あらすじ
第1巻
ある機関が抱える最年少スパイのネモが上海に降り立つ。銀行業で財を成したメイソン・ブラックモアが興したメイソン租界と、それを陰であやつるとされるブラックモア公社の調査を命じられ、メイソン租界の中にある学園に潜入を果たす。そしてネモは、生徒の一人であるジョシュとその仲間たちから、旧校舎の地下にスフィンクスが現れて謎かけに答えられない人間を襲うという噂を聞き、半信半疑のまま探索に同行する。その後、ネモは先に旧校舎内に行くことになったジョシュたちから旧校舎の入り口の見張りを頼まれるが、そこでブラックモア公社のエージェントであるという不比等と出会う。情報収集のチャンスと考えたネモは彼を追って旧校舎へと足を踏み入れるが、そこで旧校舎のスフィンクスに襲われる。金庫破りとしての正体を明かした不比等は、マスターキーを手にスフィンクスに挑みかかるが、ネモをかばって重傷を負ってしまう。しかし、ネモがスフィンクスの問いかけた謎を解くことで消滅させ、守っていた時計を獲得する。こうして、ブラックモア公社が抱える闇の一端を目の当たりにしたネモは、不比等を調査に利用すべく、相棒たる解答者になることを名乗り出る。二人は、青幇のエージェント、蘇小からスフィンクスが絡んだ複数の依頼を受け、互いの長所を活かしてさまざまな事件を解決に導いていく。一方、ネモは不比等の「人の心だけは残したい」という言葉と、蘇小の「不比等が人の心を失った場合、ネモの手で楽にしてやって欲しい」という願いを受け、困惑する。そんな中、ネモと不比等はスフィンクスがいるという情報を受け、協力者の柳川隆之介と共にフルカネルリ博士の研究所を訪れる。しかしその情報は罠で、三人はスフィンクス計画の盗用を目論むフルカネルリ博士とその助手たちによって分断され、囚われの身となってしまう。ネモは、一度は自分だけ脱出しようかと考えるが、不比等を見捨てることができずに、先んじて自由になっていた隆之介と共に不比等を救出する。ネモたちに逃げられたフルカネルリ博士たちは、隆之介が連絡した警察によって拘束される。だが警察の中には、不比等を捕縛する任を受けた金庫破りのゾルガと、解答者のアーロンの姿もあった。
第2巻
蘇小が取引のために確保しようとしていた夜明珠が、何者かにすり替えられるという事件が発生する。犯人である巧雪は、夜明珠を守るスフィンクスに追われながらも、偶然出会ったネモを身代わりにすることで難を逃れる。しかし、罪悪感からネモを助けようと思い立つと、偶然出会ったゾルガと共に一奔一藏に向かい、助けを求める。蘇小は、不比等の身柄引き渡しを要求するゾルガと、彼らのあとを追って一奔一藏に乱入したアーロンを退け、巧雪の行いを咎めながらも、ネモに危機が迫っていることを聞くと彼女と共に動き、街中にいた不比等を見つけると、ネモを救援するよううながす。ネモは、夜明珠を守るスフィンクスの出題する謎かけへの解答に失敗したことで窮地に陥っていたが、ゾルガとアーロンが夜明珠を守るスフィンクスを撃破されたことで、事なきを得る。しかし、駆け付けてきた不比等はゾルガに敗れ去り、アーロンの手によって連れ去られてブラックモア公社に囚われてしまう。不比等の救出を志すネモは、機関の仲間である明村密へ協力を仰ぎ、彼と共にブラックモア公社へと潜入する。見張りを撒くために密と別行動を取ったネモは、通路でアーロンと再会し、彼の協力を取り付けると、彼の発案によりゾルガに変装する。そして、ブラックモア公社の研究員たちから実験用のスフィンクスの鎮圧を依頼されたアーロンと共に実験室を訪れ、暴走したという個体を確認するが、その正体はSPX細胞を投与されてスフィンクスと化したゾルガだった。アーロンは、戦友の変貌に大いに戸惑うが、もとに戻れない以上、安らかに眠らせるべきと主張するネモの意を組み、ゾルガの出題した謎かけに答えて彼を解放する。そして、ゾルガを弄んだブラックモア公社と、真っ向から戦う決意を固める。そこに密が合流し、不比等に殺害されたと思われていた「白朗」としての正体を明かす。彼もまた不比等の解放を望んでいたことを知ったネモは、ブラックモア公社の追手たちをアーロンに任せ、不比等の捜索を再開すると共に彼らのスフィンクス計画を止めるために動き出す。
登場人物・キャラクター
ネモ
あるスパイ機関に所属する少女。年齢は14歳。イギリス人男性と日本人女性のあいだに生まれたハーフで、日本人離れした容姿を持つが、ネモ本人は自分がハーフであることを知らない。ふだんはクールな性格で、潜入先では礼儀正しい性格を装っているが、不比等からはその不自然さを指摘されている。また、ふだんは女性であることを隠しており、巧雪からは長いあいだ男性と思い込まれていた。本名は「蒼島そら」で、子供の頃はその容姿から、「鬼の子」と呼ばれて迫害されていた。さらに、物心ついた時から父親の顔を知らず、一人で病気の母親を看病し続けていたが、その甲斐もなく死別する。心のよりどころをなくしたことで落ち込んでいたところ、彼女の境遇を見かねたスパイ機関の幹部に拾われる。そして、数年間にわたる訓練の末、機関最年少のスパイとして認められるようになった。自分の父親が家族を捨てたと考えており、その憎しみから父親を自らの手で殺害することを目的の一つとしている。小柄な見た目の割に大食いで、山のように盛られた点心を軽々と平らげて不比等をうろたえさせたこともある。