概要・あらすじ
24歳のペーパードライバー、成海高史は、ホステスのルカにせがまれ、有り金を叩(はた)いて、スポーツカーの中でも希少価値の高い「エキシージ」を中古で手に入れる。だが、車を受け取ったその日、高史はひょんなことから、峠で走り屋とレースバトルをする羽目になってしまう。高史は奇跡的なスタートダッシュを果たすが、走りだした途端にエキシージのメーターが動かなくなり、車が加速していく中で高史の足がつってしまうという危機を迎える。
そんなパニック状態の中、ペーパードライバーのはずの高史は信じられない走りを見せる。だがそれは高史の意図したものではなかった。こうして不思議な力を持つエキシージと高史の、走り屋としての日々が幕を開けることとなる。
登場人物・キャラクター
成海 高史 (なるみ たかし)
無職の青年で、年齢は24歳。丸井からは「タカシ」と呼ばれ、ホステスのルカからは「タカっち」と呼ばれている。中肉中背で、茶髪をツンツンさせ、前髪を垂らしたヘアースタイル。服装はギャル男風で、チェーンネックレスをしている。ボロアパートの2階に暮らしている。実は21歳の時に宝くじが当たって大金を手にしているが、キャバクラで散財してしまった。 いつもテンションが高くオーバーアクションで、変顔をしたり鼻水を垂らし泣いたりと、感情表現も豊かで騒がしい。車のバトル中でも、楽観的な妄想や回想をするなどポジティブ思考で、ある種の心臓の強さを持つ。「銀座キャバクラcan」のホステスであるルカにベタ惚れしている。ルカが「超イケてる」と言ったため、希少な外国のスポーツカー「エキシージ」を、有り金叩いて購入してしまう。 エキシージを買ったその日に、走り屋と峠バトルすることになり、走行中に誰かがエキシージを操っているような不思議な感覚を覚える。その後、一時は恐怖からエキシージを返品しようとしたものの、「伝説のエキシージ」についての真相を知り、危険を顧みずエキシージを走らせてバトルを続ける、とルカに宣言する。 「伝説のエキシージ」に乗っているため、かつてのオーナーだった「銀竜のタカ」こと鷹山竜二と勘違いされては、鷹山に恨みを持つ走り屋に、何かと勝負を挑まれることが多い。何としてもルカと深い関係を持ちたいがため、いつも必死。走り屋たちとのバトルに巻き込まれることを心配するルカに、安心させようと、キザなセリフを言うこともある。 ポリシーは「惚れた女で童貞を捨てる」こと。
ルカ
ホステスの女性。成海高史が惚れている相手。ファッションデザイナーになるための資金作りとして、「銀座キャバクラcan」で働いている。ちなみに「ルカ」が源氏名なのか本名なのかは不明。目鼻立ちの整った元気いっぱいの明るい美人だが、キャバ嬢としてもやり手で、客をその気にさせるのが上手い。髪型は茶髪で、ゆるくウェーブがかったロングヘア。 やせ形ながら豊かなバストが自慢で、店ではセクシーな胸元で、背中の空いたロングドレスを着ている。系列店舗からヘルプに来たホステスのサエコいわく、ルカは過去の出来事から男性に心を閉ざし、処女を守り抜いている。私服はミニスカートや、胸の谷間が見えるくらいピッタリしたニットにロングブーツ、というギャルっぽい服装をしている。 「伝説のエキシージ」の前の所有者である鷹山竜二は、中学時代からの先輩。当時は鷹山に片想いしており、彼を追いかけて同じ高校へ入学するなど、一途な面が見られる。
丸井 (まるい)
