87CLOCKERS

87CLOCKERS

『のだめカンタービレ』で知られる二ノ宮知子が、パソコンの速さを競うオーバークロックという、まったく新しい題材で描くヒューマンドラマ。「ジャンプ改」2011年vol.1から2014年11月号にかけて不定期で連載され、「ジャンプ改」の休刊以降は「週刊ヤングジャンプ」に掲載誌を移し、2016年現在も連載中。コミックス第6巻には、番外編としてミケの中学~高校時代のエピソードが収録されている。何事にもやる気のなかった音大生の若者が、一目惚れした女性がきっかけで、オーバークロックの世界にはまりこんでいく様子を描いた作品。

正式名称
87CLOCKERS
ふりがな
えいてぃせぶんくろっかーず
作者
ジャンル
ラブコメ
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あらすじ

第1巻

名門の音楽大学に通う3年生の一ノ瀬奏は、周囲の学生達の音楽コンクールへの激しい競争心や熱心な就職活動についていけず、やりたい事も見つからない自分に嫌気がさしていた。ある日、奏は、パソコンの処理速度を競うオーバークロックという分野で世界的に有名なミケという人物と出会い、ミケを手伝う女性の中村ハナに心を惹かれる。ひょんな事から奏はミケからパソコン一式を買い取り、ハナが手伝ってくれるという事から、その名称も知らなかったオーバークロックの世界へ足を踏み入れる事になる。

翌日、奏はオーバークロックを始めるために必要なパソコンのパーツを買いに、ハナといっしょに秋葉原へ行く。そこで奏は、オーバークロックが世界中で大会やイベントが開かれるほど人気の競技である事を知る。自宅へ戻った奏は、ハナといっしょにパソコンを組み立て、人生初のオーバークロックを体験する。最初に挑戦したのは、「スーパーPI」という円周率を計算する事で、パソコンの処理速度を判定するソフトだった。結果は10万5826位。後日、ミケのアパートを訪れた奏は、ハナがミケのオーバークロックをサポートするためにアルバイトを掛け持ちしている事を知り、さらにミケがオーバークロックに挑戦する際も、ハナが奴隷のようにこき使われている場面を目撃する。思わず奏は、自分がオーバークロックで一番になったらミケと別れて、自分と組んでくれるようハナと約束を取りつけてしまう。そんな中、パーツを買いに秋葉原へ出掛けた奏は、オーバークロッカーの鈴木珠理亜と出会い、オーバークロック愛好者達が集まるオーバークロックカフェに連れて行かれる事となる。

第2巻

一ノ瀬奏鈴木珠理亜に連れていかれたオーバークロックカフェでは、珠理亜と男子中学生の森田がオーバークロック勝負を始める。勝負は3DのFPS(ファーストパーソンシューティングゲーム)で行われる。パソコンの処理速度を下げないようにしつつ、ゲームを先にクリアした方が勝ちという、パソコンの性能とゲームプレイの腕前の両方が試される勝負だった。勝負は「FPSの女王」との異名を持つ珠理亜の勝利で終わる。奏はこうしてまたオーバークロックの新たな一面を知るのだった。奏は窒素を使ったオーバークロックを始めようとするが、珠理亜に「空冷を極めずして窒素なし」と言われ、無理矢理コンビを組まされて、カフェで次に行われるオーバークロックの大会にエントリーされてしまう。

珠理亜との1か月の特訓を経て迎えた大会当日、奏は珠理亜とコンビで参加、そして20万円という優勝賞金目当てに、中村ハナも変装したミケとコンビで参加する。全員が水冷で挑むなか、珠理亜と奏のコンビだけは、持ち込んだ空冷マシンでの参加だった。大会はゲーム担当とオーバークロック担当の二人一組のチームで対戦し、1ステージごとに担当が入れ替わる方式で進む。ミケのゲームプレイが下手なせいで、ハナ&ミケのコンビは3位で敗退、奏&珠理亜は優勝に手をかけるが、奏がオーバークロックの操作をミスし、2位に終わってしまう。好きでもないゲームの特訓から解放されたものの、奏はあと一歩のところで自分のミスで優勝を逃した事に悔しさを感じていた。