また、金庫破りほどではないが、ふつうの子供が扱えば肩が抜けるほどの銃を難なく扱ったり、重傷を負ってもすぐに回復するなど、身体能力が非常に高いのは、ネモ自身も知らない出自が関係している。機関からメイソン租界およびそれを裏で牛耳るとされるブラックモア公社に関する調査を命じられ、上海に渡って情報収集のために学園に潜入する。そこでブラックモア公社のエージェントである不比等と出会い、さらにスフィンクスと呼ばれる、宝を守る怪物の存在を知ると、ブラックモア公社が裏で大きな陰謀を企てていることを予測し、不比等の解答者になることを申し出る。そして、蘇小の依頼を受けてスフィンクスに絡んだ事件を次々に解決していき、やがて彼らが何者かによって作り上げられた実験体であることを知る。のちに不比等をブラックモア公社に囚われてしまい、機関の知り合いである明村密と協力して救出に向かうが、そこで遭遇した被検体第一号こそが実の父親である。
不比等 (ふひと)
ブラックモア公社のエージェントを務めている日本人の青年。金庫破りと呼ばれ、ブラックモア公社に管理されていない、「違法鍵」と呼ばれるスフィンクスを捕縛および退治する特殊任務を請け負っている。ただし、青幇の蘇小と密かに連携をしているなど、必ずしもブラックモア公社にのみ忠実というわけではない。明るくノリのいい性格で、好みのタイプは年上の女性。また、直感に優れており、ネモの謙虚な様子をすぐに演技であると見抜く。ただし、ネモが女性であることは、スフィンクスと対峙するまで気づかなかった。背が高いうえに力が強く、柄の長いハルバード型のマスターキーを自在に使いこなすことから、リーチを活かした攻撃を得意とする。その反面、懐に飛び込まれると防戦を強いられる傾向にあり、これが原因で苦戦した経験もある。旧校舎のスフィンクスを退治するために、ネモが潜入していた学校の地下に潜伏する。そこでネモと出会い一時的に協力し、旧校舎のスフィンクスを撃破した。その際に、かつて解答者の相棒がいたが、現在は自分一人で行動していることを告げ、ブラックモア公社の情報を欲するネモと暫定的に相棒となる。そして、蘇小からスフィンクスに関する依頼を受け、ネモと共にそれを解決していく。かつての相棒であった「白朗」とはぐれていると語っているが、ブラックモア公社や不比等自身は彼を殺害したと思い込んでおり、そのことから「相棒殺しの21号」と呼ばれている。また、ネモと相棒になったのとほぼ同時期に、メイソン・ブラックモアからゾルガとアーロンに対して不比等の捕縛が命じられるが、不比等本人はアーロンに捕まるまでそのことを知らなかった。
メイソン・ブラックモア
ブラックモア公社の社長を務めている中年の男性。人類の発展を強く望んでおり、国家や種族の争いなどに囚われない新たな世界の創造を目指している。その手始めとして、上海を中心とした銀行業で築いた莫大な資産をもとにメイソン租界を興す。目的のためなら手段を選ばない非情さと、すべての人間が平等に成功する社会を求める意欲を併せ持つ。不比等が持つなんらかの情報に注目しており、彼の身柄を確保するよう部下に命じるが、その真意は不明。
ジョシュ
ネモが潜入した学校に通っている少年。父親がブラックモア公社に勤めていることから、学校の中でも注目されている。一方でジョシュ自身も、学校を首席で合格したネモを高く評価している。父親の仕事の関係でエジプトへ行くことが決まると、それにまつわる伝説に興味を持つ。そして、スフィンクスに関する情報を集めるようになり、その中で、学校の地下に旧校舎のスフィンクスが存在するという噂を聞きつける。それをクラスメートに広めたところ、ネモが興味を持ったことにより仲間たちで旧校舎の探索を行うことが決まるが、ネモが外の見張りを行っている最中に、仲間共々行方がわからなくなってしまう。
旧校舎のスフィンクス (きゅうこうしゃのすふぃんくす)
ブラックモア公社以外の組織によって製作された「違法鍵」のスフィンクス。ネモが潜入した学校の旧校舎の地下にある宝を守っている。スフィンクスの中でも特に性質が悪く、「子供の肉は美味い」と言い放つなど人間をエサとしか見ておらず、宝の番人としての矜持をいっさい持っていない。一方で、人間に擬態する能力を持っているほか、不比等と互角に渡り合えるほどの戦闘力を誇る。旧校舎の噂を聞きつけたジョシュたちを餌食にすると、彼らを追うように現れたネモと不比等に対して「その場から一歩も動くことがないが、一日中同じ方向に向かって走っている。走ることを止めたら詐欺師になるものとは何か?」という謎かけを行う。
蘇 小 (すー しゃお)
