概要・あらすじ
1860年代のニューヨーク。「ファイブ・ポインツ」と呼ばれ、20を超えるギャング団を抱える一帯に、ブラッド・バーンズとルーク・バーンズの兄弟が暮らしていた。彼らは、しっかり者の弟が不精な兄を叱咤しながらも平穏に暮らしているように見えた。その実、兄のブラッドは弟に隠れて、ギャング団「グレイブ・ディガー」専属の殺し屋をしながら、自分たちの母親を殺した、父親のエドワード・キングを探していた。
そんなある日、「グレイブ・ディガー」と対立するギャング団「アイアン・バタフライ」に、ルークがさらわれるという事件が発生。ブラッドは弟を守るため「アイアン・バタフライ」のNo.2と対決し、死闘の末に生き残るものの、ルークに殺し屋としての正体を知られることとなる。
さらにはこれが引き金となり、「グレイブ・ディガー」と「アイアン・バタフライ」の全面戦争が勃発。戦争を終わらせるため、敵も味方もなく惨殺を始めたブラッドだったが、それに恐れ慄(おのの)いた「グレイブ・ディガー」のボスの息子は、ガトリング砲を持ち出し乱射。その圧倒的な銃撃により、戦争は終結した。
このガトリング砲を提供した人物こそ、ブラッドが探し続けていたキングその人であった。戦争終結後、キングが「ファイブ・ポインツ」に来ていた事実を知ったブラッドとルークは、母親の仇を討つ決意を固め、キングを探す旅に出る。
登場人物・キャラクター
ブラッド・バーンズ (ぶらっどばーんず)
ルーク・バーンズの兄であり、長身で黒髪長髪の青年。右胸には、自身が所属するギャング団「グレイブ・ディガー」のメンバーの証である「GD」の文字のタトゥーが入っている。アイルランドからの移民で、ニューヨークの「ファイブ・ポインツ」に弟のルークと一緒に住んでいる。ルークには、自分がギャング団に所属していることを隠している。 昼は職探しをすると言いながら、家に居座っている「ダメ兄貴」として過ごし、夜は「グレイブ・ディガー」専属の殺し屋として、ボスであるジーン・マクドウェルから依頼のあったターゲットを始末して報酬を得ている。殺し屋の仕事をする際には、売春宿で働くエマの仕事場に隠してあるダスターコートや帽子を身に着け、黒ずくめの姿で活動しており、世間には「死神(グリムリーパー)」の名で知られている。 母親を殺した父親のエドワード・キングを探し出して復讐するため、殺しで得た報酬の一部を探偵に支払っている。「父の形見」として懐中時計を肌身離さず持っており、その蓋の裏には若き頃のジーンとキングの写真が貼ってある。この時計がどういった経緯でブラッド・バーンズの手に渡ったものかは不明。 使用武器は、銃身にナイフを取り付けた銃剣「コルトM1851ネイビー改」。
ルーク・バーンズ (るーくばーんず)
ブラッド・バーンズの弟であり、金髪を短く刈り上げた少年。ニューヨークを出て、父親であり母親の仇でもあるエドワード・キングを探す旅に出た後は、髪を伸ばすようになった。幼少期、兄のブラッドとともにアイルランドからニューヨークへ移り住み、以来「ファイブ・ポインツ」に部屋を借りて兄弟で暮らしていた。 だが、いつか「ファイブ・ポインツ」から抜け出し、アメリカ西部に大きな土地を手に入れたいという夢を持っている。「ファイブ・ポインツ」に住む間は、日給50セントで、波止場で荷揚げの仕事をしていた。争いを好まず、自分を犠牲にして人を助けようとする性格であり、ブラッドとは違って武器を手にすることはなかった。しかし、ギャング団同士の戦争に巻き込まれた際に、兄の正体と本心を知ることとなり、それをきっかけに、兄とともに父親へ復讐することを決意し、自らも銃を手にするようになる。 生まれ持った才能からか、銃を手にして半年後には、射撃の精度が兄を上回るようになった。使用武器は「レミントンM1858ニューモデルアーミー改」。
エドワード・キング (えどわーどきんぐ)
ギャング団「グレイブ・ディガー」の創立者の1人。ブラッド・バーンズ、ルーク・バーンズの父親であり、ブラッドとルークの母親を殺した張本人でもある。ウェーブがかった髪を長く伸ばし、右目に大きな切り傷がある。19歳の時にジーン・マクドウェルとともにアイルランドからアメリカにやって来た。「ファイブ・ポインツ」を治めることを目標としていたジーンとは違い、ただ金のためにギャングをしている。 現在は「グレイブ・ディガー」を去っており、新しくギャング団「クリムゾン」を率いてアメリカ各地を回って、殺しや商売をしている。そのため、「グレイブ・ディガー」所属時代には右腕に刻まれていた「GD」のタトゥーは消され、右胸に「K」の文字のタトゥーが入っている。 人を殺すことに何の躊躇もなく、自分の部下であっても、不要と思えば容赦なく殺すような人物。両手に銃を持ち、左右で別のターゲットを撃つこともできる。使用武器は「コルトM1836テキサス・パターソン改」。
