あらすじ
第1巻
山中の空環神社に暮らす由は外出を許されたことがなく、外界と隔絶された生活を送っていた。祭りの日、こっそりと抜け出した由と、昔から由を兄のようにして面倒を見ている黒狐は、皆同じように目に映るヒトビトの群れの中で、はっきりと個人を識別できる二人の男子高校生、椿灯吾と遠近秋良に出会う。神社に帰った由が、無断外出を咎められるかと身構えながら、ミコトに件の「個体差のはっきりとわかった二人のヒト」の話をすると、ミコトは強く興味を示し、そのどちらかを選んで「食事」する時が来たと由に告げる。その頃、街では失踪事件が多発していた。しかも不思議なことに、誰がいなくなったのか、もともと本当にそんな人物がいたのか、周りの者は誰も覚えていなかった。しかし、「神隠し」と称されるそんな事象を、灯吾と秋良だけは何故かはっきりと記憶に留めているのだった。
第2巻
かつて椿灯吾と遠近秋良が通っていた嵯峨野幼稚園の園長先生が、園児に化けた悪食のあのこの食事にされ、神隠しに遭う。灯吾、秋良、由の三人は、椿灯奈を迎えに行った時に園長先生が姿を消したことに気づき、犯人探しを開始する。そんな中、由の前に「嵯峨野」と名乗る謎の人物が現れ、一方的に攻撃を仕掛けてくる。空環神社に暮らすあやかしの架月、眞白、朔、薙は、由を助け、「嵯峨野」を捕まえようと追撃するが、簡単に逃げられてしまう。
第3巻
家に帰宅した遠近秋良は、そこで「嵯峨野」を名乗った謎の人物と出会う。父親の遠近彰駿によれば、彼は古くからの友人の「アカシ」であるという。そして秋良に、実は自分達が住む空環の街はあやかしのための「いけすの街」であり、街全体が結界に覆われているために、全域が神隠し状態になっているのだと説明する。その頃、由はミコトから、正体の知れぬ「嵯峨野」と名乗る何物かがミコトの弟、シンの身体に入り、わが身のようにあやっていると告げられる。さらにミコトによれば、あやかしが活動するための影をつなぎとめる影の楔でもあったシンの身体が失われたため、近いうちに街の結界がなくなってしまうのだという。
第4巻
椿灯吾の母親、椿朱音は、かつて佐倉由季と共に祭りの夜に姿を消した。灯吾は朱音がいなくなる前、冬祭りの夜に「狐面の男」を見かけ、その時、朱音がひどく取り乱していたことを思い出す。その「狐面の男」は「サクラヨシキ」と名乗り、灯吾を守ると告げる。由が「サクラヨシキ」に似ていると感じた灯吾だったが、由はその人物を知らないと言う。その頃、ミコトは空環神社の「食事の場」である椿池の水底に眠る由季に、「由もまた椿の子を見出したよ」と語りかける。
第5巻
ある日、由は、空環神社の外へ出ようとしたところで倒れてしまう。由の弱った様子を見た狭塔は、食事を用意するので、由を動かさないようにと、黒狐に告げるが、黒狐は食事を拒む由の意を汲んで、彼を連れて神社を逃走。その頃、遠近秋良と椿灯吾は、街に来なくなった由を心配し、空環神社に見舞いに行こうかと話し合っていた。秋良は「アカシ」に言われた「神社の入り口の守り火を消せば願いが叶う」という一言を気にしつつ、灯吾といっしょに空環神社を訪ねる。そこで二人は薬を盛られ、灯吾が捕らわれてしまう。遠近の一族だからと帰された秋良は、灯吾を取り戻すために神社の入り口の守り火を消す。するとそこに「アカシ」が現れ、あやかしを全滅させることを目的に暴れ回る。その頃、由は包帯の若い男の襲撃を受ける。黒狐は由を守り抜き、包帯の若い男性を撃退するが、そこで「本当は由を喰らいたいのだろう」と指摘され、激しく狼狽える。
第6巻
図らずも自分の本心を知られてしまった黒狐は、由に空環神社に戻るように伝え、そのまま姿を消してしまう。その頃、空環神社では、「アカシ」の破壊活動が続いていた。彼の本当の名は「椿朱史」で、かつてミコトが食事しようと目をつけていたヒトの少年だった。朱史は空環神社に一人で戻った由に対し、由の中にいるシンを出せと迫る。
