かくりよの宿飯 あやかしお宿に嫁入りします。

かくりよの宿飯 あやかしお宿に嫁入りします。

友麻碧の小説『かくりよの宿飯』のコミカライズ作品。あやかしの住まう「隠世」を舞台に、借金返済のために天神屋で働くことになった、津場木葵の奮闘や日常を描いたグルメファンタジー。「B's-LOG COMIC」2016年Vol.40から掲載の作品。

正式名称
かくりよの宿飯 あやかしお宿に嫁入りします。
ふりがな
かくりよのやどめし あやかしおやどによめいりします
原作者
友麻 碧
作者
ジャンル
和風ファンタジー
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

第1巻

就職活動に励む女子大学生の津場木葵は、亡き祖父の津場木史郎から譲り受けた「あやかし」を見る不思議な力を持っていた。そんな葵は、いつものように野良あやかしたちを餌付けしている最中に、面をかぶった謎の男性に遭遇する。その男性があやかしだと見抜いた葵は、空腹な彼を放っておけず、自分の手作り弁当を渡す。のちに弁当箱は洗って返され、お礼として珍しい柄の手ぬぐいと美しい簪(かんざし)が添えられていた。だが、その手ぬぐいを広げた瞬間、葵は再び出現した男性にさらわれ、あやかしたちの住まう世界「隠世」へ連れ込まれてしまう。葵をさらった男性の正体は、隠世の有名な老舗宿「天神屋」を営む鬼神の大旦那だったのである。大旦那は葵に対し、若い頃の史郎が天神屋で巨額の借金を作っていたこと、その借金のカタとして孫娘の葵が将来の妻として差し出されていたことを語る。混乱する葵は大旦那に嫁入りするのを拒絶し、その代わりに隠世に残って働くことで、史郎の作った借金をすべて返済すると宣言。勢いで天神屋の従業員になると宣言してしまった葵だったが、天神屋のあやかしたちは史郎がかつて起こした騒動から彼女を忌み嫌っており、彼女は天神屋での仕事を見つけることができず途方に暮れてしまう。見知らぬ場所で孤独を感じた葵は空腹で眠れずにいたが、そこに葵を心配する銀次が現れ、得意料理のいなり寿司を振る舞う。銀次の優しい対応に感謝する葵は、隠世と天神屋の詳しい話を彼に聞くこととなる。

第2巻

若い頃からトラブルメーカーだった津場木史郎が残した借金を返済する起死回生の策として、天神屋で働くことになった津場木葵は、恩人の銀次の助けを受けるもなかなか稼ぎ場所が見つからず困っていた。そんなある日、いつものように仕事探しをしていた葵は、天神屋と来客のあいだに起こったトラブルに巻き込まれ、頭をケガして宿を離れていた。一人でケガの処置をしていた葵は、庭先で倒れていた天狗の老人、松葉と出会う。葵は腹を空かせている松葉に手料理を振る舞いながら、若い頃の史郎の知り合いだと言う彼から、昔の話を聞く。史郎のことを思い出しながら、松葉の話に聞き入っていた葵は、若い頃の史郎の人物像が知れたことを嬉しく思うのだった。後日、宿内で仕事を見つけるのが難しいと悟った葵は、宿の外で仕事を探し始める。だが、いきなり銀次に呼び出された葵は、先日訪れた松葉に宿飯を振る舞ったことを、大旦那たちに問い質(ただ)される。そこへ松葉が現れ、葵のことがすっかり気に入った彼は、彼女のことを天狗の山で引き取りたいと申し出る。借金も代わりに返済すると豪語する松葉の気持ちを嬉しく思うも、葵は史郎がやったことの責任を取りたいという理由で、その提案を断る。松葉を見送った大旦那たちはいつもどおり宿の営業を再開し、安堵(あんど)した葵は廊下で遭遇した春日から、松葉と天神屋のあいだで起こったトラブルの詳細を聞く。

