異世界に転送されたサラリーマンと、新人死神のやり取りを社会風刺たっぷりに描いた異世界転送コメディ。サラリーマン・氷見(ひみ)は、日々のつらい業務の中「死にたい」と口に出したことで、異世界のデスゲームに召喚される。そこで出会ったのが死神のメイ。彼女によると、同じように召喚された人間と最後の1人になるまで殺し合えば、元の世界にもどれるという。しかし、ルールの不備を氷見に指摘され、さらには他の転送者をうっかり逃がしてしまうのであった。
うっかりしている新人死神のメイが、現実社会のブラック企業さながらの死神の会社で、いわゆる「社畜」として励む様子が哀れであり、かつ可笑しい本作。『デンキ街の本屋さん』『阿波連さんははかれない』で知られる作者による作品。作風が幅広い作者である。安易な異世界転生もの・デスゲームものとして読み進めると、意表をつかれる。どちらかというと、うかつな性格が可愛い死神の社畜っぷりを愛でる作品といえる。登場人物の表情の豊かさ、特に泣き顔に定評のある作者である。メイの号泣っぷりも期待して読んでもらってよい。他、メイや氷見の勤める企業のブラックっぷりが、あるあるすぎて共感できる人も多いだろう。
デスゲームの運営会社に勤務する新人女性社員と参加者の天才少年とのやり取りを描いたデスゲームコメディ。元保育士の女性・川中ヨミはADG(オールウェイズ デス ゲーム)運営事務局に就職。その初仕事で、財閥の御曹司で天才少年の八菱(やつびし)秀一にあっけなくデスゲームを突破されてしまう。ヨミは毎回、1億円争奪バトルや、SNS連動型といったあの手この手のデスゲームを考えるも、秀一にあっさりクリアされてしまうのであった。
一生懸命にデスゲームの司会を務めるヨミであるが、毎度毎度秀一の頭脳や財力に阻止される様子が面白い作品。ヨミと生意気な秀一、2人のやり取りが可愛らしく、見ようによっては「おねショタ」として楽しめる要素があるだろう。敵対する立場である2人が徐々に絆を深め合っているという様子は微笑ましくもある。また、有名なデスゲーム作品のパロディがあったりと、コメディ要素もある。そういった中で挿入されるデスゲームあるあるが可笑しい。また秀一が、そういったデスゲームを難なく解いてしまうのが憎たらしくもあり、ヨミを応援したくなってしまうところだ。また、序盤はかっこよく決めようとするヨミが、回を追うごとに、ポンコツっぷりに磨きがかかっていくのも見どころだ。
デスゲームの運営会社に勤める妻子あるサラリーマンが、公私ともに奮闘するお仕事デスゲーム漫画。デスゲームが大流行する世界で、黒崎鋭司はデスゲームの大手・FATHER社で部長として勤務している。彼は社運をかけた日常型デスゲーム「ピカレスクゲーム」に関わっている。プレイヤーのAR空間での死が、現実の死に直結するというルールのゲームである。そんな自らの仕事を幼い最愛の娘に話せず、煩悶する鋭司。そんな中、娘の友人がゲームに参加することを知るのだった。
本作は、デスゲーム運営会社に勤務する中間管理職の悲哀を描いた特異な作品である。ただ、その悲哀というのが、人の生死で金儲けする仕事に携わっていることに対するものではなく、単に自分の仕事が娘に誇れるものであるかという葛藤のみに起因するものであるので、そこは倫理観の欠如が感じられ、少々気味が悪くはある。それが功を奏してか、本作における人々の命に対する意識の軽さが、この世界の狂気をありありと見せつけているようで、そこは作者の意図するところなのかもしれない。ゲーム名の「ピカレスク」とはイコール悪漢小説のことであるが、本作自体も鋭司を真の悪として描いたピカレスクの一種として読むこともできるだろう。何せ、娘に嫌われたくないがため、人命のかかったゲームのルールを改変する男であるのだから。
財閥の御曹司である主人公が、父が更迭されたことで没落し悪魔と契約を交わすデスゲームサスペンス。日本有数の財閥、蓼丸財閥の御曹司・蓼丸(たでまる)カズヤ。大学生でありながら、大きな権力を振りかざす彼であったが、父の更迭によりその権力は崩れ去る。そんな中、「アガリ」と名乗る女悪魔と、「消失(デリート)」という直前の発言を消す能力を与える代わりに、就職活動で一度でも不合格となると死ぬという契約を交わす。
殺戮とリクルート(就職活動)をかけ合わせたタイトルの本作。それは就活で不合格ならば即死亡、というデスゲームにぴったり。本作は、現代の就活をリアルに描いており、強烈に風刺しているのも非常に評価できる点だ。そこにデスゲーム要素を追加したという新しい試みの作品である。カズヤ以外にも悪魔との契約者はおり、カズヤが彼らと就活という場で命のやり取りをするのは、恐ろしくも面白い場面だ。悪魔に与えられた「消失」という一見地味な能力を持ち前の頭脳で使いこなしていくカズヤ。好き嫌いの分かれるキャラではあるが、人に裏切られても屈しないその精神的な強さに読者は舌を巻くだろう。カズヤが最も嫌う「己を利用する者」を見返し、支配者に返り咲くための血で血を洗う戦いである。
片思い中の女子高生が、意中の男子の気持ちをデスゲームによって聞き出そうとするラブコメ・デスゲーム漫画。女子高生・四宮(しのみや)音羽は野球部の同級生・伏見大悟に片思い中。彼をホラーさながらの理不尽なデスゲームに巻き込んでは、「好きな女の子とかいる?」といった健気な質問をゲームに絡めて、気持ちを知ろうと奮闘する。大悟は鈍感な性格なので、音羽の気持ちには気づかず、幾度も音羽の仕掛けた命がけのデスゲームに参加することとなるのだった。
片思いの女子がデスゲームのマスターであるという点がまず面白い。学校では気恥ずかしくて話せないために、例えば迫りくる電動ノコギリを用いて相手の気持ちを聞こうとするといった発想のぶっ飛びっぷりは、恐ろしくも健気さを強調している。要はサスペンスホラー的なメンヘラものといってしまうこともできるのだが、音羽の相手を追い詰めるところまで徹底できない奥ゆかしさや、大悟の、毎回生命の危機に瀕していながら、終わった後は特に気にしていない鈍感すぎるところが、本作をラブコメとして安心して読ませる要素といえるだろう。毎回デスゲームを行う女子高生と、それに毎度引っかかる男子高生という力技の設定ではあるが、コメディ色が強いためにそれほど気にはならない。2人の今後が非常に気になる作品である。