増殖を続け、本州のほとんどが横浜駅で埋まってしまった世界を舞台に、駅の外で暮らす主人公が横浜駅からの解放と真実を探るため奮闘する近未来SF漫画。冬戦争と呼ばれる大戦から200年後、自己増殖し続ける横浜駅によって99%もの国土が埋め尽くされていた。三島ヒロトは、三浦半島にある駅の外で生まれ育った青年。ある日「エキナカ」から反逆行為で追い出された東山から、「18きっぷ」というエキナカに入れるアイテムを託されるのだった。原作は柞刈湯葉の同名小説。
横浜駅が増殖している。横浜駅の姿を思い浮かべてほしい。横浜駅は広いのだが、それが自己増殖を繰り返すのである。本州の99%を埋め尽くすということは、どこにいても横浜駅が利用可能というわけだ。田舎に住んでいても都会気分というわけにはいかない。駅構内に入るには「Suika」が必要なのだ。地方の交通ICカードでは不可なのだ。世知辛い。駅にまつわるワードがふんだんに盛り込まれた本作は、駅パロディでありながら本格SFという不思議な世界観を持っている。自分が普段利用している物や場所が、違った何かに変化するというのは、不思議な世界の扉を開いたような気持ちになる。横浜駅を利用する際、もしも増殖したら、と非日常的なスリリングさを味わえるようになりそうだ。
横浜に転勤したホテル勤めの主人公が、上司と共にコンシェルジュとして横浜のディープな魅力を探っていく横浜観光ガイド漫画。一之宮知美子(ちみこ)は念願かなって横浜のホテルへ転勤となった。何かを探しているらしい男性客に声をかけるが、対応に失敗してしまう。上司の刈谷秀一に見つかってしまった知美子は、横浜駅の地下タクシー乗り場に連れてこられた。客の要望に応えるため、刈谷は知美子にタクシードライバーが案内する探索ツアーを体験させるのだった。
ホテルのコンシェルジュは何でも屋だ。できる限り客の要望に応えるのはもちろんだが、街を散策する際の情報提供も怠らない。どこにでも観光案内所というものはあるが、ホテルもその一翼を担っている。知美子は横浜のホテル鳳に転勤してきたコンシェルジュだ。もちろん様々な観光施設や名所の情報は頭に入っているが、男性向け風俗店など細かいニーズに応えることは難しい。そんな知美子に刈谷は、横浜のタクシー会社が主催する「裏ヨコハマ探索ツアー」なるものを紹介。おしゃれな街というイメージがあるが、作中では歴史と共に意外な横浜の姿が浮かび上がる。街には様々な側面があり、それがまた魅力につながっていくのだろう。知美子が知り、案内する横浜を歩いてみたくなる。
若手彫刻家の主人公が、連続殺人事件の犯人として逮捕され死刑が執行されたが、過去にタイムスリップし真犯人を探すため過去の自分と協力していくサスペンス。若手彫刻家として注目を集めていた剣崎マコトは、横浜線沿線で起きた連続殺人事件の犯人として逮捕されてしまう。無実を訴えたが判決は死刑。事件から11年後に刑が執行されたが、気がつくと剣崎は事件が起こる23日前の横浜に立っていた。自身の運命を変えるため、剣崎はある人物に会いに行く。
横浜線の沿線で起きた連続殺人事件をめぐる物語だ。物語開始当初は2014年。事件の犯人とされる剣崎は拘置所にいたため、横浜の街並みは冒頭しか描かれていない。タイムスリップしたのは2003年。人が集まる状況は同じだが、見える景色は異なる。11年も過ぎれば人々の服装も、街並みは大きく変わる。当時を知る人はどこか懐かしい風景だと感じるのではないだろうか。剣崎は事件の捜査をするため、ある人物に会いに行く。それは過去の自分である剣崎自身。お金を稼ぐために女装をしているということを抜きにしても、過去の自分であるマコトと、32歳の剣崎が同一人物だとは説明されなければ気が付かないだろう。11年という歳月は、街並みだけでなく人の容貌も大きく変えてしまう。
異国情緒漂う横浜に住む様々な女性たちが、不思議な現象に遭遇し、自身を見つめなおしていくオムニバス短編集。横浜市の郊外に住む大学生の萌々子(ももこ)は一人っ子。隣の家に住む29歳の翔一とは恋人同士で大学を卒業後、6月には結婚を予定していた。式を前にドレスやブーケ選びと準備に余念がなく、浮かれ気味の萌々子。しかし、家の近くで髪の長い女性を見かけた後から、自分のいる現実に微妙な違和感。不穏を感じながらも萌々子は日常を過ごそうとしていた。
横浜に住む様々な女性たちを主人公にしたオムニバス短編集だ。横浜に住んでいる彼女たちが不思議な現象に遭遇するほか、他作品で登場した人物がメインとして登場する作品もあり、繋がりを楽しむことができる。横浜に住んでいる女性を主人公としているという設定が基本だが、横浜がとかく絵になる街だということを随所で感じることができる。観光施設が多いためデート場所には困らないし、オシャレなカフェでお茶するという場面に違和感は一切ない。窓の外には海が広がり、モダンなデザインの街灯が画面に華を添える。不思議な空間というものはどこか薄ぼんやりとして感じるもの。薄く霧がかかったような世界観が横浜の街にマッチしてより不思議な情景を映し出している。
横浜中華街に住む仙術を駆使し患者を癒やす仙術医の主人公が、様々な症状の患者の問題を解決していく現代オカルトファンタジー。横浜中華街にあるフォーチュン・クッキーのみを売るお店「フォーチュン」には、不思議な力で病を治す仙術医の保生真人(ほうしょうまさと)が住んでいた。やる気のない保生にかわって助手の白野鹿雄(しかお)は、兄の広司が病気だという洋子の家を訪れる。ベッドに横たわっている広司の体内を鏡で映すと、下半身を縄張りにする精霊が暴れている様子が映し出されるのだった。
仙術医療は、古代中国から伝わった医術だ。現代医療とはまた違った理論体系の医術だが、原因不明の病であっても何らかの答えを得ることができるだろう。だがまさか、自身の体内で精霊が暴れているとは誰も思うまい。仙術医・保生が住む横浜は洋風な街並みが広がるのはもちろんだが、エリアを変えるとガラッと雰囲気が変わる。その最たるものが中華街だろう。赤や黄色を基本とした中華らしいカラーは、訪れた人をすぐさま違う国へと連れていってくれる。不思議な身体に起こる現象を治療する仙術。現実離れした医療行為だが、発祥が中国だからか中華街という場所がとてもしっくりくる。白野が店頭に立つフォーチュン・クッキー店、ぜひのぞいてみたいものだ。