第3巻

嫁入りを逃れるために天神屋での仕事を探し続ける津場木葵だったが、隠世に住むあやかしたちはそのほとんどが、津場木史郎の孫である葵を快く思わない者ばかりだった。特に対抗心を燃やしてくるお涼や、土蜘蛛のとは、一触即発ともいえる状態が続いていた。そんな葵は身近なあやかしとの交流を経て、お涼たちの過去やそれぞれの関係性を少しずつ知っていく。体調を崩したままのお涼の看病を続ける葵は、得意の料理を通して、彼女との距離を少しずつ縮めていた。史郎から教わってきたあやかし好みの味付けのおかげで、葵の手料理を支持する者がひそかに増えていく中、暁と鈴蘭のあいだで兄妹ゲンカが発生。あこがれの史郎が亡くなっていたことを知り、ショックを受けた鈴蘭が隠世を離れて現世へ行こうとするも、彼女を心配する暁に止められてしまったのが、ケンカの原因であった。天神屋内で蜘蛛妖怪の姿となった二人が暴れ回った末に戦いには鈴蘭が勝利し、暁は下の庭まで落ちていく。とばっちりを食らった葵は風呂で体を清めたあと、大旦那から暁と鈴蘭の過去を聞く。暁たちはもともと現世出身のあやかしで、二人して史郎に世話になっていたことがあり、鈴蘭だけは史郎に対して今でも強い恩義と好意を抱いていた。後日、鈴蘭に差し入れを届けた葵は、彼女から現世での身の上話を改めて聞く。ケンカしたままの鈴蘭たちを心配する葵は、仲を取り持とうと二人の思い出の料理に挑戦することになる。

第4巻

無事に鈴蘭を現世へと届けた津場木葵は、現世への未練をわずかに残しながらも、再び隠世へと戻る。大旦那との約束どおり、天神屋の離れの建物で新しい食事処を開くことを認められた葵は、もっとも身近な上司である銀次と共にメニューの研究や開店の準備を進めていた。そして葵は、いくつかの出来事を経て距離を縮めたお涼たちの協力も得て、建物の外観の改装を開始する。そんな中、隠世の一大イベントである七夕祭りの日がせまっていた。葵と共に食事処の開店準備を進める銀次たちは、隠世の七夕は盛大な祭りと同時に大規模な商戦が繰り広げられることから、天神屋にとっても重要な稼ぎ時なのだと熱弁する。仲居たちを連れて葵たちの様子を見に来た大旦那は、忙しい日々を送る彼女の息抜きも兼ねて、鬼門の地の大商店街「銀天街」の視察に誘う。さっそく、浴衣に着替えて大旦那と銀次の案内を受けながら銀天街を回る葵は、屋台や店を営むあやかしたちと出会う。葵が銀天街にやってきたのは、あやかしたちが営む店を見て回ることで、食事処の営業に必要な調理器具や料理の参考にするためでもあった。そして、さまざまなあやかしと知り合った葵は、幼少期から見覚えのある白い面をかぶったあやかしに遭遇し、気になった彼女は思わずそのあとを追う。

第5巻

紆余曲折の末、松葉に「夕がお」という店名をもらい、張り切って食事処を開店した津場木葵だったが、客足はほとんどなく、店の経営は赤字が続いていた。夕がおが建っている場所は、これまで誰が何をやっても失敗ばかりが続く「鬼門中の鬼門」として避けられている、いわくつきの土地でもあった。そんな不吉の地に客を呼ぶためにあの手この手を考える葵だったが、彼女のことをよく思わないあやかしたちの怪しい動きも見られるようになり、妨害に遭う彼女は銀次と共にさまざまな苦難に立たされていた。長雨の続く憂鬱な日が続く中、天神屋のお帳場を仕切る白夜に呼び出された葵と銀次は、夕がおがまともな売り上げを出せていない現状を指摘され、結果を出さなければ夕がおには予算を出さないと告げられてしまう。これ以降も増えぬ客足に対して白夜の監視が厳しさを増していき、窮地に立たされた葵は久しぶりに会った大旦那の優しさを嚙み締めながら、あきらめずに夕がおの経営を立て直すための策を練り始める。そんな葵のもとに、すっかり彼女の料理を気に入ったお涼が駆け込み、少し前から天神屋に宿泊している客の薄荷坊に弁当を作って欲しいと依頼。多忙な作家の薄荷坊でも食べやすい弁当のアイディアを考えていた葵は、雨の中裏山に向かって歩いている大旦那の姿を見つける。

