概要・あらすじ
大相撲九月場所初日、新横綱播磨灘は、スポットライトを受け、戦国武者とも鬼とも取れる奇怪な仮面を被って入場するという暴挙をやってのけた。観客たちのブーイングの中、播磨灘は「自分こそが双葉山の69連勝を破る最強の横綱であり、一度でも負けたらその場で引退する」と豪語。その言葉通り、圧倒的な強さで連勝を重ねていく。
しかし、その態度は傍若無人そのものであり、角界のしきたりも他の力士たちのプライドも粉微塵にするものであった。相撲協会は、播磨灘を引退に追い込むため取り組み日程を操作し、力士たちも打倒播磨灘のために死力を尽くす。力士たちそれぞれの抱える事情、胸を打つエピソードの数々が語られる。しかし、播磨灘の牙城を崩すことは叶わず、最強にして最悪の横綱が土俵に君臨し続けるのだった。
登場人物・キャラクター
播磨灘 (はりまなだ)
横綱昇進後の初土俵で、双葉山の69連勝を破ること、一度でも負けたら引退することを宣言し、以後はひたすらに勝利を重ねる怪物力士。圧倒的な実力を持つ一方で、各界の既存の権威やしきたりを認めず、仮面を付けての入場、負けた力士への暴言やダメ押しなど、角界の禁に触れる行動を繰り返す。驚異的な足腰と腕力を発揮し、呼び戻し、吊り落とし、横投げなど、現実には見る機会の少ない大技を好んで用いる。 本名山形勲。
愛宕山理事長 (あたごやまりじちょう)
相撲協会理助長であり、角界の秩序と伝統を破壊する播磨灘に土を付け、引退に追い込もうとする。しかし、取り組みを操作し、有力力士を何度ぶつけても播磨灘倒すことはできず、角界荒廃の責任を取るという形で理事長職を退くことになった。播磨灘の力士としての力量は認めており、だからこそ角界の権威や伝統を屁とも思わぬその振舞いには激しい怒りを抱いていた。
雷光親方 (らいこうおやかた)
播磨灘のいる相撲部屋雷光部屋の親方。実直な人柄で、弟子の育成も上手いが現役時の最高位は前頭二枚目であったため、協会からは雑用のような仕事をあてがわれていた。播磨灘のしでかした暴挙に一時はうろたえ、叱責しようとしたものの、自身も相撲協会に対しては思うところがあったこと、播磨灘も雷光親方にはそれなりに敬意を払っていることを感じていること、何より播磨灘の見せる圧倒的な強さに魅せられていること、などから播磨灘の行動を抑えようとはしなくなる。
おかみさん
雷光親方の妻。相撲取りにとっては部屋のおかみさんは母親も同然であり、彼女にとっても播磨灘は手がかかる子供のひとりである。その破天荒な振舞いに雷光親方と共に振り回されるが、時に毅然とした態度で播磨灘を叱ることもある。
前田 亜希子 (まえだ あきこ)
能面を被って深夜の雷光部屋に現れ、素性も告げず、素顔も見せぬままに播磨灘への嫁入りを申し出た女性。播磨灘はこれを受け入れ、婚約会見を行った。会見の席で、播磨灘によって面を割られ、美しい素顔が明かされた。結婚後は雷光部屋に住み着き、後には播磨灘の子を身籠っている。
太刀風 (たちかぜ)
心技体充実の相撲を取る大横綱。数度に渡って播磨灘と対峙するが、勝ちを収めることができず、自らの限界を悟って現役を引退した。最終話で相撲協会理事長に抜擢されている。
北道山 (ほくどうざん)
身長2mを超える角界一の怪力力士。物語開始時点の九月場所では横綱であったが、播磨灘に破れ、自らその座を返上、名誉大関として土俵に立つ。しかし、続く九州場所でも雪辱は叶わず、それどころか播磨灘から「所詮大関」「大関なら横綱に礼を尽くせ」といった暴言を浴びせられ、自ら命を断とうとするまでに追い詰められた。
大江川 (おおえがわ)
