かつて神だった獣たちへ

かつて神だった獣たちへ

かつて内戦を終結に導き「神」と呼ばれた英雄たちを殺して回る「獣狩り」と、その「獣狩り」に自身の父親を殺された少女の旅路を描いたダークファンタジー。「別冊少年マガジン」2014年7月号から連載の作品。

正式名称
かつて神だった獣たちへ
ふりがな
かつてかみだったけものたちへ
作者
ジャンル
ダークファンタジー
レーベル
講談社コミックス(講談社)
巻数
既刊15巻
関連商品
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概要・あらすじ

国を南北に二分するパトリアの内戦は、人の姿を捨て、神話の中に登場する異形・異能を持った擬神兵たちの登場により、北部の勝利に終わった。内戦終結後、擬神兵たちは英雄として「神」と呼ばれ、各地へと凱旋、散り散りになった。しかし、英雄であったはずの彼らは平和を取り戻したパトリアで、いつしか「獣」と呼ばれるほどに忌避されるようになり、存在意義を失っていた。

そんな中、「獣狩り」と呼ばれる男が各地で擬神兵を手にかけていく事件が起きる。その「獣狩り」に目の前で擬神兵だった父親を殺されたナンシー・シャール・バンクロフトは、復讐に燃え、ついにその居場所を突き止める。しかし、「獣狩り」の正体は内戦で擬神兵部隊を率いたハンク・ヘンリエットであることが判明。

シャールはハンクがかつての同胞を殺す理由、そしてその使命を知り、擬神兵を巡る旅路に同行することとなる。

登場人物・キャラクター

ハンク・ヘンリエット (はんくへんりえっと)

先の内戦で擬神兵部隊を率いた男性。擬神兵としての姿はウェアウルフであり、擬神兵の中でも数少ない、人と獣の姿に自在に変化することのできる力を持つ。普段は黒髪だが、ウェアウルフとしての力を発現すると髪が白髪になり、ウェアウルフの力が最大に出せる夜には巨大な人狼へと変化し、驚異的な力を発揮する。内戦が終わった現在はパトリアの軍部で特技曹長として活動している。 内戦中の擬神兵部隊における「人の心無くした者は仲間の手で葬る」という訓戒を実践に移すため、各地で問題を起こす擬神兵たちを殺して回る。このことから巷では“獣狩り”と呼ばれているが、本人としては決して望んでかつての同胞たちを手にかけているわけではなく、話が通じそうな相手に対しては必ず説得を試みている。 擬神兵部隊の隊長時代には、多くの部下から慕われる良き上官であり、これは多くの擬神兵たちが未だにハンク・ヘンリエットのことを「隊長」と呼ぶことからも分かる。ジョン・ウィリアム・バンクロフトの命を奪ったことで、その娘であるナンシー・シャール・バンクロフトに一時は命を狙われることになるが、のちにその理由を説明。 擬神兵殺しの旅に同行させることになった。

ナンシー・シャール・バンクロフト (なんしーしゃーるばんくろふと)

ジョン・ウィリアム・バンクロフトの娘。腰まで伸びた長い髪を1つの三つ編みに束ねた髪型をしている。父親であるウィリアムをハンク・ヘンリエットに殺され、復讐を誓ってその行方を追っていた。その後、ついにハンクを見つけ、一時は復讐のために銃口を向けるものの、ハンクの正体と彼にとってかつての同胞でもある擬神兵たちを殺す理由を知り、その道程をともにするようになった。 父親の経営する孤児院で小さな子供たちの世話をしていたということもあり、生来の性格は穏やかで心優しく、か弱い乙女。ハンクと行動をともにするようになってからはその身を案じるような振る舞いも見せるようになっていく。一方で自分の信念を貫く頑固な部分もあり、ハンクがかつての同胞たちの命を奪うことについて、一定の理解を示しながらも、独断で擬神兵を殺さず説得する方法を模索し、行動するような強い一面も持つ。 また、旅の途中だろうとなんだろうと、定時になるとティータイムを欠かさない習性がある。本人によれば「お茶は大事で、ないと死んでしまう」のだという。

ライザ・ルネキャッスル (らいざるねきゃっする)