青幇の幹部の一人に数えられている中国人の青年。ふだんは一奔一藏の店主として活動しており、茶葉の売買のほか、メイソン租界の有力者や青幇の構成員たちとの取引といった事業を手広く行っている。マフィアらしからぬ明るく朗らかな性格で、初対面の人に対しても気さくに接する。一方で、取引に使う予定だった夜明珠をすり替え、さらに言い訳をしようとした巧雪に対しては、その身勝手さを咎めつつ厳しく叱責したうえで足を洗うようにうながし、さらに一奔一藏で雇うなど、裏社会を生きる者としての矜持もしっかりと持ち合わせる。ブラックモア公社と対立する身でありながらも、かつてスフィンクス絡みの仕事で世話になった不比等のことを気に入っており、マスターキーの譲渡やスフィンクスにかかわる仕事をあっせんしたりと、密かに彼のバックアップを行っている。また、不比等の相棒になったネモに対しても、情報や武器を与えるなどの便宜を図っているほか、不比等がかつて相棒を殺害したらしいことを告げつつ、強力なマスターキーの一つである小白龍を与えて、いざとなったら彼を撃つようにうながす。ただしそれは、彼に対する不信感によるものではなく、金庫破りの身体に隠されている秘密により、不比等自身が人間の心を失いかねないことを苦しんでいるためであり、いざとなったら彼が意に反して凶行に及ぶ前に止めて欲しいという意味合いが強い。のちにブラックモア公社によって不比等が捕らえられた時は、彼を助けようとネモと明村密の計画に加担すると共に、ブラックモア公社との対決を決意し、青幇の一軍を招集して本社への襲撃を企てた。
ドミトリー
マイルスキー家の主人の養子を名乗っているロシア人の青年。半年ほど前に突如としてマイルスキー家に現れ、半ば強引に後継者を名乗りつつ、屋敷の中に居座っている。横暴かつ傲慢な性格で、リーニャやグラシェニカなどのメイドはもちろん、義母であるはずの主人さえ蔑(ないがし)ろにするような言動を繰り返しており、酷い時は理由もなくメイドたちに暴力を振るうこともある。このような振る舞いから、マイルスキー家の人たちからは嫌われているが、追い出されるような気配は見られない。また、秘密主義なところがあり、マイルスキー家とつながりのあった蘇小の手の者が訪ねても、門前払いを繰り返していることから、蘇小からはドミトリー自身がスフィンクスなのではないかと疑われている。しかし、蘇小の依頼によってネモと不比等がマイルスキー家に潜入した際に、遺体となって発見される。
リーニャ
マイルスキー家にメイドとして仕えているロシア人の女性。子供の頃、ロシア革命に巻き込まれたことで家族を失い、さまよっていたところをエミリヤとマイルスキー家の主人に拾われる。温和な性格で、甲斐甲斐しい仕事ぶりから仲間内からも評判がよく、マイルスキー家の人たちからも大切に思われている。一方で、半年前に突如として現れたドミトリーの横暴に怯えており、辛い様子を見せることも少なくない。ある時、ドミトリーから暴力を振るわれ、さらに気づいたら遺体となっていた彼を発見したことにより、恐怖によって体調を崩してしまう。その時の状況から不比等からスフィンクスでないかと疑われ、マスターキーによる攻撃を受けかけるが、ネモが真犯人らしき人物を探り当てたことで事なきを得る。
グラシェニカ
マイルスキー家にメイドとして仕えているロシア人の女性。かつて思想犯として政府の追手に追われていたところをマイルスキー家によって拾われ、現在に至る。そのため、国のしがらみに囚われないメイソン租界のあり方を肯定しており、マイルスキー家に強い恩義を感じていると共に、仕えている現状に幸せを感じている。一方で、マイルスキー家を乗っ取ろうと企むドミトリーに対しては敵意を露わにしており、彼の存在そのものを疎んじている様子を見せることも少なくない。
エミリヤ
マイルスキー家でメイド長を務めているロシア人の女性。屋敷の主に対して高い忠誠心を抱いている素振りを見せているほか、行き場のない人たちを拾って面倒を見てきたことから、屋敷の仲間たちから慕われている。現在は体調を崩しており、ネモと不比等がマイルスキー家に潜入した際も、軽い挨拶を交わすだけで表に出ることはなかった。しかし、スフィンクスと疑われていたドミトリーが遺体となって発見され、さらに、ネモから30年間年を取っていないという証拠を突き付けられたことで、スフィンクスとしての正体を現す。そして、二人に対して「そこにいる人は同じ色の水を持っている。あなたも同じ色、同じ味のそれを持っているけれど、私の持っているものとは違う。そこでは一度も会ったことのない昔の人や未来の人が同じ枕のもとで眠る。それは何ぞ?」という謎を投げかけた。スフィンクスでありながら人を一度として食べたことがないうえに、屋敷の仲間たちとの絆を重んじる傾向にあるが、これはエミリヤ自身が「正規鍵」のスフィンクスであると同時に、彼女が守っている宝と関係がある。また、屋敷の仲間たちはエミリヤがスフィンクスであることを知りつつも、主からの信頼が厚かったことと、拾われた恩義から受け入れられている。なお、自らがドミトリーを殺害したと供述しているが、その一方で別の誰かをかばっている可能性が示唆されており、真相は不明。また、メイドたちやアンドレイと結託して、屋敷の主がすでに病没したことを周囲に隠していたが、これは自らの正体を隠すためではなく、ドミトリーから屋敷を守るために行っていたことである。
アンドレイ
マイルスキー家に料理人として仕えているロシア人の男性。大柄な体型で、寡黙なために初対面のネモからは威圧感を持たれていたが、まじめな性格で仕事に対しては熱心に取り組んでいる。また、リーニャが体調を崩した際は、彼女の好物である野菜スープを作って世話を焼くなど、仲間意識も強い。かつて「食人鬼」の疑いをかけられており、行き場をなくしていたところでマイルスキー家に拾われ、長年仕えている。そのため、グラシェニカやリーニャと同様に、マイルスキー家の主人やエミリヤに恩義を感じている。また、ドミトリーが屋敷を乗っ取ろうとする現状を憂えているが、表立って彼を批判したり、陰口を叩いたりはしていない。
