概要・あらすじ
中学生の野村萌子は、海辺の小さな町である千郷町に住んでいた。ある日、萌子の父が自宅に七森喜一を引き取って一緒に暮らすと言い出す。しかし、萌子の兄である野村春樹が亡くなってからまだ1年も経っておらず、萌子の母は割り切れない気持ちが残っていた。そんななか、萌子の母親が保管していた春樹の遺骨を海にまいていた萌子は、1人の少年と出会う。
その少年は喜一その人だった。こうして萌子と喜一の同居が始まったが、萌子は喜一との関係が、クラスメイトにからかわれるのでは、と心中穏やかでいられない。しかし、戸惑いながらも少しずつ喜一と触れ合ううち、萌子は彼と姉弟になりたいという気持ちを強くする。そんななか、萌子はクラスメイトの西浦雄介に告白されて交際を始める。
西浦への気持ちはあるものの、喜一のことも気になる萌子は微妙に心を揺らすのだった。
登場人物・キャラクター
野村 萌子 (のむら もえこ)
千郷町に住む中学2年生の少女。萌子の父が七森喜一を引き取ることを独断で決めたため、戸惑っている。喜一がやって来る日、亡くなった自分の兄である野村春樹の遺骨を海にまいていたところで、偶然に喜一と出会う。喜一と同居していることについて、最初は周囲に冷やかされるのが嫌で隠していた。徐々に喜一のことを受け入れ、姉弟として仲良くなりたいと思うようになる。 クラスメイトの西浦雄介に想いを寄せながら、その気持ちをうまく表現できずにいたが、クラスメイトの目の前で西浦に告白され、付き合うようになる。西浦への想いの一方、喜一のことも気にかけており、兄である春樹のことを忘れたくないという気持ちもあり、複雑に心を揺らしていく。アイドルグループの嵐のファンで、雑誌の切り抜きを大切に保管し、出演する番組は常にチェックしている。
七森 喜一 (ななもり きいち)
東京から千郷町にやって来た中学1年生の少年。自身の父親の友人であった萌子の父に引き取られ、野村萌子と同居することになる。ドラムが好きで常にドラムスティックを持ち歩いており、暇さえあれば、いろいろなものを叩いてリズムを取る癖がある。千郷町に来て千郷中学校に転入する。弱気な性格でクラスになじめず、牧田たちにいじめのターゲットにされてしまう。 そんななか、音楽好きという共通点がある丸茂さやと親しくなる。母親を一昨年に亡くしており、喜一の父は精神を病んでしまったため、東京ではほぼ独りぼっちだった。萌子とは純粋に仲良くなりたいと思っている。萌子の父親から、野村家の正式な養子になる話を持ち掛けられ、それを受け入れる。
西浦 雄介 (にしうら ゆうすけ)
野村萌子のクラスメイトの少年。バスケットボール部に所属している。自転車屋の息子で、よく店を手伝っている。萌子のことが好きで、思わせぶりな言動を取っては萌子を戸惑わせる。萌子が七森喜一のことでクラスの男子からからかわれた時には、萌子をかばった。そのため、授業中に西浦雄介と萌子の仲を冷やかされ、これをきっかけに、クラスメイト全員の前で萌子に告白。 こうして萌子と付き合うようになるが、萌子が喜一のことを何かと気にかけているのを見て、複雑な気持ちを抱く。
ミヨリ
七森喜一のクラスメイトの少女。喜一がいじめられているのを遠くから見て面白がっており、そのいじめの現場で何もできなかった野村萌子を嘲笑する。西浦雄介の家である自転車屋の隣で店を構える喫茶店の娘。西浦とは幼なじみ。しょっちゅう西浦の部屋を訪ねては、西浦に煙たがられている。実は西浦のことが好きで、西浦と萌子がキスをしているところを目撃し、ショックを受ける。
丸茂 さや (まるも さや)
