あらすじ
力の代償編(第1巻)
国選処刑人の紅守黒湖は、新型麻薬、夢中遊行の中毒者である元プロレスラーの井々村弼が起こした、無差別殺人事件の解決に駆り出された。夢中遊行によって筋力が増強され、痛覚麻痺も起こった井々村には、弾丸も通用しない。しかし同時に、井々村には強い幻覚作用が現れている事を悟った黒湖は、敢えて井々村の幻覚に沿う舞台を用意する。
殺人Party編(第1巻~第2巻)
紅守黒湖のもとに悟兵衛と名乗る人物から1通の招待状が届いた。招待客をランダムに選んだとされる、悟邸で行なわれるパーティーに出向いた黒湖は、そこが犯罪者達を私刑にするための殺人パーティーだと知らされる。同席したミユキ、朽葉怜子、コバルト=コンラッド、桃山照美と共に脱出を図る。
D・K~ドメスティックキラー~編(第2巻~第3巻)
20年前に世間を震撼させた殺人鬼「仮面蒐集家」と同じ手口の事件が頻発するようになった事を機に、紅守黒湖は、当時犯人として逮捕された浅葱尊の娘、浅葱凛子を保護する。しかし警視庁の捜査により、尊にはアリバイが証明される。これにより凛子こそが今回の犯人なのではないかと疑われるが、その時、すでに凛子は屠桜ひな子、碧八葉、水沢浮菜と共に流々家テケリリランドに出掛けていた。
バラ色の監獄編(第3巻~第4巻)
紅守黒湖は恋人である柳岡千代の友人、刈安纏依から、妹の刈安那々美が新興宗教、ヴァージナルローズに入信してから様子がおかしくなったと相談を受ける。纏依と那々美に性的魅力を感じた黒湖は、姉妹丼を条件に、那々美を連れ戻す事を承諾する。しかしヴァージナルローズを訪れた黒湖は、そこが女性だけの共同生活の場で、さらに女性同士の性的関係をも推奨している事を知り、思わず嵌まり込んでしまう。
空と僕のあいだに編(第4巻~第5巻)
幼い少女の縊死体が発見された。靴が見つからない事から自殺も疑われたが、検死の結果、殺害されてから遺棄された事が判明する。その手口に「本当の標的」がいる事を察した紅守黒湖は、さらに被害者が増える事を予想し、新たに誘拐事件の被害者となった北上空の母親、北上ひばりのもとを訪れる。
SCHOOL DESTRUCTION編(第5巻~第6巻)
私立まりも學園初等部に浅葱凛子が転入して来る。クラスメイトの北上空や久慈原観鈴と交流を深める凛子だったが、その日、私立まりも學園高等部で爆弾騒ぎが起きる。通報を受けて警視庁から派遣された紅守黒湖は、脅迫電話を受けている状況を説明しつつ、一人の怪我人も出さずに事件を解決する事を、全校生徒の前で約束する。
忘却の“桜”編(第7巻~第9巻)
緋垣刀吉郎が、流々家拘置所から脱走した。かつて刀吉郎が幹部を務めていた「千仞の獅子」と呼ばれる極右組織が、「桜剪会」と名を改めて、テロの予告と宣戦布告をして来た事態に、警視庁は混乱に陥る。警察がテロの阻止に奔走する中、紅守黒湖には刀吉郎の暗殺命令が下される。黒湖は柳岡会や錆浦蘭、桃山鳴海からの情報をもとに、ついに桜剪会のアジトと思しき場所を突き止める事に成功する。
白い流星編(第9巻)
屠桜ひな子の提案で、紅守黒湖は友人や協力者達を誘って海に出掛ける。トキワサキが勤めている会社が所有する島を貸し切った黒子達は思い思いに海を楽しむが、その最中、クリサリダに搭乗したサキが空から舞い降りて来る。突然の事態に動転する面々だったが、その直後にエル・ヒガンテが飛来し、想定外の事態に騒然となる。
THE DEEP ONE編(第10巻~第11巻)
紅守黒湖達は屠桜ひな子の要望で、流々家市の水族館に新たに加わった最大級のイタチザメの鑑賞に訪れていた。しかし、当のイタチザメは元気がなく、しかも絶命寸前に、血と共に人間の手を吐き出した。その切断面が異常になめらかだった事から、人為的な殺人と判断した黒湖は、ひな子を伴ってイタチザメが水揚げされた漁村、印須升を訪れる。
剣聖編(第11巻~第13巻)
浅葱凛子と冷泉藍子は、休みを利用して二人で買い物に出掛けていた。まるで本当の親子のように接しながらも、お互いの距離をつかみきれず、初々しい様子を見せる二人だったが、その時凛子が血の臭いを感じ取る。路地裏で佐々木遼太郎が斬り殺されているのを目の当たりにした二人は、咄嗟にその場で怪しい人物の捜索を開始する。しかしそこにたたずんでいたのは、かつて藍子が懇意にしていた宮本玄流だった。
死が2人を分かつまで編(第13巻)
紅守黒湖は桃山鳴海から連絡を受け、ゴールドマリーの死体が消えている事を相談される。以前ゴールドマリーが協力者として「先生」という言葉を口にしていた事から、情報を探る事を約束した黒湖だが、ちょうどその頃、首元を食いちぎられ、失血死している死体が発見される。犯人が下水道に潜んでいる事を知った黒湖だったが、下水のあまりの臭さに、捜査を笠木三郎太に任せる。しかし今度は別方面からの調査を頼んでいた桃山鳴海が、下水近くで失踪する事態に直面する。
スピンオフ
本作『MURCIÉLAGO -ムルシエラゴ-』の登場人物、朽葉怜子を主人公としたアラカワシン作画のスピンオフ作品『MURCIÉLAGO-ムルシエラゴ-BYPRODUCT-アラーニァ-』が、同じヤングガンガンコミックスから刊行されている。本編からは、記憶喪失状態の桃山照美だけが登場する。
登場人物・キャラクター
紅守 黒湖 (こうもり くろこ)