パトリアの情報局戦後処理部に所属する女性。階級は少尉。毛先が大きくカールした長い金髪、豊満な胸とその谷間にあるほくろが目を引くグラマラスな容姿を持つ。内戦終結後、2年ほど前からハンク・ヘンリエットのパートナーとして、各地に散らばった擬神兵の情報を集め、ハンクに提供するようになった。ハンクに対しては単なる仕事上の関係以上の好意を見せており、ナンシー・シャール・バンクロフトがその旅路に同行することになった際には、心構えのなさや戦力としての不十分さを建前に「足手まとい」と断じ、明らかな敵意を見せていた。 とはいえ、その忠告は半分は本心からのものであり、シャールとものちに和解。ハンクがある事件で姿を消してからは同じ目的を持つ同志として姉妹のような関係となっている。 「男は顔とステータスだ」と豪語する肉食系であり、明け透けで女性らしさを感じさせない振る舞いから、セクシーな容姿を持ちながら軍内部での人気は低い。

ケイン・マッドハウス (けいんまっどはうす)

先の内戦で擬神兵部隊の副隊長を務めた男性。細面に切れ長の瞳の、秀麗な容姿を持つ。名門貴族出身の御曹司でありながら、それを笠に着ることなく擬神兵部隊にも志願。部隊では隊長のハンク・ヘンリエットや擬神兵を生み出した技術者であるエレイン・ブルーレークと戦友と呼べる仲となった。しかし、終戦間際になり、エレインから擬神兵に関わった者たちを葬る計画を聞くと、協力する振りをしながら土壇場でエレインを裏切り、ハンクの目の前でエレインの命を奪った。 これにより、ハンクにとっての仇敵となっており、最優先の抹殺目標となっている。終戦後はパトリアにおいて擬神兵たちが「獣」と呼ばれる現状に不満を抱き、謎の少女と行動をともにしながら、民衆から虐げられている擬神兵たちを巧みな話術で勧誘。 新パトリアの建国宣言とパトリアの現政府に対して宣戦布告を行った。また、この際、自身が恨まれていることを知りながら、ハンクにも新パトリアに勧誘するという行動に出ている。擬神兵としての力はヴァンパイア。のちに現パトリアの大統領であるレイチャード・ウィザーズの息子であること、その本名が「ケイン・ウィザーズ」であることが明かされている。

エレイン・ブルーレーク (えれいんぶるーれーく)

擬神兵を造りだした女性技術者で、ハンク・ヘンリエットの元恋人。長い黒髪に、綺麗な青い瞳を持つ。擬神兵を生み出した者として内戦では擬神兵部隊に同行し、その中でハンクとは特別な関係となっていた。実は自らが生み出した擬神兵の力は、人の手に余ると考えており、「擬神兵はいつか心をなくす」と確信めいた考えを持っていた。そのため、司令部の情報を入手して終戦が間近であることを知ると、擬神兵を自らの手で葬り去ろうと画策。 そして信頼の置けるケイン・マッドハウスにのみ計画を話し、手始めとして、仲間を葬るために非情になりきれないであろうハンクに神殺しの弾丸を撃ち込んだ。だがその直後、ケインの裏切りによって胸に銃弾を打ち込まれて死亡した。 この時、実はハンクはまだ死んでおらず、体が動かない状態のまま、エレイン・ブルーレークの死とケインの裏切りを見ていることだけしかできなかった。この出来事が、のちにハンクが擬神兵殺しに執着するきっかけとなっている。

ジョン・ウィリアム・バンクロフト (じょんうぃりあむばんくろふと)

先の内戦で擬神兵となった男性。ハンク・ヘンリエットの元部下であり、ナンシー・シャール・バンクロフトの父親。心優しく懐の深い人物で、内戦が始まる前は孤児院を経営していたが、孤児院を支援してもらえるという条件のもと擬神兵部隊に志願。不死の竜ニーズヘッグの擬神兵となった。内戦終結後は故郷に戻り、シャールと2人で暮らしていたが、ハンクに居場所を突き止められ、殺されてしまう。

ダニエル・プライス (だにえるぷらいす)