第7巻
かつて椿朱史はシンとミコトの食事としてさらわれたが、ミコトの心変わりにより一度解放されていた。この経験により、あやかしの力を使えるようになった朱史は、かつて神隠ししやすい状態を維持するためにシンが作り出した、影の楔を破壊するために舞い戻り、その目的を達していた。だが、力を使い果たしてその場で死亡し、シンは破壊された影の楔をつなぎ止めるために、自分の身体を使った。そしてシンは、失った自身の身体の代わりに、死んだ朱史の身体に入っていたのである。過去の因縁の決着のため戦うミコトと朱史を尻目に、遠近秋良と由は捕らわれている椿灯吾を探すのだった。
第8巻
狭塔は綻びていくシンの結界を保つために、ミコトとシンの力の源である椿池に椿灯吾を捧げようと、手下の足部達に運ばせていた。その途中、足部達は命令に背いて三つ星の灯吾を食べようとしたが、現れた黒狐に灯吾を奪われてしまう。そんな中、灯吾は狐面をつけた男の子が語りかけてくる夢を見ていた。夢の中で彼は、姿を消した時に身重だった灯吾の母親、椿朱音のお腹にいた子供は、どこへ消えたのだろう、と灯吾に問いかけるのだった。その後、夢から覚めた灯吾と、彼を探していた由と遠近秋良は、束の間の再開を果たすが、そこで灯吾は黒狐に椿池に突き落とされてしまう。
第9巻
椿灯吾のあとを追って池に飛び込んだ由は、今まで灯吾に黙っていた事実を打ち明ける。由は一代前の依り代だった佐倉由季と椿朱音の子供で、父親は異なるが灯吾の弟であった。当初、朱音はシンの依り代として子供を産み、その子を由季の代わりにして自分と由季が解放されることを望んだが、朱音と由季はその考えを悔やみ、何よりも生まれたばかりの赤ん坊の由を生かす道を選んだ。結果、由は生まれてすぐに朱音と由季を食事して一人生還し、二人の記憶とシンの記憶も引き継いだのだった。そして灯吾と由は椿池で、母親に置いて行かれたことへの恨みの化身である狐面をつけた男の子、すなわち幼少期の灯吾自身が映し出して見せた過去の出来事を目の当たりにし、すべてを共有する。そして、由が灯吾を食べるのか、逆に奪われた二人を取り返すため、そして二度と置いて行かれないために、灯吾が由を食べるのか、の決断を迫られるのだった。
第10巻
由がシンの依り代になってすぐに、冬の大祭に浮かれる街で、子供に大人気の番組のショーが開催された。居合わせた眞白と架月は、人混みの中に朔と薙の姿を見つけ、声をかける。その直後、人混みを狙って悪食が現れ、ヒトビトに襲い掛かる。ショーの一環の振りをして、架月と眞白は狐の面をつけ、悪食と戦う。(第1譚 宴)
白い髪に青い目の少年が、ススキ野原で笛の練習をしていた。親に反抗し、家の大事な品である「猿田彦の面」を持ち出してきた遠近彰駿は、近づいてはいけないと戒められたススキ野原に先客がおり、そして容貌からその少年をあやかしと思い込み、家に伝わる護り札を振りかざす。(第2譚 芒)
冬山で行倒れてしまった椿朱史が、恋人から教わった歌を口ずさんでいたことに興味を覚えたミコトは、「歌を教えて欲しい」と朱史を連れ帰る。歌を教わりながら、ミコトは彼に「椿の花」を食事として与えていたが、朱史は歌を途中までしか覚えていなかった。ミコトは彼を食事するのに猶予を与え、人里へと戻らせるのだった。(第3譚 神隠~第4譚 歌)
由の行方を探していた椿灯吾と遠近秋良のもとに、椿朱史が姿を現す。2人は由捜索隊を結成し、街で聞き込みを始めるのだった。(第5譚 由)
登場人物・キャラクター
由 (ゆえ)
