正反対な境遇で育った二人の出会い
絵を描くことが唯一の趣味という、その日暮らしの清掃員・霧生一希は、ある日資産家の嵐山透と出会い、彼の自宅に招かれる。絵が気に入ったから買いたいと透は言うが、一希は自分の落書きが金になるわけがないと断った。そして、欲しければどうぞとクロッキー帳を放り投げた。それを受け取った透は、部屋に飾られた絵画の話を突然始める。その絵の作者・墨谷凛は、経済的な問題で作家活動が困難になるが、ある時パトロンに見いだされて有名作家になったという。その後、透はアート関連の来客との商談を済ませ、「掘り出し物で将来的に伸びる」と説明して一希の絵を売りつけた。それを見た一希は詐欺だと怒るが、透は大真面目だった。墨谷凛の絵画は1億2千万円であり、一希も将来そうなるというのだ。そして、自分が一希のパトロンになると申し出た。こうして、正反対な境遇の二人は出会い、タッグを組むことになる。
まったくの素人がアート界に飛び込み成長していく
寝床と飯を確保するだけで手いっぱいという一希にとって、アート界は別世界である。ほかの作家たちと違って、経歴も発表歴も、絵を学んだこともない。そんな一希には、アートオークションで、何が描いてあるかわからない絵が5千万円で売れることが理解できない。資産家のホームパーティーに招かれた際も、紙を丸めたゴミようなものを見つけて捨てようとするが、じつはそれもアート作品だった。本作はそんな門外漢の一希が、いろいろなタイプのアーティストやギャラリーのオーナーたちと出会い、正解のないアート界で成長していく姿を描く。
アートビジネスの舞台裏を丁寧に描く
本作の舞台になっているのは、日本のアート界。業界のことをまったく知らない一希をとおして、絵画が売れる仕組みやアートビジネスの裏側が描かれる。透は「絵を売って稼ぐ」という意味が理解できない一希に、絵画の流通の基本が、一次市場(プライマリー)と二次市場(セカンダリー)だと説明する。そして、二次市場であるアートオークションで、絵画の値段が美術史的価値と市場価値に左右されることを教え、代表的な一次市場であるギャラリーでは、絵が最初に世に出る場所の重要性を教えた。ほかにも、海外の作品を購入する際に利用される、保税倉庫の仕組みや、絵画の販売価格の内訳といったアート界の事情が丁寧に語られる。
登場人物・キャラクター
霧生 一希 (きりゅう かずき)
児童養護施設出身の青年。ネカフェ暮らしの清掃員として働いていたが、資産家の嵐山透との出会いをきっかけに、アートの世界に足を踏み入れる。なお、現在は透の家で暮らしている。幼い頃から描きたい衝動があり、自分の頭にあるモヤモヤを、黒のマジックペンだけで表現する。
嵐山 透 (あらしやま とおる)
資産家のアートコレクター。メガネが特徴の青年。自分の持ちビルを清掃していた霧生一希が、休憩時間に描いていた絵に価値を見いだす。一希のパトロンとなり、自分だけの最高傑作を作りたいという野望を抱く。一希の気持ちを考えず、強引に物事を進めることがある。
書誌情報
いつか死ぬなら絵を売ってから 4巻 秋田書店〈ボニータ・コミックス〉
第1巻
(2023-06-15発行、 978-4253263948)
第2巻
(2023-12-14発行、 978-4253263955)
第3巻
(2024-05-16発行、 978-4253263962)
第4巻
(2024-07-16発行、 978-4253263979)