先の内戦で擬神兵となった男性で、ハンク・ヘンリエットの元部下。部隊では「ダニー」という愛称で呼ばれていた。他人を思いやる気持ちの強い優しい性格の持ち主で、故郷であるバーンウッドを貧困から救うために擬神兵部隊に志願。体を自在に巨大化することができる一本角の怪物スプリガンの擬神兵となった。内戦終結後は故郷に戻り、未だ貧困にあえぐ街のためにその力を活かして、出稼ぎに出ては故郷の人々に金銭を持ち帰る生活をしていた。 しかし、実はその裏で金を稼ぐために罪のない人々を襲うという蛮行に出ており、それを知ったハンクに討伐される。

セオドア・シャーマン (せおどあしゃーまん)

先の内戦で擬神兵となった男性で、ハンク・ヘンリエットの元部下。部隊では「セオ」という愛称で呼ばれていた。非常に臆病な性格で、戦時中は何事にも怯えて戸惑い、パニックになってその身を危険に晒すような危なっかしさがあったとハンクに評されている。しかし、部隊にいた頃にハンクからの教えを受け、常に有事に備える心構えを身につけるようになった。 そのおかげもあり、ミノタウロスの擬神兵として器用な手先と怪力を活かし、内戦中は築城のスペシャリストとして活躍。無事に終戦を迎えて、故郷のローグヒルへと帰っていった。しかし、内戦終了後、町の子供から遊びでおもちゃの銃を突きつけられたことをきっかけに正気を失い、ローグヒルの隣に巨大なミノタウロスの砦を築きはじめた。 また要塞の増築を繰り返しながら、街中に響き渡る大きな声で、来るはずもない戦への警告を繰り返す奇行を続けている。そのせいで既にローグヒルの人々からは厄介者扱いされてしまっており、ハンクがその討伐に繰り出すこととなった。

アーサー・オールストン (あーさーおーるすとん)

先の内戦で擬神兵となった男性で、ハンク・ヘンリエットの元部下。部隊では「アーティ」という愛称で呼ばれていた。命令に忠実で、欲や感情を一切見せない寡黙な性格の持ち主。擬神兵部隊に志願し、全長50メートルという巨体の四脚獣ベヒモスの擬神兵となった。表皮が非常に硬く、傷を受けるとすぐさま再生し、しかもより強固になるという性質のため、外傷で殺すことはできないとされている。 内戦終結後、何らかの目的を持って、かつての戦場からただひたすら東へと歩みを進めており、これまでは人がいる場所を避けるように荒野や砂漠を通過していた。しかし、彼が足を踏み入れた渓谷に鉄道の鉄橋がかけられていることから、このまま進めば甚大な被害をもたらすと予測。鉄橋が破壊される前に動きを止めようと、ハンクのもとに討伐依頼が持ち込まれる。

クリストファー・ケインズ (くりすとふぁーけいんず)

先の内戦で擬神兵となった男性で、ハンク・ヘンリエットの元部下。部隊では「トーファー」という愛称で呼ばれていた。筋骨隆々で、非常に強い正義感の持ち主。幼少期は蒸気街ホワイトチャーチの貧民街で、盗みなどを繰り返しながら生きる貧しい少年だった。しかし、巡礼聖職者に救われて一変し、正しい心に目覚める。その後、内戦勃発を機に、貧民街から逃げるように擬神兵部隊に志願。 戦時中は、厭世感の漂う部隊の中にあっても、力強く仲間を鼓舞して盛り立てるリーダーシップを発揮し、ハンクたちからも一目置かれる存在となった。擬神兵としては罪を持つ者を罰するというガーゴイルの力を持つ。内戦終結後は故郷であった蒸気街ホワイトチャーチに戻るも、その異形の姿から周囲の者たちに受け入れられることはなく、このことで次第に精神を蝕まれ、歪んだ正義に囚われていく。

エリザベス・ウィザー (えりざべすうぃざー)

先の内戦で擬神兵となった女性で、ハンク・ヘンリエットの元部下。アラクネの擬神兵。内戦終結後、ケイン・マッドハウスと行動をともにしており、蒸気街ホワイトチャーチで、ハンクとケインが因縁の再会を果たした際、ケインの主催する夜会にハンクを招待するための餌としてナンシー・シャール・バンクロフトをさらった。