空環神社に閉じこもって暮らしている少年。高校生の椿灯吾と同じくらいの年齢。頭の左側に狐のお面をつけている。そのため遠近秋良からは、「狐面」または「狐」と呼ばれている。シンの今の依り代となっているので、椿朱史には「容れ物」と呼ばれる。ミコトからは食事の必要性を説かれているが、詳細は教えてもらっておらず、「時が来れば分かる」「惹かれあうもの」といった曖昧な説明しか受けていない。 柔らかい口調でしゃべり、何事も素直に受け止める性格。一方で疑問に思ったことは突き詰めなくては気が済まない。そのため、自身が弱り切っている時に勧められた食事に対しても、納得できない部分があると拒み続ける。
椿 灯吾 (つばき とうご)
空環高等学校に通う男子高校生。つねにヘッドホンを身につけている。父親の椿夜市、幼稚園児の妹、椿灯奈と三人暮らしで、母親の椿朱音は、7年前に神隠しに遭っている。あやかしにとってはご馳走とされる、「三つ星」と呼ばれる存在。そのため、昔からよくあやかしに襲われていたが、その度に「狐面の男」の佐倉由季に助けられていた。 祭りの夜に出会った由が、初対面から親し気にするのを不審がりながらも、言葉を掛けられれば普通に会話する、付き合いのいい性格をしている。料理も得意で、妹の面倒をよく見ている。椿灯吾本人は自覚していないが、幼少期に母親に捨てられたと感じており、これが大きなトラウマとなっている。
椿 灯奈 (つばき ひな)
椿灯吾の妹。嵯峨野幼稚園に通っている。赤ん坊の頃に椿夜市に連れて来られ、以後は椿家の一員として暮らしている。両端に鈴の付いたリボンを首に巻いて襟元で蝶結びにしており、これはミコトの髪飾りのデザインに酷似している。その正体はミコトの9本目の尾の化身「守護の尾」で、灯吾を守るために遣わされていた。家族との仲はとても良好で、支え合い楽しく暮らしていたが、灯吾を危機から救うため、ミコトに力を取り戻させようと、元の尾に戻った。
椿 夜市 (つばき やいち)
椿灯吾と椿灯奈の父親。ぼさぼさとした黒髪の中年男性。子供たちに対し、非常に穏やかに接する、おっとりとした性格をしている。椿朱音と結婚したが、それは朱音が昔から一途に好いている佐倉由季が神隠しに遭ったためだと考えている。そのため、由季の目撃情報を耳にした少しあとに、朱音が神隠しに遭った際には、彼女が由季のもとに帰ったのならば、それで良かったと語った。 なお、灯吾は実子だが、灯奈は、ある日椿夜市が連れ帰って来た子で、実子ではない。
椿 朱音 (つばき あかね)
椿灯吾の母親。毛先を大きくカールさせたふわふわの髪を、肩上の長さでそろえた若い女性。7年ほど前、臨月のお腹を抱えて神隠しに遭った。旧姓は「佐倉」で、神隠しに遭いやすいとされる椿家の血は薄いが、椿朱音の母親も、朱音が幼い時に神隠しに遭っている、という奇妙な点がある。椿夜市と佐倉由季とは幼なじみで、小さい頃から仲が良かった。 しかし、朱音自身は幼い頃からずっと由季が好きで、彼が神隠しに遭って消え、自身が夜市と結婚したあともずっと探し続けていた。
佐倉 由季 (さくら よしき)
椿朱音の従兄。朱音より年上で、朱音には「従兄のお兄ちゃん」とも呼ばれていた。幼い頃から椿夜市と朱音と仲がよく、朱音をずっと守ると約束を交わしていた。しかし、朱音の母親が神隠しに遭って消えてしまい、数年後、朱音も空環の街のあやかしたちの主、シンにさらわれそうになった時に、身代わりを申し出て、シンの新しい依り代となった。 これにより得たあやかしの力を用い、狐面をつけた姿で夜市と朱音の息子である椿灯吾を、密かに悪食たちから守っていた。これを灯吾は覚えており、彼からは「狐面の男」と呼ばれている。
遠近 秋良 (とおちか あきよし)
