中学生2人のボーイ・ミーツ・ガール物語。中学1年生の水谷茜は、言葉遣いや行動が無邪気な中学1年生。大人びはじめた周囲の友人たちから、ちょっと浮いた存在だ。幼子のようにみずみずしい感性の持ち主で、彼女の頭の中は「灰色の校舎」や「生徒の喧騒と、土のにおいのまじるライラック」等々、常に詩的なモノローグであふれている。そんな茜が、超能力が使えると信じて疑わないこれまた変わった同級生男子・月野透と「月曜日の夜に会う」約束をする。
「私は月曜日が嫌いだ。月野透と会う約束をしてしまったから」……大人でもない、かと言って子どもでもない、ちょっとアンバランスな茜だが、透への気持ちは純粋だ。作品の随所からあふれ出てくる、大人に成りきれていない茜の感性に触れると、「自分が中学生の頃はどうだったかな」と過去の自分を振り返ってしまうだろう。神々しい満月を背景に、透が「生まれてはじめて、友達ができたよ」と叫ぶ幻想的なシーンには、漫画が持つ限りない可能性と豊かな芸術性が凝縮されている。小説や詩といった文字の世界では決して表現できない、漫画だからこそ描くことができた、甘くて切ない、心に染みる青春輝譚。大人になった今、読みたい作品の一つだ。
4年後に結婚を誓い合った大学生が、新たな異性との出会いに翻弄されるロマンチックラブストーリー。チューズデイは、大学進学を機に、恋人のレイニーと別々のキャンパスライフを送ることになる。そのため、大学を卒業する4年後に結婚する約束をし、永遠の愛の証であるステディリングを受け取った。そんな彼女の前に、ハンサムで包容力のあるアーティという名の青年が現れる。一方、レイニーにも、周囲の男を惑わす魅力的な女性・デボラが大接近。2人の気持ちは揺れていく。
ヒロインのチューズデイは、名前の通り「火曜日」に生まれた。それだけではなく、彼女の名前には両親の並々ならぬ愛情が込められている。両親が出会ったのも火曜日ならば、デートをしていたのも火曜日。母が父からのプロポーズを受けたのも火曜日で、結婚式も火曜日と、まさに「チューズデイ」は、彼女の両親にとって忘れることのできない特別な日だ。進学先のメイプル女子大のあるボストンに向かうバスで乗り合わせた、近隣のキングス・カレッジに通う3年生のアーティと出会ったのも、そんな「特別な火曜日」だった。魅力あふれるアーティと過ごすうちに、離れていても束縛したがるレイニーの愛情に疑問を持つようになるチューズデイ。3人の恋の行方にドキドキさせられる。
大学進学を機に初めて一人暮らしを始めたヒロインと、映画の奥深さを教えてくれたバイト先の店長が紡ぐラブストーリー。大学1年生の藤田奈緒は、ビデオのレンタル店でアルバイトを始めた。しかし、接客も映画の知識も未熟な奈緒は、仕事をうまくこなせず、独身店長の奥田一平にイヤミを言われて落ち込む。ある時、一平がお客さんと映画について、嬉々とした表情で語り合っていた。それがを見た奈緒は、一平に好きな映画を終えて欲しいとお願いする。こうして、毎週水曜日、閉店後のレンタル店での映画鑑賞会が始まった。
一人暮らしを始めたばかりで部屋にテレビがない奈緒のために、閉店後の店内で、毎週水曜日に行われるようになった2人きりの映画レクチャー。「ニュー・シネマ・パラダイス」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」など、一平が選んだ映画を観るようになった奈緒は、次第にその奥深さに目覚めていくと同時に、彼に恋心を抱く。大人の入り口に立った18歳の奈緒が、親子ほども年の離れた42歳の一平の落ち着きぶりや、映画を真摯に愛する姿勢に惹かれていく様に共感する女性も多いだろう。また、2人のラブストーリーに留まらず、各所で映画の醍醐味が語られていることにも注目してほしい。冒頭で奈緒が問う「映画は人生を豊かにするらしい。本当でしょうか」への答えは、この作品の中にある。
飼い猫でもなくノラネコでもない「半ノラネコ」と「半飼い主」が、アパート住人たちと織り成すショートギャグ漫画。オス猫・フルットは、自由を求めてペットショップから脱走するも、世間の荒波に適応できず、後に「半飼い主」となる鯨井早菜が住むアパートの前で倒れてしまう。その時に、フルフルと震えていたことから「フルット」と名付けられた。本人(猫?)は、孤高のノラネコであることに誇りを持っているが、早菜から餌をもらったり、雨の日にアパートに匿ってもらったり、運動神経が極端に悪かったりと、ネコ社会での評判は今ひとつだ。
本作は、1エピソードにつき2ページで構成されている。それぞれのエピソードに付けられた「フルットの巻」や「鯨井先輩(早菜)の巻」といったサブタイトルに名前を示された登場人物が、その回の主人公だ。フルットの「半飼い主」で、定職に就かないフリーター生活者かつ無類のギャンブル好き、服装にも無頓着という一見ダメ人間な早菜のエピソードでは、ホンワカした魅力になぜか癒されてしまう。また、登場するノラネコたちの会話が絶妙で、落語を聞いているかのような妙があるところも魅力だ。ネコの目や人間の目を通した世界観がシュールに描かれている一方、どこか懐かしくて不思議な作風は、畳の上にゆっくりと寝っころがって楽しみたい。
家族の愛情や食事がテーマの作品を集めた、魚乃目三太の短編作品集。毎週金曜日に必ずナポリタンを食べにくる母子がテーマの「金曜日のナポリタン」を筆頭に、教師と生徒の深い絆を描いた「先生と僕のカレー」や、祖母が恋人を紹介しに来た孫に掛ける言葉に心温まる「祖母のすき焼き」。「大阪の冷やし中華」「サバの味噌煮」「我が家のおでん」「大晦日のシウマイ」「餃子ライス」「てっちゃん鍋」「レバニラ炒め」といった美味しそうなタイトルの作品が並んでいる。
表題作「金曜日のナポリタン」に登場する母子が、金曜日に必ず喫茶店のナポリタンを食べに来るのには理由がある。母は若い頃、パチンコ屋で働いており、自動車整備工場に勤務する恋人との唯一の贅沢は、「毎週金曜日の昼に、喫茶店でナポリタンを食べること」だった。しかし、彼が過ちを犯し別れざるをえなくなる。だが、再び会えることを願い、同じ金曜日に同じ喫茶店へ通い続けた。「核家族」は当たり前で、「孤食」や「コンビニ食」という言葉が飛び交い、平成から新しい時代へと変貌しつつある昨今。このナポリタンのような「懐かしの昭和の味」と呼ばれるメニューが、表舞台へと再び返り咲こうとしている。昭和の定番メニューに人情を絡め、スパイシーに味付けした作品を前に、では「平成の味」とは何なのだろうかと思いを巡らせるのも楽しい。