ベアトリス

先の内戦で擬神兵となった女性で、ハンク・ヘンリエットの元部下。部隊では「トリス」という愛称で呼ばれていた。擬神兵としてはセイレーンの力と姿を持つ。その歌声は聴いた者を眠りに導き、さらに力を解放することで死に至らしめることさえできる。内戦開始以前は、港町ポートガルフの酒場で歌姫として人気を集めていたが、内戦の開始とともに自分の歌を聞いてくれる者がいなくなったことを嘆いた。 この頃、巡礼聖職者に歌声に特殊な力があることを見出されており、再び歌を楽しむ余裕のある生活を取り戻すために擬神兵部隊に志願した。内戦終了後、密かに故郷に戻って誰とも会うことなく暮らしていたが、新パトリアとパトリアが戦闘状態に入ったことを受け、再び人々の心から平和が失われることを嘆く。 そして、町の人々を永遠の眠りにつかせ、平和な夢を見続けさせるという凶行に走った。

ロイ

先の内戦で擬神兵となった男性で、ハンク・ヘンリエットの元部下。地獄の番犬とされるガルムの力を持つ。内戦では単なる一兵卒として歩兵部隊に所属していた。仲間たちが敵兵の銃弾に次々と倒れていく中、運良く命を拾ったところをハンクやケイン・マッドハウスに出会い、擬神兵部隊に所属することとなった。部隊ではガルムの姿でハンクとともに切り込み役として活躍。 部隊長でもあり、圧倒的な戦力で敵を圧倒するハンクには強い尊敬と羨望の念を抱いていた。内戦終了後の行方は定かではないが、新パトリアの建国宣言を出したケインに恭順し、ハンクを仲間に迎え入れるため説得する任務に就く。しかし、ハンクがこの呼びかけに応じることはなく、ケインの「拒否した場合は殺せ」という命令通り、ハンクにその牙を向ける。

マイルズ・バイロン (まいるずばいろん)

先の内戦で擬神兵となった男性で、ハンク・ヘンリエットの元部下。馬の体に人間の上半身を持つケンタウロスの擬神兵。内戦前は町医者として民衆の命を支え、感謝される毎日を送っていたが、内戦中に軍医として招聘され、その惨状に地獄を見る。そして医者としての無力感に打ちのめされる中、擬神兵になる適性を持つことを知り、自ら志願した。 軍医として命に優先順位を付けねばならず、救った者でさえ翌日には動かぬ肉塊になっていく毎日の中で精神を病んでしまっており、同じく人に感謝されるなら、人を助けるよりも敵を殺すほうが簡単という歪んだ思想を持つに至る。一見飄々として柔和な顔の裏に残虐性を隠し持った人物である。ケイン・マッドハウスの新パトリア建国に際し、その意見に賛同。 新パトリアの拠点となるボルドクリーク要塞周辺の哨戒などの任務に就き、要塞に攻め入って来たハンクと対峙する。

サスカッチ

先の内戦で擬神兵となった男性で、ハンク・ヘンリエットの元部下。内戦終了後はとある雪山に隠れ住みながら、生きるためにやむなく罪を犯していたことで、人々に迷惑をかけていた。これを見咎めたハンクに罪を問われ、必死の抵抗を見せるものの、ウェアウルフの力を解放したハンクに敗北。のちにクーデグラースによってその遺体を発見されることとなった。

カルキノス

ケイン・マッドハウスが、蒸気街ホワイトチャーチで開いた夜会において、その姿を現した擬神兵の1人。体高4メートルという巨大な蟹の姿をしており、大鋏による一振りで人間を真っ二つに切り裂くほどの腕力を持つ。体を覆う殻は非常に硬く、また柔軟であり、斬撃や衝撃などへの耐性は非常に高い。人間であった頃の描写はないが、勇猛さあふれる性格であったとされており、内戦では先陣を切って突撃する矛となり、時には味方の盾となる万夫不当の活躍を見せた。 ちなみに、脚部は万が一切り取られてしまっても脱皮とともにすぐに再生する。さらに、この脚部が非常に美味であることも含め、戦場では高い人気を誇っていた。

謎の少女 (なぞのしょうじょ)