空環高等学校に通う男子高校生。眼鏡をかけ、酷い花粉症のため、つねにマスクをつけている。椿灯吾とはクラスが離れていて接点はないが、遠近家が先祖代々あやかしとの交渉役を引き受けているため、椿家の者があやかしに好かれやすいと知っており、自発的に灯吾の周辺を警護していた。そのため、灯吾のクラスメイトである鈴来からは、まったく接点もないのに灯吾に付きまとう不審者と思われていた。 のちに灯吾と面識を持ってからは、あやかしに遠近家の名が知られているので、灯吾に苗字で呼ばないで欲しいと頼んだところ、「あっきー」とあだ名を付けられた。由には「あきよし」と呼ばれている。正直で、不正を嫌う性格なため何かと誤解されやすいが、面倒見はいい。 ちなみに、朔や薙に近い距離で話しかけられて赤面するほど、異性に対しては奥手。
遠近 彰駿 (とおちか あきとし)
遠近秋良の父親。眼鏡をかけた中年の男性で、あやかしとの交渉を担っている。息子の秋良に門限を厳しく課しており、それに遅れた際には小遣いを減らす、との厳しい罰則を言い渡した。空環の街に昔から神隠しが起きているのを知っており、簡単に解決することではないと秋良に諭して聞かせている。一方であやかしをすべて街から退去させたいと考えており、密かに椿朱史を蘇らせた。
鈴来 (すずき)
空環高等学校に通う男子高校生。椿灯吾のクラスメイト。ツンツンにはねた黒い短髪で、眼鏡をかけている。父親が刑事をしており、その伝手で空環の街に行方不明事件が多発していることを知り、灯吾に伝えた。接点がないにもかかわらず、灯吾の近辺をうろついている遠近秋良を不審人物と考え、警戒している。
椿 朱史 (つばき あかし)
金色の目に白色の髪を持つ少年。空環の街ができるずっと以前に、ヒトとして暮らしていたが、外見が異質なために、里の者たちからは「鬼子」と呼ばれて恐れられていた。病に倒れた幼なじみの少女のために食材を探していた際、山中で迷って倒れた。その際、少女が歌い聞かせてくれていた「あかやあかしやあやかしの」の歌を口ずさんでいたところを、ミコトに助けられる。 当初はミコトに食事の対象として目をつけられていたが、ミコトの心変わりにより里に帰された。その際、ミコトのもとで彼女の分身のような「椿の花」を食べ続けたため、あやかしの力を身につけた。のちに、ミコトの双子の弟、シンが施したあやかしのための結界の破壊を目論み、成功させるものの、力に身体が追いつかずに死亡してしまう。 この時、シンには自分の身体を奪われ、意識はシンの影の楔に巻き込まれて、数百年の間、暗闇に閉じ込められていた。あやかしの殲滅を目論む遠近彰駿の儀式によって復活し、彼の要請を受けて暗躍する。なお、蘇りの際にシンの身体を奪い、シンそっくりの青年の姿になって現代に現れた。
黒狐 (くろぎつね)
空環神社に住むあやかし。由の兄のように、ずっとそばで生活を支えていた。長い黒髪を首の後ろで一つに束ね、水干のような装束をまとった少年の姿をとったり、肩に乗るくらいの大きさの黒狐の姿になったりする。椿灯吾と遠近秋良を気に入り、友人のように付き合っていた。もともと、シンが実体を失う前から、ともに過ごしていた古参のあやかしだが、由を一番に気に入っているため、妥協してほかの食事をすることを望んでいない。 ちなみに朔からだけは「コッコ」と呼ばれている。
狭塔 (さとう)
空環神社に住むあやかし。眞白や架月らに悪食の「掃除」を指示している。白髪で青い目に、眼鏡をかけた中年男性の姿をしているが、少年の姿になることもできる。ミコトとシンのことを何よりも最優先としており、それ以外については情に流されず、厳しい判断を下す。少年時代の遠近彰駿に会ったことがあり、当時彼があやかしに対して見せた反抗心を、面白がる一面もある。
朔 (さく)
空環神社に住むあやかし。淡い色の長くウェービーな髪で、右目に眼帯をした少女の姿をしている。戦う際には細い糸のようなものを使う。よく薙と一緒に行動しており、薙や由からは「さっちゃん」と呼ばれる。明るい性格で、親しげな口調でよくしゃべる。なお、独自の考えで行動しており、狭塔の指示を受ける立場にはない。