第6巻

夕がおの経営がなんとか軌道に乗ってきた頃、白夜を納得させられる成果を出した津場木葵は、忙しくも順風満帆な毎日を送っていた。そんな中、夕がおの経営に慣れた葵のもとに、白夜を通して重要な依頼が届く。それは、隠世の宮中「妖王家」の縫ノ陰夫妻が夕がおに訪れる結婚記念日に、食事係として二人にふさわしい料理を出すという内容だった。しかも、縫ノ陰の奥方である律子は、現世の長崎から来た人間なのだと言う。夕がおや天神屋の未来だけでなく、自身の料理の腕を懸けた重要任務に挑むことになった葵は、夫妻の結婚記念日にふさわしいメニューを考え始める。律子に合わせてレトロな洋食を出すことにした葵だったが、必要な食材はいずれも隠世では入手困難な物ばかりであった。銀次たちから、東の地で現世やほかの異界の珍味が集められた特殊な市が開催されていると聞いた葵は、大旦那の了承を得て食材の買い出しに向かうこととなる。後日、予定どおり銀次と共に東へ向かい必要な食材を購入した葵だったが、途中で彼とはぐれてしまい、何者かによって暗く寒い密室に閉じ込められてしまう。孤独と不安の中、外から響く雷音で葵の脳裏に浮かび上がるのは、母親に置き去りにされた幼い日の記憶であった。薄れる意識の中で葵は大旦那たちに救出されたが、丸一日眠っていた彼女が目覚めた時には、夫妻の記念日当日の昼になっていた。何も準備できていない葵は、大旦那たちに止められながらも、食事係の仕事を最後までやり遂げたいという決意を示す。

メディアミックス

小説

本作『かくりよの宿飯 あやかしお宿に嫁入りします。』は、友麻碧の小説『かくりよの宿飯』を原作としている。富士見L文庫から刊行され、イラストはLaruhaが担当している。

登場人物・キャラクター

津場木 葵 (つばき あおい)

現世に住む女子大学生。祖父の津場木史郎から受け継いだ、「あやかし」を見る能力の持ち主で、あやかしとの遭遇や会話にも慣れている。まっすぐで負けん気が強い性格で、あやかし相手にも物怖じすることはないが、少々お人好しなところがある。史郎の影響で幼い頃から食への興味や関心が非常に強く、料理を作ることも食べることも大好きで、特に家庭料理が得意。学業や就職活動に励む中で大旦那に遭遇し、隠世に連れ去られる。大旦那と史郎が昔交わしていた約束により、借金のカタ代わりに大旦那の将来的な妻として、知らぬうちに差し出されていた。大旦那への嫁入りを拒否し、代わりに彼が営む天神屋で働いて借金を返済することを宣言した。これ以降、現世を離れたまま天神屋で仕事探しをしているが、史郎をよく思わないあやかしが多いため、銀次以外の従業員たちからは冷遇されがち。このため、宿内では仕事が見つからなかったが、離れにある建物で食事処「夕がお」を開くことになった。当初は夕がおの客足も乏しかったが、夕がおでの仕事や周囲との交流を経て、少しずつあやかしたちから認められるようになる。料理の作り方は史郎に教わったが、あやかしが好む甘めの味付けを教わってきたため、作る料理はすべてあやかしから評判が高い。過去の経験から、困っている者や空腹な者を放っておけず、たとえあやかし相手でも食べ物を分けてやるなど親切に接している。通学中もあやかしに遭遇することが多く、チビをはじめとする野良あやかしを餌付けするのが習慣と化している。幼少期に父親を亡くし、育児放棄した母親から置き去りにされた過去を持つ。雷雨の夜に空腹で死にそうになっていたところを、白い能面をかぶった謎のあやかしに救われたことがある。これらの過去から雷と空腹が苦手。

大旦那 (おおだんな)