第3巻

3年は抜かれないといわれていたミケの「スーパーPI」の世界記録が、ブラジルのオーバークロッカー、レオナルドによって更新される。すぐさま1位の座を取り返そうとするミケだったが、中村ハナは、ミケが賞金20万円のかかったオーバークロックの大会でゲームをちゃんとプレイしてくれなかった事に腹を立てており、代わりに一ノ瀬奏が手伝わされる。そこで奏は初めて窒素を使ったオーバークロックを体験する。徹夜で頑張った結果、ミケは世界中に生放送で動画を配信しながら、「スーパーPI」の世界記録を更新してみせるのだった。

奏は徐々にオーバークロックの世界にハマり、自分のPCのOSをいじったり、新しいパーツを買い求める。しかし、音楽大学で専攻しているバイオリンの腕前はどんどん落ちていった。秋葉原のオーバークロックカフェでも、顔なじみとなっていく奏。そこで奏は、店の常連である中学生の森田から、窒素の専用瓶を安価で譲ってくれるという人物を紹介してもらい、手に入れる。一方、理科大学の4年生である鈴木珠理亜は研究に忙しくなり、そろそろオーバークロックからの卒業を考えていた。しかし、オーバークロックの大会であるアキバ杯に、尊敬するミケがゲスト解説者として参加する事を知り、奏にコンビとしてもう一度参加してほしいと頼み込む。今度は水冷で挑むという珠理亜の熱意に押されて、奏は引き受けるのだった。

再び珠理亜との1か月の特訓を経て迎えた大会当日、大会には奏に窒素の専用瓶を譲ってくれた聖夜と森田の中学生コンビも参加していた。試合は、前回と同じくゲーム担当とオーバークロック担当の二人一組のチームで対戦し、1ステージごとに担当が入れ替わる方式で始まった。

第4巻

ゲームとオーバークロックの腕前を競う大会、アキバ杯では各チームによる熱戦が続く。聖夜森田の中学生コンビは、仲間のキャバイエ・瑠衣がゲームのサーバーをハッキングする不正行為で順調に進んでいたが、それをミケに見破られ、敗退する。一ノ瀬奏鈴木珠理亜のコンビも首位を走るが、PCの負担が増大し、ついにPCから煙が出る。奏は同じ会場内から窒素を借りてきてPCを冷やし、なんとかそのピンチを乗り切る。それでもPCを冷却しきれず、ついに画面がブラックアウトしてしまうが、奏が液体窒素をPCの内部にぶっかけて復活、ついに優勝を果たすのだった。

後日、奏はミケに窒素を提供している丸太タカオと出会う。丸太は、千葉で牧場を経営している男性のオーバークロッカーだった。奏も窒素を売ってほしいと頼むが、牧場の人手不足に悩む丸太は、窒素を売る条件として、住み込みで牧場でアルバイトをする事を提示する。窒素を売ってほしい奏は、その条件をのむのだった。一方、中村ハナは、幼い頃から好意を寄せられている地元のお金持ちの息子との結婚を親戚に強要され、それから逃げるために、その場を通りかかった丸太と咄嗟に駆け落ちすると親戚に噓をつき、千葉へ逃げるのだった。アルバイトのために丸太の牧場に着いた奏はハナと再会。二人での牧場でのバイト生活が始まる。

第5巻

一ノ瀬奏窒素を売ってもらうため、中村ハナは地元の金持ちの息子との結婚を強要しようとする親戚から逃れるために、それぞれ千葉で丸太タカオが経営する酪農牧場で住み込みのアルバイトをしていた。惚れたハナと同じ屋根の下で暮らし、まるで夫婦のようにハナが作ってくれた美味しい料理に舞い上がる奏。さらに奏は、丸太から窒素を使った3Dのオーバークロックのレッスンも受ける。丸太は苦しい家計をやりくりして、家族ぐるみでオーバークロックに挑んでいたが、手伝ってくれていた娘からもついに見限られてしまう。パートナーをなくした丸太に、ハナは奏とコンビを組む事を提案し、二人にオーバークロックを仕込むのだった。