その才覚は角界随一と言われる横綱だったが、九月場所での播磨灘との取組であっさりと破れ、精神面の弱さを晒す。だが、敗北直後に誕生した息子のため、再び土俵に立つ決意を固める。続く九州場所では水入りとなる大勝負を演じるものの結局播磨灘を倒すことはできず、初場所での敗北をもって引退。海外に武者修行へと旅立ち、帰国後に本名の田村正蔵を名乗り、播磨灘に挑んだ。
富嶽 (ふがく)
体重250kgを超えるハワイ出身の巨漢力士。大関の地位にあったが、播磨灘潰しのを画策する相撲協会によって、急遽九月場所2日目に播磨灘にぶつかり敗れる。続く九州場所では、かつて兄弟子の腰を破壊してしまったがため封印していた鯖折りをもって播磨灘に挑むが、逆に自らの腰骨を折られてしまった。 本名イオテ・イヤオケア。
玉嵐 (たまあらし)
「稽古の鬼」とも呼ばれる努力型の力士で、激しい稽古で鍛えぬいた肉体を武器に大関の座に就いた。しかし、その努力も播磨灘には通じず、惨敗。「お前の稽古は稽古のための稽古や」と怒鳴りつけられ、さらに強烈な四股を浴びせられて放心してしまった。
若不動 (わかふどう)
不動明王を信奉し、その化身たらんと稽古に励むことで新大関として昇進を果たした力士。しかし、九月場所で播磨灘に格の違いを見せ付けられるような完敗を喫し、四股名返上を迫られる。それを受け、心の師と仰ぐ明澄法師から授けられた不動王に四股名を変えたものの、九州場所でも播磨灘に破れ、「『お不動』に改名せい!!」と一喝される。
紫電海 (しでんかい)
スピードと技を重視した、近代的相撲を得意とする力士。天才肌で何事も飄々とこなすが、内面には熱いものを持っている。播磨灘が横綱昇進前に最後に土を付けた相手でもある。得意技は出し投げで、九月場所でも再三の出し投げにより播磨灘の体勢を崩そうとしたものの、力及ばず屈辱的な敗北を味わった。
天山 (てんざん)
大学相撲でタイトルを総なめにし、幕下突け出しで初土俵を踏んだ巨漢。強烈な突きを武器に、初土俵から4場所連続で全勝優勝を果たし、入幕を果たしている。寡黙な男だが、勝負にかける思いは強く、九州場所で播磨灘と初対戦し、一本背負いで敗れると、雷光部屋へ押しかけ、播磨灘の稽古相手を務めながら雪辱のための稽古に励んだ。
凄ノ尾 (すさのお)
激しい稽古によって作り上げた太い首と、硬く盛り上がった額が特徴の力士。播磨灘とは初土俵も入幕も同時であり、その長所も短所も知り尽くしていると考えていた。しかし、横綱となった播磨灘には、いいところ無く負け続け、初場所の取り組みでは強烈な張り手を受けて失神するという無様を晒した。
玄海 (げんかい)
北道山の弟弟子で、強烈なぶちかましを得意技とする実力派力士。元不良であり、負けん気は人一倍強かったが、9月場所では播磨灘に秒殺され、執念に燃えて立った九州場所の取り組みでも、数合と持たずに播磨灘に敗れ去った。
八幡 (やはた)
紫電海の後輩力士。非常に柔軟な体であることに加え、土俵に上がっても茫洋とした表情を崩さないことから「ナマコ」のあだ名で呼ばれる。初場所で播磨灘と対戦し、奮戦つたなく敗れる。しかし、播磨灘からはいつものような罵声ではなく、「マシな力士や」と、評価するような言葉をかけられた。
竜雲 (りゅううん)
愛宕山部屋の部屋頭を務める力士で、番付は西の小結。実力はあるものの、上には慇懃、下には横暴という嫌な男である。播磨灘との対決前にちゃんこの大食いで勝負し、引き分けている。しかし、土俵上の勝負では播磨灘に己の繰り出す技をすべて受け切られ、予告通りに二枚蹴りをくらって、カエルのように押し潰された。
淡口 (あわぐち)
愛宕山部屋のちゃんこ長を務める力士。料理の腕は確からしく、愛宕山部屋へ出稽古にやってきた播磨灘に気に入られ、部屋頭である竜雲との勝負の賭け草にされてしまう。その竜雲は、九月場所で播磨灘と対戦するも惨敗。淡口はその日のうちに廃業届けを出し、播磨灘のいる雷光部屋のちゃんこ番となった。
