戦後日本を舞台にした、伝説の怪盗を捜し続けるとある少女の壮大な冒険譚。主人公・美甘(みかも)千津子ことチコは富豪の両親を早くに亡くし、遺産を狙う叔父夫婦と生活していた。夫婦は食事に毒を入れチコを殺そうとするも、彼らの策略に気づいたチコは食事を摂らず衰弱していく。ある日、財宝「紅玉」を盗みに怪盗・二十面相が美甘家に忍び込み、彼とチコは運命の出会いを果たす。関連作に『二十面相の娘 うつしよの夜』『二十面相の娘 少女探偵団』がある。2008年にテレビアニメ化。
二十面相は高価な美術品ばかりを狙い、巧みな変装を用いて誰も傷つけることなく盗みを遂行する。そして誰にも素顔を知られたことのない、巷で噂の怪盗だ。二十面相は美甘家で偶然出会ったチコの窮状を憂い、紅玉と共に彼女を盗み出す。怪盗団の一味となったチコは仲間たちと共に稼業に精を出し、やがて「二十面相の娘」と呼ばれるほどの成長を遂げる。しかし、二十面相を狙う敵の襲撃により、彼は行方不明になってしまう。元の家に帰されたチコは殺害を企む叔母に屈せず、二十面相が生きていると信じ彼の行方を追おうと奔走する。何度も姿を見せては消える二十面相とチコは再会を果たすことができるのか、二十面相が狙われる本当の理由とは何か、さまざまな要素が絡み合うラストまで目が離せない。
謎の怪盗の一面を持つ小学生と、恋を夢見る幼稚園児のキッズ・ラブロマンス。主人公・伊集院玲(いじゅういんあきら)の家には、なぜか「お母さん」が二人いる。玲は料理上手で、お母さんのために甲斐甲斐しく家事をこなす小学3年生だ。そして世間を賑わす「怪人20面相」という別の顔を持ち合わせていた。ある日、玲は追っ手から逃れるために偶然飛び込んだ屋敷で、運命の出会いを果たす。1990年、1991年にドラマCD化。
玲は不在の父親の稼業を継ぐべく怪盗になり、お母さんの「欲しいんですのぉ」の一言でどんなものも盗んでしまう。隣人の高校生・小林龍祐(りゅうすけ)は20面相に興味津々で、玲が盗みを働くたびに捕獲を試みるも未だ成功せず、正体はバレていない。そんな玲が逃亡中に偶然飛び込んだのが、恋人となる大川詠心(うたこ)の自宅だった。詠心は幼稚園児だが、心は立派な大人のレディだ。年上の男性に失恋し、自暴自棄になっているところを玲に偶然見つかった詠心は「次の恋の相手はあなたにする」と伝える。幼い恋だが、冒頭で真剣に愛について語り合う二人の言葉は哲学に溢れている。お互いを慕う大人顔負けのロマンスに、思わず見習いたくなる恋のロールモデルともいえよう。
お嬢様学校に通う女子高生とお世話係の小さなメイドの、ほのぼのハートフルコメディ。全寮制の女子高である「白雪女学園」は、生徒一人一人にメイドが付くお嬢様学校である。他の生徒には普通のメイドが側にいるのに、主人公・石口まひろに充てがわれたのは身長わずか20センチの「すずめ」だった。メイドがいるから楽ができると思い、苦労してまで白雪女学園に入学したまひろはガッカリするも、すずめは全力でお世話をせんと張り切りだした。
すずめはまひろのために紅茶を入れようとするも、缶が大きすぎて茶葉を彼女にぶちまけてしまったり、ジュースのプルタブを開けて炭酸をぶっかけてしまったりとドジを連発。人間用の大きさの道具を扱うため、ナイフを両腕で抱えて肉を切ったり、靴を磨こうとして靴の中で寝てしまったり、サイズとのギャップが可愛らしくほっこりとさせられる。すずめがどんなに失敗をしても、怒ることなく淡々としているまひろの反応もシュールだ。彼女のために作った髪留めや、ブレスレット(マフラーのつもりで作ったもの)がクラス中で流行るなど、小さな奇跡が起こるのも微笑ましい。すずめと同じく、小梅と小梅を溺愛するお嬢様・レアとのふれあいも優しい世界観で描かれている。
推理作家・江戸川乱歩の不朽の名作「怪人二十面相」のコミカライズ。 実業家・羽柴(はしば)壮太郎の長男で長らく行方不明であった壮一が、百万長者になって帰国したとのニュースが世間を賑わせる。空港に降り立った壮一が受け取った花束から、一枚の紙が舞い落ちた。そこには「壮太郎どの 今夜十二時、あなたの、『ロシア皇帝ダイヤ』をいただきに行く。 二十面相」と書かれていた。稀代の怪盗の予告に羽柴家は厳重な警備で対抗するが、ものの見事に破られてしまうのであった。
二十面相は名前の通り二十の顔を持ち、その素顔は誰も見たことがないという恐るべき怪盗だ。彼は壮一に扮し羽柴家の宝をまんまと掠め取り逃亡し、弟の壮二を誘拐し更なる美術品を要求する。困り果てた壮太郎が最後に頼ったのが、二十面相のライバルである探偵・明智小五郎だった。愛弟子の小林芳雄(よしお)少年と、彼を中心とした少年探偵団と共に明智は何度も二十面相と相見えるが、すんでのところで取り逃がしてしまう。二十面相の巧みな変装術と盗みのテクニックに対し、明智は行動パターンを読み相手の裏をかくなど、知略に満ちた二人の攻防が見どころだ。「鋼鉄の魔人」「海底魔」も収録されており、子供の頃に読み親しんだ記憶を思い起こすのもいいだろう。
実在する近代クラシックの巨匠・ブラームスの若き日の音楽修行を描いた旅行記。1853年、ドイツのとある田舎町にある酒場は連日熱狂の渦に包まれていた。ピアニストのヨハネス・ブラームスと、ヴァイオリニストのエドゥアルト・レメーニの若き二人による気迫に満ちた演奏が行われていたからだ。しかし、楽屋裏に戻ると互いの演奏について意見が食い違う。さらに、翌日は他の場所での演奏会があるにもかかわらず、酒場の演奏依頼を安請け合いするレメーニに、ブラームスは不満をぶつける。
ブラームスは、バッハやベートーヴェンが遺した「ドイツ音楽の正統派」を継承すべく、過剰なアレンジをしない演奏することを信条としていた。一方レメーニは放浪のヴァイオリニストであり、フィーリングで音楽を奏でる才能に長けている。偶然彼の演奏を聴いて衝撃を受けたブラームスは自分にはない一面に感銘を受け、共に音楽修行の旅に出る。しかし、行き当たりばったりで自由闊達なレメーニに振り回され、ブラームスは不満を募らせていた。旅の途中、時にぶつかり合いながらも音楽家として切磋琢磨する正反対の二人の青春の日々が瑞々しく描かれている。また、ブラームスが生存していた時代のドイツの音楽事情がコラムとして掲載されており、知見を広めながら楽しめる作品だ。