ジーン・マクドウェル (じーんまくどうぇる)
ギャング団「グレイブ・ディガー」の創立者の1人。ボスを務める初老の男性。父親への復讐を望む幼いブラッド・バーンズを鍛え上げ、一流の殺し屋に育て上げた人物でもある。「グレイブ・ディガー」創立当初は、同じく創立者であるエドワード・キングとともに活動していたが、キングが抜けた現在では1人で団を率いている。顎ひげをたくわえ、左目には大きな切り傷があり、首の左側面には「グレイブ・ディガー」のマークである「GD」の文字のタトゥーが入っている。 19歳の時にキングとともにアイルランドからアメリカにやって来た際、その当時の「ファイブ・ポインツ」の荒廃ぶりを見て、この街を変え、そして守るという夢を持った。現在もそれは変わらないものの、一時期に比べて縄張りが激減し、さらに後継者である息子のキップ・マクドウェルの身勝手な行動に悩まされるなど、「グレイブ・ディガー」の衰退を憂えている。
キップ・マクドウェル (きっぷまくどうぇる)
ジーン・マクドウェルの息子。父親がボスを務めるギャング団「グレイブ・ディガー」のNo.2を名乗っている。ギョロリとした目つきの小柄な青年で、左手の甲に「グレイブ・ディガー」のマークである「GD」の文字のタトゥーが入っている。父親から与えられた売春宿の取り立ての仕事に不満を持っており、ブラッド・バーンズの殺し屋としての仕事ぶりを妬み、自らも殺しの仕事をしたいと執着している。 父親から一人前として認められていないことを根に持ち、他人に自分の弱点を指摘されると、途端に暴力的になる。
レイモンド・フィッツジェラルド (れいもんどふぃっつじぇらるど)
ギャング団「アイアン・バタフライ」のNo.2の地位にある若い青年。普段は、細目で微笑を浮かべたような表情をし、対立しているギャング団「グレイブ・ディガー」との抗争を嫌がるなど、温和な様子を見せる。しかし戦闘時には、蛇のような鋭く冷たい目つきに変わる。興味をそそられる相手との戦いには乗り気で、「グレイブ・ディガー」のボスの息子であるキップ・マクドウェルが仕掛けた策略に乗り、ブラッド・バーンズと対決した。 ナイフでの攻撃を得意としており、多数のナイフを腰に下げている。投げナイフを高い精度で標的に当てる他、両手にそれぞれナイフを持ち、二刀で攻撃をすることもできる。
ダニー
ギャング団「アイアン・バタフライ」のボス。口ひげをたくわえた小太りの中年男性。「アイアン・バタフライ」No.2のレイモンド・フィッツジェラルドの存在を脅威に感じており、対立しているギャング団「グレイブ・ディガー」との戦争に乗じて、レイモンドとその部下を始末するよう、エドワード・キングに依頼した。
JJ・キャンベル
アイルランドからの移民で、波止場で働いている少年。波止場での仕事にうんざりしており、一攫千金を夢見てギャング団に憧れている。ルーク・バーンズとは親友であり、彼の兄であるブラッド・バーンズとも親しくしていた。そのために、ブラッドを目の敵にしていたキップ・マクドウェルが仕掛けた策略に巻き込まれてしまう。
エマ
「ファイブ・ポインツ」にある売春宿で働く若い女性。ブラッド・バーンズと親しくしており、ブラッドが殺し屋の仕事をする際の衣服や武器を、自分の仕事場に隠している。面倒見の良い性格で、通りで物乞いをしていた女性に、自分の職場を紹介するなどしている。その彼女がキップ・マクドウェルに顔中をナイフで切り刻まれてしまい、その様子を目撃したエマは、キップに憎悪の念を抱き、自らの手で復讐しようとした。
ホーク
ギャング団「クリムゾン」に所属する吊り目の青年。「早撃ちのホーク」と呼ばれる。右の首筋に「K」の文字のタトゥーを入れている。使用武器は「コルトM1848改」。呼び名の通り、一瞬で3人を撃ち抜くほどの早撃ちの名手である。
スワロウ
ギャング団「クリムゾン」に所属する青年。「投げ縄のスワロウ」と呼ばれる。長髪で、顔の左側に細く三つ編みを垂らしており、左胸に「K」の文字のタトゥーを入れている。呼び名の通り投げ縄を得意とし、逃げる相手を、馬上から投げ縄で正確に捕らえることができる。使用武器は「ヴォルカニック・ピストル改」。
イーグル