成海高史の友人の青年。家業の「フラワーショップ丸井」を経営している。高史からは「マル」、バイトくんからは「丸サン」と呼ばれている。背が低く小太りの体型で、お腹が出ている。髪型はソフトモヒカンで、ダボっとしたTシャツとズボン姿。店では店名と四つ葉のクローバーマークが入ったエプロンを着用している。喫煙者であり、店の事務所や、配達のワゴン車内でも煙草を吸っている。 高史がホステスのルカに惚れ込んでいる様子を見て、「見返りのないキャバ嬢につぎ込むなら、風俗につぎ込んだ方がマシ」と考えている現実主義者。車の知識は人並み程度で、高史が衝動買いした「伝説のエキシージ」により、走り屋たちとのバトルに巻き込まれるのを心配している。 当初は高史の無謀な行動に呆れていた。しかし、バイトくんから真面目にドライブテクニックを習う姿や、ピンチに立ち向かおうとする高史の変化を感じ、以降は応援するようになる。高史の恋路が気になっており、高史とルカのドライブデートを遠くから双眼鏡で覗くなど、下世話なところもある。
バイトくん
「フラワーショップ丸井」でアルバイトをしている青年。年齢は20歳。長身で濃い眉毛に分厚い唇をしており、髪型はアフロ。車が大好きで、アルバイトをしているのも金を貯めて外車を買うため。アルバイトに関しては無遅刻無欠勤で、勤務態度も真面目。普段は物静かな雰囲気を見せるが、車に関しては多弁で積極的。アメリカ留学の経験があり、15歳で免許を取ってレーシングカートの競技をしていた。 草レースではあったが、表彰台に立つほどのドライブセンスとテクニックの持ち主。とても聴覚が鋭く、エンジン音を聞くだけで、部品とオイルがなじみだした状態などを聞き分けられる才能を持つ。「伝説のエキシージ」の噂を知っており、中古車雑誌「インポートカーセンサー」に載っていた、高史が買う予定の「エキシージ」を見て心配し、丸井にその情報を伝えた。 また、ペーパードライバーの成海高史にとっては、解説者・指導者的な存在でもある。高史にみっちりとドライブテクニックを指導したり、メカニックとしてエキシージを調整するなど、裏方として支えている。「遊んでいそうな女性が時おり見せる女らしさ」にこだわりがあり、女性の好みについては、「肉じゃが」を作れるか否かを重要なポイントにしている。
鷹山 竜二 (たかやま りゅうじ)
成海高史の前に「伝説のエキシージ」の持ち主だった青年。小学生の時からレーシングカートの競技で入賞していたほどの腕前の持ち主。周囲からも将来を期待されるドライバーだった。高校卒業後、とある理由からレーサーを目指すことなく、「賭け勝負」に明け暮れる生活を送っている。ノーネクタイでスーツを着崩し、額を出したつんつんとしたヘアースタイルで、夜でも顔にフィットしたサングラスをかけている。 挑発的な態度と、飄々とした雰囲気を醸し出す人物。走り屋たちを相手にした「賭け勝負」では負けなしのドライバーであり、バトル中でもチューイングガムを嚙んでふくらましたり、といった余裕の表情で運転をしている。愛車である「エキシージ」の車体に、銀色の竜のエンブレムを付けていたので「銀竜のタカ」の異名を持つ。 金、車、女を賭けた勝負で勝ち続けたため、多くの対戦相手から恨みを買っている。しかし、ある日突然「伝説のエキシージ」だけを残して姿を消しており、「ヤクザの女に手を出して消された」「突然死した」などと走り屋の間で噂されているが、真相は定かではない。
吉塚 大樹 (よしづか ひろき)
走り屋の青年。「伝説のエキシージ」に乗っている成海高史を鷹山竜二と勘違いし、峠バトルでのリベンジを申し込んだ。愛車は日産「GT-R R34」で、走り屋チーム「チームスパーダ」の4代目リーダーを務めている。筋肉質な体型をしており、ゴツめのネックレスを身に着け、短くキリっと整えられた眉と、バリアートを入れた坊主頭をした強面。 1年前、峠で負けなしのチームとして鳴らしていたが、鷹山から金銭と「エキシージ」を賭けた峠バトルを持ちかけられて敗北。以来、敗れた悔しさを胸に、鷹山とのリベンジを待ち望んでいた。鷹山とは別人であるという高史の言葉を聞き入れず、興奮した吉塚大樹は、エキシージから降りてきた高史を「壁ドン」し怯えさせる。 リベンジと称して勝負を挑むが、ペーパードライバーの高史と「伝説のエキシージ」が繰り出す不思議な走りに翻弄されてしまう。