隠世の老舗宿「天神屋」の大旦那を務める鬼神の男性。八葉の一角を担い、北東の鬼門の地を治めている。ふだんは額に2本のツノが生えた黒髪の男性の姿をしているが、美女や青年の姿になることもできる。上品な振る舞いが多く冷静で理知的だが、飄々とした性格をしている。本心や自分のことをほとんど語らず、いつもミステリアスな雰囲気を漂わせている。天神屋のあやかしたちからは、慈悲深く思慮深い偉大な大妖怪として、敬愛や信頼を寄せられている。しかし、その生い立ちや過去は謎が多く、本名すら不明。津場木史郎とは昔からの知り合いで、彼が天神屋で作った借金のカタとして、津場木葵を自分の将来の妻として貰い受けるという約束を交わしていた。葵からは嫁入りを拒まれるが、天神屋で働いて借金を返すと豪語する彼女を邪魔することなく見守り、気まぐれに彼女と取引をしたり協力したりしている。葵と初めて出会った時に、彼女に貰った弁当の礼として椿の簪をプレゼントしている。時間の経過と共に姿を変えていくこの簪は、葵の借金返済期限を示す時計代わりでもある。頑なに嫁入りを拒む葵の態度にむくれながらも、彼女の言動や行動をすべて楽しんでいる素振りも見せ、茶化したりからかったりもする。その一方で、まっすぐで努力家な葵を心配して甘やかし、過保護な態度を取ることもある。特に葵が夕がおの開店を決めてからは、銀次やほかのあやかしを通して、彼女に協力することが多くなった。

銀次 (ぎんじ)

天神屋の若旦那を務める九尾の狐の青年。袴を着用した銀髪の青年の姿をしており、狐耳と九つの尻尾が生えている。控えめな優しい性格で、仕事も優秀にこなす。若旦那としては青年の姿で行動することが多いが、子狐や少年、女性、巨大な神獣など9種類の姿に化けることもできる。あやかしたちから冷遇される津場木葵には最初から好意的に接し、孤独と空腹で不安だった彼女に、得意料理のいなり寿司を差し入れした。以前から葵のことを知っている様子で、何かと彼女を気にかけて協力している。離れで食事処を開きたいという葵の要望に全面的に協力し、自ら夕がおの責任者となって、彼女にさまざまな助言や情報を与えながら開店準備を整えた。携わった事業が次々と成功することから「天神屋の招き狐」といわれているが、夕がおが「鬼門中の鬼門」にあることから経営はかなり難航し、葵と共に白夜に呼び出され閉店の危機に陥ったこともある。ふだんはまじめで温厚ながら、大旦那の前で少年の姿に化けて食事を奢(おご)ってもらおうとするなど、したたかでちゃっかりした一面を見せることもある。葵のことを心から慕い、淡い思いを抱いている。昔は八葉の一角「折尾屋」にいたため天神屋での勤務歴は50年程度と短いが、大旦那との付き合いは長い。同じく折尾屋にいた乱丸とは、織姫という女性のもとでいっしょに育てられた義兄弟のような関係。

お涼 (おりょう)

天神屋の若女将を務める雪女。雪のような白髪のショートヘアで、和服を着たスタイルのいい美女の姿をしている。職業柄見た目にはつねに気を遣っているが、実はかなり食い意地が張っている。高飛車な物言いが多いが、わがままで子供っぽい一面もある。恩人でもある大旦那を敬愛しており、若女将に抜擢されたあとは玉の輿を狙っている。大好きな大旦那の期待に応えようとするも、彼への思いが暴走して行き過ぎた行動に出たり、結果的にトラブルを招いてしまうことがある。元は貧しい家に生まれ、幼い頃から奉公に出ていた。お供として天神屋を訪れた時に、主人が大旦那に贈ろうとしていた高級品を割って厳しく叱られていたところを大旦那に拾われ、天神屋の仲居として働くようになった。大旦那への思いから、津場木葵のことは快く思っていない。ある出来事をきっかけに若女将の仕事を放り出して外出してしまい、若女将の座を下ろされてただの仲居に戻ってしまう。大旦那からの信頼を失ったショックで体調を崩してしまい、春日によって葵の住む離れに運び込まれ、しばらくは葵の看病を受けていた。葵の手料理を食べたり身の上話をするうちに少しずつ心を開いていき、彼女の料理をすっかり気に入って夕がおの開店にも協力するようになる。夕がおの開店後も時々遊びにきては、葵の料理を楽しんだり、新たな仕事を依頼したりしている。体調の悪い時はアイスクリームなど冷たい食べ物しか口にできないが、ふだんはどんな料理でも食べられる。こってりした味付けが好みで、隠世では珍しいマヨネーズにはまっている。