楊 (やん)
メイソン租界で画商を営んでいる中国人の男性。病を患っており、薬師の一青を雇っている。「貔貅(ひきゅう)」と呼ばれる絵を所有しており、数日前に泥棒がその絵の前で倒れていたことから、ネモや不比等からスフィンクスとの関与を疑われ、屋敷で事情聴取を受ける。しかし、楊本人はスフィンクスのことを知らない素振りを見せ、貔貅の絵からもスフィンクスらしき気配が感じられないことや、屋敷の中に毒物である砒素が混ざった鉱石が発見されたことから、スフィンクスとは別の原因によるものである可能性が浮上する。今でこそ画商として成功を収めているが、かつて画家として行き詰まりを感じていたところ、林蔓が映画で演じていた「木蘭」と呼ばれる女性戦士の姿に魅了され、即座に彼女をモチーフにした絵を描きあげ、林蔓に対してプレゼントする。すると、たちまち気に入られて、やがて恋に落ちるが、スター女優と売れない画家という関係であることから周囲から反発され、彼女から身を引くことを余儀なくされる。さらに、裕福な外国人であるパトロンに林蔓を殺害された挙句、その罪を擦り付けられてしまい、治外法権のあるメイソン租界に失意のうちに落ち延びた。なお、かつて林蔓とのあいだに一子をもうけていたが、それに気づく前に別れているため、自分に子供がいることを現在も知らずにいる。
一 青 (い ちん)
メイソン租界で薬師を営んでいる中国人。病を患っている楊のために薬を調合しているが、今のところ病が治る様子は見られていない。類まれなる美貌を誇り、ネモや不比等を驚かせるほど。また、何者かから、楊によって一青自身の母親を殺害されたと吹き込まれており、内心では復讐の機会をうかがっている。その目的から楊の目を欺くために女性として振る舞っているが実際は男性で、自身の性別を偽っているネモからは見抜かれており、一青もネモのことを女性であると気づいていた。林蔓に似た容姿をしており、楊からはかつての後悔から、憎まれていることを知ってか知らずか、厚遇されている。
林 蔓 (りん まん)
女優として活動していた中国人の女性。美貌と優れた演技力を兼ね備えており、若い頃からスター女優として名を馳せていた。ある時、映画の中で「木蘭」と呼ばれる女性戦士を演じ、その姿が若き日の楊の目に留まり、その姿を描いた2枚の絵画のうちの1枚をプレゼントされる。林蔓自身もその絵を気に入り、やがて楊と恋に落ちる。しかし、スター女優と売れない画家という関係であることから周囲から反発され、やがて楊と別れることを余儀なくされる。それでもなお彼を思い続けており、やがて二人のあいだにできていた子供を出産し、受け取っていた絵を大事にしていたことを語る。しかし、それからしばらくしたあとに、パトロンになっていた外国人によって殺害され、さらにその罪を楊にかぶせられてしまう。
絵画を守るスフィンクス (かいがをまもるすふぃんくす)
楊が家に飾っている絵画を守る契約を交わしていた「正規鍵」のスフィンクス。契約を交わしたのが楊ではないため、彼自身は絵画を守るスフィンクスの存在を知らず、どの絵に取り憑いているのかもはっきりと把握されていない。ただし、「貔貅の絵」の前で侵入者が倒れていたことから、その絵に取り憑いていると判断され、楊を含めた関係者からは、やがて「貔貅」と呼ばれるようになる。正規鍵らしく、宝の守護を第一に考えており、守護している絵を狙われても、対象の殺害や捕食にまで至っていない。また、解答者に対しても一定の敬意を払う素振りを見せるが、その一方で金庫破りのことは嫌悪しており、強盗と変わらないと考えている。ほかのスフィンクスと同様に、人間に化ける能力を持っており、一青の姿に化けてネモと不比等の様子をうかがっていた。しかし、一青を女性だと思い込んでいたことからネモにスフィンクスであることがばれてしまい、自ら正体を明かす。そして、彼女と不比等に対して「その窓からは、時には鮮やかな景色、時には通りすがる人、さまざまなものが見える。でも、家の外に出ても同じ景色は見られない、その人には会えない。それは何ぞ?」という謎を投げかけた。
柳川 隆之介 (やなぎかわ りゅうのすけ)
大阪で新聞記者を務めている日本人の男性。ネモの所属するスパイ機関とつながりを持ち、情報の提供を受ける見返りとして、任務の協力を請け負うことがある。機関から、フルカネルリ博士がブラックモア公社から離反して不穏な行動を取ろうとしていることを知らされ、ネモと協力して博士たちの研究を調査するよう依頼される。ネモと不比等に先んじて、取材という形でフルカネルリ博士と接触する。だが、博士たちも柳川隆之介自身の考えが及んでない範囲で謀略を巡らせており、不比等を欺いて捕らえられると共に、潜ませた部下の手によってネモや不比等と引き離されてしまう。しかし、見張りのスキを突いて自由の身になると、不比等を救出しようとするネモに助力し、三人で研究施設からの脱出に成功する。さらに、警察に通報することで博士たちの身柄を確保させ、彼らの計画を瓦解させた。事件解決後は日本に帰還するが、去り際にネモに対して、「芥川龍之介」というもう一つの名前を明かした。実在の人物、芥川龍之介がモデル。
フルカネルリ博士 (ふるかねるりはかせ)