殺害人数715人の死刑囚の女性。囚人番号1788。捜査零課の管理のもと、「国選処刑人」に選定された人間の一人で、死刑執行が無期限延期となっている。膝裏まである長い黒髪とIカップの巨乳で、190センチを超える長身を誇る。異常に舌が長く、目の下に濃い隈がある。また、舌先は紫によって二つに裂かれている。巨乳の女性が好みで、性欲に正直なレズビアン。女性を見るととりあえず口説き、電車内でも痴女行為に及ぶ事がある。複数の女性と肉体関係を持ち、その中でも特に柳岡千代が本命に近い存在。語尾にハートマークを付けて「あッは」と言うのが口癖。料理が得意で、どんな豪華な料理でも家庭用キッチンで作る事ができる。屠桜ひな子からは「くーちゃん」と呼ばれており、出会い系サイトでは「ちちゆり」というハンドルネームを使用している。またヴァージナルローズに潜入時には「ハルフェティ」と呼ばれていた。
屠桜 ひな子 (とざくら ひなこ)
紅守黒湖のパートナーの少女。思考は幼いが、豊満な肉体を持つ。ト音記号の髪飾りを付けている。空間認識能力に優れ、高所から見渡すだけで脳内に地図を作成する事ができる。またドライビングテクニックにも長けており、黒湖所有のランボルギーニや自転車、船舶までも自在にあやつり、本来進入不可能なビルの屋上やテーマパークにも、車で進入できる。私立まりも學園の中等部に通っているが、勉強は不得手で、追試の常連。黒湖の作る料理が大好きで、機嫌を損ねた際には食事をリクエストする事で許容している。なんらかの研究対象として生み出された事が示唆されており、母体を務めた者も含めて、研究者達を黒湖が殺害した事で救われたという過去がある。友達が少なく、碧八葉が唯一の友人。黒湖が屠桜ひな子を殺害、もしくは不慮の事故で死なせてしまった際は、即座に黒湖の処刑が執行されるよう、体内にマイクロチップが埋め込まれており、衛星経由で絶えずひな子のバイタルデータが警視庁に送信されている。誰かに褒めてもらえる事に執着するあまり、暴走する事もある。
柳岡 千代 (やなおか ちよ)
柳岡会会長の娘。紅守黒湖の恋人の一人で、縦巻きロールの赤毛が特徴の女子大学生。柳岡会の関係者からは「お嬢」と呼ばれている。黒湖の勝手な行動には怒りを見せるが、基本的にセックスで絆される。レズビアンではないと断言しているが、「黒湖におっぱいがなかったら好きになっていなかった」と語っている。黒湖がヴァージナルローズ潜入後に連絡が取れなくなった事から浮気を疑い、長ドスを手にして単身施設に乗り込んだ。その際、当時は「テレサ」と呼ばれていた桃山鳴海と対峙し、以降は友人として交流している。
朽葉 怜子 (くちば れいこ)
スナイパーの女性。悟邸で催された殺人パーティーに招待されていた。表情が乏しく、胸も小さい事から男性に間違われる事が多い。寡黙な性格で、声も小さい。服装にも頓着しておらず、基本的にはいつも同じ格好をしている。6階建てのビルでも窓枠や看板を使って、素早く登れるほど身軽。記憶をなくした桃山照美を右腕として雇っている。照美からは「ボス」と呼ばれている。紅守黒湖から洋服をプレゼントされた際には、恋人の女性の洋服もお土産と称して購入させた。
桃山 照美 (ももやま てるみ)
格闘家の男性。悟邸で催された殺人パーティーに招待されていた。ピンク色のモヒカン頭で、声が大きく、言動が派手。地下ファイトクラブで金銭を賭け、対戦相手を殺害していた事から殺人パーティーに招待された。紫によって殺害されたと思われていたが、殺人パーティー後は記憶喪失となって朽葉怜子の右腕となって働きつつ、自分が何者であるのか探している。桜剪会の起こした事件で見かけた屠桜ひな子に既視感を覚え、記憶を取り戻す手がかりになるのではないかと、あとを追った。錆浦蘭が過去の自分を知っているらしいと考えてはいるが、不確定要素が多いため、ひな子に記憶の断片を求めている。
ミユキ
フリーターの女性。悟邸で催された殺人パーティーに招待されていた。真っ白な髪をしている。パーティー以前にも、井々村弼に関係する事件で紅守黒湖と知り合っていた。学生の時に万引きした事でパーティーに招待されたのではないか、と語っている。黒湖にとどめを刺されかけていた紫の助命を求めた。それ以降も要所要所で登場している。
浅葱 凛子 (あさぎ りんこ)
9歳の少女。浅葱尊と浅葱望の娘。緑色の長い髪を、一部のみサイドテールにしている。父親である尊の私室で偶然殺人を記録したDVDを見てしまった事から殺人に目覚めた。なんらかの理由で、母親である望を殺害した過去がある。殺人が悪い事だという自覚はあり、また尊が紅守黒湖に殺害された事も直感的に知って自殺を試みた。しかし、黒湖なら殺しても問題ない人間を用意できる事や、尊から身柄を任された事など、黒湖に言いくるめられる形で黒湖の保護下に入った。私立まりも學園初等部の4年生に転入し、北上空や久慈原観鈴と友人になった。かつては包丁を凶器に用いていたが、尊から黒湖に託されていた凛子専用の高周波ブレードを受け取ってからは、それを愛用している。冷泉藍子に懐いており、母親のように慕っている。屠桜ひな子からは「りんごちゃん」と呼ばれている。
桃山 鳴海 (ももやま なるみ)
ヴァージナルローズの幹部を務めている少女。教団内では「テレサ」と呼ばれていた。薙刀の達人で、敷地内の訓練場では師範役を担っている。ヴァージナルローズの実態が判明したあとは教団を解散したが、残った施設を、帰る場所のない元信者達の共同生活の場所として提供し、リーダーとして活動している。残った信者達の生活資金に苦心していたが、全員まとめて紅守黒湖の専属情報屋として雇われる事になった。レズビアンではないと公言しているが、柳岡千代にときめいている様子。
蘇芳 皆子 (すおう みなこ)