春日 (かすが)

天神屋で仲居をしている化け狸の少女。狸耳が生えた、たれ目で茶髪の少女の姿をしている。明るく元気な性格の持ち主。さまざまなことに興味津々で好奇心旺盛なところがあり、現世出身の人間である津場木葵にも気さくに話しかけている。かなりの情報通で、隠世や天神屋に関するうわさ話や情報を、葵に教えてくれることもある。ふだんは少女の姿をしているが、びっくりした時などは元の子狸の姿になってしまう。

(あかつき)

天神屋の番頭を務める土蜘蛛の男性。赤毛の男性の姿をしている。若くして幹部となった仕事熱心で優秀な有望株だが、生真面目で頑固な性格で、少々頭に血が上りやすく荒っぽい口調で話す。現世出身で津場木史郎とは浅からぬ因縁があることから、津場木葵のことを忌み嫌い、冷たい態度で接する。妹の鈴蘭には弱く、昔から妹思いで体の弱い彼女のことを守り続けていた。鈴蘭が現世に行くのを止めたことで兄妹ゲンカになり、彼女に敗北して土蜘蛛の姿から戻れなくなってしまう。この時に葵に助けられ、彼女の料理を口にするうちに、少しずつ心を開いていく。両親が現世に住んでいたため、鈴蘭と共に現世で育ったが、両親がある事件で殺害されたあとは彼女と身を寄せ合いながら二人きりで生きてきた。人間への信頼をなくし、生きるために人間を襲うこともあったが、退治屋に混じっていた史郎に敗北し、鈴蘭と共に彼と使役の契約を交わされる。しばらくは史郎の家でコキ使われながら暮らしていたが、鈴蘭と共に隠世に移るよう告げられ、言われたとおりに隠世に渡るも史郎のことを恨むようになった。隠世に移ってからは大旦那に拾われ、天神屋で働くようになった。史郎から料理を教えられることもあったが、不器用なため今でもあまり得意ではない。史郎に教えられたキャベツの千切りには「スピードが命」というこだわりを持つ。ケンカしたままで鈴蘭が現世に行くことを見かねた葵の提案を受け、史郎や鈴蘭との思い出の料理である水餃子作りに挑む。これらをきっかけに葵と打ち解けていき、夕がおの開店準備などにも力を貸した。

鈴蘭 (すずらん)

暁の妹。隠世の都で芸妓をしている。赤毛の美女の姿をした女郎蜘蛛だが、おっとりした見かけによらず、暁に似て頑固なところもある。体が弱いが芸妓としての能力は高く、三味線や琴の演奏も得意。暁とは異なり、津場木史郎のことが大好き。無理やり八幡屋の反之介に嫁入りさせられそうになって逃げ出していたところを、大旦那と津場木葵に助けられる。史郎の死を知らぬまま現世へ渡るための金を稼ぎ、暁に事実を知らされたあとも現世へ行こうとする。しかし、暁から現世に行くことを反対され、天神屋内で蜘蛛の姿となって大ゲンカの騒ぎを起こす。この勝負に勝利したあと、心配した葵に暁や史郎と現世で過ごしていた時のことを語り、彼女と親しくなった。昔は家族と共に現世で暮らしていたが、ある事件により両親が殺されたため、暁と身を寄せ合うように生きていた。暁に守られていたが、彼を退治した史郎によって保護され、使役の契約を結ぶ。しばらくは暁と共に史郎の世話になりながら現世で暮らしていたが、史郎が葵を引き取ったのをきっかけに、暁と共に隠世へ行くよう告げられる。史郎との別れを惜しみながらも言われたとおりに隠世へ向かい、大旦那の世話になりながら、しばらくは天神屋で仲居をしていた。葵にこれらの過去を語ったあとは予定どおり現世に行くことが決まるが、出発日に天神屋が八幡屋に襲撃されたため、大旦那の命令を受けた葵の護衛を受けながら現世へ渡った。