哀川 英司 (あいかわ えいじ)
走り屋の男性。「伝説のエキシージ」に乗っている成海高史を鷹山竜二と勘違いし、峠バトルでのリベンジを申し込んだ。年齢は36歳で、喫煙者。鼻が高く、もみあげと繋がるほどの無精ひげを生やし、オールバックの髪型で、薄い色のサングラスをかけている。19歳の時に、テレビでWRC(世界ラリー選手権)を見て「デルタ」に憧れ、地元の峠で最速になりたいと夢見ていた。 夢を実現させるため、4輪駆動ターボエンジン搭載の「ランチア・デルタ・HFインテグラーレ エボルツィオーネⅡ」を愛車にしている。友人たちが結婚して峠バトルを引退していくのを横目に、がむしゃらに走り続けて、峠での勝負に挑んできた。理想の愛車を維持する代償として借金が膨らみ、限界を感じていた頃に、鷹山と峠バトルをして敗北。 その時、鷹山から言われた一言が胸に突き刺さっており、以来「デルタ」にこだわりながら、再び鷹山と峠バトルする日を待ち望んでいた。
姫川 ユウジ (ひめかわ ゆうじ)
走り屋の青年。「伝説のエキシージ」に乗っている成海高史を鷹山竜二と勘違いし、峠バトルでのリベンジを申し込んだ。「ゼロヨン」仕様に改造した、約750馬力という5.4LV8をベースとしたツインターボエンジンの「マスタング」を愛車としている。分厚い唇、細く短い眉に整えた顎ひげで、鼻の頭には鼻孔拡張テープ、頭にはバンダナを巻き、その上からパーカーのフードを被っている。 ゴツめのチェーンネックレスや指輪、スポーツブランドのスニーカー、といったヒップホップ風のファッションスタイルで、バトルで運転する際もフードは被ったままである。バトル仲間が数名おり、皆、姫川ユウジと同じようなファッションスタイルをしている。かつて鷹山と行ったバトルにおいて、鷹山に要求されて、当時の彼女だったサエコと有り金を賭けるが、勝負に負けて彼女と金を奪われている。 それからと言うもの、「ドラッグレース」を勉強してレースを重ね、鷹山にリベンジする日を待ちわびていた。
サエコ
ホステスの女性。ルカの働く「銀座キャバクラcan」へ、系列の新宿店からヘルプに来た。派手めなギャルファッションをしており、はっきりとした物言いをする強気な美人。姫川ユウジの元彼女。姫川が「銀竜のタカ」こと鷹山竜二との「ドラッグレース」で賭け勝負に敗れたため、鷹山の女となった。ルカが現在「銀竜のタカ」の彼女だと言う噂を聞きつけて、闇の情報網を使ってルカを探していた。 ルカが過去の出来事から男性に心を閉ざし、今も処女を守り抜いているという真相を知っている、数少ない人物。
集団・組織
チームスパーダ
4代目リーダーの吉塚大樹が仕切っているチーム。長髪やリーゼント、タトゥーを入れた個性的なファッションのメンバーが多いが、総メンバー数は不明。長年、庭としてきた峠で、最速のチームの座を守り続けていたが、1年前に「銀竜のタカ」こと鷹山竜二に勝負を挑まれて敗北。チームの汚名返上のため、1年かけて鷹山とエキシージ対策を積んできた。 成海高史を鷹山と勘違いし、強引にレースを挑んでくる。
場所
フラワーショップ丸井 (ふらわーしょっぷまるい)
