加害者の供述と被害者の回想で描かれる物語
本作は、雪積もる田舎町で体を切断された女子高生の五十嵐真子が発見され、同級生の藍川美月が犯人として自首したことで物語が始まる。二人の少女・藍川美月と五十嵐真子の視点から、一連の殺人事件を描くという構成になっている。序盤は加害者・美月の供述という形で彼女が事件を起こした経緯が描かれ、中盤は事件の半年前に時間が巻き戻って被害者・真子の視点からその身に降りかかった受難と、一連の事件の真相が描かれている。供述と事実の食い違いが何を意味しているのか、ミステリ作品を読んでいるような感覚を味わえる。
頼れる大人がいない状況で支え合う少女たち
美月と真子はいずれも家庭の問題で苦悩している。美月は恵まれた学習環境にありながらも、兄が重圧に耐えかねて自殺したこともあり、兄と同じように母親が敷いたレールに沿って進むことに苦痛を感じている。一方の真子は貧困に悩まされており、叔父から金銭的な支援を得るために日々エスカレートする卑猥な要求に応え続けている。大人が味方になってくれない状況で、二人の少女が互いを唯一の支えとして生きる痛ましくも美しい姿が描写されている。
正義の体現者である弁護士コンビの活躍
美月の弁護を担当する弁護士の辻豊(つじゆたか)と、彼の部下である型破りな女性・早見は作中でも唯一信頼できる大人の代表であり、正義の体現者でもある。彼らが美月の供述を聞いて何を思ったのか、どのような心持ちで裁判に臨むのか、一連の事件の真相のみならず、クライマックスで描かれる法廷バトルも見どころとなっている。
登場人物・キャラクター
藍川 美月 (あいかわ みづき)
県立森中南高等学校に通う3年生の女子。年齢は17歳。黒髪のセミロングヘアで、左目の下に泣き黒子がある。受験を控え、進学塾に通っている。小説家になることを夢見ているが、母親から議員だった父親の跡継ぎになることを強要されている。本来は5つ年上の兄が父親の地盤を引き継ぐ予定だったが、兄は母親からの重圧に堪えかねて大学の合格発表の前日に首を吊って帰らぬ人となり、藍川美月にお鉢が回ってきた。中学に入ってからは他者を寄せ付けず、幼なじみの五十嵐真子とも疎遠になっていたが、高校に入って旧交を温めることになり、二人きりで過ごす時間が増えた。ある日、真子を殺害したとして森中警察署へ自首し、凶器として包丁を提出。その後、ラーメン屋「とんとん」の店主・石田辰夫の殺害についても自供して緊急逮捕となり、山形地方検察庁へ送検された。そして10日間の勾留が決まり、国選弁護人の辻豊(つじゆたか)と面会。弁護は不要と主張しながらも、取り調べでは語らなかった事件の詳細を語り始める。
五十嵐 真子 (いがらし まこ)
県立森中南高等学校に通う女子。年齢は17歳。明るい髪色のおさげ髪で、小柄な体型だが胸が大きい。誰からも愛される朗らかな性格で、友人も多く、地元民からも「めんこい」と評判になっている。母親は五十嵐真子が10歳の頃に、父親の五十嵐雅司が起こした交通事故によって死亡している。この事故で父親も足を負傷して働けなくなり、土木業を解雇されてしまった。現在の五十嵐家は生活保護に頼っている状況で、借金も抱えている。放課後は叔父の石田辰夫が営むラーメン屋「とんとん」でアルバイトをして家計を支えており、誰にも話せない秘密のアルバイトもしている。ダンサーになって「マジカルランド」のパレードで踊ることを夢見ていたが、既に夢をあきらめ、卒業したらすぐに働くつもりでいる。同級生の藍川美月とは幼なじみで、頻繁に遊んでいたが、中学生になる頃から疎遠になっていた。しかし、悪い友人に貧困を揶揄されていたところを美月に救われ、これをきっかけに無二の親友として付き合うようになった。のちに行方不明となり、切断された左手首だけが自宅前で発見され、世間を騒がせた。その後、美月の供述に沿って警察の捜査が行われ、頭部と胴体が掘り起こされた。のちに元交際相手の大学生・暁裕樹(あかつきゆうき)からストーカー行為をされていたことが判明する。
クレジット
- 原案
-
手塚 だい
書誌情報
adabana 徒花 全3巻 集英社〈ヤングジャンプコミックス〉
第1巻
(2020-08-19発行、 978-4088916347)
第2巻
(2021-01-19発行、 978-4088917726)
第3巻
(2021-07-16発行、 978-4088920221)