津場木 史郎 (つばき しろう)

津場木葵の祖父。あやかしを見る能力を持つ。すでに病死しているが、若い頃は現世と隠世を自由に行き来しながらあちこちでトラブルを起こしており、葵が隠世にさらわれる原因を作った元凶ともいえる人物。天神屋でも数々の迷惑行為や騒動を起こして1億円近い借金を作り、この借金のカタとして葵を将来の妻として、大旦那に差し出す約束を交わしていた。母親に捨てられ施設で暮らしていた葵を引き取った老人だが、生前の評判はかなり悪く、かかわった者たちから「クズ野郎」呼ばわりされている。退魔師の家系であやかしと戦うこともでき、気まぐれで退治した暁を鈴蘭と共に引き取り、使役の契約を交わしていっしょに暮していたことがある。葵を引き取ってからは暁と鈴蘭に隠世に行くよう告げ、それ以降は引き取った葵のよき祖父となり、料理を教えながら大切に育てていた。葵には料理の作り方だけでなく、あやかしから身を守るための方法も教え、特に鬼には注意するよう言い付けていた。元はふつうの味付けを好んでいたが、葵が自力であやかしから身を守れるように、あやかしが好みやすい甘めの味付けをあえて教えていた。暁をはじめ天神屋のあやかしたちからは快く思われていないが、長い年月を生きる中で飽きやすいあやかしたちにとっては注目の的であり、ダークヒーローとして作家から小説の題材に選ばれることもあった。自由奔放な生き方で、種族を問わず周囲の者たちを翻弄し続け、死後も多くの者から嫌われると同時にあこがれを抱かれている偉大な人物でもある。

松葉 (まつば)

天狗の男性。老人の姿をしたご隠居で、隠世の西にある「朱門山」の天狗たちを束ねている八葉の一角。酒好きで少々頑固な性格で、亭主関白なところもあり、頭に血が上りやすい。特に妻の葉鳥とはよくケンカをしている。天神屋でトラブルを起こして倒れていたところを津場木葵に助けられ、彼女の料理と人柄を気に入り溺愛している。昔、川で溺れていたところを津場木史郎に助けてもらったことがあり、破天荒な彼を気に入っている。助けた見返りとして史郎に天狗の団扇を求められるが、彼が亡くなったため、葵に渡された。この団扇は煽(あお)ぐことで風を起こすこともでき、葵が身を守るのに活用されている。のちに葵が食事処を開く際、店名として「夕がお」の名前を与えた。

チビ

無害代表の低級あやかし「手鞠河童」の少年。現世に住んでいる。手毬くらいの大きさでかなり貧弱だが、体がぷにぷにしていて触り心地は抜群。河原などで仲間と暮らしているが、津場木葵に食べ物を与えられても仲間に取られるばかりで、食べそびれることが多い。キュウリが大好物。葵を慕い、彼女の眷属を自称している。かわいらしい見た目だがあざとい一面もある。葵が隠世へ移ったことで食べ物がなくなり、仲間たちが住処(すみか)を求めて大移動する中で置いて行かれ、孤独に生きていた。一時的に現世へ戻ってきた葵と再会し、再び隠世へ渡った彼女に同行した。現世での苦しい体験から、あやかしが現世で生きることの辛さや難しさをよくわかっている。

反之介 (たんのすけ)

八葉の一角「八幡屋」の若君で、一反木綿。老舗の高級反物屋で甘やかされながら育ったお坊ちゃまで、女好きの馬鹿息子としても有名。鈴蘭にしつこく嫁入りをせまり、大金を積んで手に入れようとするが逃げられてしまう。権力や財力を傲慢に振りかざすが、困った時はすぐにじいやに頼る。

白夜 (びゃくや)