上海で行われる3Dのオーバークロックの大会出場を目指し、各地のオーバークロッカーが大会サイトに記録を登録していく。日本予選に参加するのは8チームで、世界大会に出場できるのは1位のチームだけだった。奏、ハナ、丸太の三人は、世界大会への出場を目指し、牧場の仕事をしながらも睡眠時間を削って、窒素のオーバークロック特訓に明け暮れていた。

しかし、火切俊充が千葉の牧場までハナを訪ねて来る。彼こそが小学生の頃からハナの事が好きで追いかけている地元の金持ちの息子で、ハナの親戚がこぞってハナと結婚させようとしている人物だった。火切は、ハナに事業を始める事を伝えに来ただけだったのだが、ハナはすぐさま牧場から逃げ出してしまう。こうして奏と丸田はハナを失ったが、家族と俊充が牧場の仕事を手伝ってくれた事で、最後のオーバークロック挑戦に集中でき、世界記録を更新、世界大会への出場権を獲得する。しかし、丸太は牧場を離れて上海に行く事はできないと、世界大会へはハナと組んで出場するようにと奏に伝える。牧場でのアルバイトが終わり、久しぶりに家に戻った奏は、なぜか奏の自宅にいるハナと再会する。

第6巻

火切俊充から逃げるために、丸太タカオの牧場にも、親戚達の手が回った自宅にもいられなくなった中村ハナは、一ノ瀬奏の妹である一ノ瀬葵の好意で、奏の自宅に世話になっていた。奏の母は、ハナに女の子らしいかわいい洋服を着せられる事で大喜びの毎日を送っていた。奏は、ハナに上海で行われるオーバークロックの世界大会に日本代表としていっしょに出場しないかと誘う。しかし、ハナは奏がミケとのオーバークロック勝負に勝ったらコンビを組むという、かつての約束を覚えていて、まだ奏がミケに勝ってない事を指摘する。奏は、ハナがミケの事が好きで、自分がハナにふられた事を自覚していると言いつつ、ハナの事が好きだからオーバークロックをやってきたという、自分の気持ちをハッキリとハナに伝えるのだった。

上海行きをハナに断られた奏は、出場辞退を丸太に伝えると、丸太はオーバークロック界の実力者、庄野実を代わりのパートナーにする。台湾在住の庄野とは現地で落ち合う事にし、奏は上海へ向かうが、同じ飛行機には大会でゲスト審査員を務めるミケも搭乗していた。上海で初顔合わせした庄野は、50代と思われる年配の男性だった。上海到着の夜、主催者が開いた食事会に参加した奏達は、ほかの大会出場者を顔を合わせる。日本代表の奏&庄野コンビ以外には、オーストラリア、香港、アメリカ、韓国、ロシア、インドネシア、イギリス、デンマーク、ブラジルの計10か国の代表が集まっていた。そのまま二次会へと盛り上がり、ホテルへ戻ってきたのは大会当日の朝だった。二日酔いに苦しみながらなんとか会場に着いた奏は、大会の規模の大きさに圧倒されつつも、自分が3Dオーバークロックの日本代表としてこの場に立っている事を自覚し、気合を入れる。しかし、マシンのセッティング中、頼りのパートナーである庄野は2Dのオーバークロック専門であり、3Dの事はまったく知らないという事実を知る。