メイソン租界で研究を行っているフランス人の男性。かつてブラックモア公社に所属しており、スフィンクス計画に参画していた。その時に、スフィンクスの持つ能力に魅了され、その身体組成に大いに興味を抱くようになる。そして、独自にスフィンクスの研究を続けるためにブラックモア公社を裏切り、秘密裏に捕らえた人間たちを使ってSPX細胞を利用した人体実験を行い、「違法鍵」のスフィンクスであるドッペルゲンガーを生み出すに至る。このような行動から、ブラックモア公社やネモの所属するスパイ機関から危険視されるようになり、ブラックモア公社からはゾルガとアーロンが、スパイ機関からは柳川隆之介が差し向けられる。不比等を実験の素材として狙っており、守備よく捕らえることに成功する。しかし、柳川と協力したネモによって奪還され、研究施設から脱走され、彼らの通報によって駆け付けた警察に捕縛される。さらに、警察と共に現れたゾルガとアーロンに確保されてブラックモア公社の本部へと送られるが、その際に非道な実験に怒った二人から制裁を受けた。
ドッペルゲンガー
フルカネルリ博士が、かつて所属していたブラックモア公社の技術を盗用して作り上げた「違法鍵」のスフィンクス。ほかのスフィンクスと同様に人間に化ける能力を持っているが、一度覚えた相手の姿に自在に変化できるという特性を持ち、自在に姿を変えられることから「ドッペルゲンガー」と呼称される。違法鍵らしく人間を見るなり牙を剝(む)く狂暴さを持つが、フルカネルリ博士に対しては忠実で、彼の命令によって研究施設の最奥部を守護しているほか、調査に来た人間たちを皆殺しにしようとする。ただし、謎を解かれると消滅する生態は残っている。不比等を救出したネモたちの前に、柳川隆之介の姿に化けて現れ、彼らの油断を誘おうとするが、本物の柳川が駆け付けたことで失敗し、正体を現す。そして、彼らに対して「それは双子の惑星。真っ白な海にそれぞれ小島が一つ。見晴らしは良く、辺り一面を見渡すことができるけれど、自分の姿を見ることはできない。双子の惑星は仲がよくいつも隣にいるけれど、お互いの姿をまだ一度も見たことがない。それは何ぞ?」という謎を投げかけた。
ゾルガ
ブラックモア公社のエージェントを務めている少年。金庫破りとしての役割を果たしており、アーロンとコンビを組んでいる。匈奴の末裔といわれており、精霊信仰など特殊な習慣を持つ。そのため、スフィンクスの姿に対してある種のあこがれを感じることがあるが、戦う際にはまったく容赦をしない。6番目に実戦配備されたことから「6号」の異名で呼ばれることもある。見た目こそ幼いものの、金庫破りとしての経験は不比等をはるかに凌駕しており、彼の知らないマスターキーの扱い方を熟知している。さらに、近距離戦を得意とすることから不比等との戦闘相性が非常によく、アーロンからは不比等がゾルガに勝てる可能性は万に一つもないとまでいわれている。好戦的な反面、金庫破りとしては珍しく思慮深い面を持ち、暴走しがちなアーロンを抑える役割を果たすこともある。また、彼が解答者でありながら滅多にスフィンクスの出す謎かけに答えられないことを皮肉ることもあるが、基本的に仲はよく、互いの長所と短所を知り尽くしていることから任務の成功率も高く、ブラックモア公社から重用されている。ブラックモア公社から、裏切り者のフルカネルリ博士や相棒を殺害した疑いのある不比等を捕縛する任務を課され、その両方を成功させる。しかし、その身体にはすでに限界が訪れており、一部の研究者の独断によってSPX細胞を投与され、「再生鍵」のスフィンクスに姿を変えられてしまう。そして、不比等を救出するためにブラックモア公社を訪れたネモと、彼女に助力するアーロンに対して、「それは水の中にある家。たくさんの住人が暮らす家。その家は怪物の首を切り落とした血でできている。陸に引っ越した家は誰も住んでいない空き家。それは何ぞ?」という謎を投げかけた。
アーロン
ブラックモア公社のエージェントを務めている青年。解答者としての役割を果たしており、ゾルガとコンビを組んでいる。匈奴の末裔といわれており、精霊信仰など特殊な習慣を持つことから、スフィンクスに対してほかのエージェントとは異なる思いを抱いている。格闘戦が得意で、解答者でありながら並の金庫破りを上回る戦闘能力を誇る。ただし、スフィンクスからの謎かけに正解したことは滅多になく、夜明珠を守るスフィンクスの謎かけに正しい答えを提示した時は、ゾルガから奇跡のようだと皮肉られる。非道な人体実験を行ったフルカネルリ博士に強い怒りを向けたり、実験体となった人々を手厚く埋葬するように、部下たちに指示するなど、強い正義感を持つ。また、ブラックモア公社の命令には忠実だが、自分たちやブラックモア公社が必ずしも正しいと思っているわけではなく、ネモや柳川隆之介に対して、スフィンクスやブラックモア公社の暗部にかかわるような、危険を伴う調査を止めるようたびたび忠告したり、夜明珠を守るスフィンクスに襲撃されたネモを助けたこともある。フルカネルリ博士の捕縛および彼の研究の阻止や、不比等の身柄の確保をブラックモア公社から命じられ、これを成功させる。そして、本社のビルに帰還するが、ゾルガと離されたことでしばらく任務を受けることがなくなり、待機に徹することになる。そこに、不比等を救出しようとするネモと鉢合わせし、さらに研究員からスフィンクスの鎮圧を依頼されるが、そのスフィンクスがSPX細胞を投与されたゾルガであることを知り、口惜しさを抱えつつも彼の出題した謎を解き、解放する。そして、相棒をスフィンクスへと変えたブラックモア公社に見切りをつけ、ネモや「白朗」の正体を明かした明村密に協力し、彼らが不比等を救出するための作戦を援護する。