私立まりも學園の高等部に通う3年生の少女。長い黒髪を2本の長さの違う三つ編みにまとめている。榊風莉の取り巻き達にひどいいじめを受けては、風莉に慰められていた。また、すべて風莉が仕組んでいた事も知っており、風莉を「殺したいほど愛して」しまった事から、風莉を自分だけのものにしようと考え、爆弾を作成した。しかし、三阪マリエに爆弾を盗まれて計画が頓挫していた。その後、紅守黒湖の協力を得て計画を狂わせたマリエを殺害。爆弾作成の才能を見込まれて黒湖の協力者となった。また風莉を犯して立場を逆転させたのちに支配下に置き、サディスティックな愛情を向け続けている。
錆浦 蘭 (さびうら らん)
Clubジュンのバーテンダーを務めている女性。地下格闘大会「Destoroyar」の現王者でもある。筋肉隆々の肉体で、紅守黒湖より頭二つ分ほど背が高い。黒湖や屠桜ひな子からは「うらら」と呼ばれている。かつて「金網」と呼ばれる格闘方式で黒湖に敗北した事から、リベンジを望んでいる。黒湖の恋人の一人。女性は殴らない事、また自分が多人数側にいる場合の一対多の戦闘は行わない事をモットーとしている。桃山照美の事を知っているが、戦ってもらえない事が気に入らず、照美の素性や過去については内緒にしている。
冷泉 藍子 (れいせん あいこ)
緋垣刀吉郎の悲願成就のために動いていた長い黒髪の女性。桜剪会に所属している。極細の糸にダイヤの粉末をまぶしたワイヤーソーを使用する。「松前静香」を名乗って国会議員秘書として働き、暗殺もこなす。孤児だった母親が幼い頃、刀吉郎に命を救われた事や「千仞の獅子」で育てられた事を理由に、全面的に刀吉郎を支持していた。刀吉郎の念願だった「刀吉郎が考える国のために戦い、戦死する事」が確実になってからは警察におとなしく投降し、情報提供なども行っている。その後は紅守黒湖のもとに預けられ、浅葱凛子の母親代わりとなって、凛子をかわいがっている。かつて宮本玄流と交流していたが、桜剪会の活動が活発になるに従い、疎遠になってしまった。またその事で、玄流の中に芽生えていた人格としての宮本玄乃から恨まれている。
トキワ サキ
とある機関の兵器開発セクションで、ロボット開発をしている女性。紅守黒湖とは旧知の仲であり、屠桜ひな子専用の高出力ローラースケートの製作者でもある。肩上丈の黒髪は手入れされておらず、前髪が目と眼鏡を隠すほどに長い。袖の余った白衣を着ている。エル・ヒガンテに襲われた際には真っ先に黒湖のもとに逃げており、黒湖なら危険な騒動に巻き込んでもいいと思っていたと話している。クリサリダの製作者でもあり、ひな子の動体視力や操縦技術の高さから、クリサリダをひな子に預け、エル・ヒガンテと戦わせた。名前の漢字表記は不明。
宮本 玄流 (みやもと ひかる)
佐々木遼太郎に師事していた少女。姉の宮本玄乃のように強い剣士になる事を夢見ているが、剣の才能はまったくなく、体の使い方も下手なため身につかない。武門の娘として勉強や分析は得意としている。遼太郎から紹介された冷泉藍子を唯一の拠り所としている。藍子からも妹としてかわいがられていたが、藍子が桜剪会の活動で多忙になったために会えなくなっていた。故意ではなく玄乃を殺害してしまった過去があるが、それをきっかけに、宮本玄流の中に「宮本玄乃」のイメージを肥大化させた人格が生まれた。また玄乃の人格が、体を使用して殺人を犯して以降は髪が白くなっている。玄乃になっているあいだの記憶は玄流になく、人を殺害した罪の意識などもない。事件後は紅守黒湖のもとに預けられている。
君原 茶々 (きみはら ちゃちゃ)
紅守黒湖を管理している警視庁「捜査零課」の女性巡査。正義感が強く、黒湖の起用を根本的に認めておらず、手段を選ばず排除しようと考えている。黒湖から下の名前で呼ばれる事を拒否した結果、「ちゃっちゃん」というあだ名を付けられたが、これも激しく拒否している。
御剣 橙悟 (みつるぎ とうご)
紅守黒湖を管理している警視庁「捜査零課」で課長を務める男性警部補。周囲からは「ツルさん」と呼ばれている。ザンバラな髪に、無精ひげを生やしている。かつてSATと捜査一課に所属しており、特に捜査一課ではエースとの呼び声も高かった。以前は印須升に妻の旭妃と共に居住しており、旭妃の言葉をきっかけに出世コースを退くような行動も取っていた。しかし、旭妃がコバルト=コンラッドの復讐を目的とした研究のサンプルとして殺害された事を知り、激昂。そのままコバルトを殺害しようとしたが、黒湖によって制止された。須藤朱臣とは幼なじみであり、二人きりの時には昔ながらの砕けた口調で接する。
須藤 朱臣 (すどう あけおみ)
警視庁刑事部長で、警視監を務める男性。アシンメトリーなツーブロックの髪型で、オーバル型の眼鏡をかけている。御剣橙悟とは幼なじみであり、二人きりの時には砕けた口調で話す。桜剪会の事件の際には、警視庁内にわざと千崎由紀夫を招き入れ、大捕物をするという前代未聞の作戦に踏み切った。橙悟の妻である旭妃が、印須升でなんらかの事故に巻き込まれて亡くなった事も理解しており、橙悟が印須升の事件に出向く事になったのを知り、「捜査を外れてもいい」と話した。
笠木 三郎太 (かさぎ さぶろうた)
警視庁捜査第一課殺人犯調査係で、警部を務める男性。眉毛や髭が髪と合体している。口は悪いが熱血漢で、国民の命や生活を第一に考えており、紅守黒湖を国選処刑人として採用した事に否を唱え続けている。御剣橙悟にかつて強くあこがれた反動から、現在の御剣のやり方に反発しており、黒湖からは同性愛者であるという意味での「同類」と目されている。千崎由紀夫に右目を切り裂かれて以降は、黒い眼帯を着用している。
京極 真 (きょうごく まこと)
警視庁組織犯罪対策部第5課課長で、警視を務める初老男性。紅守黒湖の起用に賛成しており、なにかあった際には責任をすべて黒湖に押しつけて、死刑を執行すればいいと考えている。つねににこやかな笑みを絶やさないが、本当は腹黒い性格の持ち主。柳岡会とは仕事柄敵対関係にあるが、互いに利益がある場合は情報提供するなど、協力関係も結ぶ事がある。
