげ」を見かけ、導かれるように入店した。そして納豆汁をかき込んだことで、取り繕っていた王子キャラが剥がれ落ち、指名客を逃すことにはなった。その後もあさげに出入りするようになり、徐々に性格も角が取れてきた。先輩ホストの黒崎からは、田舎出身であることを必要以上にいじられ、嫌がらせを受けてはよく腹を立てていた。しかし、あさげでいっしょに食事をしてからは、互いを受け入れて良好な関係を築いている。また、アリスに好意を寄せるようになるが、ホストとしてのプライドが邪魔をしてなかなか素直になれず、思いをこじらせている。ちなみに本名は「聖司」。実家の両親には、ホストになったことを隠しており、両親は東京で会社勤めをしていると信じ込んでいる。現在、いつまでも売れないままホストを続けることに限界を感じ始め、自信をなくしている。
場所
あさげ
アリスとうららが営む定食屋。歌舞伎町にあり、朝5時から朝8時まで営業している。基本的には日替わりの味噌汁とおにぎりを出すのが定番となっているが、客の要望に応じてさまざまな食べ物を提供することもある。客層は土地柄ホストやホステス、スナックのママなど水商売の関係者が多いが、ヤクザや警察官も通っている。味噌汁を入れるお椀は保温力の高い木製のものを使っており、種類は豊富に取りそろえている。安心感がある二色塗りのものや、手になじむ凸凹のあるもの、ぬくもりのある木目のものなど、客によってお椀と味噌汁の種類を変えている。
書誌情報
29時の朝ごはん~味噌汁屋あさげ~ 全3巻 KADOKAWA〈BRIDGE COMICS〉
第1巻
(2022-02-08発行、 978-4046811141)
第2巻
(2022-08-08発行、 978-4046816009)
第3巻
(2023-04-07発行、 978-4046824219)