これは夢物語ではない『ぼくの村の話』201 Pt.

今から50年前……その闘争(たたかい)は、「ぼく」の村に突然吹き荒れ、それまで平和な農業の村だった「ぼくたち」の生活を根こそぎ奪っていった。農業とは? 大地とは? そして「民主主義」とは……?
『夏子の酒』がドラマ化され、ヒットした尾瀬あきらが成田国際空港建設時を描く『ぼくの村の話』を紹介する。

作成日時:2016-07-26 14:00 執筆者:マンガペディア公式

『ぼくの村の話』

千葉県成田市で起きた成田国際空港建設に反対する地元民(ほとんどが農作業従事者、他に新左翼セクトの学生たち)と国との諍い(所謂三里塚闘争)をモチーフに描かれたフィクション。地名も成田市が茂田市、三里塚は三野塚と名前を変えている。だがフィクションとはいえ、作者は連載当時から数えて26年前の事件の「生き証人」と出会い、取材し、まるでドキュメンタリーであるかのような作品に昇華している。

まだ小学生だった主人公・哲平は押坂家の次男坊。「空港建設」の話が降って沸くまでは、今でもそこらにいるかもしれない「わんぱく小僧」の一人に過ぎなかった。

だが、当時の「羽田空港」の離発着能力が限界を超えており、早急に「新国際空港」が必要とされたことを理由に、「ぼくの村」がその空港建設の用地として「一方的に」閣議決定されたことに端を発する闘争(たたかい)に、哲平も家族ぐるみで巻き込まれていく。

モーニングにて連載、コミックは全7巻が発売中。

「怒り」は何のために、誰のために

もともと三野塚で農業を営む者たちは、戦後、沖縄から入植してきたものがほとんどで、畑でも田んぼでもない土地を、30年かけて「農作物」を生み出す「生きた土地」に変えた人たちだった。その土地を、今度は「空港を作る」「公共の利益にかなうこと」だとして、事前の話し合いも何も持たれず、ただ「閣議で決定したこと」「国が決めたこと」だから、という理由だけで奪われようとする、その傍若無人な「暴力」に対する怒りが、彼らを闘争に駆り立てた原点だった。

そして空港を建設する「公団」の、代替え地や、賠償金をちらつかせ、村の「共同性」を破壊しようとする動きや、その賠償金を狙って切り崩しをかけてくる当時の農協への怒り。

まがりなりにも「隣同士」として仲良く暮らしてきた村の人間を条件派(代替え地や賠償の額によっては土地を売ると決めた人たち)と反対派にまっぷたつにわけられてしまった怒り。

そして「ぼく(たち)の村」を自分たちに何の相談もなく「空港用地」と決めてしまった者たちへの怒り。

彼らはそんな、もしかしたら生きていく上で誰もが「仕方がない」と諦めてしまいがちな「理不尽なものへの怒り」に心を突き動かされ、戦いに挑んでいく。

それは、反対派にとっては女も子供もない、家族あげての闘争、もしくは抵抗。
農家の長男たちは「青年行動隊」、そして農家の嫁を集めた「婦人行動隊」、年寄りたちの「老人行動隊」、そして小学生から中学生で組織された「少年行動隊」。全ての人たちが「機動隊」という、国の暴力装置(あくまでもこの物語では)に立ち向かっていく。

「オラのからだに杭を打て!」

あまりにも違いすぎる彼我の戦力差。絶望的な戦いは、読む者の心に知らず「ヒロイズム」に似た高揚感を植え付ける。自分がもし、この場所にいたなら。自分もその辺に落ちている小石を機動隊に投げつけていたんじゃないか、とまで思ってしまう。

機動隊を伴っての「公団」の仕事は、空港予定地の測量と空港の敷地であることを示す「杭打ち」。だが、矢尽き刀折れても、反対派の戦士たちはその「杭打ち」の地点へ体を投げ出し、こう叫ぶ。

「オラの体ごと杭を打つがいい!」

圧倒的な暴力に立ち向かうには、わが身ひとつをさらけ出して、敵に挑むしかない。
力には力で、暴力は暴力で立ち向かうのは、基本的には間違っている(と思う)。だけど、自らの家が「泥棒」に荒らされようとしているとき、それに立ち向かう勇気まで否定していいはずがない。自分は遠く離れたこの時代の茂田の戦士達に、今でも熱いエールを送りたい。彼らの屈することなき魂を、心から称賛してやまない。

「民主主義」とはどうあるべきか

「民主主義とは多数決が原則」とよく聞く。だけどそれは一面正しく、一面間違っている。確かに多数決は民主主義の原理だが、だからといって少数派を踏みにじっていいはずがない。いや、民主主義だからこそ、少数派を尊重しなければならない(ここいらへんはマンガ本編でも語られている)。

そして、そのときの茂田の大地には間違いなく「民主主義」は存在しなかった。あったのは、「国」という大きな後ろ盾による、すさまじいまでの破壊力を持った怪物の姿だった。

そんな怪物とどう戦うか、そんなものを相手に、人間はどう生きていくべきか。そういうことを教えてくれる、このマンガはそんな良質な一編に違いない、と思う。

破壊された「第5砦」のまさに最後の砦、高さ20メートルの松の木にくくりつけた小屋の中で、その木がチェーンソーで断ち切られていくその時、小屋の中から聞こえてきた二人の男がくちずさむ「ふるさと」の歌が、胸をかきむしってやまない。


こういったことは、規模の大小あれど各地で起きている。みんな「自分には関係が無いから」と、他人事で関心は低い。
しかし、実際に自分の住む土地が現場になったらどうするのか。そのとき、この村の人々のように行動できるのか、本を読むのには抵抗がある人にもマンガでなら入りやすいだろう。
今後のためにもぜひ、参考にしてほしい。

◆公式サイト

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