ギャング団「クリムゾン」に所属する頬のこけた青年。「スナイパーのイーグル」と呼ばれる。頭にバンダナを巻き、左目を眼帯で覆っており、ライフルの弾を肩から斜めに掛けている。数百メートル先から正確に目標を撃ち抜く腕を持つ、寡黙なスナイパー。使用武器は「コルトM1855改」。
ドードー
ギャング団「クリムゾン」に所属するスキンヘッドで大柄な中年男性。「ボマーのドードー」と呼ばれる。左腕に「K」の文字のタトゥーを入れている。体中にダイナマイトを巻きつけ、着火用の葉巻を口にくわえている。「クリムゾン」のボスであるエドワード・キングと決着をつけに来たブラッド・バーンズの前に立ちはだかった。
パロット
ギャング団「クリムゾン」に所属する痩せた中年男性。「ビッグマウスのパロット」と呼ばれる。シルクハットを被り、胸の中央に「K」の文字のタトゥーを入れている。主に武器の調達を担当しており、戦闘能力は高くない。戦いに参加する際はガトリング砲を使用する。
ジェニー・メイシー (じぇにーめいしー)
ブラッド・バーンズとルーク・バーンズが旅先のセントルイスで出会った若い女性。酒場で男に絡まれていたところをルークに助けられるが、「助けなんか必要なかった」と、ルークにビンタを食らわすような跳ね返り娘。南北戦争で4年前に父親を亡くし、母親のアン・メイシーとともに、彼の遺した土地を守っている。出会った当初はブラッドやルークを敵視していたが、一緒に暮らすうちに打ち解けていく。
アン・メイシー (あんめいしー)
ジェニー・メイシーの母親である年老いた女性。娘のジェニーとは反対に穏やかな性格であり、突然家を訪ねて来たブラッド・バーンズとルーク・バーンズを快く受け入れ、2人を息子のようだと、温かく接した。夫を南北戦争で失って以来、彼の遺したセントルイス郊外の土地を守り続けている。セントルイス郊外の開発を進めるチャールズ・ハワードからは、土地の権利を渡す代わりに、充分な代金と街の中心部に家を用意することを持ちかけられているが、アンはこれを拒んでいる。
チャールズ・ハワード (ちゃーるずはわーど)
都市開発を行う鉄道会社「ウェスト・セントラル・レイルロード」の職員。小太りの中年男性で、セントルイス郊外の開発を行い、住民からは街の発展の立役者として慕われている。開発の一環として、アン・メイシーの持つ土地を手に入れようと足繁く通うが、アンがなかなか手放そうとしなかったため、ついには強硬な手段に出る。
ネッド・ホワイト (ねっどほわいと)
黒人の少年。ブラッド・バーンズとルーク・バーンズが旅先のウェリントンで出会った。牧場で馬の世話を任されており、馬を扱う技術は、誰にも真似ができないほど優れている。ルークには、牧場での生活に満足していると話したが、裏で黒人の窃盗集団と繋がっており、200頭の牛の窃盗に加担した。
ブラック・ホース (ぶらっくほーす)
モンタナ準州に住むインディアン「スー族」のリーダー的存在の青年。腰まで伸びた長髪を下ろし、バンダナを巻いている。「スー族」の戦士として、部族の仲間だけでなく、他の部族からも信頼を得ている。インディアンの土地に侵略してくる白人を憎んでおり、ギャング団「クリムゾン」に仲間を殺されたことをきっかけに、白人に報復するための全面戦争を蜂起させる。
集団・組織
グレイブ・ディガー (ぐれいぶでぃがー)
「ファイブ・ポインツ」を拠点として活動するアイルランド系のギャング団。ジーン・マクドウェルとエドワード・キングが創立した。現在ではキングが抜け、ジーンがボスとして組織をまとめている。メンバーの身体にはその証として、「GD」の文字のタトゥーが入れられている。15年前までは「ファイブ・ポインツ」のほとんどを支配する一大勢力だったが、現在では衰退し、僅かな区画を縄張りとするだけになっている。
アイアン・バタフライ (あいあんばたふらい)
「ファイブ・ポインツ」を拠点として活動するアイルランド系のギャング団。ボスはダニー。ショーパブ「バタフライ・サーカス」をアジトとし、現在「ファイブ・ポインツ」のほとんどを支配している。ギャング団「グレイブ・ディガー」とは縄張り争いで対立しているが、組織のNo.2であるレイモンド・フィッツジェラルドが「グレイブ・ディガー」との戦争に興味を示さないこともあり、微妙な均衡を保っている。
クリムゾン
アメリカ各地を渡り歩くギャング団。エドワード・キングをボスとしている。メンバーの身体にはその証として、「キング」の「K」の文字のタトゥーが入れられている。活動の目的は金儲けであり、行く先々で殺人を請け負って報酬を得、さらには仕事の依頼者さえも躊躇なく殺して金を奪っていく。主要メンバーは、ボスのキング、ホーク、スワロウ、イーグル、ドードー、パロットだが、その他にもメンバーがおり、具体的な規模は不明である。