第7巻

上海で行われるオーバークロックの世界大会に、3D部門の日本代表として出場している一ノ瀬奏庄野実のコンビ。世界記録を更新して大会出場を決めた奏だったが、パートナーの庄野は自分は2D専門だと協力せず、ピンチに陥っていた。競技が始まると、各国代表は予選で奏が出した世界記録を次々と更新していく。非協力的な態度の庄野に液体窒素をかけるほどの奏の根性を見た庄野は、ようやく奏に協力し、二人で競技に取り組む。奏は3Dの事がまったくわからない庄野に対して、CPUとメモリだけを見ていてくれればいいと伝え、自分はマシンを冷却するためのポットに液体窒素を注ぐ作業に集中する。世界記録が次々と更新されていく激戦の中、リタイヤや失格となるチームも続出していく。気がつくと、奏達の日本代表は2位まで迫っていた。しかし、奏のミスでポットの温度計が外れてしまう。超シビアな温度コントロールが必要な作業において、温度がわからない事は致命的だった。誰もが日本代表チームは終わったと思ったが、奏は温度計なしで作業を続ける。音大生で耳がいい奏は、ポットが収縮するわずかな音で温度を判断していた。会場の注目を浴びる中、奏は驚異的な集中力で作業を進め、ついに世界記録を更新して優勝するのだった。そんな様子を、火切俊充も会場で見ていた。中村ハナが夢中になっているオーバークロックの世界に興味を示し、ハナと会場で会える事を期待して来ていたのだった。

翌日、奏は庄野と共に会場へ行き、パソコン周辺機器メーカーに所属するプロのオーバークロッカー達のデモンストレーションを見学する。そこではメーカー所属のオーバークロッカー、eekがデモンストレーションをしていた。メーカーに所属せずに一人で活動し、世界一の座をキープするミケが、世界中のオーバークロッカー達から尊敬されているのに対し、メーカーに所属している事から資金や最新のパーツと情報を豊富に持つeekは、強いながらもオーバークロッカー達の人気はいまひとつだった。そんなeekはデモンストレーション中に3Dの世界記録をあっさり更新し、さらにミケが持つ2Dの世界記録も更新するのだった。日本へ帰国した奏は、ハナと再会する。しかしハナはミケの記録がeekに更新された事を屈辱と感じ、ミケと共に一位の座を取り戻そうと闘志を燃やしていた。そんなハナと奏が、俊充から電話でミケのアパートへと呼び出されると、なぜか俊充がミケの部屋を掃除しているのだった。

第8巻

一ノ瀬奏中村ハナミケのアパートへ行くと、火切俊充が家政婦のような恰好でミケの身の回りの世話をしていた。上海でのオーバークロックの世界大会で日本代表として活躍する奏達の姿に感動した俊充は、eekに奪われたミケの2Dのオーバークロック世界記録と、奏の3Dの世界記録を、二人に奪い返してもらうために全面的にバックアップするつもりだという。パソコンの新しいパーツやCPUを無償で提供し、さらに優れたパーツを優先的に入手するために、「PCダック.」というBTO会社の株を過半数買って、経営権まで手に入れていた。この話を受けて、ミケはパートナーに俊充を選び、あっさりハナの事を捨てるのだった。ショックを受けたハナは無言で走り去る。ミケは、同じ環境じゃないと潰しがいがないからと、奏も俊充が提供してくれるパーツから好きなものを選べという。奏は俊充とは組まないと言いつつも、初めてミケが自分をライバルとして認めてくれた事に高揚していた。奏は3Dではなく、2Dでミケと勝負すると言い残し、ハナを追う。

改めて奏とコンビを組む事になったハナは、ミケを倒すために本気を出し、奏と二人で秋葉原をまわってパソコンの優れたパーツを厳選し、さらにはこれまでに培った人脈を使ってパーツ工場に入り込み、特別な性能を持つロット番号のパーツを集めていく。自宅ではスパルタ方式で奏を指導。奏は睡眠もろくに取らずに、地道なデータを取る作業を続けていた。10時間以上も温度計から目を離さずに液体窒素を注ぎ続け、部屋の温度はコートやブーツを着込むほど下がっていた。酸素も薄くなり、時折ライターの火が点くかどうかで、酸素がある事を確認しながらという危険な作業だった。いっぽう俊充と組んだミケは、俊充がカロリーの高い美味しいものばかり用意するためすっかり太っていた。これまでメンテナンスなどの作業はハナにまかせっきりだった事もあり、オーバークロックの作業は思うように進んでいなかった。

そんな中、ハナの父親と叔母が、ハナを実家に連れ帰って俊充と結婚させるために、奏の自宅を訪れる。実家に戻りたくないハナは自分が妊娠しているとウソをつき、さらにハナがお気に入りの奏の母も、咄嗟にハナのお腹の子の父親が奏だとウソを重ねてしまう。ハナの父親に奏が殴られるものの、ひとまずハナの父親と叔母はハナを連れ帰るのを諦めて退散するのだった。