修羅ノ海 (しゅらのうみ)
内掛けを得意とし、それのみをひたすらに磨き続けてきた職人気質の力士。その技の切れ味は鋭く、15もの金星を上げていた。播磨灘に対しても、もちろん内掛けで挑もうとしたが、十全な体勢を取れぬままに仕掛けた技は通用せず、大股のかかえ投げを受けて土俵に這った。
立山 (たてやま)
横綱に昇進し不敗宣言を放った播磨灘の最初の対戦相手となった力士。反則すれすれまで分厚く包帯を巻きつけた手から繰り出す張り手が得意技だったが、播磨灘には通じず、逆に顔面に真正面からの張り手をくらって土俵下まで飛ばされた。
竜剣 (りゅうけん)
北道山の弟弟子。結婚直後の播磨灘と対戦することになり、結婚をネタにした罵詈雑言で播磨灘を挑発し、隙を突こうとする。しかし、その言葉に怒った播磨灘に右腕を折られ敗退。担架に載せられて退場した。
津軽山 (つがるやま)
九月場所3日目の播磨灘の対戦相手。取組前にたっぷりとかいた汗を拭わないまま土俵に上がり、播磨灘を滑らせて隙を作るという奇策に出るが、まったく通じず敗れ去っている。
甲斐の山 (かいのやま)
相撲巧者として知られる通好みの力士。立会いで播磨灘の呼吸を読み、息を吐いたところを見計らって勝負に出るが、播磨灘にはまったく通じず、あっさりと敗退した。
松島 (まつしま)
謙虚で爽やかな美男子で、女性人気も高い力士。播磨灘にも形ばかりではない横綱への礼をもって接している。九州場所を訪れた前田亜希子が、アンチ播磨灘の観客から暴行されかかったところを身を挺して救っている。その九州場所での播磨灘との対戦では、顔面に張り手を連発されて敗退。 しばらくは顔の晴れが引かなかった。
武乃富士 (たけのふじ)
かつての大横綱武蔵富士の息子で番付は前頭筆頭。若干20歳の角界のサラブレッドであり、将来を嘱望される人気力士だったが、九州場所では播磨灘を土俵際まで追い詰めたものの、突っ張り一発で逆側の土俵際まで吹っ飛ばされ、よろめいた挙句に土俵下へ転がり落ちるという醜態を晒した。
維新竜 (いしんりゅう)
幕内最軽量の力士で、身の軽さを身上としている。そのスピードを活かして播磨灘の足を取り、態勢を崩したところを持ち上げようとしたが、取った足を大きく振られて宙に飛ばされる。さらに、空中で1回転させられたところに突っ張りを受けて、土俵外へ落とされてしまった。
北条 (ほうじょう)
30年以上も相撲を追いかけてきた超ベテランの新聞記者で、角界の秩序を破壊する播磨灘の姿勢を批判し、その動向に目を光らせている。
大河内 (おおこうち)
横綱審議委員を務める数学者で、横綱審議委員会内では唯一の播磨灘の理解者である。播磨灘の横綱位剥奪と角界追放を決める会合の直前に倒れ、帰らぬ人となる。これにより、会合は中止となり、土俵外の力学で播磨灘を排除することは不可能となった。播磨灘は大河内の通夜に廻し姿で現れ、またもや周囲から非難を浴びることとなった。
八田 登 (はった のぼる)
九州玄界組の組長。自動車の接触事故で偶然播磨灘と出会い、その迫力に頭を下げる。さらに播磨灘に誘われ酒を酌み交わしたことで、その存在に魅了され、播磨灘に日本一の化粧回しを送ろうと奔走。ついにはヤクザから足を洗い、一生播磨灘に付いていくことを決意した。
ブリッツ・ザ・ブルーザー
最強と名高いプロレスラー。播磨灘の弟弟子たちが運んでいた綱を、大金を叩きつけて持ち去り、それを締めてリングで土俵入りのようなパフォーマンスを披露した。だが、綱を取り戻しに来た播磨灘に両腕をへし折られ気絶、そのまま病院送りとなってしまう。