終戦後、ケイン・マッドハウスと行動をともにしている少女。平時は常にケインの足元に隠れており、普通の恥ずかしがり屋の、どこにでもいる女の子のように見える。しかし、ケインの擬神兵としての能力を知っており、その目的に関しても理解している。また、目の前で人々が惨殺される姿を見ても眉一つ動かさないなど、その精神状態は通常のそれとは程遠い。 言葉を発しているシーンや、ケインとともにいる理由、名前など情報がほとんど明かされておらず、謎のままである。

クロード・ウィザーズ (くろーどうぃざーず)

擬神兵討伐部隊であるクーデグラースの隊長を務める青年。無造作にかきあげたオールバック、切れ長の目を持ち、端正な顔立ちをしている。若くして軍では少佐を務めるエリート。実はパトリア現政府の大統領であるレイチャード・ウィザーズの息子であり、また新パトリアの建国を宣言したケイン・マッドハウスの弟でもある。 性格は極めて真面目で無骨。それがゆえに、祖国を裏切り反乱を起こしたケインには複雑な感情を抱いており、そのやり場のない感情の矛先が擬神兵討伐に向けている。しかし、擬神兵については必ず誅すべき獣としながら、過去の内戦を終戦に導いた紛れもない英雄であるとも認識しており、憎しみのみで討伐するべきではないと主張している。 良くも悪くも正義感が強く、不器用な考えの持ち主である。

レイチャード・ウィザーズ (れいちゃーどうぃざーず)

パトリアの大統領であり、ケイン・マッドハウス、クロード・ウィザーズの父親。新パトリアの建国宣言、及びパトリアの現政府に対しての宣戦布告を受け、擬神兵討伐部隊「クーデグラース」を設立。その隊長に自分の息子であるクロードを据えた。周囲の側近からは、クーデグラースの設立はかつての英雄を獣と断じて討伐することで国政を安定に導くと同時に、新パトリアに所属する擬神兵たちに攻撃することの躊躇をなくす目的があると考えられている。 またクロードをクーデグラースの隊長に任命したのは、いずれ新パトリアの首魁であるケインを討伐させる目的があり、祖国を裏切った兄をその弟が誅伐するというシナリオを完成させるためと目されている。

ジェラルド・コラーニ (じぇらるどこらーに)

擬神兵討伐部隊であるクーデグラースにおいて、隊長であるクロード・ウィザーズの補佐を務める中年男性。階級は軍曹。軍人としての豊富な経験を活かし、実働部隊の指揮などを受け持つ。口ひげを蓄えた精悍ながら穏やかな顔つきの人物で、他人に気遣いのできる人格者である。

マーティン・ウォール (まーてぃんうぉーる)

パトリア軍に所属する老齢の男性で、階級は大佐。新パトリアの拠点として要塞と化したボルドクリークの攻略作戦を指揮する役目を任されている。豊かな口ひげを蓄え、常に目を細めて穏やかな顔つきをしている。また物腰は柔らかく、階級の上下にかかわらず、初対面の相手には丁寧な言葉遣いで接する好々爺然とした態度をとる。 しかし、実は根っからの軍人であり、目的を遂行するためには手段を選ばない食わせ者。ボルドクリーク要塞に攻め入るにあたり、マイルズ・バイロンを無力化するために、味方に被害が及ぶこともいとわず、凶悪な兵器である「アルファルド」を使用して、戦場を阿鼻叫喚の渦に巻き込んだ。なお、ケイン・マッドハウスとは何らかの形で面識があった様子だが、彼の手によって首を貫かれ、命を落とす。

巡礼聖職者 (じゅんれいせいしょくしゃ)

各地を旅して回っていた聖職者の男性。七三分けにした髪型に祭服をまとった容姿をしている。まだ内戦が始まるずっと前、蒸気街ホワイトチャーチを訪れており、その際、盗みなどを犯しながら生きていたクリストファー・ケインズを救い、正しい生き方を教えた人物。内戦が始まる前に蒸気街ホワイトチャーチから離れることになったが、その時、ケインズにロザリオを贈っている。

鉄道主 (てつどうぬし)

鉄道会社の社長を務める男性。アーサー・オールストンの進行ルート上に自身が経営する鉄道の鉄橋があり、このまま進めばそれが破壊されるのではないかと危惧している。非常に傲慢かつ自分本位な性格の持ち主で、アーサーを仕留めることが難しいと考え、進路を変更させる作戦を提案するハンク・ヘンリエットたちに対し、鉄橋保護の保証がないとして、今すぐアーサーを殺すようにと難癖を付けてくる。

