あらすじ
第1巻
17歳の女子高校生・岸辺志乃は、幼い頃に交通事故で両親を亡くして以来、兄の岸辺大志と二人で暮らして来たが、その兄も半年前に風邪をこじらせて亡くなってしまった。それ以降、志乃と大志の残された妻・岸辺希は、周囲の反対を押し切って、二人で新しい生活を始めた。志乃は、自分といっしょに暮らす道を選択してくれた希に感謝しながらも、自分という存在が義姉の重荷にならないようにと、最大限の気遣いをしながら過ごしていた。だが一方の希は、志乃が遠慮して自分を頼ってくれない事に寂しさを募らせていた。小学校の教師を務めている希は、志乃のためにつねにしっかりあらねばと、ずっと頑張り続けていたが、志乃自身も気を抜く事ができず、簡単に希に頼る事ができない状況を作り出してしまっていたのだ。そんな微妙な関係にありながらも、志乃と希は、互いに互いを気遣いつつ、時には希ののろけ話で笑い合いながら、大切な人を亡くした悲しみを二人で共有する事で紛らわせるのだった。「兄の嫁」と「夫の妹」という他人同士の二人は、お互いの向こうに大志の影を見ながら、不器用にも家族になろうともがき、やがてその先にあるたくさんの小さな幸せに気づいていく。
第2巻
時は半年前に遡る。会社に泊まり込んで仕事をしていた岸辺大志が突然亡くなり、妹の岸辺志乃と妻の岸辺希は、取り残された形となった。バタバタと葬儀が済み四十九日も過ぎた頃、高校生の志乃は、一人で生きていく覚悟を固めた。だが、これまでの兄夫婦との約1年間の共同生活から、志乃は自分の中で希の存在がとてつもなく大きなものになっている事に気づいていた。自分のわがままだけで彼女の残りの人生を食いつぶしてはいけないとわかっていながらも、志乃は希という存在を心から欲していたのである。そんな自分の心と戦っていた志乃に対し、希はこのまま二人でいっしょに暮らしたいと打ち明ける。思いがけない希の提案に戸惑いながらも、志乃はほっと胸をなでおろすのだった。
第3巻
毎年恒例の夏祭りの日。岸辺志乃は、岸辺希が見知らぬ男性と肩を並べて歩いている姿を目撃し、モヤモヤした気持ちに支配されていた。相手の男性が、希と同じ学校の教師仲間であろう事は容易に想像がついたものの、いつも兄・岸辺大志と二人でいるところしか見た事がなかった志乃は、兄以外の男性といっしょにいる希の姿に、思いのほか強いショックを受けていたのだ。一方の希は、いつも大志と来ていた夏祭りに行った事で、改めて夫がもうこの世には存在しないという事実を思い知らされていた。現実から目を背け、大志がいない世界から逃げ続けている自分を心の中で責め立て、揺らぐ気持ちのまま希が帰宅すると、そこには家の押し入れから思い出を発掘中の志乃の姿があった。昔のCDやMDを引っ張りだしていくうちに、志乃は兄と希の思い出話を始める。恥ずかしがって途中で話を止めようとする希に対し、志乃は自分の知らない兄の姿を知りたいからと、二人の思い出話を希にせがむのだった。
第4巻
岸辺志乃は、生まれて初めての面接を緊張しながらも乗り越え、無事に近所のレンタルショップのアルバイトスタッフとして採用された。失敗を重ねながらも初日の仕事を終え、働く事の大変さを痛感しながらも、一方で志乃は、新しい場所で新たな仲間に囲まれる事で久しぶりの高揚感を覚え、ワクワクしている自分に気づく。以降、志乃はアルバイト先の仲間と打ち解け、楽しくて仕方ない日々を過ごしていくようになる。そんなある日、希のもとに、高校時代のクラスメイトから結婚式の招待状が届く。律子からの電話で、結婚式に出席するのかと聞かれた希は、年末は忙しく、また会場が遠い北海道である事から出席しないと告げる。さらに、志乃を欠席の理由にしようとする希に、律子はあえて厳しい言葉を投げかける。それは、他人の結婚式を見たくないという自分の気持ちをごまかし、志乃を口実にする事で希自身はあくまでも「いい人」であろうとしているという意見だった。そして律子は、希こそが志乃に依存しているのではないかと指摘する。
登場人物・キャラクター
岸辺 志乃 (きしべ しの)