巧 雪 (ちゃお しぇ)
メイソン租界で暮らしている少女。豪商などの依頼を受けて値打ちのあるものを調達し、報酬を受け取る生活を送っていた。ネモとは年が近く、彼女のことを長いあいだ男性とカン違いしていた。貧しい生まれであったため、自分の運命を呪ったこともあったが、実力さえあれば誰でも成功の可能性が生まれるメイソン租界のあり方に同調し、自分なりに道が開けるよう努力を重ねている。ある時、青幇が取引に使用する予定だった夜明珠を盗み出すが、それをきっかけとして夜明珠を守るスフィンクスに襲われる。そして、偶然出会ったネモの懐に夜明珠を忍ばせ、夜明珠を守るスフィンクスに追わせるよう仕向ける。しかし、罪悪感から救助するよう思い立ち、途中でやはり偶然ながら合流したゾルガと共に、ネモから聞いていた一奔一藏に駆け込む。そこで、盗み出した夜明珠を扱っていたことが発覚すると、蘇小から厳しく叱責されるが、ネモを助けたいと訴えると不比等を紹介され、彼にネモの救出を託すことを決める。そして、今までの危険な稼業から足を洗い、ネモや蘇小たちへの恩返しもかねて、一奔一藏で働くことになる。アーロンに不比等を捕らえられた時は、ネモと明村密がブラックモア公社に潜入する足掛かりとして、仕事でかかわりのあった商人と渡りをつけた。メイソン租界が弱体化したあとも、変わらず一奔一藏で働いている。
夜明珠を守るスフィンクス (いぇみんじゅをまもるすふぃんくす)
何者かから夜明珠を守る役割を与えられた「違法鍵」のスフィンクス。植物と老人らしき生物が融合したような外見を持つ。青幇によって管理されていた夜明珠が盗まれたことで動き出し、犯人である巧雪を執拗に追いかける。さらに、巧雪が夜明珠をネモの服のポケットに押し込んだことでネモを追うようになり、武器となる小白龍を持たない彼女を路地裏へと追い詰める。そして、「生きている時間より死んでいる時間の方が長く、歌う時ころもを脱ぎ捨てるもの。死者はそれを食べてよみがえる。それは何ぞ?」という謎を投げかけた。ネモが唯一、解答を間違えたスフィンクスだが、その理由は、ネモが踏み入って間もない上海の知識が必須であることによる。
明村 密 (あけむら ひそか)
ネモと同じ機関に所属しているスパイの青年。変装の名人で、老若男女問わずあらゆる人間に化けられることから「怪人二十面相」の異名で呼ばれることもある。また銃の名手でもあり、遠くからでも対象を確実に仕留められる。ブラックモア公社に囚われた不比等を助けようとするネモから協力を要請され、彼女と共にブラックモア公社の本社ビルへと潜入する。ブラックモア公社やスフィンクスなどに詳しく、潜入後はおとりとしてネモと別行動を取る。そして、アーロンと共にスフィンクスとなったゾルガを退けたものの、研究員に銃を向けられた彼女を救援し、アーロンと顔を合わせたことを機に自らの正体を明かす。「明村密」は機関が造り上げた架空の人物で、真の素性は不比等のかつての相棒だった「白朗」と呼ばれる男性。ブラックモア公社の解答者として活動していたが、ブラックモア公社がスフィンクス計画の一環として、金庫破りをスフィンクスに変化させる「再生鍵」の研究を始めたことに気づき、密かにその調査を行っていた。そして、それに気づいたブラックモア公社の手により密かに追手がかかり、彼らの目を欺くために、不比等の目の前で事故に見せかけ死んだように装い、そのまま姿を消す。ただし、不比等自身が動揺のあまり、自分のせいで白朗が死んだと思うようになり、その影響でブラックモア公社からも不比等が白朗を殺害したと考えられ、結果的に白朗への追及がなされなくなる。ネモに助力した理由も、単に彼女やかつての相棒であった不比等を助けるためだけではなく、最初の相棒だった被検体第一号を解放することや、スフィンクス計画を完全に廃棄させるという理由もあった。ただし、被検体第一号がネモの実の父親であることは知らず、それを聞いた時は驚きをあらわにした。
被検体第一号 (ひけんたいだいいちごう)
すべてのスフィンクスの原型となった存在。SPX細胞への耐性を持ち、現在は「再生鍵」の研究のためにその身柄をブラックモア公社に利用されている。自我はほとんど消失しているが、うわごとで「ウミよ、ソラに合わせてくれ」とつぶやき続けている。その正体は、ネモこと「蒼島そら」の実の父親。「白朗」を名乗っていた頃の明村密のかつての相棒でもあり、実験体として使われる前は、彼と共にブラックモア公社のエージェントとして行動していた。ネモからは、家族を捨てた父親として認識され、自らの手で始末することを考えられていたが、実際は家族を捨てたわけではなく、被検体にされたことで家族のもとに帰れなくなったことが真相だった。そして、これを知ったネモから、憎しみによるものではなく、苦しみを終わらせるために白小龍の弾丸を撃ち込まれる。
集団・組織
青幇 (ちんぱん)