ひったくり少年 (ひったくりしょうねん)

蒸気街ホワイトチャーチの貧民街に住む少年。ケイン・マッドハウスの目撃情報をもとに、街を訪れたハンク・ヘンリエットの鞄をひったくろうとしたことで知り合う。街で起きている連続殺人事件の現場を目撃したと語り、擬神兵を追っているハンクと利害が一致。その犯人について詳しい情報を提供することになる。

集団・組織

クーデグラース

パトリアの連邦政府の主導により、新たに編成された擬神兵討伐部隊。蒸気街ホワイトチャーチの1区画が巨大な擬神兵によって丸ごと焼き払われた事件を受けて発足した。内戦終了後、多くの問題を抱えながらも終戦の英雄であるために手出しができなかった擬神兵を、明確に討伐対象として定め、その存在の良し悪しに関わらずすべてを滅することを目的としている。 クロード・ウィザーズが隊長を務め、構成員はすべて人間となっている。

新パトリア (しんぱとりあ)

パトリアで起きた南北の内戦終結から5年後、ケイン・マッドハウスによって新たに建国宣言が出された新国家。正式名称は「自由国家新パトリア」。内戦が終わった後、その異形から人々から忌避されていた擬神兵、戦後待遇に不満を持つ南部の貴族や貧困にあえぐ民衆などが、主な賛同者となっている。賛同者を集めた後、パトリアの西部に拠点を置き、パトリアに対して宣戦布告を出した。

場所

パトリア

ハンク・ヘンリエットたちが暮らす国。首都は北部の都市ニューフォート。建築様式や文化は中世ヨーロッパに近いものがあり、蒸気機関が発明されているものの、まだ全土に普及していない程度の文明高度を持つ。建国は100年ほど前、かつて大陸を支配していた大国の植民地であったが、民主主義国家として独立を果たした。しかし、独立後も工業の盛んな北部「パトリアユニオン」と、豊かな資源に恵まれた南部「パトリア連合」の対立は激しく、北部と南部の境に広大な原野が広がっていることが、その隔たりを促進させていた。 そして、この対立が激化し、南北を大きくわけた内戦が勃発。内戦は、南部優勢で進んだものの、擬神兵を生み出した北部によって戦況が覆され、5年前に北部と南部の間で和平が成立。 現在は表向き平和であるが、内戦による傷痕は深く、各地で貧困問題が紛糾。内戦に至った根本的な問題も解決していないなど、数多くの難問を抱えている。そして、内戦終了からさらに数年後、ケイン・マッドハウスによって、新パトリアの独立宣言がなされ、西部を中心とした新勢力が興隆。激動の時代を迎えている。

ニューフォート

パトリア北部に位置するパトリアの首都。パトリアの中央政府が置かれている場所であり、国の心臓に当たる部分。パトリアの国土を東西に分断する大山脈を挟んでボルドクリークの反対側に位置する場所にあり、ボルドクリークに拠点を置く新パトリアとは大山脈を挟んだにらみ合いの状態にある。

ボルドクリーク

パトリアの首都ニューフォートから大山脈を隔てて西に位置する町。かつてパトリア建国の際、西部開拓のための拠点として造られた古い歴史を持つ。現在はケイン・マッドハウスが主導する新パトリアの拠点として使われており、町の隣に巨大な要塞が築き上げられている。

リヴレッドウッド村 (りゔれっどうっどむら)

ナンシー・シャール・バンクロフトの故郷。周囲を岩壁と渓谷に囲まれた小さな平地にある村で、かつては険しい峠道に至る直前の休憩所として栄えたものの、峠の迂回路が開拓されてからは衰退の一途を辿っている。往来がなくなってからは牧畜と農業を主な収入源としながら、細々と生き長らえていた街である。内戦前には慎ましくも住民同士が手を取り合い生きる穏やかな街だったが、内戦を経てシャールの父親であるジョン・ウィリアム・バンクロフトが戻ってからは、村内の家畜が何者かに食い荒らされる事件が頻発するなど、徐々に剣呑な雰囲気が高まっていた。 シャールの父親がハンク・ヘンリエットに討伐され、シャールが村を出てからは、再びもとの暮らしに戻るも、最近になって村の付近で巨大な獣の影が目撃される事件が相次いでいる。