天神屋のお帳場の長を務めている白沢の男性。九つの心眼でなんでも見通す力を持つ。真っ白な和服をまとった白髪の青年の姿をしており、左目に菱形の片眼鏡をかけている。天神屋の宿の懐事情のいっさいを仕切る立場にあり、非常に厳格で博識な性格をしている。重鎮として長年天神屋を支えてきた古株でもあり、大旦那との付き合いも長い。元は宮中の役人で、八葉や宮中のあやかしですら、白夜には頭の上がらない者がいる。子猫のあやかし「管子猫」が大好きで、時おり竹林に住む管子猫たちにエサを与えて愛でている。これらの秘密の趣味を隠しているつもりだがすでに周囲にはバレており、津場木葵にも管子猫と戯れている場面を偶然見られてしまった。お帳場の仕事においては、利益の見込みないものは容赦なく切り捨て、可能性があるものにはとことん投資するタイプ。このため、売り上げを出せていない夕がおは予算を減らすと告げたが、葵と銀次の奮闘の末にその成長と功績を認めた。

サスケ

天神屋のお庭番を務めるカマイタチの少年。代々御庭番の家系で、父親も御庭番として働いている。イタチ耳が生えた細身の少年の姿をしているが、意外と大食漢。庭掃除から曲者退治、要人の護衛まで幅広い仕事をこなしている。警備中に偶然出会った津場木葵と親しくなる。見た目は中学生くらいだが、葵よりもずっと年上。津場木史郎の友人でもあり、かつては悪戯仲間だった。一族の決まりにより、語尾は「ござる」を付けて話すが、たまに忘れてしまう。

黄金童子 (おうごんどうじ)

津場木葵の前に突如として現れた座敷童(ざしきわらし)の少女。座敷童の中では珍しい金髪のおかっぱ頭で、寡黙で儚(はかな)げな子供ながら大人びた雰囲気を漂わせている。小豆ご飯をはじめとする小豆料理が大好き。葵から出された小豆入りミルク寒天を気に入り、彼女にお気に入りの手毬(てまり)を贈って姿を消した。隠世においても神出鬼没のあやかしであり、商売繁盛などの幸運をもたらす希少な存在としても有名。

乱丸 (らんまる)

八葉の一角「折尾屋」の旦那頭を務める狛犬(こまいぬ)の男性。犬耳が生えた赤毛の長髪の男性の姿をしている。筋肉質な体型で、雄々しく荒々しい性格の持ち主。「獣王乱丸」の異名を持つ気高いあやかしで、部下からの信頼も厚い。銀次とは昔から折尾屋でいっしょに育った義兄弟のような関係。自らの一族が治める南の地を誰よりも愛しているが、行き過ぎた行動に出ることもある。お涼からは色男と言われている。

薄荷坊 (はっかぼう)

入道坊主というあやかしの男性。隠世の人気作家で、和服をまとったムジナの男性の姿で、丸い眼鏡をかけている。ふだんはおとなしいが仕事への熱意は強く、小説の題材を集めるために、どこへ行く時もメモを持ち歩いている。仕事が進まない時などは天神屋に訪れ、部屋にこもりながら原稿に向かっている。多忙なため食事を口にせず、部屋にこもったまま仲居たちを困らせていた。見かねたお涼の依頼を受けた津場木葵から出された弁当に感動し、彼女を慕うようになる。作家たちにとってのダークヒーローのような存在でもある津場木史郎には、昔から熱狂的なあこがれを抱いている。デビュー作の主人公のモデルに大旦那を選んでいたこともあり、天神屋との付き合いは長い。のちに葵と夕がおを紹介するコラムを新聞に寄稿し、客足の乏しかった夕がおを繁盛に導いた。

律子 (りつこ)

隠世に嫁いだ現世出身の人間の女性。縫ノ陰の奥方。おっとりした雰囲気で、優しい性格をしている。昭和初期の生まれで、昔は長崎に住んでいた。学生時代に住んでいた福岡の本屋で縫ノ陰と出会い、洋食屋でデートを重ねるようになった。このため、昔の洋食屋で食べたレトロな洋食が縫ノ陰との思い出になっている。