第9巻

中村ハナ一ノ瀬奏と奏の家族に迷惑はかけられないと、実家の長野へ帰ると言うが、奏は自分も家族もハナの事が好きだから帰る必要はないと、ハナを抱きしめる。そして、恋人として本当に付き合わないかと提案すると、ハナはそれを了承するのだった。一方、火切俊充ミケeekを倒すための舞台として、ラスベガスで開催されるIT・家電ショーに、ミケ対eekの2Dオーバークロックワールドプレミアムチャンピオンシップイベントを用意する。世界中のオーバークロッカー達が注目する世紀の一戦だった。噂でハナが奏と結婚すると聞いた俊充は、これが最後だとハナのもとを訪れ、ラスベガスで行われるミケ対eekの大会のチケットと航空券を手渡すのだった。しかし、ハナはそれをゴミ箱へ捨て、日本で奏と大会の中継を見守る。そんな中、ハナの妊娠がウソであると見抜いたハナの父親は、奏の家を訪れ、ハナと奏の前に婚姻届けを差し出し、署名捺印するよう迫る。そんな状況でもハナはスマホで大会を見続け、ミケを応援する。大会は、競技開始の直前にパソコンのBIOSを更新するなど、ミケを不利に追い込むためのeek側の卑怯な手段がとられるが、双方が世界記録を更新する熱戦が続いていた。メーカーと契約しているプロとして負けるわけにはいかないeekは、不正行為を行いながらも競技を続ける。そんなチートを使った相手にミケが負けるなんて死んでも許せないというハナに、奏はゴミ箱から拾っておいたチケットを手渡し、ラスベガスへ応援へ行くよう伝える。急げば翌日の後半戦には間に合うはずだった。ハナは、世話になった奏や奏の家族と共に暮らした家へ泣きながら頭を下げると、現地へ向かう。大会2日目、なんとか会場にたどり着いたハナは、観客席からミケに誰と戦っているのか、何のために戦っているのかと、声を飛ばす。その言葉にミケは、かつて自分がオーバークロックに夢中になっていた頃の気持ちと落ち着きを取り戻し、最後の勝負に出ると世界記録を更新し、eekに勝利するのだった。日本でミケの勝利に終わった大会を見た奏は、ハナが奏にと置いていった贈り物を見る。それはハナがずっと作り続けてきたOSの完成品だった。奏がそのOSを試すと、さきほどの大会でミケが叩きだした世界記録をあっさりと更新するのだった。奏はその記録を「87」のハンドルネームで登録する。それを見たミケは、「87」が奏であり、「87」は「ハナ」を意味する事をすぐに見抜く。「87」のハンドルネームは、ハナの人脈やハナの総力をあげて作ったマシンで出したという奏からのメッセージだった。「87」の名前は世界中のオーバークロック界を騒がせたが、3日後にはeekが執念でその世界記録を更新し、それからは「87」の噂も聞かれなくなっていった。

時が経ち、奏はイギリスの音楽大学へ留学に旅立つ。オーバークロックを通して本気で戦う事を学んだ奏は、音楽でも本気で戦ってみたいと、衝動に身を任せる事にしたのだ。そして、ハナは再びミケのアパートへと戻るのだった。

登場人物・キャラクター

一ノ瀬 奏 (いちのせ かなで)

ところどころ跳ねた髪に黒縁の眼鏡をかけた青年。英孝音楽大学3年生で、ヴァイオリンを専攻している。何事にも積極的になれない性格のため、同級生内では浮いている。ボーッとしているうちに、就職活動にも乗り遅れ、実家のピアノ教室に就職することになった。ある雪の夜に裸足でアパートの外に立っていたハナに一目惚れする。 ハナがオーバークロックの世界記録保持者・ミケを献身的にサポートしていることを知ると、ミケから解放させるために、オーバークロックで世界一になったらミケと別れて自分と組んで欲しいと約束する。全くの素人で失敗の連続だったが、秋葉原で知り合ったジュリアからの特訓など、様々な出会いを経てオーバークロックの世界にはまり込む。 音楽家として鍛えた耳が大きな武器で、やがて短期間で世界の舞台に駆け上がる。