久慈原 五十鈴 (くじはら いすず)
警視庁鑑識課の主任で、警部補を務める女性。ふくよかな体型をしている。御剣橙悟や須藤朱臣の先輩にあたるため、二人を温かく見守っている。紅守黒湖がICレコーダーで犯人とのやり取りを録音した音声を聞き、いっしょに録音されていた黒湖の心音が、犯人と対峙して戦闘に入ってからも一切乱れない事から、黒湖を国選処刑人として利用する危険性を橙悟、朱臣に警告している。
藤浪 ユリア (ふじなみ ゆりあ)
柳岡会が経営する柳岡総合病院の客員医師兼監察医の女性。つねに喫煙と飲酒している。藤浪寛二の姉でもある。診察室内にも複数のアルコールが並んでいる。検死現場でも火をつけていない煙草をくわえているニコチン中毒者。紅守黒湖と肉体関係があり、恋人の一人。かつては無類の男好きで、70人から80人の男性と夜を過ごした過去がある。人生経験の一つとして黒湖と寝た際に、それまでの性経験をすべて塗り替えられ、男性に興味がなくなったと語っている。
井々村 弼 (いいむら たすく)
薬物依存症の元プロレスラーの男性。巨体で、「正義の味方役」として人気の選手だった。プロレス人気が翳った事がストレスとなり、より強くなる事で観客を取り戻せると考えて薬物に手を出した。その結果、リング上で対戦相手を殺害してしまい、リングを追われている。その後、夢中遊行に手を出して、対峙した相手を無差別に23人も殺害し、全人権剝奪のうえに紅守黒湖に殺害された。素手で成人男性を引きちぎる事ができるほど筋力が発達しており、頭部以外への銃撃は一切効果がない。
悟 兵衛 (さとり ひょうえ)
枯れ木のような印象の老齢男性。犯罪者に娘夫婦と孫娘を殺害された。犯罪者を定期的に悟邸の殺人パーティーに招き、罠を用いて大量殺戮を行う事で社会のゴミ掃除をしていると信じていた。また、悟兵衛自身に殺人を犯したという自覚はなく、すべて事故死という認識でいる。ミユキと面識がある様子だったが、いつどこで会ったか思い出せないまま朽葉怜子に殺害された。
浅葱 尊 (あさぎ たける)
アサギ電子の社長にして浅葱凛子の父親で、浅葱望の夫。かつて国会議員を務めており、現在も政界に影響力を持つ浅田元議員の息子。20年前に連続殺人鬼「仮面蒐集家」として、女性を殺害しては顔の皮を剝ぎ取ってコレクションしていたため逮捕された。本名は「浅田俊幸」だが、医療刑務所に収監されたあと、浅葱尊に改名している。裁判では「人はみんな仮面を被っているため、その下の素顔を見たかった」と供述している。過去の犯罪歴を隠して生活しているが、机の天板裏に高周波ブレードを隠し持っている。私室には大量の仮面が飾られており、望には気味悪がられていた。また、アサギ電子本社ビル内にある私室には、今までコレクションした女性の顔の皮が飾られている。凛子に殺人の才能が受け継がれた事を喜び、この才能を涸れさせまいと、死の直前に凛子の身柄を黒湖に預けたいと頼んだ。
ゴールドマリー
ヴァージナルローズの幹部を務めている女性。足首まである金髪を尻下から三つ編みに結っており、左目の下に泣きぼくろがある。私室に飾られた絵の裏側にはボタンが隠されており、それを押すと地下室に続く階段が出現する。また階段を下った先は「卒業」を迎えた信者の遺体を挽肉にして乾燥させ、薔薇用の肥料に加工する特別室となっている。過去に輪姦被害に遭い、弟以外の男性に嫌悪感を抱くようになった。そのため弟の性器を削(そ)ぎ落とし、肉体改造を施して自我を奪い、ローズマリアに仕立て上げた。何者かより資金などの援助を受け取っていた事を漏らしている。本名は「小金井吉乃」。死亡後は教団の敷地内に埋葬されていたが、何者かによって埋葬直後に遺体が持ち去られている。
ローズマリア
ヴァージナルローズの教祖を務めている女性。肌が弱く、日光を避けるため、教会の地下に居住している。左目の下に泣きぼくろがある。巨乳の持ち主で、笑顔をいつも絶やさない優しい性格。実はゴールドマリーの弟であり、性器を削ぎ落とされ、肉体改造も施されている。一日のほとんどを、「卒業」と称して、殺害した少女達の生き血でできた池の中で過ごしている。一日数度の投薬が必要な体となっており、心が完全に壊れているためゴールドマリーの言葉以外にはろくに反応しない。ゴールドマリーの死後、居場所がわからなくなっている。
鍵村 昭一 (かぎむら しょういち)
幼女連続誘拐殺人事件の犯人の男性。鍵村鉄工所に住んでいる。非常に背が高く老齢で、手の平だけで30センチほどの大きさがある。丸眼鏡に黒い帽子と黒い外套を身につけ、長い口ひげを蓄えている。信用していた人間に裏切られて浮浪者となり、道端にいるところを、黄色い傘と青い長靴を身につけた少女に励まされた事で、同じ特徴の少女を探し続けていた。北上空を件の少女と信じ、無理心中しようとしていたが、浅葱凛子によって両腕と左脚を切断され、屠桜ひな子が空を奪還した。空を追って鉄工所の外に出た際に、探し続けていた人物が北上ひばりだと察するが、ひばりから憎悪の表情を向けられる事で絶望する。体内にICチップが埋め込まれており、体内の微弱電流を用いてデータをどこかに送信していた形跡がある。
三阪 マリエ (みさか まりえ)
私立まりも學園の高等部3年C組を担任している女性教諭。陸上部の顧問を務めている。つねにストップウォッチを携帯している。三ツ倉マリとは学生時代、名前が似ているという理由からなかよくなったが、学業や陸上競技での成績に至るまですべてマリに叶わなかった事から親愛があこがれに、そして憎悪に変わっていった。蘇芳皆子が作成した爆弾を偶然発見した事から、學園全体で爆破騒ぎを起こし、散々混乱させたあとはマリと共に心中しようとしていた。