場所
ファイブ・ポインツ (ふぁいぶぽいんつ)
1860年代のニューヨーク市マンハッタン区にある「ワース通り」「バクスター通り」「パーク通り」の3つの通りに囲まれた地帯。この地帯を中心に五叉路になっているため、この名前が付いている。ニューヨーク第6行政地区にあるこの地帯は、売春や強盗、殺人など、ありとあらゆる犯罪の温床となっており、20以上のギャング団が存在している。 政治家や警察官は、金を受け取ってギャング団の犯罪を黙認し、また、ギャング団を利用することによって、買票や収賄を行っている。このような状況から「世界最悪のスラム街」とも評されている。
その他キーワード
コルトM1851ネイビー改 (こるとえむいちはちごーいちねいびーかい)
実在する銃をモデルとした、ブラッド・バーンズが使用する銃剣。ブラッドを殺し屋として育てたジーン・マクドウェルから贈られたもので、銃身の下側にナイフが取り付けられている。銃とナイフが一体化しているため、ナイフ攻撃と銃攻撃を同時に行うことができる。実在の銃は、1851年にアメリカのコルト社から発売され、南北戦争でアメリカの陸軍に支給された。 全長355mm、重量1190g、装弾数6発。
レミントンM1858ニューモデルアーミー改 (れみんとんえむいちはちごーはちにゅーもでるあーみーかい)
実在する銃をモデルとした、ルーク・バーンズが使用する銃。武器を手にすることのなかったルークが、兄のブラッド・バーンズとともにニューヨークを出ることを決意した際、携行するようになった。入手の経緯は明確に描かれていないが、ギャング団同士の戦争の後始末として、ジーン・マクドウェルに始末されそうになった兄を助けるために拾った銃を、そのまま使用しているものと思われる。 実在の銃は、1863年から1875年にアメリカのレミントン・アームズ社で製造され、南北戦争で活躍した。耐久性が高く、リロードが素早いのが特徴。全長337mm、重量1270g、装弾数6発。
コルトM1836テキサス・パターソン改 (こるとえむいちはちさんろくてきさすぱたーそんかい)
実在する銃をモデルとした、エドワード・キングが使用する銃。キングの左右の腰に1挺ずつ下げられ、両手で撃つことができるようになっている。実在の銃は、1836年から1847年にアメリカのコルト社で製造され、リボルバーの元祖といわれているものの、性能はあまり良くなかった。全長349mm、重量1200g、装弾数5発。
ガトリング砲 (がとりんぐほう)
ギャング団同士の戦争で使用された武器。キップ・マクドウェルがエドワード・キングに売りつけられた。戦争終結後はキングが回収し、彼のギャング団で再び使用された。モデルとなったのは、実在する医師であるR・J・ガトリングによって1862年に開発されたもの。1分間に200発もの連射速度を誇り、約1500人の歩兵隊に匹敵するとまでいわれた。
コルトM1848改 (こるとえむいちはちよんはちかい)
実在する銃をモデルとした、ホークが使用する銃。別名「コルト・ドラグーン」。ホークの得意とする早撃ちのため、いかなるタイミングでも攻撃できるよう常に右腰に下げられている。実在の銃は、1848年から1860年にアメリカのコルト社で製造され、1860年まではアメリカ陸軍の制式拳銃として採用されていた。全長375mm、重量1928g、装弾数6発。
ヴォルカニック・ピストル改 (ゔぉるかにっくぴすとるかい)
実在する銃をモデルとした、スワロウが使用する銃。得意とする投げ縄を使って相手を捕獲した後、とどめを刺す際に使用される。実在の銃は、1851年にアメリカのスミス&ウェッソン社で開発された。弾丸自体に発射薬が仕込まれている「ロケット・ボール弾」と呼ばれる弾を使用するのが特徴。レバーを操作することにより、排莢と弾の装填が同時に行われる、レバーアクション式のリボルバー。 装弾数6発。
コルトM1855改 (こるとえむいちはちごーごーかい)
実在する銃をモデルとしており、スナイパーであるイーグルが狙撃のために使用している銃。別名「リボルビングライフル」。長距離の狙撃に対応するため、銃の上部に長いスコープが取り付けられている。実在の銃は、1855年にアメリカのコルト社で開発された。同じく実在する銃であるコルトM1851からリボルバーの構造を流用し、さまざまな銃身の長さを持つライフルが製造された。 装弾数6発。