薙 (なぎ)
空環神社に住むあやかし。黒髪を両サイドでお下げにし、眼鏡をかけた少女の姿をしている。戦う際には、鎌を使う。よく朔と一緒に行動しており、朔や由からは「なっちゃん」と呼ばれる。つねに一緒にいる朔が良くしゃべるため、口数はあまり多くない。
シン
ミコトの双子の弟のあやかし。外見は青年のような姿をとっており、並ぶと姉のミコトよりも年上に見える。あやかしが生活しやすくなるように、結界の影の楔を作った存在。かつて、あやかしの力を身につけた椿朱史の攻撃を受け、一度は影の楔を破壊されたが、その際にシン自身の身体を使って影の楔を修復した。朱史が死亡したため、シンは彼の身体を借りて生き延びた。 この時、正しく食事が行われなかったため不安定な状態となっており、頻繁に食事を繰り返さなければ存在を保っていられない。これ以降、見初めた者を依り代として自身の力を受け継がせ、空環の街の影の楔を維持し続けている。朱史が人間として生きていた頃は、里の者に「山の神」とも呼ばれていた。
ミコト
空環神社に住むあやかし。シンの双子の姉。小柄な10代前半ほどの少女の姿をしている。9本の尾を持つが、そのうちの1本は椿灯吾の護衛のため、椿灯奈として人の姿を取らせて送り出している。尾が1本欠けているため、現在は完全な状態で力を使うことができない。かつてミコト自身が食べようとしていた椿朱史から教わった「あかやあかしやあやかしの」の歌を好んでおり、時おり口ずさんでいる。 朱史にあやかしの力を分け与えた張本人。朱史が人間として生きていた頃は、里の者に「山の神」とも呼ばれていた。
眞白 (ましろ)
空環神社に住むあやかし。左右に耳当て部分が付いたキャスケット帽子を被った青年の姿をしている。狭塔の指示のもと、架月と共に悪食と戦っており、傘を武器として使う。空環の街で放送されている幼児向け工作番組のファンを公言するなど柔軟な思考の持ち主で、何かと言動が軽い傾向がある。朔には「ましろっち」と呼ばれている。
架月 (かげつ)
空環神社に住むあやかし。丸眼鏡をかけ、腰ほどまでのショート丈のマントを羽織った青年の姿をしている。狭塔の指示のもと、眞白と共に悪食と戦っており、傘を武器として使う。真面目な性格で、硬い口調でしゃべる。朔には「かげっち」と呼ばれている。
玉露 (ぎょくろ)
空環神社に住むあやかし。空を飛び、人間の言葉を話す金魚。一緒にいる水仙や祁門に比べて一番色が濃い。ヒトの姿に化ける時は、短めの直毛をセンター分けにした髪型の子供の姿になる。口調も幼く、水仙や祁門と一緒にふわふわと漂いながら、よくおしゃべりをしている。
水仙 (すいせん)
空環神社に住むあやかし。空を飛び、人間の言葉を話す金魚。一緒にいる玉露や祁門の中間の色をしている。ヒトの姿に化ける時は、短くツンツンと跳ねた髪型の子供の姿になる。口調も幼く、玉露や祁門と一緒にふわふわと漂いながら、よくおしゃべりをしている。
祁門 (きーむん)
空環神社に住むあやかし。空を飛び、人間の言葉を話す白い金魚。ヒトの姿に化ける時は、短い直毛に右目を前髪で隠した髪型の、子供の姿になる。口調も幼く、玉露や水仙と一緒にふわふわと漂いながら、よくおしゃべりをしている。
足部達 (あべたち)
空環神社に住むあやかし。一見、青年の姿をしているが、二人羽織の恰好で、盛り上がった背中側の羽織の中から複数の手を出している。ヒトビトが普通に神社に参拝に訪れたに際には、背面は盛り上がっておらず、頭の後ろ半分に上着を被った和装姿で社務所に座って、来客におみくじを勧めている。
灯守 (ともり)