緋垣 刀吉郎 (ひがき とうきちろう)
上告中の死刑囚の男性。桜剪会が「千仞の獅子」と呼ばれていた頃から幹部を務めていた。第二次世界大戦中、国のために戦って死ぬ事を決意していたが、敗戦の報と玉音放送を受け、死に場所を見失っていた。また、アメリカ式の考え方に変貌していく日本の在り方に耐えられず、「千仞の獅子」に参加したとされる。大日本帝国再建と、緋垣刀吉郎自身が考える「国」のために戦死する事を目的として、警視庁に宣戦布告した。また紅守黒湖が手練れである事を喜び、自分を「戦死」させられる存在として歓迎した。
千崎 由紀夫 (せんざき ゆきお)
指名手配中の連続殺人犯の男性。桜剪会に所属している。骸骨を思わせる顔立ちで、快楽殺人者としても知られている。つねに前傾姿勢で両腕をだらりと伸ばし、ゴリラのような姿勢で歩く。緋垣刀吉郎を父親のように慕っており、緋垣の迷惑になるような行動を厭うている。体内に刃物を仕込んでおり、右の手の平からナイフが飛び出す仕掛けがある。警視庁内で銃による一斉射撃を受けたあと、君原茶々から額に銃撃されて死亡した。
帯刀 進 (たてわき しん)
とある機関の兵器開発セクションで、トキワサキとは別チームでリーダーを務めていた。高出力レーザーの実験の失敗により、右半身が焼けただれている。理想とプライドが高く、現実的ではない企画を立てては取り下げられる事が多かった。何者かの支援を受けてエル・ヒガンテを完成させ、サキの殺害を目論んだ。またコバルト=コンラッドの証言から、体内にICチップが埋め込まれていた一人だという事が示唆されている。
コバルト=コンラッド
悟邸で催された殺人パーティーに招待されていた黒人男性。柳岡千代、刈安纏依が通う大学で物理学の教授を務めている。ベストスーツに身を包んでおり、垂れ目で体の線が細く、ウェーブがかった長い黒髪をうなじで一つにまとめている。投げナイフが得意で、小さな鏡の破片にナイフを投げる事によって任意の角度に調整する事ができる。他人を傷つける事に躊躇がなく、「殺人規範(キリングルール)」という独自の価値観に従っている。かつて善良だった弟を理不尽に殺害されてから、犯罪抑止のための研究を始め、印須升では、犯罪歴のある人間や健全な経歴の人間を長期間にわたって大量に殺害し、その脳を犯罪抑止の研究につながるサンプルとして保管していた。また体内にICチップが埋め込まれており、犯罪を犯している最中のデータを送信していた事を明かした。親しい人間からは「CC」と呼ばれていると自己紹介したが、紅守黒湖からは「コバ」と呼ばれている。印須升の事件後は拘置所に勾留されたが、体内に隠し持っていたフランシスを職員に服用させる事によって混乱を起こし、脱走した。
奥原 正基 (おくはら まさき)
印須升にある隠れキリシタンの教会で、神父を務めている中年男性。奥原正子の息子。父親から教会を受け継いだが、信者が離れ、運営資金が減っている事に思い悩んでおり、多額の資金提供を申し出たコバルト=コンラッドに信者達の懺悔内容を漏洩していた。異常なまでのマザコンで、未だに正子の乳を吸っているらしい事が示唆されている。
奥原 正子 (おくはら まさこ)
印須升にある隠れキリシタンの教会で、シスターを務めている老齢の女性。奥原正基の母親。運営資金の件で悩んでいる正基を見かねて、コバルト=コンラッドに協力した。しかし、正基にコバルトの目的の全容は伝えておらず、あくまでも懺悔内容の漏洩だけと話していたが、実際は漏洩の事実を告発しようとした長月睡蓮の父親など、2度殺人を犯している。
宮本 玄乃 (みやもと くろの)
宮本玄流の年の離れた姉。かつて剣道界を騒がせた天才剣士として知られた女性。玄流の事を心から大切に思っており、剣の才能がないというだけで玄流から剣を取り上げようとした宮本右近に敵対した。しかし、玄流が自分自身の才能のなさを嘆いた際、玄流の意思の強さがあればどんな事でも成し遂げられると証明するため、自ら玄流の持っていた剣を貫き、絶命した。遺体は宮本家の蔵の地下に隠され、行方不明として届けが出されている。しかしそれをきっかけに、玄流の中に「宮本玄乃」の人格が生まれた。玄流の二重人格としての玄乃は1000年以上刀を振るい続けていたと話しており、紅守黒湖を以てして「常軌を逸した強さ」と評価されている。また、玄流を剣術から引き離した上に途中で交流を投げ出したとして、冷泉藍子を恨んでいた。
悟 白亜 (さとり はくあ)
悟兵衛の孫娘とされている女性。幼い頃は長いワンレン、現在は姫カットヘアの白髪で全盲、さらに両腕が根元から欠損している。当時10歳だった15年前に一家惨殺事件に遭い、死亡したと考えられていたが、冷泉藍子の証言から生存が疑われるようになった。また、数々の事件の裏で手を引いているという可能性を持つ。紫、アリアンナの主人でもあり、ゴールドマリーなど悟白亜が協力した犯罪者達からは「先生」と呼ばれている。
紫 (ゆかり)
悟邸の建造や殺人パーティーの開催を唆した女性。悟兵衛の娘の友人を名乗っており、メイドとして兵衛の護衛も務めていた。後天性の無痛無汗症で、内臓が破れても冷や汗一つかかない。紅守黒湖によって左脚と右腕を切断されている。黒湖に敗北後、医療刑務所に収監された。本来の主人は悟白亜であり、行き場のなくなったアリアンナに手を差し伸べ、共に白亜を唯一の主人として仕えるように誘った。兵衛に仕えていたのも白亜の指示だった事が示唆されている。
柳岡会会長 (やなおかかいかいちょう)