中村 ハナ

ウェーブのかかった髪の女性。真冬に裸足で立っていたところを奏に目撃された。オーバークロッカーのミケを全力でサポートしている。名門K大学に通う大学生。性格はおっちょこちょいで、ミケのサポート中に失敗しては彼から激しく叱責されている。パイナップル工場でのアルバイトや内職で稼いだお金のほとんどをオーバークロックに注ぎ込んでいる。 一見はかなげだが、オーバークロックに関しては人格が変わり、秋葉原に来ると目つきが鋭くなり口調も厳しくなる。長野出身で、親戚は地元の大企業の御曹司ぼっさんと結婚させるため、彼女に就学などの資金を出している。

ミケ

オーバークロックの世界記録保持者。住んでいるアパートには「MIKE」という表札が出ている。世界中のオーバークロッカーから羨望と嫉妬の目を向けられている。オーバークロックの世界では世界一の実力を持つ、オーバークロッカー。アパートで中村ハナをこき使いながら、オーバークロックの記録更新にいそしんでいる。オーバークロックに必要な窒素を安く手に入れるために農場で仕事を手伝ったり、費用を稼ぐために工事現場で働くこともある。 オーバークロックを始めると、ほかのことは目に入らず、腹が減ったら猫のエサを食べるほど集中する。性格はドSで、ハナの扱いはひどいうえ、携帯に登録している名前は「ハナくそ」。さらに極度の負けず嫌いで、ミケの記録を抜いたブラジル人がサンバを踊る動画をアップしたことに対抗し、その記録をさらに更新した際には阿波踊りの動画をアップした。 コミックス第6巻に収録されている番外編で、苗字が「猫屋敷(ねこやしき)」であること、2つ下の「ブチ」と呼ばれる妹がいることが明かされている。奏は彼にオーバークロックで世界一になったらハナと別れてほしいと頼む。

一ノ瀬 葵 (いちのせ あおい)

奏の妹。覇気のない奏に呆れていたが、ハナを家に連れて来たことで見直す。しかし、オーバークロックの世界に足を踏み入れ、轟音と共にPCを破壊したところを見て不信を募らせている。兄と違って、はっきりとした性格。ボーイッシュなスタイルのファッションを好むため、フリフリの女の子っぽい洋服を着せたいと思っている母親からは残念がられている。

奏の母 (かなでのはは)

奏の母。韓流ファンで、家のあちこちに韓流スターのポスターを貼っているばかりでなく、新大久保に入り浸っている。ピアノ教室を経営し、奏をその講師にする。思い込みが激しく、ハナを奏の彼女と勘違いする。おっとりとした女性で、「奏くん」と呼ぶ息子には過保護ぎみ。近所の人に頼まれて始めたピアノ教室がいつのまにか生徒数40人にまで増えてしまい困っており、いずれは息子に継がせてヴァイオリン教室にすればいいと考えている。

鈴木 珠理亜 (すずき じゅりあ)

髪を金髪に染めた女子大生で、ミケに憧れるオーバークロッカー。狩野理科大学薬学部に通う4年生。秋葉原で奏と知り合うが、奏の素人ぶりに呆れ、レッスンを請け負う。オーバークロック代を稼ぐため六本木のキャバクラ・メモリーで働いている。そこでの源氏名は「ジュリア」で、オーバークロッカーの仲間からもジュリアと呼ばれている。 FPS(ファーストパーソンシューティングゲーム)と呼ばれるジャンルが得意なため、「FPSの女王」との異名も持つ。ミケに憧れており、ヒーロー、王子様、心の師と呼んでいる。ミケの「空冷を極めずして窒素なし」という言葉を受けて、空冷にこだわる。