成海高史の友人であるマルこと丸井が経営する花屋。真面目で仕事熱心なバイトくんが働いている。看板、店のエプロンともに、四つ葉のクローバーマークが付けられている。2階建てで、1階部分が花屋として営業している自宅兼店舗の建物である。閉店後はマルのもとへ高史が来て度々相談を聞いたり、バイトくんを筆頭にバトル対策を練る作戦会議の場所にもなっている。 配達用の店名が入ったワンボックスカーがあり、マルとバイトくんが高史のバトルに駆けつける際には、このワンボックスカーに乗って移動している。
銀座キャバクラcan
銀座にあるキャバレー。ルカが働いている店。商業ビルの7階にある。新宿にもサエコが働く系列店があり、系列店同士でホステスを貸し借りすることもある。店のホステスたちは背中や胸元が大きく開いたセクシーなロングドレスを着用している。
その他キーワード
エキシージ
イギリスのロータス社が2000年に発売した車。同社ですでに発売していた、「エリーゼ」という車をベースに開発された公道走行用のスポーツカー。同車種でも前期と後期でモデルチェンジされており、スポーツカーにもかかわらずコンパクトな車体である。「伝説のエキシージ」はエアコン装着がされていない前期モデルで、可愛らしい丸目のライトが特徴となっている。 反対に、後期モデルはツリ目のようなライトをしており、違いは一目瞭然。エアコン装着がされ、販売台数が伸びた後期モデルよりも、販売台数が少なかった前期モデルに希少価値がついている。
伝説のエキシージ (でんせつのえきしーじ)
ボディーカラーがブラックの「エキシージ」。かつて「銀竜のタカ」こと鷹山竜二がバトルの際に乗っていた。憧れのホステスであるルカが可愛いと言っていたため、成海高史が中古車雑誌「インポートカーセンサー」に掲載されていたものを衝動買いした。当時の中古車販売の相場は約600万円だったが、いわくつきということで250万円で売られていた。 丸目のライトが特徴で、鷹山は銀色の竜をあしらったエンブレムをつけて走行していた。ある日、鷹山は突然姿を消したが、あまりの速さとドライブテクニックから姿を消した後も噂が絶えず、界隈では半ば伝説化していた。その噂から、銀竜のエンブレムのステッカーを貼った「エキシージ」を「伝説のエキシージ」に似せて販売するといった、便乗ビジネスが出回るほどであった。
ドラッグレース
4分の1マイル(約400m)先をゴールとし、停止した状態からレースを開始するという、スタートダッシュがものをいうモーター競技。発祥はアメリカで、日本では「ゼロヨン」と呼ばれている。スタート前に、よりタイヤのグリップを高めるために、わざとタイヤを回転させて摩擦し、「バーンナウト」させた後にスタートするのが一般的。 排気量と馬力の高い車を使うため、タイヤスモーク(タイヤと道路の摩擦で出る煙)が発生するのが特徴である。正式ルールも存在するが、公道レースなどでは、その時の独自ルールで行われることも多い。峠バトルと異なり、ドライブテクニックも必要ではあるが、それ以上にマシンの性能や事前のチューニングが勝負の結果となりやすい競技である。 そのため、姫川ユウジが成海高史に勝負を挑んだ際は、あえて距離を200mと短くした「ゼロニー」で勝負しようと提案した。
シグナルレース
オートレースのシグナルスタートを信号機に代用してスタートする公道レース。基本ルールはドラッグレースに則ったもので、平らな一本道で行う短距離バトルのスタート方法である。歩行者用の信号機のボタンを押すスターターがいる。一般に設置されている信号機がスタート合図のため、ドライバー自身で信号機の点滅するタイミングを把握し、青になると同時にスタートダッシュするという、マシンの瞬発力と特殊な技術が必要となる。 姫川ユウジと成海高史が「ゼロニー」勝負する際、高史は姫川らの仲間から信号機の説明を受け、事前に10分間だけスタート練習の時間をもらった。