業界の裏側が垣間見えるゲーム漫画28 Pt.

毎年9月に開催されるゲームの祭典「東京ゲームショウ」。初公開の新作情報が飛び出したり、ゲームをいち早く体験できたり、ということで国内外で注目されるイベントだ。そこで今回はゲーム業界が舞台の漫画を特集する。

テレビゲームの世界的な大ヒット作「ウルティマ」シリーズのリチャード・ギャリオットや、「メタルギア」シリーズの小島秀夫など、ゲーム業界には名物クリエイターが数多く存在する。本作にも2人の名物クリエイターが登場する。1人は主人公の天川太陽。そしてもう1人は、かつて天川の盟友だった仙水伊鶴。ただし、両者のゲーム制作に関する方法論は大きく異なる。天川は、自分の感性の赴くままゲームを創る天才肌。一方の仙水は、シビア且つロジカルにゲームを創る。対照的な2人だが、共通点もある。それは根っこの部分が子どもで、滅多なことでは自分の主張を曲げないこと。天川と月山のやり取りも見物だが、2人のクリエイターのぶつかり合いにも注目だ。

ゲームの製作現場というと、企画書やオタクグッズが乱雑に散らばり、修羅場になると風呂にも入らず連日泊まり込み。そんな、少々衛生的に問題のある環境を想像する方もいるかも知れない。もちろん、そんな現場も未だにある。しかし、大手の開発現場などは、かなりクリーンになっている。本作の現場は大手ではないものの、清潔だ。なにしろ、主人公が所属するのは、女性スタッフだけで構成されたグラフィックチームなのだ。寝袋で泊まり込む社員もいるが、そこに不潔さはない。プロの現場の厳しさを描きつつも、ストーリーを親しみやすいものにしているのが本作の特徴のひとつだ。

ゲームの中には、18歳未満はプレイできない、俗に「エロゲ」と呼称されるアダルトゲームも存在する。億単位の制作費をかけるプロジェクトも珍しくない、全年齢向けのゲームと異なり、エロゲメーカーの多くは規模も小さく、昔ながらの空気が漂う現場が多い。本作もそんな小規模な現場が舞台となっている。ちなみに本作の原作者は、実際にエロゲ会社を経営し、潰してしまった経験を持つ元社長。そして作画担当は、その会社でグラフィッカーを務めていた人物である。つまり業界経験者のコンビが、自らの体験を元に創った漫画というわけだ。作中には自らの経験を赤裸々に語るうん蓄も多く、業界のさまざまな側面をうかがい知れる。

本作は、実際にゲームを創ってきたクリエイターたちが、当時の現場の状況や、ゲーム制作時の思いを語るノンフィクションだ。しかも登場するのは「ファイナルファンタジー」シリーズの生みの親である坂口博信や、「ゼビウス」を作った遠藤雅伸、「バーチャロン」を企画した亙重郎など、そうそうたるメンバーばかり。彼らが大ヒットゲーム制作の裏側で何が起っていたのかを語る模様は、実に興味深い。ちなみに本作では、ゲームだけでなく「初音ミク」や「ゾイド」誕生の舞台裏なども描いている。

ゲームの製作現場だけが、ゲーム業界ではない。広報や営業、販売、そしてゲームの情報を伝える専門誌なども、業界の一部といえる。本作はそんなゲーム情報誌の編集部の模様を描いた作品だ。しかも舞台になっているのは、実在するゲーム情報誌「ファミ通」の編集部。実際の編集部員をモデルとしたキャラクターが数多く登場するなど、現実とリンクする部分がかなり多く、実際のゲーム会社が絡んだエピソードも豊富。魔女っ娘が登場するギャグファンタジーではあるものの、ゲーム業界を扱う部分はかなりリアルな作品だ。