上海で台頭している勢力の一つ。蘇小などが所属する。かつては水運業を中心に発展してきた商工集団だった。しかし、メイソン租界に複数の裏社会集団の力が集中すると、麻薬市場や歓楽街の支配にも手を出し始め、チャイニーズマフィアとして名を馳せるようになる。現在もメイソン租界の恩恵を享受しているが、水面下ではブラックモア公社と対立しており、スキあらばメイソン租界の主導権を乗っ取るか、上海からメイソン租界を排除しようと画策している。一方で、スフィンクスが絡んだ事件に興味を持つ人物が多く、組織としてブラックモア公社と敵対しながらも、一個人として解答者や金庫破りと提携している構成員も存在する。のちに、ネモや明村密、アーロンがブラックモア公社に潜入したことをきっかけに正面から衝突し、ブラックモア公社やメイソン租界の弱体化を招く。
ブラックモア公社 (ぶらっくもあこうしゃ)
メイソン・ブラックモアが上海で立ち上げた会社。メイソン租界を裏で支配するといわれている。スフィンクス計画を推し進めており、豪商や貴族に「正規鍵」のスフィンクスを提供したり、「違法鍵」のスフィンクスを処理するために金庫破りや解答者などのエージェントを差し向ける事業も行っている。このことから、メイソン租界の有力者たちから一目置かれていると同時に、ネモの所属するスパイ機関や、青幇などのマフィアからも注目されている。また、裏では金庫破りをスフィンクスに改造する「再生鍵」の研究も行っており、そのことに気づいた「白朗」こと明村密に対して秘密裏に追手を差し向けたことがある。また、研究者とエージェントのあいだで連携が取れておらず、とても一枚岩とはいえない状況にある。さらに、潜入してきたネモと明村によって被検体第一号が倒されたことでスフィンクス計画が瓦解したうえに、青幇などのマフィアから暴動を起こされることになり、弱体化を余儀なくされる。
マイルスキー家 (まいるすきーけ)
メイソン租界に居を構えるロシア人貴族の名家。主人とメイド長であるエミリヤの厚意で、ロシア革命によって居場所を追われた人々が受け入れられていることから、従者たちの忠誠心は非常に高い。また、メイソン租界の治外法権によって、ロシア本国の政情不安の影響も受けないなど、慎ましいながらも平和といえる状況を維持している。しかし最近になって、主の養子を名乗るドミトリーが現れ、マイルスキー家を乗っ取ろうと画策するようになる。また、屋敷の中にスフィンクスが存在するという噂が流れ、蘇小の依頼を受けたネモと不比等に潜入される。
場所
メイソン租界 (めいそんそかい)
ブラックモア公社の社長となったメイソン・ブラックモアが、銀行業によって得た多額の資産をつぎ込むことで上海に作り上げた新しい租界。自由と混沌をよしとしていることから「ブラック・バビロン」の異名を持つ。ブラックモア公社によってある程度の管理がなされており、出自や言語、肌の色や貧富の差を問わず、あらゆる国のあらゆる人民を受け入れていることから、成功を目指してメイソン租界の中で活動する人があとを絶たない。その反面、「違法鍵」のスフィンクスが人を襲ったり、青幇といったマフィアが幅を利かせているなど、治安がいいとはいえない。
一奔一藏 (いーちーいーつぁん)
メイソン租界の一角に存在する商店兼喫茶店。蘇小が店主を務めている。多くの種類の茶葉を売り出しており、その中には麻薬に近い効果を持つものもある。不比等の行きつけの店でもあり、スフィンクス絡みの依頼を受けたり、情報交換を行うことが多い。また、青幇の拠点の一つとして機能しており、蘇小の部下が多数出入りし、取引や護衛などを行っている。不比等が出入りしていることを知ったゾルガやアーロンから襲撃を受けた時も、潜んでいた部下たちと共に撃退するほど。なお、喫茶店としても力を入れており、のちに蘇小の趣味で飼われている多数の猫と触れ合う、いわゆる「猫カフェ」に近いサービスが行われたことで、一般市民の利用者も多数獲得する。
その他キーワード
マスターキー
ブラックモア公社で開発されている武器の一種。スフィンクスを破壊する機能に特化しており、SPX細胞の活動を抑制する効果を持つ。主に金庫破りによって利用され、不比等はハルバード型のマスターキーを、ゾルガは短剣型のマスターキーを使用する。ただし、小白龍のように、解答者が利用できるマスターキーもある。なお、カスタマイズ自体はブラックモア公社以外でも可能で、不比等は青幇によって改良されたマスターキーを扱うことも多い。
小白龍 (しゃおぱいろん)
銃の形状をしたマスターキーの一つ。銃身に特別な文字が掘られている。もとは明村密こと「白朗」が使っていた武器だったが、彼が死を装って姿を消した際に青幇に回収され、現在は蘇小が所有している。さらに、ネモの手に渡され、不比等が人の心を失った際に撃つように求められる。放たれる銃弾はSPX細胞を抑制する効果があり、一発でスフィンクスに致命傷を与えるほどの威力を誇る。しかし、ネモは謎かけへの正答率が非常に高いため、スフィンクスの撃破に使われることはほとんどない。
夜明珠 (いぇみんじゅ)
青幇で取引されている宝物の一つ。かつて西太后がコレクションしていたといわれており、夜の中ですら辺りを照らすほどのきらめきを放つといわれている。何者かの手によりスフィンクスと契約しており、青幇以外の人間の手に夜明珠が渡ると、夜明珠を守るスフィンクスが起動する。部下の手により一奔一藏に届けられる予定だったが、巧雪の手によってすり替えられ、さらに彼女を襲い始めた夜明珠を守るスフィンクスの目を欺くため、ネモのポケットに押し付けられてしまう。