空環神社に住むあやかし。顔全体を覆う仮面をつけている。神社の入り口の灯籠の守り火を絶やさないように番をしている。口数が少なく、何を考えているのか摑みづらい存在。
嵐昼 (らんちゅう)
空環神社に住むあやかし。少年の姿をして神社の下働きに従事しており、繕い物や食事を作る担当をしている。黒狐とは古くからの知り合いで仲がいい。黒狐が由を好ましく思うあまり、食事として望みながらも、共に過ごしたいと願う気持ちを抱えて葛藤していることを知っており、心を傷めている。
千年猫 (せんねんねこ)
黒狐の友達の猫。空環の街で暮らしている。顔に「千客万来」とかかれた札のようなものを付けている。「千年マート」という店名の電器店にいるため、「千年猫」と呼ばれている。あらゆる揉め事に対して中立の立場をとっており、助けを求めてきた黒狐をかくまった。
包帯の若い男 (ほうたいのわかいおとこ)
かつて狐の一族だったが、食事を重ねすぎたために悪食に姿を変えてしまった者。かつて黒狐と同じ時代に生きていた頃は、おだやかな性格だった。今は好戦的で、食事への興味を最優先としており、悪食となったあのこの食事に連れ立って、ご相伴にあずかることを繰り返していた。
もみじサン
軒先に吊るされた、てるてるぼうずの姿をしたあやかし。椿灯吾と遠近秋良が買い食いしようとしたたこ焼き屋の軒先に、下がっていた。千年猫が暮らす電器店「千年マート」のお向かいさんでもある。非常に食欲が旺盛。空環の街の名物のたこ焼きが通常のものでなく、あんこたっぷりなことを残念がっており、新鮮なタコを入手して、店主に普通のたこ焼きを作るように交渉しようとしていた。
あのこ
嵯峨野幼稚園の園児に成りすましていた悪食。園長先生を食べてしまった。包帯の若い男と共に行動していたが、椿灯吾を襲撃した際、由の中にいるシンの反撃を受けて消滅した。
場所
空環の街 (うつわのまち)
あやかしが食事をしやすいように作られた「生簀の街」。あやかしの結界に街ごと覆われている。空環の街に暮らす人間は「ヒト」と呼ばれる。周囲から隔絶された空間になっており、どこへも行けず、どこからも入れない状態になっている。だが、影の楔が役割を果たさなくなってくると次第にその効果が反転。住民達はその影響下から離れて、通常の世界に知らず知らず移行している。 神隠しと同じく、街が「生贄の街」であったことを、住人は知覚していない。
空環神社 (うつわじんじゃ)
空環の街にある、由が生まれてからずっといる場所。沢山のあやかしが共同生活をしている。ヒトから見れば、普通の神社に見えるため、特に違和感なく街に溶け込んでいる。入り口には結界の守り火が入った灯籠があり、火が灯っている限りは、穢れは侵入できない。当初はそれで椿朱史の侵入を防いでいたが、遠近秋良が守り火を消したので、悪食や朱史の攻撃を受けてしまう。
空環駅 (うつわえき)
何故か電車が素通りを続ける駅。周囲の住民は、立派な駅舎があるのに、まるで見えていないかのようだと噂している。
空環高等学校 (うつわこうとうがっこう)
椿灯吾や遠近秋良、鈴来が通っている高等学校。最近「都市伝説」として神隠しの噂が流れている。
嵯峨野幼稚園 (さがのようちえん)
椿灯吾の妹、椿灯奈が通っている幼稚園。いつの間にか園児に紛れていたあのこに、園長先生が食事されてしまった。あのこと包帯の若い男が出入りしているのを、幼稚園の先生たちは何度も見かけているが、どこの誰だったかわからないまま見過ごしてしまうことを繰り返している。
ススキ野原 (すすきのはら)
ススキの生えた野原。この野原の先には世の終わりがあるといわれている。小さい頃、椿灯吾はここでかくれんぼをして、危ないから近寄るな、と怒られた記憶がある。かつてシンが施した影の楔の所在地であり、あやかしにとっても近寄ってはいけない場所とされている。