森田

オーバークロッカーの中学生。度々学校行事をさぼって、秋葉原にあるオーバークロックカフェ、カフェ・タムラに通ってくる。窒素を使おうとする奏に専用瓶を安く売ってくれるという聖夜と瑠衣を紹介する。空冷に見切りをつけ、お年玉をすべて継ぎ込んで水冷に切り替えた。

マスター

サングラスをかけ、ウエスタン調の恰好をした男性。オーバークロックカフェ、カフェ・タムラのマスター。奏に度々窒素を売り込んでいる。

真亜久 (まあく)

ヤンキー風の男性。解散した。オーバークロック&バトル大会に参戦し、奏と組んだジュリアと対戦する。かつてジュリアとコンビを組んで第4回大会で優勝した経験がある。

レオナルド

ブラジル人の男性。ミケが作った2Dの世界記録を抜き去った。弟がゴミの中からメモリを拾い、父親が拾ってきた水道管でポットを作るなど家族総出でバックアップする。ミケは奏の目の前で、彼と壮絶な競争をする。

佐藤 直也 (さとう なおや)

オーバークロックカフェ、カフェ・タムラの常連。オーバークロック&バトル大会で奏の戦いを見て、その後声をかけてくる。

聖夜 (せいや)

集英館中学校2年生の男子。モっちんの友人で、豪邸に住んでいる。モっちんから紹介され、奏にデュワー瓶を売る。かなりのゲームマニアで、自宅の部屋には特注のゲーム機が置いてある。当初は瑠衣とアキバ杯に出る予定だったが、モっちんとペアを組んで出場する。家は金持ちで、部屋に父親の知り合いに特注で作ってもらった「R360(セガが発表した360度の回転機構を持つ大型ゲーム用筐体)」のようなゲーム機がある。 ネットゲームの世界では「Seiya」の名前で有名。

キャバイエ・瑠衣 (きゃばいえ るい)

集英館中学校2年生の男子。金髪の巻き毛で眼鏡をかけている。モっちんの友人で、聖夜の家で奏と出会う。ゲームは苦手だが、パソコンに関する知識と技術は秀逸。また、様々な人脈を持つ。当初は聖夜と組んでアキバ杯に出るつもりだったが、ペアをモっちんに譲り、自分は「外部」から参加する。フランス人の父親を持ち、金髪碧眼。 オーバークロックが得意で、「学校のサーバーをハッキングしてテストのデータを盗むことなど簡単すぎてつまらないからやらない」というほどの腕前の持ち主。大会ではコンビがオーバークロック担当とゲーム担当を交代しながら進むルールの時があり、両方が得意でなければ勝てないのだが、ゲームの方が苦手。

火切 俊充 (ひきり としみつ)

小太りの男性。長野のアミューズメント施設ヒキリーランドの御曹司。中村ハナの婚約者で元同級生。ハナと話すたびに奈落の底に突き落とされるような言葉を返され、それをバネに成長した。その顛末をSNSに掲載し、人気を得る。アメリカの大学へ留学し、現地で知り合った友人が作ったアプリを売って稼ぎを得て会社を作る。ハナを追いかけるうちに出会った奏にこれまでの経緯を話す。 ぽっちゃりしているが、顔立ちは可愛い。

eek (えーく)

メーカーに所属するオーバークロッカー。ドイツ人の男性で太めな体型をしている。メーカー提供の豊富なパーツや情報を駆使して、ミケが持つ2Dの世界記録、一ノ瀬奏が出した3Dの世界記録を軽々と更新した。しかし、メーカー所属という利を活かした勝利であり、勝つためには手段を選ばないところがあるため、実力はありながらも世界中のオーバークロッカーからは不評。

丸太 タカオ (まるた たかお)

千葉県でまるた牧場を営む男性。オーバークロックが趣味で、3人の子供も巻き込んで熱中している。牧場にある牛の精子保存用の窒素を使った極冷スタイル。ミケにも低価格で窒素を提供しているが、お金だけでは売らず、牧場の仕事も手伝うことを条件にしている。息子が受験で、中国人従業員もなぜか国から帰ってこないため、人手不足に悩んでいる。

(まもる)