17歳の女子高校生。幼い頃に両親を亡くし、兄である岸辺大志と2人で暮らしていたが、唯一の肉親である兄も、半年前に亡くした。現在は兄の嫁、すなわち義姉の岸辺希に引き取られ、生活をともにしている。希に対しては、血の繋がりのない自分を養ってもらっていることに負い目を感じている。そのため、迷惑をかけないようにと、常日頃から気を遣って生活している。 一方で、希のことを心から慕っており、まだ将来のある希といつか別れる日がくるのではないか、と不安を感じることもある。もともと勉強が苦手で、学校では提出物を出さない傾向にあった。だが、目時の「勉強は、自分の進路の幅を広げるため、将来やりたいことができたときに諦めたり苦労しないために行う」という主旨の言葉に、それまでまったくやる気のなかった勉強に対する姿勢が、少し改善の兆しを見せるようになる。 写真を撮られることが苦手。
岸辺 希 (きしべ のぞみ)
小学校の教師を務める24歳の女性。岸辺大志の妻。夫を亡くして以降、義妹の岸辺志乃と2人で暮らしている。志乃との生活からは、亡き夫・大志を感じられることがあり、嬉しく思っている。志乃をとてもかわいがっており、義姉として、志乃に心配をかけないように明るく接するように努めている。また、志乃の保護者としての責任も果たそうと、日々努力している。 志乃が自分を頼ってくれないことを気にしており、自分が頼りないからだ、と自責の念にかられている。ほんわかした天然ボケ系に見える美女だが、実はしっかり者の優等生タイプで料理も上手。また負けず嫌いで、何に関しても、やると決めたことは徹底してやらないと気が済まない。生前の大志からは「のんちゃん」と呼ばれており、それを知った志乃が、時々この呼び方を使うことがある。 旧姓は「小西」。
岸辺 大志 (きしべ たいし)
岸辺志乃の兄で、岸辺希の夫。子供の頃に交通事故で両親を亡くして以来、妹の志乃と2人で暮らしてきた。その後、希と結婚したが、半年前、風邪が悪化して帰らぬ人となった。志乃との兄妹仲は非常に良く、日常の出来事は何でも報告しあう仲だった。そのため、特に結婚前、交際中だった希とのことは、志乃にほとんど筒抜け状態。また、記念日が好きで、些細なことを何でも記念日にしては手帳に記していた。 律子とは幼なじみの腐れ縁で、高校時代には、「一生のお願い」を使って律子に希との仲を取り持ってもらった。
翔太郎 (しょうたろう)
岸辺志乃のクラスメイトの男子高校生。志乃とは幼なじみでもあり、岸辺大志も含めてよく一緒に遊んだ仲。志乃の家にはゲーム機がなく、昔からゲーム機ごと持ち込んで遊ぶことが通例となっていた。そのため、今でもおすすめのゲームソフトを志乃に貸す時は、ゲーム機本体もセットで持ってくる。ゲームが大好きで、暇さえあればスマホのゲームアプリで課金ガチャをしている。 それをとがめられないように勉強も努力しており、意外と成績も悪くない。
律子 (りつこ)
翔太郎の姉。年齢は24歳。アメリカ在住だったが、家族にも何の連絡もなしに仕事を辞めて突然帰国した。岸辺大志とは幼なじみで、岸辺希とは高校時代3年間同じクラスだった親友。高校時代、希と大志の恋愛を実らせた立役者だった。色黒で男勝りで、思ったことは遠慮なく口に出す、図々しくにぎやかな性格。弟と同じくゲーム好き。
みなと
岸辺志乃のクラスメイトの女子高校生。志乃とは幼なじみであり、親友。校内ではいつも志乃と翔太郎の3人で行動をともにしている。一人っ子で、良くも悪くも周囲に気を遣わないところが魅力。能天気に見えて、意外と観察眼は鋭い。特に志乃の変化は目ざとく感じ取り、志乃には分からないようにフォローすることに徹している。バレーボールが得意で、中学時代は県選抜に選ばれたほどの実力の持ち主。
目時 (めとき)
岸辺志乃の高校の男性教師。担当は地理。志乃のクラスの教科担当を務めている。過去に3年間、志乃の兄、岸辺大志の担任を務めたことがあり、兄を亡くした志乃のことを心から心配し、親身になっている。同時に高校時代の岸辺希のこともよく知っており、希と志乃との暮らしについても気にかけている。勉強しなければならない理由は、「自分の進路の幅を広げるためであり、将来やりたいことができた時に諦めたり苦労しないようにするため」というのが持論で、ただ進学するためだけにするものではないと考えている。
諸星 (もろぼし)
岸辺希が勤める小学校の先輩女性教師。希が何か失敗して落ち込んでいると、何かにつけて酒の席に誘おうとする。明るくノリも軽いが、実際は夫を亡くした希を心配しており、また希が義妹、岸辺志乃に対して潔癖であろうとしすぎることに危機感を抱いている。時には6年目の先輩教師として、希に的確なアドバイスをしたり、良くないところを指摘することもある。