柳岡千代の父親。額に大きな傷痕を持つ壮年の男性。ヤクザ組織、柳岡会の会長を務め、つねに着物を着用して関西弁に似た口調で話す。紅守黒湖とは親交を持ちつつも警戒しており、下手に刺激すると柳岡会ごと潰されるかもしれないと考えている。屠桜ひな子の事は「かわいいい子」と評価している。千代と黒湖が恋人関係にある事は気づいていない。
藤浪 寛二 (ふじなみ かんじ)
柳岡会の構成員で、柳岡会会長の側近を務める男性。藤浪ユリアの弟。スキンヘッドで長身の体型をしている。柳岡千代の長ドスを使っての鍛錬相手でもあり、千代の戦闘技術向上に一役買っている。紅守黒湖を「千代の愛人」と疑っているが、それを柳岡会会長に話して叱られた事がある。
碧 八葉 (みどり やつは)
私立まりも學園の中等部に通う女子中学生。屠桜ひな子の唯一の友人。毛先を脱色しており、快活な性格をしている。紅守黒湖達の素性は知らされていない。勘がよく、黒湖がレズビアンである事を初対面で気づいた。水沢浮菜とも友人関係にあり、ひな子、浮菜と共に流々家テケリリランドに出掛けてからは三人での行動が増えている。
水沢 浮菜 (みずさわ うきな)
私立まりも學園の中等部に通う女子中学生。紅守黒湖とは出会い系のサイトで知り合い、屠桜ひな子の関係者とは知らなかった。小遣い稼ぎのために校内の更衣室などを盗撮、および下着泥棒を繰り返しており、このデータが黒湖の捜査の役に立つ事も多い。黒湖に請われてひな子、碧八葉、浅葱凛子と流々家テケリリランドに行った際に、凛子が成人男性を殺害している現場を目撃してからは、遊園地という言葉と凛子の存在がトラウマとなっている。八葉からは「ウッキーナ」と呼ばれている。
浅葱 望 (あさぎ のぞみ)
浅葱尊の妻で、浅葱凛子の母親。容姿は凛子に非常によく似ていたとされる女性。尊の過去を知らずに結婚して凛子を設けたが、尊の正体を知ってからは尊を避けるようになっていた。なんらかの理由で、凛子によって殺害された。
刈安 纏依 (かりやす まとい)
刈安那々美の姉の女子大学生。柳岡千代の大学の友人。芸能界から干されて失意のままヴァージナルローズに入信し、家にも戻らない那々美を心配して、紅守黒湖に那々美の救出を依頼した。また、那々美が無事に救出されたあとは、依頼料として姉妹で黒湖とベッドを共にしている。その際の性経験が尾を引いており、ふだんの生活に戻ってからも、那々美が眠っているあいだに密かに那々美との近親相姦に耽っている。
刈安 那々美 (かりやす ななみ)
元アイドル「アンナ」として活動していた少女。刈安纏依の妹。芸能界で枕営業を強要されたが、断ったため仕事を干され、失意のままヴァージナルローズに入信し、「ビアンカ」という名を与えられて敷地内で暮らしていた。しかし、柳岡千代がヴァージナルローズ敷地内に乱入した事をきっかけに洗脳状態が弱まり、また地下で行われていた殺害の事実などを知って、ゴールドマリー死亡を機に脱退した。また、脱退後は纏依と共に紅守黒湖とベッドを共にしている。また教団内で女性同士での性体験にハマってしまい、ふだんの生活に戻ってからも、纏依が眠っているあいだに密かに纏依との近親相姦に耽っている。
ポリナ
ヴァージナルローズの信者の少女。祖母に連れられて入信したが、当時は反抗的で体中アザだらけで、他人を信用しようとしなかった。本名は「志穂」。特別製といわれている薔薇の肥料を落としてしまった事から、その日のうちに卒業が決まり、翌日お別れ会を開かれた。その後、ローズマリアの眼前で殺害され、血を抜かれたあと、薔薇の肥料としてミンチにされた。
アリアンナ
ヴァージナルローズの信者の少女。ポリナのパートナーで、同性愛の感情を持っていた。入信前は父親から虐待を受けており、鎖骨から胸のあいだに、大きな裂傷痕がある。ポリナが無事に卒業して世俗に還ったと思い、あとを追って卒業しようとしていた。しかし、その折に柳岡千代がヴァージナルローズ敷地内に乱入し、その騒ぎの中でポリナがゴールドマリーに殺害され、肥料にされていた事を知って失踪する。本名は「野上さやか」。失踪後は紫に拾われ、本名で悟白亜のメイドとして過ごしている。
北上 空 (きたがみ そら)
私立まりも學園の初等部に通う4年生の少女。幼女連続誘拐殺人事件の被害者。黄色い傘と、母親である北上ひばりのお古の青い長靴を履いてお使いに出掛けたところ、鍵村昭一に誘拐された。幼い頃のひばりに瓜二つとされる。浅葱凛子が同じクラスに転入して来てからは、凛子と久慈原観鈴と共に行動している。
北上 ひばり (きたがみ ひばり)
北上空の母親。夫とは死別しており、空だけを心の支えにして生活していた。空が鍵村昭一に誘拐された直後、紅守黒湖に慰められる内に名前で呼び合うようになった。空と同年代の頃、浮浪者だった昭一に飴を渡して励ました事がある。また空が救出されたあとは、黒湖とベッドを共にしている。
久慈原 観鈴 (くじはら みすず)
私立まりも學園の初等部に通う4年生の少女。北上空へは互いに片親である事から親近感を持ちつつ、友情以上の好意を抱いており、大人になったら結婚したいと考えている。走り高跳びなど運動が得意だが、巨乳なため、ベリーロールでの走り高跳びに限界があり、身軽な浅葱凛子に跳び方の教えを請うていた。
三ツ倉 マリ (みつくら まり)
私立まりも學園の二代目學長を務める若い女性。かつては三阪マリエと親密な関係にあった事が示唆されている。才能や家系に恵まれていた事から次第にマリエとのあいだに溝が深まり、今ではただの上司と部下という関係に収まっている。マリエから恨まれているとは思ってもおらず、マリエが蘇芳皆子に殺害された事は知らされなかったが、逮捕されたと告げられた際には非常に悲しんでいた。