ネットゲームの世界では「パズー」の名で知られる廃人プレイヤーで、妻のしの(シータ)と「夫婦(めおと)Crisis」というチームを組んでいる。大学2年生の頃、「リヴール」のキャラクター名でプレイしていたネットワークRPGにおいてシータと出会い、ゲーム内で結婚している。大学から引きこもって5年、シータを実家に連れ込んでさらに5年と、ここ10年間引きこもってゲームしかしていないため、母親からは夫婦揃って家から出て行って欲しいと思われている。 RPGを続けると廃人になるため、「パズー」と名を変え、今はシータと共にFPS(ファーストパーソンシューティングゲーム)でネットワークプレイをしている。優勝賞金を結婚式にあてるため、シータとコンビでオーバークロックの大会に参加する。

しの

ネットゲームの世界では「シータ」の名で知られる廃人プレイヤーで、守(パズー)の妻。ネットゲームのファンからは可愛い女の子のイメージを持たれていたため、大会にその廃人風の姿をさらした時は、会場にいた多くの男たちが裏切られたと涙した。高校3年生の春からネットワークRPGにおいて「シータ」を名乗り、当時大学2年生でゲーム内では「リヴール」と名乗っていたパズーとゲーム内で出会い、ゲーム内で結婚する。 一人称は「わし」。

ハナっぺ

長野県で火切グループが運営するレジャー施設「ヒキリーランド」のマスコットアイドル。小学生の時に火切俊充が描いていた中村ハナの絵がモデル。優しいけど、たまにとても辛口な、可愛いタレ目の花の妖精。さまざまなグッズが作られるほど大人気で、地元の観光大使のゆるキャラにまでなっている。

沸点くん (ふってんくん)

オーバークロックをしている若い日本人男性。丸太タカオが挑戦している3Dベンチマークのオーバークロックにおいて、日本で一番の実力を誇る。新記録を出してもすぐにランキングに反映させずにとっておき、抜かれたらすぐに更新するという、相手に精神的ダメージを与える戦法を好む。

庄野 実 (しょうの みのる)

オーバークロック界の重鎮で、海外在住の日本人。アメリカの研究所で医者をしていた頃、職場の病院に液体窒素があったためオーバークロックにハマった爺さん。今は医者を引退している。丸太タカオの代理として、3Dベンチマークのオーバークロック世界大会に日本代表として出場する一ノ瀬奏のパートナーとなる。

その他キーワード

オーバークロック

CPUやメモリを定格のクロックを超える高い周波数で動かすこと。オーバークロックの数値を競うこと自体を目的とする人たちのことを「オーバークロッカー」と呼び、速度を競う大会やイベントが世界中で開かれている。世界2位のイタリアのオーバークロッカーは億万長者になるほどだが、日本ではまだお金にはならず、世界1位のミケでも貧乏暮らし。 ミケは海外のメーカーからも誘われているが、あくまで日本での勝利にこだわっている。奏は図らずもこの世界に足を踏み入れる。ミケはその第一人者で、彼に憧れるオーバークロッカーは数多い。

窒素 (ちっそ)

液体窒素のこと。オーバークロックにおいて加熱するパソコンのCPUを冷却するために使用される。パソコンに取り付けたポットに液体窒素を注ぎ込んで冷やすのだが、直接ぶっかけることもある。モクモクと白煙が上がるため、ミケのアパートで使う際は混乱を避けるために「バルサン使用中」の貼り紙を出す。牧場には牛の精子保存用に液体窒素がストックされており、ミケはそれを低価格で譲ってもらっている。

空冷 (くうれい)

加熱するパソコンを、内部に設置したファンなどを使って空気で冷やす方式のこと。これに対し、内部のタンクに入った水で冷やす方式のことを「水冷(すいれい)」、液体窒素やドライアイスなどを使って冷やす方式を「極冷」と呼ぶ。一般的に水冷の方が冷却性能に優れるが、値段が高い。鈴木珠理亜は空冷にこだわっており、自作のパソコン「レディー・バタ子ちゃん」は、本体左右のフタが蝶の羽のように開き、内部の巨大ファンがうなりをあげると、風力で本体が飛ぶのではないかというほど羽がはばたく。

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