千郷中学校でも目立つ存在の中学3年生の少女。大人っぽい雰囲気で、教師に本気で好意を寄せられているという噂が広まっている。そのため、野村萌子たちの間でも、その存在を知られている。大学生の彼と付き合っており、学校をサボることもしばしばだが、自分自身に退屈さを感じている。ひょんなことから七森喜一と出会い、音楽好きという共通点から、喜一と行動をともにするようになる。
萌子の父 (もえこのちち)
野村萌子の父親で、大学で働いている。半ば独断で七森喜一を自分の家に引き取ることを決め、迎え入れた。息子である野村春樹の死後から、萌子の母とは仲が冷え切っている。春樹にとらわれすぎる萌子の母親に、喜一と新しい生活を始めることを勧める。喜一の父や母親とは、東大の法哲学ゼミの同級生。喜一の母親の死後に精神を病んだ喜一の父親に代わり、喜一を引き取ることにした。 その後、喜一を正式に養子に迎えたいと切り出す。
萌子の母 (もえこのはは)
野村萌子の母親。息子である野村春樹が突然亡くなってしまい、その死を受け入れられずにいる。そのため、春樹の死後1年も経たないうちに、七森喜一を引き取ることに難色を示していた。喜一が家にやって来たばかりの時には、春樹が死んだことで家族がバラバラになった、と自棄気味に話す。しかし、喜一との暮らしの中で徐々に喜一を受け入れ、家族を昔のように戻したいと思うようになる。
野村 春樹 (のむら はるき)
野村萌子の兄。高校に入学したばかりの時にバイク事故で亡くなっている。萌子の母は野村春樹の死を受け入れられず、遺骨の一部をきんちゃく袋に入れて、戸棚にしまったままである。萌子とは仲が良く、海水浴に行って2人で沖に流された時には、気丈に萌子をリードしていた。萌子は七森喜一との生活の中で、春樹のことを忘れていくのを恐れている。
喜一の父 (きいちのちち)
七森喜一の父親。喜一の母親が亡くなった後、抜け殻のようになり、精神を病んでしまった。自分の息子である喜一のことを、隣に下宿している学生と思い込んでおり、喜一のことは放置していた。その後施設に預けられることになり、喜一は野村家に引き取られることになる。
キク
野村萌子のクラスメイトの少女。丸顔で陽気な性格であり、校内の噂にも敏感。萌子が七森喜一と同居を始めたことを隠していた時、萌子と喜一が一緒にいるのを偶然目撃。2人の同居を最初に知ることになった。萌子が西浦雄介と付き合いだした際には、その仲について興味津々に萌子に尋ねる。
河村 (かわむら)
野村萌子の同級生で、西浦雄介の家の近所に住んでいる少女。よく西浦を訪ねて萌子たちのクラスにやって来る。西浦の家の自転車屋と同じ商店街の酒屋の娘。店番をすると売り上げが上がると評判。萌子には当初、西浦と河村が付き合っていると思われていた。
牧田 (まきた)
七森喜一が転入したクラスの少女。支配欲が強く、自分が所属する女子バスケットボール部の部員を引き連れて喜一をいじめる。父親が千郷中学校の校長であることから、喜一が転校して来た理由を知り、それをいじめのネタにした。クラスの他の男子も牧田の被害に遭っていたが、反抗するよりも黙っていた方がマシと考え、喜一へのいじめも黙認されていた。
場所
千郷町 (ちさとちょう)
野村萌子たちが住む海辺の小さな田舎町。近所の住人はほとんどが顔見知りであり、農作物は近所の農家で分けてもらい、魚は漁師からもらうのが普通である。スーパーは少し遠い距離にあり、買い物はちょっとしたレジャー感覚。東京からやって来た七森喜一は、この田舎の暮らしに興味を抱き、自身も楽しいと感じていた。ちなみに西浦雄介の家の自転車屋が、この町のすべての自転車を取り扱っている。
千郷中学校 (ちさとちゅうがっこう)
野村萌子たちが通う中学校。七森喜一が転校して来た学校でもある。喜一はクラスになじめず、牧田たちのいじめのターゲットにされてしまう。また萌子も自分のクラスで、西浦や喜一とのことでクラスメイトにからかわれることが多い。