椿池 (つばきいけ)
代々の依り代達が水底で眠る池。まるであの世のような気配の漂う場所。シンとミコトの化身である椿の木が2本並んで立っており、池から養分を得ている。椿灯吾がここに由と共に落ちたが、温かく、呼吸が苦しくならないなど、純粋な池ではない。空環神社から、たくさんの鳥居の連なる、浅い水の張った道を過ぎて行った先に広がっているが、普段はこの椿池に至る道は閉ざされている。
その他キーワード
あやかし
夜の闇の中で力を振るう存在。もともと、人里を離れた山深い場所などで暮らすのを好んでいた。ヒトをその記憶ごと取り込む食事により、飢えを満たす性質がある。なお、あやかしは食事をしなくても生きていられるが、空腹は感じる。そのため、食事の下手なあやかしのためを思って、シンは地元の里(現在の空環の街)に影の楔の術を施した。 だが、このせいで欲張って過剰な食事をする者が現れ、あやかしが悪食に転じてしまう一因となった。
悪食 (あくじき)
食事をし過ぎたためにおかしくなってしまったあやかしを指す。黒い影のような、伸縮自在の身体を持つ。ヒトだけでなくあやかしまで無差別に喰らうため、狭塔の指示のもと、眞白、架月らが「掃除」してまわっている。
「あかやあかしやあやかしの」の歌 (あかやあかしやあやかしののうた)
思う人を呼び戻すとされる歌。歌詞は「あかやあかしやあやかしの、恋しやかの声、かの名前、汝が名を呼ぶのはたそかれの、かそけき水面のわらべうた、君を乞うのはかたはれの、世界のあわいの、ゆめうつつ」。このほかにも、何番かにわたる長いものとなっている。かつて、椿朱史の恋人の少女がよく歌って、朱史に聞かせていた。ミコトが気に入って、教えて欲しいと朱史に求めた歌で、現代では祭りの時に歌われている。
影の楔 (かげのくさび)
200年以上前、まだ街としての形を成さず里だった頃の空環の街に、シンが施した結界。これにより、空環の街はあやかしが活動しやすく、食事をしやすい環境を保ち続けている。
依り代 (よりしろ)
シンの記憶と力を受け継ぐ存在。代々、シンの魂に見込まれた者が依り代となる。シンは、繰り返し依り代を変えなければ、存在し続けられない。
食事 (しょくじ)
依り代の代替わりの儀式。依り代が「候補者」を喰って永らえるか、それとも「候補者」が依り代を喰って成り代わるか、いずれかの方法がある。本来の食事は魂ごと取り込むもので、それほど多く行わなくても問題はない。一方で、シンが作った影の楔のおかげで、あやかしがヒトを喰らうことが増え、これも「食事」と呼ばれる。ちなみに、本来ならあやかしはヒトを喰わなくても死にはしないが、空腹には苛まれる。
三ツ星 (みつぼし)
あやかしに好まれやすい体質を持つヒト。椿の家系からまれに生まれる。三ツ星を喰ったあやかしは、強い力を持つともいわれている。椿灯吾がこの体質の持ち主であり、それを遠近彰駿から聞いた遠近秋良は、自発的に灯吾を見守るようになった。
神隠し (かみかくし)
空環の街で最近多く発生している失踪事件。失踪の噂が多すぎて、現在では神隠しと言っても、具体的にどの事件を指すのかわからないほどになっているが、この噂自体がすぐなくなってしまう。空環高等学校の生徒たちが、誰かと遊びに行く約束をしていたにもかかわらず、相手が誰だったか思い出せない、と頻繁に口にするほど日常茶飯事になっている。
クレジット
- 原作
-
HaccaWorks*
書誌情報
あかやあかしやあやかしの 3巻 KADOKAWA〈MFコミックス ジーンシリーズ〉
第1巻
(2012-07-27発行、 978-4040662626)
第2巻
(2013-01-26発行、 978-4040662633)
第3巻
(2013-07-27発行、 978-4040662640)