バーンウッド

ダニエル・プライスの故郷。街道沿いに造られた町で、かつては街道を通る人々の休憩所として活気のある街だった。しかし、新街道ができてからは生計が立ち行かず、寂れる一方となっており、ダニエルいわくコーヒー一杯すら満足に飲めないほどの貧困を抱える街となってしまった。ダニエルはそんな街の助けになるべく擬神兵に志願し、義援金を街に送っていた。 またダニエルが内戦から戻った後も、街の収入をダニエルの出稼ぎに頼っている状況である。

ローグヒル

セオドア・シャーマンの故郷。街道沿いに作られた街で、街道を通る人々の休憩所として現在もそれなりに栄えている。内戦から戻ったセオドアのことを英雄として受け入れるも、ある出来事をきっかけにセオドアが乱心。街の隣にミノタウロスの砦が築き上げられ、また毎日のように聞こえるセオドアの咆哮によって街が重苦しい雰囲気に包まれてしまっている。

ミノタウロスの砦 (みのたうろすのとりで)

内戦から戻ったセオドア・シャーマンが、故郷であるローグヒルの街の隣に築き始めた巨大な要塞。セオドアが乱心してから、日々増築され続けており、いまや要塞の影が街を覆い、このままいけばローグヒルの街が飲み込まれるのも時間の問題といわれるほどに肥大化してきている。ミノタウロスの特性を活かして造り上げられたもので、非常に強固であるうえ、侵入者を阻むさまざまな罠があちこちに仕掛けてある。 このため、セオドアを説得すべく要塞に立ち入った街の者たちは1人として帰ってきていない。また要塞の巨大さもさることながら、この場所からセオドアの雄叫びが毎日のように聞こえてくるため、ローグヒルの住民は精神を次第に蝕まれつつある。

蒸気街ホワイトチャーチ (じょうきがいほわいとちゃーち)

石炭鉱脈の真上に建てられた街。名前の由来は、街ができた時からその中央にあるという教会、ホワイトチャーチにちなむ。石炭鉱脈の採掘のために造られた街であり、街の周囲も地下も坑道だらけとなっている。のちに採掘した鉱石の売買で財を成した商人によって街が開発され、その結果、商店など豪奢な店の立ち並ぶ区域と、貧しい雇われ鉱夫や労働者たちが住む貧民街に区分けされることとなった。 ハンク・ヘンリエットたちがケイン・マッドハウスの目撃情報をもとに訪れた場所であり、ちょうどその時には2週間で8件、貧民街の人間ばかりが被害に遭う事件が発生していた。

ポートガルフ

ベアトリスの故郷。パトリアでは北部寄りに位置する場所にある。その昔は静かな漁村であったが、船舶輸送の発達によって経済が発展。都市間輸送の拠点として大いに栄えるようになった。しかし内戦では北部に所属しながらも輸送拠点を狙う南部によって激しい攻撃にさらされ、内戦が終わってからは鉄道網の拡大によって船舶輸送事業も縮小の傾向にある。 また新パトリアの建国、およびパトリアに対する宣戦布告に伴い、唯一の食い扶持である港を軍部に譲り渡すこととなり、町民の心に大きな影を落としている。

マズルピーク物見砦 (まずるぴーくものみとりで)

大山脈に連なる峰の1つであるマズルピークに築かれている砦。100年前のパトリア独立戦争の折、宗主国が建造したもの。現在では既に砦としての耐久性は皆無に近いが、内戦時には資材置き場や進軍の中継点として使用されていた。

大山脈 (だいさんみゃく)

パトリアの国土を東西に分断する長大な山脈。連なる山々は非常に高く、険しく、一年を通して山頂付近の雪が溶けることはない。山脈を東西に抜けるルートはいくつか開拓されているものの、安全に通れるように整備されているわけでもなく、このためにパトリアの西部の開拓は現在に至るまで遅々として進んでいない。新パトリアはこの大山脈を隔てて、パトリアの首都ニューフォートの反対側にあるボルドクリークに拠点を置いており、大山脈を天然の要塞としながら、攻め入る隙を伺っている状態にある。