スフィンクス
ブラックモア公社のプロジェクトの一つであるスフィンクス計画によって生み出された人工生命体。SPX細胞と呼ばれる特殊な細胞で構成されている。特定の宝と結びつけるための契約と、そのパスワードとなる謎かけを設定することで、契約を交わした宝を守護する性質を帯びるようになる。設定された謎を解かれるか、身体のどこかにある鍵の形をした紋章にマスターキーによる攻撃で過剰な負荷を与えることで消滅し、錠前のような飾りに変化する。ただし、宝を狙う行動を起こされたり、謎かけへの解答に失敗された場合は、相手を攻撃してケガを負わせたり、最悪の場合はエサとして食べることもある。ブラックモア公社の技術で作り上げられた「正規鍵」と、ブラックモア公社の技術を盗用した別の組織が造り上げた「違法鍵」が存在し、違法鍵に分類されるスフィンクスは、宝を守るより人を食べることを優先する傾向にある。そのため、違法鍵はブラックモア公社の中でも危険視されており、破壊するためのエージェントが雇われている。なお、エージェントのうち、謎かけに答えることで消滅させることを得意とする者を解答者、マスターキーで物理的にスフィンクスを消滅させる術に長ける者を金庫破りと呼ぶ。また、制御不能となった金庫破りにSPX細胞を投与することで「再生鍵」と呼ばれるスフィンクスを生み出すこともあるが、これはブラックモア公社の中でもトップシークレットとされている。
解答者 (くいずますたー)
ブラックモア公社で雇われているエージェントの一種。ネモやアーロン、ブラックモア公社から離れる前の「白朗」こと明村密が該当する。スフィンクスが投げかける謎に答えることでスフィンクスを処理する役割を果たし、金庫破りがスフィンクスと戦っているあいだに謎の答えを考え、それを聞かせることでスフィンクスを行動不能に陥らせる戦法を基本とする。ただし、金庫破りに劣らない身体能力を持つアーロンや、強力なマスターキーである小白龍を持つネモなど、単独でもスフィンクスを制圧できるほどの力量を持つ解答者も少なくない。スフィンクスが関与する疑いがある事件を、独自に捜査する権限を持つ。なお、ブラックモア公社が抱える社員ではなく、私兵のような立ち位置である。そのため、単独で活動している金庫破りから私的にスカウトを受けることで新たな解答者として選ばれることがあり、ネモは前の相棒であった「白朗」と離れた不比等によってスカウトされ、新たな解答者として活動することになる。
金庫破り (でりんじゃー)
ブラックモア公社で雇われているエージェントの一種。ゾルガや不比等、かつて「白朗」こと明村密がコンビを組んでいた被検体第一号が該当する。解答者と同様に、スフィンクスが関与する疑いがある事件を、独自に捜査する権限を持つ。SPX細胞を投与された影響から、通常の人間をはるかに上回る身体能力や再生能力を誇り、スフィンクスの攻撃を受けてもひるまずにつかみかかることも可能。ただし、強化の副作用として寿命が短くなっており、10年以上生きることはできないといわれている。また、SPX細胞の影響で精神が不安定になることがあり、不比等はその影響で、かつての相棒であった白朗を殺害してしまったと思い込んでいる。さらに、制御不能になったり、寿命が迫った金庫破りを「再生鍵」のスフィンクスとして再利用することがあるが、このことはブラックモア公社でもトップシークレットとされており、一部の人間しか知らない。
SPX細胞 (すふぃんくすさいぼう)
スフィンクスの体組織を構成している細胞。血液に水銀のような性質を付加する働きを持ち、この影響でマスターキーなどの特殊な武器以外では傷をつけることが難しい。人体にも投与することが可能で、強靭な身体能力や再生能力を発揮させられるが、寿命が短くなったり、体組織に異常が生じる場合があるなど、副作用も多い。金庫破りには基本的に、SPX細胞が投与される傾向にある。なお、金庫破りにSPX細胞を過剰投与するとスフィンクスに変化することがあり、こういった過程で生み出されたスフィンクスを「再生鍵」と呼ぶ。
スフィンクス計画 (すふぃんくすけいかく)
ブラックモア公社で推し進められている計画の一つ。強い世界を作りあげるための生命の探求から始まり、やがて強靭な身体を持つ「正規鍵」のスフィンクスを作り上げる。そして、その特性を活かして番人としての役割を付与し、豪商や貴族など、宝の管理を必要とする人々に売り渡し、大きな利益をあげる。ただし、研究が進むにつれて、ブラックモア公社を裏切ったり、その技術を盗み出して独自に「違法鍵」のスフィンクスを作ろうとする組織が出始め、ブラックモア公社の中でも問題となる。それを解決するために、解答者や金庫破りなどのエージェントが集められるようになり、現時点でも、スフィンクスが多くの人々を脅かすような事件は発生していない。なお、裏で金庫破りをスフィンクス化させる「再生鍵」の研究が行われているが、これはブラックモア公社の中でも一部の人間にしか知られていない。
書誌情報
BLACK BABYLON-ブラック・バビロン- 全2巻 KADOKAWA〈MFコミックス ジーンシリーズ〉
第1巻
(2019-10-26発行、 978-4040640860)
第2巻
(2020-05-27発行、 978-4040646251)