縫ノ陰 (ぬいのいん)

隠世の妖王家に出自を持つあやかしの男性。妖都の宮中で暮らす貴族で、穏やかで家族思いな性格をしている。現世で出会った律子と恋に落ち、奥方として迎えた。読書家で現世への関心が強く、異界の文化を好み、時おり律子と共に現世に遊びに行っている。律子との夫婦仲は良好で、誰よりも彼女を大切に思っている。毎年の結婚記念日には妖都の外に出て、静かな席を設けて律子と共に記念日を祝っている。

場所

隠世 (かくりよ)

「あやかし」と呼ばれている、この世ならざる存在が住まう世界。これに対し、人間が住まう人間界は「現世(うつしよ)」と呼ばれている。中心地である妖都を囲う八つの土地から成り、多彩な自然と多様な文化で栄えている。現世とは対照的に、隠世に住まう者たちの活動時間は夜や深夜が中心となっているが、人間と同じように活き活きと日々の生活を営んでいる。人間はほとんど住んでいないが、律子のように現世から移り住み、あやかしと共に生き続けている者もいる。住人の中には面をかぶることにより、自身の正体や弱点を隠しながら行動している者がいるが、大半は人間にとっての帽子のようにファッション感覚で面をかぶっている。八葉など特別なあやかしは隠世と異界を自由に行き来できるが、それ以外の者は特別な手順を踏まないと、ほかの異界に渡ることはできない。

天神屋 (てんじんや)

隠世にある有名な老舗宿。大旦那が営んでいる。北東に位置する「鬼門の地」に大規模な店を構え、長い歴史や功績と共に、多くの従業員を抱えている。隠世一ともされる温泉を目当てに訪れるあやかしを中心に、いつも多くの客でにぎわっている。豪華客室「大椿の間」や、12種のお品書きを持つ「天神会席」など名物も多く、「異世界旅立ち贅沢プラン」をはじめとする豪勢な宿泊プランも設けられている。

夕がお (ゆうがお)

天神屋の離れに開かれた食事処。津場木葵と銀次が料理人や責任者を務めている。葵を気に入った松葉によって、「夕方に開店する食事処」の意味を込めて名づけられた。店は天神屋の中心にある閑静な中庭に囲まれた、「何をやってもうまくいかない」といういわくつきの場所に建てられている。「鬼門中の鬼門」とも呼ばれている不吉な地であるため、これまでに天神屋の従業員たちがあらゆる事業を展開しても客が訪れず、失敗ばかりだった。このため、葵が開店したばかりの頃は客足も乏しく閉店の危機に陥ったこともあるが、葵の料理に感動した薄荷坊の宣伝などを経て客が急増し、繁盛するようになった。料理の評判だけでなく「人間の鬼嫁」とされる葵の噂に惹かれ、興味本位で訪れる客も多い。

妖都 (ようと)

隠世の中心に位置する、栄華を極めたあやかしたちの都。八葉をまとめあげ、隠世を治めている妖王の一族が住まう神殿があるほか、多くの上流貴族たちが暮らしている。高級料亭や芸妓屋、土産物屋なども多数並び、つねにたくさんの観光客でにぎわっている。この妖都を囲んでいる八つの土地は、八葉によって治められている。

その他キーワード

椿の簪 (つばきのかんざし)

大旦那が弁当の礼として、津場木葵に贈った紅い簪。月日の経過と共に少しずつ形を変える珍しい鉱石「紅水晶」が飾られている。先端にある椿のつぼみは、ゆっくりと花が咲いていく。この椿の花がすべて散るまでが、葵の借金返済期限として決められている。

八葉 (はちよう)

妖都を囲む八つの土地を治めている、八人のあやかしの実力者やその一族。また、八葉が治めるそれぞれの地名や経営する事業、店名や組織名などを指すこともある。現在の八葉は氷人、鬼神、龍人、小豆洗い、犬神、一反木綿、天狗、文門狸が担い、いずれも有名な老舗や事業などを営んでいる。天神屋を営む大旦那は、北東の地を治める鬼神の八葉である。

クレジット

原作

友麻 碧

キャラクター原案

Laruha

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