その他キーワード

擬神兵 (ぎしんへい)

パトリアで勃発した内戦中に、北部の研究者であるエレイン・ブルーレークによって生み出された異形の怪物。詳細は不明だが、人間を媒介とし、なんらかの手段をもって、神話に登場するような怪物の姿に変化させることができる。ただし、誰でも擬神兵とすることができるわけではなく、擬神兵となりうる適性を持つ者にしか効果は出ない。 擬神兵となった者は人間を遥かに越えた力を手にすることができるものの、特殊な一部の例を除いて人間の姿に戻ることはできず、また生態もその姿に応じたものに変化してしまう。内戦においてはその力で北部を勝利に導き、終戦直後は英雄として賞賛を浴びたものの、戦争の記憶が薄まるとともにその異形が人々に忌避されはじめ、内戦終結から数年経過した頃には影で「獣」と呼ばれて蔑まれるようになってしまっている。

象撃ち銃 (ぞううちじゅう)

ナンシー・シャール・バンクロフトが持っている猟銃。まだ内戦が始まる前に父親であるジョン・ウィリアム・バンクロフトから、自衛のために持っておくようにと言われ、使い方を教わったもので、ウィリアムが亡くなった今では形見のような物となっている。

ボンブランス

ハンク・ヘンリエットが擬神兵退治のために使用する武器。長大な槍の穂先に捕鯨銛のような槍先を付けて使用する。槍先には爆薬が仕込まれ、槍先を対象に突き刺した後に爆薬を起爆することで、目標の体内奥深くまで槍先を食い込ませることができる。なおその特性上、槍先はすべて使い捨てであり、見た目の粗雑さに反して非常に金のかかる武器である。

神殺しの弾丸 (かみごろしのだんがん)

擬神兵に撃ち込むことで体内の細胞を自死に導き、確実にその生命を奪うとされる弾丸。内戦終了間際にすべての擬神兵を滅ぼさなくてはならないという使命感に駆られた、擬神兵研究の第一人者であるエレイン・ブルーレークによって作成された。エレインの死によってその製造方法などは闇に葬られてしまったが、のちに1発の弾丸が見つかったことから、パトリア軍によって研究が進み、効果は劣るものの模造品が作られている。 なお、ハンク・ヘンリエットが擬神兵討伐に使用しているのはこの模造品の方であり、擬神兵の命を確実に奪うためには神殺しの弾丸を撃ち込む前に相手を大幅に弱らせる必要がある。

アルファルド

かつてハンク・ヘンリエットが仕留めたヒドラの擬神兵の死骸を研究し、その成果で作り上げられた猛毒の液体。液体が空気中に振りまかれると直ちに昇華し、空気に乗って拡散、それに触れた者の肉体を腐敗させ、成分の含まれた空気を吸った者の命を奪う。ボルドクリーク要塞攻略戦において、マーティン・ウォールの独断で砲弾の一部に隠して装填されており、マイルズ・バイロンを標的として一斉砲撃で効力を発揮。 受けた傷がその場で回復していく再生能力を持つバイロンの能力を遥かに上回り、再生したそばから体が腐敗し、溶けていくという絶望的な死を与えた。

書誌情報

かつて神だった獣たちへ 15巻 講談社〈講談社コミックス〉

第1巻

(2014-12-09発行、 978-4063952629)

第2巻

(2015-06-09発行、 978-4063954104)

第3巻

(2015-12-09発行、 978-4063955521)

第4巻

(2016-08-09発行、 978-4063956825)

第5巻

(2017-02-09発行、 978-4063958362)

第6巻

(2017-09-08発行、 978-4065102015)

第7巻

(2018-03-09発行、 978-4065110706)

第8巻

(2018-08-09発行、 978-4065123249)

第9巻

(2019-02-08発行、 978-4065144220)

第10巻

(2019-07-09発行、 978-4065162842)

第11巻

(2020-07-09発行、 978-4065187807)

第12巻

(2021-03-09発行、 978-4065226452)

第13巻

(2021-11-09発行、 978-4065259870)

第14巻

(2022-10-07発行、 978-4065294086)

第15巻

(2023-08-08発行、 978-4065326039)

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