藤 (ふじ)
岸辺希が勤める小学校の先輩男性教師。日々忙しく、悩みの尽きない希を心から心配している。希には密かな想いを寄せているものの、何のアクションも起こしていない。希を酒に誘うこともできず、結局いつも諸星の酒に付き合う形になっている。
小泉 (こいずみ)
岸辺志乃が通う高校のバレーボール部で、マネージャーを務める女子。志乃やみなとの後輩にあたる。もともとバレーボールの素質があったが、両親の離婚に伴い、妹、小泉梨奈や弟の面倒を見なければならなくなったため、部では選手ではなくマネージャーを務めることになった。両親の離婚のせいで、自分だけが我慢を強いられていると感じており、精神的にひっ迫している。 そのため、妹に辛くあたることも少なくない。のほほんと幸せそうで適当に見える志乃を嫌っている。
小泉 梨奈 (こいずみ りな)
小泉の小学生の妹。岸辺希が担任を務めるクラスの教え子。帰宅途中、自宅の鍵を失くしたことに気付いて探していたところ、岸辺志乃に偶然会って一緒に探すことになる。母親や姉に迷惑をかけたくないと、いつも家族に気を遣っており、学校で熱を出した際にも、母親に迷惑がかかるからと早退を嫌がった。
明子 (あきこ)
岸辺志乃と同じ高校に通う女子。志乃をアルバイトに誘った。志乃の後ろにはいつも翔太郎とみなとが一緒にいるため、それを「ガーディアン」と呼び、強そうな2人を従えていると、友達と話している。
みさこ
みなとの母親。岸辺志乃を幼い頃から知っており、かわいがりつつ気にもかけている。志乃が兄、岸辺大志を亡くした時には、我が家に養子に迎えようとまでしたという逸話もあるほど。志乃の両親の葬儀の際には、岸辺兄妹の押し付け合いを始めた親戚たちを、自分が面倒を見るからと一喝し、帰らせたことがある。
小西 寿
岸辺希の父親。アロハシャツにサングラス姿というラフな出で立ちの、ノリの軽い中年男性。希と岸辺志乃の二人暮らしを心配しており、特に志乃と暮らすことに関し、母親と喧嘩したままになっている希のことが気になっている。そのため、希に内緒で様子を見に来たり、志乃と連絡を取り合ったりしている。
お母さん (おかあさん)
岸辺希の母親。希とは、岸辺志乃と一緒に暮らすことに関して意見が合わず、喧嘩別れしたままとなっている。ただ、これは心配性な性格によるものであり、志乃との関係を拒絶しているわけではない。昔から希の相談ごとに対し、言葉がきつくなりがちなため喧嘩になることが多く、互いに頑固なので長期戦になりやすい傾向にある。
児玉 (こだま)
岸辺志乃がアルバイトをしているレンタルショップの店長を務める中年男性。志乃の採用面接時、履歴書の保護者欄にある名前が、志乃とは違う苗字だった事で家庭環境について心配しつつも、余計な詮索はすべきではないと気遣いを見せるなど、気さくで人のいい好人物。
橘 ひとみ (たちばな ひとみ)
岸辺志乃がアルバイトをしているレンタルショップで働く女子学生。美容師を目指して、専門学校に通っている。派手な容姿から、店長の児玉からは「ギャル」と呼ばれる事もある。いつも明るく気さくな性格で、いっしょに働く事になった志乃ともすぐに打ち解け、後輩としてかわいがっている。
立花 健吾 (たちばな けんご)
岸辺志乃がアルバイトをしているレンタルショップで働く男性。マイペースで口数が少ないが、女の子には優しい。いつも大きめのバイクに乗っている。志乃が客として店を訪れた時、彼女が使ったメンバーズカードの名義が岸辺大志である事に気づき、志乃との関係性に思いを馳せる。
三輪 (みわ)
岸辺志乃がアルバイトをしているレンタルショップで働くショートヘアの女性。表情があまり変わらないため、店長の児玉からは、「鉄仮面」と呼ばれる事もある。劇団員の彼氏を養っており、橘ひとみからはそんな彼氏の事を「ヒモ」と言われている。
書誌情報
兄の嫁と暮らしています。 15巻 スクウェア・エニックス〈ヤングガンガンコミックス〉
第12巻
(2022-07-25発行、 978-4757580398)
第13巻
(2023-02-25発行、 978-4757584174)
第14巻
(2023-09-25発行、 978-4757588073)
第15巻
(2024-06-25発行、 978-4757592704)