感情すら獲得した機械生命体「ギア」
「ギア」は高度な人工知能を搭載した機械生命体である。軍事利用を契機に産業が発展し、やがて民間にも普及した。旧世代のギアは兵器の延長に過ぎなかったが、第4世代で感情を獲得。人工皮膚を有する完全人間型ギアは、サービス業や愛玩用としても重宝され、「ギア平等主義」や「ギア区別主義」といった思想も生まれた。また、一般には流通していないが、ヘイフリック限界を取り払った人工細胞で構成された次世代ギアの研究も進められている。戦争の激化により人口が減少する一方で、ギアの需要は高まり続け、やがてギアの総数は総人口を上回った。文明崩壊後も多くのギアが稼働しているが、人間の不在により存在意義を失ったギアも少なくない。ギアには経口摂取でエネルギーを補給する機能があり、有機物はもちろん無機物までエネルギーに変換できる。しかし、経年劣化は避けられず、AIが破損して自我を失ったギアは「狂機(インセイン)」と呼ばれ、正常なギアから危険視されている。
「ギア」の目的を定める「基底プログラム」
「ギア」には、目的に応じた「基底プログラム」を設定する必要がある。これは、ギアの自主的な行動をうながす本能のようなものである。たとえば、学術研究用ギアのゼットには「観察と探究」、給仕用ギアのマリーには「人間への奉仕」が基底プログラムとして設定されている。基底プログラムはギアの魂に相当する重要なものであるが、言い換えればギアの生き方を決定づける呪縛でもある。作中では、戦時中に量産された戦闘用ギアが基底プログラムに従い、意味を失った「闘争のための闘争」に明け暮れる様子も描かれている。基底プログラムの設定には生体認証が必要であり、人類が姿を消したことで書き換えが困難な状況に陥っている。なお、アイザック・アシモフが提唱したロボット三原則は軍事行動、治安維持、災害救護に支障をきたすとして、ギアには適用されていない。
旅の目的地は理想都市「ヘブンランド」
「ヘブンランド」は、機械生命体「ギア」によって荒野に築かれた砂時計型の巨大都市。三層に分かれており、下層は工業区域、上層は生産区域、最上層は居住区域として運用されている。全体として戦前にも劣らない環境が整えられているが、人間の存在しない幽霊都市であり、大小1万以上ものギアが暮らしている。自由主義のDと保守主義のRという二人の最高統括管理者が協議しながら共同体の意思決定を担っており、外部のギアからは「ギアによるギアのための理想都市」と噂されている。ヘブンランドの噂を耳にしたルゥは、ゼットを復活させるのに必要な設備が整っていると見込み、ヘブンランドを目指すことにした。
登場人物・キャラクター
ルゥ
学術研究用ギアのゼットと共に暮らす人間の少女。紫色のミドルヘアで、眼鏡をかけている。名前の「ルゥ」は、車輪や歯車を意味するフランス語「roue」に由来し、名付け親であり親代わりのゼットを「おじさん」と呼び慕っている。感情豊かで、趣味は読書と探検。幼い頃から「知識と経験は財産」と教えられており、サバイバル技術はもちろん、テーブルマナーまで習得している。ある日、探検中に謎のギア・クロムを発見。三人で暮らし始めるが、「狂機(インセイン)」と遭遇し、ゼットが破壊されてしまう。家族同然の存在を失い悲しみに暮れるが、ギアの脳に相当するコアユニットが無傷であることが判明。ゼットの復活に必要な設備を求めて旅に出ることを決意した。道中ではさまざまなギアとの出会いと別れを経験し、カチューシャ型の生体反応ジャマーや骨董品の拳銃を手に入れて身につけるようになった。
クロム
ルゥが起動させた謎に包まれた戦闘用ギア。白髪の青年のような外見で、右目は前髪に隠れ、左目の下にはバーコードが刻まれている。胸部と四肢は赤い装甲で守られている。身の丈を超える巨石を運べるほどパワフルで、踵(かかと)に搭載されたブースターにより、機動力にも優れる。性格は無愛想で合理的。その正体は、自己修復可能な第5世代型の試験用ギア。窮地に陥ると頭部が一角獣のような装甲で覆われ、性能が飛躍的に向上する。切断された部位は独立起動し、瞬時に再生が可能となるが、その分エネルギー消耗が激しく、脅威を殲滅(せんめつ)するまで自我を失ってしまう。当初は基底プログラムが未設定で機能が制限されていたが、「狂機(インセイン)」との戦いでゼットを破壊した際に、「ルゥを守り続ける」という基底プログラムを自ら提案。ルゥの承認を得て、彼女の守護者として生きることを決意した。なお、当初は手足の付いたドラム缶のようなポッドに収められた状態で稼働していたが、初陣で破損し、そのポッドを脱ぎ捨てた。
書誌情報
HEART GEAR 7巻 集英社〈ジャンプコミックス〉
第1巻
(2019-07-04発行、978-4088820361)
第2巻
(2019-11-01発行、978-4088821238)
第3巻
(2020-03-04発行、978-4088822082)
第4巻
(2022-08-04発行、978-4088822563)
第5巻
(2022-12-02発行、978-4088833170)
第6巻
(2024-06-04発行、978-4088840529)
第7巻
(2024-08-02発行、978-4088841526)