榊 風莉 (さかき ふうり)
私立まりも學園の高等部に通う3年生の少女。金髪の長い髪を下ろしたままにしている不良で、蘇芳皆子を愛するあまり、自分の取り巻き達に皆子を陵辱させるなど過度ないじめをさせては、その様子を見て楽しんでいた。その後は榊風莉自身が皆子を慰め、親密な関係になる行為を繰り返していた。しかし、紅守黒湖の協力を得た皆子に犯され、現在は立場を逆転されたうえで服従させられている。
長月 睡蓮 (ながつき すいれん)
猟師の少女。日焼けした肌にツインテールの金髪という、典型的なギャルといった容姿をしている。船舶免許を取得し、船も所有している。印須升に住んでおり、近所の猟師達からは娘のように大切にされている。父親の形見である木製のロザリオの十字架部分をお守りにして、肌身離さず身につけている。またロザリオの数珠の部分は絶対になくすなと言われていた事から、タンスの中にしまい込んでいた。海で死んだと聞かされていた父親の死に、奥原正基と奥原正子が関係している事を知り、紅守黒湖らの捜査に同行した。
佐々木 遼太郎 (ささき りょうたろう)
宮本玄流の師匠だった老齢の男性。当代一、二を争うとされる剣の達人。緋垣刀吉郎とは旧知の仲で、共に剣術を学んでいた。その事から冷泉藍子とも顔見知りであり、剣才に恵まれず孤独だった玄流の話し相手として藍子を推薦した。路地裏で袈裟斬りで殺害されているところを浅葱凛子と藍子に発見された。
宮本 右近 (みやもと うこん)
宮本玄流、宮本玄乃の祖父。左目が白く濁った老齢の男性。玄流に剣の才能がない事に早くから気づいており、玄流自身の幸せを思って剣から遠ざける事も考えていた。しかし、その事が原因で玄乃から敵視され、決闘を申し込まれた。その結果、左目を失明している。玄流が世話になっていた事から冷泉藍子とも知り合いだが、藍子の足が宮本家から遠のいたあと、玄乃の人格となった玄流に襲われ、車椅子生活となった。佐々木遼太郎とは友人であり、ライバル関係でもあった。膝から下が萎びている。
集団・組織
ヴァージナルローズ
ローズマリアが教祖、ゴールドマリーが最高幹部を務める新興宗教団体。漢字表記は「純血の薔薇」。広大な敷地に共同生活用の屋敷と庭、教会、訓練場、薔薇園がある。女性しかおらず、全員で共同生活を送りながら、薔薇を売った金銭で生計を立てている。入信の際にローズマリアから新しい名前を授けられ、古い名前を薔薇に与えて育てる決まりがある。「女性の美と愛の追求」が教義の大きな位置を占めており、姉妹の契りを交わした「パートナー」や家族同士のスキンシップは奨励されているため、レズビアンになる信者が多く、またその関係を結ぶ事を公に認められている。幹部は黒、一般信者は白のドレスを身につけている。一時避難の場所であるという教義のもと、社会生活に復帰できるようになった信者は、「卒業」と称してヴァージナルローズを巣立つ事になっている。しかしその実態は、卒業と称して信者を殺害し、ローズマリアに血を与えて、遺体は薔薇の肥料にしていた。事件発覚後は桃山鳴海がリーダーとなり、社会に居場所がない女性達の居場所となっている。
柳岡会 (やなおかかい)
柳岡会会長が取りまとめているヤクザ組織。警視庁で組織犯罪対策部に勤めている京極真とは基本的に敵対関係にあるが、互いの利害が一致した際には共闘関係を結ぶ柔軟さも持ち合わせている。以前から紅守黒湖の重要な情報源でもある。また、藤浪ユリアが客員医師を務める柳岡総合病院の経営なども行っている。
桜剪会 (おうせんかい)
かつては「千仞の獅子」と名乗っていた極右団体。緋垣刀吉郎が幹部を務め、冷泉藍子や千崎由紀夫が所属していた。一説には、第二次世界大戦末期に発足したともいわれている。過激派組織として知られていたが、数々の内部分裂と、全共闘の左翼中核派の流入によって事実上壊滅したと思われていた。国憂軍を自称しており、国家権力への宣戦布告として国会議員三人を殺害した。合い言葉は「歪んだ桜を在る可き姿へ」で、警視庁の地下にある、現在は使用されていない地下鉄の駅「桜駅」をアジトとしている。またこの駅表示板には、「桜」の前に「屠」が大きく書かれ、「屠桜駅」とされていた。
場所
流々家市 (るるいえし)
紅守黒湖が居を構えている都市。黒子が現れた2年前から凶悪犯罪が異常に増加しており、須藤朱臣、御剣橙悟はこれが何者かの意思によるものではないかと考えている。また警視庁を易々と飛び越えた行動を取る事ができるその人物は、国家公安委員会や内閣府、法務省の関係者ではないかと睨んでいる。
悟邸 (さとりてい)
悟兵衛の作った屋敷。海にせり出した絶壁の上に立つ。犯罪者を殺害するという目的のためだけに、10年の歳月と総工費1242億389万1702円をかけて製作され、殺人パーティーの舞台となっている。悟邸の内部には逃走者を串刺しにする仕掛けや、通る者を切り裂く仕掛けのほか、兵衛のいる場所には20センチの特殊強化プラスチックの壁があるなど、さまざまな趣向が凝らされている。ダストシュート直下の崖には、300人以上の死体が埋葬もされずに放置されている。
私立まりも學園 (しりつまりもがくえん)
三ツ倉マリが二代目學長を務めている一貫校。屠桜ひな子や碧八葉、水沢浮菜が中等部、浅葱凛子と北上空、久慈原観鈴が初等部、蘇芳皆子、榊風莉が高等部に通っている。校舎もすべて同じ敷地内にあり、校内はまるで迷路のようになっている。高等部には体育教師だけで、八人も在籍しているマンモス校としても知られている。
アサギ電子 (あさぎでんし)
