人肉のみを食す「喰種(グール)」が跋扈する東京で、半喰種となってしまった主人公・金木研(カネキ)の苦悩の日々を描いたダーク・ファンタジー漫画。カネキは人の心を持ちながら、人間を食さねば生きていられないという葛藤を抱え、また人間と喰種との確執に板挟みになりながらも、世界のあり方を模索し戦う。続編に『東京喰種トーキョーグール:re』がある。2014年と2015年にテレビアニメ化。2017年、2019年に実写映画化している。
本作で美食家といえば、「グルメ」の異名を持つ喰種・月山習(つきやましゅう)だ。財閥の御曹司で、端正な顔立ちと一見落ち着いた雰囲気を持つが、食に関しては変態的ともいえる異様なこだわりがある。半喰種であるカネキに食材としての価値を見出し捕食しようとしていたが、その後、利害の一致からカネキらと行動を共にする。徐々に食材としてではなく、カネキ自身にも関心を抱きはじめ、互いを仲間として意識するようになる。登場時は鼻持ちならない印象を与えるキャラクターであったが、後にカネキと深い友情で結ばれ、協力関係となる重要なキャラクターである。本作のダークでシリアスな雰囲気において、強烈かつ変態的な月山の個性は、一種の清涼剤にも感じられるかもしれない。
仕事中に事故にあってしまった主人公・桂木俊一郎が異世界に転生し、そこで未知の食材や料理を味わう異世界グルメ・ファンタジー漫画。人間のいない世界、俊一郎はひょんなことから有力貴族のバート・サキュバールと出会う。転生前に培った知識をバートに提供し、事業に協力した結果、自身も裕福になった俊一郎。屋敷を持ち、メイドの獣人・シルフィンとともに、仕事のかたわら異世界の美食を堪能する日々を過ごすのだった。
ドラゴンのステーキや、ジュエルロブスターのボイル、蟲蜜の砂糖飴など、異世界の架空の食物が非常においしそうに描かれている本作。現実ではお目にかかれないファンタジー上の食材をリアリティを込めて描写している。それに加え、登場人物の食事の際の表情がとても印象的だ。特に、普段はツンツンしている獣人メイドのシルフィン。レストランという場に慣れないせいで緊張した表情を見せるも、食事の際には非常に愛らしい笑顔を見せる。そのギャップに魅了される読者もいるのではないだろうか。彼女が時折見せる笑顔はこの作品の一つのハイライトともいえるまぶしさだ。原作は天那光汰(あまなこうた)がウェブ上で発表した小説。本作の数年前を舞台とする小説『異世界コンシェルジュ』も発表されている。
普通の男子中学生が、突如現れた地獄の美食家と出会い、料理人として成長していくグルメ・ファンタジー作品。主人公・守屋(もりや)悟は、普通の中学生で、自分でもその平凡さを自覚し、諦観している感がある。そんな悟の前に現れたのが、地獄の美食家であるドグマ。ドグマは地獄で最も美味とされる「本物の料理人の魂」を食すために、悟を本物の料理人に育て上げようとする。脅されながら料理を続ける悟の胸に、徐々に本物の料理人になろうという情熱が宿っていく。
「悪食伯爵」の異名を持つドグマとの出会いが平凡な少年である悟の運命を変えていく本作。平凡を是とする悟の価値観を、破天荒な性格のドグマがぶち壊していく様が痛快である。ドグマに取り憑かれた悟は、しばしば粗暴な振る舞いをしてしまうが、自らの諦観の殻を少しずつ破っていく。平凡な悟と破天荒なドグマ、2人は凸凹ながら意外とよいコンビのようだ。本作の料理監修の西村ミツルはかつて海外の日本大使館での公邸料理人を務め、『信長のシェフ』の原作と料理監修を担当していた。そのため、調理や実食のシーンの描写は素晴らしく、作者・天道グミの確かな作画と相まって、非常に魅力的に描かれている。2014年の掲載誌休刊以降、連載が止まっているが、復活が待ち望まれる作品だ。
主人公・本郷播(ほんごうばん)が立ち寄った飲食店で何を食べ、どう食べ進めていくか等の食の組み立てにこだわり血道を上げる1話完結型の食コメディ漫画。食事の際、本郷は自分自身を『三国志』の名軍師・諸葛亮孔明になぞらえて、内なる「食の軍師」の兵法にのっとる。何を注文し、どう食べるかを真剣に組み立てていく本郷。しかし、しばしば策におぼれ自滅をしたり、ライバル・力石馨(りきいしかおる)に敗北し撃沈したりするさまが可笑しい。2015年に実写テレビドラマ化。
本作は、作者の作品に定番キャラとして登場する本郷が、立ち寄った店で真剣に、理想の食事スタイルを試みているさまがまず笑いを誘う。そして、本郷が一方的にライバルとみなしている力石としばしば鉢合わせる。飄々とした力石の洗練された組み立てに、本郷がこれまた一方的に敗北を喫するというのが本作のよくある展開なのであるが、そのやり取りに妙に安心感を覚える。たとえるならば「水戸黄門」が印籠を出す場面のような、定番という安心感だろうか。作者は、原作担当・和泉晴紀と作画担当・久住昌之の連名漫画家。久住は『孤独のグルメ』、『花のズボラ飯』をはじめ食漫画を中心に多数のヒット作の原作を手掛けている。本作も、長くコンビを組む二人ならではの息の合った仕事っぷりで安心して笑える作品だ。
会社で孤立している主人公・松江万里子が、唯一交流のある部下との食事で、毎回恍惚とした表情になってしまうという異色の食コメディ漫画。有能だが会社では周囲に厳しがゆえに孤立している万里子は、部下の須佐町貞明が見つけてきたお店で食事をするのが息抜き。須佐町の無自覚で無茶な要求に、Mっ気のある万里子は断れずに限界を超えて完食し、恍惚になってしまうというという1話完結型の物語が展開される。万里子のキメゼリフはズバリ「マゾウマ」である。
第1話では、万里子は須佐町に誘われた店で激辛ラーメンを食べる。須佐町のまなざしにSっ気を見出した万里子は、須佐町の許可なしに水を飲んでは見捨てられるという会社で孤立しているがゆえの恐怖を感じ、その痛いほどの辛さを味わいつつ、滂沱の涙を流しながら恍惚の表情を浮かべる。須佐町の素振りから万里子が勝手にSっ気を想像して恍惚となるという対比が面白い。食事をモチーフとした一種のSMプレイのような官能的な作風ではあるが、職場では上司と部下である2人の上下関係が食事の間だけ入れ替わるというのも、そうした官能作品の定番設定を汲んでいるように思われる。様々な食べ物が毎回登場し、万里子が勝手な妄想でどのように恍惚となるかが楽しみな作品だ。