気弱な天才料理人の再出発
幼い頃から気弱な青年ジルベール・ブランシャールは、要領の悪さからチャンスを逃しては、それを理由にさらに自信をなくすという悪循環に陥っていた。カルマンの経営するレストランで働いていた時も、その優れた味覚と嗅覚から誰よりも早くカルマンが味覚障害であることを察知する。そして店の混乱を防ぐため、カルマンが誤って用意したワインのビンをミスに見せかけて自ら破損させ、その理由をカルマンにすら告げないまますべての責任を負い、皿洗いという立場に甘んじていた。そんな中、カルマンはジルベールが自分の味覚障害を見抜いていることに気づき、彼の才能を埋もれさせるには惜しいと考え、自らはシェフを辞めると共にヴィクトール・メグレーに彼の行く末を託す。メグレーの店で働くようになったジルベールは、多忙ながらも充実した日々を過ごし、レストランやアパルトメントの仲間たちとの交流を通じて、腕を磨きながら性格も改善されていく。
才能あふれる曲者たちの群像劇
ソーシエ兼副料理長としてヴィクトール・メグレーのレストランで働くことになったジルベール・ブランシャールは、パティシエ(製菓担当)ながら筋骨隆々の大男であるディミトリ・アントルモンや、腕はいいが性格に難があるポワソニエ(魚料理担当)のリュカ・サクライ、明るい性格ながら過去のトラウマからジルベールの指示に反抗的なガルド・マンジェ(食材管理、前菜担当)のヤン・ピエルネなど、一癖も二癖もある同僚たちに振り回されるものの、彼らと真摯に向き合うことで信頼を勝ち取る。そんな中、レストランでパーティーが行なわれる日、雑用係のミスからオマール海老が傷み、調理に致命的な障害が発生する。だが、ジルベールはリュカの魚料理に対する優れた知見や、ヤンの人脈を駆使して新たなオマール海老を調達し、パーティーを成功に導く。この出来事をきっかけに同僚たちは結束を強め、ジルベールの料理人としての自信獲得にもつながる。
アパルトメントに集う個性的な芸術家たち
ジルベール・ブランシャールは、知り合いのカトリーヌが管理するアパルトメントに住居を移す。そこは「一芸入居」と呼ばれるユニークな制度のある住居で、画家のジャンやヴァイオリニストのヨルゴ、ピアノバー歌手のクロエ、小説家のシモン、漫画家のアキオなど、さまざまな分野に秀でた芸術家たちが暮らしていた。ジルベールも料理人としての優れた資質から入居を認められ、交流を重ねて入居者たちとなかよくなる。そして、それぞれの得意分野を活かして切磋琢磨しながら年齢や性別、立場を超越して絆(きずな)を深めていく。またジルベールの生活を通してフランスの日常生活が描かれており、芸術家特有の苦悩や信念が丁寧に描写されている。
登場人物・キャラクター
ジルベール・ブランシャール
パリにあるレストランで働く料理人の男性。年齢は27歳。引っ込み思案の気弱な性格で、何事もネガティブに考えてしまうところがある。人並み外れた嗅覚と味覚に裏付けされた確かな腕前を持つものの、その性格が仇となって料理人としての人生は恵まれていない。もともとは8区にある高級ホテルで働いていたところ、ルヴェルシェフの紹介でカルマンシェフのレストランに入り、ソース担当となったが、トラブルに巻き込まれ、皿洗いに降格されてしまう。その後は周囲から罵詈雑言を浴びせられながら、日々皿洗いとして忙しい日々を送っていた。そんな中、新人の雑用係・マルコの教育を任されることになり、彼の自由奔放な性格に振り回されながらも、マルコからの質問には真摯に対応し、自分の知っていることは何でも教えている。ルヴェルシェフの紹介のために辞めることもできず、ただ悶々としながら皿洗いを続けていたが、のちにパリの有名シェフであるヴィクトール・メグレーに料理人としての才能を見いだされて、千載一遇のチャンスを手に入れる。新天地では、料理の要といわれるソース担当のソーシエと副料理長を兼務することになる。
マルコ
パリにあるレストランで雑用係として働くことになった男性。自由奔放な性格で、どんな仕事が自分に合っているのかを模索しており、ベビーシッターやペンギンの餌やり、舞台の照明スタッフなどさまざまな職業に就いてきたが、どれも長続きしなかった。レストランでは、聞けば何でも教えてくれる教育係のジルベール・ブランシャールをリスペクトし、慕うようになる。一方で、ジルベールが料理に対して並々ならぬ情熱を抱いているにもかかわらず、何事にも後ろ向きで、皿洗いの現状に甘んじていることを案じている。その後、パリの有名シェフと知られるヴィクトール・メグレーへの紹介役を担うことになり、これがジルベールにとって大きなチャンスを得ることとなる。のちに、ジルベールがメグレーの店に引き抜かれることが決まり、マルコ自身もレストランを辞めて心機一転、漁船で働くことを決めた。
書誌情報
Artiste 10巻 新潮社〈バンチコミックス〉
第1巻
(2017-04-08発行、 978-4107719669)
第5巻
(2019-08-09発行、 978-4107722096)
第6巻
(2020-06-09発行、 978-4107722935)
第7巻
(2021-06-09発行、 978-4107723970)
第8巻
(2022-07-07発行、 978-4107725097)
第9巻
(2023-05-09発行、 978-4107725981)
第10巻
(2024-06-07発行、 978-4107727220)