浅葱尊が経営しているIT系の大企業。14階建ての大きな自社ビルを持っており、最上階が社長室となっている。またエレベーターは止まらないが、13階が存在しており、尊が殺害した被害者の皮膚がマスクのように加工されて飾られた、尊の私室となっている。
流々家テケリリランド (るるいえてけりりらんど)
流々家市にある遊園地。「しょごたん」という、なまこに似た怪物のマスコットが大量に園内を闊歩しているほか、怪物や半魚人など、「クトゥルフ神話」に登場する怪物がモチーフとなったアトラクションばかりが設置されている。本来は屠桜ひな子が追試を頑張ったご褒美に紅守黒湖が連れていくはずだったが、過去に浅葱尊が起こした事件に酷似した事件が起きた事から、ひな子、碧八葉、水沢浮菜と、保護されていた浅葱凛子の四人で入園した。
柳岡総合病院 (やなおかそうごうびょういん)
柳岡会が経営している病院。藤浪ユリアが客員医師を務めている。浅葱凛子や冷泉藍子など、紅守黒湖近辺の人間が治療が必要になった際には、必ず柳岡総合病院で治療を受けており、また、その際には必ずユリアが主治医を務めている。
鍵村鉄工所 (かぎむらてっこうじょ)
鍵村昭一の自宅でもある鉄工所。支払い能力がないため電気も止められており、窓なども割れている。工場内には絞め殺された40人以上もの少女達の遺体がミイラ化して放置されているほか、少女達が身につけていた黄色い傘や青い長靴が陳列されている。
Clubジュン (くらぶじゅん)
錆浦蘭がバーテンダーを務めているバー。「沖石ジュン」という名の女性がオーナーを務めており、店の地下では地下格闘大会「Destoroyar」が開催されている。またこの大会出場者の犯罪歴は不問とされており、大会が盛り上がりさえすれば、どんな人材でもスカウトして来るよう推奨されている。
印須升 (いんすます)
流々家市にある漁村。長月睡蓮が住んでいる。隠れキリシタンの村で、住民のほとんどが敬虔なキリスト教信者でもある。村の中には、かつてのガス灯を利用した街灯があり、高所からはそれが数珠のように見えるように配置されている。
隠し教会 (かくしきょうかい)
干潮時にだけ現れる洞窟の奥にある教会。印須升の切り立った崖下にある。ふだんは洞窟が水面下にある事や、人を襲う大型鮫の住処になっている事から発見される事はない。内部はいくつもの道に分かれているが、蓄光燃料で道順が示されている。ここにはコバルト=コンラッドが手下に収集させた脳が大量に保管されている。
その他キーワード
夢中遊行 (ちぇざーれ)
裏世界で広く出回りつつある新型麻薬。汗や血液、尿から成分が検出されず、安価で大量に製造できる。依存度が極めて高く、一時的に筋力や集中力の向上も見られる。ただし一定量を超えると、深刻な幻覚作用と痛覚の麻痺が起こり、頻繁に発症する夢遊症状態時には凶暴性を発揮する。ヴァージナルローズで育てられていた薔薇が原料の一つではないかと疑われている。のちに、危険な成分を除いて、発作が起きにくい麻薬へと変容した。またこの取り除かれた特に危険な成分で精製されたものがフランシスではないかと考えられている。
フランシス
桜剪会に持ち込まれ、警視庁内で使用されたドラッグ。夢中遊行から取り除かれた、特に危険な成分から精製されたと考えられている。粉末状で、大気中に撒かれると、毒薬のように服用者を死亡させ、痛みを感じない凶暴な人間として蘇生させる。また、コバルト=コンラッドもカプセルにして体内に隠し持っており、拘置所職員に飲ませて騒動を起こし、そのスキに脱走している。
エル・ヒガンテ
高出力レーザーやミサイルポッドを搭載した搭乗タイプのヒト型ロボット。帯刀進が製作した。ボタンを押す事によって、人為的に暴走状態である「デストロイモード」に移行する事ができる。またデストロイモード移行後は、ターゲットとして設定されていたトキワサキに向かって自動的に高出力レーザーを射出する。クリサリダによって破壊されたが、戦闘データは悟白亜のもとに送られていた。
クリサリダ
白くて丸いボディに手足が付いたような形状の搭乗タイプロボット。トキワサキが製作した。「サナギ」という意味を持ち、外装を割ると羽化し、7頭身のヒト型ロボットに変形する事ができる。また、サナギの状態であれば至近距離であっても、エル・ヒガンテの高出力レーザーに耐える事ができる。その搭乗当初の形状から、屠桜ひな子は「白玉ロボ」と呼んでいる。
殺人パーティー (さつじんぱーてぃー)
悟兵衛が主催するパーティー。悟邸にあらゆる犯罪者を招待して催される、パーティーとは名ばかりの虐殺劇。さまざまな文言で招待する相手を呼び出しており、紅守黒湖は、バニーガール姿の女性達が出迎えるような写真を添付されていた事で易々と引っかかった。悟邸に仕掛けられたあらゆる仕掛けで招待客を虐殺するが、兵衛自身に殺人の自覚はなく、あくまでも事故死と考えていた。
幼女連続誘拐殺人事件 (ようじょれんぞくゆうかいさつじんじけん)
複数の県にまたがって、鍵村昭一が起こした連続誘拐殺人事件。青い長靴か黄色い傘、または両方を所持している8歳から9歳までの少女が誘拐され、殺害および遺棄された。しかし、県境を越えての捜査資料が警視庁内で共有されておらず、その事が事件の全容を分かりづらくして、被害の拡大を防げずにいた。
書誌情報
MURCIÉLAGO -ムルシエラゴ- 25巻 スクウェア・エニックス〈ヤングガンガンコミックス〉
第22巻
(2022-08-25発行、 978-4757580879)
第23巻
(2023-04-25発行、 978-4757585348)
第24巻
(2023-11-25発行、 978-4757589117)
第25巻
(2024-06-25発行、 978-4757592698)